説明

包接担体およびその製造方法、並びに包接担体を用いた包接体、抗菌剤、および、水溶性を付与する方法

【課題】
本発明の課題は、ヒノキチオールの水、香粧品、保険衛生材料、医薬品などへの溶解性を改善させると共に、ヒノキチオールの揮発、金属イオンとの結合による着色を抑えることを可能にする、ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接した包接体、ヒノキチオールの包接に用いるピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類からなる包接担体およびその製造方法を提供するものである。
【解決手段】
ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒノキチオールの包接に用いる多糖類からなる包接担体およびその製造方法と、ヒノキチオールを包接担体で包接した包接体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒノキチオールはヒノキ科植物から産する天然トロポロンであり、高い抗菌性を有することが知られており、医薬品、防虫剤、香粧品及び食品分野等に利用されている。
【0003】
しかし、ヒノキチオールは、昇華性を有する結晶であるために、空気中で使用すると揮発し、短期間で抗菌効果を失ってしまう。
また、ヒノキチオールは、水溶液としての使用も試みられているが、水溶性が0.2g/リットル程度と極めて低いため、少量で有効な抗菌効果を発揮する水溶液を作製することが困難であった。
【0004】
また、ヒノキチオールは、金属に対して強い腐食性を有し、容易に各種金属イオンと結合して有色のヒノキチオール塩、または、錯体等の有機金属化合物を生成する。
これは、ヒノキチオールの母核となる7員環の置換基が、ケト−エノール構造を有するためである。
そして、この金属イオンとの結合による着色のために、ヒノキチオールは、用途や配合が限定されるという問題があった。
【0005】
上記の問題の解決策として、ヒノキチオールをシクロデキストリンで包接した包接体が提案されている。(特許文献1参照)
【0006】
しかしながら、ヒノキチオールのシクロデキストリン包接体では、ヒノキチオールの量に比べ、シクロデキストリンが多量に必要である上、金属イオンによるヒノキチオールの着色が改善されない。
また、ヒノキチオールのシクロデキストリン包接体の15℃の水に対する溶解性は、ヒノキチオールを38mol%含有するα−シクロデキストリン包接体では13g/100ミリリットル。
また、ヒノキチオールを92mol%含有するβ−シクロデキストリン包接体では0.3g/100ミリリットル。
また、ヒノキチオールを60mol%含有するγ−シクロデキストリン包接体では0.9g/100ミリリットルであり、ヒノキチオールの包接能が最も優れるβ−シクロデキストリン包接体をはじめ、各包接体の水に対する溶解性は十分なものとはいえなかった。
このため、ヒノキチオールを香粧品、保険衛生材料、医薬品などに配合するのは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−222455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ヒノキチオールの水、香粧品、保険衛生材料、医薬品などへの溶解性を改善させると共に、ヒノキチオールの揮発、金属イオンとの結合による着色を抑えることを可能にする、ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接した包接体、ヒノキチオールの包接に用いるピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類からなる包接担体およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、ピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類からなることを特徴とする包接担体である。
ピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類は、高い水溶性を有し、また、ヒノキシオールを包接すると、ヒノキチオールの着色を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記包接担体が澱粉、デキストリン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、セルロース、キチンおよびそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の包接担体である。
澱粉、デキストリン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、セルロース、キチン等の天然多糖類は、環境や人体への悪影響が少なく、原料の調達が容易といった利点を有する。
特に、デンプンのアミロース部分の螺旋構造は、物質を包接する能力が高いといった利点を有する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、多糖類を、水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の包接担体の製造方法である。
この酸化手法は、酸化度の制御が可能で、且つ、多糖類のピラノース環の2位や3位を酸化することなく、ほとんど全てのピラノース環6位をカルボキシル基まで酸化することができ、構造を殆ど変えずに水溶化できる。
また、水系で酸化反応を行うことが可能である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の包接担体に、抗菌性物質、殺虫剤、農薬、食品添加物、香料、臭気物質、油脂、インキ、染料、顔料、たんぱく質、核酸を包接することを特徴とする包接体である。
