説明

助手席用エアバック装置

【課題】エアバックの膨張展開時の挙動を安定させることができる助手席用エアバック装置を低コストで実現する。
【解決手段】助手席用エアバック装置1において、エアバック10が膨脹展開した状態で、インストルメントパネル2の開口部2aより車両前方に位置するエアバック10の容積が、インストルメントパネル2の開口部2aより車両後方に位置するエアバック10の容積より小さくなるように設定すると共に、インストルメントパネル2の上面から突出したディフューザ20に、車両前方に膨脹用ガスを供給するガス供給口21aを備え、ガス供給口21aから車両前方に供給された膨脹用ガスを車両後方に案内するガス流路Aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストルメントパネルの上面からエアバック及びディフューザが突出して、エアバックが膨脹展開するように構成してある助手席用エアバック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、シートクッション(特許文献1の図1の28)とシートバック(特許文献1の図1の30)との交叉隅部付近(特許文献1の図1の32)に、エアバック(特許文献1の図1の18)が膨張展開するように構成されたエアバック装置や、特許文献2に開示されているように、インフレータ(特許文献2の図1の13)からの膨張用ガスを、ディフューザ(特許文献2の図1の16)を介して、エアバック(特許文献2の図1の11)に供給するように構成された助手席用エアバック装置が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−125591号公報(図1及び段落番号「0017」参照)
【特許文献2】特開平9−263203号公報(図1及び図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のエアバック装置では、インフレータ(特許文献1の図1の20)からのガスが上方に向かって噴出されるように構成されている。そのため、インフレータからのガスがエアバックに供給されると、エアバックに上方への力が作用して、エアバックの先端部(後端部)が上方へ跳ね上がるように展開し(特許文献1の図1における乗員の胸部付近に向かって展開し)、更にガスが供給されると、エアバックの先端部が下方へ移動してシートクッションとシートバックとの交叉隅部付近にエアバック全体が膨張展開していたと考えられる(特許文献1の図1の状態)。その結果、エアバックの膨張展開時の挙動が安定せず、車両の衝突等の状況(エアバック装置の作動するタイミングや乗員の移動するタイミング等の差異)によっては、エアバックによって乗員を受け止めたい位置(例えば特許文献1では乗員腰部)で乗員を受け止めることができない可能性があった。
【0005】
具体的には、エアバックの先端部が上方へ跳ね上がるように展開した状態で、車両の衝突等によって乗員が前方に移動し、エアバックによって乗員を受け止めようとすると、本来乗員を受け止めようとする乗員腰部付近で乗員を受け止めることができず、エアバック装置の本来の機能を十分に発揮することができなかった。その結果、エアバックによって乗員を受け止めたい位置で乗員を受け止めることができない可能性があった。
【0006】
そこで、特許文献1のエアバック装置に特許文献2の助手席用エアバック装置のディフューザを適用して、エアバックに上方への力が作用し難いように構成することが考えられる。しかし、特許文献2のディフューザのように、下流側ガス流通口(特許文献2の図3の16d)の開口面積を上流側ガス流通口(特許文献2の図3の16c)より大きく設定して、エアバックの後方へインフレータからの膨張用ガスを多く供給すると、エアバックの前部と後部に圧力差が生じ、エアバックの後部に供給された膨脹用ガスが圧力の低いエアバックの前部に揺り戻されて、エアバックの後部が上下に揺れながら膨脹展開すると考えられる(図9参照)。そのため、エアバックの膨張展開時の挙動が安定せず、上述した問題点を解消することが難しいと考えられる。
【0007】
