説明

化粧用具

【課題】化粧用具の皮膚常在菌の中で、選択的に悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成することにより、衛生効果と美容効果をもたらす化粧用具を提供する。
【解決手段】糖アルコール及び有機酸を含む滲出成分がマイクロカプセルから経時的に滲出されるように化粧用具に含まれていて、該微粒子の滲出成分により皮膚常在菌の中で選択的に悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成することによって衛生効果及び美容効果の改善された化粧用具を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖アルコール及び有機酸が滲出的に含有されてなるマイクロカプセルが化粧用具に含まれていて、該マイクロカプセルに含まれる滲出成分によって化粧用具に付着する皮膚常在菌の中で選択的に黄色ブドウ球菌などの悪玉菌を抗菌し、表皮ブドウ球菌などの善玉菌を育成して衛生と美容効果を得る化粧用具に関する。
さらに詳しくは、化粧用具に含まれる該マイクロカプセルの滲出成分により、用具の表面をpH4.5〜6.0に保ち、糖アルコールが供給されることにより、用具に付着する悪玉菌の病原性の黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌し、善玉菌として美容に有益な表皮ブドウ球菌を育成することにより、衛生と美容の効果をもたらす化粧用具に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧用具は、使用時に皮膚常在菌による汚染があり、菌の種類により皮膚や毛髪に有害であるので、用具を抗菌化して衛生効果を求める社会的ニーズが高まっている。このニーズに対応して抗菌剤を用具に付与する開発がなされている。例えば、特開平05−253016号公報では、ピリジニウム系抗菌剤を配合した合成樹脂材料による抗菌ブラシがある。特開平09−100205号公報には、銀ゼオライト抗菌剤の分散安定剤として含水マグネシウム珪酸塩又はスメクタイトを併合して均一抗菌コートを可能にしてなる化粧用具がある。特開2004−041306号公報には、光触媒をコーティングして光触媒による抗菌ブラシが提示されている。特開2000−000115号公報では、銀の無電解メッキにより抗菌化粧用具を提供している。特開2002−223857号公報では、第4級アンモニウム系抗菌剤を加熱吸着により耐洗濯の優れた抗菌ブラシを得ている。上記公知技術の抗菌剤を用いる技術は、悪玉菌も善玉菌も区別することなく、全て殺菌するので、選択的に善玉菌のみを活用させることはできなかった。
【0003】
以上の抗菌に対して、皮膚常在菌を選択的抗菌により皮膚外用剤とする開発がある。特開2000−302674号公報によれば、ファルネソールとキシリトールの配合物が、選択的抗菌効果を発揮して皮膚疾患の治療と予防に有効としている。特開2000−302673号では、ファルネソール及び/又はキシリトールを配合した皮膚外用剤は選択的抗菌効果により、アトピー性皮膚炎の治療に有効とされている。特開2002−302404号公報では、細菌は分泌物などで覆われてバイオフィルムを形成しているが、このバイオフィルムがバリヤーとなって抗菌され難くなっている。五単糖又はその糖アルコールを用いるとバイオフィルムを減少又は除去する効果があり、抗菌効果を向上する助剤として有効としている。
糖アルコールは、皮膚常在菌に選択的に抗菌効果を発揮するので、外用剤として有効とされているが、化粧用具に汚染した皮膚常在菌について、悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成する効果が耐洗濯性を有し、衛生と美容効果を有する化粧用具については知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平05−253016号公報
【特許文献2】特開平09−100205号公報
【特許文献3】特開2004−041306号公報
【特許文献4】特開2000−000115号公報
【特許文献5】特開2002−223857号公報
【特許文献6】特開2000−302674号公報
【特許文献7】特開2000−302673号公報
【特許文献8】特開2002−302404号公報
【発明の開示】
【発明の効果】
【0005】
