説明

加熱装置

【課題】コンパクトでありながら、対象流体及びこの対象流体と原料流体との反応の加熱条件を高精度に制御することができ、しかも熱損失を防止することが可能な加熱装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る加熱装置は、加熱炉本体2と、この本体2内に設けた第1加熱部3及び第2加熱部4とを有し、対象流体は本体2の内外に通した管路8を介して移動し、この管路8は対象流体が第1加熱部3及び第2加熱部4により順次加熱されるように配置され、本体2内に、第1加熱部3からの熱を断熱する断熱室部6を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象流体を原料流体と合流させて反応器で反応させるため、対象流体を原料流体と合流する前に加熱する加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、第1,2,3,4の加熱部を備え、高圧水を超臨界状態又は亜臨界状態において高い精度で加熱するため第1,2,3の加熱部で段階的に加熱し、高温高圧水と反応させる原料流体をその反応を良好にするため別途第4の加熱部で加熱する構成を開示している(特許文献1の段落0034及び0035を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3663408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、装置を手軽に取り扱えるようにそのコンパクト化が望まれているところ、上記従来技術では、加熱部が4台必要であるためその台数分のスペースが必要となりその実現が困難であり、加熱部の数を減らしたり各加熱部を単純に小さくすれば、上記高い精度の加熱をすることができない。
【0005】
本発明は、コンパクトでありながら、対象流体及びこの対象流体と原料流体との反応の加熱条件を高精度に制御することができ、しかも熱損失を防止することが可能な加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、加熱炉本体(2)と、この本体(2)内に設けた第1加熱部(3)及び第2加熱部(4)とを有し、
前記対象流体は前記本体(2)の内外に通した管路(8)を介して移動し、この管路(8)は前記対象流体が前記第1加熱部(3)及び前記第2加熱部(4)により順次加熱されるように配置され、
前記本体(2)内に、前記第1加熱部(3)からの熱を断熱する断熱室部(6)を設け、この断熱室部(6)内に前記第2加熱部(4)を設けていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記断熱室部(6)は、断熱性の筒状部(6a)とこの筒状部(6a)の端部開口を閉塞する蓋部(6b)とから構成され、
前記筒状部(6a)は軸方向を上下方向として立設され、その筒状部(6a)の周囲に前記管路(8)を巻回させてこの巻回した管路内の対象流体を前記第1加熱部(3)により加熱し、この巻回した管路(8)の下流側を前記断熱室部(6)内に通して断熱部(6)内で管路(8)内の対象流体を前記第2加熱部(4)により加熱するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、第3加熱部(5)をさらに有し、
前記管路(8)を、前記対象流体が前記第2加熱部(4)による加熱後に前記第3加熱部(5)により加熱されるように配置し、この配管(8)に合流部(9)を設けて、前記第3加熱部(5)により加熱された対象流体に原料材料を合流させ、
前記本体(2)内に反応器(7)を前記第1加熱部(3)により加熱するように設け、この反応器(7)に前記管路(8)を介して前記対象流体とこの対象流体に合流した原料流体とを供給するように構成していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記本体(2)内の温度差を低減するために送熱用ファン(13)を本体(2)内に設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記対象流体は予め所定の圧力に加圧された水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係る発明によれば、第1加熱部で加熱された対象流体を加熱炉本体外に出さず、第1加熱部の熱の影響を受けることなく第2加熱部により加熱できるようにし、これによりコンパクトでありながら、熱損失の防止を可能にし、かつ高精度な加熱条件の制御(温度制御)ができる加熱装置を提供することができる。
