説明

化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置

【課題】スクラッチの発生を抑制して酸化シリコン膜を平坦化する化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、化学的平坦化方法は、飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を用意する工程を含む。前記方法は、凹凸を有する酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凹凸の凸部の溶解を生じさせて、前記凹凸の高さを減少させる工程をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や微小電気機械素子(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)などの電子デバイスの製造工程において、薄膜や基板表面を平坦化する際に、化学機械的研磨法(Chemical Mechanical Planarization:CMP法)が用いられる。CMPにおいて、砥粒(物理的研磨剤)による研磨損傷(スクラッチ)が歩留まりを低下させる原因となる。
【0003】
表面に反応種を持たせた触媒板を用いる触媒基準エッチング法(CAtalyst-Referred Etching:CARE)法がある。この方法は、SiC、GaN及び金属の平坦化に適用できるが、LSI等の絶縁膜として広く用いられている酸化シリコン膜に適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−120989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、スクラッチの発生を抑制して酸化シリコン膜を平坦化する化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、化学的平坦化方法は、飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を用意する工程を含む。前記方法は、凹凸を有する酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凹凸の凸部の溶解を生じさせて、前記凹凸の高さを減少させる工程をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示するフローチャート図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法の特性を例示するグラフ図である。
【図3】図3(a)〜図3(c)は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示する工程順模式的断面図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。
【図5】図5は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。
【図7】図7は、第2の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。
【図8】図8は、第4の実施形態に係る化学的平坦化装置を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示するフローチャート図である。 図1に表したように、本実施形態に係る化学的平坦化方法は、処理液を用意する工程(ステップS110)と、処理液を用いて、凹凸を有する酸化シリコン(SiO)膜(加工膜)の凹凸の高さを減少させる工程(ステップS120)と、を含む。
【0010】
処理液は、珪フッ化水素酸(HSiF)水溶液を含む。珪フッ化水素酸水溶液は、飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む。
【0011】
凹凸の高さを減少させる工程は、凹凸を有する酸化シリコン膜をその処理液に接触させた状態で、その処理液の平衡状態を変化させて、凹凸の凸部の溶解を生じさせることを含む。酸化シリコン膜を処理液に接触させる方法としては、例えば、酸化シリコン膜を処理液に浸漬させる。
【0012】
図2は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法の特性を例示するグラフ図である。
