説明

加工性、耐傷付性に優れた塗装板及びその製造方法

【課題】 柚子肌状の塗装外観を有し、加工性、耐傷付性に優れた、塗装金属板その他の塗装板と、その簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】 塗膜最外表面のろ波うねり中心線平均(Wca)が0.35μm≦Wca≦1.25μmで、且つろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)が2800μm≦Wc-sm≦12500μmであり、最表層塗膜とその下層塗膜との境界面が波状構造を有する塗装板とする。好ましくは、最表層塗膜とその下層塗膜との境界面を塗膜厚み方向断面で観察した時に現れる波形の曲線Wが、(1)塗膜最外表面Sと境界面の波形曲線Wとの距離をA、最表層塗膜の平均膜厚をBとして、A≦0.8Bの領域を持つとして定義される大波を含むこと、(2)大波間の平均距離が750μm以下であること、という条件を満足するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工性、耐傷付性に優れた塗装板に関する。本発明の塗装板は、塗膜外観が凹凸状のうねりを示す柚子肌状であり、汚れが付着しても沈着しにくく、表面に傷がついても目立たないという優れた特徴を有する。また本発明は、特に多層同時塗布法により容易に柚子肌状凹凸外観を形成出来る塗装板の製造方法に関する。
【0002】
ここでの「塗装板」とは、基板の少なくとも片面に塗膜を形成した板材料として定義され、基板としては、金属、紙、木材、合板等のほか、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を始めとする樹脂等の板を使用することができる。
【背景技術】
【0003】
塗装板の代表例の一つである塗装金属板は、建築物、船舶、橋梁等の大きなものから各種機械、自動車、家具、電気製品等の小物、及び生活用品にまで幅広く使用されている。
【0004】
一般にこれらの金属板の塗装はポストコートと呼ばれ、加工・組立後に塗装が行われている。ポストコートでは、被塗物の形状が立体的であるため、溶剤系塗料のスプレーコートや粉体塗料の静電塗装等の非接触式塗装が適用されてきた。家電やOA機器の筐体、屋根や壁、室内の内壁などの建材、雑貨、自動車部品やその筐体などの分野では、表面欠陥の目立ち難い柚子肌状の塗膜外観が求められている。スプレーコートや粉体塗料の静電塗装等の非接触式塗装では、塗料のレベリング不足のため塗装面が独特の柚子肌外観となりやすく、容易に柚子肌の形成が可能であった。
【0005】
最近では、建材、家電、雑貨、自動車などの分野において、金属板を成形加工して組立てた後に塗装するという従来のポストコート方式に変わって、あらかじめ塗装された金属板(プレコート金属板、PCMと略す)を成形加工し、接合して製品とするプレコート方式が多く採用されている。プレコート方式の導入には、需要家での塗装工程が省略でき、塗装廃棄物等による公害・環境問題の解決が図られ、更に塗装のための作業スペースを他の用途に転用できるなどのメリットがある。
【0006】
ところが、特にプレコート鋼板の分野では、製品特性として加工性が強く要求されるため、立体感や肉もち感のある柚子肌状塗膜の導入は容易ではない。従来の柚子肌状外観の塗膜形成方法としては、(1)樹脂ビーズを含有する塗料を使用する方法、(2)無機系ビーズを含有する塗料を用いる方法、(3)印刷を利用する方法、(4)メッシュロールを用いる方法、(5)静電粉体塗装を用いる方法、などがある。
【0007】
例えば、特許文献1には、平均粒径10〜50μmの熱可塑性樹脂粉末を含有する塗料組成物を使って、柚子肌状の外観の塗膜を得る方法(樹脂ビーズ法)が記載されている。特許文献1の方法では、ビヒクル樹脂との溶解度パラメータの差を規定し、塗膜焼付温度における前記樹脂粉末の溶解粘度を規定している。また、塗料組成物を被塗物に塗装し焼き付けた塗膜を、断面において樹脂粉末がある程度溶融して扁平状になり、その上にビヒクル樹脂が硬化して膜を形成すること、こうして得られる柚子肌状の塗膜において、最も低い塗膜面から測定した凸部の高さは2〜50μm程度、1つの凸部の幅(凸部の広がりを示す径)は1〜10mm程度となることが記載されている。
【0008】
特許文献2にも樹脂ビーズ法が記載され、この方法では、熱硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂よりも表面自由エネルギーの低いアミノ樹脂と、塗膜焼付け時には溶融し、かつ塗料には溶解しない樹脂ビーズとを含有する塗料組成物を塗布、焼付する。
【0009】
特許文献3には、無機ビーズ法が記載され、この方法では、粒径0.3mm未満のガラスビーズと150〜200メッシュの有色骨材を特定比率で配合した塗料組成物が使用される。
【0010】
特許文献4には、塗膜厚が少なくとも2μm以上の立体模様を印刷法により部分的に形成した後、全面にトップコート層を形成する印刷法が記載されている。
【0011】
特許文献5には、塗料樹脂(ベース樹脂)に溶解度パラメータが異なる添加剤を含有させた塗料を、メッシュロールを用いて塗布して、造膜過程でベース樹脂と相溶性の悪い添加剤が分離してはじき状意匠性外観が形成されるメッシュロール法が開示されている。
【0012】
【特許文献1】特開平4-370164号公報
【特許文献2】特開平11-104557号公報
【特許文献3】特開平5-32918号公報
【特許文献4】特開平6-206047号公報