【0012】
本請求項2に係る発明によれば、断熱室部の筒状部の内外で管路を螺旋状に巻回させ、この巻回分により、断熱室外での第1加熱部による加熱時間を稼ぎ、かつ断熱室内での第2加熱部による加熱時間を稼ぐことにより加熱性能の向上を可能にすることができる。
【0013】
本請求項3に係る発明によれば、本体外で対象流体を第3加熱部によりさらに精度の高い加熱をすることができ、さらに、この加熱した対象流体と原料流体とを反応させる反応器を本体内に設けて第1加熱部により加熱するようにしているので、反応器専用の加熱部が不要となり、反応器を含めた構成におけるコンパクト化を実現することができる。
【0014】
本請求項4に係る発明によれば、第1加熱部からの熱を本体内に巡らせて本体内にわたって雰囲気温度を均一にすることにより、対象流体及び反応器の高精度な温度制御を可能にする。
【0015】
本請求項5に係る発明によれば、高圧水を対象流体として用いることにより、この対象流体を連続かつ高速で高温高圧水にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態である加熱装置の正面図である。
【図2】図1のX−X矢視面である。
【図3】図1のY−Y矢視面である。
【図4】本実施形態である加熱装置の要部を図示した部分断面図である。
【図5】図1の加速装置の上側平面図である。
【図6】本実施形態である加熱装置を適用した微粒子製造装置の簡略構成図を示す。
【図7】別実施形態である加熱装置を適用した微粒子製造装置の簡略構成図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る加熱装置の好適な実施形態を図面に基づき説明する。図1は本実施形態である加熱装置の正面図であり、図2は図1のX−X矢視面であり、図3は図1のY−Y矢視面である。
【0018】
本発明の一実施形態である加熱装置1は、対象流体を原料流体と合流して反応器7で反応させるため、その合流前に対象流体を加熱するものである。加熱炉本体2、この本体2内に設けた第1加熱部3及び第2加熱部4、対象流体を移動通過させる管路8に加えて、さらに、本体2外に設けた第3加熱部5、本体2外で管路8に設けた合流部9、第1加熱部3により加熱されるように本体2内に設けた反応器7とを有する。
【0019】
対象流体は本体2の内外に通した管路8を介して移動する。管路8は対象流体が第1加熱部3、第2加熱部4及び第3加熱部5により順次加熱され、この加熱された対象流体が合流部9を介して原料流体と合流して反応器7内に供給するように配置されている。
【0020】
図1,2,3に示されるように、加熱炉本体2は直方体状に形成され炉内は断熱部2aで囲まれ、加熱炉本体2の前面には開閉可能に扉部2bが設けられ、この本体2内には平面視において前側に第2加熱部4及び反応器7を横並びに設け、その後側に第1加熱部3を設けてある。
【0021】
第1加熱部3はリング状のヒーターであり、板状支持部10により本体2内に支持されている。板状支持部10はこの中央に送熱用開口部11が形成され、第1加熱部3はこの送熱用開口部11を囲むように取り付けられている。板状支持部10は、第1加熱部3の取り付け面を第2加熱部4及び反応器7とは反対側の後向きにし、第1加熱部3の径方向が上下方向になるように立設されている。なお板状支持部10は、送熱用開口部11の開口面積を調節するための調節シャッター12を備えている。
【0022】
板状支持部10の第1加熱部3の取り付け面側には、送熱用ファン13が板状支持部10の送熱用開口部11に対向して配置されている。送熱用ファン13はこの外径が第1加熱部3の外径より小さく形成されている。この送熱用ファン13を作動させて第1加熱部3からの熱を効率よく本体2内に巡らせることにより、本体2内の温度差を低減させて本体内の雰囲気温度を迅速かつ確実に均一にして高い精度の加熱条件を実現することができる。
【0023】
図4は本実施形態である加熱装置の要部を拡大した部分透視図である。
第2加熱部4は、第1加熱部3からの熱を断熱する断熱室部6内に設けられている。断熱室部6は本体2内に設けられ、断熱性の筒状部6aとこの筒状部6aの端部開口を閉塞する蓋部6bとから構成されている。筒状部6aはその軸方向を上下方向にして立設されている。第2加熱部4は電熱線等を螺旋状に巻回して形成した筒状のヒーターであり、筒状部6aの内側に同軸上に設けられている。
