説明

動力出力装置

【課題】インボード側軸受の軸受寿命の向上と負荷容量の増大を図ることができる部品点数の少ないコンパクトな構成の動力出力装置を提供することである。
【解決手段】車体側に固定されるケーシング1のアウトボード側の端部に外方部材19を接続し、その外方部材19の内側に組み込まれた車輪支持用の内方部材21を減速装置の出力軸として、外方部材19の内周に形成された複列の軌道溝20a、20bと内方部材21の外周に形成された軌道溝25a、25b間に転動体26a、26bを組み込んで内方部材21を回転自在に支持し、その複列の転動体26a、26b群のうち、減速装置に近接するインボード側の転動体26a群のピッチ円直径をアウトボード側の転動体26b群のピッチ円直径より大きくし、かつ、ピッチ円直径が大きいインボード側の転動体群の転動体26a数をピッチ円直径が小さいアウトボード側の転動体群の転動体26b数より多くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転軸に入力される回転を減速して車両の車輪に伝達する動力出力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪に動力を伝達する動力出力装置として、特許文献1および特許文献2に記載されたものが従来から知られている。特許文献1に記載されたインホイールモータ駆動装置は、駆動力を発生する電動モータと、車輪のホイールが接続される車輪軸と、上記電動モータの回転を減速して車輪軸に伝達する減速機とを有しており、上記減速機として、歯数の異なる複数の歯車を組み合わせてなる平行軸式歯車減速機を採用している。
【0003】
一方、特許文献2に記載された電気自動車用減速装置においては、電動モータのロータと車輪のハブとの間に遊星歯車式減速機構を2段に設け、2段目の遊星歯車式減速機構からの出力をドライブシャフトを介してばね下の左右の車輪に分配している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−7914号公報
【特許文献2】特開平5−332401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたインホイールモータ駆動装置においては、プロペラシャフトやデファレンシャル等の大がかりな動力伝達機構が不要となるので、車両の軽量化やコンパクト化等の面から注目されているが、平行軸式歯車減速機は、その減速比が1/2乃至1/3程度であって、インホイールモータ駆動装置に搭載する減速機としては不十分であり、また、減速機の重量も重く、ばね下重量の増加によって乗り心地が悪くなる難点があり、未だ実用化には至っていない。
【0006】
一方、特許文献2に記載された電気自動車用減速装置の遊星歯車式減速機構は平行軸式歯車減速機に比較して大きな減速比を得ることができるものの、インホイールモータ駆動装置に搭載する減速機としてはまだ不十分である。十分な減速比を得るためには、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤおよびピニオンギヤのキャリヤとで構成される遊星歯車式減速機構を多段構成とする必要があり、部品点数が多くなってコンパクト化が困難となり、減速機の重量およびサイズの増大を招くという問題が発生する。
【0007】
この発明の課題は、インボード側軸受の軸受寿命の向上と負荷容量の増大を図ることができる部品点数の少ないコンパクトな構成の動力出力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車体側に固定されるケーシングと、そのケーシングのインボード側の端部に設けられた電動モータと、その電動モータのロータに一端部が接続されてロータと一体に回転する回転軸と、前記ケーシングのアウトボード側の端部に接続され、内周に複列の軌道溝が形成された外方部材と、その外方部材の内部に組込まれて前記回転軸の他端部を回転自在に支持し、前記外方部材の複列の軌道溝と径方向で対向する複列の軌道溝を外周に有し、外方部材のアウトボード側の端部から外部に位置する端部外周に車輪取付け用のフランジが設けられた内方部材と、前記径方向で対向する軌道溝間に組込まれて前記内方部材を回転自在に支持する複列の転動体群と、前記回転軸を入力軸として、その回転軸の回転を減速して前記内方部材から出力する減速装置とからなり、前記複列の転動体群のうち、前記減速装置に近接するインボード側の転動体群のピッチ円直径をアウトボード側の転動体群のピッチ円直径より大きくし、かつ、ピッチ円直径が大きいインボード側の転動体群の転動体数をピッチ円直径が小さいアウトボード側の転動体群の転動体数より多くした構成を採用したのである。