【特許文献5】特開2002-361164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の樹脂ビーズ含有塗膜を使用する方法には、加熱過程での模様の再現性が必ずしも良くない、加熱パターンにより微妙な膜厚を調整することが困難、塗料の安定性が悪い、塗料の切り替え時の洗浄が必須(ビーズが原因の塗装不良が発生)などの問題がある。
【0014】
無機系ビーズ含有塗料を用いて柚子肌を形成する方法には、塗膜表面に露出するビーズが多くなり、ビーズの脱落による塗膜の劣化や、塗膜の加工性が悪いなどの問題がある。また、固体ビーズを塗料中に安定して懸濁させるのが困難という問題もある。更に、塗膜表面にざらざら感が残るのも難点である。
【0015】
印刷法では、立体模様を印刷後に加熱乾燥し、トップコート層を形成後に再度加熱乾燥する2コート2ベークが基本になる。このため、塗装工程が煩雑になり、コスト高となる。
【0016】
メッシュロール法の場合、均一な膜厚の調整がしにくく、部分的に膜厚の薄い部分が発生するため、塗装金属板の耐食性に問題がある。
【0017】
静電粉体塗装法では、ラインスピードが10〜20m/分と小さいために生産性が低く、コスト高になってしまう。
【0018】
本発明は、柚子肌状の塗装外観を有し、加工性、耐傷付性に優れた塗装金属板その他の塗装板と、このような塗装板の簡便な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、性質の異なる塗料から形成した層を積層した多層塗膜が、加熱乾燥時に積層塗膜の境界層を乱して塗料の不均一流れを発生する現象に着目した。そして本発明者らは、この不均一流れは塗膜内の微細な対流現象ではあるが、塗膜の最外表層面に数ミリメートル単位の大きな凹凸変化を誘起することを発見した。本発明者らは鋭意研究を進め、各層を形成する塗料の表面張力と塗膜の加熱条件を最適化することにより、柚子肌状のなめらかな凹凸を塗膜表面に形成させることに成功し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明による塗装板は、塗膜最表層が柚子肌形状であり、しかも最表層塗膜とその下層塗膜との境界面がほぼ又は完全に連続した波状構造を有し、すなわち境界面がほぼ又は完全に連続した波状構造の面となっていて下層塗膜にも最表層塗膜にも不連続な部位がなく、基板の全面がそれらにより実質的に覆われているため、加工性、耐傷付性にも優れた塗装板である。
【0021】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 塗膜最外表面のろ波うねり中心線平均(Wca)が0.35μm≦Wca≦1.25μmで、且つろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)が2800μm≦Wc-sm≦12500μmであり、最表層塗膜とその下層塗膜との境界面が波状構造を有することを特徴とする加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(2) 最表層塗膜とその下層塗膜との境界面を塗膜厚み方向断面で観察した時に現れる波形の曲線が、
(i)塗膜最外表面と境界面の波形曲線との距離をA、最表層塗膜の平均膜厚をBとして、A≦0.8Bの領域を持つとして定義される大波を含むこと、
(ii)大波間の平均距離が750μm以下であること、
という条件を満足することを特徴とする、上記(1)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(3) 最表層塗膜と下層塗膜との境界面が連続した波状構造の面であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(4) 最表層塗膜とその下層塗膜を同色の熱硬化性樹脂とすることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(5) 最表層塗膜とその下層塗膜の合計膜厚が乾燥塗膜厚みで5〜50μmであることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(6) 下層塗膜と基板との間に更に1又は2以上の塗膜を有することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
(7) 基板上に下層塗膜を形成する塗料と最表層塗膜を形成する塗料をともにウェット状態で塗布して塗膜を形成後、これらの塗膜を同時に加熱乾燥することを特徴とする、上記(1)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(8) 下層塗膜を形成する塗料及び最表層塗膜を形成する塗料の塗布をウェットオンウェット塗布または同時多層塗布により行うことを特徴とする、上記(7)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(9) 塗膜の加熱乾燥を誘導加熱、通電加熱又は超音波加熱により行うことを特徴とする、上記(7)又は(8)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(10) 最表層塗膜を形成する塗料は、その表面張力を5回測定したとき、得られる測定値の最大値と最小値の差が2mN/m以上であることを特徴とする、上記(7)〜(9)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(11) 