説明

効果付与装置

【課題】 弦信号の音高に基づいた共鳴現象を模擬する効果を弦信号に付与し、その効果の特性を制御する際に大きな違和感を生じないようにする。
【解決手段】 トリガ検出部22による新たな弦の演奏の検出に応じて、効果チャンネル14a乃至14hのうち、効果の付与を停止した際に生じる違和感が最も小さいものを制御部24が選択する。制御部24は、選択された効果チャンネルに、新たな演奏の楽音信号を供給すると共に、ピッチ検出部20によって検出された新たな弦の演奏の音高に対応する特性の効果を付与するためのパラメータを、パラメータメモリ28から読み出して、選択された効果チャンネルで付与する効果の特性を、読み出したパラメータに基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音信号に効果を付与する効果付与装置に関し、特に弦振動を用いた楽音信号に効果を付与する効果付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子楽器では、遅延メモリを使用した効果付与回路に楽音信号を入力して、効果付与回路で楽音信号に効果を付与することが行われている。例えば特許文献1には、弦楽器の弦振動から得られた弦信号をリングバッファのような遅延手段を用いた効果付与回路に入力し、効果付与回路において弦楽器の胴による共鳴現象を模擬する効果を付与することが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−24997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すような技術において、遅延手段を用いた効果付与回路において、効果の特性を変更する際に、効果を付与したまま効果の特性を変更すると、ノイズや意図しない異音が生じる。このため、効果の特性を変更する際には、効果の付与を停止して、遅延手段の内容を完全にクリアした後に、効果の特性を変更する必要がある。また、本来、弦楽器の胴による共鳴現象や、ピアノの響板による共鳴現象によって発生させた楽音には、余韻がある。共鳴現象を模擬した効果の特性を付与する際には、従前の効果の付与を停止する必要があるが、効果の付与の停止によって自然な余韻が損なわれ、違和感が生じる。
【0005】
また、自然楽器であるギターやピアノなどでは、ギターの胴やピアノの響板の共鳴によって弦振動が音として空間に放射される。胴や響板による共鳴現象の周波数特性は平坦ではなく、特定の周波数成分のレベルが高くなっている。このため、或る音高の楽音は、適度に響くが、別の音高の楽音は響きすぎたり、響きがたりなかったりする。自然楽器においては、1つの胴や響板によって様々な音高の楽音を扱うので、全ての楽音を適度に響くように楽器を製造することが、困難である。
【0006】
本発明は、弦振動を用いた楽音信号に、効果、例えばギターの胴やピアノの響板などの共鳴現象を模擬する効果を付与する際に、楽音の音高に基づいて効果の特性を制御することにより、どのような楽音に対しても適度な響きを付与できるようにし、特に、楽音の音高に基づいて効果の特性を制御する際に大きな違和感を生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の効果付与装置では、複数の効果チャンネルが、弦の振動に基づく楽音信号に効果を付与する。楽音信号は、弦の振動による弦信号自体のこともあるし、弦振動に基づいて発生された可聴音信号であることもある。前記弦の振動に基づいて新たな演奏を演奏検出手段が検出する。新たな演奏としては、発音していなかった弦が振動するものと、既に振動してた弦が同じ音高で或いは異なる音高で振動する場合とがある。前記弦の振動に基づいて音高検出手段が新たに演奏された楽音の音高を検出する。前記楽音信号の音高に対応する特性の効果を、前記楽音信号に付与するためのパラメータを記憶手段が記憶している。前記演奏検出手段による新たな演奏の検出に応じて、前記各効果チャンネルのうち、効果の付与を停止した際に生じる違和感が最も小さいものを選択手段が選択する。例えば、複数の効果チャンネルのうち未使用のものがあれば、未使用のものを選択手段が選択するし、例えば各効果チャンネルが出力している効果音信号のうちレベルが最も低いものを選択手段が選択する。制御手段が、この選択された効果チャンネルに、検出された新たな演奏の楽音信号を供給すると共に、音高検出手段によって検出された新たな演奏の音高に対応する特性の効果を付与するためのパラメータを、前記音高検出手段によって検出された音高に基づいて前記記憶手段から読み出して、前記選択された効果チャンネルで付与する効果の特性を、読み出したパラメータに基づいて制御する。
【0008】