また、特許文献2の助手席用エアバック装置では、エアバックの前部を斜め後方上方に向かって立設されたフロントガラス(特許文献2の図1のG)に当接させて、エアバックが膨張展開した状態を維持するように構成されている。その結果、フロントガラスに当接させてエアバックが膨張展開した状態を維持するために、エアバックの容積やインフレータの容量を大きく確保する必要があり、製造コストが高騰する一因になるといった問題がある。
本発明は、エアバックの膨張展開時の挙動を安定させることができる助手席用エアバック装置を低コストで実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、助手席用エアバック装置を、次のように構成することにある。
エアバックに膨脹用ガスを供給するインフレータと、前記インフレータから供給される膨脹用ガスの流れを規制するディフューザと、を備え、前記インフレータからの膨脹用ガスの供給により、車両のインストルメントパネルの上面から前記エアバック及び前記ディフューザが突出し、前記エアバックが膨脹展開するように構成し、
前記エアバックが膨脹展開した状態で、前記インストルメントパネルの開口部より車両前方に位置する前記エアバックの容積が、前記インストルメントパネルの開口部より車両後方に位置する前記エアバックの容積より小さくなるように設定すると共に、
前記インストルメントパネルの上面から突出したディフューザに、車両前方に膨脹用ガスを供給するガス供給口を備え、前記ガス供給口から車両前方に供給された膨脹用ガスを車両後方に案内するガス流路を備える。
【0009】
(作用)
本発明の第1特徴によると、車両の衝突等により助手席用エアバック装置が作動しインフレータからの膨張用ガスがディフューザに供給されると、ディフューザが膨張し、ディフューザのガス供給口から車両前方に膨張用ガスが供給されて、容積が小さく設定されたインストルメントパネルの開口部の車両前方に位置するエアバックの圧力が上昇して膨張する。インストルメントパネルの開口部の車両前方に位置するエアバックに供給された膨張用ガスは、ガス流路によって車両後方に案内されて、容積が大きく設定されたインストルメントパネルの開口部の車両後方に位置するエアバックの圧力が上昇して膨張し、エアバック全体が膨張展開する。
【0010】
すなわち、ガス流路によって、ディフューザのガス供給口から車両前方に供給された膨張用ガスの車両後方への流れを形成することができ、例えばディフュ−ザから後方に膨脹用ガスを多く供給した場合のように、エアバックの後部に供給された膨脹用ガスが圧力の低いエアバックの前部に揺り戻されて、エアバックの後部が上下に揺れながら膨脹展開するようなことがなくなって(図6及び図9参照)、膨脹用ガスの供給されたエアバックの前部から車両後方に向って安定してエアバックを膨脹展開させることができる。その結果、エアバックの膨張展開時の挙動を安定させることができ、エアバックによって乗員を受け止めたい位置に向ってエアバックを膨脹展開することができる。
【0011】
本発明の第1特徴によると、エアバックの前部から車両後方(車両の衝突等によって乗員が移動する方向に対向する方向)に向ってエアバックを膨脹展開することができ、膨脹展開することによってエアバックに作用する力を、乗員の車両前方への移動を抑える方向に効率よく作用させることができる。その結果、膨脹展開したエアバックをフロントガラスに当接させないでエアバックが膨張展開した状態を維持し乗員を受け止めることが可能になり、エアバックの容量を小さく抑えることができ、容量の比較的小さいインフレータによってエアバックを膨張展開させることができる。
【0012】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、車両の衝突等の状況(エアバック装置の作動するタイミングや乗員の移動するタイミング等)が異なる場合であっても、エアバックによって乗員を受け止めたい位置で乗員を受け止める可能性を高めることができる助手席用エアバック装置を実現できる。
【0013】
本発明の第1特徴によると、インフレータの製造コストを削減することができ、助手席用エアバック装置の製造コストを削減することができる。
【0014】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の助手席用エアバック装置において、次のように構成することにある。
前記ディフューザの天井部と、前記エアバックが膨脹展開した状態で前記ディフューザの天井部に対向する前記エアバックの部分と、を接合する。