最表層塗膜を形成する塗料中に表面張力が異なる2種類以上の界面活性剤を含有させることを特徴とする、上記(7)〜(10)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(12) 最表層塗膜の塗料の表面張力δaと下層塗膜の塗料の表面張力δbの差の絶対値が、0.1mN/m≦|δa-δb|≦5.0mN/mの範囲内にあることを特徴とする、上記(7)〜(10)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(13) 最表層塗膜の塗料の表面張力と下層塗膜の塗料の表面張力の少なくとも一方を添加剤の添加により調整することを特徴とする、上記(11)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(14) 添加剤が界面活性剤、配合溶剤又はレベラーであることを特徴とする、上記(13)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(15) 塗料中に界面活性剤を0.4mass%以下含有させることを特徴とする、上記(11)又は(13)に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(16) 誘導加熱装置を用い、1.0℃/秒〜20℃/秒の範囲の加熱速度で基板を加熱することにより塗膜の同時加熱乾燥を行うことを特徴とする、上記(7)〜(15)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
(17) 最表層塗膜を形成する塗料とその下層塗膜を形成する塗料の粘度が0.2〜1.0Pa・sであることを特徴とする、上記(7)〜(16)のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の塗装板は、耐傷付性、加工性に優れた特性を示す上に、柚子肌状の立体感のある意匠性を示す。また、塗膜にビーズなどの分散物が存在しないため、極めて良好な加工性を示し、特にプレコート鋼板などへの適用が容易である。
【0023】
本発明の製造方法によれば、塗装ラインの生産性が向上し(ラインスピードが速く、2コート1ベークで塗膜を形成でき、下層塗膜の焼付工程が不要)、塗料の選択性も広い。そのため、製造コストを削減できる。更に、本発明によれば、塗料の変更や注文ロットの変更に際しても、ビーズなどの固形分がない塗料を使用するため、コータの洗浄などが容易であり、塗料変更作業による休止時間も短く、作業トラブルも生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1の模式図に示したように、本発明の塗装板10は、基板1と、基板1の上に形成した連続の下層塗膜3とその上に形成した連続の最表層塗膜5から構成される多層塗膜7とを有する。図1では、塗膜の構造を見やすくするため、基板1の平面方向に対し塗膜3、5の厚み方向(基板1の平面に垂直な方向)を大きく拡大している。本発明の塗装板の実際の塗膜断面を拡大して観察すると、図2に模式的に示したように見える。この図において、最表層塗膜5はほとんど平滑に見えるが、実際には柚子肌状の表面を呈している。
【0025】
図3に、樹脂ビーズを含む塗料を使って製造した従来の柚子肌状塗装板の模式図を示す。この図の塗装板100では、基板101の上に形成した塗膜103中に樹脂ビーズ105が分散している。このように、樹脂ビーズを用いた従来の柚子肌状塗装板では、樹脂ビーズが融解してある程度変形したとしても、それらは分散して存在し、また隣り合うビーズが合体して大きな粒子を形成したとしても、それらはやはり分散していて、連続した塗膜を形成するには至らない。
【0026】
それに対し、図1、2に示したように、本発明の柚子肌状塗装板では、下層塗膜と最表層塗膜との界面は塗膜加熱乾燥時に発生する乱流により乱れてはいるものの、ほぼ又は実質的に連続性を維持している。
【0027】
樹脂ビーズを用いる従来技術の場合は、熱硬化性のバインダー中に熱可塑性樹脂ビーズを混合させるので両樹脂間の親和性が低く(むしろ両者が相溶しないことが求められるため)、塗装板の加工成形時に塗膜の欠陥を生じ易い。
【0028】
それに対し、本発明の塗装板の塗膜には上下層とも熱硬化性樹脂を用いることができる。両者の表面張力が異なるように調整すれば、全く同一の樹脂であってもかまわない。従って上下層の塗膜は単一層に近い相互密着性を有することが可能である。また、同時乾燥するので、本発明では上下樹脂間の架橋度も高くなっていると思われる。
【0029】
本発明で用いられる基板は特に限定されず、金属、紙、木材、合板等のほか、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)その他の樹脂等の板を使用することができる。
【0030】
金属板としては、例えば鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、チタン板、銅板等が挙げられる。このうち鋼板の例として、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛-鉄合金めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、クロムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、錫めっき鋼板等が挙げられる。
【0031】
