説明

医用画像処理装置及び医用画像処理方法

【課題】医用画像処理装置において、虚血性心疾患の診断に有効な診断用画像データを生成すること。
【解決手段】医用画像処理装置は、医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータに基づいて、血管の血管走行データを生成する血管走行データ生成手段と、ボリュームデータに基づいて、血管における病変部の位置情報を検出する病変部位検出手段と、血管走行データに基づいて、栄養が供給される領域における、血管の支配領域を示す血管支配領域データを生成する血管支配領域データ生成手段と、血管走行データ及び病変部の位置情報に基づいて、栄養が供給される領域における、病変部の支配領域を示す病変部支配領域データを生成する病変部支配領域データ生成手段と、ボリュームデータに基づいて生成された形態画像データあるいは機能画像データに血管支配領域データ及び病変部支配領域データを重畳して診断用画像データを生成する診断用画像データ生成手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、血管の狭窄等に起因した虚血性心疾患の診断を正確に行なうことが可能な医用画像処理装置及び医用画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像診断は、近年のコンピュータ技術の発展に伴って実用化されたX線CT装置やMRI装置等によって急速な進歩を遂げ、今日の医療において必要不可欠なものとなっている。特に、X線CT装置やMRI装置では、生体情報の検出ユニットや演算処理ユニットの高速化、高性能化により画像データのリアルタイム表示が可能となり、更に、3次元的な画像情報(ボリュームデータ)の収集やこのボリュームデータを用いた3次元画像データ及びMPR(Multi Planar Reconstruction)画像データの生成/表示が容易となったため、例えば、虚血性心疾患を有する患者(以下では、被検体と呼ぶ。)の冠動脈に発生した狭窄部の検出や狭窄率の計測も正確に行なわれるようになった。
【0003】
ところで、心筋梗塞等の虚血性心疾患は、主に冠動脈の狭窄が原因となって発症するため、従来は、造影剤が投与された冠動脈の2次元画像データや3次元画像データ等の形態画像データを用いて狭窄部位の検出と狭窄率の計測を行ない、検出された比較的大きな狭窄率を有する狭窄部が心筋梗塞の原因であるとしてこの狭窄部にステント等の血管内デバイスを留置するPCI(Percutaneous Coronary Intervention:経皮的冠動脈形成術)等の血管内治療が行なわれてきた。
【0004】
しかしながら、冠動脈に狭窄部が存在しても心筋梗塞を発症しないこともあり、心筋組織における虚血の程度によっては、上述のPCI法を施行するより薬物療法を施行した方が患者の予後が良いという報告もある。このため、狭窄部に対する治療方針を決定するために、心筋組織の虚血領域に対する狭窄部の評価が重要視されている。
【0005】
このような要求事項に対し、造影剤が投与された被検体の心臓領域から収集される時系列的なボリュームデータを処理することにより心筋組織における虚血領域の特定が可能な心筋パフュージョン画像データ等の機能画像データを生成/表示する医用画像診断装置あるいは医用画像処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−164452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冠動脈における狭窄部位の検出や狭窄率の計測を目的とした形態画像データの収集と虚血領域の特定あるいは計測を目的とした機能画像データの収集は独立した画像データの収集モードにおいて行なわれ、当該被検体の担当医らは、各々の収集モードにおいて得られた狭窄部に関する情報と虚血領域に関する情報を経験に基づいて主観的に分析することにより虚血領域と狭窄部との関連性を判定していた。
【0008】
又、昨今では、冠動脈の狭窄部を含む心臓領域の形態画像データ上に機能画像データの虚血領域を合成して表示する方法も開発されているが、この場合も、夫々の画像データを観察した担当医らが自己の経験に基づいて主観的に判断していることに変わりはない。このため、上述した従来の方法によれば、虚血領域と狭窄部との関連性を正確に判定することは不可能であり、従って、狭窄部に対する好適な治療方針を決定することは困難であった。
【0009】
