説明

動圧軸受けの使用方法および動圧軸受け

【課題】動圧軸受けにおいて、回転数が高い場合にも、多数回の起動−停止サイクル後にも定常回転を可能とすることである。
【解決手段】高速回転軸体を流体膜層を介して非接触で保持する動圧軸受けを使用する。動圧軸受けがセラミック焼結体からなり、高速回転軸体の回転時に流体膜層に面する保持面を備えている。セラミック成形体の所定面を加工することなく焼結させてセラミック焼結体を生成させると共に保持面を生成させる。この保持面を加工することなく高速回転軸体に対向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受けおよびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転するロータシャフトの軸受けとして、フォイル軸受けを用いることが知られている。フォイル軸受けは、通常、ロータシャフトの周囲を取り囲むハウジングを有している。そして、ロータシャフトとハウジングとの間には、周方向に配列され且つハウジングに片持ち梁式に固定された一連のフォイル軸受けが設けられている。そして、フォイル軸受けの遊端がロータシャフトに向かって付勢されている。ロータシャフトが回転すると、ロータシャフトとフォイルとの間に、例えば大気などの流体が引き込まれ、ロータシャフトの外面とフォイルとの間に流体膜層が形成される。ロータシャフトの回転によって流体膜層を形成し、それによりロータシャフトの荷重を支えるような軸受けを、動圧軸受けということもある。
【0003】
動圧軸受けは、超小型のガスタービンやターボ機械などの高速回転軸に対して応用が拡大しつつある。回転軸体が軸受け上で浮上して定常回転を維持する回転数は、軸径やバランスなどの条件によるため、一概には言えない。例えば軸径が50mm以下の回転軸の場合には、数万rpm以上の高回転数となる。
【0004】
こうした流体膜層に接する動圧軸受けの材質は、一般に金属が使用されている。
【特許文献1】特開昭61−103010
【特許文献2】特開2004−84877
【非特許文献1】「Journal of theJapan Institute of Energy」84, pages 227to 234, (2005) 「Prototyping ofPalm Top size Micro Gas Turbine Shaft System Supported by Foil Bearings and theEvaluation of Dynamic Characteristics」
【非特許文献2】「日本ガスタービン学会誌」 Vol.30 No.4 (2002年7月) 283〜287頁 「マイクロガスタービン用空気軸受けの試作」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、始動や停止時など、軸が浮上する回転数に達していない回転時には、回転軸がフォイル表面に対して擦過する。このため、始動や停止を多数回反復するような用途では、特にフォイル表面の性状や形状の微細な変化によって回転が不安定化するおそれがある。また、特に最近、超小型で高速の動圧軸受けが求められているが、こうした用途では停止−起動の回数が非常に多い。
【0006】
本発明者は、前述したような金属製の動圧軸受け、例えばフォイル軸受けについて、数十万rpmの高速回転を行うと共に、多数回の起動−停止サイクルを実施し、安定的な定常回転が可能かどうかを試験した。この結果、従来のフォイル動圧軸受けでは、回転数が非常に高い場合には、起動−停止の回数がたかだか数回で定常回転が不能になることが判明した。この傾向は、回転数が高くなるほど激しくなるし、また起動−停止回数が多くなるほど解決は難しくなる。
【0007】
本発明の課題は、動圧軸受けにおいて、回転数が高い場合にも、多数回の起動−停止サイクル後にも定常回転を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高速回転軸体を流体膜層を介して非接触で保持する動圧軸受けを使用する方法であって,
動圧軸受けがセラミック焼結体からなり、高速回転軸体の回転時に流体膜層に面する保持面を備えており、
セラミック成形体の所定面を加工することなく焼結させてセラミック焼結体を生成させると共に保持面を生成させ、この保持面を加工することなく高速回転軸体に対向させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者は、従来適用されてきた金属フォイルでは、例えば75万rpmの高回転数で起動−停止を反復すると、高速での定常回転が早期に困難、不可能となることを見いだした。このため、本発明者は、フォイルの材質を耐蝕性、耐摩耗性セラミック焼結体とし、高速回転を試みた。しかし、このようなセラミックフォイルを使用した場合にも、最初は高速での定常回転が可能であるが、起動−停止を反復すると、比較的早期に定常回転が不可能となることが判明した。
【0010】
本発明者は、この理由について詳細に検討した結果、意外な知見に達した。すなわち、セラミック焼結体をテープ成形法で作製し、その表面を平滑化加工して回転に供したわけであるが、表面を様々に加工しても、起動−停止を反復すると、早期に定常回転が不可能になった。このため、焼結体を成形し、焼結した後に、表面加工を施さずに高速回転に供したところ、多数回の起動−停止を反復しても、定常回転が可能であることを発見した。この発見は、流体膜層を利用した動圧軸受けの用途を、多数回の起動−停止を反復する高速回転用途にまで拡大するものであり、産業上非常に重要であることは明らかである。
【0011】