このように構成された効果付与装置では、効果チャンネルに供給される楽音信号の音高に対応する特性の効果が効果チャンネルによって付与されるので、どのような楽音に対しても例えば適度な響きを付与できる。しかも、この新たに効果を付与する効果チャンネルには、例えば全ての効果チャンネルが使用されるような状況において、現在効果を付与している効果チャンネルのうち、効果の付与を停止した際に違和感が最も小さいものが選択されているので、大きな違和感が生じないようにすることができる。また、新たに効果を付与する際に、選択された効果チャンネル以外の効果チャンネルには、以前から付与していた効果をそのまま付与し続けるので、付与中の効果が不自然に途切れないようにすることができる。
【0009】
選択手段によって選択された効果チャンネルが効果を既に付与しているとき、その効果チャンネルにおける効果の付与を停止させる効果停止手段を設けることができる。例えば、選択された効果チャンネルに現在供給されている楽音信号の供給を停止したり、当該効果チャンネルから出力されている効果付与された信号の出力を停止したりする。このように構成すると、以前に付与されていた効果と新たに付与された効果とが混合した状態になることによる違和感を抑えることができる。
【0010】
各効果チャンネルが付与する効果は、自然楽器による共鳴現象、例えば弦楽器の胴やピアノの響板による共鳴を模擬するものとすることが望ましい。これによって自然楽器である弦楽器やピアノでは不可能な、全ての音高を適度に響いた効果を付与することができる。
【0011】
各効果チャンネルは、遅延用メモリに楽音信号を一時記憶させて遅延させることにより効果を付与するものとすることが望ましい。その場合、効果付与停止手段は、遅延用メモリの内容をクリアする。例えば、遅延用メモリへの新たな楽音信号の供給を停止する。このように構成すると、効果チャンネル付与手段で従前に効果が付与されていた楽音信号が遅延用メモリ内に残存することがなく、新たに供給された楽音信号に更に違和感が生じないようにすることができる。
【0012】
新たに演奏された弦の楽音信号に従前から効果を付与している効果チャンネルが存在する場合、新たに演奏された弦の楽音信号を当該効果チャンネルに供給するのを停止することが望ましい。このように構成すると、同じ弦が続けて演奏されたような場合に、新たな演奏による楽音信号に対して、それまで効果を付与していた効果チャンネルと、新たに選択された効果チャンネルとで二重に効果が付与されることを防止できる。
【0013】
各効果付与チャンネルの総数は、弦の数よりも多くすることが望ましい。このように構成すると、全ての弦の楽音信号に対して効果が付与されている状態において、新たな演奏がなされた場合に、新たな演奏前に付与されていた効果の付与を維持しつつ、新たな演奏に対して効果を付与することができる。
【0014】
選択手段は、前記演奏検出手段によって新たな演奏が検出されたとき、新たに演奏された楽音の音高に対応する特性の効果を付与中の効果チャンネルが存在するとき、その効果チャンネルを選択することが望ましい。このように構成すると、数が限られている効果チャンネルを有効に使用することができる。
【0015】
弦は、複数設けることができる。この場合、各弦に対応してピックアップが設けられる。これらピックアップによって検出された弦の振動に基づく楽音信号に、効果チャンネルが効果を付与する。このように構成することによって、例えばギターのような自然楽器を模擬することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、弦の振動を利用した楽音信号に、その音高に応じた適度な効果、例えば適度な響きを付与することができる上に、適度な効果を付与する際に、大きな違和感を生じないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の1実施形態の効果付与装置2は、弦楽器、例えばギターの胴による共鳴現象を模擬した効果を楽音信号に付与するもので、図1に示すように弦楽器部、例えばギター部4と共に使用される。ギター部4は、演奏者によって演奏される弦楽器、例えばギターの形状をし、ギター部4には、複数、例えば6本の弦が張られ、各弦に対して弦振動検出手段、例えばピックアップ6a乃至6fが設けられている。ピックアップ6a乃至6fは、対応する弦の振動を検出して、楽音信号、例えば弦信号を出力する。各弦信号が、効果付与装置2に供給され、各弦に対応して設けられたA/D変換器8a乃至8fによってデジタル弦信号に変換され、処理手段、例えばDSP10に供給され、ここでギターの胴による共鳴現象を模擬した効果が各デジタル弦信号に付与され、D/A変換器12によってアナログ信号に変換され、図示しない拡声手段、例えばサウンドシステムに供給される。
【0018】
効果付与装置2は、ギター部4のボディ内に内蔵することも可能であるし、ギター部4のボディとは別の筐体に内蔵されて、ギター部4とケーブル或いは無線で接続されることも可能である。
【0019】