本開示は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータに基づいて血管、例えば冠動脈に発生した狭窄部等の病変部が支配する心筋組織の領域を病変部支配領域データとして表示することにより虚血性心疾患を正確に診断することが可能な医用画像処理装置及び医用画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の医用画像処理装置は、上述した課題を解決するために、医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータに基づいて、血管の血管走行データを生成する血管走行データ生成手段と、前記ボリュームデータに基づいて、前記血管における病変部の位置情報を検出する病変部位検出手段と、前記血管走行データに基づいて、栄養が供給される領域における、前記血管の支配領域を示す血管支配領域データを生成する血管支配領域データ生成手段と、前記血管走行データ及び前記病変部の位置情報に基づいて、前記栄養が供給される領域における、前記病変部の支配領域を示す病変部支配領域データを生成する病変部支配領域データ生成手段と、前記ボリュームデータに基づいて生成された形態画像データあるいは機能画像データに前記血管支配領域データ及び前記病変部支配領域データを重畳して診断用画像データを生成する診断用画像データ生成手段と、を有する。
【0011】
本実施形態の医用画像処理方法は、上述した課題を解決するために、記憶装置から、医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータを取得し、前記取得されたボリュームデータに基づいて、血管の血管走行データを生成し、前記ボリュームデータに基づいて、前記血管における病変部の位置情報を検出し、前記血管走行データに基づいて、栄養が供給される領域における、前記血管の支配領域を示す血管支配領域データを生成し、前記血管走行データ及び前記病変部の位置情報に基づいて、前記栄養が供給される領域における、前記病変部の支配領域を示す病変部支配領域データを生成し、前記ボリュームデータに基づいて生成された形態画像データあるいは機能画像データに前記血管支配領域データ及び前記病変部支配領域データを重畳して診断用画像データを生成し、前記診断用画像データを表示装置に表示させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態における医用画像処理装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態の医用画像処理装置が備える形態画像データ生成部の具体的な構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態の血管走行データ生成部によって生成される芯線データを説明するための図。
【図4】本実施形態の病変部位検出部による病変部位の検出方法と病変度計測部による病変度の計測方法を示す図。
【図5】本実施形態の病変部位検出部によって検出される病変部の具体例を示す図。
【図6】本実施形態における冠動脈支配領域データの生成を目的とした膨張処理を模式的に示す図。
【図7】本実施形態の冠動脈支配領域データ生成部によって生成される冠動脈支配領域データの具体例を示す図。
【図8】本実施形態の冠動脈支配領域データ生成部による心筋組織の厚み方向に対する膨張処理を説明するための図。
【図9】本実施形態の病変部支配領域データ生成部によって生成される病変部支配領域データの具体例を示す図。
【図10】本実施形態の虚血領域データ生成部によって生成される虚血領域データの具体例を示す図。
【図11】本実施形態の診断用画像データ生成部によって生成される診断用画像データの具体例を示す図。
【図12】本実施形態における診断用画像データの生成/表示手順を示すフローチャート。
【図13】本実施形態の診断用画像データに示された虚血関与率の臨床的意義を説明するための図。
【図14】本実施形態の変形例における診断用画像データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の実施形態の医用画像処理装置及び医用画像処理方法を説明する。
【0014】
以下に述べる本実施形態の医用画像処理装置では、先ず、血管の疾患を有する被検体から予め収集された所定心拍時相のボリュームデータに基づいて血管に対する芯線データの生成、病変部位の検出及び病変度の計測を行ない、これらのボリュームデータ、芯線データ及び病変部の位置情報に基づいて3次元の血管支配領域データと病変部支配領域データを生成する。次いで、前記被検体から予め収集された時系列的なボリュームデータに基づいて生成した機能画像データの虚血領域を抽出して3次元の虚血領域データを生成し、この虚血領域データの虚血領域と病変部支配領域データの病変部支配領域との重なり率と前記病変度とに基づいて虚血領域に対する病変部の関与率(虚血関与率)を算出する。そして、前記ボリュームデータを用いて生成した3次元の形態画像データに上述の血管支配領域データ、病変部支配領域データ及び虚血領域データを重畳し、更に、虚血関与率の算出結果を形態画像データ上の狭窄位置あるいはその近傍に付加して診断用画像データを生成する。
【0015】
尚、以下に述べる実施形態では、予め収集された所定心拍時相の時系列的なボリュームデータを積算処理することによって機能画像データとしての心筋パフュージョン画像データを生成し、前記時系列的なボリュームデータの中から抽出した所定心拍時相のボリュームデータをレンダリング処理することによって形態画像データとしての3次元画像データ及びMPR画像データを生成する場合について述べるが、形態画像データ及び機能画像データはこれらに限定されない。
