説明

加飾シート及びその製造方法

【課題】1層の金属光沢膜層により物品表面に複数種類の金属光沢を付与することができる加飾シートの製造方法を提供する。
【解決手段】基体シート上に金属光沢膜層を含む加飾層が形成された加飾シートの製造方法であって、金属光沢膜層の形成前において、表面張力が異なる第1及び第2領域を形成し、第1及び第2領域上に金属光沢膜層を構成する金属材料を蒸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の金属光沢を有する加飾シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物品表面を装飾するのにインサートシートや転写シートなどの加飾シートが用いられている。
【0003】
インサートシートは、基体シート上に、柄層、接着層などで構成される加飾層を設けたものである。インサートシートにより被加飾物面を装飾する方法としては、インサート法が知られている。インサート法とは、インサートシートを加熱加圧して被加飾物面に貼合し、被加飾物面の装飾を行う方法である。また、被加飾物が携帯電話やパーソナルコンピュータの筐体などに用いられる樹脂成形品である場合において、インサート法をより合理的に行う方法として、成形同時インサート法が知られている。成形同時インサート法とは、インサートシートを金型のキャビティ内に配置した状態で金型内に挟み込み、当該金型内に溶融樹脂を射出したのち適宜冷却して樹脂成形品を得るのと同時に、当該樹脂成形品の表面にインサートシートを貼合して、樹脂成形品の表面に装飾を行う方法である。
【0004】
転写シートは、基体シート上に、剥離層、柄層、接着層などで構成される加飾層(転写層ともいう)を設けたものである。転写シートにより被転写物面を装飾する方法としては、転写法が知られている。転写法とは、転写シートを加熱加圧して加飾層を被転写物に密着させた後、基体シートを剥離して、被転写物面に加飾層のみを転移して装飾を行う方法である。また、被転写物が携帯電話やパーソナルコンピュータの筐体などに用いられる樹脂成形品である場合において、転写法をより合理的に行う方法として、成形同時転写法が知られている。成形同時転写法とは、転写シートを金型のキャビティ内に配置した状態で金型内に挟み込み、当該金型内に溶融樹脂を射出したのち適宜冷却して樹脂成形品を得るのと同時に、当該樹脂成形品の表面に転写シートを接着したのち基体シートを剥離して、樹脂成形品の表面に装飾を行う方法である。
【0005】
なお、インサートシートと転写シートとが異なる点は、樹脂成形品に貼り付けた後において、転写シートは基体シートを剥離するのに対して、インサートシートは基体シートを剥離しない点である。すなわち、転写シートは基体シートの剥離を容易にするために剥離層を備えているのに対して、インサートシートは基体シートを剥離しないので剥離層を備える必要がない点で、両者は異なっている。ここでは、両者を含み、物品表面を装飾する用途に使用されるものを加飾シートと呼んでいる。
【0006】
近年、携帯電話やパーソナルコンピュータの筐体などに用いられる樹脂成形品においては、デザインの嗜好が多様化しており、様々なデザインのものが求められている。その要望に応える加飾シートとして、金属光沢膜層を備えた加飾シートがある。特許文献1(特開2009−6613号公報)には、互いに重ならないように形成された2つの金属光沢膜層を備える加飾シートが開示されている。この加飾シートを用いることにより、物品表面に2種類の金属光沢を付与することができ、デザインの多様化を図ることができる。
【0007】
また、特許文献2には、加飾シートを用いることなく、樹脂成形品上に直接、ハーフミラー蒸着面である第1金属光沢膜層を形成し、当該第1金属光沢膜層の上に部分的にアルミニウム蒸着面である第2金属光沢膜層を形成することで、物品表面に2種類の金属光沢を付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−6613号公報
【特許文献2】特開2004−122366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1及び2の技術においては、いずれも、物品表面に2種類の金属光沢を付与するために、2層の金属光沢膜層を形成する。これらの金属光沢膜層の形成は、蒸着法など、時間、手間、コスト等を要する方法にて行う必要がある。このため、より少ない金属光沢膜層により、すなわち1層の金属光沢膜層により、物品表面に複数種類の金属光沢を付与することができる技術が求められている。
【0010】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、1層の金属光沢膜層により物品表面に複数種類の金属光沢を付与することができる加飾シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、基体シート上に金属光沢膜層を含む加飾層が形成された加飾シートの製造方法であって、前記金属光沢膜層の形成前において、表面張力が異なる第1及び第2領域を形成し、
前記第1及び第2領域上に前記金属光沢膜層を構成する金属材料を蒸着する、
ことを含む、加飾シートの製造方法を提供する。
ここでいう「表面張力」とは、固体表面自由エネルギーの値を指し、mJ/mで表される。
【0012】