【0015】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、ディフューザの天井部とこの天井部と対向するエアバックの部分との接合により、ディフューザの両側部とその外方側に位置するエアバックとの間に車両後方へ向かうガス流路を形成することができる。また、ディフューザの天井部とこの天井部と対向するエアバックの部分との接合により、ディフューザと接合したエアバックの部分の上方への膨張が抑えられて、ディフューザのガス供給口から車両前方へ供給された膨張用ガスの上方への流れを抑制することができる。すなわち、ディフューザのガス供給口から車両前方へ供給された膨張用ガスの上方への流れを抑制しながら、接合によって形成されたガス流路によって安定して車両後方へ膨張用ガスを導くことができる。その結果、エアバックの膨張展開時の挙動を更に安定させることができる。
【0016】
本発明の第2特徴によると、ディフューザの天井部とこの天井部と対向するエアバックの部分との接合により、ディフューザと接合したエアバックの部分の上方への膨張が抑えられて、エアバックの前部の膨張を小さく抑えることができる。その結果、エアバックの容量を小さく抑えることができ、容量の比較的小さいインフレータによってエアバックを膨張展開させることができる。
【0017】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、車両の衝突等の状況(エアバック装置の作動するタイミングや乗員の移動するタイミング等)が異なる場合であっても、エアバックによって乗員を受け止めたい位置で乗員を受け止める可能性を更に高めることができる助手席用エアバック装置を実現できる。
【0018】
本発明の第2特徴によると、インフレータの製造コストを削減することができ、助手席用エアバック装置の製造コストを削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〔助手席用エアバックの全体構成〕
図1〜図3に基づいて、乗用車に装備された助手席用エアバック装置1の全体構成について説明する。図1及び図2は、膨脹展開した状態における助手席用エアバック装置1の全体側面図及び全体横断平面図をそれぞれ示す。また、図3(イ)及び(ロ)は、収納された状態及び膨脹展開した状態における図2のX−Xの位置での助手席用エアバック装置1の前部の縦断側面図をそれぞれ示す。なお、図2及び図3中に示す矢印は、インフレータ3からの膨脹用ガスが流れる状態を示す流れ方向を示す(図4、図6、図7、図9についても同様)。また、以下の説明において、車両前方及び車両後方をそれぞれ前方及び後方と表示する。
【0020】
図1〜図3に示すように、助手席用エアバック装置1は助手席6の前方で、前部ガラス7(フロントガラス)の後方に位置するインストルメントパネル2(以下インパネ2と称す)の上部の内側に配設され、折り畳まれたエアバック10と、エアバック10に供給する膨脹用ガスを発生させるインフレ−タ3と、膨脹用ガスの流れを規制するディフュ−ザ20と、エアバック10、インフレ−タ3及びディフュ−ザ20を収納するケース4と、を備えて構成されている。
【0021】
インパネ2の上面には、開口部2aが形成されており、この開口部2aからインパネ2の内部に収納されたエアバック10及びディフュ−ザ20が、インフレータ3から供給される膨脹用ガスにより上方に膨出するように構成されている。
【0022】
図3に示すように、ケース4は、板金加工によって箱形に成形されており、上方に長方形状に開口された開口の周縁に外方側に折り曲げ成形されたフランジ部4aが形成されている。ケース4底部の中央部には、インフレータ4を固定するためのインフレータ取付穴4bが形成されており、このインフレータ取付穴4bに上方からインフレータ3が固定されている。ケース4は、インパネ2の開口部2aの周縁部に内面側から固定されており、このケース4の内部に、折り畳まれたエアバック10及びディフュ−ザ20が収納されている。
【0023】
インパネ2の開口部2aには、開口部2aを上方から覆う開閉式の蓋5が、開口部2aの後部の左右方向の軸心周りに揺動開閉可能に取り付けられており、インフレータ3からの膨脹用ガスがディフュ−ザ20及びエアバック10に供給されると、この蓋5が後方へ揺動してインパネ2の開口部2aが開放してディフュ−ザ20及びエアバック10がインパネ2の外部に膨出するように構成されている。
