説明

加工兼用防錆油組成物

【課題】熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板に塗布して有効であり、防錆性、アルカリ脱脂剤等による脱脂性に優れ、かつ加工性に優れる加工兼用防錆油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)40℃における動粘度が4〜50mm2/sの鉱油及び/又は合成油を基油とし、これに(B)脂肪酸残基の炭素数が14以上であり、かつ分子中のOH基数が1未満である多価アルコールの脂肪酸エステル、(C)過塩基性金属スルホネート、及び(D)中性金属スルホネートを配合し、かつバリウムを実質的に含有しない加工兼用防錆油組成物であって、(A)基油が(a)40℃における動粘度が1.5〜10mm2/sの低粘度基油と(b)40℃における動粘度が10〜100mm2/sの高粘度基油を、(a)成分:(b)成分の比で1:2〜1:15の範囲で混合したものである加工兼用防錆油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工兼用防錆油組成物に関し、詳しくは、熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板等に用いる防錆性に優れ、その後の脱脂性に優れ、かつ加工性に優れた加工兼用防錆油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板は、通常、製鉄メーカーで製造された後、コイルに巻き取られる前に、静電塗油、ロールコーターなどの方法で防錆油が塗布される。これは鋼板が製造された後にコイルやシート状で出荷され、需要家において開梱され、加工されるまでの間に錆を生じさせないようにするためである。需要家では、入荷した鋼板をプレス加工等するが、通常、これら防錆油は充分な加工性を備えておらず、特に絞り加工を施した際には鋼板表面にかじりを発生する。そのため、加工業者にあっては、加工に先立って更に潤滑性に富む高粘度の潤滑油の塗油作業を行い、しかる後に所定の加工処理を施している。
この塗油作業は、通常、手作業であるため加工工程全体の生産性を低下せしめ、また作業環境の悪化をもたらし、更には加工後の脱脂不良やオイルステンなどの問題を派生させる。
【0003】
また、最近高強度鋼板、亜鉛メッキ鋼板が増加しているが、その加工の際においては、処理工程の簡素化(例えば、現状の防錆潤滑油塗布ラインをそのまま使う)、処理油剤の一本化等の要望が高まっており、この要望に対応できるような防錆兼プレス加工油剤組成物の開発が望まれている。
このような状況下で、例えば、特定粘度範囲の潤滑油基油に、防錆剤,硫黄系極圧剤及び高塩基性スルホネートを添加した亜鉛メッキ鋼板用プレス加工兼防錆剤が提案されている(特許文献1、特許請求の範囲参照)。また、低粘度の溶剤に、スルホン酸塩,カルボン酸塩,リン酸エステル誘導体等、超塩基性スルホネート及びホウ酸カリウムを添加したプレス加工兼用防錆油が提案されている(特許文献2、特許請求の範囲参照)。さらには、潤滑油基油に、防錆剤、過塩基性Caスルホネート、硫黄系極圧剤、及びホウ酸カリウム分散物を配合してなる防錆兼プレス加工油剤組成物が提案されている(特許文献3、特許請求の範囲参照)。
しかしながら、これらの加工兼用防錆油組成物はいずれも、アルカリ度の低い脱脂液や、ケイ酸ナトリウム系の脱脂液において、脱脂性に劣るものであった。また、これらの加工兼用防錆油組成物は、硫黄系の極圧剤を使用しているために、亜鉛メッキ鋼板を対象とする場合には、亜鉛メッキの剥離を促進し、摩擦係数を増大させてしまう場合がある。さらに、防錆性、潤滑性(プレス加工成形性)及び脱脂性を両立することが難しく、特にリン系、又は無リン系の脱脂剤による脱脂性に必ずしも優れたものではなく、さらなる改良が望まれていた。
【0004】
また、これまでの防錆油組成物においては、通常、バリウムを200質量ppm以上含有するが、バリウムは欧米において環境上の問題から、使用に届出が必要な場合がある物質であり、安全性について注意を払う必要のある物質である。従って、バリウムの含有量を低減した防錆油組成物が求められていた。さらに、過塩基性スルホネートを含有する防錆油組成物は、自動車のマスチックシーラントの密着性を阻害する場合があるために、防錆油組成物中の過塩基性スルホネートの含有量を低減させる要望があった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−275399号公報
【特許文献2】特開平5−339589号公報
