説明

加熱調理器

【課題】ユーザーが選択した調理メニューに適した温度制御を実施する際に、誤った被調理物量推定に基づいて加熱制御を行った場合でも、途中からの温度制御補正によってユーザーが初期に選択した調理メニューが得られるように、温度制御を行うことを可能とした加熱調理器を、提供する。
【解決手段】炊飯器100は、制御装置50が、第一の収容物量推定値及び第二の収容物量推定値のそれぞれと、第三の収容物量推定とが異なっていたとき、第三の収容物量推定値に応じた加熱制御に基づく被調理物の温度変化と、記録されている温度結果とを比較照合して、ユーザーからの指示に応じた状態に加熱されるように補正加熱制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量検知手段を備えた加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
被調理物の加熱調理とは、調理の対象と被調理物の温度を上げることによって、被調理物の中のでんぷんやたんぱく質を変性させたり、被調理物の中に水分を吸収させたりするものである。このとき、温度制御によって、被調理物の美味しさ、すなわち被調理物の硬さや粘りなどの食感、主に酵素反応に基づく成分変化による甘さ、出汁や調味料の浸み込みによる味の濃さ、などが変化することが知られている。このことから、ユーザーが味の好みを選択する調理メニューに合わせた適正な温度制御が求められる。ここで、被調理物を所定の温度に制御するためには、被調理物の量に応じて、加熱手段への入力エネルギーを変化させる必要がある。
【0003】
そこで、電気炊飯器では、炊飯開始後、おおまかに予熱工程、沸騰前工程、沸騰工程、蒸らし工程での温度制御が行われている。そして、たとえば、硬めにご飯を炊き上げるには、予熱工程の温度を低く短くし、沸騰前工程と沸騰工程を短くすればよいが、飯の芯が残りやすくなるため、蒸らし工程を長めに設定する、などといった制御が行われる。一方、これらの温度制御のうち、一定温度保持の場合には、温度検知手段に基づいて加熱制御手段をフィードバック制御し、電力入力のタイミングや電力を制御すればよいが、加熱する場合には、所定温度に所定時間で到達するために、多量炊飯時には大電力を入力し、少量炊飯時には小電力にするといった制御が必要となる。
【0004】
そこで従来、炊飯量を判定して適正な温度制御を行うようにした炊飯器が種々考案されている。そのようなものとして、複数の炊飯量判定機能に基づく結果をメニューに応じて選択するようにした炊飯器が考案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、重量検知結果と温度検知結果とが異なる場合に、温度検知エラーと判断して制御目標温度をシフトするようにした炊飯器が考案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3891155号公報(実施の形態1)
【特許文献2】特開2007−97935号公報(第6、7頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の炊飯器では、複数の炊飯量判定結果をもとに、炊飯メニューに応じて優先する判定結果を選択したり、炊飯量誤判定がより少なくなる判定結果を選択したり、各々の炊飯量検知結果に基づいた炊飯制御の補正を実施するようにしている。しかしながら、特許文献1に記載の炊飯器では、誤検知結果に基づく炊飯を既に開始した場合には、途中から、正しい炊飯量に応じた制御を実施するため、所期の目標とする炊き上がりからはズレが生じてしまうという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の炊飯器では、重量検知結果と温度検知結果とが異なる場合に、温度検知エラーと判断して制御目標温度をシフトして炊飯制御を補正するようにしている。