説明

加飾成形体

【課題】 可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより鮮やかな虹彩色を呈する高品質な加飾成形体を提供する。
【解決手段】 加飾成形体10は、樹脂成形体11の表面に多層積層フィルム12が設けられ、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を呈する。多層積層フィルム12は、第1の樹脂フィルムからなる第1の層12aと、前記第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層12bとを合計11層以上交互に積層してなる。加飾成形体10は、例えば、携帯電話機のキートップ等の入力部、液晶パネル、筐体、バッテリーカバー等の樹脂製の部品を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の電子機器の筐体、液晶パネル、バッテリーカバー、入力部等に使用される装飾性の高い加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の電子機器には、光の反射角度に応じて虹彩色に色調を変化させるような装飾層を備えた部品が用いられている。例えば、携帯電話機の入力部には、無機物薄膜からなる装飾層が設けられたキートップ(例えば特許文献1〜5参照)や、液晶性高分子フィルムからなる装飾層(コレステリック液晶層)が設けられたキートップ(例えば特許文献6,7参照)が用いられている。
【特許文献1】特開平10−289633号公報
【特許文献2】特開平11−176273号公報
【特許文献3】特開平11−260182号公報
【特許文献4】特開平11−329144号公報
【特許文献5】特開2000−222967号公報
【特許文献6】特開2001−167654号公報
【特許文献7】特開2002−324453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、上記従来技術とは異なる装飾層を備えた加飾成形体を開発したことによりなされたものである。その目的とするところは、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより鮮やかな虹彩色を呈する高品質な加飾成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の加飾成形体は、樹脂成形体の表面に多層積層フィルムが設けられた加飾成形体であって、前記多層積層フィルムは、第1の樹脂フィルムからなる第1の層と、前記第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層とを合計11層以上交互に積層してなり、該加飾成形体は、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を呈することを要旨とする。
【0005】
請求項2に記載の加飾成形体は、請求項1に記載の発明において、前記樹脂成形体の表面に前記第1の層が積層され、前記第1の樹脂フィルムはポリエステル樹脂組成物からなることを要旨とする。
【0006】
請求項3に記載の加飾成形体は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムはいずれもポリエステル樹脂組成物からなり、前記多層積層フィルムには二軸延伸処理が施されていることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の加飾成形体は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の層及び前記第2の層の厚みは、いずれも0.05〜0.5μmであることを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の加飾成形体は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記樹脂成形体は光透過性を有する樹脂よりなり、前記樹脂成形体は樹脂キートップであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の加飾成形体は、その表面に多層積層フィルムを備えている。この多層積層フィルムは、互いに異なる屈折率を有する2種類の薄層を合計11層以上交互に積層することにより形成されているため、それら層間の構造的な光干渉作用により、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射する。その結果、光の反射角度に応じて色調を変化させることが可能となり、鮮やかな虹彩色を呈する。従って、この加飾成形体は、多層積層フィルムによる光干渉作用に基づいて、可視光の照射により鮮やかな虹彩色を呈するため、美観に優れるとともに高級感のあるものとなる。