こうした作用効果が得られた理由は明確ではない。セラミック粉末をバインダーと共に成形した段階では、成形体の表面は非常に平滑にすることが可能である。しかし、この成形体を焼成すると焼成収縮の影響を受ける。したがって、焼成収縮後は、焼結体の表面は、外観上は均一で平滑に見えても、全体に微細なうねりや微小凹凸がほぼ均等に形成された状態となる。このような微細なうねりや微小な凹凸の影響によって、高速回転軸体が動圧軸受け表面に擦過するときに、接触荷重が無数の点接触に分散され、極めて低い摩擦係数が安定して実現されるものと考えられる。
【0012】
本発明者は,焼結体の高速回転軸体に対する対向面を研磨加工することも検討したが、この場合には、前述したように、起動−停止を反復すると、定常回転が早期に不可能になった。この理由も明確ではないが、上記した未加工焼成面の微細なうねりや微小凹凸がなくなったためと推定される。あるいは,セラミック焼結体の焼成面においては、表面から微小突出する一個一個のセラミック粒子が部分球に近い表面形状を示す。一方、加工面では、一個一個のセラミック粒子が削られているために、局部的に平坦となり、加工傷が残る。また、微細な脱粒が発生し、表面の均一性が僅かに損なわれている可能性もある。これらがあいまって、高速回転の起動−停止を反復したときに、定常回転に干渉するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明が適用される動圧軸受けの種類は特に限定されない。動圧軸受けは、フォイル軸受けが最も好ましいが、ヘリングボーンタイプ、ティルティングパッドタイプの動圧軸受けにも適用できる。
【0014】
例えば、図1(a)の模式図に示すように、フォイル軸受け1Aに対して本発明を適用できる。2は軸受けの固定部材である。また、図1(b)に示すように、ジャーナル軸受けに対して本発明を適用できる。1Bはフォイルである。3はジャーナル軸受けの外枠である。更には、図2に示すように、スラスト軸受けのフォイル1Cに対して本発明を適用できる。4はフォイル配列体であり、5は支持板であり、6はスプリング機構である。
【0015】
本発明で作製する動圧軸受けはセラミックスによって形成する。この際、本発明の動圧軸受けに対して、別部材、例えば金属部材やセラミック−金属複合材料の部材を一体化したり、接合したりすることは可能である。
【0016】
動圧軸受けを構成するセラミックスの種類は特に限定されないが、耐蝕性および耐磨耗性のセラミックスが好ましく、アルミナ、窒化珪素、ジルコニア、炭化珪素および窒化アルミニウムを例示できる。また、セラミック粉末の平均粒径は特に限定されないが、0.1〜1μmが好ましい。
【0017】
動圧軸受けを形成するセラミック粉末に対しては、添加剤を添加することができる。添加剤としては、バインダー、粘度調整剤、焼結助剤など、各種の添加剤を利用できる。こうしたバインダーとしては、メタクリル系およびアクリル系のアクリル樹脂、エチルセルロース系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂が好ましい。また、焼結助剤としては、アルミナ、シリカ、遷移金属化合物、およびそれらの混合物や化合物を例示できる。
【0018】
少なくともセラミック粉末を含むセラミック材料を成形することによって、動圧軸受けの最終形態に近い形態を有するセラミック成形体を作製する。この成形方法は限定されない。しかし、厚みが均一な成形体が得られる点で、テープ成形法が好ましく、特にドクターブレード法、リバースロールコーター法が好ましい。しかし、ゲルキャスト法などの寸法精度の高い成形体が得やすい方法も好ましい。
【0019】
セラミック成形体のうち、最終的に流体膜層に接する表面は、平坦であることが好ましい。この観点からは、セラミック成形体のうち最終的に流体膜層に接する面の中心線平均表面粗さRaは1μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることが更に好ましい。
【0020】
ここで、本発明においては、成形体のうち、少なくとも最終的に流体膜層に接する表面は加工を施さない。ただし、加工とは、表面形態を変化させるような加工を意味している。例えば、切断、切り込み、研磨、研削、レーザー加工などの加工によって形成された表面は本発明から除かれる。したがって、洗浄、乾燥など、表面形態を変化させない処理は行っても良い。
【0021】
次いで、セラミック成形体を焼結し、焼結体を得る。焼結前に脱脂や乾燥を行うこともできる。この焼結時の温度、圧力、焼結時間は特に限定されず、材質によって選定する。
【0022】
本発明においては、セラミック焼結体のうち、少なくとも流体膜層に接する表面は加工を施さない。ただし、加工とは、表面形態を変化させるような加工を意味している。例えば、切断、切り込み、研磨、研削、レーザー加工などの加工によって形成された表面は本発明から除かれる。したがって、洗浄、乾燥など、表面形態を変化させない処理は行っても良い。
【0023】
セラミック焼結体の平均粒径は限定されないが、0.1〜5μmが好ましい。また、焼結体のうち流体膜層に接する表面の中心線平均表面粗さRaは0.01μm〜1μmが好ましい。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
ジルコニア粉末、PVB樹脂、溶剤、可塑剤を混合し、セラミック材料を得た。このセラミック材料をドクターブレード法によって成形し、テープを得た。このテープを、加工することなく、そのまま脱脂し、1450℃で焼結させることによって、厚さ0.03mmのセラミックフォイルを得た。このセラミックフォイルの流体膜層に面する表面の中心線平均表面粗さRaは 0.15μmである。このセラミックフォイルは加工していない。