しかしながら、特許文献2に記載の炊飯器では、重量検知エラーの場合や、温度検知との多重エラーを補正することができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ユーザーが選択した調理メニューに適した温度制御を実施する際に、誤った被調理物量推定に基づいて加熱制御を行った場合でも、途中からの温度制御補正によってユーザーが初期に選択した調理メニューが得られるように、温度制御を行うことを可能とした加熱調理器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る加熱調理器は、被調理物を収容する容器と、前記容器を収納する本体と、前記本体に設けられ、前記容器を加熱する加熱手段と、前記容器及び前記容器内の収容物の少なくとも1つの温度を検知する温度検知手段と、前記容器内の収容物の重量を検知する重量検知手段と、各種設定条件を入力する入力手段と、前記温度検知手段の検知結果を記録するとともに、前記入力手段からの情報に応じて加熱手段を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記重量検知手段の検知結果から収容物量を推定する第一の収容物量推定を行い、前記第一の収容物量推定の後に前記温度検知手段の検知結果から収容物量を推定する第二の収容物量推定を行い、前記第二の収容物量推定の後に前記温度検知手段の検知結果が予め設定した値に到達するまで時間から収容物量を推定する第三の収容物量推定を行い、前記第一の収容物量推定で得た収容物量推定値及び前記第二の収容物量推定で得た収容物量推定値のそれぞれと、前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値とが異なっていたとき、前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値に応じた加熱制御に基づく被調理物温度変化と、記録されている温度結果とを比較照合して、前記入力手段からの情報に応じた状態に加熱されるように補正加熱制御を実行するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加熱調理器によれば、収容物量検知結果が誤っており、収容物量に応じた正しい温度制御ができていない場合であっても、補正加熱制御を実行することができるので、収容物を前記入力手段からの情報に応じた状態に加熱制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る炊飯器の構成を概略的に示す断面模式図である。
【図2】本実施の形態に係る炊飯器の炊飯工程と炊飯量検知の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態に係る炊飯器の炊飯工程における、炊飯釜の温度の推移と、加熱コイルへの通電電力を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る炊飯器の炊飯工程における第三の炊飯量推定以降の炊飯制御を決定する際の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る加熱調理器の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。また、実施の形態では、本発明に係る加熱調理器がIH式炊飯器であることを想定して説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る炊飯器100の構成を概略的に示す断面模式図である。図1に基づいて、炊飯器100の構成について説明する。この炊飯器100は、加熱調理器の一例であり、被加熱物(米や水等の食品)を入れた炊飯釜9を加熱コイル3で加熱することで被調理物を炊きあげるものである。図1に示すように、炊飯器100は、大きく本体1と蓋10とで構成されている。なお、炊飯釜9は、本発明の「容器」の一例である。
【0014】
本体1は、釜支持部2と、加熱手段としての加熱コイル3と、温度センサー4と、脚11に設けられた重量センサー5と、センサー情報記録判定手段6と、加熱コイル3への電力入力制御手段7と、を備えている。また、本体1の底部には、本体1を支持する脚11が設けられている。なお、センサー情報記録判定手段6及び電力入力制御手段7をまとめて制御装置50と称する。この制御装置50は、その機能を実現する回路デバイスのようなハードウェアで構成することもできるし、マイコンやCPUのような演算装置と、その上で実行されるソフトウェアとにより構成することもできる。
【0015】