金属板には、必要に応じて前処理を施すことができる。前処理としては、水洗、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研削、研磨、クロメート処理、リン酸亜鉛処理、複合酸化皮膜処理その他のノンクロメート型の処理等がある。これらを単独又は組み合わせて塗装前処理を行うことができる。塗装前処理の条件は適宜選択すればよい。
【0032】
本発明に用いられる塗膜層(下層塗膜層、最表層塗膜層(上層塗膜層))には、加工性、硬度、耐汚染性、耐薬品性など多くの性能が要求されるため、塗膜層の形成に用いる塗料で使用する主樹脂の種類はポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等が好適である。上下層の樹脂の組合せは、目的に応じて適宜選択すればよい。とりわけ加工性に優れ、硬度や耐汚染性など他の性能とのバランスがとりやすいポリエステル樹脂が最も適している。
【0033】
塗料で使用する架橋剤としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂や、イソシアネート樹脂が、加工性と他の性能とのバランスの点で優れている。
【0034】
塗料で用いられる溶剤は、特に限定されず、いずれの溶剤も使用可能である。溶剤の種類は、樹脂の溶解に支障ない範囲で選択することが望ましい。また、塗装する際に必要な粘度、塗装作業性を考慮してその種類や量を選択できる。
【0035】
上下層用の塗料は、任意の色を持つことができる。場合により、着色剤を使用して着色することもできる。また、上下層用の塗料は同一の色であってもよく、異なる色であってもよい。上下層の色を同一にする場合は、上下層それぞれの膜厚で単一層を形成させたときの塗膜の色差が、JIS Z 8730-6.1で規定される色差1.0以下の塗料を用いる。
【0036】
上下塗膜層の乾燥後合計膜厚を5μm以上にすると柚子肌の形成が容易である。更に好適には、乾燥後合計膜厚を8μm以上とする。乾燥後合計膜厚の上限は特に限定されないが、膜厚が厚くなると乾燥に時間がかかるため経済性と生産性の観点から50μm以下であることが望ましい。
【0037】
必要に応じて、別の塗料を金属板上に塗布し、硬化乾燥させることにより追加塗膜を形成した後に、本発明の下層塗膜層、最表層塗膜層を形成することができる。追加塗膜用の塗料としては、種類は特に限定されないが、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系等を挙げることができる。選択した塗料をロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、静電塗装機、ハケ、ブレードコーター、ダイコーター等で必要な膜厚になるように塗装し、次いで常温放置であるいは熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、遠赤外線炉又はエネルギー線硬化炉等で硬化乾燥することによって追加塗膜層が得られる。
【0038】
追加塗膜層には、必要に応じて公知の顔料や添加剤を加えることができる。膜厚は任意であるが、塗装金属板においては1〜30μm程度、特に3〜12μmの乾燥膜厚が一般的である。乾燥条件は塗料の種類と得たい性能に応じて適宜選択すればよいが、熱風炉や誘導加熱炉、近赤外線炉等で最高到達板温150〜240℃、到達時間10〜200秒程度の条件が一般的である。追加塗膜層はなくてもよいし、1層であっても、多層であっても差し支えない。
【0039】
本発明の塗装板は、塗膜最外表面のろ波うねり中心線平均(Wca)が0.35μm≦Wca≦1.25μmで、且つろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)が2800μm≦Wc-sm≦12500μmであることを必要とする。Wcaが0.35μmより小さいと塗膜の平滑感が強くなり、Wc-smによらず柚子肌感が無くなる。一方、Wcaが1.25μmより大きいと、ざらつき感が強くなり、滑らかな印象が無くなる。Wc-smが2800μmより小さいと柚子肌感が強くなりすぎ、一方12500μmより大きくなると柚子肌感が無くなる。
【0040】
ろ波うねり中心線平均(Wca)とは、断面曲線から波長の短い表面粗さの成分を除いて得られる曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、その抜き取り部分の中心線をX軸、縦倍率の方向をZ軸とし、z=f(x)で表したとき、
【0041】
【数1】

【0042】
で定義される値である。波長の短い表面粗さ成分は80μm未満(カットオフ値80μm)とする。
【0043】
ろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)とは、断面曲線から80μmをカットオフ値とした波長の短い表面粗さ成分を除去して得られる曲線(ろ波うねり曲線)から、ある測定長さLを抜き取り、その平均線を横切って山から谷へ向かう横断点(平均線との交点)から、次の山から谷へ向かう横断点までの間隔をSmiとするとき、間隔の総数をNとして、
【0044】
【数2】

【0045】
で定義される値である。
【0046】
ろ波うねり中心線平均(Wca)とろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)の測定には、任意の5箇所のサンプルを測定してその平均を求めた。
【0047】
本発明の塗装板では、最表層塗膜とその下層塗膜との境界面の形状が重要であり、目標とする柚子肌を形成させるためにはこの境界面の形状を適正に管理し、境界面が波状構造を持つようにする必要がある。