図2は、珪フッ化水素酸水溶液における平衡状態を例示している。図2の横軸は、処理液の温度Tmであり、縦軸は、SiOの飽和溶解量ASSである。
図2に表したように、温度Tmが上昇すると、SiOの飽和溶解量ASSは低下する。例えば、処理液を作成したときの温度を温度T0とする。温度T0において、処理液は平衡状態Seである。温度T0よりも高い高温Thにおいては、析出状態Ssとなり、SiOが析出する。温度T0よりも低い低温Tlにおいては、溶解状態Sdとなり、SiOが溶解する。
【0013】
すなわち、弗酸水溶液にSiOを飽和濃度で溶解させた珪フッ化水素酸水溶液(溶液)においては、以下の第1式の平衡式が成り立つ。

SiF + 2HO ⇔ SiO +6HF (1)

平衡状態Seにおいては、溶液にSiOが接触してもSiOは溶解しない。
【0014】
第1式において、右辺の状態から左辺の状態に、状態を移行(変化)させると、溶液によりSiOは溶解する。状態を変化させる方法として、たとえば溶液の温度Tmを低下させる。これにより、SiOが溶解する。本実施形態に係る化学的平坦化方法においては、この現象が利用される。後述するように、実施形態において、状態を変化させる方法は任意である。
【0015】
実施形態においては、例えば、凹凸の凸部に接する部分の処理液の平衡状態を変化させて、凸部の溶解速度を凹凸の凹部の溶解速度よりも大きくする。これにより、凹凸の凸部の溶解を生じさせる。
【0016】
実施形態はこれに限らず、処理液の平衡状態を変化させて、凹凸の凸部の溶解、及び、凹凸の凹部での酸化シリコンの析出、の少なくともいずれかを生じさせても良い。以下では、凹凸の凸部の溶解を生じさせる場合について説明する。
【0017】
図3(a)〜図3(c)は、第1の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示する工程順模式的断面図である。
図3(a)に表したように、本実施形態に係る化学的平坦化方法においては、酸化シリコン膜10は、凹凸11を有する。凹凸11は、凸部11pと、凹部11dと、を有する。凸部11pの上面と、凹部11dの下面と、の間の距離(凹凸11の高さh1)は、例えば、実施形態に係る方法がLSIなどの半導体装置に用いられる場合は、30ナノメートル(nm)以上、2マイクロメートル(μm)程度以下である。さらに、MEMSなどの電子装置に用いられる場合は、高さh1は、例えば20μm程度になることもある。
【0018】
実施形態において、酸化シリコン膜10は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、または、塗布法により形成される。酸化シリコン膜10は、例えば、基体5の主面上に形成されている。基体5は、例えば、半導体メモリ、高速ロジックLSI、システムLSI、メモリ・ロジック混載LSIなどの半導体デバイスの基板などである。
【0019】
図3(b)に表したように、凹凸11を有する酸化シリコン膜10を処理液30に接触(例えば浸漬)させる。そして、凸部11pに処理板40を接触させて凸部11pの温度を低下させる。例えば、処理板40として、冷却可能な温度制御板41が用いられる。すなわち、平衡状態を変化させる第1の手法では、温度制御板41が用いられる。
【0020】
温度制御板41を凸部11pに接触させることで、凸部11pの温度を低下させ、凸部11pに接触する処理液30の平衡状態が変化する。これにより、凸部11pに接する部分の処理液30の平衡状態が変化し、凸部11pを溶解させる。凸部11pよりも温度が高い凹部11dにおいては、酸化シリコン膜10は溶解しない、または、溶解の程度が小さい。すなわち、凸部11pの溶解速度は、凹部11dの溶解速度よりも大きい。
【0021】
これにより、図3(c)に表したように、平坦化処理後においては、初期の凹凸11の高さh1(深さ)よりも、加工後の凹凸11の高さh2(深さ)が小さい状態が得られる。
【0022】
凸部11pへの処理板40の接触において、酸化シリコン膜10と処理板40とを接触させつつ、酸化シリコン膜10と処理板40との相対的な位置を変化させても良い。例えば、酸化シリコン膜10と処理板40とを接触させつつ酸化シリコン膜10及び処理板40の少なくともいずれかを回転させても良い。この回転は、例えば、酸化シリコン膜10と処理板40とが接する面に対して垂直な方向を軸とする回転である。上記の相対的な位置の変化(例えば回転)により、複数の凸部11pにおいて温度がより均一になり、より均一な処理が可能になる。また、凸部11pの溶解が促進される。