【0010】
請求項2に記載の加飾成形体では、多様な樹脂に対して高い密着性を有するポリエステル樹脂組成物により第1の樹脂フィルムが構成されている。このため、第1の樹脂フィルムと、樹脂成形体及び第2の樹脂フィルムとの密着性がそれぞれ良好になる。従って、加飾成形体から各層が剥離しにくくなり、加飾成形体の耐久性を向上させることができる。また、ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、加工性がよいという利点もある。
【0011】
請求項3に記載の加飾成形体では、第1及び第2の樹脂フィルムがいずれもポリエステル樹脂組成物からなるため、隣接する層同士の密着性が高められるとともに、第1の層と樹脂成形体との密着性が高められている。従って、加飾成形体から各層が剥離しにくくなり、加飾成形体の耐久性を向上させることができる。また、ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、加工性がよいという利点もある。さらに、二軸延伸処理が施された多層積層フィルムは、該処理を施していないものよりも、第1の層の屈折率と、第2の層の屈折率との差が大幅に拡大しているため、可視光領域における特定波長の光の反射率が高められている。従って、この多層積層フィルムを備えた加飾成形体は、極めて鮮やかな虹彩色を呈することができる。
【0012】
請求項4に記載の加飾成形体では、第1の層及び第2の層の厚みがともに、可視光領域における光干渉を引き起こしやすい0.05〜0.5μmに設定されている。このため、このような多層積層フィルムを備えた加飾成形体は、鮮やかな虹彩色を呈することができる。
【0013】
請求項5によれば、光透過性を有する加飾キートップが提供される。この加飾キートップは、該キートップの上面に可視光を照射すると、鮮やかな虹彩色を呈する。また、この加飾キートップの下面からバックライトを照射すると、該バックライトの光を透過させてキートップの上方からの視認性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を加飾成形体、及び加飾成形体としての加飾キートップに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
携帯電話機等の電子機器には、加飾成形体からなる各種部品が設けられている。前記部品としては、キートップ等の入力部、液晶パネル、筐体、バッテリーカバー等の樹脂成形品が挙げられる。図1(a)には、携帯電話機の入力部、液晶パネル、筐体、バッテリーカバー等を構成する加飾成形体10が示されている。加飾成形体10は、樹脂成形体11と、その樹脂成形体11の表面に設けられた多層積層フィルム12とを備えている。
【0015】
樹脂成形体11は、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等により所定形状(本実施形態では平板状)に形成されている。液晶パネルやキートップのような加飾成形体10は、通常、バックライトにより携帯電話機の内部から外部へと照光されるため、該加飾成形体10の樹脂成形体11は、透光性を有する樹脂により構成されるのが好ましい。
【0016】
多層積層フィルム12は、透光性を有する一方、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射するため、該光の反射角度に応じて色調を虹彩色に変化させる。筐体やバッテリーカバーのような加飾成形体10において、多層積層フィルム12は、通常、携帯電話機の外部に露出しており、特に光透過性を有さない樹脂成形体11を備えている場合には、多層積層フィルム12は、携帯電話機の外部に露出している。また、液晶パネルやキートップのような加飾成形体10は、通常、可視光の透過を許容する樹脂成形体11を備えているため、多層積層フィルム12は、携帯電話機の外部に露出していても、露出していなくてもどちらでもよい。
【0017】
さらに、この加飾成形体10には、表示部13が設けられていることが好ましい。図1(a)に示す表示部13は、樹脂成形体11の上面の一部を覆う2カ所に設けられている。これらの表示部13は、樹脂成形体11と多層積層フィルム12との間に形成された印刷層からなり、加飾成形体10の上方から見ると、所定の文字や記号を表示すべく着色されている。また、加飾成形体10の表面には、樹脂成形体11や多層積層フィルム12を保護するために、透光性を有する合成樹脂製のフィルムからなる樹脂カバー14(図3(a)〜図3(e)参照)が被覆されていてもよい。
【0018】
次に、多層積層フィルム12について説明する。
