説明

化合物半導体単結晶の製造方法

【課題】 固液界面が凹面状に形成されるのを防ぎ、多結晶部の発生を抑制する半導体化合物単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 原料及び液体封止剤19を入れたるつぼ12を加熱して原料及び液体封止剤19を融解し、融解した原料融液18に接触させた種結晶16を引き上げることにより、単結晶17を成長させる液体封止チョクラルスキー法を用いた化合物半導体単結晶の製造方法において、
始めに、所定の初期引き上げ速度で単結晶17の引き上げを行い、単結晶17の体積がるつぼ内12に投入した原料融液18の体積の所定の割合に達した時点で、単結晶17の引き上げ速度を減速することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封止チョクラルスキー法(LEC法)を用いた化合物半導体単結晶の製造方法に係り、特に、半絶縁性砒化ガリウム単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体封止チョクラルスキー法(LEC法)は、高圧容器内に設けられたるつぼ内に、原料融液と、原料融液の表面を覆う液体封止剤を入れ、その上から不活性ガスにより、融液の解離及び蒸発を防止するための圧力をかけると共に、種結晶を融液に接触させた後、徐々に引き上げて種結晶につづく結晶を成長させる単結晶の製造方法である。
【0003】
例えば、砒化ガリウム(GaAs)の製造方法の一例を説明する。
【0004】
るつぼにGaAs多結晶、液体封止剤として三酸化硼素(B23)をるつぼに入れ、高圧容器に収納し、不活性ガスを充填して容器内の圧力を高圧に保持する。充填後、ヒータ加熱によりB23、GaAs多結晶を溶解させ、温度を調整し、種結晶への種付けを行うことでGaAs単結晶が得られる。
【0005】
LEC法を用いた化合物半導体単結晶の製造方法には、原料融液の対流によって起こる固液界面の凹面化を防ぐために、ヒータの位置に対する融液面の距離を最適化する製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−342096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の製造方法で作製した単結晶をウェハ状に切断し、鏡面研磨した後、融液KOH(水酸化カリウム溶液)でエッチングし、ウェハの結晶性を評価したところ、ウェハ面内でリネージ、亜粒界、粒界(以後、総称して多結晶部とする)が観察される場合があった。特に、結晶下端部での多結晶部の発生率は約70%に達していた。
【0008】
GaAs単結晶の製造方法では、単結晶製造中の固相(単結晶)と液相(融液)との界面(固液界面)の形状が凹面形状となって単結晶が引き上げられていると、製造される結晶が多結晶化してしまうといった問題がある。
【0009】
なぜなら、固液界面の形状において固体側がへこんだ凹面形状になると、多結晶化の原因となる転位は固液界面に垂直に伝播するものなので、転位が集合して、製造される結晶が多結晶化してしまうのである。固液界面形状は、熱流に垂直に形成されるため、多結晶化を防ぐためには、単結晶の頭部(上部)を冷却する、或いは単結晶の頭部からの放熱を促進させることが有効であることが知られている。
【0010】
上記の製造方法では、結晶成長の後半領域(時期)において、既に成長した結晶自体が断熱材として働いてしまっている。それにより、成長した結晶頭部からの放熱が抑制され、そのため、結晶側面からの放熱が多くなり、固液界面が凹面状に形成されて多結晶化していた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、多結晶部の発生を抑制した化合物半導体単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、原料及び液体封止剤を入れたるつぼを加熱して原料及び液体封止剤を融解し、融解した原料融液に接触させた種結晶を引き上げることにより、単結晶を成長させる液体封止チョクラルスキー法を用いた化合物半導体単結晶の製造方法において、
始めに所定の初期引き上げ速度で単結晶の引き上げを行い、単結晶の体積がるつぼ内に投入した原料融液の体積の所定の割合に達した時点で、単結晶の引き上げ速度を減速する化合物半導体単結晶の製造方法である。
【0013】
請求項2の発明は、単結晶の体積が、るつぼ内に投入した原料融液の体積の25%〜70%に到達した時点で引き上げ速度を減速する化合物半導体単結晶の製造方法である。
【0014】
請求項3の発明は、減速後の引き上げ速度を、初期引き上げ速度に対して30%〜85%になるようにする化合物半導体単結晶の製造方法である。
【0015】
請求項4の発明は、初期引き上げ速度は、5〜7mm/hであり、減速後の引き上げ速度は、1.5〜6mm/hである化合物半導体単結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固液界面が凹面状に形成されるのを防ぎ、多結晶部の発生を抑制するといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
本実施の形態ではGaAs単結晶の製造方法について説明する。
【0019】
図1は本実施の形態に係る化合物半導体単結晶の製造方法に用いる製造装置の概略図である。
【0020】
化合物半導体単結晶(以下、単結晶という)の製造装置10は、高圧容器11を備え、高圧容器11内には、単結晶の原料及び液体封止剤を入れるPBN(熱分解窒化硼素)製のるつぼ12が設けられている。
