説明

力率改善回路

【課題】ダイオードやスイッチ素子内部の寄生ダイオードなどに過大電流が流れることを簡易な構成により防止する。
【解決手段】各交流入力端1a,1b間に介在されたフィルタコンデンサ2と、フィルタコンデンサ2の一端と第1の整流ブリッジ回路12の一方の入力との間に介在された第1のインダクタ4aと、フィルタコンデンサ2の他端と第1の整流ブリッジ回路12の他方の入力との間に介在された第2のインダクタ4bと、各交流入力端1a,1bに入力が接続されるとともに、平滑コンデンサ10に出力が接続された第2の整流ブリッジ回路3と、第1の整流ブリッジ回路12のスイッチ素子を制御する制御回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流入力端に流れる電流をスイッチ素子のオンオフ動作によって正弦波状に制御しながら直流出力を得る力率改善回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図17は、この種の力率改善回路の従来例を示している。この力率改善回路は、交流入力端1a,1bに入力される交流電圧をダイオード3a〜3dからなる整流ブリッジ回路3によって全波整流し、この整流ブリッジ回路3の出力電圧をインダクタ4、スイッチ素子であるMOSFET6、ダイオード8、平滑コンデンサ10からなる昇圧チョッパ回路で昇圧するように構成されている。したがって、直流出力端11a、11bからは、上記昇圧チョッパ回路によって昇圧された直流電圧が出力される。昇圧チョッパ回路のMOSFET6は、交流入力端1a,1bに流れる電流が正弦波状になるように、かつ直流出力端11a、11bからの出力が一定になるようにそのオンデューティが制御される。なお、符号2はフィルタコンデンサを、符号6aはMOSFET6における寄生ダイオードを、符号15は起動時や停電後の復電時に発生する突入電流からMOSFET6やダイオード8を保護するバイパス用のダイオードをそれぞれ示す。
【0003】
上記整流ブリッジ回路3においては、必ず2つのダイオードを通過するように電流が流れる。例えば、交流入力端1bの電圧に対して交流入力端1aの電圧が高いときには、ダイオード3aとダイオード3dに電流が流れ、逆に、交流入力端1bの電圧に対して交流入力端1aの電圧が低いときには、ダイオード3bとダイオード3cに電流が流れる。
ダイオード3a〜3dに電流が流れたときの順電圧降下は、それぞれ約0.7V〜1Vであるので、2つのダイオード3a,3dあるいは3b,3cにおけるトータルの順電圧降下は約1.4V〜2Vとなる。このため、上記のような力率改善回路を適用する電源装置が大容量化するほど整流ブリッジ回路3での損失が顕著になり、これは力率改善回路における変換効率の低下を招く要因になっている。
【0004】
一方、整流ブリッジ回路3での損失を削減することを目的に、昇圧チョッパ回路におけるMOSFETとダイオードに整流ブリッジ回路としての機能を持たせた力率改善回路が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
図18に特許文献1に記載された回路と同様の構成を有した回路を示す。この回路は、MOSFET6とダイオード8の直列回路と、MOSFET7とダイオード9の直列回路とを並列接続してなる整流ブリッジ回路12を備えている。この整流ブリッジ回路12は、一方の入力がインダクタ4を介して交流入力端1aに、他方の入力が交流入力端1bにそれぞれ接続され、一方の出力および他方の出力がそれぞれ直流出力端11aおよび直流出力端11bに接続されている。交流入力端1a,1b間には、フィルタコンデンサ2が介在され、直流出力端11a、11b間には、平滑コンデンサ10が介在されている。なお、符号7aはMOSFET7における寄生ダイオードを示す。
【0005】
次に、上記回路の概略動作を図19を参照して以下に説明する。交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高い状態のときにMOSFET6がオンすると、図19(a)に示す経路で電流が流れて、インダクタ4に電気エネルギーが蓄積される。そして、MOSFET6がオフすると、図19(b)に示す経路で電流が流れて、インダクタ4に蓄積された電気エネルギーが放出される。なお、このとき、上記各電流経路には、MOSFET7の寄生ダイオード7aが介在することになる。
【0006】