本発明の化粧用具により皮膚常在菌の選択的な抗菌・育成が行われる根拠は、化粧用具に固定したカプセルより滲出する成分により、接触する肌や毛髪の表面のpHを4.5〜6.0に保ち、糖アルコールの供給により、善玉菌の表皮ブドウ球菌の育成に適する環境となる。この環境では、悪玉菌の黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用となり、悪玉菌は低減する。pH6以上になると、悪玉菌の育成に適する環境となり、好ましくない。
本発明では、糖アルコールにより善玉菌を育成して肌の美容効果に機能させ、悪玉菌は抗菌として殺菌又は低減に機能させる。善玉菌の増殖は、該菌より分泌されるタンパク質分解酵素が豊富になり、該酵素により自然の摂理として美容効果が得られる。マイクロカプセル表面の滲出成分は、肌着の洗濯によって一時的には除去されるが、その後、2〜3日経過すれば、成分が滲出するので、繰り返し洗濯に対して一時的に微粒子表面が洗浄されても、滲出効果により効果が継続するのである。このような効果は一般のマイクロカプセルでは得られない。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本来、皮膚は皮膚常在菌の営みにより分泌される成分で、自然に肌の潤いと美容が得られる仕組みになっている。しかし、皮膚常在菌には、病原性を有する有害な黄色ブドウ球菌(悪玉菌)と美容に有益な表皮ブドウ球菌(善玉菌)の2種類がある。従来の抗菌剤によれば、悪玉菌も善玉菌も全て抗菌の対象となる。肌の美容に有益な善玉菌までもが抗菌の対象として低減されるので、美容の面では損失であり、肌荒れの原因ともなっていた。
本発明は、化粧用具の皮膚常在菌による汚染を、悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成することにより、衛生効果と美容効果をもたらす化粧用具を提供する。
【0007】
皮膚に存在する常在菌で、美容に有益な善玉菌のみを選択的に育成して、有害な病原性の悪玉菌を消滅させるには、pH4.5〜6.0の環境で、糖アルコールを供給することが可能であるが、糖アルコール及び酸成分を、ブラシやパフの洗濯性に耐えるように恒久的に化粧用具に供給することが本発明の解決すべき課題である。
【0008】
通常、糖アルコールは、水溶性であるためにサイクロデキストリンによる包接では洗濯に耐える持久性が得られないが、本発明の化粧用具では、糖アルコールと有機酸を滲出的に含有するカプセルを化粧用具に含有させて、育菌・抗菌効果に耐洗濯性を有する化粧用具として実現するもので、衛生と美容効果を改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を基本とすることで上記課題を解決した。
(1)マイクロカプセルが表面に固着された化粧用具であって、マイクロカプセルは糖アルコール及び有機酸を滲出成分とする直径3〜10μmの微粒子よりなり、かつ該微粒子の滲出成分によって、皮膚常在菌の中で選択的に悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成することを特徴とする化粧用具。
(2)糖アルコールが、オリゴサッカライド、キシリトール又はファルネソールより選ばれた1種類又は2種類以上であることを特徴とする(1)に記載の化粧用具。
(3)糖アルコール及び有機酸が、オリーブ油、ホホバ油、スクワラン、スクワレン、流動パラフィン又はワックスより選ばれた1種類又は2種類以上の油性成分に配合されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の化粧用具。
(4)立毛パフ、スポンジパフ、筆、ブラシ、化粧綿、あぶらとり紙、又はパック用シートより選ばれた(1)〜(3)のいずれかに記載の化粧用具。
【0010】
糖アルコール及び有機酸を滲出的に含有するマイクロカプセルは、その製造方法には特に制限はないが、好ましくは、水中油滴型懸濁液による合成樹脂モノマー又はプレポリマーの懸濁重合により得ることができる。マイクロカプセルの大きさは、通常、10μm以上では化粧用具の色相や感触を損ねるので好ましくない。好ましくは8μm以下がよい。3μm以下では、該カプセルの製造が困難である。
【0011】
合成樹脂成分としては、ポリアクリル系又はポリウレタン系のモノマー又はプレポリマーが好ましい。水溶性の糖アルコール及び有機酸を滲出的に含有する該カプセル粒子は、例えば、本発明者による特許第3610301号を利用して、水中油滴型懸濁重合で10μm以下の微粒子として得るには、懸濁安定剤を含む水中に懸濁する油性成分であるモノマー混合液を調整する際、乳化状態の強化剤として、例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン又は低分子量ポリエチレンなどのワックスをポリマー混合物に配合するという改良により容易に得ることができる。