【0023】
本実施形態においては、例えば、処理液30は、砥粒を実質的に含まない。これにより、砥粒に起因するスクラッチの発生が抑制される。
【0024】
例えば、機械的な研磨方法(ラッピングなど)においては、酸化シリコン膜10の凸部11pから選択的に加工が行われ、凸部11pが実質的に消失したところで、平坦な表面が得られる。このため、研磨の厚さは、凹凸の高さh1とほぼ同等であり、効率的に平坦化を行うことができる。しかしながら機械的な研磨方法では、酸化シリコン膜10の表面でのダメージが大きく、加工により変質したダメージ層が形成されてしまう。このため、この方法を、高い特性と高い精度を有する微細な素子には適用することは困難である。
【0025】
一方、例えば砥粒を用いない化学的な研磨方法(ウエットエッチングなど)においては、例えばエッチャントによる等方的なエッチングが行われる。この方法では、酸化シリコン膜10の表面において機械的なダメージの発生はない。しかしながら、凸部11pでのエッチング速度は凹部11dのエッチング速度と余り変わらないため、平坦な表面を得るためには、凹凸11の高さh1よりもかなり長い深さのエッチングが必要である。このため、平坦化のために加工する量が多く、効率が低い。また、場合によっては、エッチピットによってかえって平坦性が悪化する可能性がある。また、腐食が発生することもある。
【0026】
また、これらの方法を改良したCMP法がある。CMP法においては、LSIデバイスの表面の平坦度を50nm以下にでき、AFM(Atomic Force Microscopy)で測定した平均ラフネス(Ra)が1nm以下の平坦面が得られる。しかし、CMP法では、砥粒を用いるため、砥粒残渣などによるスクラッチが発生する。CMP法の改良によりスクラッチの数や大きさを抑制することが試みられている。その一方で、LSIデバイスの微細化が進んでおり、スクラッチの数や大きさに対する要求は高まっている。例えば、LSI製造でのShallow Trench Isolation(STI)工程においては、例えば、数ナノメートルの寸法を有する微細溝パターンが形成される。この微細溝パターンを覆って全面に成膜した酸化シリコン膜を平坦化し、溝内にのみ酸化シリコン膜を埋め込む。平坦化後の表面にトランジスタを形成するため、特にスクラッチを抑制することが必要である。このような要求に対して、砥粒を用いるCMP法では、スクラッチを十分に抑制することが困難である。
【0027】
触媒基準エッチング法がある。この方法は、SiC、GaN及び金属の被加工膜の平坦化に用いられる。しかしながら、この方法が適用できる被加工物の材料は限られており、酸化シリコンの凸部を選択的にダメージなく平坦化する技術は知られていない。
【0028】
例えば、触媒となる鉄定盤と、過酸化水素水と、を用いてSiCやGaNなどを平坦化する例がある。また、Gaイオンを含有する中性域のpH緩衝溶液を用いて、光または電圧によりGaN酸化物を形成し、研磨具を用いてGaN酸化物を除去することで、Ga含有化合物半導体の表面を加工する例がある。これらの方法は、酸化シリコン膜には適用できない。また、飽和状態の処理液を用いないため、目的とする部分(凸部11p)の溶解の選択性が低く、加工の効率が低い。
【0029】
また、例えば、光触媒作用により処理液から活性種を生成させ、活性種と被加工面との化学反応により、処理液中に溶解する化合物を生成して、被加工物を加工する方法がある。この方法では、飽和状態の酸化シリコンを含む処理液を用いないため、目的とする部分の溶解の選択性が低い。このため、加工の効率が低い。
【0030】
これに対して、本実施形態においては、処理液30の平衡状態を制御することで、酸化シリコン膜10の凸部11pを選択的に溶解させる。このため、平坦化のために除去する酸化シリコン膜10の厚さは、凹凸11の高さh1とほぼ同等で良く、平坦化の効率が高い。また、砥粒を用いないため、スクラッチが発生しない。
【0031】
本実施形態に係る化学的平坦化方法によれば、スクラッチの発生を抑制して酸化シリコン膜を平坦化する化学的平坦化方法が提供できる。
【0032】
以下、本実施形態に係る化学的平坦化方法のいくつかの他の例について説明する。