DSP10は、各デジタル弦信号に対してデジタル処理を行う演算回路を有している。この他に、DSP10は、記憶手段、例えばこの演算回路が実行する処理をプログラムとして記憶している不揮発性のプログラムメモリと、演算回路での処理に用いるデータを記憶しているデータメモリと、プログラムを実行する際のデータの一時記憶に用いる一時記憶メモリとを有している。
【0020】
プログラムに従って演算回路が実現する各機能を図2に機能ブロック図として示す。図2から明らかなように、効果付与装置2には、弦の数よりも多く、例えば8個の効果チャンネル14a乃至14hが設けられている。効果チャンネル14a乃至14hは、入力されたデジタル弦信号に応じてギターの胴による共鳴現象を模擬した効果が付与された効果音信号を生成する。
【0021】
各効果チャンネル14a乃至14hのいずれに、どのデジタル弦信号を供給するかの割り当てをアサイン部16が行う。そのため、各デジタル弦信号がアサイン部16に供給されている。なお、複数のデジタル弦信号を1つの効果チャンネルに供給する場合には、アサイン部16において複数のデジタル弦信号を混合した後に、効果チャンネルに供給する。また、各効果チャンネル14a乃至14hへのアサイン部16からのデジタル弦信号の供給開始は、ノイズの発生を防止するため、徐々にデジタル弦信号のレベルを増加させることによって行い、供給停止は同じくノイズの発生を防止するために徐々にデジタル弦信号のレベルを低下させることによって行う。
【0022】
各効果チャンネル14a乃至14hからの効果音信号とデジタル弦信号とは、混合部18によって混合されて出力される。
【0023】
入力された各デジタル弦信号は音高検出手段、例えばピッチ検出部20に供給されている。ピッチ検出部20は、入力されたデジタル弦信号の音高を、入力されたデジタル弦信号の周期に基づいて検出する。
【0024】
入力された各デジタル弦信号は演奏検出手段、例えばトリガ検出部22に供給されている。トリガ検出部22は、演奏による楽音の発音開始及び発音終了を検出し、その発音開始及び発音終了した弦の番号も出力する。例えば、トリガ検出部22は、入力されたデジタル弦信号のレベル及びピッチ検出部20で検出した音高に基づいて新たな発音の開始を検出する。新たに発音が開始されたと判断する条件は2つある。1つは、弦振動のレベルが所定の発音レベル以上であって、かつ弦振動のレベルが所定時間前よりも所定レベル以上大きく変化した場合である。もう1つは、弦振動のレベルが上記発音レベル以上であって、かつピッチ検出部20で検出された楽音の音高がそれまでよりも半音以上変化したときである。これら2つの条件のいずれかが満たされたとき、トリガ検出部22は、発音開始検出信号を発生する。また、トリガ検出部22は、弦信号のレベルが所定の消音レベル未満になったとき、楽音が消音されたと判断し、発音終了検出信号を発生する。
【0025】
これらトリガ検出部20からの検出信号及びピッチ検出部22からの音高信号は、制御手段、例えば制御部24に供給される。制御部24は、トリガ検出部20から演奏開始検出信号が供給されたとき、いずれの効果チャンネルにその演奏開始されたデジタル弦信号を供給させるか指示する。また、ピッチ検出部22からの音高信号に基づいて、効果チャンネルの周波数特性を制御する。
【0026】
効果チャンネル14a乃至14hのいずれの内部でも、遅延時間が異なる複数のコムフィルタが並列接続されている。コムフィルタは、入力されたデジタル弦信号を設定された時間だけ遅延させる遅延手段、例えばディレイラインを有し、ディレイラインから出力されたデジタル弦信号に所定のフィードバック係数を乗算して、その乗算値がディレイラインの入力側にフィードバックされる。DSP10の一時記憶メモリの一部の領域が遅延用メモリとして使用され、ディレイラインは、この遅延用メモリにデジタル弦信号を一時記憶させることによって実現される。コムフィルタの周波数特性は、ディレイラインの遅延時間とフィードバック係数とによって定められ、効果チャンネルの周波数特性は、それの内部で並列接続されている各コムフィルタの周波数特性を総合したものとなる。
【0027】
なお、効果チャンネル14a乃至14hに弦信号が入力されなくなったとき、効果チャンネル14a乃至14hから出力される効果音信号は、時間経過と共に徐々に減衰する。また、弦は、演奏者によって弾かれることによって演奏されるので、効果チャンネル14a乃至14hに供給されるデジタル弦信号は演奏中に一様に減衰する。また、各効果チャンネル14a乃至14hで付与される効果も一様に減衰する特性であるので、効果音信号は一様に減衰する特性である。
【0028】