図1(b)に示すように、多層積層フィルム12は、第1の樹脂フィルムからなる第1の層12aと、前記第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層12bとを交互に積層することにより形成されている。第1及び第2の樹脂フィルムは互いに屈折率が異なるため、屈折率の高い層と低い層とを交互に規則的に配置した多層積層フィルム12は、第1及び第2の層12a,12b間の構造的な光干渉作用により、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射する。その結果、光の反射角度に応じて色調を変化させることが可能となり、鮮やかな虹彩色を呈する。
【0019】
第1及び第2の樹脂フィルムは、互いに異なる組成の樹脂により構成されていることが好ましい。また、第1及び第2の樹脂フィルムは、互いに異なる融点を有する樹脂により構成されていることが好ましい。いずれの場合でも、両樹脂フィルム同士の屈折率の差が大きくなるため、多層積層フィルム12が鮮明な虹彩色を呈しやすくなる。第1の層12aと第2の層12bとの間の屈折率の差は、両層12a,12b間の構造的な光干渉作用を高めるために、0.03以上であることが好ましい。第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間の融点の差は、両層12a,12b間の構造的な光干渉作用を高めるために、15℃以上であることが好ましい。以下、第1及び第2の樹脂フィルムのうち、融点の低い樹脂フィルムを低融点の樹脂フィルム、融点の高い樹脂フィルムを高融点の樹脂フィルムと記載する。
【0020】
第1及び第2の樹脂フィルムの少なくとも一方は、ポリエステル樹脂組成物から構成されるのが好ましい。ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、多種類の樹脂に対して高い密着性を有しているため、多層積層フィルム12や樹脂フィルムが加飾成形体10から剥離しにくくなり、結果的に加飾成形体10の耐久性を向上させる。ポリエステル樹脂組成物としては、例えば、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのようなポリエチレンナフタレート(PEN)、PET、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、又はそれらのいずれかを主成分とする共重合体や混合物等が挙げられる。本実施形態の加飾成形体10では、樹脂成形体11の上面に第1の層12aが積層され、その第1の層12aの上面に第2の層12bが積層されている。よって、樹脂成形体11及び第2の樹脂フィルムの両方に密着する第1の樹脂フィルムが上記ポリエステル樹脂組成物により構成されることが好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂組成物からなる第1の樹脂フィルムと組み合わせて使用される第2の樹脂フィルムは、多層積層フィルム12の虹彩色を鮮明にしやすくするために、第1の樹脂フィルムを構成するポリエステル樹脂組成物とは屈折率の異なる樹脂により構成されることが好ましい。このような樹脂としては、ポリスチレン(PS)、PMMA、PC、ポリプロピレン(PP)、エチレンビニルアセテート(EVA)、又はそれらのいずれかを含む共重合体や混合物等が挙げられる。しかしながら、第1の層12aと第2の層12bとの間の密着性を高めるためには、第1及び第2の層12a,12bの両方がポリエステル樹脂組成物により構成されることが好ましい。ちなみに、第1の層12aと第2の層12bとの間の密着性という観点から、PSからなる樹脂フィルムと、PMMA、PP又はEVAからなる樹脂フィルムとの組合せは適していない。
【0022】
多層積層フィルム12を構成する第1及び第2の層12a,12bの合計の層数(総層数)は、多層積層フィルム12の虹彩色を視認可能にするために、11層以上である必要があるが、31層以上であることが好ましく、101層以上であることがより好ましく、201層以上であることがさらに好ましい。総層数が11層未満の場合には、構造的な光干渉作用による反射効果が小さいため、可視光領域における特定波長の光が十分に反射されず、視認できない。なお、総層数の上限は、生産性等の観点から501層程度が限界である。
【0023】
多層積層フィルム12には、二軸延伸処理が施されていることがより好ましい。多層積層フィルム12に二軸延伸処理を施すことにより、各層12a,12bの厚みのバラツキが小さくなるとともに、第1の層12aと第2の層12bとの間の屈折率の差を拡大することが容易となる。このため、各層12a,12b間の構造的な光干渉作用を拡大することが可能となり、鮮やかな虹彩色を呈する多層積層フィルム12を提供することができる。二軸延伸処理後の多層積層フィルム12において、各軸方向の長さは、光干渉作用を拡大させるために、二軸延伸処理前の多層積層フィルム12における対応する軸方向の長さに対し、2〜50倍程度延伸されていることが好ましい。
【0024】