【0048】
具体的には、図4に示したように最表層塗膜43とその下層塗膜41との波状の境界面を塗膜厚み方向断面で観察した時に現れる波形の曲線Wが、
(1) 塗膜最外表面Sと境界面の波形曲線Wとの距離をA、最表層塗膜43の平均膜厚をBとして、A≦0.8Bの領域G(図中、斜線を施して示された領域)を持つとして定義される大波を含むこと、
(2) 大波間の距離(隣り合う大波の最大高さの点間の距離に相当し、図中ではX1、X2で表される)の平均が750μm以下であること、
という条件を満足する場合に、良好な柚子肌が形成される。塗膜断面に大波が認められなければ、良好な柚子肌の形成はおぼつかない。大波間の平均距離が750μmを超えている場合は、加熱乾燥時の塗膜内部の塗料の対流現象が沈静化しており、表面の柚子肌が不明瞭となっている。
【0049】
境界面の断面波形曲線が上記の条件を満足するかどうかは、次のようにして判定することができる。
(a) まず塗装板上の任意の5箇所から3mm長の断面サンプルを5個採取する。
(b) 個々のサンプル断面を観察して、以下の手順により大波間の平均距離を計算する。
(1)最表層塗膜の平均膜厚Bを測定し、0.8Bを算出する。平均膜厚としては、1m2の単位面積当たりの塗膜の重量と塗膜の密度とから計算される値を採用する。
(2)塗膜最外表面と境界面の波状曲線との距離Aと前記0.8Bを比較し、大波の領域を決定する。
(3)各大波の領域の中で最も塗膜最外表層に近い部分を1点選び、その点を起点として隣り合う大波間の距離X1、X2、・・・・・・を測定する。
(4)各サンプル毎に大波間距離の平均値を求める。
(5)全サンプルの大波間距離を平均した値を、塗装板の大波間の平均距離とする。
【0050】
本発明において柚子肌が発生するメカニズムは明確ではないが、次のような機構が考えられる。
乾燥過程で塗膜の最外表層に何らかの原因で表面張力の高い部分と低い部分が発生し、表面張力の高い部分に塗膜が引っ張られて凹凸が形成される。凹凸が形成されると、表面の場所による溶剤の揮発速度差が生じ、それによって温度差もできるため、塗膜に対流が生じる。この対流によって、塗膜中の場所による溶剤濃度差が生じ、それによって表面張力差が生じ、この表面張力差によって、更に凹凸が生じる。このような現象の複合により、柚子肌が形成される。
【0051】
本発明の柚子肌状塗装板の製造方法では、少なくとも上下二層の塗膜をウェット状態で形成し、同時に加熱乾燥することが必須である。塗膜形成のための塗料の塗布方法は、カーテンコーターやロールコーターによるウェットオンウェット法、又はスライドカーテンコーターによる多層同時塗布法でよく、後者がより好適である。
【0052】
本発明の方法では、最表層塗膜を形成する塗料中に表面張力が異なる2種類以上の界面活性剤を混入することができ、これによってより良好な柚子肌を得ることができる。理由は不明だが、表面張力が異なる界面活性剤は、塗膜表面で溶剤の揮発速度の差を生じさせて前述の如く微細な対流現象を誘起するものと思われる。
【0053】
界面活性剤としては、アクリル樹脂系、シリコーン系、フッ素系、炭化水素系などが好適であり、界面活性があれば他のものでもよい。界面活性剤には、消泡剤、レベリング剤、分散剤、滑剤、発泡剤など各種の目的に沿ったものがあるが、いずれも使用可能である。塗料中の界面活性剤の濃度は、0.4mass%以下であるのが好適である。0.4mass%を超える場合には、塗布時の作業性が悪くなる。例えば、塗料をカーテン塗布する場合にはカーテンの安定性が乱されやすくなり、ロール塗布の場合には柚子肌とは別のリビング(塗布方向にほぼ平行した筋模様、参考文献:色材協会誌、第73巻9号、p.461)などの欠陥の発生が目立ちやすくなる。
【0054】
塗料で使用する溶剤の種類を変えることによっても、表面張力の調整が可能である。例えば、N-メチルピロリドンは約42mN/mと高い表面張力を示し、エトキシエチルプロピオネートは約27mN/m、キシレンは約32mN/mの表面張力を示す。
【0055】
最表層塗膜を形成する塗料として、その表面張力を5回測定したとき、その最大値と最小値との差が2mN/m以上あるような塗料を使用することによっても、良好な柚子肌を得ることができる。この理由については不明であるが、例えば、以下のように考えられる。
【0056】
表面張力を複数回測定したとき、その値が大きくばらつく現象は、塗料中に表面張力のミクロ的な不均一性が生じていることを示す。最表層塗膜を形成する塗料中に表面張力のミクロ的不均一性が生ずると、それがきっかけとなって乾燥過程で最表層塗膜内に前述のような微細な対流現象が誘起され、良好な柚子肌が形成されるものと思われる。
【0057】
良好な柚子肌を形成するためには、表面張力を連続して5回測定し、その最大値と最小値との差が2mN/m以上であることが好ましい。2mN/m未満であると、良好な柚子肌が得られないことがある。表面張力の最大値と最小値の差の上限値は、特に限定されないが、10mN/mを超える場合は塗料の攪拌が十分でない可能性が高いことから、10mN/m以下であることが望ましい。塗料の表面張力は、20℃での白金リング引き上げ法による静的表面張力の値を適用すればよい。
【0058】