図4は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。 図4に表したように、この例では、弗酸(HF)を浸出可能な処理板40が用いられる。すなわち、平衡状態を変化させる第2の手法では、処理板40として、弗酸を浸出可能な浸出板42が用いられる。
【0033】
浸出板42(処理板40)を凸部11pに接触させて、凸部11pに向けて弗酸を供給する。浸出板42として、例えば、多孔質構造体が用いられる。多孔質構造体の孔から、弗酸水溶液を浸出させる。多孔質構造体の付近では、浸出した弗酸により第1式の平衡状態が、右辺から左辺に移行する。これにより、多孔質構造体(浸出板42)に接する凸部11pを優先的に溶解させることができる。これにより、酸化シリコン膜10が平坦化される。
【0034】
図5は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。 図5に表したように、この例では、処理液30から弗素イオン(F)を生成させる処理板40が用いられる。すなわち、平衡状態を変化させる第3の手法では、処理板40として、処理液30から弗素イオン(F)を生成させる触媒板43が用いられる。
【0035】
触媒板43として、例えば、白金膜(白金板)などが用いられる、触媒板43の面上近傍では、弗酸がHとFとに解離する。触媒板43(処理板40)を、凸部11pに接触させて、凸部11pの近傍で弗素イオンを生成する。これにより、凸部11pの近傍で、第1式の平衡状態を右辺から左辺に移行させる。これにより、触媒板43に接する凸部11pを優先的に溶解させることができる。これにより、酸化シリコン膜10が平坦化される。この他、触媒板43として、白金、白金ルテニウム合金、希土類金属、希土類金属の化合物、コバルト、コバルトの化合物、及び、コバルトの炭素化合物などの少なくともいずれかを用いることができる。
【0036】
図6は、第1の実施形態に係る別の化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。 図6に表したように、この例では、導電性の処理板40が用いられる。すなわち、平衡状態を変化させる第4の手法では、処理板40として電極板44が用いられる。
【0037】
例えば、凸部11pに電極板44(導電性の処理板40)を接触させて、凸部11pに電圧を印加して凸部11pの近傍に電荷(例えば電子e)を供給する。これにより、処理液30から弗酸を生成する。
【0038】
例えば、処理液30(溶液)の電離を考慮すると、第1式の平衡式は以下の第2式のように書くことができる。
【0039】

+ HSiF + 2HO ⇔ SiO + 6H+6F (2)

処理液30に電極板44を接触させ、電極板44から電子eを供給すると、電子eは、水素イオンHに引き寄せられる。これにより、第2式の左辺で、以下の第3式の反応が生じる。
【0040】

2H + 2e → H (3)

したがって、電子eの供給により、電極板44の近傍の処理液30の平衡を、第1式の右辺の状態から左辺の状態に移行させることができる。すなわち、凸部11pの近傍で、第1式の平衡状態を右辺から左辺に移行させる。これにより、電極板44に近い凸部11pを優先的に溶解させることができる。これにより、酸化シリコン膜10が平坦化される。
【0041】
本実施形態において、平衡状態を変化させる上記の第1〜第4の手法を組み合わせて用いても良い。すなわち、実施形態に係る化学的平坦化方法においては、平衡状態を変化させることは、温度制御板41を用いる処理、浸出板42を用いる処理、触媒板43を用いる処理及び電極板44を用いる処理の少なくともいずれかの処理を実施することを含むことができる。
【0042】
本実施形態に係る化学的平坦化方法において、凹凸11の高さを減少させる工程(ステップS120)は、凹凸11の凸部11pの溶解を生じさせることに加え、処理液30の平衡状態を変化させて、凹凸11の凹部11dでの酸化シリコンの析出を生じさせることをさらに含むことができる。酸化シリコンの析出に関しては、例えば、以下の第2の実施形態において用いられる方法を適用できる。
【0043】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、凹凸11を有する酸化シリコン膜10を処理液30(飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液)に接触(例えば浸漬)させた状態で処理液30の平衡状態を変化させる。これにより、凹凸11の凹部11dでの酸化シリコンの析出を生じさせて、凹凸11の高さを減少させる。第1式において、左辺から右辺に平衡をずらすと、酸化シリコンを析出させることができる。以下、凹凸11の凹部11dでの酸化シリコンの析出の方法のいくつかの例について説明する。