蓋10は、ヒンジ12を介して本体1の上面に設けられた開口部を開閉可能に覆うものである。この蓋10には、炊飯中に発生した蒸気を外部へ排出する蒸気排出口(図示省略)が設けられている。また、蓋10は、調理メニュー入力手段8を備えている。なお、図1では、調理メニュー入力手段8を蓋10に備えている状態を例に示しているが、調理メニュー入力手段8を本体1の側面の一部に備えるようにしてもよい。また、蓋10の内側(炊飯釜9の開口部を覆う側)には、炊飯釜9の開口部を密閉可能な略円盤状の内蓋が着脱自在に取り付けられている。
【0016】
本体1は、その内部に釜支持部2が形成されるものである。釜支持部2は、有底筒状に形成されていて、その内部に炊飯釜9が着脱自在に収容されるようになっている。加熱コイル3は、電力入力制御手段7により制御されて、炊飯釜9を加熱するものである。なお、炊飯釜9は、上面に開口部を有した有底円筒形状に形成され、釜支持部2に収納され、誘導加熱により発熱する磁性体の金属を含むものである。
【0017】
温度センサー4は、熱電対や赤外線検知手段からなり、炊飯釜9の底、蓋10などに設置され、炊飯釜9の表面温度及び炊飯釜9の内部に収容された食品等の被調理物の温度の少なくとも1つを検知するものである。温度センサー4で検知された情報は、センサー情報記録判定手段6に入力される。図1では、炊飯釜9の底に温度センサー4を設けた状態を例に示している。重量センサー5は、歪ゲージや圧電素子からなり、炊飯釜9の底、釜支持部2、脚11などに設置され、炊飯釜9の内部の被調理物の重量を検知するものである。重量センサー5で検知された情報は、センサー情報記録判定手段6に入力される。
【0018】
センサー情報記録判定手段6は、温度センサー4からの温度情報に基づいて、その温度センサー値が、予め記録した所定の温度に所定時間で到達するようにフィードバックして電力入力制御手段7を作動させる。あるいは、センサー情報記録判定手段6は、予め記録した、複数の炊飯量レベルに応じた電力入力制御パターンから、炊飯量判定結果に基づいたパターンを選択して、電力入力制御手段7を作動させる。なお、電力入力制御パターンは、調理メニュー入力と検知炊飯量とに応じて変化するため、これらの値(調理メニュー入力に対応する値、検知炊飯量に対応する値)から各炊飯工程における電力や時間などのパラメータを、マイコンで算出することが望ましい。
【0019】
電力入力制御手段7は、制御基板に実装されたマイクロコンピューター及び制御回路を備え、炊飯器100を構成する各部の駆動制御を行うものであり、特にセンサー情報記録判定手段6からの指示により加熱コイル3の入力電力を制御するものである。つまり、電力入力制御手段7は、温度センサー4及び重量センサー5の検知情報と、調理メニュー入力手段8への入力に基づいて、予め内蔵されたプログラムによりセンサー情報記録判定手段6で決定された電力入力制御パターンによって加熱コイル3の動作、停止制御を行うようになっている。
【0020】
調理メニュー入力手段8は、ユーザーが炊飯の開始、取り消し、予約などの各種設定条件を入力するためのものである。なお、調理メニュー入力手段8に、炊飯のメニュー、時間などの各種情報を表示する表示手段としての機能を兼用させてもよい。また、表示手段を、調理メニュー入力手段8と分けて本体1又は蓋10に備えるようにしてもよい。
【0021】
次に、炊飯器100の作用について図2及び図3を用いて説明する。図2は、炊飯器100の炊飯工程と炊飯量検知の処理の流れを示すフローチャートである。図3は、炊飯器100の炊飯工程における、炊飯釜9の温度の推移と、加熱コイル3への通電電力を示す図である。なお、図2には、ユーザーによる炊飯器100の操作を併せて示している。
【0022】
図3に示すように、炊飯器100の炊飯工程は、予熱工程(図2のステップS106〜ステップS109)、沸騰前工程(図2のステップS110〜ステップS114)、沸騰工程(図2のステップS116)、ドライアップ工程、及び蒸らし工程(図2のステップS117)により構成される。また、ドライアップ工程は、図2及び図3に図示していないが、沸騰工程の後工程の一部と、蒸らし工程の前工程の一部からなる。
【0023】