一方、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低い状態のときにMOSFET7がオンすると、図19(c)に示す経路で電流が流れて、インダクタ4に電気エネルギーが蓄積される。そして、MOSFET7がオフすると、図19(d)に示す経路で電流が流れて、インダクタ4に蓄積された電気エネルギーが放出される。なお、このとき、上記各電流経路には、MOSFET6の寄生ダイオード6aが介在することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−51563号公報(図1)
【特許文献2】特開2004−72846号公報(図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図18に示すような回路では、起動時や停電後の復電時に、コンデンサ10の両端電圧(出力電圧)よりも交流入力電圧の方が大きくなる場合がある。このとき、例えば交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高いとすると、図19(b)に示す経路で突入電流が流れ、また、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低いとすると、図19(d)に示す経路で突入電流が流れる。これは、過大な電流がダイオード8,9やMOSFET6,7の内部( 寄生ダイオードなど)に流れることを意味する。
【0009】
一方、図18に示すような回路では、MOSFET6またはMOSFET7がオンした場合にダイオード8またはダイオード9が逆回復する。したがって、ダイオード8,9には、リカバリー時間の短い高速ダイオードを使用する必要がある。
高速ダイオードやMOSFET内部の寄生ダイオード(例えば、図18に示す寄生ダイオード6a、6b)などは、過大電流に対する電流耐量が小さいので、上記突入電流が流れた場合に破損してしまう恐れがある。
【0010】
特許文献2は、上記ダイオードやMOSFETの破損を防ぐため手段を備えた図20に示す力率改善回路を提案している。この回路は、図18に示す回路にダイオード3a,3b、およびサイリスタ14a,14bを付加し、さらに、小型化のために、図18に示すインダクタ4に代えてインダクタ13を接続した構成を有する。
この力率改善回路において、ダイオード3aは交流入力端1aと直流出力端11aとの間に、ダイオード3bは交流入力端1bと直流出力端11aとの間に、サイリスタ14aは交流入力端1aと直流出力端1bとの間に、サイリスタ14bは交流入力端1bと直流出力端11bとの間にそれぞれ介在されている。
インダクタ13は、磁気結合されたインダクタ13a,13bを備え,一方のインダクタ13aは交流入力端1aと前記整流ブリッジ回路12の一方の入力との間に、また、他方のインダクタ13aは交流入力端1bと前記整流ブリッジ回路12の他方の入力との間にそれぞれ介在されている。
【0011】
この回路では、図19(b)に示す経路で過大電流が流れる状態が形成されるときには、その過大電流が流れる前にサイリスタ14bがオンされる。これにより、過大電流がダイオード3aおよびサイリスタ14bによってバイパスされて、ダイオード8やMOSFET7の破損が防止される。また、図19(d)に示す経路で過大電流が流れる状態が形成されるときには、その過大電流が流れる前にサイリスタ14aがオンされる。この結果、過大電流がダイオード3bおよびサイリスタ14aによってバイパスされて、ダイオード9やMOSFET6の破損が防止される。
【0012】
しかし、この回路は、サイリスタ14a,14bをオンさせる必要があることを判断するための停電検出回路(過大電流が発生する状況を検する手段となる)や、サイリスタ14a,14bの駆動回路を別途必要とするので、構成が複雑かつ高価になる。また、停電時間が停電検出に必要な時間よりも短い場合には、停電検出がなされないため、過大電流をバイパスさせることができなくなるなどの欠点もある。
【0013】
そこで、この発明の課題は、高速ダイオードやMOSFET内部の寄生ダイオードなどに過大電流が流れることを簡易な構成により防止することができる力率改善回路を提供し、装置の変換効率向上と信頼性向上の両立を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、各交流入力端間に介在されたフィルタコンデンサと、スイッチ素子と整流素子の直列回路を複数備え、それらの直列回路を並列接続してなる第1の整流ブリッジ回路と、