【0024】
〔エアバック及びディフュ−ザの詳細構造〕
図1〜図5に基づいて、エアバック10及びディフュ−ザ20の詳細構造について説明する。図4は、図2のY−Yの位置での縦断背面図を示し、図5は、ディフュ−ザ20を斜め左側後方上方から見た斜視図を示す。
【0025】
図1及び図2に示すように、エアバック10は複数の帯体を縫合することによって前後に長い形状に成形されており、インパネ2の開口部2aより前方に膨出するエアバック10の容積が、インパネ2の開口部2aより後方に膨出する容積より小さくなるように設定されている。
【0026】
図1に示すように、エアバック10の側面視における前部11の形状は、半円形に湾曲した形状に成形されており、インフレータ3からディフュ−ザ20を介して前方に噴出された膨脹用ガスをこの湾曲成形した前部11で後方に反転させて、無理なくエアバック10の後方に膨脹用ガスを導くことができるように構成されている。
【0027】
エアバック10の側面視における後部12の形状は、大きく湾曲させた形状に成形されており、前部11から後部12に亘って末広がり状に徐々に縦断面積が大きくなるように構成されている。エアバック10の前部11の上下中間位置と、エアバック10の後部12の上下中間位置の高さが、略同じ高さに位置するようにエアバック10の形状が形成されており、エアバック10の前部11で後方に反転した膨脹用ガスがエアバック10の後部12の上下中間位置付近に多く供給されて、エアバック10の後部12が上下に振れることなく膨脹するように構成されている。
【0028】
図2に示すように、エアバック10の平面視における前部11の形状は、左右両端部が丸く湾曲させた形状に成形されており、インフレータ3からディフュ−ザ20を介して前方に供給された膨脹用ガスが左右に均等に振り分けられて、この湾曲成形した前部11で後方へ反転して、無理なくエアバック10の後方に膨脹用ガスを導くことができるように構成されている。
【0029】
エアバック10の平面視における後部12の形状は、左右両端部が大きく湾曲させた形状に成形されており、前部11から後部12に亘って左右対称形状で末広がり状に徐々に縦断面積が大きくなるように構成されている。
【0030】
図1及び図2に示すように、エアバック10の前後中央部下面側の左右には、ベントホール13,13が配設されており、車両の衝突等によって乗員が膨脹展開したエアバック10に当接すると、このベントホール13,13から膨脹用ガスを流出させることができるように構成されている。
【0031】
図3〜図5に示すように、ディフュ−ザ20は、可撓性を有する複数の帯体を縫合することによって成形されており、前部21と、後部22と、天井部23と、底部24と、右及び左側部25,26とを備えて構成されている。
【0032】
ディフュ−ザ20の前部21には、左右に長い長円形状の左右の前部ガス供給口21a(ガス供給口に相当)が形成されており、この左右の前部ガス供給口21aから前方に膨脹用ガスを左右に振り分けて供給できるように構成されている。ディフュ−ザ20の後部22には、その上部の左右中央部に前部ガス供給口21aより開口面積が小さく左右に長い長円形状の後部ガス供給口22aが形成されており、この後部ガス供給口22aから膨脹用ガスを少量供給することで、前部ガス供給口22aから噴出される膨脹用ガスの流れを安定させることができるとともに、ディフュ−ザ20の後方に位置するエアバック10前後中央部の下部に供給される膨脹用ガスが不足することを防止できる。
【0033】
ディフュ−ザ20の天井部23は、長方形状に成形されており、膨脹用ガスが供給され膨脹した状態で、斜め前方上方に大きく傾斜するように構成されている。このように、斜め前方上方に大きく傾斜させることにより、インフレータ3から供給された膨脹用ガスを、この天井部23で案内しながらディフュ−ザ20の前方に多く導くことができる。
【0034】
ディフュ−ザ20の天井部23の前後及び左右中央部に位置する接合部27において、ディフュ−ザ20の天井部23が、この接合部27に対向するエアバック10の前部11の左右中央部と縫合されており、ディフュ−ザ20の左右両側方に位置するエアバック10に、ディフュ−ザ20の前部ガス供給口21aから供給された膨脹用ガスを後方に案内するガス流路Aが形成されるように構成されている(図4参照)。