請求項1または請求項2に記載の包接担体で抗菌性物質、殺虫剤、農薬、食品添加物、香料、臭気物質、油脂、インキ、染料、顔料、たんぱく質、核酸などを包接することにより、それらの物質に保存安定性や水溶性を付与することが可能となる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記抗菌性物質がヒノキチオールであることを特徴とする請求項4に記載の包接体である。
請求項1または請求項2に記載の包接担体でヒノキチオールを包接することにより、ヒノキチオールの揮発性を抑えて長期間抗菌作用を発揮させることができる。
また、ヒノキチオールの金属への腐食を抑え、さらには、ヒノキチオールの水への溶解性を向上させることができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記包接体が、水溶性の粉末であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の包接体である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記包接体が、フィルム状であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の包接体である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記ヒノキチオールを包接した包接体を水に溶解させた抗菌剤である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1から3に記載の包接担体で包接して、水溶性の低い物質に高い水溶性を付与する方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接することにより、揮発性が低い長期間にわたって抗菌作用を発揮することができる包接体を提供することができる。
また、ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接することにより、ヒノキチオールの金属への腐食抑制を可能とした包接体を提供することができる。
また、ヒノキチオールをピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類で包接することにより、ヒノキチオールの水、香粧品、保健衛生材料、医薬品などへの溶解性を、ヒノキチオールをシクロデキストリンで包接した場合よりも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の包接担体は、ピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類からなることを特徴としている。
この様な多糖類は通常、ポリウロン酸と呼ばれ、天然に存在する構造であり、かつ比較的水溶性が高い。
特に、カルボキシル基がナトリウムやカリウムなどの塩であると、その水溶性はより高くなる。
また、これらのカルボキシル基が6位に存在することで、疎水面、親水面ができ、ヒノキチオールなどの水に溶け難い物質でも水に溶解することができるようになる。
【0020】
また、ポリウロン酸は天然物としてアルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸などが挙げられる。
また、天然の多糖類由来の誘導体としてカルボキシメチルセルロースなども挙げられるが、カルボキシメチルセルロースなどの一般的な誘導体化では6位だけに選択的にカルボキシル基を導入することは、少々困難である。
【0021】
天然多糖類の6位を選択的に酸化し、カルボキシル基を導入することで本発明の包接担体である多糖類を得ることも可能である。
酸化方法としては、従来よりセルロースなどで工業化がなされている二酸化窒素ガスを用いた酸化方法などによる方法、オキソアンモニウム塩を用いた酸化方法などが挙げられるが、酸化処理の簡便さ、反応試薬の安全性などの観点から、また、生成する酸化多糖類の安全性や、構造の均一さなどの観点からは、TEMPOなどのN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法が好ましい。
この選択的酸化手法は、酸化度の制御が可能で、かつピラノース環の2位や3位を酸化することなく、ほとんど全てのピラノース環6位をカルボキシル基まで酸化することができる。
また水系で酸化反応を行うことが可能である。
【0022】
また、上記N−オキシル化合物としては、2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPO)などが好ましく用いられる。
また、上記酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
さらに、臭化物やヨウ化物の共存下で酸化反応を行うと、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善できるため、より好ましい。
N−オキシル化合物にはTEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化反応を行うことが特に好ましい。
【0023】
酸化される前の多糖類には、澱粉やプルラン、デキストリン、アミロース、ヒアルロン酸などの水溶性多糖類、さらにはセルロースやキチン等を用いることができる。
原料の調達、コスト、期待される機能、また、構造をほとんど変えずに水溶化することができるといった利点を考えると、デンプン、セルロース、キチンが好ましい。
更に、デンプンの特にアミロース部分の螺旋構造には物質を包接する能力が高いことから、デンプンやアミロース、デキストリンを酸化原料に用いることが好ましい。
【0024】
セルロースやキチンなど結晶性の高い多糖類を原料とする場合は、前処理として再生処理などの結晶性を低下させるための処理を行うことが好ましい。
セルロースの再生処理としては、キュプラアンモニウム法、ビスコース法等の公知の再生処理法を利用することができる。
また、キチンの再生処理としても、再生後キチンの結晶性が低下していれば、その処理は限定されるものではない。
例えば、アルカリ再生処理が挙げられる。