【0009】
上記の構成からなる動力出力装置において、電動モータの駆動によって回転軸を回転すると、その回転は減速装置により減速されて、内方部材から出力され、車輪が回転する。
【0010】
この発明のように、複列の転動体群のうち、減速装置に近接するインボード側の転動体群のピッチ円直径をアウトボード側の転動体群のピッチ円直径より大きくし、ピッチ円直径が大きい側の転動体群の転動体数をピッチ円直径が小さい側の転動体群の転動体数より多くすることにより、インボード側軸受の軸受寿命の向上と負荷容量の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、この発明においては、電動モータのロータに接続された回転軸を減速装置の入力軸とし、その入力軸としての回転軸の回転を減速装置で減速して車輪取付け用フランジを有する内方部材から出力させるようにしたので、内方部材は、減速装置の出力軸としての機能と、車輪を支持する車輪軸受装置の車輪支持部材としての機能の2つの機能を併せ持ち、部品点数の少ない簡単な構成の軸方向長さのコンパクトな動力出力装置を得ることができる。
【0012】
また、内方部材を回転自在に支持する複列の転動体群のうち、一方の転動体群のピッチ円直径を他方の転動体群のピッチ円直径より大きくし、そのピッチ円直径が大きい側の転動体数をピッチ円直径の小さい側の転動体数より多くしたことによって、インボード側軸受の軸受寿命の向上と負荷容量の増大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る動力出力装置の実施の形態を示す縦断正面図
【図2】図1の回転軸に設けられた偏心軸部を拡大して示す断面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】図3の一部を拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1に示すように、車体に取付けられるケーシング1は、インボード側の端部に端板2を有し、その端板2に円筒部3が設けられている。
【0015】
ケーシング1のインボード側には電動モータ4が接続されている。電動モータ4は、ケーシング1に固定されたモータハウジング5と、そのモータハウジング5内に組込まれた対向一対のステータ6と、そのステータ6間に組込まれて、上記ステータ6とアキシャル方向で対向するロータ7とからなり、上記ロータ7には、ステータ6と対向する位置に多数の永久磁石8が周方向に等間隔に設けられている。
【0016】
また、ロータ7はボス部7aを有し、そのボス部7aはケーシング1の円筒部3内に挿入され、その円筒部3内に組込まれた軸受9によって回転自在に支持されている。また、円筒部3の開口端部内には、その開口端を密閉するシール部材10が組込まれている。
【0017】
ロータ7のボス部7a内には回転軸11の一端部が挿入されている。回転軸11はセレーション12を介してボス部7aに回り止めされている。この回転軸11は、ボス部7aのアウトボード側の端部内に組込まれた軸受12によって回転自在に支持され、ケーシング1内に位置する他端部には2つの偏心軸部13a、13bが設けられている。
【0018】
2つの偏心軸部13a、13bは周方向に180°位相がずれ、各偏心軸部13a、13bの両側に一対のカウンタウェイト14が設けられている。一対のカウンタウェイト14は、その重心が隣接する偏心軸部13a、13bの偏心方向と逆方向に位置する取付けとされている。
【0019】
各偏心軸部13a、13bの外周には軸受15が嵌合され、その軸受15を介して外歯車16a、16bが回転自在に支持されている。
【0020】
図3に示すように、外歯車16a、16bは、複数の外歯17を外周に有し、その外歯17はケーシング1の内周に設けられた内歯18と噛合しており、上記外歯17の数は内歯18の数より少なくなっている。ここで、外歯17は、トロコイド曲線歯形からなり、一方、内歯18は、ケーシング1aによって両端部が支持された外ピン18aと、その外ピン18aに回転自在に支持されたローラ18bとからなっている。
【0021】
なお、内歯18はローラ18bが省略されて外ピン18aからなるものであってもよい。また、外歯17および内歯18は、インボリュート曲線歯形からなるものであってもよい。
【0022】
ここで、図2に示すように、2つの偏心軸部13a、13b間の中心点をGとすると、その中心点Gから右側に位置する偏心軸部13a、外歯車16aおよびカウンタウエイト14からなる偏心回転体の質量と、中心点Gから左側に位置する偏心軸部13b、外歯車16bおよびカウンタウエイト14からなる偏心回転体の質量は等しくされている。