【0044】
図7は、第2の実施形態に係る化学的平坦化方法を例示する模式的断面図である。
図7に表したように、酸化シリコン膜10を処理液30に接触させた状態で、凸部11pに処理板40(処理体45)を接触させて凸部11pの位置と処理板40の位置とを相対的に変化させつつ、処理液30の平衡状態を変化させて凹部11dに酸化シリコン15を析出させる。例えば、処理液30の温度を上昇させることで、処理液30の平衡状態を変化させて凹部11dに酸化シリコン15を析出させる。
【0045】
例えば、処理液30の温度を上昇させて、酸化シリコン膜10上に酸化シリコン15を析出させながら、同時に、酸化シリコン膜10の凸部11pを処理体45の研磨面に接触させて、酸化シリコン膜10(基体5)と、研磨面と、を相対運動させる。処理液30から析出した酸化シリコン15は、酸化シリコン膜10の表面全面に堆積する。このとき、酸化シリコン膜10の凸部11pは処理体45の研磨面と接触するので、凸部11pの上に堆積した酸化シリコン15は除去される。これにより、酸化シリコン15を除去しつつ、凹部11dの内部に酸化シリコン15を堆積させ凹部11dの内部に酸化シリコン15を充填させることができる。
【0046】
このように、本実施形態に係る化学的平坦化方法によれば、スクラッチの発生を抑制して酸化シリコン膜を平坦化する化学的平坦化方法を提供できる。
【0047】
さらに、本実施形態の方法によれば、酸化シリコン膜10に形成されたスクラッチの内部に酸化シリコン15を充填させることができる。このように、本方法では、スクラッチを修復しつつ、酸化シリコン膜10の凹凸を平坦化することができる。このように、本方法によれば、スクラッチなどのダメージができてしまった際に、ダメージを修復することができる。
【0048】
例えば、処理液30に、弗酸と結合して弗酸を消費させる物質を添加することで、酸化シリコン15を析出させることもできる。このような物質として、例えば、ホウ酸またはアルミニウムなどを用いることができる。例えば、処理液30にホウ酸またはアルミニウムを添加することで、第1式の右辺のHFを消費させることで、平衡状態を左辺の状態から右辺の状態に移行させることができる。この状態で、処理液30と酸化シリコン膜10とを接触(例えば浸漬)させつつ、酸化シリコン膜10の凸部11pを処理体45の研磨面に接触させ相対運動させる。これにより、例えば、凹部11dでの酸化シリコン15の析出とスクラッチの修復とを同時に行うことができる。
【0049】
さらに、処理液30に電荷を供給することで、酸化シリコン15を析出させることができる。例えば、処理液30中に電極を設置し、電極から電荷(例えば正孔h)を供給して、第1式の右辺のHFを消費させる。
【0050】
正孔hは、弗素イオンFに引き寄せられる。これにより、第2式の右辺で、以下の第4式の反応が生じる。

2F + 2h → F (4)

したがって、正孔hの供給により、第1式の平衡状態を左辺から右辺に移行させ、シリコン15を析出させることができる。
【0051】
電極から電荷(例えば正孔h+)を供給した状態で、処理液30と酸化シリコン膜10とを接触(例えば浸漬)させつつ、酸化シリコン膜10の凸部11pを処理体45の研磨面に接触させ相対運動させる。これにより、例えば、凹部11dでの酸化シリコン15の析出とスクラッチの修復とを同時に行うことができる。
【0052】
上記の方法は、組み合わせて実施しても良い。すなわち、処理液30の平衡状態を変化させて凹部11dに酸化シリコン15を析出させることは、処理液30の温度を上昇させる、処理液30に弗酸と結合して弗酸を消費させる物質を添加する、及び、処理液30に電荷を供給する、の少なくともいずれかの処理を実施することを含むことができる。
【0053】
第2の実施形態に係る化学的平坦化方法を第1の実施形態に係る化学的平坦化方法と組み合わせて実施しても良い。すなわち、凹凸11の高さを減少させる工程(ステップS120)は、凹部11dでの酸化シリコンの析出を生じさせることに加え、凸部11pの溶解を生じさせることをさらに含むことができる。
【0054】