予熱工程とは、炊飯釜9内の水が沸騰する前の段階で、炊飯釜9を所定温度で所定時間加熱し、これによって米の吸水を促進し、甘味成分である糖や旨味成分であるアミノ酸などの呈味成分を生成する工程である。予熱工程では、電力入力制御手段7がセンサー情報記録判定手段6からの指示を受けて、炊飯釜9の温度が所定の予熱温度となるよう、加熱コイル3への通電と電力遮断を繰り返して温調する。ここで、予熱温度は、米の糊化が始まらない程度の温度に炊飯釜9内の水の温度を維持することのできる温度(例えば約60℃未満)である。
【0024】
沸騰前工程とは、予熱工程終了後から、炊飯釜9内の水が沸騰するに至るまでの工程である。炊飯釜9内の水が沸騰すると、沸騰工程に入る。
【0025】
沸騰工程では、水の沸騰が維持され、これにより米の澱粉の糊化が促進される。
【0026】
ドライアップ工程とは、余剰な水分を飛ばすための工程である。ドライアップ工程は、炊飯釜9内に余剰な水がなくなってドライアップ状態となったことを判定する温度(ドライアップ判定温度)に到達するまでの工程と、その後の工程とに分けることができる。ドライアップの前段の工程においては、炊飯釜9内に遊離している余剰な水分が減っていくため、炊飯釜9の温度は沸騰工程のときよりも高温となる。ドライアップの前段の工程において、炊飯釜9が所定温度に到達すると、ドライアップの後段の工程に移行する。ドライアップの後段の工程においても、炊飯釜9は沸騰温度以上の高温を保持している。そして、ドライアップの後段の工程で炊飯釜9が沸騰温度よりも低くなったら、蒸らし工程に移行し、蒸らし工程において所定時間が経過すると炊飯が終了する。
【0027】
ここで、ドライアップ工程においては、炊飯釜9は沸騰温度以上の高温であるため、炊飯釜9内の米飯、特に炊飯釜9に接している部分の米飯の水分の蒸発が進みやすい。ドライアップ工程の時間が長いほど、そして、ドライアップの後段の工程に移行する際の温度が高いほど、褐変や硬化といった反応は進みやすい。特に、ドライアップの後段の工程に移行する際の温度が高いほど、炊飯釜9に接している米飯は褐変が進む傾向がある。また、ドライアップ工程の時間が長いほど、炊飯釜9に接している米飯の水分が飛んだ状態となって硬化する傾向がある。
【0028】
次に、図2に沿って、炊飯器100の炊飯動作についてさらに説明する。
まず、ユーザーは、米、水を炊飯釜9にいれ、蓋10を閉めて、前述の調理メニュー入力手段8を用いて、炊飯調理完了時の炊き上がり状態(たとえば、白米・硬め・粘り少なめ、など)を指定して選択する(ステップS101)。炊飯器100は、炊飯メニューが選択された後、ユーザーにより炊飯スイッチが操作されることで、炊飯が開始される(ステップS102)。なお、炊飯スイッチは、調理メニュー入力手段8の一部として備えておくとよい。
【0029】
ユーザーにより炊飯スイッチが操作されて炊飯開始が指示されると、制御装置50は、重量センサー5によって検知された重量(炊飯量)を取り込み(ステップS103)、第一の炊飯量推定値を求める第一の炊飯量判定を行う。第一の炊飯量判定では、制御装置50は、選択された調理メニューと、重量センサー5によって検知された重量とに適した第一の炊飯量推定値を求め、この第一の炊飯量推定値に基づいて予熱工程の入熱量及び時間を決定する(ステップS104)。この予熱工程が、本発明の「第一の加熱制御工程」に相当する。
【0030】
次いで、制御装置50は、温度センサー4によって検知された初期の水温を取り込み(ステップS105)、予熱工程の加熱を開始し(ステップS106)、予め設定した温度に到達する時間を計測し(ステップS107)、一定時間後の温度を計測する(ステップS108)。そして、制御装置50は、初期水温、予め設定した温度に到達した時間(所定温度到達時間)、一定時間後の温度(所定温度維持熱量(所定温度維持に要する入力エネルギー))の少なくとも1つから、第二の炊飯量推定値を求める第二の炊飯量推定を行う。その後、制御装置50は、予熱工程を完了する(ステップS109)。
【0031】
それから、制御装置50は、第一の炊飯量推定値と第二の炊飯量推定値とが合致していた場合、この値に基づいて沸騰前工程の入熱量及び時間を決定し、第一の炊飯量推定値と第二の炊飯量推定値とが異なっていた場合、水温や重量値などを総合的に考慮して、いずれかの炊飯量推定値に基づいて沸騰前工程の制御を決定する(ステップS110)。
【0032】
