説明

加熱炉用ヒーターユニットと、その取付構造、及び加熱炉

【課題】従来の加熱炉と同等のメンテナンス性や炉内クリーン度を維持しつつ、炉内の断熱性を向上し、熱効率を改善できる加熱炉を実現するためのヒーターユニットを提供すること。
【解決手段】加熱炉1内に配置され、被熱処理物11を加熱するヒーターユニット12であって、該ヒーターユニット12は、ヒーター4a面とその他の面4cとが、内部に空間を形成する箱体状の構造を有し、該ヒーターユニット内部に形成された空間に、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材4dを充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱炉用ヒーターユニットと、その取付構造、及び加熱炉に関するものである。特に、高い断熱効率が要求される加熱炉に用いるヒーターユニットと、その取付構造、及び加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の平板状基板の熱処理には、例えば図4aに示す構造の加熱炉が採用されてきた。図4aはローラーハースキルンと呼ばれる加熱炉1であり、搬送手段としてのローラー2と、加熱手段としての天井ヒーター3及び床ヒーター4とを備えるものある。当該ローラーハースキルンにおいて、天井ヒーター3は、天井壁5に固定されている。また、天井ヒーター3の下面、床ヒーター4の上面、及び側壁6の内面には、それぞれ、天井マッフル7、床マッフル9、及び側壁マッフル8が配置され断熱材などから生じるダストが炉内に混入するのを防止している。被熱処理物11である基板は、ローラー2上にセッター10を介して載置され、ローラー2により炉内を搬送されながら所定の熱処理が施される。このようなローラーハースキルンにおいて、炉内清掃、被熱処理物やセッターに位置ずれや破損が生じた場合の位置修正や破損物除去といった炉内のメンテナンスを行うには、炉内の被熱処理物1やその周辺部にアクセスするために、図4bに示すように、まず、天井壁5と天井ヒーター3とが一体となった天井部を取り外し、更に天井マッフル7を外す必要があった。
【0003】
このような加熱炉に関し、本願出願人は、メンテナンス性の向上を目的として、加熱炉の炉壁の一部を取り外し可能な構造とする技術(特許文献1)を開示している。
【0004】
近年、CO排出量抑制の観点から、ローラーハースキルン等の加熱炉においても熱効率の改善が求められている。熱効率の改善のためには、加熱炉内から加熱炉外への発熱量を低減させることが必要となる。この点に関し、従来は、耐火煉瓦やセラミックス等からなる断熱材を採用していたが、更なる環境負荷低減の為には、より低熱伝導率の断熱材を採用することが好ましい。一方で、一般に低熱伝導率の断熱材は、非常に脆く、取り扱いが困難であるという問題や、また、粉塵が飛散し易い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−292404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記問題を解決し、従来の加熱炉と同等のメンテナンス性や炉内クリーン度を維持しつつ、炉内の断熱性を向上し、熱効率を改善できる加熱炉を実現するためのヒーターユニットと当該ヒーターユニットを用いた加熱炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る加熱炉用ヒーターユニットは、加熱炉内に配置され、被加熱物を加熱するヒーターユニットであって、該ヒーターユニットは、ヒーター面とその他の面とが、内部に空間を形成する箱体状の構造を有し、該ヒーターユニット内部に形成された空間に、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材を充填したことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の加熱炉用ヒーターユニットにおいて、ヒーターユニットの箱体を構成する、ヒーター面以外の面は、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の大きい断熱材から構成され、曲げ強さが0.2MPa以上であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の加熱炉用ヒーターユニットにおいて、ヒーターユニットを加熱炉内に支持するヒーターユニット支持手段が、前記の熱伝導率の大きい断熱材部分に設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の加熱炉用ヒーターユニットの取付構造は、請求項3記載の加熱炉用ヒーターユニットが、加熱炉の天井壁部にヒーターユニットフレームを構成し、ヒーターユニットがヒーターユニットフレームにスライド可能に支持されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5記載の加熱炉は、請求項1〜4の何れかに記載の加熱炉用ヒーターユニットを加熱炉の天井壁に複数の配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る加熱炉用ヒーターユニットは、ヒーター面とその他の面とが、内部に空間を形成する箱体状の構造を有し、該ヒーターユニット内部に形成された空間に、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材を充填する構成を有する。