前記第1の整流ブリッジ回路の出力に並列接続された平滑コンデンサと、前記フィルタコンデンサの一端と前記第1の整流ブリッジ回路の一方の入力との間に介在された第1のインダクタと、前記フィルタコンデンサの他端と前記第1の整流ブリッジ回路の他方の入力との間に介在された第2のインダクタと、ブリッジ接続したダイオードからなり、前記各交流入力端に入力が接続されるとともに、前記平滑コンデンサに出力が接続された第2の整流ブリッジ回路と、前記第1の整流ブリッジ回路のスイッチ素子を制御する制御回路と、を備える力率改善回路を提供する。
【0015】
一実施形態において、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、それぞれに流れる電流によって発生する磁束の向きが逆方向となるように磁気結合される。この場合、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、必要に応じて、いずれか一方または双方に別のインダクタが直列接続される。
【0016】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタを、これらのインダクタに対応する巻線を有する漏れ変圧器(リーケージトランス)によって置換することも可能である。この場合、前記漏れ変圧器のコアは、前記各巻線間に位置する分路脚を備えることができる。
【0017】
前記第1の整流ブリッジ回路のスイッチ素子には、例えば、MOSFETが使用される。
好ましい実施形態では、前記制御回路が過電流を検出する手段を備え、前記過電流が検出された際にこの過電流を抑制するように構成される。
【0018】
本発明は、前記した構成の力率改善回路を群数がN(N=1、2,3、・・・)となる形態で並列接続した構成を有する力率改善回路も提供する。
前記N群の力率改善回路は、前記第2の整流ブリッジ回路および/または平滑コンデンサを共通化しても良い。
また、前記制御回路は、前記N群の力率改善回路におけるスイッチ素子のオンタイミングをT/N(T:前記スイッチ素子がオンする周期)ずつずらすように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、少なくとも以下のような効果が得られる。
(1)第2の整流ブリッジ回路のダイオードで発生する電力損失を低減でき、かつ起動時や停電からの復電時に流れる過大な電流を第1の整流ブリッジ回路のダイオード(高速ダイオード)やスイッチ素子(MOSFET)の寄生ダイオードに流さないようにすることができる(請求項1の発明)。
(2)インダクタに流れる電流の変化率を低減でき、スイッチ素子や整流素子の損失を低減できる(請求項3,4の発明)。
(3)インダクタ,スイッチ素子,整流素子の電力損失を分散して、半導体素子を冷却するヒートシンクやインダクタなどの部品の小形化が容易になる(請求項8の発明)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る力率改善回路の第1の実施形態を示す回路図である。
【図2】第1の実施形態における定常動作時の電流経路の一形態を示す図である。
【図3】第1の実施形態における定常動作時の電流経路の他の形態を示す図である。
【図4】第1の実施形態における非定常動作時の電流経路を示す図である。
【図5】本発明に係る力率改善回路の第2の実施形態を示す回路図である。
【図6】図5に示すインダクタの具体的な構造および作用を示す拡大図である。
【図7】第2の実施形態における定常動作時の電流経路の一形態を示す図である。
【図8】図7のように動作しているときの第2の実施形態の等価回路を示す図である。
【図9】第2の実施形態における定常動作時の電流経路の他の形態を示す図である。
【図10】第2の実施形態における非定常動作時の電流経路を示す図である。
【図11】漏れ変圧器の構造の一例を示す概念図である。
【図12】漏れ変圧器の構造の他の例を示す概念図である。
【図13】本発明に係る力率改善回路の第3の実施形態を示す回路図である。
【図14】第3の実施形態におけるMOSFETの制御形態の一例を示す波形図である。
【図15】MOSFETをオンオフ制御するための制御装置の一例を示す回路図である。
【図16】MOSFETをオンオフ制御するための制御装置の他の例を示す回路図である。
【図17】従来の力率改善回路の一例を示す回路図である。
【図18】従来の力率改善回路の他の例を示す回路図である。
【図19】図18の回路の動作を説明する図である。
【図20】従来の力率改善回路の更に別の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、この発明に係る力率改善回路の第1の実施形態を示す回路図である。なお、図1においては、図18に示す要素と同一の要素に同一の符号を付してある。