予熱工程は、常温から60℃程度で実施するため、たとえば初期水温が高く、予熱温度が低いメニューを実施する場合には、温度検知に基づく第二の炊飯量推定値の精度が低いことが想定される。この場合は、重量に基づく第一の炊飯量推定値を用いることが望ましい。また、第一の炊飯量推定値から多量炊飯が推定されるにもかかわらず、予熱時の温度上昇が速くて第二の炊飯量推定値が少量炊飯を示している場合、炊飯器100の設置面の傾きや炊飯器100上に異物が置かれているなどの炊飯量誤検知が想定されるため、第二の炊飯量推定値を用いることが望ましい。
【0033】
引き続き、制御装置50は、沸騰前工程での加熱を開始し、温度センサー4によって検知された温度を測定し、予め設定した温度に到達する時間を計測し(ステップS112)、第三の炊飯量推定値を求める第三の炊飯量推定を行う。気温によらず、確実に水温を検知できるのは、気温よりも高い40℃程度以上と考えられ、また100℃到達時には局部的な沸騰が始まって、水温が不均一になるため、水が比較的均一で定常的な対流が行われやすいのは釜底温度が100℃未満である。
【0034】
すなわち、炊飯器100のように、被調理物が水と固体との混合物である被調理物量検知において、釜底が概ね40℃以上から100℃未満の温度帯での温度上昇速度検知結果に基づく炊飯量推定が精度が高いと考えられる。したがって、制御装置50は、釜底が概ね40℃以上から100℃未満に至るまでに要する時間または入力エネルギーに基づいた第三の炊飯量推定によって求めた第三の炊飯量推定値を真の炊飯量と判定する(ステップS113)。このような状態でない場合には、制御装置50は、第一の推定値又は第二の推定値のいずれかを真の炊飯量と判定する。その後、制御装置50は、沸騰前工程を完了する(ステップS114)。なお、沸騰前工程とは、予熱工程終了後から、炊飯釜9内の水が沸騰するに至るまでの工程である。
【0035】
ここで、制御装置50は、真の炊飯量(第三の炊飯量推定値)と、この時点までの第一の炊飯量推定値、第二の炊飯量推定値のそれぞれとを比較するとともに、図3に示す後述の加熱制御決定シーケンスを実施し、沸騰工程以降の加熱制御を決定する(ステップS115)。つまり、制御装置50は、加熱制御決定シーケンスを実施したら、その内容に基づいて電力入力制御手段7に指示を出し、沸騰工程(ステップS116)、蒸らし工程(ステップS117)を実施し、炊飯を完了させる(ステップS118)。
【0036】
次に、第三の炊飯量推定値が得られた後の、加熱制御決定のためのシーケンスを図4を用いて説明する。図4は、炊飯器100の炊飯工程における第三の炊飯量推定以降の炊飯制御を決定する際の処理の流れを示すフローチャートである。なお、図4のフローチャートの流れは、図2に示したフローチャートのステップS112〜ステップS117の流れに相当している。
【0037】
第三の炊飯量推定値と、この時点までの第一の炊飯量推定値、第二の炊飯量推定値のそれぞれが合致していれば問題がないことは言うまでもない。つまり、制御装置50は、第三の炊飯量推定値と、この時点までの第一の炊飯量推定値、第二の炊飯量推定値のそれぞれが合致していると判断したとき、第三の炊飯量推定値に基づく炊飯制御を継続する(ステップS201;YES)。
【0038】
一方、制御装置50は、第三の炊飯量推定値と、この時点までの第一の炊飯量推定値、第二の炊飯量推定値のいずれかが異なっていると判断したとき(ステップS201;NO)、センサー情報記録判定手段6に蓄積した真の炊飯量判定までの第一の炊飯量推定、第二の炊飯量推定に基づく炊飯制御あるいは温度履歴実測値を読み出し、真の炊飯量判定以降に、それぞれの推定に従って温度制御した場合のそれぞれの炊き上がり状態の予測を実施する(ステップS202)。つまり、制御装置50は、第三の炊飯量推定値に応じた加熱制御に基づく被調理物の温度変化と、自身に記録してある温度の履歴実測値とを比較照合して、それぞれの炊き上がり状態を予測するのである。
【0039】
この結果、ユーザーが初期に選択した炊飯調理完了時の炊き上がり状態(たとえば、白米・硬め・粘り少なめ、など)が得られると判断した場合、制御装置50は、第三の炊飯量推定値に基づく炊飯を実施する(ステップS202;YES)。
【0040】
一方、このまま炊飯したのでは、ここまでの誤検知に基づく炊飯制御の影響が大きく、炊き上がり状態が、ユーザー指定の炊き上がり目標から逸脱することが想定された場合(ステップS202;NO)、制御装置50は、炊飯制御を補正する(ステップS203)。
【0041】