静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材は、空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有するため、当該断熱材を用いる本発明のヒーターユニットは、従来の耐火物を使用した断熱材に比べて、高い断熱効率を実現可能となる。一方で、当該マイクロポア構造を有する断熱材は、非常に脆く、取り扱いが困難であるという問題や、粉塵が飛散し易いという問題を有するが、本発明では、当該低熱伝導率の断熱材を箱体状の空間に充填する構造を有することにより、前記問題を解決可能としている。具体的には、当該低熱伝導率の断熱材を充填する箱体を構成するヒーター面とその他の面とを、従来のヒーターユニットと同様に、例えばセラミック等の耐火物を基材とする構成とし、特に、加熱炉内に面したヒーター面をクリーン対応部材で構成することにより、従来の加熱炉と同等のメンテナンス性や炉内クリーン度を維持することができる。従って、本発明に係るヒーターユニットを採用することにより、従来の加熱炉と同等のメンテナンス性や炉内クリーン度を維持しつつ、炉内の断熱性を向上し、熱効率を改善できる加熱炉を実現することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、ヒーターユニットの箱体を構成する断熱材の強度を、曲げ強さ0.2MPa以上のものとすることにより、高強度のヒーターユニットとすることができ、メンテナンス性が向上する。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、前記高強度の断熱材部分にボルト等の支持部材を貫通させる構成とすることにより、ヒーターユニットを安定して加熱炉内に支持することができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、加熱炉の天井壁部に設けたヒーターユニットフレームに、前記ヒーターユニットをスライド可能に支持する構成とすることにより、メンテナンス性の向上を図ることができる。近年PDP等の生産効率向上を目的として加熱炉が大型化しているが、特にこのような大型の加熱炉において本発明のようにスライド可能な取付構造を採用することにより、メンテナンス性を改善し、生産性を向上させることができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、加熱炉内ヒーターを、複数のヒーターユニットで構成される構造とすることにより、メンテナンス作業時に、必要なヒーターユニットのみ取り外せばよく、作業性が向上する。また、ヒーターの故障等が生じた場合にも、交換の必要なユニットのみ交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の加熱炉用ヒーターユニットを採用した加熱炉の全体図である。
【図2】本発明の加熱炉用ヒーターユニットの構成説明図である。
【図3】加熱炉用ヒーターユニットが加熱炉天井部にスライド可能に支持される実施形態の構成説明図である。
【図4a】従来の一般的なローラーハースキルンの構造を示す断面図である。
【図4b】図4aのローラーハースキルンにおいて、炉内メンテナンス時に天井部を外した状態図である。
【図5】熱伝導率の比較図である。
【図6】加熱炉用ヒーターユニットが加熱炉天井部にスライド可能に支持される実施形態の構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、本発明の加熱炉用ヒーターユニットを採用した加熱炉の全体図を示している。図2には、図1のA−A断面図として、本発明の加熱炉用ヒーターユニットの構成説明図を示している。
【0019】
図2に示すように、本発明に係る加熱炉用ヒーターユニットは、ヒーター3aとヒーター面基材3bからなるヒーター面と、ヒーターユニットのヒーター面以外の壁面を構成するヒーターユニット壁面3cが、内部に空間を形成する箱体状の構造を有している。ヒーター3aは、例えば、カンタル線、ニクロム線等で構成することができる。箱体を構成するヒーター面3bとヒーターユニット壁面3cとを、従来のヒーターユニットと同様に、例えばセラミック等の耐火物を基材とする構成とし、特に、加熱炉内に面したヒーター面をクリーン対応部材で構成することが好ましい。ヒーターユニット壁面3cを構成する断熱性耐火物は、曲げ強さが0.2MPa以上であることが好ましい。このように、加熱炉用ヒーターユニットの外壁面を高強度の断熱材で構成することにより、優れたメンテナンス性や炉内クリーン度を維持することができる。
【0020】
一方、箱体状の構造を有する本発明にかかる加熱炉用ヒーターユニットの箱体内部には、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材3dが充填されている。静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材3dとしては、例えば、ヒュームドシリカを主成分とする断熱材を採用することができる。図5には、熱伝導率の小さい断熱材の一例としてヒュームドシリカ(5cm〜30cm)の形成体の熱伝導率を示している。ヒュームドシリカは、空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有することにより、高い断熱効率を実現可能とするものである。