この実施形態の力率改善回路は、交流入力端1a,1bと整流ブリッジ回路12との間に整流ブリッジ回路3を介在させた点で図18に示した従来回路と相違する。また、この実施形態の力率改善回路は、交流入力端1aと整流ブリッジ回路12の一方の入力間および交流入力端1bと整流ブリッジ回路12の他方の入力間にそれぞれインダクタ4aおよびインダクタ4bを介在させているが、上記従来回路では、上記インダクタ4aに対応するインダクタ4のみしか介在されておらず、この点でも上記従来回路と相違する。
【0022】
整流ブリッジ回路3は、図17を参照して既述したように、ダイオード3a〜3dをブリッジ接続した構成を有する。また、整流ブリッジ回路12は、図18を参照して既述したように、MOSFET6とダイオード8からなる直列回路と、MOSFET7とダイオード9からなる直列回路とを並列接続した構成を有する。整流ブリッジ回路3は、入力が交流入力端1a,1bに接続されるとともに、出力が直流出力端11a,11bに接続されている。
【0023】
以下、図2〜図4を参照して、この実施形態に係る力率改善回路の動作を説明する。
まず、定常動作について説明する。この定常動作には、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高いときの第1の動作と、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低いときの第2の動作とがあるが、第2の動作は第1の動作から容易に推認されるので、ここでは、第1の動作のみについて説明する。
【0024】
MOSFET6がオンすると、図2に示す経路を通って電流が流れるので、インダクタ4aに電気エネルギーが蓄積される。このとき、インダクタ4bの両端に印加される電圧は、ダイオード3dの順方向降下電圧とMOSFET7の寄生ダイオード7aの順方向降下電圧との差電圧となるため、インダクタ4bに流れる電流(点線参照)は僅かである。したがって、殆どの電流が実線で表した経路に沿って流れることになる。
【0025】
MOSFET6がオフすると、図3に示す経路でインダクタ4aに蓄積された電気エネルギーが放出される。このとき、インダクタ4bの両端に印加される電圧は、ダイオード3dの順方向降下電圧とMOSFET7の寄生ダイオード7aの順方向降下電圧との差電圧となるため、インダクタ4bに流れる電流(点線参照)は僅かとなる。したがって、殆どの電流が実線で表した経路で流れる。
【0026】
次に、非定常動作、つまり、起動時や停電後に復電した時の動作について説明する。この非定常動作にも、定常動作の場合と同様に、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高いときの第1の動作と、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低いときの第2の動作とがあるが、第2の動作は第1の動作から容易に推認されるので、ここでは、第1の動作のみについて説明する。
【0027】
平滑コンデンサ10の電圧よりも交流入力端の電圧の方が大きい場合には、図4に示す経路でコンデンサ10を充電する電流(過大な突入電流)が流れる。このとき、インダクタ4aの両端に印加される電圧は、ダイオード3aの順方向降下電圧とダイオード8の順方向降下電圧との差電圧となるため、インダクタ4aに流れる電流(一点鎖線参照)は僅かとなる。また、インダクタ4bの両端に印加される電圧は、ダイオード3dの順方向降下電圧とMOSFET7の寄生ダイオード7aの順方向降下電圧との差電圧となるため、インダクタ4bに流れる電流(点線参照)も僅かとなる。
【0028】
以上の説明から明らかなように、この実施形態に係る力率改善回路によれば、非定常動作時に流れる突入電流(コンデンサ10の充電電流)の殆どが実線で示す経路を通ってバイパスされるので、整流ブリッジ回路12の構成要素6〜9に過大な電流が流れることがなく、その結果、上記構成要素6〜9の過大電流による破損が防止される。なお、整流ブリッジ回路3のダイオードには、コンデンサ10の充電電流が通過する。したがって、この整流ブリッジ回路3は、許容ピーク電流の大きな一般整流用の低速ダイオードで構成することが望ましい。
【0029】
図5は、この発明に係る力率改善回路の第2の実施形態を示す回路図である。この第2の実施形態は、図1に示すインダクタ4a,4bをインダクタ5に置換した点において上記した第1の実施形態と構成が異なる。
【0030】