本発明の第2態様によれば、前記金属光沢膜層は、島状構造を有するように形成する、第1態様に記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の第3態様によれば、前記金属材料としてインジウム又はスズを用いる、第1又は2態様に記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第4態様によれば、前記第1領域の表面張力と前記第2領域の表面張力との差を1.0mJ/m以上とする、第1〜3態様のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の第5態様によれば、前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と材質の異なる第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1金属透過率調整層上に部分的に前記第2金属透過率調整層を形成することにより、前記第1金属透過率調整層の前記第2金属透過率調整層で覆われていない表面により前記第1領域を形成し、前記第2金属透過率調整層の表面により前記第2領域を形成する、第1〜4態様のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0016】
本発明の第6態様によれば、前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と材質の異なる第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1金属透過率調整層と前記第2金属透過率調整層とを面方向に互い隣接して形成することにより、前記第1金属透過率調整層の表面により前記第1領域を形成し、前記第2金属透過率調整層の表面により前記第2領域を形成する、第1〜4態様のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第7態様によれば、前記金属光沢膜層の形成前において、前記第2領域に対応する表面の面粗度を前記第1領域に対応する表面の面粗度に対して異ならせることにより、前記表面張力の異なる第1及び第2領域を形成する、第1〜4態様のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法を提供する。
【0018】
本発明の第8態様によれば、基体シート上に金属光沢膜層を含む加飾層が形成された加飾シートであって、
前記金属光沢膜層に前記基体シート側で隣接する層に、表面張力が異なる第1及び第2領域を備え、前記金属光沢膜層の前記第1領域上に位置する部分と前記金属光沢膜層の前記第2領域上に位置する部分とで透過率が異なっている、加飾シートを提供する。
【0019】
本発明の第9態様によれば、前記金属光沢膜層は、島状構造を有する、第8態様に記載の加飾シートを提供する。
【0020】
本発明の第10態様によれば、前記金属光沢膜層は、インジウム又はスズにより構成されている、第8又は9態様に記載の加飾シートを提供する。
【0021】
本発明の第11態様によれば、前記第1領域の表面張力と前記第2領域の表面張力との差が1.0mJ/m以上である、第8〜10態様に記載の加飾シートを提供する。
【0022】
本発明の第12態様によれば、前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と異なる材質により前記第1金属透過率調整層上に部分的に形成された第2金属透過率調整層と、を備え、
前記第1領域は、前記第1金属透過率調整層の前記第2金属透過率調整層で覆われていない表面により形成され、
前記第2領域は、前記第2金属透過率調整層の表面により形成されている、
第8〜11態様のいずれか1つに記載の加飾シートを提供する。
【0023】
本発明の第12態様によれば、前記加飾層は、面方向に互いに隣接して、互いに異なる材質により形成された第1金属透過率調整層と第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1領域は、第1金属透過率調整層の表面により形成され、
前記第2領域は、前記第2金属透過率調整層の表面により形成されている、
第8〜11態様のいずれか1つに記載の加飾シートを提供する。
【0024】
本発明の第13態様によれば、前記金属光沢膜層に前記基体シート側で隣接する層において、前記第2領域に対応する表面は、前記第1領域に対応する表面よりも粗く形成されている、第8〜11態様のいずれか1つに記載の加飾シートを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の加飾シートの製造方法によれば、表面張力が異なる第1及び第2領域を形成した後、第1及び第2領域上に前記金属光沢膜層を構成する金属材料を蒸着するようにしているので、表面張力の違いにより第1領域上の部分と第2領域上の部分とで金属光沢膜層の蒸着の仕方が異なることになる。これにより、金属光沢膜層の第1領域上の部分と第2領域上の部分とで可視光の透過率が異なることとなる。すなわち、1層の金属光沢膜層で複数種類の金属光沢を表現することができる。
【0026】