なお、二軸延伸処理は、該処理を適切に実施するために、第1及び第2の樹脂フィルムのガラス転移温度よりも20℃以上高い温度に多層積層フィルム12を加熱した状態で実施することが好ましい。また、第1及び第2の樹脂フィルムの少なくとも一方がPET又はPENにより構成されている場合には、二軸延伸処理された多層積層フィルム12の強度が向上する。ちなみに、第1及び第2の樹脂フィルムの少なくとも一方がPC又はPSにより構成されている場合には、通常、多層積層フィルム12を二軸延伸処理することはない。
【0025】
さらに、この多層積層フィルム12では、二軸延伸処理を施した後に、熱固定処理を実施することが好ましい。熱固定処理は、通常、第1及び第2の樹脂フィルムがポリエステル樹脂組成物から構成されている場合に実施される。熱固定処理は、第1及び第2の樹脂フィルムのうち低融点の樹脂フィルムの融点より10℃低い温度と、高融点の樹脂フィルムの融点より15℃低い温度との間の温度で、多層積層フィルム12を所定時間加熱することにより実施される。このとき、前記低融点の樹脂フィルム内の分子鎖の配向だけが緩和され、該低融点の樹脂フィルムの屈折率のみを低下させることができる。この熱固定処理を実施する場合には、低融点の樹脂フィルムの溶融を防ぐため、第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間の融点の差は、15℃以上必要である。
【0026】
第1及び第2の層12a,12bの厚みは、可視光領域における構造的な光干渉作用を高めるために、いずれも0.05〜0.5μmであることが好ましい。各層12a,12bの厚みが0.05μm未満の場合、可視光の多くが多層積層フィルム12に吸収されてしまうため、多層積層フィルム12が虹彩色を呈さなくなる。逆に、各層12a,12bの厚みが0.5μmを超えると、多層積層フィルム12によって選択的に反射される光の波長が赤外領域にシフトしてしまうため、多層積層フィルム12が虹彩色を呈さなくなる。なお、第1の層12a及び第2の層12bの厚みは、同じであっても異なっていてもどちらでもよい。
【0027】
上述のような多層積層フィルム12の製造は、例えば、以下のように実施される。まず、(1)第1の層12aを形成する第1の樹脂フィルムと、第2の層12bを形成する第2の樹脂フィルムとを、11層以上交互に積層することにより、シート状物を形成する。次に、(2)得られたシート状物を両樹脂フィルムのガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で2〜50倍二軸延伸処理する。続いて、(3)低融点の樹脂フィルムの融点より10℃低い温度と、高融点の樹脂フィルムの融点より15℃低い温度との間の温度で、二軸延伸処理したシート状物を加熱することにより、熱固定処理を実施する。
【0028】
加飾成形体10の製造は、樹脂成形体11の表面に多層積層フィルム12を設けることにより実施される。この場合、例えば、予め成形された樹脂成形体11の表面に塗料又は接着剤を介して多層積層フィルム12を貼り付ける方法や、多層積層フィルム12を金型内にインサートした状態で、該金型内に樹脂成形体11を構成する溶融樹脂を充填した後に冷却する方法等が採用される。また、多層積層フィルム12の表面上で液状樹脂を硬化させる方法(例えば実施例7参照)も採用可能である。
【0029】
本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
・ 加飾成形体10の表面には、多層積層フィルム12が設けられている。この多層積層フィルム12は、互いに異なる屈折率を有する第1の層12aと第2の層12bとを合計11層以上交互に積層することにより形成されている。このため、加飾成形体10は、多層積層フィルム12を構成する層12a,12b間の構造的な光干渉作用により、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射する。その結果、光の反射角度に応じて色調を変化させることが可能となり、鮮やかな虹彩色を呈する。従って、この加飾成形体10は、多層積層フィルム12による光干渉作用に基づいて、可視光の照射により鮮やかな虹彩色を呈するため、美観に優れるとともに高級感のあるものとなる。
【0030】
これに対し、従来のキートップでは、無機物薄膜からなる装飾層又は液晶性高分子フィルムからなる装飾層を備えている。無機物薄膜からなる装飾層を製造する際には、蒸着やスパッタリングのような特別な処理を施す必要があるため、部品の製造コストが上昇してしまうという問題があった。一方、液晶性高分子フィルムは、鮮やかな色調を有しているものの、耐熱性及び物理的安定性が低いため、加工性に問題があった。例えば、この種の液晶性高分子フィルムは、200℃前後の高温に晒されると、色調の鮮明さを失って濁った色彩に変化してしまうため、インサート成形のような部品の大量生産に適した製造工程を実施することができなかった。これらの点に関し、本実施形態の多層積層フィルム12は、大量生産に適しているうえ、高い耐熱性及び物理的安定性を有しているため、加飾成形体10の製造に際して多様な方法を選択することが可能であるうえ、鮮明な虹彩色を呈する高品質な加飾成形体10を安価に製造することが容易である。