図6は、インダクタ5の実施例を表す構造図である。このインダクタ5は、巻線5a,5bをコア5cに巻着して磁気結合させた構造を有する。巻線5a,5bは、端子Aから端子Bに流れる電流I1によって発生する磁束φ1の向きと、端子Cから端子Dに流れる電流I2によって発生する磁束φ2の向きとが互いに逆方向となるように巻かれている。
【0031】
以下に、この第2の実施形態に係る力率改善回路の動作を説明する。
まず、定常動作について説明する。この定常動作には、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高いときの第1の動作と、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低いときの第2の動作とがあるが、第2の動作は第1の動作から容易に推認されるので、ここでは、第1の動作のみについて説明する。
【0032】
MOSFET6がオンすると、図7に示す経路を通って電流が流れるので、インダクタ5の図示しないリーケージインダクタンスに電気エネルギーが蓄積される。このとき、巻線5bの両端に発生する電圧が、ダイオード3dに流れる電流を妨げる向きに発生するため、ダイオード3dに流れる電流(点線参照)は僅かとなり、この結果、殆どの電流が実線で表した経路で流れることになる。
【0033】
上記の動作を更に詳細に説明する。図7の動作モードにおける上記回路の等価回路は図8のように表される。この図8において、L,Lはそれぞれ巻線5A、5bの自己インダクタンスを、Mは自己インダクタンスL,Lの相互インダクタンスを、Vは交流入力電圧の瞬時値を、iは巻線5aに流れる電流を、iは巻線5bに流れる電流を、iはダイオード3dに流れる電流をそれぞれ示している。
図8から、以下の微分方程式に示す関係が成立する。
【0034】
【数1】

【0035】
式(2)において、相互インダクタンスMは結合係数kを用いて以下のようにあらわすことができる。
【数2】


そこで、L=Lとして式(2)を整理すると下式(4)が得られる。
【数3】


式(4)から、
【数4】


という関係が得られ、また、式(3)から、
【数5】


という関係が得られる。
式(6)から明らかなように、結合係数kを適切な値に選ぶことにより、ダイオード3dに流れる電流iを低減することができる。
【0036】
MOSFET6がオフすると、図9に示す経路で電流が流れて、インダクタ5のリーケージインダクタンスに蓄積された電気エネルギーが放出される。このとき、巻線5bの両端に発生する電圧が、ダイオード3dに流れる電流を妨げる向きに発生するため、ダイオード3dに流れる電流(点線参照)は僅かとなり、この結果、殆どの電流が実線で表した経路で流れることになる。
なお、図9の動作モードにおいても前記式(6)の関係が成立する。したがって、結合係数kを適切な値に選ぶことにより、ダイオード3dに流れる電流iを低減することができる。
【0037】
次に、非定常動作、つまり、起動時や停電後に復電した時の動作について説明する。この非定常動作にも、定常動作の場合と同様に、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が高いときの第1の動作と、交流入力端1bに対して交流入力端1aの電圧が低いときの第2の動作とがあるが、第2の動作は第1の動作から容易に推認されるので、ここでは、第1の動作のみについて説明する。
【0038】
平滑コンデンサ10の電圧よりも交流入力端の電圧の方が大きい場合には、図10に示す経路でコンデンサ10を充電する電流(過大な突入電流)が流れる。このとき、インダクタ5の巻線5aの両端に印加される電圧は、ダイオード3aの順方向降下電圧とダイオード8の順方向降下電圧との差電圧である。このため、上記巻線5aに流れる電流(一点鎖線参照)は僅かとなる。また、インダクタ5の巻線5bの両端に印加される電圧は、ダイオード3dの順方向降下電圧とMOSFET7の寄生ダイオードの順方向降下電圧との差電圧となるため、上記巻線5bに流れる電流(点線参照)も僅かとなる。
【0039】
以上の説明から明らかなように、この実施形態に係る力率改善回路によれば、非定常動作時に流れる突入電流(コンデンサ10の充電電流)の殆どが実線で示す経路を通ってバイパスされるので、整流ブリッジ回路12の構成要素6〜9に過大な電流が流れることがなく、その結果、上記構成要素6〜9の過大電流による破損が防止される。
また、インダクタ5を使用するこの実施形態に係る力率改善回路によれば、図1の力率改善回路に比してインダクタの数を減らすことができるので、小形化、低コスト化を図る上で有利となる。
【0040】