【0012】
ワックスとしてはカルナウバろう、キャンデリラろう、みつろう、ラノリンを用いることができる。
用いられるワックスの融点としては、60℃〜85℃のものが好ましい。融点以上の温度で滲出成分を配合して乳化して、融点以下の温度でカプセルに封入する懸濁重合を行う。ワックスはブリード抑制剤として機能するが、常温でのブリード性を向上するために更に流動パラフィンを配合することも有効である。これらのブリード抑制剤及びブリード向上剤は、カプセル100重量部に対して2〜8重量部、用いるとよい。
【0013】
本発明における糖アルコールとしては、好ましくは、オリゴサッカライド、キシリトール、ファルネソールより選ばれた1種類又は2種類以上を用いることができる。有機酸としては、滲出する糖アルコールをph4.5〜6.0の環境に維持できるものであれば特に制限はないが、好ましくはクエン酸、リンゴ酸、又は酒石酸より選ばれたものを用いることができる。また、糖アルコールはモノマー混合物100重量部中、5〜20重量部、好ましくは10〜15重量部の割合で用いられ、有機酸は、モノマー混合物100重量部中、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の割合で用いられる。
【0014】
水性成分である糖アルコール及び有機酸を油性成分であるモノマー混合物に配合するために、好ましくは、オリーブ油、ホホバ油、スクワラン、スクワレン、流動パラフィン、ワックスなどより選ばれた油溶成分をモノマー混合物に配合して担体として用いる。糖アルコールと有機酸を含有させる油溶成分としては、スクワランが油性感がなくて感触がよくて好ましい。これらの油溶成分はモノマー混合物100重量部中、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の割合で用いられる。
【0015】
本発明の化粧用具に用いられる、マイクロカプセルは、上記、糖アルコール、有機酸、油溶成分及び乳化強化剤乃至ブリードアウト抑制剤を、含有成分として5〜50重量%含有させて用いる。50重量%以上を含有させると、微細カプセルを水中油滴重合で安定して得ることは難しい。また、5重量%以下の含有量では滲出成分が少なくて好ましくない。
【0016】
本発明の化粧用具に用いられる、マイクロカプセルの合成樹脂成分としては、ポリアクリル系、ポリウレタン系のモノマー又はプレポリマーが好ましく用いられる。アクリル系モノマーとしては、より具体的にはラジカル重合可能なアクリル系不飽和モノマーとして代表的なものを例示すると、アクリル酸、アクリル酸の誘導体、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、エチレングリコールジアクリレート、N - メチロールアクリルアミド、あるいはメタクリル酸、メタクリル酸の誘導体、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクルレート、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、又はN - メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0017】
上記アクリル系不飽和モノマーは、1種類又は2種類以上を組合せて使用することができる。また、前記ラジカル重合可能なアクリル系不飽和モノマーの重合には、一般的にラジカル重合に用いられる過酸化物系やアゾ化合物系のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0018】
より具体的には、過酸化物系の開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド又はラウロイルパーオキサイドなどが挙げられる。アゾ化合物系開始剤としては、2 , 2 ′ - アゾビス(2 , 4 - ジメチルバレロニトリル)、2 , 2 ′ - アゾビス(2 - メチルプロピオニトリル)、2 , 2 ′ - アゾビス(2 - メチルブチロニトリル)又は2 , 2 ′ アゾビス(4 - メトキシ - 2 , 4 - ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
これらラジカル重合開始剤は、1種類又は2種類以上を組合せて使用することができる。また、これらラジカル重合開始剤の使用割合は、ラジカル重合可能な不飽和モノマー100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。