【特許文献3】特開平10−279979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下でなされたもので、熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板に塗布して有効であり、防錆性、アルカリ脱脂剤等による脱脂性に優れ、かつ加工性に優れる加工兼用防錆油組成物を提供することを目的とする。特に、亜鉛メッキ鋼板においては、亜鉛メッキの剥離を抑制して摩擦係数を低減し、かつ、現状の防錆油塗布ラインでそのままトラブルなく塗布可能な加工兼用防錆油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の基油に、多価アルコールの脂肪酸エステル、過塩基性金属スルホネート、及び中性金属スルホネートを配合した組成物であって、バリウムを実質的に含有しない加工兼用防錆油組成物が、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
(1)(A)40℃における動粘度が4〜50mm2/sの鉱油及び/又は合成油を基油とし、これに(B)脂肪酸残基の炭素数が14以上であり、かつ分子中のOH基数が1未満である多価アルコールの脂肪酸エステル、(C)過塩基性金属スルホネート、及び(D)中性金属スルホネートを配合し、かつバリウムを実質的に含有しない加工兼用防錆油組成物であって、(A)基油が(a)40℃における動粘度が1.5〜10mm2/sの低粘度基油と(b)40℃における動粘度が10〜100mm2/sの高粘度基油を、(a)成分:(b)成分の比で1:2〜1:15の範囲で混合したものである加工兼用防錆油組成物、
(2)(C)過塩基性金属スルホネートが過塩基性カルシウムスルホネートを含有し、かつ(C)成分中のカルシウム含有量が組成物全量を基準として2.5質量%以下である上記(1)に記載の加工兼用防錆油組成物、
(3)(A)基油が環分析により測定した分子量で700未満である上記(1)又は(2)に記載の加工兼用防錆油組成物、
(4)(C)成分の塩基価が300mgKOH/g以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物、
(5)(B)成分及び(C)成分が、組成物全量を基準として、それぞれ1〜20質量%配合され、(D)成分が組成物全量を基準として1〜10質量%配合され、かつ、(B)成分と、(C)成分及び(D)成分の質量比(B):[(C)+(D)]が、1:1〜1:2の範囲である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物、及び
(6)40℃における動粘度が5〜20mm2/sであり、バリウムの含有量が組成物全量基準で5質量ppm以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の防錆油組成物に比較して脱脂性に優れ、かつ防錆性及び潤滑性にも優れる加工兼用防錆油組成物を提供することができる。また、防錆油が多量に混入したアルカリ脱脂液においても、優れた脱脂性を保つことができる。さらに、本発明の加工兼用防錆油組成物は、バリウムを実質的に含有しないため環境負荷が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の加工兼用防錆油組成物は、(A)40℃における動粘度が4〜50mm2/sの鉱油及び/又は合成油を基油とする。40℃における動粘度が4mm2/s以上であると、鋼板表面が乾きにくく、一方、50mm2/s以下であると、濡れ拡がりやすく塗布性が高いという利点があり、また、鋼板同士が接着せずに搬送しやすいという利点がある。以上の点から、40℃における動粘度は、10〜20mm2/sの範囲がさらに好ましい。
また、40℃における動粘度が上記範囲内にある基油を調製するにあたって、(a)40℃における動粘度が1.5〜10mm2/sの低粘度基油と(b)40℃における動粘度が10〜100mm2/sの高粘度基油を混合することが必要である。こうした手法をとることによって、容易に所望の粘度範囲を有する基油を得ることができるとともに脱脂性の優れた加工兼用防錆油組成物を得ることができる。より具体的には、上記(a)成分と(b)成分を、(a)成分:(b)成分比で1:2〜1:15の範囲で混合したものが脱脂性の点から好ましい。
さらに、本発明で用いる(A)基油は、環分析により測定した分子量が700未満であることが好ましい。環分析による分子量が700未満であると脱脂されやすい。
【0010】
本発明で用いる鉱油としては、通常潤滑油の基油として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、パラフィン基系原油、中間基系原油、又はナフテン基系原油を常圧蒸留した残渣油、又は常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、さらにはこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、例えば溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などを挙げることができる。
また、合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、シリコーンオイルなどを挙げることができる。
これらの潤滑油基油は、一種単独で、又は二種以上を混合して、さらには鉱油と合成油を組み合わせて使用することができる。