【0021】
るつぼ12の下方には昇降可能、かつ回転可能なるつぼ軸(下軸)14が設けられ、るつぼ軸14の上端にるつぼ12を取り付けることで、るつぼ12を昇降自在、かつ回転自在とする。るつぼ12の上方には、下端に種結晶16を取り付けた昇降可能なシード軸(上軸)15が設けられ、種結晶16を昇降自在とする。さらに、シード軸15には種結晶16の昇降速度を制御するための速度制御手段が接続されている(図示せず)。るつぼ12の周囲(側面側)には、原料及び液体封止剤を融解するためのヒータ13が設けられている。
【0022】
原料融液18は、単結晶17の原料となる多結晶等を、加熱により融解したものであり、本実施の形態では、原料としてGaAs多結晶を用い、原料融液18はGaAs融液である。
【0023】
液体封止剤19は、原料融液18の蒸発を防ぐための液体であり、原料融液18やるつぼ12と反応せず、原料融液18より密度の低く、透明であるものが好ましい。本実施の形態では液体封止剤19に三酸化硼素(B23)融液を用いた。液体封止剤としては他に、BaCl2やCaCl2等の融液が挙げられる。
【0024】
種結晶16は、目的とする単結晶の核となる結晶、即ち、小さなGaAsの単結晶である。
【0025】
高圧容器11内は、原料融液18及び液体封止剤19の解離及び蒸発を妨げるべく、不活性ガスが充填され、高圧力に加圧される。
【0026】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0027】
上記のような構成において、るつぼ12に原料融液18となるGaAs多結晶及び液体封止剤19となる三酸化硼素を入れる。その後、高圧容器11内に不活性ガスを導入して昇圧し、るつぼ内の温度をGaAsの融点以上になるようヒータ13で加熱し、るつぼ12内部のGaAs多結晶及び三酸化硼素を融解してGaAsからなる原料融液18及び三酸化硼素融液からなる液体封止剤19を形成する。このとき、液体封止剤19は、原料融液18より密度が低いため、原料融液18上に浮上する。
【0028】
次に、るつぼ12をるつぼ軸14により昇降移動させ、ヒータ13による加熱が適正となるよう、るつぼ12の位置を調整する。その後、シード軸15を下降させて種結晶16を原料融液18に接触させ、ヒータ13を調整して高圧容器11内の温度を徐々に下げ、種結晶16の周囲に単結晶17を結晶成長させる。単結晶17を成長させながら、シード軸15を上昇させて成長した単結晶17を引き上げている。また、シード軸15を引き上げると共に回転させることで、結晶成長される単結晶17は、直径が均一な円柱状に形成される。
【0029】
単結晶17が結晶成長される際に、結晶化された単結晶17と原料融液18との境界面(固液界面)20の形状が結晶成長の成否に関係してくる。固液界面20の形状が単結晶17側(図中では上側)に凹面になると、結晶欠陥の一種である転位が多量に生じやすくなってしまう。転位は、固液界面20に対して垂直方向に伝播(移動)するので、その結果、転位が集中して単結晶17中に多量に形成されてしまう。
【0030】
固液界面20の形状は、単結晶17の熱の放熱条件によって決まる。単結晶17の頭部(単結晶頭部)21付近からの放熱が充分でないとき、固液界面20は凹面形状となる。そこで、単結晶17の引き上げ速度を引き上げ途中で減速して、単結晶頭部21からの放熱を十分に行う。なぜなら、引き上げ速度を遅くすれば、単結晶17が放熱される時間を稼ぐことができ、結果的に十分に放熱されるためである。単結晶頭部21からの放熱が十分になされることで、固液界面20は略平坦に保持され、転位が単結晶17に集中することを防ぐことができる。これにより、引き上げ速度の条件について説明する。
【0031】
先ず、引き上げ速度の減速を開始する時期は、形成された単結晶17の体積をV1、残りの融液体積をV2として、投入した融液の体積をV1+V2として、V1/(V1+V2)が、
0.25≦V1/(V1+V2)≦0.70
を満たした時である。
【0032】
V1/(V1+V2)が0.25未満の時に引き上げ速度の減速を始めると、即ち、単結晶17の形成が進んでいない状態の時に引き上げ速度の減速を開始すると、結果的に、単結晶頭部21付近からの放熱が大きくなりすぎ、固液界面20の凸面化が過剰に進む。よって、単結晶の下端がるつぼ底部に接触してしまい、結晶成長が続行不可能となる。
【0033】
他方、V1/(V1+V2)が0.70を超えてから引き上げ速度の減速を始めると、単結晶頭部21付近からの放熱が不十分で結晶下端部で固液界面20が凹面形状となり、転位が集中し多結晶化してしまう。
【0034】
また、減速後の引き上げ速度Waは、初期引き上げ速度W0に対して、
0.30≦Wa/W0≦0.85
の関係を満たす速度に制御する。
【0035】
初期引き上げ速度W0を5〜7mm/hとすると、減速後の引き上げ速度Waを1.5〜6mm/h、好ましくは、速度Waを1.5〜4mm/h内で収まるように制御する。より好ましくは、初期引き上げ速度W0を6mm/hとして、減速後の引き上げ速度Waを1.8〜3.6mm/hとする。
【0036】
Wa/W0が0.30未満であると、減速後の引き上げ速度が遅すぎ、単結晶頭部21付近からの放熱が過剰に行われる。よって、固液界面20形状の凸面化が過剰に進み、単結晶17の下端がるつぼ底部に接触していまい、結晶成長が続行不可能となる。
【0037】
Wa/W0が0.85を超えると、減速後の引き上げ速度が速すぎるため、結晶頭部21付近からの放熱が不十分であり、結晶下端部で固液界面20が凹面形状となり、転位が集中し多結晶化してしまう。
【0038】