第1及び第2の実施形態に係る化学的平坦化方法により、酸化シリコン膜10の表面の異物を除去することもできる。例えば、リソグラフィ工程前にリソグラフィを行う前の酸化シリコン膜10の表面に、第1及び第2の実施形態に係る化学的平坦化方法を施すことで酸化シリコン膜10の表面に存在する凸状の異物が除去できる。ナノインプリント法にこの方法を実施すると、インプリント原版であるテンプレートが凸状の異物で破壊されず、良好な微細パターン形成が可能である。また、リソグラフィ工程前に限らず、任意の工程において、上記の化学的平坦化方法を実施することで、異物が除去できる。第1及び第2の実施形態に係る化学的平坦化方法により、ウェーハの裏面のキズや凹凸の平坦化や修復を行うこともできる。
【0055】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、電子装置の製造方法に係る。この電子装置は、例えば、半導体層を含む半導体装置を含む。半導体装置は、例えば、半導体メモリ、高速ロジックLSI、システムLSI、メモリ・ロジック混載LSIなどを含む。この電子装置は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などの装置を含むこともできる。
【0056】
本製造方法は、基体5の上に酸化シリコン膜10を形成する工程を含む。そして、本製造方法は、ステップS110及びステップS120をさらに含む。すなわち、本製造方法は、酸化シリコン膜10に、第1及び第2の実施形態に関して説明した化学的平坦化方法を施す工程をさらに含むことができる。
【0057】
本製造方法においては、スクラッチの発生を抑制し酸化シリコン膜を効率的に平坦化できる化学的平坦化方法を用いることで、高性能で微細な素子を有する電子装置を高い歩留まりで製造することができる。
【0058】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態に係る化学的平坦化装置を例示する模式的断面図である。
図8に表したように、本実施形態に係る化学的平坦化装置110は、処理容器61と、処理液供給部62と、制御部63と、平衡変化部70と、を含む。
【0059】
処理容器61は、処理基板12を格納可能である。処理基板12には、凹凸11を有する酸化シリコン膜10が設けられる。処理基板12は、例えば基体5と、基体5の上に設けられた酸化シリコン膜10と、を有する。
【0060】
処理液供給部62は、処理容器61内に、処理液30を供給する。処理液30は、珪フッ化水素酸水溶液を含む。珪フッ化水素酸水溶液は、酸化シリコンを含む。例えば、珪フッ化水素酸水溶液は、飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含むことができる。
【0061】
制御部63は、処理液30中の酸化シリコン濃度と処理液30の温度を制御する。制御部63は、例えば、処理液30の温度を検出する温度検出部64を含むことができる。制御部63は、温度検出部64による温度の検出結果に応じて処理液の温度を上昇または低下させる温度制御部65をさらに含むことができる。制御部63は、さらに、例えば、処理液30中の酸化シリコン濃度を検出する濃度検出部66を含むことができる。制御部63は、さらに、調整剤供給部67を含むことができる。調整剤供給部67は、濃度検出部66による酸化シリコン濃度の検出結果に応じて、処理液30に、調整剤を供給する。調整剤には、例えば、弗素を含む溶液、酸化シリコンを飽和濃度で溶解させた珪フッ化水素酸水溶液、及び、弗酸を消費させる添加物(アルミニウム、または、ホウ酸水溶液など)の少なくともいずれかが用いられる。
【0062】
平衡変化部70は、例えば、酸化シリコン膜10を処理液30に接触させた状態で処理液30の平衡状態を変化させて、凹凸11の凸部11pの溶解を生じさせて、凹凸11の高さを減少させる。
【0063】
平衡変化部70には、例えば、処理板40を用いることができる。処理板40には、例えば、温度制御板41、浸出板42、触媒板43または電極板44などを用いることができる。これにより、平衡状態を変化させることができる。これにより、凹凸11の凸部11pの優先的な溶解を生じさせることができる。
【0064】
また、平衡変化部70は、例えば、酸化シリコン膜10を処理液30に接触させた状態で処理液30の平衡状態を変化させて、凹凸11の凹部11dでの酸化シリコン15の析出を生じさせて、凹凸11の高さを減少させる。
【0065】