【0035】
接合部27において、エアバック10とディフュ−ザ20の天井部23とが平面視で前後に長い長方形状に縫合されており、ガス流路Aが前後に長い筒状に形成されるように構成されている。
【0036】
ディフュ−ザ20の底部24の前後及び左右中央部には、円形の開口24aが形成されており、ディフュ−ザ20をエアバック10の内部に収容した状態で、この開口24aの上方からインフレータ3を装着して、インフレータ3をケース4に締め付け固定することで、ディフュ−ザ20及びエアバック10をケース4に固定することができる。
【0037】
以上のように助手席用エアバック装置1を構成することにより、車両の衝突等により助手席用エアバック装置1が作動し、インフレータ3の噴出口3aから膨脹用ガスが供給されると、インフレータ3の噴出口3aから噴出された膨脹用ガスがディフュ−ザ20に供給されてディフュ−ザ20が膨脹し、ディフュ−ザ20の前部及び後部ガス供給口21a,22aから膨脹用ガスがエアバック10に供給されて、エアバック10が膨脹展開する。
【0038】
上記のようなエアバック10の形状を採用し、エアバック10とディフューザ20の天井部23とを縫合する構成を採用することにより、インパネ2の開口部2aの前方に膨張するエアバック10の容積、及び、ディフューザ20の上方に位置するエアバック10の膨張する容積を小さく構成することができ、エアバック10全体の容積を小さく設定することができる。
【0039】
その結果、前部ガラス7にエアバック10の前部11を当接させなくてもエアバック10を膨張展開させることができ、図3に示すように前部ガラス7が直立に近い状態で立設されている車両や、インパネ2の開口部2aやインフレータ3が前部ガラス7に対して遠い位置に配設されている車両(図示せず)においても、エアバック10の容積やインフレータ3の容量を大きく確保しなくてもエアバック10を膨張展開させることができ、製造コストを削減できる。
【0040】
また、エアバック10とディフューザ20の天井部23とを縫合する構成を採用することにより、縫合した接合部27によってエアバック10とディフューザ20との協働で膨脹用ガスによるエアバック10の前部11の上方への力を抑えることができ、エアバック10の強度を向上させることができる。その結果、エアバック10にインフレータ3からの膨脹用ガスが供給されたとしても、この膨脹用ガスの供給に耐え得るエアバック10を実現できる。
【0041】
〔エアバックの作動状況〕
図6及び図9に基づいて、エアバック10の作動状況について説明する。図6は、エアバック10の膨脹する状況を説明するための概略図を示し、(イ)、(ロ)、(ハ)の順で変化していく状態を示す。図9は、ディフューザ31から後方に膨張用ガスを供給した場合におけるエアバック30の膨脹する状況を説明するための概略図を示し、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の順で変化していく状態を示す。なお、図6の白抜きの矢印は、車両の衝突等による乗員の移動方向を示し、図9の白抜きの矢印は、エアバック30の後部の揺れる方向を示す。
【0042】
図6(イ)に示すように、車両の衝突等により助手席用エアバック装置1が作動しインフレータ3から膨脹用ガスが供給されると、ディフュ−ザ20に膨脹用ガスが供給されてディフュ−ザ20が膨脹し、蓋5が後方に揺動開閉して、ディフュ−ザ20の前部及び後部ガス供給口21a,22aから膨脹用ガスがエアバック10に供給される。ディフュ−ザ20は前方に膨脹用ガスを多く導くことができるように構成されているため、まずエアバック10の前部11が膨脹して、エアバック10の前部11の圧力が上昇する。
【0043】
ディフュ−ザ20の天井部23とエアバック10は縫合されており、エアバック10の下面側とインパネ2との接触面積は変化しないため、エアバック10の前部11に供給された膨脹用ガスの圧力が更に上昇して高圧になり、この高圧になった膨脹用ガスが、湾曲成形したエアバック10の前部11によって後方に反転し、ガス流路Aに案内されながら、助手席6に着座した乗員の胸部付近に向って供給される(図6(ロ)の状態)。