本発明の加飾シートによれば、金属光沢膜層に基体シート側で隣接する層に、表面張力が異なる第1及び第2領域を備え、金属光沢膜層の第1領域上に位置する部分と第2領域上に位置する部分とで透過率が異なるように形成されているので、1層の金属光沢膜層で複数種類の金属光沢を表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる転写シートの断面図である。
【図2A】図1の転写シートの一製造工程を示す断面図である。
【図2B】図2Aに続く工程を示す断面図である。
【図2C】図2Bに続く工程を示す断面図である。
【図2D】図2Cに続く工程を示す断面図である。
【図2E】図2Dに続く工程を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる転写シートの第1及び第2金属光沢膜層の形成工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態にかかる転写シートを樹脂成形品に貼着した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる転写シートを備える転写シートの断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる転写シートの断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる転写シートの断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態にかかる転写シートの変形例を示す断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態にかかる転写シートの断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態にかかる転写シートの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
《第1実施形態》
本発明の第1実施形態にかかる加飾シートについて説明する。ここでは、加飾シートとして転写シートを例に挙げて説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる転写シートの断面図である。
【0030】
図1において、本第1実施形態にかかる転写シート1は、基体シート2と、基体シート2上に積層された加飾層3とを有している。加飾層3は、剥離層11と、柄層12と、第1金属透過率調整層13と、第2金属透過率調整層14と、金属光沢膜層15と、接着層16とを順に積層して構成されている。
【0031】
第2金属透過率調整層14は、第1金属透過率調整層13と異なる材質で構成され、第1金属透過率調整層13上に部分的に形成(パターン形成)されている。これにより、第1金属透過率調整層13の第2金属透過率調整層14で覆われていない表面である第1領域4aの表面張力(固体表面自由エネルギーともいう)と、第2金属透過率調整層14の表面である第2領域4bの表面張力とが異なっている。第1領域4aの表面張力と第2領域4bの表面張力との差は、少なくとも1.0mJ/m以上であることが好ましく、1.5mJ/m以上であることがより好ましい。これにより、目視によっても、2種類の金属光沢を明確に認識することができる。
【0032】
金属光沢膜層15は、島状構造を有し、第1領域4a及び第2領域4b上に形成されている。金属光沢膜層15の第1領域4a上に位置する部分15aと、金属光沢膜層15の第2領域4b上に位置する部分15bとでは、島状構造物の大きさ、密度、又は厚さ等が異なり、それにより可視光の透過率が異なっている。この透過率の違いにより、部分15aと部分15とは、見かけ上、異なる金属光沢を有することとなる。
【0033】
次に、図2A〜図2E及び図3を用いて、本発明の第1実施形態にかかる転写シートの製造方法について説明する。図2A〜図2Eは、本発明の第1実施形態にかかる転写シートの製造方法を示す断面図である。図3は、本発明の第1実施形態にかかる転写シートの製造方法を示すフローチャートである。
【0034】
ステップS1では、図2Aに示すように、基体シート2上に剥離層11を形成する。
【0035】
基体シート2としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいはこれらが複合されたシートなどを用いることができる。
【0036】
剥離層11は、基体シート2を転写層3から剥離させるための層である。剥離層11は、転写後又は成形同時加飾後に基体シート2を転写層3から剥離した際、被転写物の最外面となる層である。このため、剥離層11は、ハードコート機能を有していることが好ましい。剥離層11の材質としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いることができる。剥離層11に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いてもよい。剥離層11の形成方法としては、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることができる。
【0037】
ステップS2では、図2Bに示すように、剥離層11上に柄層12を形成する。
【0038】