平衡変化部70には、例えば、処理液30の温度を上昇させる処理液温度制御部51を用いることができる。平衡変化部70には、例えば、処理液30に、弗酸と結合して弗酸を消費させる物質を添加する添加部52を用いることができる。平衡変化部70には、例えば、処理液30に電荷を供給する電極53を用いることができる。これにより、処理液30の平衡状態を変化させて凹部11dに酸化シリコン15を析出させることができる。また、酸化シリコン膜10に形成されたスクラッチの内部に酸化シリコン15を充填させることができる。
【0066】
図8に例示したように、化学的平坦化装置110は、駆動部40cをさらに含んでも良い。この例では、駆動部40cは、例えば、処理板40を相対運動(例えば回転)させる。駆動部40cは、処理基板12を相対運動(例えば回転)させても良い。処理板40として、浸出板42を用いる際には、駆動部40cは、浸出板42に弗酸を供給する機能を有していても良い。処理板40として、温度制御板41を用いる場合、化学的平坦化装置110は、温度制御板41の温度を制御する制御板温度制御部40aをさらに備えても良い。このとき、化学的平坦化装置110は、制御板温度制御部40aを駆動する制御駆動部40bをさらに備えても良い。
【0067】
化学的平坦化装置110は、処理容器61に接続された配管81をさらに備えても良い。配管81の一端は、処理容器61に接続され、配管81の他端は、例えば処理液供給部62に接続される。配管81により、処理容器61と処理液供給部62との間で処理液30を循環させることができる。これにより処理液30の使用効率が向上する。配管81には、ポンプ84を付設することができる。また、処理容器61とポンプ84との間の配管81にフィルタ82を設けるすることができる。これにより、不純物などを捕獲することができる。また、処理液供給部62と処理容器61との間の配管にフィルタ83を設けても良い。化学的平坦化装置110は、溶液容器61に付設され処理液30を攪拌する攪拌部85をさらに備えても良い。
【0068】
本実施形態において、平衡変化部70は、酸化シリコン膜10を処理液30に接触させた状態で処理液30の平衡状態を変化させて、凸部11pの溶解、及び、凹部11dでの酸化シリコンの析出、の少なくともいずれかを生じさせて、凹凸11の高さを減少させても良い。
【0069】
本実施形態によれば、スクラッチの発生を抑制して酸化シリコン膜を平坦化する化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置が提供される。
【0070】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、化学的平坦化方法で用いられる酸化シリコン膜、基体、処理基板、処理液、処理板、温度制御板、浸出板、触媒板、電極板及び処理体など、並びに、化学的平坦化装置に含まれる処理容器、処理液供給部、制御部、平衡変化部、処理液温度制御部、添加部及び電極などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0071】
その他、本発明の実施の形態として上述した化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての化学的平坦化方法及び化学的平坦化装置の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0072】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
5…基体、 10…酸化シリコン膜、 11…凹凸、 11d…凹部、 11p…凸部、 12…処理基板、 15…酸化シリコン、 30…処理液、 40…処理板、 40a…制御板温度制御部、 40b…制御駆動部、 40c…駆動部、 41…温度制御板、 42…浸出板、 43…触媒板、 44…電極板、 45…処理体、 51…処理液温度制御部、 52…添加部、 53…電極、 61…処理容器、 62…処理液供給部、 63…制御部、 64…温度検出部、 65…温度制御部、 66…濃度検出部、 67…調整剤供給部、 70…平衡変化部、 81…配管、 82、83…フィルタ、 84…ポンプ、 85…攪拌部、 110…化学的平坦化装置、 ASS…飽和溶解量、 Sd…溶解状態、 Se…平衡状態、 Ss…析出状態、 T0…温度、 Th…高温、 Tl…低温、 Tm…温度、 h1、h2…高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を用意する工程と、