効果チャンネル14a乃至14hで付与する効果の特性を変更する際には、その効果チャンネルで使用している遅延用メモリの内容をクリアする。このクリアは、例えばディレイラインの入力レベルを0としてから、そのディレイラインの遅延時間分だけ待つことによって行われる。これによって、ディレイラインの内容は全て0となり、クリアされる。なお、ディレイラインを、直列接続された複数のサブディレイラインによって構成し、各サブディレイラインの入力側で入力レベルを0にできるように構成しておくことが望ましい。これによって、遅延用メモリのクリアに要する時間を、各サブディレイラインの遅延時間に短縮することができる。効果チャンネル14a乃至14hの構成要素として、コムフィルタ以外にも、FIRフィルタ、バンドパスフィルタ、オールパスフィルタまたはウエーブガイドフィルタのような他のフィルタを使用することもできる。
【0029】
制御部24による各効果チャンネル14a乃至14hの制御には、効果番号メモリ26、パラメータメモリ28、第1効果チャンネルメモリ30、第2効果チャンネルメモリ32を使用する。
【0030】
効果番号メモリ26とパラメータメモリ28とは、データメモリの一部領域に設けられている。効果番号メモリ26には、図3(a)に示すように楽音の各音高に対応して、その音高に対応する特性の効果の効果番号が記憶されている。パラメータメモリ28には、同図(b)に示すように各効果番号に対応して、各コムフィルタの遅延時間及びフィードバック係数がパラメータとして記憶されている。制御部24は、ピッチ検出部20によって検出されたデジタル弦信号の音高をインデックスとして、この音高に対応する効果番号を効果番号メモリ26から検索する。検索された効果番号をインデックスとして、効果番号に対応するパラメータ(遅延時間及びフィードバック係数)をパラメータメモリ28から制御部24が検索する。結局、ピッチ検出部20によって検出された音高に対応するパラメータが決定される。音高に対応するパラメータは、当該音高のデジタル弦信号が効果チャンネルに供給されたとき、そのデジタル弦信号に適度な響きを持った効果音信号を生成されるように設定されている。
【0031】
例えば近い音高や、音名が同じ音高に関しては、適度な響きが得られる特性が類似している可能性がある。このような場合には、これらの音高の楽音には同じ特性の効果が付与するため、効果番号メモリのこれらの音高に対する効果番号を同じ値に設定することもできる。この場合、重複するパラメータを記憶する必要がないので、パラメータメモリ28の容量を小さくすることができる。
【0032】
一方、効果番号メモリ26とパラメータメモリ28とを別個に設けたが、パラメータメモリ28を、効果番号をインデックスとせずに、音高をインデックスとするように構成することもできる。この場合、効果番号メモリ26は不要である。但し、パラメータメモリ28は、近い音高や、音名が同じ音高に対しても、それぞれ同じパラメータを記憶させる必要がある。
【0033】
第1及び第2効果チャンネルメモリ30、32は、一時記憶メモリの一部領域に設けられている。第1効果チャンネルメモリ30には、図3(c)に示すように、各効果番号に対応して、その効果番号に対応するパラメータが設定されている効果チャンネルの番号が記憶される。図3(c)では、効果番号1に対応するパラメータが、効果チャンネル番号8の効果チャンネルに設定されていることを示してある。但し、効果番号に対応するパラメータが設定されている効果チャンネルが存在しない場合には、その効果番号に対応する効果チャンネルが存在しないことを示す値が設定される。効果番号をインデックスとして第1効果チャンネルメモリを制御部24が検索することによって、その効果番号に対応するパラメータが設定される効果チャンネルが存在するか否か、また存在する場合には、その効果チャンネルは何番のものであるかを知ることができる。
【0034】
第2効果チャンネルメモリ32には、同図(d)に示すように、各弦に対応して、その弦のデジタル弦信号が供給されている効果チャンネルの番号が記憶される。同図(d)では、弦番号1の弦のデジタル弦信号が、チャンネル番号が3の効果チャンネルに供給されていることを示している。なお、トリガ検出部22において発音開始及び発音停止が検出された際に、その発音開始及び停止した弦を表す弦番号がトリガ検出部22から制御部24に供給されている。デジタル弦信号がいずれの効果チャンネルにも供給されていない場合には、効果チャンネルの番号の代わりに、いずれの効果チャンネルにも弦信号が供給されていないことを表す値が設定されている。制御部24が弦番号をインデックスとすることによって、その弦番号の弦信号が効果チャンネルのいずれかに供給されているか否か、供給されている場合には、その効果チャンネルは何番のものであるかを知ることができる。
【0035】
図4を参照して、発音開始が検出された場合に応じて行われる発音開始処理について説明する。まず、トリガ検出部22によって発音開始が検出されると、ピッチ検出部22によって検出された新たに発音開始されたデジタル弦信号の音高をインデックスとして効果番号メモリ26を検索して、この音高に対応する効果番号を決定し、この効果番号を発音開始されたデジタル弦信号の音高に対応する効果番号と設定する(ステップS2)。
【0036】