本発明では、最表層塗膜と下層塗膜の塗料の表面張力を制御することによっても柚子肌を形成することが可能である。柚子肌を形成するには、最表層塗膜の塗料の表面張力δaと下層塗膜の塗料の表面張力δbの差の絶対値が、0.1mN/m≦|δa-δb|≦5.0mN/mの範囲内にあることが重要である。表面張力差が0.1mN/m未満では、塗膜内で対流現象が発生しても塗膜表面の表面張力の不均一が起こりにくく、柚子肌が形成され難い。一方、5.0mN/mを超えると、上下層の大きい表面張力差によって最表層塗膜と下層塗膜の界面が逆に安定化し、上下層を通じた対流が抑制され、柚子肌が発生しにくい。
【0059】
本発明においては、塗膜の加熱乾燥による塗料樹脂の硬化中に上層(最表層塗膜)とその下層の塗料の一部が適度に再配置されて対流が生じ、上下層の境界面が波状構造を形成して、良好な柚子肌外観を得ることができる。このような機構により柚子肌を形成するためには、上下層の表面張力の差を前記の範囲内に維持する必要がある。
【0060】
上記の範囲に塗料の表面張力を調整する方法としては、塗料の添加剤(例えばレベラー、界面活性剤等)の種類を変更したりその添加量を調整する方法、溶剤の種類と量を変える方法などが可能である。例えば、塗料中の界面活性剤を添加して表面張力を調整する場合には、塗料中の界面活性剤濃度は、上述のように0.4mass%以下であるのが好ましい。
【0061】
上下層の塗料は、それらの粘度が低いほど流動の障壁がなくなるため、柚子肌が発生し易くなる。塗料の粘度は0.2〜1.0Pa・sの範囲に調整し、望ましくは0.5〜1.0Pa・sの範囲とする。塗料の粘度の調整は、塗料中の溶剤量や溶剤種類の変更によって行うことができる。また、増粘剤などの添加剤によって粘度を調整することも可能であり、公知の方法によればよい。
【0062】
上述の塗料条件の調整に加え、柚子肌形成のもう一つの重要なファクターが塗膜の加熱乾燥条件である。
【0063】
本発明では、加熱方法については、特に限定されない。赤外線輻射、熱風、超音波加熱、誘導加熱など、製品に応じて適宜選択すればよい。
【0064】
とは言え、塗膜中の塗料の対流現象を起すには、基板側から加熱するほうが生産効率を高くするのに有利である。塗膜表面から加熱しても対流現象を発生させることはできるが、加熱速度は基板側から加熱するほど高くできない。この観点から、金属を基板とする場合は、誘導加熱、通電加熱、超音波加熱など塗膜内面(基板側)から加熱乾燥する手段を採用するのが好適であり、基板側からの急速加熱によって柚子肌を発生させ易くなる。
【0065】
金属基板の加熱速度は特に限定されないが、一般に1〜20℃/秒の範囲とするのが好適である。1℃/秒より小さいと生産性が落ちるので好ましくなく、20℃/秒より大きいとわきの問題が発生する。
【0066】
次に、実施例により本発明を更に説明する。とは言え、本発明が以下の実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0067】
亜鉛を60g/m2めっきした鋼板に塗装下地処理としてノンクロメート処理(日本パーカライジング社製CTE236)を施して基板を作製した。
【0068】
この基板上に、表1、表2に示す本発明による塗膜A-1〜A-21(これらのうち、塗膜A-11〜A-14は参考例である)を形成した。これらの塗膜は、乾燥平均膜厚10μmの最表層(上層)塗膜層と乾燥平均膜厚12μmの下層塗膜層から構成され、上層塗膜層はポリエステル系樹脂FLC7000(日本ファインコーティング社製、ベージュ色)を主樹脂とする塗料を用い、下層塗膜層はポリエステル系樹脂(日本ファインコーティング社製、ベージュ色、樹脂のガラス転移点12℃)を主樹脂とする塗料を用いて、カーテンコーターを使用するウェットオンウェット法又はスライドホッパー型カーテン塗布装置を使用する同時多層塗布法により形成した。なお、結果はいずれの塗装方法によっても同一であった。
【0069】
上下層の塗料に各種添加剤を配合してその表面張力を変化させた。使用した添加剤は次のとおりである。
・ポリフロ-S:楠本化成社製界面活性剤
・非Si系レベラー(S):楠本化成社製界面活性剤
・BYK-141:BYK社製Si系消泡剤
・BYK-080:BYK社製Si系消泡剤
・BYK-065:BYK社製Si系消泡剤
・BYK-057:BYK社製非Si系消泡剤
・BYK-055:BYK社製非Si系消泡剤
・BYK-053:BYK社製非Si系消泡剤
・BYK-077:BYK社製非Si系消泡剤
・Si系レベラー:BYK社製Si系レベラー
上層塗膜には、特に指示しない限り0.2mass%のポリフロ-Sを添加し、下層塗膜には表1、表2に示した量の添加剤を添加した。
【0070】
各上層用塗料及び各下層用塗料の樹脂、架橋剤、顔料成分は同じとし、特に指示しない限り溶剤としてキシレン/ソルベッソ150(1/1質量比)を用いた。A-13〜A-16の下層塗膜では、添加剤を添加せずに溶剤の種類を変更することにより表面張力を変化させた。塗膜の加熱乾燥条件は、熱風炉で最高到達板温230℃、乾燥時間70秒、とした。
【0071】
各塗料の表面張力、上層及び下層塗料の表面張力の差の絶対値を、加熱乾燥後の塗膜の柚子肌形成の有無(柚子肌形成は○、柚子肌形成なしは×)とともに表1、表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
上層及び下層塗料の表面張力差の絶対値|δa-δb|を制御することによって、柚子肌の形成が可能なことが分かる。|δa-δb|が5.0mN/mを超える(参考例の塗膜A-11〜A-14)と、塗膜層間の境界面が安定するため柚子肌は部分的にしか出現しない。また、δaとδbに差が無い場合(A-21)にも柚子肌は形成されないか不明瞭なものとなった。
【実施例2】
【0075】