キチンを高濃度のアルカリに浸漬後、氷を加えながら低温下で希釈していくことにより、粘調な液体となる。
ここに塩酸を加えて中和すると、フレーク状のキチンが析出する。
この得られたキチンはほぼ非晶質化しており、これを十分に水洗して乾燥させずにまたは凍結乾燥した後に、酸化反応に供することにより、分子量低下を極力抑え、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基のみをカルボキシル基にまで酸化することができる。
【0025】
また、キチンの脱アセチル化物であるキトサンを原料に、均一反応下でN−アセチル化した材料を酸化反応に供してもよい。
例えば、キトサンを酢酸に溶解し、メタノールで希釈後、キトサン中のアミノ基量に対して1.5〜3倍モル量の無水酢酸を添加することで、容易にN−アセチル化して、再びキチンの化学構造に戻すことができる。
この操作を経て、十分に水洗したものを乾燥させずに、あるいは凍結乾燥して、酸化反応に供することにより、アルカリ再生キチン同様に6位の一級水酸基のみ選択性高く酸化される。
さらにこの場合には、無水酢酸の添加量により酸化原料のN−アセチル化度をコントロールすることも可能である。
【0026】
また、包接される物質としては、抗菌性物質、殺虫剤、農薬、食品添加物、香料、臭気物質、油脂、インキ、染料、顔料、たんぱく質、核酸等が挙げられる。
特に、本発明の多糖類は高分子であるため、シクロデキストリンなどでは包接しきれない、高分子のものも含め、何種類かの物質を同時に取り込んだり、様々なゲスト物質を取り込むことができる。
また、ゲスト物質の機能を妨害するようなことが少ない。
【0027】
抗菌物質には各種重金属類、生物からの抽出成分、pH調整剤など様々な分類のものがある。
中でもヒノキチオールは天然物由来で高い抗菌性を有し、また、前述のような課題を抱えている。
【0028】
次に包接の手段について述べる。
飽和水溶液法、(湿式・乾式)混練法、カプセル化法などの手法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
親水性を付与したメリットを最大限に引き出すためには、本発明の包接担体である多糖類と、各種有効成分を水の存在下で混合し、包接複合体を得ることが好ましい。
例えば、酸化多糖類を水に溶解させる。
前述のようなポリウロン酸類を用いるときの固形分濃度は高いレベルに保つことができ、10%程度では、問題なく溶解することができる。
この水溶液に、有効物質を混合する。
有効物質は溶媒に溶解或いは分散させても構わない。
また、分散剤などを用いて、有効物質と有機溶媒や水、酸化多糖類などの分散を良くすることは、酸化多糖類へゲスト物質の包接に有効であることが多い。
【0029】
こうして水の存在する系でこれらの物質を接触させることにより、酸化多糖類は、ゲスト物質を取り込む。
その後の使用形態によっては、乾燥させて粉末状、フィルム状、シート状、繊維状、カプセル状などに成形することも可能であることは、本発明の包接複合体がポリマーである酸化多糖類からなることによる特徴の一つである。
また、乾燥前の液を紙やフィルム、繊維などの基材に塗布したり、練り込むことも可能である。
また、本発明の包接複合体には、バインダー、増量剤などのような、他の基材、或いは可塑剤などの添加剤を混ぜて用いても構わない。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はかかる実施形態に限定するものではない。
まず、実施例、比較例に用いる原料となるポリウロン酸の製造例について説明する。
<製造例1>
可溶性澱粉10gを水200mLに加熱溶解させた。
この水溶液を5℃に冷却し、予め水50gに溶解させておいたTEMPO0.2g、臭化ナトリウム2.5g、を加え、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を104g滴下し、反応を開始した。
反応温度は5℃、pHは10.5に維持した。
pHが低下しなくなったら、エタノールを添加し、過剰の酸化剤を失活させる。
エタノール2リットル中に撹拌しながらこの水溶液を添加し、酸化多糖類を析出させ、ろ過により単離する。
水とアセトンの混合溶液で数回洗浄し、不純物を取り除く。
アセトンによる脱水の後、40℃で減圧乾燥し、白色のアミロウロン酸ナトリウム塩を得た。
<製造例2>
製造例1で調製したアミロウロン酸ナトリウム塩を100gの水に懸濁させ、H型(水素イオン型)に再生処理したイオン交換樹脂(オルガノ株式会社:アンバーライトIR120)70ミリリットルを詰めたカラムに通し、脱塩処理を行った。
このアミロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のアミロウロン酸8.7gを得た。
<製造例3>
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
反応温度は常に5℃以下に維持した。
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
そして6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
1リットルのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状のセロウロン酸ナトリウム塩を得た。
<製造例4>
和光純薬工業(株)製キチン10gを、45%水酸化ナトリウム水溶液150gに浸漬し、室温以下で2時間攪拌した。
これに周りを氷水などで冷やし、攪拌しながら砕いた氷850gを添加した。
このアルカリ処理によりキチンはほぼ溶解する。
塩酸で中和し、十分に水洗した後、乾燥しないものを酸化原料とした。
この再生キチン2.5%濃度の懸濁液200gに、蒸留水50gにTEMPO0.08g、臭化ナトリウム1.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液35gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