以上、LEC法を用いた単結晶の製造方法において、単結晶17の引き上げ速度の減速時期と、減速する速度を制御することによって、固液界面20を平坦或いは略平坦(微小な凹面或いは凸面状を含む)に形成することができ、これにより、成長させる単結晶の多結晶化を防ぐことができる。
【0039】
本実施の形態の化合物半導体単結晶の製造方法は、GaAs単結晶の製造方法について説明したが、GaAs単結晶に限らず、GaP、InP等、LEC法を用いて製造可能な全ての化合物半導体単結晶の製造方法に適用することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明に係る実施の形態について、実施例に基づいて説明するが、本発明の実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
PBN製のるつぼにGaAs多結晶25000g、液体封止剤として三酸化硼素(B23)2000gをるつぼに入れ、高圧容器に収納し、容器内の圧力が9.2×10-5Pa(9.0kg/cm2 )になるように不活性ガスを充填した。充填後、ヒータ加熱によりB23、GaAs多結晶を融解させ、温度を調節し、種付けを行い、初期引上速度6mm/hで固化させ、結晶長220mmの時点(V1/(V1+V2)=0.5)で、引上速度を3mm/hに減速して(Wa/W0=0.5)、結晶径110mm、結晶全長440mmのGaAs単結晶を成長させた。
【0042】
以上の条件で20本の単結晶を作製した結果、単結晶の上端から300mmの位置での多結晶部の発生は、0本であった(歩留100%)。
【0043】
(実施例2)
結晶長が300mmになった時(V1/(V1+V2)=0.68の時)を引き上げ速度の減速開始時とし、その他の作製条件を実施例1と同じにして20本のGaAs単結晶を作製した。
【0044】
本実施例では、20本の単結晶のうち12本には多結晶部が発生しなかった。残りの8本は、単結晶頭部付近からの放熱が不十分で、結晶下端部で固液界面が凹面形状となり、転位が集中して多結晶化した(歩留60%)。
【0045】
(実施例3)
減速したときの引上速度を5mm/h(Wa/W0=0.83の時)とし、その他の作製条件を実施例1と同じくして20本のGaAs単結晶を作製した。
【0046】
本実施例では、20本の単結晶のうち10本には多結晶部が発生しなかった。残りの10本は、単結晶頭部付近からの放熱が不十分で、結晶下端部で固液界面が凹面形状となり、転位が集中して多結晶化した(歩留50%)。
【0047】
(比較例1)
結晶長が50mmになった時(V1/(V1+V2)=0.11の時)を引き上げ速度の減速開始時とし、その他の作製条件を実施例1と同じにして20本のGaAs単結晶を作製した。
【0048】
この比較例では、単結晶頭部からの放熱が大きくなりすぎ、固液界面形状の凸面化が過剰に進み、結晶とるつぼ底部が接触してしまい、成長続行不可能となってしまう現象が16本発生した(歩留20%)。
【0049】
(比較例2)
減速したときの引上速度を1mm/h(Wa/W0=0.16の時)とし、その他の作製条件を実施例1と同じくして20本のGaAs単結晶を作製した。
【0050】
この比較例では、結晶頭部からの放熱が大きくなりすぎ、固液界面形状の凸面化が過剰に進み、結晶とるつぼ底部が接触してしまい、成長続行不可能となる現象が14本発生した(歩留30%)。
【0051】
以下に実施例1〜3、比較例1,2の結果をまとめた表を示す。
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施の形態に係る化合物半導体単結晶の製造方法に用いる製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0054】
10 化合物半導体単結晶の製造装置
12 るつぼ
16 種結晶
17 単結晶
18 原料融液
19 液体封止剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料及び液体封止剤を入れたるつぼを加熱して原料及び液体封止剤を融解し、融解した原料融液に接触させた種結晶を引き上げることにより、単結晶を成長させる液体封止チョクラルスキー法を用いた化合物半導体単結晶の製造方法において、
始めに所定の初期引き上げ速度で単結晶の引き上げを行い、単結晶の体積がるつぼ内に投入した原料融液の体積の所定の割合に達した時点で、単結晶の引き上げ速度を減速することを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
単結晶の体積が、るつぼ内に投入した原料融液の体積の25%〜70%に到達した時点で引き上げ速度を減速する請求項1記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項3】
減速後の引き上げ速度を、初期引き上げ速度に対して30%〜85%になるようにする請求項1または2記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項4】
上記初期引き上げ速度は、5〜7mm/hであり、減速後の引き上げ速度は、1.5〜6mm/hである請求項3記載の化合物半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−8437(P2006−8437A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186174(P2004−186174)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】