【0023】
また、中心点Gから右側に位置する偏心軸部13a、外歯車16aおよびカウンタウエイト14からなるそれぞれの偏心回転体の重心から中心点Gまでの軸方向距離と回転軸心までの半径方向距離の積を加えたものと、中心点Gから左側に位置する偏心軸部13b、外歯車16bおよびカウンタウエイト14からなるそれぞれの偏心回転体の重心から中心点Gまでの軸方向距離と回転軸心までの半径方向距離の積を加えたものは等しくされて、右側偏心回転体と左側偏心回転体の偏心回転による偶力が打ち消されるような構成とされている。
【0024】
図1に示すように、ケーシング1の開口端部には外方部材19が接続されている。外方部材19はケーシング1の開口端部に接続される大径筒部19aと、その大径筒部19aと同軸上に設けられた小径筒部19bを有し、その大径筒部19aと小径筒部19bの内周それぞれに軌道溝20a、20bが形成されている。
【0025】
また、外方部材19の内側には内方部材21が組込まれている。内方部材21は、ハブ輪22と、軌道輪23とからなり、上記軌道輪23は筒部23aを有し、その筒部23aがハブ輪22内に嵌合され、内径部からの拡径加締めによってハブ輪22に一体化されている。
【0026】
なお、拡径加締めによる結合力を高めるため、ハブ輪22の内径面と筒部23aの外径面の少なくとも一方に微細な凹凸23bを形成しておくのが好ましい。
【0027】
ハブ輪22の外方部材19に形成された小径筒部19bを貫通して外部に位置する端部外周には車輪取付け用のフランジ24が形成されている。また、ハブ輪22の上記小径筒部19b内に位置する端部外周には、その小径筒部19bの内周の軌道溝20bと径方向で対向する軌道溝25bが設けられ、その径方向で対向する軌道溝20b、25b間に転動体26bが組込まれている。
【0028】
一方、軌道輪23の外周には、大径筒部19aの内周の軌道溝20aと径方向で対向する軌道溝25aが形成され、その径方向で対向する軌道溝20a、25a間に転動体26aが組込まれている。この転動体26a群のピッチ円直径は、小径筒部19bの軌道溝20bとハブ輪22の軌道溝25b間に組込まれた転動体26b群のピッチ円直径より大きく、その直径が大きい分だけ転動体数が多くなっている。
【0029】
内方部材21は、上記複列の転動体26a、26bを介して回転自在に支持されて、回転軸11と同軸上に配置され、その内方部材21を形成する軌道輪23の筒部23a内に回転軸11の他端部を回転自在に支持する軸受27が組込まれている。
【0030】
図1、図3および図4に示すように、外歯車16a、16bと軌道輪23の相互間には、外歯車16a、16bの公転運動を自由にして、自転運動を軌道輪23、即ち、内方部材21に伝達するトルク伝達手段30が設けられている。
【0031】
トルク伝達手段30は、軌道輪23の側面外周部に複数の内ピン31を同一円上に等間隔に設け、各内ピン31にローラ32を回転自在に嵌合し、各ローラ32を外歯車16a、16bに形成されたローラ径より大径の円形孔33内に位置させて、その円形孔33の内周一部に接触させるようにしている。
【0032】
ここで、ローラ32として針状ころ軸受を採用しているが、他の転がり軸受を用いるようにしてもよい。なお、ローラ32を省略し、内ピン31を回転自在に支持して、その内ピン31を円形孔33の内周一部に接触させるようにしてもよい。
【0033】
実施の形態で示す動力出力装置は上記の構造からなり、電動モータ4の駆動によって回転軸11を回転すると、偏心軸部13a、13bが偏心回転し、その偏心軸部13a、13bに回転自在に支持された外歯車16a、16bがケーシング1の内周に形成された内歯18と1つずつ噛み合いながら回転軸11を中心に公転する。
【0034】
このとき、外歯車16a、16bの外歯17の数はケーシング1の内周に形成された内歯18の数より少ないため、外歯車16a、16bは回転軸11の1回転当たり、内歯18と外歯17の歯数差分だけ回転軸11の回転方向と逆方向に自転し、その自転運動がトルク伝達手段30を介して内方部材21に伝達され、内方部材21が減速回転する。
【0035】
ここで、内歯18の歯数をZ、外歯車16a、16bの歯数をZとすると、減速比は、(Z−Z)/Zで表すことができる。
【0036】
このように、実施の形態で示す動力出力装置においては、回転軸11の回転により内歯18に噛合する外歯車16a、16bが上記回転軸11の1回転当たりに、内歯18と外歯17の歯数差分だけ回転軸11の回転方向と逆方向に自転し、その自転運動がトルク伝達手段30を介して内方部材21に伝達されるため、回転軸11の回転を大きな減速比でもって内方部材21に伝達して、その内方部材21から出力することができる。