柄層12は、絵柄等を表現するための層であり、剥離層11上に、通常は印刷層として形成する。柄層12の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキなどを用いることができる。柄層12の形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの通常の印刷法を用いることができる。なお、柄層12において、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、柄層12が単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を用いてもよい。
【0039】
ステップS3では、図2Cに示すように、柄層12上に第1金属透過率調整層13を形成する。
【0040】
第1金属透過率調整層13は、互いに隣接する層の密着性を向上させるための層である。第1金属透過率調整層13の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などを用いることができる。第1金属透過率調整層13の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法などを用いることができる。
【0041】
ステップS4では、図2Dに示すように、第1金属透過率調整層13上に部分的に第2金属透過率調整層14を形成する。
【0042】
第2金属透過率調整層14は、第1金属透過率調整層13と同様に、互いに隣接する層の密着性を向上させるための層である。第2金属透過率調整層14の材質としては、第1金属透過率調整層13と同様に、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などを用いることができる。
【0043】
また、第2金属透過率調整層14の材質としては、第1金属透過率調整層13とは異なる材質のものを使用することが好ましい。例えば、第1金属透過率調整層13の材質としてアクリル系樹脂を用いた場合には、第2金属透過率調整層14として塩化ビニル系樹脂を用いればよい。また、第2金属透過率調整層14の材質としては、第1金属透過率調整層13を構成する樹脂と全く同一でなければ、第1金属透過率調整層13と同種の樹脂(同一の主鎖を有する樹脂)を使用することができる。例えば、第1金属透過率調整層13と、第2金属透過率調整層14とにアクリル系樹脂を用いた場合、第1金属透過率調整層13としてポリエチレン、第2金属透過率調整層14としてポリプロピレンを用いることができる。また、第1金属透過率調整層13に結晶性ポリエチレンを用いた場合、第2金属透過率調整層14に非結晶性ポリエチレンを用いることができる。
【0044】
なお、第1及び第2金属透過率調整層13,14の少なくとも一方の材質として表面張力が低い上記各樹脂材料を用いた場合には、第1金属透過率調整層及び第2金属透過率調整層13,14の少なくとも一方と金属光沢膜層15との密着性を向上させることができる。これにより、図4に示すように転写シート1が樹脂成形品20に貼着された際、樹脂成形品20の端縁部分において金属光沢膜層15が樹脂成形品20から脱離するのを抑えることができる。
【0045】
また、第1及び第2金属透過率調整層13,14の少なくとも一方の材質としてメラミン樹脂等の表面張力が低い樹脂材料を用いることができる。この場合、図4に示すように転写シート1が曲面部を有する樹脂成形品20に貼着された際に、当該樹脂成形品20の曲面部近傍において金属光沢膜層15にクラックが生じることを抑えることができる。
【0046】
また、第1及び第2金属透過率調整層13,14の表面を平滑になるように構成することが好ましい。第1金属透過率調整層13の基体シート2側の表面を平滑にした場合、第1金属透過率調整層13の剥離性が向上するので、第1金属透過率調整層13を基体シート2上に直接形成することができる。すなわち、剥離層11を設ける必要性を無くすことができる。また、第1及び第2金属透過率調整層13の少なくとも一方の金属光沢膜層15側の表面を平滑にした場合、当該平滑な表面と金属光沢膜層15との間に空気が介在することを抑えることができる。
【0047】
また、第1及び第2金属透過率調整層13,14の少なくとも一方に透過性の着色料を添加してもよい。これにより、第1及び第2金属透過率調整層13,14に柄層12としての機能を持たせることができ、柄層12を設ける必要性を無くすことができる。なお、転写シート1は、図4に示すように樹脂成形品20の外表面に沿って貼着されるものであるため、第1及び第2金属透過率調整層13,14は金属光沢膜層15よりも外側に位置する。このため、第1及び第2金属透過率調整層13,14に非透過性の着色料を添加した場合には、金属光沢膜層15が視認できない。なお、図5に示すように転写シート1の接着層16上に基体シート30を形成したものを用いる場合には、樹脂成形品は、基体シート2上に形成しても、基体シート30上に形成してもよい。なおこの場合、基体シート2,30自体が樹脂成形品と接着されるように基体シート2,30の材質を選択するか、基体シート2,30と樹脂成形品との間に別途接着層を設けるなどの必要がある。樹脂成形品を基体シート2上(図5の上側)に設けた場合には、金属光沢膜層15が第1及び第2金属透過率調整層13,14より外側に位置することとなる。この場合、金属光沢膜層15を視認することができるので、第1及び第2金属透過率調整層13,14に非透過性の着色料を添加することができる。