【0011】
本発明の加工兼用防錆油組成物は、(B)多価アルコールの脂肪酸エステルを配合することを特徴とする。該(B)成分としては部分エステルを含有していてもよいが、(B)多価アルコールの脂肪酸エステルの分子中の平均の水酸基(OH基)の数が1未満であることが必要であり、フルエステルであることが好ましい。また、OH基が残存する多価アルコールの脂肪酸エステルが、エーテル結合により二量体を作る場合も、本発明の(B)多価アルコールの脂肪酸エステルに含有される。
ここで多価アルコールとは水酸基を2個以上有するアルコールであり、特に炭素数2〜4の多価アルコールが好ましい。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられ、これらのうち特に、グリセリン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが好ましい。また、脂肪酸としては、炭素数14以上の脂肪酸であることが重要であり、直鎖状、分岐状又は環状であってもよく、飽和又は不飽和であってもよい。より好ましくは、炭素数14〜18の脂肪酸が好ましく、具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。すなわち、本発明の(B)成分としては、脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基の炭素数が14以上、さらには脂肪酸残基の炭素数が14〜18であり、分子中のOH基の数が1未満であることが好ましく、最も好ましい脂肪酸エステルとしてはトリメチロールプロパントリオレエート及びペンタエリスリトールテトラオレエートが挙げられる。
また、(B)成分の配合量は、組成物全量基準で1〜20質量%の範囲であることが好ましく、さらには1〜10質量%の範囲、特には2〜10質量%の範囲が好ましい。
【0012】
次に、本発明の加工兼用防錆油組成物は、(C)過塩基性金属スルホネート及び(D)中性金属スルホネートを配合することを特徴とする。ここで、金属スルホネートとは各種スルホン酸の金属塩をいう。スルホン酸としては、芳香族石油スルホン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸等があり、より具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジラウリルセチルベンゼンスルホン酸、パラフィンワックス置換ベンゼンスルホン酸、ポリオレフィン置換ベンゼンスルホン酸、ポリイソブチレン置換ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。また、金属としては、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛など種々のものが挙げられ、これらのうち特にカルシウムが好ましい。
また、(C)成分中のカルシウムの含有量は、組成物全量を基準として2.5質量%以下であることが好ましい。カルシウムの含有量が2.5質量%以下であると、油が付着しても自動車用マスチックシーラントなどの塩化ビニル含有接着剤の接着性を阻害しない。
本発明の加工兼用防錆油組成物における(C)過塩基性金属スルホネート及び(D)中性金属スルホネートには、環境上の観点から、バリウムを含有しないことが好ましく、より具体的にはバリウムの含有量がそれぞれ5質量ppm以下であることが好ましい。
【0013】
上記(C)過塩基性金属スルホネートは、添加量を少なくすることができる点から、JIS K−2501に準拠した過塩素酸法による全塩基価が、300mgKOH/g以上であることが好ましく、さらには400mgKOH/g以上であることが好ましい。(C)過塩基性金属スルホネートは、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、(C)過塩基性金属スルホネートの配合量は、組成物全量基準で、1〜20質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは2〜20質量%の範囲、特に好ましくは3〜12質量%の範囲である。金属分として換算した場合には、0.2〜4質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4〜4質量%の範囲、特に好ましくは0.6〜2.2質量%の範囲である。
【0014】
次に、(D)中性金属スルホネートは、具体的にはJIS K−2501に準拠した過塩素酸法による全塩基価が0〜50mgKOH/g程度のものをいう。(D)中性金属スルホネートを含有することにより、防錆性、耐ステイン性が向上する。
(D)中性金属スルホネートの配合量は、組成物全量基準で、1〜10質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは2〜10質量%の範囲、特に好ましくは3〜5質量%の範囲である。金属分として換算した場合には、0.02〜0.2質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.04〜0.2質量%の範囲、特に好ましくは0.04〜0.1質量%の範囲である。