【0019】
ウレタン系プレポリマーは、イソシアネートプレポリマーとポリオールよりなる重合可能なプレポリマーであり、ポリオールは、内容的にはポリエステル系、ポリエーテル系、アクリルポリオール系のいずれでもよく、また、イソシアネートプレポリマーのタイプも、黄変タイプ、無黄変タイプ、難黄変タイプを問わない。例えば、2 , 4 - トリレンジイソシアネート、2 , 6 - トリレンジイソシアネート、m - フェニレンジイソシアネートもしくはp - フェニレンジイソシアネート、4 , 4 ′ - ジフェニルメタンジイソシアネート又は2 , 4 ′ - ジフェニルメタンジイソシアネートなどの各種の芳香族ジイソシアネート類などをはじめ、1 , 5 - テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1 , 6 - ヘキサメチレンジイソシアネート、4 - シクロヘキシレンジイソシアネート、あるいはイソホロンジイソシアネート、4 , 4 ′ - ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート又はダイマー酸ジイソシアネートのような各種の脂肪族ジイソシアネート類や脂環式ジイソシアネート類でもよい。2官能末端イソシアネートウレタンプレポリマーを使用した場合は、熱可塑性ウレタン粒子が得られ、2官能以上の末端イソシアネートウレタンプレポリマーを使用すると、3次元架橋したウレタン粒子が得られる。
これらイソシアネート類は、1種類又は2種類以上を組合せて使用することができる。
【0020】
本発明で使用できるポリオールとして特に代表的なものを例示すると、エチレングリコール、1 , 2 - プロピレングリコール、1 , 3 - プロピレングリコール、1 , 3 - ブチレングリコール、1 , 4 - ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1 , 6 - ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール又は水添ビスフェノールA などのような、種々のジオール化合物類又はポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールもしくはポリオキシエチレンテトラメチレングリコール、又はポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)ブロック共重合体のような各種のポリエーテルグリコール類を挙げることができる。
また、水酸基を3官能以上有するポリオールとして特に代表的なものを例示すると、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール又はトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0021】
本発明におけるマイクロカプセルは、水中油滴重合により製造することができる。すなわち、懸濁安定剤を含む水中に、糖アルコール、有機酸、油溶成分、乳化強化剤又はブリードアウト抑制剤及び水中油滴重合又は水中油滴架橋重合が可能なモノマーやプレポリマーを含むモノマ−混合物、並びに必要に応じて重合開始剤乃至重合触媒を添加、撹拌して水中油滴型懸濁液とし、これを加温して懸濁重合又は懸濁架橋重合によって、略球形の糖アルコール及び有機酸を滲出的に含有する樹脂粒子を生成させる。
本発明においては、懸濁安定剤の種類、その濃度、撹拌回転数などを調節することにより、粒子径が3〜10μmの略球状で、糖アルコール及び有機酸を滲出的に含有するマイクロカプセルとする。
【0022】
用いられる懸濁安定剤としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ゼラチン、ポリアクリル酸又は
ポリアクリル酸塩などの水溶性高分子やリン酸カルシウム又は炭酸カルシウムなどの無機系懸濁剤が挙げられる。
これらの懸濁安定剤は、その1種類又は2種類以上を組合せて使用することができる。
【0023】
懸濁液の安定性は、懸濁安定剤の種類、量及び使用する樹脂の種類によって決まり、一般に懸濁安定剤の量が多くなると、安定性は増すが粒径が小さくなる傾向があり、且つ懸濁液の粘度が上がり、固液分離、洗浄が困難になる。懸濁安定剤の量が少なく、懸濁液の粘度が低いと、糖アルコールと有機酸を含有する油溶成分は樹脂粒子の中に入りにくくなるが、粒径の大きなものが得られる。