【0048】
第2金属透過率調整層14の形成方法としては、第1金属透過率調整層13と同様に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法などを用いることができる。また、第2金属透過率調整層14を第1金属透過率調整層13の全面に形成し、当該第2金属透過率調整層14上に部分的にレジスト層を形成したのちエッチングすることで、第2金属透過率調整層14を第1金属透過率調整層13上に部分的に形成することもできる。また、第1金属透過率調整層13上に部分的に水溶性パターンを形成し、当該水溶性パターンを覆うように第2金属透過率調整層14を第1金属透過率調整層13の全面に形成したのち水洗処理することで、第2金属透過率調整層14を第1金属透過率調整層13上に部分的に形成することもできる。
【0049】
ステップS5では、図2Eに示すように、第1領域4a及び第2領域4b上に金属光沢膜層15を構成する金属材料を蒸着する。
【0050】
金属光沢膜層15は、金属光沢を付与するための層である。前述したように第1領域4a及び第2領域4bは互いに表面張力が異なっているため、特に第1及び第2領域4a,4b毎に蒸着方法を変えることなく、部分15aの島状構造物と部分15bの島状構造物の大きさ、密度、又は厚さ等が異なることとなる。これにより、金属光沢膜層15は互いに可視光の透過率の異なる部分15a,15bを有することなる。すなわち、1つの金属光沢膜層15で2種類の金属光沢を付与することができる。
【0051】
金属光沢膜層15の金属材料としては、スズ、インジウム、亜鉛などのような島状構造を形成しやすい金属材料を用いることが好ましい。なお、アルミニウムなどのような通常、島状構造を形成しない金属材料を金属光沢膜層15の金属材料として用いた場合でも、例えば第1及び第2金属透過率調整層13,14にフッ素などの撥水材料を含有させることにより、島状構造を形成することができる。なお、ここでは金属光沢膜層15は、島状構造を有するものとしたが、表面張力の違いにより透過率を異ならすことができる構造であればよい。
【0052】
ステップS6では、金属光沢膜層15A上に接着層16を形成する。これにより、図1に示す転写シート1の製造が完了する。
【0053】
接着層16は、転写層3と被転写物(例えば、樹脂成形品20)とを接着するための層である。接着層16の材質としては、被転写物の材質に適した感熱性又は感圧性の樹脂を適宜使用することができる。例えば、被転写物の材質がアクリル系樹脂の場合には、アクリル系樹脂を用いるとよい。また、被転写物の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いるとよい。また、被転写物の材質がポリプロピレン樹脂の場合には、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を用いるとよい。接着層16の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることができる。
【0054】
本発明の第1実施形態によれば、表面張力が異なる第1及び第2領域4a,4bを形成した後、第1及び第2領域4a,4b上に金属光沢膜層15を構成する金属材料を蒸着するようにしているので、表面張力の違いにより第1領域4a上の部分15aと第2領域4b上の部分15bとで金属光沢膜層15の蒸着の仕方が異なることになる。これにより、部分15aと部分15bとで可視光の透過率が異なることとなる。すなわち、1層の金属光沢膜層15で複数種類(2種類)の金属光沢を表現することができる。
【0055】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、加飾層3は、剥離層11と、柄層12と、第1及び第2金属透過率調整層13,14と、金属光沢膜層15と、接着層16とを備えるように構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、加飾層3は、離型層を備えていてもよい。離型層は、基体シート2からの剥離層11の剥離性を向上させるための層である。このため、離型層を設ける場合には、基体シート2と剥離層11との間に配置すればよい。離型層の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、及びこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層の形成方法としては、ロールコート法、スプレーコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0056】
また、加飾層3は、基体シート2と離型層との間、剥離層11と柄層12との間、又は金属光沢膜層15と接着層16との間に、別途金属透過率調整層を備えていてもよい。
【0057】
また、加飾層3は、少なくとも第1金属透過率調整層13と、第2金属透過率調整層14と、金属光沢膜層15とを備えていればよい。すなわち、前記では、加飾シートの一例として転写シート1の構成について説明したが、これに代えてインサートシートの構成であってもよい。なお、この場合、加飾層3において剥離層11や離型層を設ける必要がないだけで、他の構成は同様であるので説明は省略する。
【0058】
《第2実施形態》