次に、設定された効果番号をインデックスとして第1効果チャンネルメモリ30を検索して、新たに発音開始された楽音の音高に対応するパラメータが設定されている、即ち同じ効果の特性が設定されている効果チャンネルが存在するか判断する(ステップS4)。
【0037】
この判断の答えがノーの場合、トリガ検出部22から得た発音開始した弦の番号をインデックスとして第2効果チャンネルメモリ32を検索して、発音開始した弦のデジタル弦信号に対して効果を付与している効果チャンネルが存在するか否かを判断する(ステップS6)。
【0038】
この判断の答えがイエスの場合には、新たに演奏された弦のデジタル弦信号をその効果チャンネルに供給しないようにアサイン部16に指示すると共に、第2効果チャンネルメモリ32の内容を更新する(ステップS8)。即ち、アサイン部16は、この指示に応じて、指示された効果チャンネルへの新たに演奏された弦のデジタル弦信号を供給しない。また、新たに演奏された弦の欄に、いずれの効果チャンネルにも弦信号が供給されていないことを示す値を設定する。これによって、演奏中の弦が、今までとは異なるピッチで再度演奏されたときに、その弦のデジタル弦信号に今まで効果を付与していた効果チャンネルと、新たに効果を付与する効果チャンネルとで二重に効果が付与されることを防ぐことができる。
【0039】
ステップS8に続いて、或いはステップS6の判断の答えがノーの場合、各効果チャンネルのうち、出力している効果音信号のレベルが最も小さい効果チャンネルを選択する(ステップS10)。ここで言うレベルは、効果音信号の瞬時的なレベルではなく、効果音信号のエンベロープレベルを意味する。この処理は、現在出力されている各効果音信号のうち、停止しても違和感が最も小さい効果音信号を出力している効果チャンネルを選択するためのものである。なお、この選択を行う場合、後のステップS20においてメモリのクリア待ちとなっている効果チャンネルは対象から外す。
【0040】
次に、選択された効果チャンネルにアサイン部16からデジタル弦信号が供給されているか判断する(ステップS12)。ステップS12の判断がノーの場合、選択された効果チャンネルのコムフィルタが使用している遅延用メモリが既にクリアされているか判断する(ステップS14)。この判断は、例えば効果チャンネルが出力している効果音信号のレベルが0であるか判断することによって行える。この判断の答えがイエスの場合、効果チャンネルの使用開始処理を実行する(ステップS16)。
【0041】
使用開始処理では、図5に示すように、ステップS2において設定された効果番号をインデックスとしてパラメータメモリ28を検索して、この効果番号に対応するパラメータを読み出して、読み出したパラメータを、ステップS10で選択された効果チャンネルの各コムフィルタに設定する(ステップS162)。これによって、選択された効果チャンネルの特性が、発音開始されたデジタル弦信号の音高に対応するものに設定される。
【0042】
次に、選択された効果チャンネルの出力レベルを所定のレベルに設定する(ステップS164)。これにより、選択された効果チャンネルに使用する準備が完了する。
【0043】
次に、発音開始された弦信号と選択された効果チャンネルとをアサイン部16に通知すると共に第1及び第2の発音チャンネルメモリ30、32を更新する(ステップS166)。アサイン部16は、制御部24から通知されたデジタル弦信号を通知された効果チャンネルに供給する。これにより、発音開始されたデジタル弦信号への効果の付与が開始される。また、第1及び第2の効果チャンネルメモリ30、32の更新は、次のように行われる。第1効果チャンネルメモリ30における、ステップS2において設定された効果番号に対応して、今回パラメータが設定された効果チャンネルの番号を設定する。更に、第2効果チャンネル32の発音開始した弦の弦番号に対応して、今回パラメータが設定された効果チャンネルの番号を設定する。
【0044】
図4に戻って、ステップS12の判断の答えがイエスの場合、即ち、選択された効果チャンネルにデジタル弦信号が供給されている場合、選択された効果チャンネルへのデジタル弦信号の供給を停止するようにアサイン部16に指示を行い、第2効果チャンネルメモリ32の更新を行う(ステップS18)。この指示に応じて、アサイン部16は、選択された効果チャンネルへ今まで供給していたデジタル弦信号の供給を停止する。また、第2効果チャンネルメモリ32の更新は、第2効果チャンネルメモリ32から、選択された効果チャンネルの番号を検索し、その効果チャンネル番号が設定されていた全ての欄に、弦信号が供給されていないことを表す値を設定する。
【0045】
ステップS18に続いて、或いはステップS14の判断の答えがノーの場合(ステップS10で選択された効果チャンネルの遅延用メモリがクリア済みでない場合)、遅延用メモリのクリア開始処理を行う(ステップS20)。
【0046】