【0025】
高速回転軸体としては、軸径4mmの窒化珪素製シャフトを用いた。ジャーナル軸受けのハウジングの内径は4.13mmとし、ハンジングの外周の6箇所に、等分割されたスリットを設けた。シャフトとハウジングとの間に前記セラミックフォイルを挿入した。この際、シャフトとハウジングとの隙間に2枚のセラミックフォイルが重なるようにした。軸受けの隙間は、ハウジンク内径4.13mmから、シャフト外径4mmおよび2枚のセラミックフォイルの合計厚さ0.12mmを引いた値であり、すなわち0.01mmである。セラミックフォイルの厚さは、片側0.06mmなので、両側で0.12mmとなる。
【0026】
作製したジャーナル軸受け2個でシャフトを保持した。シャフトの片端に回転子兼用のタービン翼を装着し、他端にスラスト軸受けのカラーを装着し、試験用ローターを作製した。このローターのバランス調整を行った後、ローターを回転試験装置に組み込み、加圧空気によってタービン翼を回転させ、回転数と回転の安定性を評価した。
【0027】
最初に、使用した試験機で到達可能であった最高回転数約75万rpmにおいても、シャフトの安定回転が維持されることを確認した。次いで、起動−回転−停止のサイクルを反復した。1サイクルにおいては、停止状態から最高回転数(約75万rpm)まで回転数を上げ、次いで停止させた。停止から最高回転数までの到達時間は約5秒とし、最高回転数から停止までの時間は約5秒であった。
【0028】
この結果、1000サイクルの起動−停止を反復した後も、最高到達回転数は約75万rpmであり,また最高回転数での安定性も変化しなかった。
【0029】
(比較例1)
実施例1と同様にして回転試験を実施した。ただし、実施例1で製造したセラミックフォイルの代わりに、加工されたジルコニア板を使用した。
【0030】
具体的には、市販の厚さ約1mmのジルコニア板を入手した。このジルコニア板の流体膜層に接する側の表面を機械研削とラップ加工によって加工し、厚さ0.03mmのセラミックフォイルを作製した。このセラミックフォイルの表面の中心線平均表面粗さRaは0.005μmである。このセラミックフォイルを実施例1のフォイルの代わりに使用した。
【0031】
この結果、初期の到達最高回転数や回転の安定性は実施例1と同様であった。しかし、前記サイクルを約50回反復したあたりから、回転数上昇時の動作が徐々に不安定となり、安定回転が難しくなったので、サイクル60回で試験を中止した。試験中止後にフォイル表面とシャフト表面とを目視観察したが、外観上は変化は認められなかった。
【0032】
(比較例2)
実施例1と同様にして回転試験を実施した。ただし、実施例1で製造したセラミックフォイルの代わりに、市販の厚さ0.03mmのステンレス製薄板を適用した。この結果、初期の到達最高回転数や回転の安定性は実施例1と同様であった。しかし、前記サイクルを5回反復したとき、回転数上昇時に動不安定となり、停止した。試験中止後にフォイル表面とシャフト表面とを目視観察したところ、フォイルの表面に摩擦痕が形成されており、再使用は不能であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は、フォイル軸受けを示す模式図であり、(b)は、ジャーナル軸受けを示す模式図である。
【図2】スラスト軸受けのフォイル1Cを示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1A、1B、1C フォイル軸受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転軸体を流体膜層を介して非接触で保持する動圧軸受けを使用する方法であって,
前記動圧軸受けがセラミック焼結体からなり、前記高速回転軸体の回転時に前記流体膜層に面する保持面を備えており、
セラミック成形体の前記保持面に対応する表面を加工することなく焼結させて前記セラミック焼結体を生成させると共に前記保持面を生成させ、この保持面を加工することなく前記高速回転軸体に対向させることを特徴とする、動圧軸受けの製造方法。
【請求項2】
前記動圧軸受けが、薄板状のフォイルからなるフォイル軸受けであることを特徴とする、動圧軸受けの使用方法。
【請求項3】
セラミック粉末をテープ成形することによって前記セラミック成形体を得ることを特徴とする、請求項1または2記載の動圧軸受けの使用方法。
【請求項4】
前記セラミック焼結体が、アルミナ、窒化珪素、ジルコニア、炭化珪素および窒化アルミニウムからなる群より選ばれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の動圧軸受けの使用方法。
【請求項5】
高速回転軸体を流体膜層を介して非接触で保持する動圧軸受けであって,
前記動圧軸受けがセラミック焼結体からなり、前記高速回転軸体の回転時に前記流体膜層に面する保持面を備えており、
セラミック成形体の前記保持面に対応する表面を加工することなく焼結させて前記セラミック焼結体を生成させると共に前記保持面を生成させ、この保持面が加工されていないことを特徴とする、動圧軸受け。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−291960(P2008−291960A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140232(P2007−140232)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】