炊飯制御の補正は、たとえば次のように実施する。ユーザーが「硬め・粘り少なめ」を指定して炊飯開始し、重量検知による第一の炊飯量推定において、1合を5.5合と誤検知した場合を考える。このような場合、5.5合に合わせた大入力で予熱工程初期を行うため、温度センサー4に基づく第二の炊飯量推定によって入力補正した場合でも、米・水温度が所定の予熱温度よりもオーバーシュートし、米の吸水が所定よりも多くなってしまう。
【0042】
沸騰前工程の第三の炊飯量判定によって炊飯量が1合と判明した後、1合に合わせた炊飯制御を実施しても、すでに吸水過剰になっていることから、「硬め・粘り少なめ」を得ることができないとの判定が得られる。ここで、「硬め・粘り少なめを狙う場合に、1合を5.5合と誤検知した場合」に合わせた補正制御パターンを読み出す。すなわち、制御装置50は、沸騰工程を、通常の正しい1合炊飯よりも短くし、蒸らし工程の温度設定を高く、短くすることで、吸水量を減らし、飯からの水分蒸発を促進し、粘りも少なくなるような制御を実施する。
【0043】
上述のように、誤検知パターンに応じて、補正制御パターンを読み出すには、予め誤検知のパターンと、これに応じた補正制御パターンをすべて記録しておく必要があるが、センサー情報記録判定手段6のメモリ量の制限から、これらの記憶の全部を保有できない場合が考えられる。あるいは、センサー情報記録判定手段6の記憶容量に応じて記憶するパターン数を制限するために、補正の精度が低下する場合が考えられる。そこで、補正制御パターンを、誤検知に基づく誤制御のレベルに応じて算出する機能をセンサー情報記録判定手段6に設けてもよい。
【0044】
たとえば、誤検知に基づいて実施した補正制御パターンあるいは温度履歴と、正しく実施した場合の制御パターンあるいは温度履歴とを比較照合し、これらの差異を炊き上がり状態の目標からのズレに変換する。1合を5.5合と誤検知した結果、予熱工程中の温度が、正しい温度制御よりも5℃高く、10分長くなった場合、その温度と時間のズレから、目標の硬さ・粘りに比べて「硬さ+3、粘り+1」になると算出する。そこで沸騰工程以降で「硬さ−3、粘り−1」が得られるように、通常の正しい1合炊飯用の制御から補正する制御を算出する。沸騰工程を3分短くし、蒸らし工程を5℃高く、3分短くする組み合わせによって、炊き上がりが目標の硬さ・粘りとすることができる。
【0045】
同様に、ユーザーが「柔らかめ・粘り多め」を指定して炊飯開始し、重量検知による第一の炊飯量推定において、5.5合を1合と誤検知した場合を考える。このような場合、1合に合わせた少入力で予熱工程初期を行うため、温度センサー4に基づく第二の炊飯量推定によって入力補正した場合でも、米・水温度が所定の予熱温度よりも低くなり、たとえばトータルの炊飯時間制限から所定の時間で予熱を打ち切る場合、米の吸水が所定よりも少なくなってしまう。
【0046】
沸騰前工程の第三の炊飯量判定によって炊飯量が5.5合と判明した後、5.5合に合わせた炊飯を実施しても、目標の硬さ・粘りに比べて「硬さ−4、粘り−3」になると算出する。そこで沸騰工程で「硬さ+4、粘り+3」が得られるように、補正制御を算出し、沸騰工程を2℃低く、8分長くし、蒸らし工程を3℃低く、10分長く設定する組み合わせによって、炊き上がりが目標の硬さ・粘りとすることができる。
【0047】
炊飯量を低めに誤検知し、沸騰工程以降を正しい多めの炊飯量に合わせて炊飯する場合、概して加熱電力を多く投入し、入熱不足を補う方向で制御を補正する必要がある。このときに、加熱コイル3や本体周辺の温度が過剰に上昇したり、飯の焦げや乾燥が起こりやすい。このため、本体1や加熱コイル3周辺を補正制御時の入熱量に耐え得るような耐熱性と冷却力を有するよう設計することが求められる。また、飯の焦げや乾燥が想定される場合に、蒸らし工程以降の飯からの水分蒸発を抑制するよう、蒸気排出口を閉じたり、蒸気排出経路に結露した水を飯に還元したりする機構を設けることが望ましい。
【0048】
以上のように、炊飯器100は、重量センサー5を用いて沸騰前工程以前の段階から、炊飯量に応じた適正な炊飯制御を開始できて、ユーザーの指定した炊き上がり状態を得やすくできるとともに、万一の炊飯量の誤検知に基づく炊飯制御の誤りを補正する制御方法を備えることによって、炊き上がりの失敗を大幅に抑制することが可能である。
【0049】