図6は、本発明の第2実施形態にかかる転写シートの断面図である。本第2実施形態にかかる転写シートが前記第1実施形態にかかる転写シートと異なる点は、第1金属透過率調整層113と第2金属透過率調整層114とが面方向に互いに隣接して形成されている点である。本第2実施形態においては、第1金属透過率調整層113の表面が第1領域104aとなり、第2金属透過率調整層114の表面が第2領域104bとなる。
【0059】
本発明の第2実施形態によれば、第1金属透過率調整層113と第2金属透過率調整層114との間に段差がないので、例えば、本第2実施形態にかかる転写シートをロール状に巻いた状態で保管、使用等するような場合に、当該転写シートに段差による巻き跡が生じることを防ぐことができる。
【0060】
《第3実施形態》
図7は、本発明の第3実施形態にかかる転写シートの断面図である。本第3実施形態にかかる転写シートが前記第2実施形態にかかる転写シートと異なる点は、第1金属透過率調整層113上に部分的に第3金属透過率調整層213が形成されている点である。
【0061】
第3金属透過率調整層213は、第1及び第2金属透過率調整層113,114と異なる材質で構成され、第1金属透過率調整層113上に部分的に形成されている。これにより、第1金属透過率調整層113の第3金属透過率調整層213で覆われていない表面である第1領域104aの表面張力と、第2金属透過率調整層114の表面である第2領域104bの表面張力と、第3金属透過率調整層213の表面である第3領域104cの表面張力が異なるようにされている。第1領域104aと第2領域104bと第3領域4cの各表面張力の差は、少なくとも1.0mJ/m以上であることが好ましく、1.5mJ/m以上であることがより好ましい。これにより、目視によっても、3種類の金属光沢を明確に認識することができる。
【0062】
第3金属透過率調整層213の材質としては、第1及び第2金属透過率調整層113,114と同様に、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などを用いることができるが、第1及び第2金属透過率調整層113,114とは異なる材質のものとする。例えば、第1金属透過率調整層113の材質としてアクリル系樹脂を用い、第2金属透過率調整層114としてウレタン系樹脂を用いた場合、第3金属透過率調整層213として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を用いればよい。
【0063】
なお、前記では、第3金属透過率調整層213を第1金属透過率調整層113上に形成したが、図8に示すように、第1金属透過率調整層113と第2金属透過率調整層114とに跨るように形成されてもよい。この場合でも、1層の金属光沢膜層15で複数種類(3種類)の金属光沢を表現することができる。
【0064】
《第4実施形態》
図9は、本発明の第4実施形態にかかる転写シートの断面図である。図10は、図9の転写シートの製造方法を示すフローチャートである。本第4実施形態にかかる転写シートが前記第1実施形態にかかる転写シートと異なる点は、第1及び第2金属透過率調整層13,14に代えて金属透過率調整層313が形成されている点である。
【0065】
金属透過率調整層313は、第1金属透過率調整層13などと同様な材質及び形成方法にて柄層12上に形成される(ステップS13)。金属透過率調整層313の表面には、金属光沢膜層15を蒸着する前に、部分的に微細な凹凸が形成される(ステップS14)。この微細な凹凸は、例えば、コロナ放電やプラズマ放電などを利用して形成することができる。この微細な凹凸により、金属透過率調整層313の表面には面粗度が異なる2つの領域が形成されることとなる。本第4実施形態においては、当該微細な凹凸が形成された部分が第1領域204aとなり、当該微細な凹凸部分以外の平滑部分が第2領域204bとなる。すなわち、表面に微細な凹凸を形成することで表面張力を変えることができるので、本第4実施形態では、それを利用して第1及び第2領域204a,204bを形成している。
【0066】
本発明の第4実施形態によれば、金属透過率調整層313と金属光沢膜層15との間にほぼ段差がないので、本発明の第4実施形態にかかる転写シートをロール状に巻いた状態で保管、使用等するような場合に、当該転写シートに段差による巻き跡が生じることを防ぐことができる。
【0067】
なお、前記では、第2領域204bを平滑部分としたが、第2領域204bにも微細な凹凸を形成してもよい。第1領域204aの面粗度と第2領域204bの面粗度とが異なっていればよい。
【0068】
なお、前記各実施形態では、表面張力が異なる第1及び第2領域を金属透過率調整層の表面に形成したが、本発明はこれに限定されない。第1及び第2領域は、金属光沢膜層15の基体シート2側で隣接する層に形成されていればよい。例えば、第1及び第2領域は、柄層12に形成されてもよい。
【0069】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明にかかる加飾シート及びその製造方法は、1層の金属光沢膜層により物品表面に複数種類の金属光沢を付与することができるので、携帯電話やパーソナルコンピュータの筐体などに用いられる樹脂成形品などの物品表面を加飾する加飾シート及びその製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 転写シート