【0031】
・ 多様な樹脂に対して高い密着性を有するポリエステル樹脂組成物により第1の樹脂フィルムが構成されているため、第1の樹脂フィルムと、樹脂成形体11及び第2の樹脂フィルムとの密着性がそれぞれ良好になる。従って、加飾成形体10から各層12a,12bが剥離しにくくなり、加飾成形体10の耐久性を向上させることができる。また、ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、加工性がよいという利点もある。
【0032】
・ 第1及び第2の樹脂フィルムがいずれもポリエステル樹脂組成物からなるため、隣接する層12a,12b同士の密着性が高められるとともに、第1の層12aと樹脂成形体11との密着性が高められる。従って、加飾成形体10から各層12a,12bが剥離しにくくなり、加飾成形体10の耐久性を向上させることができる。また、ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、加工性がよいという利点もある。
【0033】
・ 二軸延伸処理が施された多層積層フィルム12は、該処理を施していないものよりも、第1の層12aの屈折率と、第2の層12bの屈折率との差が大幅に拡大しているため、可視光領域における特定波長の光の反射率が高められている。従って、この多層積層フィルム12を備えた加飾成形体10は、極めて鮮やかな虹彩色を呈することができる。
【0034】
・ 第1の層12a及び第2の層12bの厚みがともに、可視光領域における光干渉を引き起こしやすい0.05〜0.5μmに設定されている。このため、このような多層積層フィルム12を備えた加飾成形体10は、鮮やかな虹彩色を呈することができる。
【0035】
・ 光透過性を有する樹脂成形体11を備えた加飾成形体10は、その上面に可視光を照射すると、鮮やかな虹彩色を呈し、その下面からバックライトを照射すると、該バックライトの光を透過させて上方(部品の外部)からの視認性を高めることができる。従って、このような加飾成形体10は、液晶パネルやキートップ等の部品として極めて有用である。
【0036】
また、このような部品には、通常、表示部13が設けられている。これら表示部13には、外部からの可視光による視認性が高いことが要求されている。さらに、バックライトにて照らし出されたときの視認性が高いことも要求されている。本実施形態の液晶パネルやキートップ等の部品は、鮮やかな虹彩色を呈しつつ、これらの要求を十分に満たすことができる。従って、光透過性を有する樹脂成形体11の表面に多層積層フィルム12を備えた加飾成形体10は、透光性及び表示部13の視認性を高めつつ、光の反射に基づく虹彩色を鮮明に視認可能にすることができる。
【0037】
以下実施例にて、樹脂成形体11の表面に多層積層フィルム12が設けられてなる加飾成形体10及びその製造方法を具体的に例示する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
実施例1の加飾成形体10を図1(a)に示す。なお、図1(a)は、加飾成形体10としての液晶パネルを裏側から見た斜視図を示す。
【0039】
透明なPC樹脂を射出成形することにより平板状の樹脂成形体11を製造した。次に、樹脂成形体11の外周を縁取る模様の表示部13を樹脂成形体11の裏面(携帯電話機の内側に配置される面)に印刷した。続いて、樹脂成形体11の裏面に、多層積層フィルム12(帝人デュポンフィルム株式会社製「MLF-13.0」)を接着剤にて接着することにより、加飾成形体10を製造した。最後に、加飾成形体10の外周にはみ出した多層積層フィルム12をダイセット金型にて切除することにより、携帯電話機の液晶表示部の上面をカバーする加飾成形体10(液晶パネル)を得た。得られた加飾成形体10は、光の反射角度に応じて青色から黄色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、携帯電話機の液晶表示部の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0040】
(実施例2)
実施例2の加飾成形体10の断面図を図2に示す。
金型(図示略)内に多層積層フィルム12(帝人デュポンフィルム株式会社製「MLF-19.0」)を設置し、該金型内にABS樹脂を射出することにより、ABS樹脂からなる樹脂成形体11の表面に多層積層フィルム12が積層された加飾成形体10(筐体ケース)を得た。得られた加飾成形体10は、光の反射角度に応じて赤色から青色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。
【0041】
(実施例3)