【0024】
筒状部6aの側周面6cの周囲には管路8が上から下へと螺旋状に巻回して断熱室部6内にその下部から入り、さらに第2加熱部4の内側を螺旋状に巻回しながら下から上に向って断熱部上側の蓋部6bを通して断熱室部6外に引き出すように配置されている。断熱室部6内では、対象流体を、第1加熱部からの熱の影響を受けることなく、第2加熱部4により加熱することができるので、高精度の加熱が可能になる。なお管路8を断熱室部6の内外で螺旋状に巻回しているのは、対象流体が配管を介して加熱される時間をこの巻回分だけ延長して加熱性能を向上するためである。
【0025】
図5は図1の加熱装置の上側平面図である。
第3加熱部5は本体2外、本体2の上部に設けられた予備炉内(図示せず)に設けられ、この予備炉内で管路8を、対象流体が第2加熱部4による加熱後に第3加熱部5により加熱するように構成されている。すなわち、管路8は断熱室部6の上部及び本体2の上部を通って予備炉内に通され、対象流体を第3加熱部により加熱するように配置してある。この管路8にはさらにその下流に合流部9を設け、第3加熱部により加熱された対象流体に原料流体を合流させるようにしている。合流部9の下流において、管路8は再び本体2内に戻され、合流部9で合流(混合)した対象流体及び原料流体を反応器7内に供給する。この反応器7は第1加熱部により加熱されて(第1加熱部3により均一の温度に加熱された本体内の雰囲気を介して)所望の温度に設定されており、対象流体及び原料流体について所定の反応をさせる。反応した対象流体及び原料流体は管路8を介して加熱装置外へと送出される。なお第3加熱部5及び合流部9が設けられた予備炉は、加熱炉本体2と同じ熱浴にあって同じ温度になるように伝熱部を設けた構成にすることができる。例えば、伝熱部は、加熱炉本体2と予備炉との間を仕切る伝熱材料製の仕切り板部や両炉内を連通する連通路である。
【0026】
以下、本実施形態である加熱装置の適用例として、微粒子製造装置に適用した本実施形態の加熱装置について説明する。
【0027】
図6は、上記本実施形態である加熱装置を適用した微粒子製造装置の簡略構成図を示す。この微粒子製造装置14は、本実施形態である加熱装置1の他に、対象流体用タンク15と、対象流体を加圧するポンプ16、対象流体と合流・混合して反応させる第1原料流体用の第1タンク17、対象流体と合流・混合して反応させる第2原料流体用の第2タンク18、第1原料流体用の第1ポンプ19,第2原料流体用の第2ポンプ20と、反応後の混合溶液を冷却する冷却部21、製造された微粒子を回収する回収容器22とを有する。
【0028】
上記微粒子製造装置14は、対象流体用タンク15からの対象流体をポンプ16で加圧して本実施形態である加熱装置1に供給する。加熱装置1は供給された対象流体(高圧水)を加熱して所定の物理状態(亜臨界状態又は超臨界状態)の高温高圧水にし、この高温高圧水と、第1タンク17,第2タンク18から第1ポンプ19,第2ポンプ20で各々供給される金属塩水溶液等の原料流体を混合して反応器内で加水分解反応及び脱水分解反応を行う。この反応後の溶液を冷却部21で冷却して析出させた酸化金属等のナノスケールの微粒子を回収容器22内に回収する。
【0029】
上記亜臨界状態や超臨界状態(又はこれに近い高温高圧状態)の流体はその物理特性の変化が他の状態(常温常圧状態等)と比較して際立って大きくなるため、上記対象流体の温度制御には極めて高い精度が要求される。このため、上記加熱装置1は、対象流体である高圧水の温度を第1加熱部3及び第2加熱部4の加熱で臨界温度(374℃)程度に上昇させた後、その後、さらに細かな温度制御(微調整)を第3加熱部5による加熱で追加的に行って、所望の物理特性を有する上記亜臨界状態や超臨界状態を実現するものである。この第3加熱部5は上記微調整用であることから、他の加熱部と比較して加熱温度が高くなるが、熱容量及び発熱量が小さいものである。
【0030】
第1加熱部3及び第2加熱部4は、第1加熱部3による加熱により加熱炉本体2の雰囲気温度をT1(例えば200℃程度)にして反応器7及び管路8内の対象流体をこの雰囲気温度に加熱し、加熱された対象流体を断熱室部6内で第2加熱部4により臨界温度(374℃)以上(例えば405℃)に加熱するように設定している。
【0031】