また、(C)成分と(D)成分の配合比率については、(C)成分:(D)成分として、1:4〜4:1の範囲が好ましく、さらには、1:2〜2:1の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の加工兼用防錆油組成物は、(A)基油に、(B)〜(D)成分を配合して調製することができる。その際に、組成物の40℃における動粘度が4〜50mm2/s、好ましくは5〜20mm2/s、さらに好ましくは10〜20mm2/sとなるように、各成分の種類、性状、配合割合を選択することが望ましい。
(B)〜(D)成分の配合量は上述のようであるが、また、(B)多価アルコールの脂肪酸エステルと金属スルホネート((C)成分と(D)成分の合計量)の質量比(B):[(C)+(D)]が、1:1〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の加工兼用防錆油組成物は実質的にバリウムを含有しないことを特徴とする。実質的にバリウムを含有しないことにより、環境への負荷を低減することができる。ここで実質的にというのは、積極的にバリウムを添加するものではないことを意味し、微量に混入される不純物のバリウムまでを積極的に除去することを意図するものではない。通常、本発明の加工兼用防錆油組成物において、バリウムの含有量は、不純物のバリウムを考慮しても、5質量ppm以下であり、さらには1質量ppm以下である。
【0017】
また、本発明の加工兼用防錆油組成物には、所望に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性化剤等の各種添加剤を配合することができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤を用いることができる。
金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール、チアジアゾール、アルケニルコハク酸エステルやその誘導体等が挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、通常、組成物基準で0.1〜10質量%の範囲である。
【0018】
本発明の加工兼用防錆油組成物を金属材料等に塗布する方法としては特に限定はなく、浸漬法、シャワー法、静電塗装法などの一般的な手法を用いることができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
評価方法
(1)防錆性1(軒下曝露試験);供試材として、JIS G3141に準拠して、SPCC−SD(厚さ0.8mm)を用い、これに各実施例及び比較例にて調製した加工兼用防錆油組成物を塗油した。24時間油きりをし、雨のかからない軒下に吊り下げて放置した。評価基準は以下のとおりである。
◎;60日以上経過後でもさびは全く見られなかった。
○;30〜60日経過後にわずかにさびが発生した。
△;14〜30日経過後にさびが発生した。
×;13日以内にさびが発生した。
(2)防錆性2(スタック試験)
上記と同様の供試材を60×80mmに裁断し、各実施例及び比較例にて調製した加工兼用防錆油組成物を浸漬法により塗油した。24時間油きりをし、5Cのφ185mmのろ紙で梱包した。温度50℃、相対湿度95%で60日間放置した後、さび及びステインの有無を目視にて観察した。評価基準は以下のとおりである。
○;さび及びステインが見られなかった。
×;さびあるいはステインが発生した。
(3)脱脂性
上記(2)と同様の供試材を各実施例及び比較例にて調製した加工兼用防錆油組成物に浸漬し、室内にて油きりをした後7日間放置した。脱脂液として「パーカーFCE2001(2%)」を用い、これに各実施例及び比較例にて調製した加工兼用防錆油組成物を3000質量ppm添加して脱脂老化液を調製した。該脱脂老化液に試験片を40℃で、30秒浸漬し、15秒間水洗して脱脂状態を確認した。脱脂の程度は脱脂後の鋼板の水濡れ面積(%)にて評価した。
(4)深絞り性
上記と同様の供試材(φ70mm)に、各実施例及び比較例にて調製した加工兼用防錆油組成物を1.5〜2g/m2塗油し、ポンチとしてSKD11硬質クロムメッキ(鏡面仕上げ、径32φ、肩半径5R)、ダイスとしてSKD11硬質クロムメッキ(鏡面仕上げ、径34.4φ、肩半径5R)を用い、ポンチ速度1mm/sの条件で深絞り加工を行った。各しわ押さえ荷重での最大ポンチ荷重(tf)と破断時の絞り高さ(mm)を測定し、限界しわ押さえ荷重を算出した。評価基準は以下のとおりである。
◎;4tf以上
○;3〜4tf
△;2〜3tf
×;2tf以下
【0020】
実施例1〜8及び比較例1〜8
第1表に示すように、(A)基油に(B)〜(D)成分及び添加剤を配合し、加工兼用防錆油組成物を得、上記方法によって評価した。その結果を第1表に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