このクリア開始処理では、図6に示すように、選択された効果チャンネルの各ディレイラインの出力レベルを0とする(ステップS202)。これによって選択された効果チャンネルからの効果音信号の出力が停止される。次に、選択された効果チャンネルの各ディレイラインの入力レベルを0とし(ステップS204)、各ディレイラインの遅延時間のうち最も長い遅延時間を待ち時間として設定する(ステップS206)。
【0047】
ステップS204の待ち時間が経過したとき、選択された効果チャンネルが有するディレイラインが使用する遅延用メモリがクリアされ、選択された効果チャンネルが使用可能な状態になる。待ち時間が終了したとき、図7に示す待ち時間終了処理が起動され、効果チャンネルの使用開始処理が実行される(ステップS208)。この効果チャンネルの使用開始処理は、図5を参照して説明した効果チャンネルの使用開始処理(ステップS16)と同一のものである。
【0048】
再び図4に戻って、ステップS4の判断の答えがイエスとなった場合、即ち、発音開始したデジタル弦信号の音高に対応する効果と同じ効果の特性が設定されている効果チャンネルが存在する場合、発音開始されたデジタル弦信号を、その効果チャンネルに供給するようにアサイン部16に指示を与え、第2効果チャンネルメモリ32を更新する(ステップS22)。アサイン部16は、この指示に応じて指示されたデジタル弦信号を指示された効果チャンネルに供給する。第2効果チャンネルメモリ32の更新は、それの新たに演奏された弦の番号に対応して、その弦のデジタル弦信号に効果を付与している効果チャンネルの番号を設定する。
【0049】
このようにしてデジタル弦信号に効果が付与された効果音信号が発生し、混合部18で元のデジタル弦信号と混合されて、出力される。やがて、デジタル弦信号は減衰するが、その減衰がトリガ検出部22によって検出されると、図8に示す消音処理が実行される。即ち、いずれの弦信号が消音されたかをアサイン部16に指示すると共に、第2効果チャンネルメモリの更新を行う(ステップS24)。アサイン部16は、消音の指示に応じて、消音されたデジタル弦信号の、今までデジタル弦信号が供給されていた効果チャンネルへの供給を停止する。また、第2効果チャンネルメモリ32の更新は、消音された弦の番号に対応する効果チャンネル番号を、いずれの効果チャンネルにも弦信号が供給されていないことを表す値に変更する。
【0050】
このようにして、演奏者によりいずれかの弦が演奏されたとき、その弦の音高に対応する特性の効果が設定されている効果チャンネルがあれば、演奏された弦のデジタル弦信号が、その効果チャンネルに供給される。その弦の音高に対応する特性の効果が設定されている効果チャンネルが無い場合には、出力されている効果音信号のうちレベルが最も小さい効果チャンネルを選択し、その選択された効果チャンネルが効果の付与中であると、その効果チャンネルへの入力が停止され、その効果チャンネルのコムフィルタが使用している遅延用メモリがクリアされる。そして、演奏された弦のデジタル弦信号が、選択された効果チャンネルに供給され、演奏された弦の音高に対応する特性の効果が、その効果チャンネルによって付与される。
【0051】
図9に、本効果付与装置の動作例を示す。説明を簡単にするため、弦34、36の2本の弦、効果チャンネル14a、14b、14cの3つの効果チャンネルを使用し、効果の特性は、各音高によって異なり、かつ開放弦を演奏したものと仮定する。各効果チャンネル14a乃至14cのブロックの内部に描かれている波形は、その効果チャンネルから出力された効果音信号の時間経過に従ったレベル変化を示し、左端が最古のレベル、右端が最新のレベルである。図9(a)、(b)、(c)、(d)の順に状態が変化したものとする。
【0052】
同図(a)では、弦34、36が演奏され、弦34のデジタル弦信号が効果チャンネル14aに、弦36のデジタル弦信号が効果チャンネル14bにそれぞれ供給され、それぞれ効果音を出力している。この時点では、効果チャンネル14cにはデジタル弦信号は供給されて無く、効果チャンネル14cに残っている効果音信号もない。
【0053】
同図(b)では、弦36の音高が変更されている。弦34のデジタル弦信号は、そのまま効果チャンネル14aに供給されているが、弦36の音高が変更された時点では、効果チャンネル14cは効果音信号を出力していないので、ステップS10によって効果チャンネル14cが選択され、ステップS12、S14、S16が実行されて、弦36のデジタル弦信号の供給先は、効果チャンネル14bから効果チャンネル14cに変更される。効果チャンネル14bには、それまでの弦36のデジタル弦信号が供給されていたときの効果音信号が残っている。このため、効果音の余韻が残る。効果チャンネル14bの効果音信号は次第に減衰する。
【0054】