なお、上記実施形態においては第3加熱部5及び合流部9は本体2外に設けられているが、本発明はこれに限定されず、図7に示されるように、第3加熱部5を断熱室部6内に設け、合流部9を本体2内でかつ断熱室6外に設けるようにしてもよい。この構成は、図7に基づいて説明すれば、断熱室部6内で、対象流体を第2加熱部4により加熱して超臨界状態(又は亜臨界状態)にし、この超臨界状態(又は亜臨界状態)の対象流体の温度を第3加熱部5により最終的に微調整し、この対象流体と原料流体とを合流部9で所望の温度で合流・混合させるものである。
【0032】
ここで原料流体の合流・混合が二回以上ある場合(図7のように合流部9が複数ある場合)、原料流体が対象流体より低温に設定されているので、特に二回目以降の原料流体の合流・混合時に温度低下に対応した温度制御が困難になるものの、合流部9を本体2内に設けることにより温度低下を防止して適温に温度制御することができる。
【0033】
また上記微粒子製造装置に適用した加熱装置は、ナノスケールの酸化金属微粒子を連続かつ高速で製造するために、高圧水を亜臨界状態や超臨界状態にしてこの高温高圧水を所定の原料流体と合流(混合)かつ反応させるものとして説明している。しかし、本発明はこれに限定されること無く、対象流体、その加熱条件及び原料流体を適宜変更することにより、有機・無機・生体微粒子を製造するために使用可能なものである。特に有機合成については、加熱装置がコンパクトでありながら熱損失を無くして対象流体の加熱条件を連続的に高精度に変えることができることから、有機合成の一分野であるコンビナトリアルケミストリーにおいて有効活用することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 加熱装置
2 加熱炉本体
3 第1加熱部
4 第2加熱部
5 第3加熱部
6 断熱室部
6a 筒状部
6b 蓋部
7 反応器
8 管路
9 合流部
13 送熱用ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉本体(2)と、この本体(2)内に設けた第1加熱部(3)及び第2加熱部(4)とを有し、
前記対象流体は前記本体(2)の内外に通した管路(8)を介して移動し、この管路(8)は前記対象流体が前記第1加熱部(3)及び前記第2加熱部(4)により順次加熱されるように配置され、
前記本体(2)内に、前記第1加熱部(3)からの熱を断熱する断熱室部(6)を設け、この断熱室部(6)内に前記第2加熱部(4)を設けていることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記断熱室部(6)は、断熱性の筒状部(6a)とこの筒状部(6a)の端部開口を閉塞する蓋部(6b)とから構成され、
前記筒状部(6a)は軸方向を上下方向として立設され、その筒状部(6a)の周囲に前記管路(8)を巻回させてこの巻回した管路内の対象流体を前記第1加熱部(3)により加熱し、この巻回した管路(8)の下流側を前記断熱室部(6)内に通して断熱部(6)内で管路(8)内の対象流体を前記第2加熱部(4)により加熱するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
第3加熱部(5)をさらに有し、
前記管路(8)を、前記対象流体が前記第2加熱部(4)による加熱後に前記第3加熱部(5)により加熱されるように配置し、この配管(8)に前記本体(2)内で合流部(9)を設けて、前記第3加熱部(5)により加熱された対象流体に原料材料を合流させ、
前記本体(2)内に反応器(7)を前記第1加熱部(3)により加熱するように設け、この反応器(7)に前記管路(8)を介して前記対象流体とこの対象流体に合流した原料流体とを供給するように構成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記本体(2)内の温度差を低減するために送熱用ファン(13)を本体(2)内に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項5】
前記対象流体は予め所定の圧力に加圧された水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−190467(P2010−190467A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33756(P2009−33756)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(598084895)株式会社アイテック (24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】