実施例1で作製した亜鉛めっき鋼板に、実施例1で説明した塗膜A-1〜A-10を形成した試験片と、次に示す比較例の塗膜B-1〜B-5を形成した試験片を用意した。
【0076】
(1) 塗膜B-1
基板上にポリエステル系プライマー樹脂の下層塗膜5μmを形成(焼付)し、その上層にガラス転移点12℃のポリエステル樹脂とブチル化メラミン樹脂を85/15(質量比)の比率で配合した樹脂にポリエステル樹脂ビーズ(粒径40μm)を10%含有させた塗料を塗布し、そして高周波誘導加熱炉を用いて最高到達板温230℃で焼付けた。樹脂ビーズを含む上層の乾燥膜厚は15μmであった。
(2) 塗膜B-2
ポリエステル樹脂のガラス転移点を35℃にした以外はB-1と同じ。
(3) 塗膜B-3
ポリエステル樹脂ビーズを含有しない以外はB-1と同じ。
(4) 塗膜B-4
樹脂ビーズの平均粒径を10μm、樹脂ビーズの添加量を12%とした以外はB-1と同じ。
(5) 塗膜B-5
樹脂ビーズの添加量を2%とした以外はB-1と同じ。
【0077】
各塗膜のWca、Wc-smの測定を、東洋精密社製の表面粗度測定機Surfcomを用い、測定長さ25mm、カットオフ80μm、測定速度0.5mm/sで行った。
【0078】
耐傷付性は、はがきを指で塗膜表面に荷重約5kgで押し当てて、塗膜表面上を30回往復させて擦った後の、塗膜表面の傷付き具合を目視で判定した。傷が目立つ場合は×、傷がほとんど見えない場合を〇、若干の傷が見える場合を△と評価した。
【0079】
加工性の評価は、20℃でT折り曲げ試験を行い、折り曲げ加工部の塗膜に10倍ルーペで観察して亀裂が入らない限界のTを求めることにより行った。例えば、2T曲げで亀裂が認められ3T曲げで亀裂が認められなかった場合は、評点は3Tとなる。
【0080】
光沢の評価には、塗膜表面の60度鏡面反射率(%)を採用した。
【0081】
得られた結果を、塗膜断面の上下層塗膜界面の大波間距離及び目視による外観とともに、表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
ビーズを混入した比較例の塗膜B-1、B-2、B-4、B-5では、加工性又は耐傷付性の何れかが劣る。ビーズ混入のない塗膜B-3では、柚子肌ができない。
【実施例3】
【0084】
実施例1で作製した亜鉛めっき鋼板に、実施例1で説明した塗膜A-3、A-9の塗料を、スライド式のカーテンコーターを用いて下層10μm、上層12μmとなるように塗布し、誘導加熱炉及び熱風加熱炉を用いて、加熱条件を変えて焼き付けた。加熱条件は、常温(約20℃)から最高到達板温である230℃まで加熱し、その際の加熱速度(230℃に到達するまでの平均速度)を、
A: 1.0℃/秒
B: 2.5℃/秒
C: 4.0℃/秒
D: 5.5℃/秒
E: 20℃/秒
とした。
【0085】
加熱処理後の塗膜表面を観察して、柚子肌がうまくできている場合を○、できていない場合を×と評価した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4の結果から、誘導加熱を用いるとラインスピードを速くでき、制御性よく柚子肌を形成できることが分かる。誘導加熱を用いたいずれの事例でも、溶剤が塗膜中からうまく抜けないために発生するワキ欠陥は認められなかった。
【実施例4】
【0088】
実施例1で作製した亜鉛めっき鋼板に、表5に示す本発明による塗膜A-22〜A-24(これらのうち、塗膜A-24は参考例である)を形成した。これらの塗膜は、表5に示した添加剤を除いて、実施例1と同一の条件とした。塗料の調整に際しては、塗料に所定の添加剤を添加してから、高速ディスパ装置(東洋精機社製ペイントシェイカーモデルSCD)にて2000rpmで15分間強攪拌した。
【0089】
上層の塗料調整直後の表面張力測定は、強攪拌後20分間静置してから行った。また、1日放置後、1ヶ月放置後の塗料の表面張力測定は、高速ディスパ装置にて2000rpmで5分間強攪拌し、20分間静置してから行った。なお、塗料の表面張力測定には、BYK社製のダイノメーターを用い、20℃における白金リング引き上げ法による静的表面張力の値を測定した。
【0090】
【表5】

【0091】
一般的な塗料の表面張力を5回測定した場合、通常その最大値と最小値の差(ばらつき)は、大きくても0.05mN/mの範囲内に収まるのが普通であるが、本発明に用いる塗料(A-22)では2.8mN/mとなっている。上層と下層の表面張力差が無いので、通常であれば柚子肌の形成は起こらないが、上層の表面張力のばらつきが2mN/m以上となっているため、柚子肌外観が得られている。
【0092】
この塗料を保管しておくと、表面張力のばらつきは徐々に小さくなっていく。1日保管後(A-23)では、未だ表面張力のばらつきが2.1mN/mであるため、柚子肌外観が発現している。しかしながら、1ヶ月保管後(A-24)には、表面張力のばらつきが1.5mN/mとなり、柚子肌外観は見られなくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明による塗装板は、美的表面外観と意匠性が要求される建材、家電、日用雑貨、自動車などの分野で広く使用される可能性がある。特に、本発明の塗装板は塗装後に成形加工処理を受けても塗膜が損傷せずに柚子肌状の美観を保つので、プレコート金属板への応用が期待される。
更に、柚子肌状の意匠は紛体塗装や静電塗装法により形成される場合が多いので、この分野の代替技術として本発明の製造方法が利用される可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の塗装板を模式的に説明する図である。