同図(c)では、弦34の音高が変更されている。音高が変更された時点では、効果チャンネル14bの効果音信号が最も小さくなっているので、ステップS10において効果チャンネル14bが選択される。そして、ステップS12、S14、S20を経て効果チャンネル14bが使用している遅延用メモリがクリアされ、弦34のデジタル弦信号の供給先が効果チャンネル14aから効果チャンネル14bに変更される。弦36のデジタル弦信号は、効果チャンネル14cに供給されたままである。効果チャンネル14aには、弦34のデジタル弦信号に基づく効果音信号をまだ発生しており、効果音信号の余韻が残っている。これは、徐々に減衰する。
【0055】
同図(d)では、弦34を消音しないで、同じ音高で再度演奏している。弦34の以前のデジタル弦信号も新たなデジタル弦信号も同じ音高であるので、ステップS4、S22が実行されて、弦34のデジタル弦信号は、引き続き効果チャンネル14bに供給される。弦36のデジタル弦信号は、効果チャンネル14cに供給されている。
【0056】
このように、デジタル弦信号にその音高に対応した特性の効果が付与されるので、どのようなデジタル弦信号に対しても最適な効果が付与され、例えば音高に対応した適度な響きをどのような音高のデジタル弦信号にも付与することができる。演奏中の弦の音高を変更した場合には、従前の音高に対する効果が自然に減衰しながら、新たな音高に対する効果が付与されるので、付与中の効果が不自然にとぎれることがない。また、効果を付与中の効果チャンネルの効果の付与を停止する場合でも、効果付与の停止による違和感が最も小さい効果チャンネルでの効果の付与を停止している。このため、効果付与停止による違和感を小さく抑えることができる。
【0057】
また、演奏中の弦が音高を変えられて再度演奏された場合には、デジタル弦信号の供給先が、それまで効果を付与していた効果チャンネルとは別の効果チャンネルに変更される。従って、それまでの効果チャンネルと、別の効果チャンネルとで二重に効果が付与されることはない。また、演奏中の弦が音高を変えられずに再度演奏された場合には、それまで効果を付与していた効果チャンネルに引き続きデジタル弦信号が供給される。従って、効果チャンネルを二重に使用することはない。
【0058】
効果チャンネルの数を弦の数よりも多くしているので、全ての弦に効果が付与されている状態で、或る弦の音高が変更されても、今まで付与していた効果を引き続き付与しながら、新たな音高に対応する効果を付与することができる。従って、付与中の効果が不自然にとぎれることが発生しにくい。
【0059】
付与すべき効果の特性が同じか或いは類似のデジタル弦信号には、同じ効果チャンネルを共用するので、数が限られている効果チャンネルを有効に活用できる。例えば同じ音高のデジタル弦信号が続けて演奏された場合、それらのデジタル弦信号を異なる効果チャンネルに供給するようにすると、多数の効果チャンネルが必要になる。この場合、効果チャンネルの数が不足すると、効果チャンネルでの効果の付与が停止されるので違和感が生じる可能性がある。しかし、効果の特性が同じか類似のデジタル弦信号に対して同じ効果チャンネルを共用することによって、このような違和感の発生を防ぐことができる。
【0060】
上記の実施形態では、プログラムに基づいてDSP10の専用の演算回路が処理を行って効果を付与したが、効果を付与する処理の形態は、これに限ったものではない。例えばパーソナルコンピュータの汎用の演算回路で効果付与の処理を行うことも可能である。また、プログラムを記憶媒体に固定的に記憶せず、書き換え可能な記録媒体に記憶するようにすることもできる。また、ハードウェアロジックによって処理を行うようにすることもできる。
【0061】
上記の実施形態では、ギターの弦信号に効果を付与したが、これに限ったものではなく、例えば弦信号に基づいて楽音発生回路が発生した楽音信号に効果を付与することもできる。また、ギターに限らず、弦を振動させる楽器からの弦信号に効果を付与することもできる。その場合には、付与される効果の特性は、当該楽器に応じたものとする。
【0062】
上記の実施形態では、出力している効果音信号のレベルが最も小さい効果チャンネルを選択したが、他の方向によって効果チャンネルを選択することもできる。例えば、効果チャンネルにデジタル弦信号が入力されなくなった場合には、効果チャンネルから出力される効果音信号のレベルは次第に減衰するので、効果チャンネルへの弦信号の供給が停止されてから経過した時間に基づいて、例えば経過した時間が最も長いものを選択することもできる。或いは、効果音信号のレベル以外の要素を効果チャンネルの選択の条件に反映させることもできる。例えば効果チャンネルで付与される効果の特性は楽音の音高によって異なるので、効果の減衰時間が長いものや短いものが存在する。また、付与中の効果を消音したとき、違和感が大きい効果もあれば小さい効果もある。例えば発音開始直後であった場合には効果音信号のレベルが低くても消音すると不自然に感じることがある。このような点を考慮して、効果チャンネルで付与している効果の性質も、レベルに加えて選択の条件とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の1実施形態の効果付与装置のブロック図である。