【0037】
また、減速装置が、外歯車16a、16bと、ケーシング1の内周に形成された内歯18とからなる部品点数の少ない構成であるため、小型、コンパクトな動力出力装置を得ることができる。
【0038】
さらに、内方部材21を回転自在に支持する複列の転動体26a、26bのうち、外歯車16a、16bに近接するインボード側の転動体26a群のピッチ円直径をアウトボード側の転動体26b群のピッチ円直径より大きくすることによって、内方部材21の支持剛性を高めることができ、回転軸11の他端部の振れ回りを確実に防止することができる。また、インボード側軸受の軸受寿命の向上と負荷容量の向上を図ることができる。
【0039】
上述の動作説明では、電動モータ4を駆動し、その電動モータ4からの動力を車輪が取り付けられる内方部材21に伝達したが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときには、車輪からの動力を減速部で高回転低トルクに変換して電動モータ4に伝達し、電動モータ4で発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリィに一時蓄電した後に電動モータ4や車両に備えられた他の電気機器に用いてもよい。
【0040】
なお、電動モータ4で回転軸11を回転させるようにした動力出力装置の制御は、例えば、アクセルペダル位置センサ、ブレーキ踏込み量センサ、車速センサ、バッテリィ温度検出センサ、バッテリィの端子間に接続された電圧センサ、バッテリィからの電力ラインに設置された電流センサ、モータの回転位置検出センサ等の様々なセンサからの信号を電子制御ユニットに入力し、これらの信号に基いてインバータを介してバッテリィと電動モータとの間でやりとりする電力の調節をすることによって行う。
【0041】
制御には、例えば、ハンドルの操舵角に応じて左右または前後左右の各々の位置に設置された本動力出力装置で駆動する車輪の回転数を各々独立に制御して、車両を安定して旋回させたり、前後車輪の各々の車輪速センサの信号から車輪の空転を検出し、この検出結果に基いて本動力出力装置の回転数を制御して車両の姿勢を安定させるものなどが考えられる。
【0042】
なお、実施の形態では、回転軸11を回転させる電動モータ4として、ステータ6とロータ7との間にアキシャルギャップを設けたものを示したが、これに限定されるものではない。例えば、ステータとロータとの間にラジアルギャップを設けたものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 ケーシング
4 電動モータ
5 モータハウジング
7 ロータ
11 回転軸
19 外方部材
20a 軌道溝
20b 軌道溝
21 内方部材
25a 軌道溝
25b 軌道溝
26a 転動体
26b 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定されるケーシングと、
前記ケーシングのインボード側の端部に設けられた電動モータと、
前記電動モータのロータに一端部が接続されてロータと一体に回転する回転軸と、
前記ケーシングのアウトボード側の端部に接続され、内周に複列の軌道溝が形成された外方部材と、
前記外方部材の内部に組込まれて前記回転軸の他端部を回転自在に支持し、前記外方部材の複列の軌道溝と径方向で対向する複列の軌道溝を外周に有し、外方部材のアウトボード側の端部から外部に位置する端部外周に車輪取付け用のフランジが設けられた内方部材と、
前記径方向で対向する軌道溝間に組込まれて前記内方部材を回転自在に支持する複列の転動体群と、
前記回転軸を入力軸として、その回転軸の回転を減速して前記内方部材から出力する減速装置と、
からなり、
前記複列の転動体群のうち、前記減速装置に近接するインボード側の転動体群のピッチ円直径をアウトボード側の転動体群のピッチ円直径より大きくし、かつ、ピッチ円直径が大きいインボード側の転動体群の転動体数をピッチ円直径が小さいアウトボード側の転動体群の転動体数より多くした動力出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197939(P2012−197939A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100607(P2012−100607)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2006−257406(P2006−257406)の分割
【原出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】