なお、整流ブリッジ回路3のダイオードには、コンデンサ10の充電電流が通過する。したがって、この整流ブリッジ回路3は、許容ピーク電流の大きな一般整流用の低速ダイオードで構成することが望ましい。ただし、定常動作時にこの整流ブリッジ回路3に流れる電流が僅かであることや、起動時や停電後の復電時における上記コンデンサの充電電流(突入電流)が短時間だけ過渡的に流れることを考慮すると、この整流ブリッジ回路3の電流定格は小さくてよい。なぜなら、定常動作時にこの整流ブリッジ回路3に流れる電流は僅かであるからである。
【0041】
ところで、インダクタ5のリーケージインダクタンスが小さい場合には、インダクタ5に流れる電流の変化率が大きくなる。そして、この場合、MOSFET6,7のターンオフ電流が大きくなって、ターンオフ損失や導通損失が増大する。そこで、上記ターンオフ損失や導通損失が過大になるおそれがあるときには、インダクタ5の巻線5a,5bのいずれか一方または双方に別のインダクタを直列接続して、インダクタ5に流れる電流の変化率を低下させる。
【0042】
上記インダクタ5は、さらに大きなリーケージインダクタンスを得るために、図11および図12に例示するような漏れ変圧器(リーケージトランス)としての構造を持たせることができる。
図11に示す構造を有する漏れ変圧器は、巻線5aと巻線5bの間隔dを調整することによって、リーケージインダクタンスを増加させることができる。また、図12に示す構造を有する漏れ変圧器は、コア5cに巻線5aと巻線5b間に位置する分路脚を設け、この分路脚で形成されるギャップの長さgを調整することによってリーケージインダクタンスを増加させることができる。
上記インダクタ5にこのような構造を持たせて、大きなリーケージインダクタンスを得るようにすれば、巻線5a,5bの一方または双方に別のインダクタを直列接続するという上記の手段を採用することなく、インダクタ5に流れる電流の変化率を低下させることが可能である。
【0043】
図13は、この発明に係る力率改善回路の第3の実施形態を示す回路図である。この力率改善回路は、図5に示す回路を2群に並列化した構成を有する。図13において、併設した群の要素には、プライム記号’を付してある。
この実施形態に係る力率改善回路によれば、図5の回路と比較して1群あたりの通過電力が軽減される。したがって、インダクタ5,5’やMOSFET6,6’,7,7’、ダイオード8,8’,9,9’などが発生する損失を分散して、結果的に半導体素子(MOSFET6,6’,7,7’等)を冷却するヒートシンクやインダクタ5,5’の小形化が容易になる。
【0044】
なお、並列化する回路は、図5に示す回路に限定されず、図1に示す回路であっても良い。また、並列する群の数も2に限定されず、3以上であっても良い。更に、図13に示す実施形態では、整流ブリッジ回路3および平滑コンデンサ10を各群の回路が兼用しているが、もちろん、複数の群が個別に整流ブリッジ回路3および/または平滑コンデンサ10を備えていても良い。
【0045】
図13に示すMOSFET6,6’には、例えば図14に示すようなゲート信号がそれぞれ印加される。MOSFET6,6’のゲート信号は、周期Tで発生し、かつ、互いのオンタイミングが0.5Tだけずらされている。
上記のようなゲート信号によってMOSFET6,6’を制御した場合、このMOSFET6,6’がそれぞれTon,Ton’期間にオンされる。したがって、各インダクタ5,5’に流れる電流IL1,IL2の合成電流Iacのリプル電流が最小となって、フィルタコンデンサ2や交流入力端1a,1bに接続するラインフィルタ(図示せず)を小形化することができる。なお、MOSFET7,7’もMOSFET6,6’と同様に制御される。
並列接続される力率改善回路の群数をN(N=2,3,4、・・・)とし、個々の群におけるスイッチ素子(MOSFET)のオンタイミングをT/Nずらすようにすると、Nが大きいほど上記の効果(1群あたりの通過電力および合成電流のリプルを低減できる)をより大きくすることができる。
【0046】
ところで、図1、図5には示されていないが、これらの図に示す力率改善回路では、図15に例示するよう制御回路によって整流ブリッジ回路12のMOSFET6,7が制御される。なお、図15に示す制御回路100は、図1の回路に適用されているが、図5の回路に対しても同様に使用することができる。
この制御回路100は、基準電圧源100a、電圧誤差増幅器100b、電流誤差増幅器100c、乗算器100d、絶対値回路100e,100e’、PWMコンパレータ100f、PWMキャリア信号発生回路100gおよび電流検出器200を備えている。
【0047】