【図2】本発明の塗装板の実際の塗膜断面の模式拡大図である。
【図3】樹脂ビーズを用いて柚子肌を形成した従来の塗装板を模式的に説明する図である。
【図4】本発明の塗装板の最表層塗膜とその下層塗膜との波状の境界面と特徴を説明する図である。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
3 下層塗膜
5 最表層塗膜
10 塗装板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜最外表面のろ波うねり中心線平均(Wca)が0.35μm≦Wca≦1.25μmで、且つろ波うねり平均山間隔(Wc-sm)が2800μm≦Wc-sm≦12500μmであり、最表層塗膜とその下層塗膜との境界面が波状構造を有することを特徴とする加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項2】
最表層塗膜とその下層塗膜との境界面を塗膜厚み方向断面で観察した時に現れる波形の曲線が、
(1) 塗膜最外表面と境界面の波形曲線との距離をA、最表層塗膜の平均膜厚をBとして、A≦0.8Bの領域を持つとして定義される大波を含むこと、
(2) 大波間の平均距離が750μm以下であること、
という条件を満足することを特徴とする、請求項1に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項3】
最表層塗膜と下層塗膜との境界面が連続した波状構造の面であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項4】
最表層塗膜とその下層塗膜を同色の熱硬化性樹脂とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項5】
最表層塗膜とその下層塗膜の合計膜厚が乾燥塗膜厚みで5〜50μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項6】
下層塗膜と基板との間に更に1又は2以上の塗膜を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板。
【請求項7】
基板上に下層塗膜を形成する塗料と最表層塗膜を形成する塗料をともにウェット状態で塗布して塗膜を形成後、これらの塗膜を同時に加熱乾燥することを特徴とする、請求項1に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項8】
下層塗膜を形成する塗料及び最表層塗膜を形成する塗料の塗布をウェットオンウェット塗布または同時多層塗布により行うことを特徴とする、請求項7に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項9】
塗膜の加熱乾燥を誘導加熱、通電加熱又は超音波加熱により行うことを特徴とする、請求項7又は8に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項10】
最表層塗膜を形成する塗料は、その表面張力を5回測定したとき、得られる測定値の最大値と最小値の差が2mN/m以上であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項11】
最表層塗膜を形成する塗料中に表面張力が異なる2種類以上の界面活性剤を含有させることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項12】
最表層塗膜の塗料の表面張力δaと下層塗膜の塗料の表面張力δbの差の絶対値が、0.1mN/m≦|δa-δb|≦5.0mN/mの範囲内にあることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項13】
最表層塗膜の塗料の表面張力と下層塗膜の塗料の表面張力の少なくとも一方を添加剤の添加により調整することを特徴とする、請求項12に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項14】
添加剤が界面活性剤、配合溶剤又はレベラーであることを特徴とする、請求項13に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項15】
塗料中に界面活性剤を0.4mass%以下含有させることを特徴とする、請求項11又は13に記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項16】
誘導加熱装置を用い、1.0℃/秒〜20℃/秒の範囲の加熱速度で基板を加熱することにより塗膜の同時加熱乾燥を行うことを特徴とする、請求項7〜15のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項17】
最表層塗膜を形成する塗料とその下層塗膜を形成する塗料の粘度が0.2〜1.0Pa・sであることを特徴とする、請求項7〜16のいずれか1つに記載の加工性、耐傷付性に優れた塗装板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−95518(P2006−95518A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250971(P2005−250971)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】