【図2】図1の効果付与装置の機能ブロック図である。
【図3】図1の効果付与装置で使用される各種メモリの構成を示す図である。
【図4】図1の効果付与装置における発音開始処理のフローチャートである。
【図5】図4における効果チャンネルの使用開始処理の詳細なフローチャートである。
【図6】図4における遅延用メモリのクリア開始処理の詳細なフローチャートである。
【図7】図6の遅延用メモリのクリア開始処理での待ち時間終了後に実行される待ち時間終了処理のフローチャートである。
【図8】図1の効果付与装置における消音処理のフローチャートである。
【図9】図1の効果付与装置における動作状態を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
14a乃至14h 効果チャンネル
20 ピッチ検出部(音高検出手段)
22 トリガ検出部(演奏開始検出手段)
24 制御部(制御手段、選択手段)
28 パラメータメモリ(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦の振動に基づく楽音信号に効果を付与する複数の効果チャンネルと、
前記弦の振動に基づいて新たな演奏を検出する演奏検出手段と、
前記弦の振動に基づいて、新たに演奏された楽音の音高を検出する音高検出手段と、
前記楽音信号の音高に対応する特性の効果を、前記楽音信号に付与するためのパラメータを記憶している記憶手段と、
前記演奏検出手段による新たな演奏が検出されたとき、前記各効果チャンネルのうち、効果の付与を停止した際に生じる違和感が最も小さいものを選択する選択手段と、
この選択された前記効果チャンネルに、検出された新たな演奏の楽音信号を供給すると共に、前記音高検出手段によって検出された新たな演奏の音高に対応する特性の効果を付与するためのパラメータを、前記音高検出手段によって検出された新たな演奏の音高に基づいて前記記憶手段から読み出して、前記選択された効果チャンネルで付与する効果の特性を、読み出したパラメータに基づいて制御する制御手段とを、
具備する効果付与装置。
【請求項2】
請求項1記載の効果付与装置において、前記選択手段によって選択された効果チャンネルが既に効果を付与しているとき、その効果チャンネルにおける効果の付与を停止させる効果停止手段を有する効果付与装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の効果付与装置において、前記各効果チャンネルが付与する効果は、自然楽器による共鳴現象を模擬するものである効果付与装置。
【請求項4】
請求項2記載の効果付与装置において、前記各効果チャンネルは、遅延用メモリに前記楽音信号を一時記憶させて遅延させることにより効果を付与し、前記効果付与停止手段は、前記遅延用メモリの内容をクリアする効果付与装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の効果付与装置において、新たに演奏された弦の楽音信号に従前から効果を付与している効果チャンネルが存在する場合、新たに演奏された弦の楽音信号を当該効果チャンネルに供給するのを停止する効果付与装置。
【請求項6】
請求項1または2記載の効果付与装置において、前記各効果付与チャンネルの総数は、前記弦の数よりも多い効果付与装置。
【請求項7】
請求項1または2記載の効果付与装置において、前記選択手段は、前記演奏検出手段によって新たな演奏が検出されたとき、新たに演奏された楽音の音高に対応する特性の効果を付与中の効果チャンネルが存在するとき、その効果チャンネルを選択する効果付与装置。
【請求項8】
請求項1または2記載の効果付与装置において、前記弦は、複数設けられ、これら弦それぞれに対応してピックアップが設けられ、これらピックアップによって検出された弦の振動に基づく楽音信号に、前記効果チャンネルが効果を付与する効果付与装置。
【請求項9】
請求項1または2記載の効果付与装置において、弦の振動を示す弦信号を楽音信号とし、この楽音信号に前記効果チャンネルが効果を付与する効果付与装置。
【請求項10】
請求項1または2記載の効果付与装置において、弦の振動を示す弦信号に基づいて楽音信号を生成し、生成された楽音信号に前記効果チャンネルが効果を付与する効果付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−58636(P2009−58636A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224298(P2007−224298)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000116068)ローランド株式会社 (175)
【Fターム(参考)】