2,30 基体シート
3 加飾層
4a,104a 第1領域
4b,104b 第2領域
11 剥離層
12 柄層
13,113 第1金属透過率調整層
14,114 第2金属透過率調整層
213 第3金属透過率調整層
313 金属透過率調整層
15,115 金属光沢膜層
16 接着層
20 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シート上に金属光沢膜層を含む加飾層が形成された加飾シートの製造方法であって、
前記金属光沢膜層の形成前において、表面張力が異なる第1及び第2領域を形成し、
前記第1及び第2領域上に前記金属光沢膜層を構成する金属材料を蒸着する、
ことを含む、加飾シートの製造方法。
【請求項2】
前記金属光沢膜層は、島状構造を有するように形成する、請求項1に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項3】
前記金属材料としてインジウム又はスズを用いる、請求項1又は2に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項4】
前記第1領域の表面張力と前記第2領域の表面張力との差を1.0mJ/m以上とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項5】
前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と材質の異なる第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1金属透過率調整層上に部分的に前記第2金属透過率調整層を形成することにより、前記第1金属透過率調整層の前記第2金属透過率調整層で覆われていない表面により前記第1領域を形成し、前記第2金属透過率調整層の表面により前記第2領域を形成する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項6】
前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と材質の異なる第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1金属透過率調整層と前記第2金属透過率調整層とを面方向に互い隣接して形成することにより、前記第1金属透過率調整層の表面により前記第1領域を形成し、前記第2金属透過率調整層の表面により前記第2領域を形成する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項7】
前記金属光沢膜層の形成前において、前記第2領域に対応する表面の面粗度を前記第1領域に対応する表面の面粗度に対して異ならせることにより、前記表面張力の異なる第1及び第2領域を形成する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項8】
基体シート上に金属光沢膜層を含む加飾層が形成された加飾シートであって、
前記金属光沢膜層に前記基体シート側で隣接する層に、表面張力が異なる第1及び第2領域を備え、前記金属光沢膜層の前記第1領域上に位置する部分と前記金属光沢膜層の前記第2領域上に位置する部分とで透過率が異なっている、加飾シート。
【請求項9】
前記金属光沢膜層は、島状構造を有する、請求項8に記載の加飾シート。
【請求項10】
前記金属光沢膜層は、インジウム又はスズにより構成されている、請求項8又は9に記載の加飾シート。
【請求項11】
前記第1領域の表面張力と前記第2領域の表面張力との差が1.0mJ/m以上である、請求項8〜10のいずれか1つに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項12】
前記加飾層は、第1金属透過率調整層と、前記第1金属透過率調整層と異なる材質により前記第1金属透過率調整層上に部分的に形成された第2金属透過率調整層と、を備え、
前記第1領域は、前記第1金属透過率調整層の前記第2金属透過率調整層で覆われていない表面により形成され、
前記第2領域は、前記第2金属透過率調整層の表面により形成されている、
請求項8〜11のいずれか1つに記載の加飾シート。
【請求項13】
前記加飾層は、面方向に互いに隣接して、互いに異なる材質により形成された第1金属透過率調整層と第2金属透過率調整層とを備え、
前記第1領域は、第1金属透過率調整層の表面により形成され、
前記第2領域は、前記第2金属透過率調整層の表面により形成されている、
請求項8〜11のいずれか1つに記載の加飾シート。
【請求項14】
前記金属光沢膜層に前記基体シート側で隣接する層において、前記第2領域に対応する表面の面粗度は、前記第1領域に対応する表面の面粗度と異なっている、請求項8〜11のいずれか1つに記載の加飾シート。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−253874(P2010−253874A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108922(P2009−108922)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】