凹凸を有する酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で、前記凸部に接する部分の前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凸部の溶解速度を前記凹凸の凹部の溶解速度よりも大きくして、前記凹凸の高さを減少させる工程と、
を備え、
前記平衡状態を変化させることは、
冷却可能な処理板を前記凸部に接触させて前記凸部の温度を低下させる、
弗酸を浸出可能な処理板を前記凸部に接触させて前記凸部に向けて弗酸を供給する、
前記凸部に触媒を含む処理板を接触させて前記凸部の近傍で前記処理液から弗素イオンを生成させる、及び、
前記凸部に導電性の処理板を接触させて前記凸部に電圧を印加して前記凸部の近傍に電荷を供給して前記処理液から弗酸を生成する、
の少なくともいずれかの処理を実施することを含み、
前記凹凸の高さを減少させる前記工程は、前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凹部での酸化シリコンの析出を生じさせることをさらに含む化学的平坦化方法。
【請求項2】
飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を用意する工程と、
凹凸を有する酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で、前記凸部に接する部分の前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凸部の溶解速度を前記凹凸の凹部の溶解速度よりも大きくして、前記凹凸の高さを減少させる工程と、
を備えた化学的平坦化方法。
【請求項3】
前記平衡状態を変化させることは、
冷却可能な処理板を前記凸部に接触させて前記凸部の温度を低下させる、
弗酸を浸出可能な処理板を前記凸部に接触させて前記凸部に向けて弗酸を供給する、
前記凸部に触媒を含む処理板を接触させて前記凸部の近傍で前記処理液から弗素イオンを生成させる、及び、
前記凸部に導電性の処理板を接触させて前記凸部に電圧を印加して前記凸部の近傍に電荷を供給して前記処理液から弗酸を生成する、
の少なくともいずれかの処理を実施することを含む請求項2記載の化学的平坦化方法。
【請求項4】
前記凹凸の高さを減少させる前記工程は、前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凹部での酸化シリコンの析出を生じさせることをさらに含む請求項2または3に記載の化学的平坦化方法。
【請求項5】
飽和濃度で溶解した酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を用意する工程と、
凹凸を有する酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で、前記凹凸の凸部に処理板を接触させて前記凸部の位置と前記処理板の位置とを相対的に変化させつつ、前記処理液の平衡状態を変化させて前記凹凸の凹部での酸化シリコンの析出を生じさせて、前記凹凸の高さを減少させる工程と、
を備えた化学的平坦化方法。
【請求項6】
前記凹部に酸化シリコンを析出させることは、
前記処理液の温度を上昇させる、
前記処理液に、弗酸と結合して弗酸を消費させる物質を添加する、及び、
前記処理液に電荷を供給する、
の少なくともいずれかの処理を実施することを含む請求項4または5に記載の化学的平坦化方法。
【請求項7】
凹凸を有する酸化シリコン膜が設けられた処理基板を格納可能な処理容器と、
前記処理容器内に、酸化シリコンを含む珪フッ化水素酸水溶液を含む処理液を供給する処理液供給部と、
前記処理液中の酸化シリコン濃度と前記処理液の温度を制御する制御部と、
前記酸化シリコン膜を前記処理液に接触させた状態で前記処理液の平衡状態を変化させて、前記凹凸の凸部の溶解、及び、前記凹凸の凹部での酸化シリコンの析出、の少なくともいずれかを生じさせて、前記凹凸の高さを減少させる平衡変化部と、
を備えた化学的平坦化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−102090(P2013−102090A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245683(P2011−245683)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】