【0021】
静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材3dとは、図5にヒュームドシリカの形成体に代表されるように、0.02〜0.04W/mKの熱伝導率を有することを特徴とするものである。従来、加熱炉内に採用されていた断熱材は、耐火煉瓦やセラミックスボード等、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の大きい断熱材であり、例えば、図5に示すセラミックボードが採用されていた。図5において、耐熱レンガとヒュームドシリカの形成体の熱伝導率を比較すると、ヒュームドシリカの形成体の熱伝導率はセラミックボードの熱伝導率の1/5〜1/4となっている。従って、従来の加熱炉内に採用されていた断熱材を、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材に置き換えることにより、加熱炉における熱効率の改善が図られ、環境負荷低減に資する。
【0022】
また、加熱炉用ヒーターユニットを加熱炉内に支持するヒーターユニット支持手段は、高強度のヒーターユニット壁面3cに設けることが好ましい。これにより、ヒーターユニットを安定して加熱炉内に支持することができる。ヒーターユニット支持手段は、例えば、ヒーターユニット壁面3cを貫通させたボルト14をナット15で固定する構成とすることができる。
【0023】
なお、空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造は、低熱伝導率という特性を発揮する一方、非常に脆く、粉塵が飛散し易いという問題も生じるが、本発明では前記のように、これらの低熱伝導率の耐火材を強度の高い壁面で覆う構造とすることにより、前記問題を解決可能とし、従来の加熱炉と同等のメンテナンス性や炉内クリーン度を維持している。
【0024】
図1に示すように、加熱炉1の天井壁5に複数のヒーターユニット12が連続配置される構成とすることにより、メンテナンス作業性の向上を図ることができる。また、メンテナンス作業性の向上観点から、加熱炉1の天井壁5の下面にヒーターユニットフレーム13を設け、これらのヒーターユニット12をスライド可能に支持することが好ましい。図3には、ヒーターユニット12がヒーターユニットフレーム13にスライド可能に支持される実施形態の構成説明図を示している。ヒーターユニットフレーム13の構造は、図3に限定されるものではなく、ヒーターユニット12をスライド自在に支持する構造であればよく、例えば、図6に示す構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0025】
1 加熱炉
2 ローラー
3 天井ヒーター
3a ヒーター
3b ヒーター面基材
3c ヒーターユニット壁面
3d 低熱伝導率の断熱材
4 床ヒーター
5 天井壁
6 側壁
7 天井マッフル
8 側壁マッフル
9 床マッフル
10 セッター
11 被熱処理物
12 ヒーターユニット
13 ヒーターユニットフレーム
14 ボルト
15 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉内に配置され、被熱処理物を加熱するヒーターユニットであって、
該ヒーターユニットは、ヒーター面と、その他の壁面とが、内部に空間を形成する箱体状の構造を有し、
該ヒーターユニット内部に形成された空間に、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の小さい断熱材を充填したことを特徴とする加熱炉用ヒーターユニット。
【請求項2】
ヒーターユニットの箱体を構成する、ヒーター面以外の壁面は、静止空気の熱伝導率よりも熱伝導率の大きい断熱材から構成され、曲げ強さが0.2MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の加熱炉用ヒーターユニット。
【請求項3】
ヒーターユニットを加熱炉内に支持するヒーターユニット支持手段が、前記の熱伝導率の大きい断熱材部分に設けられていることを特徴とする請求項1記載の加熱炉用ヒーターユニット。
【請求項4】
請求項3記載の加熱炉用ヒーターユニットが、加熱炉の天井壁部にヒーターユニットフレームを構成し、ヒーターユニットがヒーターユニットフレームにスライド可能に支持されていることを特徴とする加熱炉用ヒーターユニットの取付構造。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の加熱炉用ヒーターユニットを加熱炉の天井壁に複数の配置したことを特徴とする加熱炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−164239(P2010−164239A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6752(P2009−6752)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】