実施例3の加飾成形体10(加飾キートップ)の断面図を図3(a)に示す。
透明なPC樹脂を射出成形することにより四角柱状の樹脂成形体11(樹脂キートップ)を製造した。次に、樹脂成形体11の下面に多層積層フィルム12(帝人デュポンフィルム株式会社製「MLF-13.0」、詳細は表1を参照)を接着剤にて接着した。続いて、多層積層フィルム12の下面に、文字を表示するための表示部13を印刷した後、該多層積層フィルム12の下面に、透明な樹脂カバー14を接着剤にて接着することにより、加飾成形体10を製造した。最後に、加飾成形体10の外周にはみ出した多層積層フィルム12及び樹脂カバー14をダイセット金型にて切除することにより、携帯電話機の入力部を構成する加飾成形体10(加飾キートップ)を得た。この加飾成形体10は、光の反射角度に応じて青色から黄色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、外部からの表示部13の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0042】
(実施例4)
実施例4の加飾成形体10(加飾キートップ)の断面図を図3(b)に示す。
PETからなる第1の層12aと、セルローストリアセテート(TAC)からなる第2の層12bとを交互に積層することにより、総層数が201層で、且つ両端がポリエステル層からなる多層積層フィルム12を作製した。得られた多層積層フィルム12の特性を表1に示す。
【0043】
透明なPC樹脂を射出成形することにより四角柱状の樹脂成形体11を製造した。次に、樹脂成形体11の上面に、該樹脂成形体11の上面形状と同形状の多層積層フィルム12を接着剤にて接着した。続いて、樹脂成形体11の下面に文字を表示するための表示部13を印刷した後、該樹脂成形体11の下面に、透明な樹脂カバー14を接着剤にて接着することにより、加飾成形体10(加飾キートップ)を得た。この加飾成形体10は、光の反射角度に応じて緑色から赤色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、外部からの表示部13の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0044】
(実施例5)
実施例5の加飾成形体10(加飾キートップ)の断面図を図3(c)に示す。
PC樹脂からなる第1の層12aと、PMMAからなる第2の層12bとを交互に積層することにより、総層数が401層で、且つ両端がポリエステル層からなる多層積層フィルム12を作製した。得られた多層積層フィルム12の特性を表1に示す。
【0045】
PC樹脂からなる透明な樹脂カバー14の下面に多層積層フィルム12をラミネート加工した後、該多層積層フィルム12の下面に文字を表示するための表示部13を印刷した。このラミネートフィルムを、四角柱状をなすキートップを成形するための金型内の所定位置にインサートした。このとき、前記ラミネートフィルムは、樹脂カバー14をキートップの上面及び各側面に配置すべく金型内にインサートされた。続いて、前記金型内にPC樹脂を射出することにより、樹脂成形体11の上面及び各側面にラミネートフィルムが被覆された加飾成形体10(加飾キートップ)を得た。この加飾成形体10は、光の反射角度に応じて青色から黄色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、外部からの表示部13の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0046】
(実施例6)
PBTからなる第1の層12aと、PPからなる第2の層12bとを交互に積層することにより、総層数が101層で、且つ両端がポリエステル層からなる多層積層フィルム12を作製した。得られた多層積層フィルム12の特性を表1に示す。
【0047】
PC樹脂からなる透明な樹脂カバー14の下面に多層積層フィルム12をラミネート加工した後、該多層積層フィルム12の下面に文字を表示するための表示部13を印刷した。このラミネートフィルムを用いて、実施例5と同様に加飾成形体10を製造した後、得られた加飾成形体10の上面及び各側面から樹脂カバー14を剥離することにより、樹脂成形体11の上面及び各側面に多層積層フィルム12が被覆された加飾成形体10(加飾キートップ)を得た。この加飾成形体10は、光の反射角度に応じて赤色から橙色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、外部からの表示部13の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0048】
(実施例7)
実施例7の加飾成形体10(加飾キートップ)の断面図を図3(d)に示す。
PETからなる第1の層12aと、PMMAからなる第2の層12bとを交互に積層することにより、総層数が31層で、且つ両端がポリエステル層からなる多層積層フィルム12を作製した。得られた多層積層フィルム12の特性を表1に示す。