電圧誤差増幅器100bは、出力電圧(平滑コンデンサ10の両端電圧)に対応するフィードバック信号(検出した出力電圧そのもの、該出力電圧の分圧値、該出力電圧をレベルシフトしたもの、など)と、基準電圧源100aから出力される基準電圧との差を増幅して、その差に対応する第1の誤差信号を出力する。
乗算器100dは、上記第1の誤差信号と、入力電圧(フィルタコンデンサ2の両端電圧)に対応する信号(検出した入力電圧そのもの、該入力電圧の分圧値、該入力電圧をレベルシフトしたもの、など)の絶対値とを乗算し、その乗算結果を電流指令値として電流誤差増幅器100cに入力する。
【0048】
電流誤差増幅器100cは、上記乗算結果と、電流検出器200で検出される電流(出力電流)に対応する信号の絶対値との差を増幅して、その差に対応する第2の誤差信号を出力する。
PWMコンパレータ100fは、上記第2の誤差信号と、PWMキャリア信号発生回路100gの出力である三角波や鋸歯などのキャリア信号とを比較し、上記第2の誤差信号の大きさに対応するデューティ比を有したPWM信号を出力する。
過電流検出回路100jは、電流検出器200で検出される出力電流の絶対値が所定値を超えた場合に、過電流検出信号として「L(Low)」レベルの信号を出力する。
【0049】
AND回路100kは、PWM信号と過電流検出回路100jの出力信号との論理積をとり、その積の結果をゲートドライバ100h,100iを介してMOSFET6,7のゲートに入力する。したがって、MOSFET6,7は、同一のゲート信号によって同時にオンオフする。そして、過電流検出回路100jが過電流を検出すると、MOSFET6,7はどちらもオフする。
この制御装置100によれば、入力電圧(フィルタコンデンサ2の両端電圧)、出力電圧(平滑コンデンサ10の両端電圧)および出力電流に基づき、交流入力端1a,1bに流れる電流が正弦波状になるように、かつ直流出力端11a、11bからの出力が一定(目標電圧)になるようにMOSFET6,7をオンオフ制御することができる。
【0050】
上記制御回路100に代えて、図16に示す制御回路101を用いても良い。この制御回路101は、コンパレータ101a、NOT回路101b、OR回路101c,101d、AND回路101e,101fを備える点で上記制御回路100と異なる。
コンパレータ101aは、入力電圧(フィルタコンデンサ2の両端電圧)の極性を判断し、入力端1aの電圧が正のときに「L」レベルの信号を、入力端1bの電圧が正のときに「H(High)」レベルの信号をそれぞれ出力する。
【0051】
OR回路101cは、前記PWMコンパレータ100fから出力されるPWM信号とコンパレータ101aの出力信号との論理和をとる。そして、AND回路101eは、OR回路101cの出力信号と過電流検出回路100jの出力信号との論理積をとり、その積の結果をゲートドライバ100hを介してMOSFET6ゲートに入力する。
一方、OR回路101dは、上記PWM信号とコンパレータ101aの出力に接続されたNOT回路101bの出力信号との論理和をとる。そして、AND回路101fは、OR回路101dの出力信号と過電流検出回路100jの出力信号との論理積をとり、その積の結果をゲートドライバ100iを介してMOSFET7ゲートに入力する。
【0052】
この制御装置101によれば、以下のように、入力電圧(フィルタコンデンサ2の両端電圧)の極性に応じてMOSFET6,7の制御形態が異なることになる。
入力端1aの電圧が正のとき:
コンパレータ101aは「L」レベルの信号を出力する。したがって、オア回路101cが上記PWM信号を出力するとともに、オア回路101dがその出力を「H」レベルに固定する。この結果、過電流検出回路100jが過電流を検出していないとすると、MOSFET6が上記PWM信号に基づいてオンオフ制御される一方、MOSFET7がオン状態を維持する。
入力端1bの電圧が正のとき:
コンパレータ101aは「H」レベルの信号を出力する。したがって、オア回路101dが上記PWM信号を出力するとともに、オア回路101cがその出力を「H」レベルに固定する。この結果、過電流検出回路100jが過電流を検出していないとすると、MOSFET6がオン状態を維持する一方、MOSFET7が上記PWM信号に基づいてオンオフ制御される。
なお、過電流検出回路100jが過電流を検出した場合には、前記した制御装置100の場合と同様に、MOSFET6,7はどちらもオフする。
【0053】
なお、図14のようなゲート信号を発生する制御装置も図15および図16の構成に準じた構成を持たせることができる。ただし、その制御装置には、MOSFET6,6’(MOSFET7,7’)のオンタイミングT/Nだけずらすための遅延要素等を付加する必要がある。