そのため、懸濁安定剤の濃度としては、使用する懸濁安定剤によっても異なるが、水100 重量部に対して0.1〜20 重量部が好ましい。
【0024】
また、上記懸濁安定剤と併用して懸濁助剤を使用することも可能である。この懸濁助剤としては、一般に知られている陽イオン系、陰イオン系あるいはノニオン系界面活性剤が使用できる。その添加量としては、使用する懸濁助剤により異なるが、水100 重量部に対して0.001〜10重量部が好ましい。
【0025】
反応終了後、懸濁液の粘度を下げて固液分離作業を容易にし、且つ樹脂粒子の洗浄をし易くするために、次亜塩素酸ナトリウム、酵素(懸濁安定剤を分解するセルロース分解酵素、又はポリビニルアルコール分解酵素など)などで懸濁液を処理してもよい。
また、懸濁重合又は懸濁架橋重合の反応前に撹拌回転数を調整することによっても、得られる樹脂粒子の粒径を変えることができる。一般的に懸濁液の粘度が同じ場合、撹拌回転数を低くすると大きな粒径の樹脂粒子が得られ、撹拌回転数を高くすると小さな粒径の樹脂粒子が得られる。
【0026】
本発明の化粧用具に用いられる、マイクロカプセルの製造は、具体的には、例えば、次のように行う。
まず、水200〜800 重量部に対して懸濁安定剤0.1〜20 重量部を溶解又は分散させた水溶液中に、予め調整された糖アルコール、有機酸、油溶成分、乳化強化剤乃至ブリードアウト抑制剤及び原料樹脂モノマー乃至プレポリマーからなるモノマー混合物の100重量部を撹拌下に滴下、添加して、その際、分散粒子が所望の粒度になるように撹拌速度を調整しながら撹拌し、該成分が混合分散した目的の粒径の水中油滴型懸濁液とする。
【0027】
この粒度調整を行った後に、これに必要に応じて、重合開始剤ないし重合触媒を添加し、次いで、この懸濁液を撹拌下に30〜90℃に加温し、1〜8時間懸濁重合又は懸濁架橋重合反応させることにより樹脂粒子を生成させる。重合反応終了後、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム又は酵素などの懸濁安定剤の分解剤を添加し、分解した後、これを固液分離し、洗浄により粒子に付着している懸濁安定剤を取り除いて、乾燥させる。これにより、糖アルコールと有機酸が内部に含有された所望粒径の略球状の樹脂粒子が得られる。
【0028】
粒径の調整方法としては、上述のように、撹拌速度を調整し、あるいは懸濁安定剤の量、種類などを調整することによって樹脂の粒径を所望の大きさに設定することが可能であるが、大きさを揃える別の方法として、懸濁液をあまり精密に調整せずに樹脂粒子を生成し、この樹脂粒子を乾燥させた後に大きさによって振るい分けしてもよい。
【0029】
本発明の化粧用具に用いられるマイクロカプセルは、破壊することなく滲出成分により衛生と美容効果を得るので、セルは、厚すぎても薄くても好ましくなく、有効成分の含有率に応じた適正な物性のセル構造を得ることが必要であるが、上記した製造方法により、糖アルコール及び有機酸が滲出的に含有されてなるマイクロカプセルを得ることができる。
【0030】
本発明の化粧用具により衛生と美容効果をもたらす作用機構は次のように考えられる。
すなわち、化粧用具の使用により皮膚常在菌に汚染されるが、カプセルの滲出成分により表皮ブドウ球菌を選択的に用具の表面で育成する。育成により該菌が分泌するタンパク質分解酵素が豊富になり、肌にも移行する。該酵素により皮膚の角層剥離が促進されて皮膚のリニューアルにより美容効果が得られる。また、角層剥離は、酵素によるペプチドの分解によるもので、該分解によりアミノ酸が産生される。
このアミノ酸が自然保湿因子として機能して皮膚の潤いが得られることと角層剥離により美容効果が期待されるのである。黄色ブドウ球菌のように傷に化膿性を与える有害菌には抗菌的に作用して、菌は低減又は死滅する。
【0031】
本発明において、化粧用具に該マイクロカプセルを含ませる方法としては、特に制限はなく、例えば、基材にマイクロカプセルを固着させる各種の汎用の方法を用いることができる。具体的には、浸漬法、塗布法、噴霧法、プリント法などを化粧用具に応じて適宜用いることができる。また、固着強度、固着量も、化粧用具の目的や形状に応じて多様に適切に選択することができる。
【0032】
また、浸漬法でマイクロカプセルを化粧用具に固着するには、ポリウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、又はアクリル樹脂系などの固形分3〜30重量%の水溶性接着性バインダー液1Lに対し、10〜500gのマイクロカプセルを配合してマイクロカプセル含有の処理液を作成し、化粧用具を上記処理液に浸漬して絞液し、乾燥させることにより固着させる。