反応温度は常に5℃以下に維持した。
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、80%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、1リットルのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状の酸化度80%のキトウロン酸ナトリウム塩5.2gを得た。
【実施例1】
【0031】
製造例1の酸化多糖類の10wt%水溶液を調製した。ヒノキチオールの5%(w/v)アセトン溶液を調製した。多糖類水溶液9部にヒノキチオールのアセトン溶液2部を加えた。密閉した容器内で50℃1時間程度撹拌した。凍結乾燥により十分に乾燥させ、粉末のヒノキチオール含有パウダーを作製した。
【0032】
製造例2の酸化多糖類の10wt%水溶液を調製した。ヒノキチオールの5%(w/v)アセトン溶液を調製した。多糖類水溶液9部にヒノキチオールのアセトン溶液2部を加えた。密閉した容器内で50℃1時間程度撹拌した。凍結乾燥により十分に乾燥させ、粉末のヒノキチオール含有パウダーを作製した。
【0033】
製造例3の酸化多糖類の10wt%水溶液を調製した。ヒノキチオールの5%(w/v)アセトン溶液を調製した。多糖類水溶液9部にヒノキチオールのアセトン溶液2部を加えた。密閉した容器内で50℃1時間程度撹拌した。凍結乾燥により十分に乾燥させ、粉末のヒノキチオール含有パウダーを作製した。
【0034】
製造例4の酸化多糖類の10wt%水溶液を調製した。ヒノキチオールの5%(w/v)アセトン溶液を調製した。多糖類水溶液9部にヒノキチオールのアセトン溶液2部を加えた。密閉した容器内で50℃1時間程度撹拌した。凍結乾燥により十分に乾燥させ、粉末のヒノキチオール含有パウダーを作製した。
【0035】
<比較例>
β−シクロデキストリンの10wt%水溶液を調製した。
溶液調整の際にはシクロデキストリンが溶解しないため、加熱することで水溶液を調製した。
実施例1の酸化多糖類水溶液の代わりに、β−シクロデキストリン水溶液を用いて、実施例1の方法を用い、粉末のヒノキチオール含有パウダーを作製した。
【0036】
実施例1から4の包接化合物のヒノキチオールの含有率をそれぞれの水溶液のUV吸収スペクトルの241nmのピーク強度から検量線を用いて求めた。
含有率は包接化合物中のヒノキチオールの含有百分率で求めた。
また、実施例1から4の包接化合物の15℃の蒸留水に1wt%濃度で溶解させた時の溶解性と、50℃に加熱した時の溶解性を示す。
【表1】

【0037】
ヒノキチオールの含有量に関しては、一般的に広く用いられるシクロデキストリンと同程度或いはそれ以上のヒノキチオールを包接することが可能であった。
更に、水への溶解性に関しては、実施例1から4のものは10wt%程度までなら、何ら問題なく溶解することができるということがわかった。
【0038】
ヒノキチオールをアセトンに10%濃度で溶解させ、これに水を加え、ヒノキチオールの1%水溶液を調製した。
また、実施例1から4、および比較例1の包接化合物の1%水溶液を調製した。
この水溶液を25μm厚の片面親水性処理したPETの上にバーコーターで塗布し、120℃30分間乾燥させることで、フィルム化を試みた。
【0039】
その結果、実施例1から4は比較的良好な成膜性を有するが、ヒノキチオールは膜にはならず、ぽろぽろとPET基材から剥がれ落ちた。
また、比較例1は実施例1から4のように均一に広がるが、膜は白濁し、密着性も悪く、指で擦るとぽろぽろと剥がれ落ちた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の包接担体、包接体およびそれらの製造方法は、ヒノキチオールの抗菌作用を長期間維持でき、また、ヒノキチオールの金属への腐食を抑制でき、また、ヒノキチオールの水への溶解性を、ヒノキチオールをシクロデキストリンで包接した場合よりも向上させることができるので、工業用汎用用途としての利用の他、化学、農薬、医療用材料、食品、衛生用品、化粧品等の分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラノース環6位にカルボキシル基を有する多糖類からなることを特徴とする包接担体。
【請求項2】
前記包接担体が澱粉、デキストリン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、セルロース、キチンおよびそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の包接担体。
【請求項3】
多糖類を、水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の包接担体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の包接担体に、抗菌性物質、殺虫剤、農薬、食品添加物、香料、臭気物質、油脂、インキ、染料、顔料、たんぱく質、核酸を包接することを特徴とする包接体。
【請求項5】
前記抗菌性物質がヒノキチオールであることを特徴とする請求項4に記載の包接体。
【請求項6】
前記包接体が、水溶性の粉末であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の包接体。
【請求項7】
前記包接体が、フィルム状であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の包接体。
【請求項8】
前記ヒノキチオールを包接した包接体を水に溶解させた抗菌剤。
【請求項9】
請求項1から3に記載の包接担体で包接して、水溶性の低い物質に高い水溶性を付与する方法。

【公開番号】特開2007−91618(P2007−91618A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281281(P2005−281281)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】