(注)
*1 基油A;パラフィン系鉱油、40℃における動粘度5.025mm2/s、環分析による分子量225、硫黄含有量0.01質量%
*2 基油B;パラフィン系鉱油、40℃における動粘度20.54mm2/s、環分析による分子量363、硫黄含有量0.15質量%
*3 基油C;ナフテン系鉱油、40℃における動粘度101.4mm2/s、環分析による分子量404、硫黄含有量0.054質量%
*4 基油D;パラフィン系鉱油、40℃における動粘度480.2mm2/s、環分析による分子量707、硫黄含有量0.94質量%
【0024】
*5 トリメチロールプロパンエステルA(トリメチロールプロパントリオクチレート);脂肪酸残基の炭素数 8、分子中のOH基なし、硫黄含有量 検出限界以下
*6 トリメチロールプロパンエステルB(トリメチロールプロパントリラウリレート);脂肪酸残基の炭素数 12、分子中のOH基なし、硫黄含有量 検出限界以下
*7 トリメチロールプロパンエステルC(トリメチロールプロパントリオレエート);脂肪酸残基の炭素数 18、分子中のOH基なし、硫黄含有量 検出限界以下
*8 トリメチロールプロパンエステルD(トリメチロールプロパンジオレエート);脂肪酸残基の炭素数 18、分子中のOH基 1個、硫黄含有量 検出限界以下
*9 トリメチロールプロパンエステルE(トリメチロールプロパンモノオレエート);脂肪酸残基の炭素数 18、分子中のOH基 2個、硫黄含有量 検出限界以下
*10 過塩基性カルシウムスルホネート;塩基価405mgKOH/g、バリウム含有量 検出限界以下、カルシウム含有量;2質量%
*11 中性カルシウムスルホネート;塩基価21.7mgKOH/g、バリウム含有量 検出限界以下、カルシウム含有量;15質量%
*12 酸化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(DBPC)
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の加工兼用防錆油組成物は、熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板に塗布して有効であり、防錆性、アルカリ脱脂剤等による脱脂性に優れる。また、潤滑性にも優れ、特に、亜鉛メッキ鋼板においては、亜鉛メッキの剥離を抑制して摩擦係数を低減し、かつ、現状の防錆油塗布ラインでそのままトラブルなく塗布することが可能である。さらには、防錆油が多量に混入したアルカリ脱脂液においても、優れた脱脂性を保つことができる上、バリウムをほとんど含有しないため環境負荷が小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)40℃における動粘度が4〜50mm2/sの鉱油及び/又は合成油を基油とし、これに(B)脂肪酸残基の炭素数が14以上であり、かつ分子中のOH基数が1未満である多価アルコールの脂肪酸エステル、(C)過塩基性金属スルホネート、及び(D)中性金属スルホネートを配合し、かつバリウムを実質的に含有しない加工兼用防錆油組成物であって、(A)基油が(a)40℃における動粘度が1.5〜10mm2/sの低粘度基油と(b)40℃における動粘度が10〜100mm2/sの高粘度基油を、(a)成分:(b)成分の比で1:2〜1:15の範囲で混合したものである加工兼用防錆油組成物。
【請求項2】
(C)過塩基性金属スルホネートが過塩基性カルシウムスルホネートを含有し、かつ(C)成分中のカルシウム含有量が組成物全量を基準として2.5質量%以下である請求項1に記載の加工兼用防錆油組成物。
【請求項3】
(A)基油が環分析により測定した分子量で700未満である請求項1又は2に記載の加工兼用防錆油組成物。
【請求項4】
(C)成分の塩基価が300mgKOH/g以上である請求項1〜3のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物。
【請求項5】
(B)成分及び(C)成分が、組成物全量を基準として、それぞれ1〜20質量%配合され、(D)成分が組成物全量を基準として1〜10質量%配合され、かつ、(B)成分と、(C)成分及び(D)成分の質量比(B):[(C)+(D)]が、1:1〜1:2の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物。
【請求項6】
40℃における動粘度が5〜20mm2/sであり、バリウムの含有量が組成物全量基準で5質量ppm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の加工兼用防錆油組成物。

【公開番号】特開2007−153962(P2007−153962A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348110(P2005−348110)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】