化粧用具に含ませるマイクロカプセルの量としては、化粧用具の種類、形状によっても異なり、一概に規定できないが、化粧用具に含ませたマイクロカプセルが糖アルコールと有機酸を滲出し、善玉菌を育成し、衛生と美容効果を付与し得る量であれば、特に制限はない。
例えば、化粧用具に対して0.1〜10重量%のマイクロカプセルを付与することが好ましい。
【0033】
本発明の、マイクロカプセルを含ませる化粧用具としては、特に制限はないが、例えば、立毛パフ、スポンジパフ、筆、ブラシ、化粧綿、あぶらとり紙又はパック用シートなどに用いることができる。櫛にも利用可能であるが、塗布具ほどの効果を得にくい。化粧料の汚れを除くために常に繰り返し洗濯をされる塗布具にはバインダーにより確実に固着することが好ましいが、化粧綿やあぶらとり紙は使い切りで洗濯をされることはないが、マイクロカプセルは保持されている必要があるので、バインダーを少なくして微粒子が容易に脱落しない程度に軽く固着すればよい。多少の離脱は、肌に使用時のさらさら感を考慮すると、それ程問題ではない。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の化粧用具について、実施例に基づいて具体的に説明をする。
1、マイクロカプセルの合成
〔参考例1〜5〕
(A)メタクリル酸メチル/(B)エチレングリコールジメタクリルレート/(C)スクワラン/(D)流動パラフィン/(E)各種糖アルコール/(F)クエン酸=(A)50/(B)6/(C)25/(D)5/(E)13/(F)1、重量部からなるモノマー混合物300gを作成し、一方、別に用意した撹拌機を備えた2L容量の四つ口フラスコに、懸濁安定液としてポバール220(クラレ(株)製、商標)を2.0%含有する水溶液600gを仕込み、これに、上記モノマー混合物を、温度30℃において、撹拌速度250rpmで撹拌しながら投入し、ついで重合開始剤として日本ヒドラジン(株)のABN−V0.6gを加えて30℃で10分撹拌した後に、昇温して55℃、2時間反応させる。反応は、窒素ガス中で行った。反応終了後、次亜塩素酸ナトリウム5gを加えて、30分撹拌し、ポバール220を分解した後、室温に冷却した。
次いで、反応混合物を固液分離して、得られた固形分を水で十分に洗浄した後に、70℃、12時間乾燥して、平均粒子径7μmのポリアクリル酸系樹脂粒子に各種糖アルコール13重量部及び有機酸1.0重量部を含有する滲出性のマイクロカプセルを得た。
各種糖アルコール及び有機酸の配合処方を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
〔比較例6〜10〕
(A)イソシアネートプレポリマー/(B)スクワレン/(C)パラフィン/(D)各種糖アルコール/(E)クエン酸=(A)60/(B)20/(C)5/(D)14/(E)1、重量部からなる混合物300gを作成し、一方、別に用意した撹拌機を備えた2L容量の四つ口フラスコに、懸濁安定剤液としてポバール220(クラレ(株)製、商標)の2.0%水溶液600gを仕込み、これに、上記モノマー混合物を、温度30℃において、350rpmで撹拌しながら投入し、60℃、2時間反応させた。反応終了後、次亜塩素酸ナトリウム5gを加えて30分撹拌し、ポバール220を分解した後、室温に冷却した。
次いで、反応物を固液分離して、得られた固形分を水で十分に洗浄した後に、70℃、12時間乾燥して、平均粒子径6μmのポリウレタン系樹脂粒子に各種糖アルコール14重量部及び有機酸1.0重量部を含有する滲出性のマイクロカプセルを得た。
各種糖アルコール及び有機酸の配合処方を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
2、マイクロカプセルを付着した立毛パフの製造
実施例1〜10の処方による微粒子で加工した立毛パフ生地における、糖アルコールの滲出性の確認について。
スーパーフレックスE−2000(第一工業製薬株式会社製品、ポリウレタン系接着剤、固形分50重量%乳化液)に、水を加えて固形分10重量%に希釈した接着液の1Lに、参考例1で得られたマイクロカプセルを100g混合して撹拌した。該混合液にポリエステル繊維の立毛パフ生地を浸漬してマングルで絞液して混合液の付与率を元の生地重量に対して50重量%になるよう付与して、これを90℃で15分間乾燥した。上記加工した立毛パフ生地を用いて直径5cmの円形のパフを縫製した。
このパフについて、JISL0844の洗濯に対する染色堅牢度試験法に基づき、B法合成洗剤1号により40℃で、30分の洗濯を10回繰り返し耐洗濯性を評価した。