重量センサー5と温度センサー4との差異に基づき、温度制御を補正する一環として、次のような制御を実施してもよい。炊飯器100は、蓋10を閉じた状態で炊飯開始から炊飯完了までの工程を行い、ユーザーが途中で蓋を開けて、中身を取り出したり、追加することがないと想定される。したがって、炊飯工程中に、所定量の蒸気が蒸気排出口から抜け出る分の重量減少と、加熱による本体内空気の浮力以外は、重量変化が起こらない。しかしながら、炊飯釜9と蓋10との間のパッキン劣化や、蒸気排出口の付け忘れなどによって蒸気排出が多い場合には、異常な重量減少が検知される。
【0050】
そこで、温度センサー4に基づく炊飯量推定値に対して、炊飯工程中に所定以上の重量変化が起こった場合には、炊飯器100の異常と判断し、炊飯を停止するか、炊飯制御を最も蒸気発生量が少ない制御へと補正することができる。こうすることによって、ヤケドの恐れが少なく、かつ、美味しく食べられる炊きあがりが得られる炊飯器100を提供できることになる。
【0051】
上述した加熱制御補正は、特に、加熱中に発生する蒸気を凝縮して、本体外部に蒸気を漏らさない機構を有する炊飯器への適用が望ましい。すなわち、蒸気漏洩のない仕様の炊飯器は、ユーザーによって、密閉空間や耐湿性の低い壁紙や家具近傍で用いられているケースがあるため、蒸気漏洩を精度よく検知して、炊飯制御を補正することが重要であるからである。
【0052】
以上、炊飯器100を想定して、本発明に係る加熱調理器の実施形態を説明したが、本体は炊飯器に限定されるものではなく、本発明は重量検知手段(重量センサー)と温度検知手段(温度センサー)を有する加熱調理器、たとえばIH調理器、電子レンジ、卓上ヒーター式調理器などの電化製品、ガスコンロにも応用することができる。なお、炊飯器100以外の場合に本発明を適用する場合には、「炊飯量」として説明した部分を「収容物量」に置き換えればよい。
【0053】
たとえば、本発明をIH調理器に適用した場合、ガラストッププレートの歪を検知する重量センサーと、ガラス下面に設けた赤外線検知式の温度センサーを用い、ポトフなどの煮物料理をする場合は、初期は重量検知に基づき加熱制御を実施し、火の通りにくいジャガイモなどを60℃程度で煮てから、沸騰に至る工程を実施し、ここで真の被調理物量を判定し、沸騰を維持する工程を行う。火力を適正に補正することによって、煮崩れが少なく、味が染みた調理をおこなうことができるIH調理器を提供することができる。
【0054】
また、本発明を卓上のガスコンロに適用した場合、ガスコンロで鍋物料理をする際、初期は重量検知に基づき、沸騰まで行い、沸騰後は鍋温度を一定にするのに必要な入熱量から被調理物量を検知し、これに合わせた加熱制御を行うことで、被調理物量に合わせた無駄のない入熱ができるとともに、肉が過剰に硬くなったり縮んだりしないようなガスコンロを提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 本体、2 釜支持部、3 加熱コイル、4 温度センサー、5 重量センサー、 6 センサー情報記録判定手段、7 電力入力制御手段、8 調理メニュー入力手段、 9 炊飯釜、10 蓋、11 脚、12 ヒンジ、50 制御装置、100 炊飯器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被調理物を収容する容器と、
前記容器を収納する本体と、
前記本体に設けられ、前記容器を加熱する加熱手段と、
前記容器及び前記容器内の収容物の少なくとも1つの温度を検知する温度検知手段と、
前記容器内の収容物の重量を検知する重量検知手段と、
各種設定条件を入力する入力手段と、
前記温度検知手段の検知結果を記録するとともに、前記入力手段からの情報に応じて加熱手段を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記重量検知手段の検知結果から収容物量を推定する第一の収容物量推定を行い、
前記第一の収容物量推定の後に前記温度検知手段の検知結果から収容物量を推定する第二の収容物量推定を行い、
前記第二の収容物量推定の後に前記温度検知手段の検知結果が予め設定した値に到達するまでの時間から収容物量を推定する第三の収容物量推定を行い、