【0054】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形態様を含み得るものである。たとえば、上述した各実施形態では、単相の交流電圧を入力するように構成されているが、三相の交流電圧を入力するように構成することも可能である。この場合、前記整流ブリッジ回路3,12およびインダクタ4a,4b、5に代えて、三相の交流電圧に対応し得る構成のものを使用することになる。
【符号の説明】
【0055】
1a,1b 交流入力端
2 フィルタコンデンサ
3 整流ブリッジ回路
3a,3b,3c,3d 整流ダイオード
4,4a,4b インダクタ
5,5’ インダクタ
5a,5b,5a’,5b’ 巻線
5c,5c’ コア
6,6’,7,7’ MOSFET
6a,6a’,7a,7a’ 寄生ダイオード
8,8’,9,9’,15 ダイオード
10 平滑コンデンサ
11a,11b 直流出力端
12 整流ブリッジ回路
13,13a,13b インダクタ
14a,14b サイリスタ
100,101 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各交流入力端間に介在されたフィルタコンデンサと、
スイッチ素子と整流素子の直列回路を複数備え、それらの直列回路を並列接続してなる第1の整流ブリッジ回路と、
前記第1の整流ブリッジ回路の出力に並列接続された平滑コンデンサと、
前記フィルタコンデンサの一端と前記第1の整流ブリッジ回路の一方の入力との間に介在された第1のインダクタと、
前記フィルタコンデンサの他端と前記第1の整流ブリッジ回路の他方の入力との間に介在された第2のインダクタと、
ブリッジ接続したダイオードからなり、前記各交流入力端に入力が接続されるとともに、前記平滑コンデンサに出力が接続された第2の整流ブリッジ回路と、
前記第1の整流ブリッジ回路のスイッチ素子を制御する制御回路と、
を備えることを特徴とする力率改善回路。
【請求項2】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、それぞれに流れる電流によって発生する磁束の向きが逆方向となるように磁気結合されることを特徴とする、請求項1に記載の力率改善回路。
【請求項3】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、いずれか一方または双方に別のインダクタが直列接続されることを特徴とする、請求項2に記載の力率改善回路。
【請求項4】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタを、これらのインダクタに対応する巻線を有する漏れ変圧器(リーケージトランス)によって置換したことを特徴とする、請求項2に記載の力率改善回路。
【請求項5】
前記漏れ変圧器のコアは、前記各巻線間に位置する分路脚を備えることを特徴とする、請求項4に記載の力率改善回路。
【請求項6】
前記第1の整流ブリッジ回路のスイッチ素子がMOSFETであることを特徴とする、請求項1に記載の力率改善回路。
【請求項7】
前記制御回路は、過電流を検出する手段を備え、前記過電流が検出された際にこの過電流を抑制するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の力率改善回路。
【請求項8】
請求項1に記載の力率改善回路を群数がN(N=1、2,3、・・・)となる形態で並列接続した構成を有することを特徴とする力率改善回路。
【請求項9】
前記制御回路は、前記N群の力率改善回路におけるスイッチ素子のオンタイミングをT/N(T:前記スイッチ素子がオンする周期)ずつずらすように構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の力率改善回路。
【請求項10】
前記N群の力率改善回路は、前記第2の整流ブリッジ回路および/または平滑コンデンサが共通化されていることを特徴とする請求項8に記載の力率改善回路。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−283953(P2010−283953A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133886(P2009−133886)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】