【0044】
そして、エアバック10の前部11から供給された膨脹用ガスによってエアバック10の後部12の上下中間位置付近の圧力が上昇し、更に膨脹用ガスが供給されることにより、エアバック10の後部12の上部及び下部の圧力が上昇し、エアバック10全体が膨脹展開した状態になる(図6(ハ)の状態)。
【0045】
図6(ロ)及び(ハ)に示すように、車両の衝突等によって乗員が前方に移動する方向(図6中の白抜きの矢印)に対向する方向にエアバック10を膨脹展開させることにより、車両の衝突等によって乗員が前方へ移動しエアバック10に当接した場合に、膨脹展開することによってエアバック10に作用する後方へ向う力と、乗員の前方への移動によってエアバック10に作用する前方へ向う力とが互いに打ち消し合って、エアバック10の後部12を上方及び下方へ移動させる方向の力として働き難くなり、膨脹展開することによってエアバック10に作用する力を、乗員の前方への移動を抑える方向に効率よく作用させることができる。その結果、例えばエアバック10の前部11を前部ガラス7に当接させて乗員を受け止めなくても、エアバック10の膨脹展開によって乗員を効率よく受け止めることができる。
【0046】
図9(イ)に示すように、ディフュ−ザ31から後方に向って膨脹用ガスを供給するように助手席用エアバック装置を構成すると(又はディフュ−ザ31から後方に多く膨脹用ガスを供給するように助手席用エアバック装置を構成すると)、車両の衝突等により助手席用エアバック装置が作動しインフレータ32から膨脹用ガスが噴出すると、エアバック30の後部に直接膨脹用ガスが供給される。エアバック30の後部に膨脹用ガスが供給されると、エアバック30の後部の圧力が上昇するが、エアバック30の前部には膨脹用ガスが供給されないため(又はエアバック30の前部に供給される膨脹用ガスが少ないため)、エアバック30の前部の圧力は低い。
【0047】
そのため、圧力の上昇したエアバック30の後部から圧力の低いエアバック30の前部に膨脹用ガスの流れが生じ(膨脹用ガスが揺り戻されて)、この膨脹用ガスの流れによって、エアバック30の後部が上下に振れながら膨脹する(図9(ロ)及び(ハ)の状態)。そして、更に膨脹用ガスを供給すると、エアバック30全体が膨脹展開した状態になる(図9(ニ)の状態)。
【0048】
このように、上述したエアバック10及びディフュ−ザ20の構造を採用することにより、ディフュ−ザ31から後方に向って膨脹用ガスを供給するように助手席用エアバック装置を構成した場合のように、エアバック10の後部12が上下に振れながら膨脹することを防止することができ、エアバック10の展開挙動を安定させることができる。
【0049】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、ディフュ−ザ20の天井部23の接合部27において、ディフュ−ザ20の天井部23と、この接合部27に対向するエアバック10とを縫合し、ディフュ−ザ20の左右両側方に位置するエアバック10に、ガス流路Aが形成されるように構成した例を示したが、図7及び図8に示すように、ディフュ−ザ20の天井部23の左右両側部に直線状の接合部27を構成し、この直線状に構成した接合部27において、ディフュ−ザ20の天井部23と、この接合部27に対向するエアバック10とを縫合して、ディフューザ20の左右両側方及び上方に位置するエアバック10に3つのガス流路Aが形成されるように構成してもよい。また、図示しないが4つ以上のガス流路Aが形成されるように構成してもよい。
【0050】
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、ディフュ−ザ20の前部21に、左右に長い長円形状の左右の前部ガス供給口21aを形成し、ディフュ−ザ20の後部22に、左右に長い長円形状の後部ガス供給口22aを形成した例を示したが、前部ガス供給口21a及び後部ガス供給口22aの数量及び形状は異なる数量及び形状を採用してもよく、例えば図7及び図8に示すように、円形の前部ガス供給口21a及び後部ガス供給口22aを採用してもよい。また、図示しないが後部ガス供給口22aを設けていないディフュ−ザ20を採用してもよい。