前記第一の収容物量推定で得た収容物量推定値及び前記第二の収容物量推定で得た収容物量推定値のそれぞれと、前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値とが異なっていたとき、
前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値に応じた加熱制御に基づく被調理物の温度変化と、記録されている温度結果とを比較照合して、前記入力手段からの情報に応じた状態に加熱されるように補正加熱制御を実行する
加熱調理器。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値に応じた加熱制御に基づく被調理物の温度変化と、記録されている温度結果とを比較照合した結果、
前記入力手段からの情報に応じた状態が得られると判断した場合、前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値に応じた加熱制御を継続し、
前記入力手段からの情報に応じた状態が得られないと判断した場合、前記第三の収容物量推定で得た収容物量推定値に応じた加熱制御とは異なる前記補正加熱制御を実行する
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記入力手段から指定可能な調理メニューとして、被調理物の硬さ、粘り、甘み、味の濃さのうち少なくとも1つ以上が設けられている
請求項1又は2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記制御装置は、
調理開始後に前記第一の収容物量推定を行い、この推定値に基づいた第一の加熱制御工程を行い、
加熱開始後の温度変化または温度維持に要する入力エネルギー検知結果に基づいて前記第二の収容物量推定を行い、
前記第一の収容物量推定で得た収容物量推定値と前記第二の収容物量推定で得た収容物量推定値とが異なっていた場合、
収容物の温度及び収容物の重量を総合していずれかの推定値に基づいて加熱制御を実行する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の加熱調理器。
【請求項5】
水と固体食品が被調理物として容器に収容された状態において、
前記制御装置は、
前記容器に収容された水と固体食品の総重量から前記第一の収容物量推定を行い、
加熱開始後に前記容器の表面温度が100℃以下の一定温度に制御する段階において前記第二の収容物量推定を行う
請求項1〜4のいずれか一項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記容器の表面温度が40℃以上から100℃未満に至るまでに要する時間または入力エネルギーから行なった前記第三の収容物量推定によって得られた推定値に基づいて加熱制御を実行する
請求項5に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記補正加熱制御において、加熱過剰であると判断した場合には、前記第三の収容物量推定以降の加熱制御での入力を本来の加熱制御に比べて低く抑える
請求項1〜6のいずれか一項に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記補正加熱制御において、加熱過少であると判断した場合には、前記第三の収容物量推定以降の加熱制御での入力を本来の加熱制御に比べて高くする
請求項1〜6のいずれか一項に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記制御装置は、
加熱調理中に前記重量検知手段が異常な重量変化を検知した場合、指定された調理メニューとは異なる温度制御を行う
請求項1〜8のいずれか一項に記載の加熱調理器。
【請求項10】
加熱中に発生する蒸気を凝縮し、蒸気を前記本体の外部に漏洩させない構造とした
請求項1〜9のいずれか一項に記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−102868(P2013−102868A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247730(P2011−247730)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】