上記加工した立毛パフ生地の表面において、糖アルコール滲出性の確認をした。洗濯前と後の試料について赤外線吸収分析法による糖アルコールの特性吸収波長(例えば、キシリトールでは3360.1110.1090.1063.1010 cm-1)を測定してその存在の確認から滲出性を評価した。洗濯を行って3日間放置して4日目に2回目の洗濯を行い、3日間の間隔をおいて繰り返し洗濯を継続して洗濯5回の前後と、洗濯10回の前後について糖アルコールの測定を行った。いずれも洗濯前には糖アルコールの存在が確認されたが、洗濯後に確認されなかった。このことは洗濯により表面に存在する糖アルコールが洗浄されるが、3日間の放置で滲出することを意味する。
上記実施例を実施例1とし、以下、同様にして実施例2〜10で得られたマイクロカプセルを用いて加工された立毛パフを評価した。
【0039】
3、マイクロカプセルを付着した立毛パフの善玉菌育成効果
本発明の化粧用具が、表皮ブドウ球菌(善玉菌)を育成して、黄色ブドウ球菌(悪玉菌)を抗菌することを示すために、実施例1〜10の処方による微粒子で加工した立毛パフ生地([0036]に加工条件を記載した生地)を試料として、表皮ブドウ球菌を1×106個/cc、黄色ブドウ球菌を1×106個/cc、の同量を配合してJIS1902繊維製品の抗菌試験方法に準じて菌数測定を行った。12時間培養による菌数の変化を表3に示した。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例1〜10はいずれも(1)表皮ブドウ球菌(善玉菌)は106から1011〜13に著しく増加しており、洗濯を行ってもその効果を保持している。(2)黄色ブドウ球菌(悪玉菌)は106から102〜3に低減しており、抗菌効果が現れている。102レベルでは菌は殆ど機能しないと言われている。本発明の化粧用具は、肌に直接使用する化粧用具として安全・衛生を求める社会の強いニーズに対応する技術として期待される。比較例では、逆に(1)表皮ブドウ球菌(善玉菌)が低減して、(2)黄色ブドウ球菌(悪玉菌)が増加している。これでは衛生的に問題となる。
【0042】
また、本発明の化粧用具の衛生・美容効果を実際に確認するため、上記実施例5の立毛パフについて、1人につき4個のパフを用い、まず初日に1個のパフを化粧の塗布に1回用いた後、洗濯をして3日間放置し、4日後に再度化粧の塗布に用い、次の日に2個目のパフを同様に、化粧の塗布に1回用いた後、洗濯をして3日間放置し、4日後に再度化粧の塗布に用い、これを順次4個のパフを用いて、使用と洗濯と放置を繰り返して4日×9=36日の試験を20名について実施した。その結果、肌の潤いが明確に改善された人が6名、やや改善された人が8名で、合計で70%の人に好結果が得られた。また、表3に示すように悪玉菌に対する抗菌効果が改善されることは衛生安全面で好ましいことである。
このような効果は、肌や口、目の近くに使用するスポンジパフ、筆、ブラシ、化粧綿、あぶらとり紙、又はパック用シートにおいても安全・衛生効果が向上して好ましいことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロカプセルが表面に固着された化粧用具であって、マイクロカプセルは糖アルコール及び有機酸を滲出成分とする直径3〜10μmの微粒子よりなり、かつ該微粒子の滲出成分によって、皮膚常在菌の中で選択的に悪玉菌を抗菌し、善玉菌を育成することを特徴とする化粧用具。
【請求項2】
糖アルコールが、オリゴサッカライド、キシリトール又はファルネソールより選ばれた1種類又は2種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の化粧用具。
【請求項3】
糖アルコール及び有機酸が、オリーブ油、ホホバ油、スクワラン、スクワレン、流動パラフィン又はワックスより選ばれた1種類又は2種類以上の油性成分に配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧用具。
【請求項4】
立毛パフ、スポンジパフ、筆、ブラシ、化粧綿、あぶらとり紙又はパック用シートより選ばれた請求項1〜3のいずれかに記載の化粧用具。

【公開番号】特開2006−290845(P2006−290845A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117355(P2005−117355)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】