【0051】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、エアバック10とディフュ−ザ20の天井部23とを縫合によって接合した例を示したが、エアバック10とディフュ−ザ20の天井部23とを異なる方法によって接合してもよく、例えば接着や溶着によって接合してもよい。
【0052】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、エアバック10が助手席6に着座した乗員の胸部付近に向って膨張展開するように助手席用エアバック装置1を構成した例を示したが、例えばエアバック10が助手席6に着座した乗員の腰部付近に向かって膨張展開するように助手席用エアバック装置1を構成してもよい。
【0053】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、エアバック10の形状を前後に長い形状に膨張展開するように構成した例を示したが、異なる形状に膨脹展開するように構成してもよく、例えばエアバック10の形状を前後方向の長さが比較的短い通常の四角筒形状に膨張展開するように構成してもよい。
【0054】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]及び[発明の実施の第2別形態]においては、前部ガラス7が直立に近い状態で立設されている車両に助手席用エアバック装置1を採用した例を示したが、前部ガラス7の形状等が異なる車両においても同様に適用でき、例えば前部ガラス7が斜め後方に大きく傾斜しているセダンタイプの車両においても同様に適用できる。
【0055】
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]及び[発明の実施の第2別形態]においては、助手席用エアバック装置1を乗用車に装備した例を示したが、乗用車に限らず商用車に装備する助手席用エアバック装置1おいても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】膨脹展開した状態における助手席用エアバック装置の全体側面図
【図2】膨脹展開した状態における助手席用エアバック装置の横断平面図
【図3】助手席用エアバック装置の前部の縦断側面図
【図4】助手席用エアバック装置の前部の縦断背面図
【図5】ディフュ−ザの斜視図
【図6】エアバックの膨脹する状況を説明するための概略図
【図7】発明の実施の第1別形態での助手席用エアバック装置の前部の縦断背面図
【図8】発明の実施の第1別形態でのディフュ−ザの斜視図
【図9】ディフューザから後方に膨張用ガスを供給した場合におけるエアバックの膨脹する状況を説明するための概略図
【符号の説明】
【0057】
1 助手席用エアバック装置
2 インストルメントパネル
2a 開口部
3 インフレータ
10 エアバック
20 ディフュ−ザ
21a 前部ガス供給口(ガス供給口)
23 天井部
A ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバックに膨脹用ガスを供給するインフレータと、前記インフレータから供給される膨脹用ガスの流れを規制するディフューザと、を備え、前記インフレータからの膨脹用ガスの供給により、車両のインストルメントパネルの上面から前記エアバック及び前記ディフューザが突出し、前記エアバックが膨脹展開するように構成し、
前記エアバックが膨脹展開した状態で、前記インストルメントパネルの開口部より車両前方に位置する前記エアバックの容積が、前記インストルメントパネルの開口部より車両後方に位置する前記エアバックの容積より小さくなるように設定すると共に、
前記インストルメントパネルの上面から突出したディフューザに、車両前方に膨脹用ガスを供給するガス供給口を備え、前記ガス供給口から車両前方に供給された膨脹用ガスを車両後方に案内するガス流路を備えてある助手席用エアバック装置。
【請求項2】
前記ディフューザの天井部と、前記エアバックが膨脹展開した状態で前記ディフューザの天井部に対向する前記エアバックの部分と、を接合してある請求項1記載の助手席用エアバック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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