【0049】
PC樹脂からなる透明な樹脂カバー14の上面に多層積層フィルム12をラミネート加工した後、該多層積層フィルム12の上面に文字を表示するための表示部13を印刷した。このラミネートフィルムの上面に、透明な液状ウレタン樹脂をドーム状に載置して硬化させることにより、該ラミネートフィルムの上面に樹脂成形体11が形成された加飾成形体10(加飾キートップ)を得た。この加飾成形体10は、光の反射角度に応じて赤色から橙色の光を反射し、色調の変化に基づく虹彩色を呈していた。また、この加飾成形体10を備えた携帯電話機は、外部からの表示部13の視認性が良く、さらにバックライト光を良好に透過するものであった。
【0050】
(比較例1)
PETからなる第1の層と、PMMAからなる第2の層とを交互に積層することにより、総層数が10層で、かつ両端がポリエステル層からなるフィルムを作製した。得られたフィルムの特性を表1に示すが、このフィルムは反射率が約30%と低いため、反射色が見えず、装飾性に乏しいものであった。
【0051】
【表1】

さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0052】
・ 前記樹脂成形体は光透過性を有する樹脂よりなり、前記樹脂成形体又は前記多層積層フィルムの表面には表示部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の加飾成形体。この場合、外部からの可視光による視認性及びバックライトにて照らし出されたときの視認性を高めることができる。
【0053】
・ 樹脂キートップの表面又は裏面に多層積層フィルムが設けられた加飾キートップであって、前記多層積層フィルムは、第1の樹脂フィルムからなる第1の層と、前記第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層とを合計11層以上交互に積層することにより形成され、該加飾キートップは、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を呈することを特徴とする加飾キートップ。この場合、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより鮮やかな虹彩色を呈する高品質な加飾キートップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は実施例1の加飾成形体の断面図、(b)は図1(a)の一部を拡大した断面図。
【図2】実施例2の加飾成形体の断面図。
【図3】(a)〜(d)はそれぞれ、実施例3,4,5,7の加飾キートップの縦断面図。
【符号の説明】
【0055】
10…加飾成形体、11…樹脂成形体、12…多層積層フィルム、12a…第1の層、12b…第2の層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の表面に多層積層フィルムが設けられた加飾成形体であって、
前記多層積層フィルムは、第1の樹脂フィルムからなる第1の層と、前記第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層とを合計11層以上交互に積層してなり、
該加飾成形体は、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を呈することを特徴とする加飾成形体。
【請求項2】
前記樹脂成形体の表面に前記第1の層が積層され、前記第1の樹脂フィルムはポリエステル樹脂組成物からなる請求項1に記載の加飾成形体。
【請求項3】
前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムはいずれもポリエステル樹脂組成物からなり、前記多層積層フィルムには二軸延伸処理が施されている請求項1又は請求項2に記載の加飾成形体。
【請求項4】
前記第1の層及び前記第2の層の厚みは、いずれも0.05〜0.5μmである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加飾成形体。
【請求項5】
前記樹脂成形体は光透過性を有する樹脂よりなり、前記樹脂成形体は樹脂キートップである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加飾成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−216493(P2006−216493A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30501(P2005−30501)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】