【0016】
又、以下に述べる実施形態では、血管、例えば冠動脈の病変として狭窄について述べるが、れん縮、閉塞、プラーク等であっても構わない。また、血管は、冠動脈に限定されるものではなく、例えば脳の動脈であってもよい。その場合、脳の動脈によって栄養が供給される領域は、脳組織である。
【0017】
(装置の構成)
以下、本実施形態における医用画像処理装置の構成と機能につき図1乃至図11を用いて説明する。尚、図1は、医用画像処理装置の全体構成を示すブロック図であり、図2は、この医用画像処理装置が備える形態画像データ生成部の具体的な構成を示すブロック図である。
【0018】
図1に示す本実施形態の医用画像処理装置100は、別途設置されたX線CT装置やMRI装置等の医用画像診断装置から図示しないネットワークあるいは記憶媒体を介して供給された3次元の画像情報(以下では、ボリュームデータと呼ぶ。)を保存するボリュームデータ保管部1と、前記ボリュームデータに基づいて心臓領域の3次元画像データやMPR画像データ等の形態画像データを生成する形態画像データ生成部2と、前記ボリュームデータに基づいて冠動脈に対する血管走行データの生成、この冠動脈に発生した狭窄部位の検出及び狭窄率の計測を行なう血管形状解析部3と、前記ボリュームデータ、前記血管走行データ及び前記狭窄部位の検出結果に基づいて冠動脈支配領域データと病変部支配領域データを生成する支配領域データ生成部4と、前記ボリュームデータに基づいて心筋組織を還流する血流情報が示された機能画像データを生成し、この機能画像データに基づいて心筋組織に対する虚血領域データを生成する虚血領域データ生成部5と、上述の虚血領域データ、病変部支配領域データ及び狭窄率の計測結果に基づいて虚血領域に対する狭窄部の虚血関与率を算出する関与率算出部6を備えている。
【0019】
更に、医用画像処理装置100は、上述の形態画像データ、冠動脈支配領域データ、病変部支配領域データ、虚血領域データ及び虚血関与率の算出結果等に基づいて虚血疾患診断用の画像データ(以下では、診断用画像データと呼ぶ。)を生成する診断用画像データ生成部7と、得られた診断用画像データを表示する表示部8と、被検体情報の入力、閾値の設定、画像データ生成条件及び領域データ生成条件の設定、狭窄部の選択、各種指示信号の入力等を行なう入力部9と、上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部10を備えている。
【0020】
ボリュームデータ保管部1には、例えば、冠動脈に造影剤が投与された被検体の心臓領域に対し図示しない医用画像診断装置が収集した時系列的なボリュームデータが心拍時相を付帯情報として保存されている。
【0021】
次に、形態画像データ生成部2の具体的な構成につき図2を用いて説明する。図2の形態画像データ生成部2は、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相のボリュームデータに基づいて3次元画像データを生成する3次元画像データ生成部21と、前記ボリュームデータに基づいて所定断面におけるMPR画像データを生成するMPR画像データ生成部22と、上述の3次元画像データ及びMPR画像データを一旦保存する画像データ記憶部23を備え、3次元画像データ生成部21は、ボリュームデータ補正部211、不透明度・色調設定部212及びレンダリング処理部213を有している。
【0022】
ボリュームデータ補正部211は、ボリュームデータ保管部1から供給されるボリュームデータのボクセル値を予め設定された3次元表示用の視線ベクトルと臓器境界面に対する法線ベクトルとの内積値に基づいて補正し、不透明度・色調設定部212は、補正されたボクセル値に基づいて不透明度や色調を設定する。そして、レンダリング処理部213は、不透明度・色調設定部212によって設定された不透明度及び色調に基づいて上述のボリュームデータをレンダリング処理し3次元画像データを生成する。
【0023】
一方、形態画像データ生成部2のMPR画像データ生成部22は、MPR断面形成部221及びボクセル抽出部222を有し、MPR断面形成部221は、血管形状解析部3から供給される血管走行データ(即ち、後述する冠動脈の芯線データ)と狭窄部の位置情報に基づき、この狭窄部を中心とした所定範囲の芯線データを含む平面状あるいは曲面状のMPR断面(第1のMPR断面)を形成し、更に、前記狭窄部を含み前記芯線データに垂直なMPR断面(第2のMPR断面)を形成する。
【0024】
ボクセル抽出部222は、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相のボリュームデータに対してMPR断面形成部221が形成した第1のMPR断面及び第2のMPR断面を設定し、これらのMPR断面に存在するボリュームデータのボクセルを抽出して狭窄部を中心としたMPR画像データを生成する。そして、上述の3次元画像データ生成部21において生成された3次元画像データとMPR画像データ生成部22において生成されたMPR画像データは画像データ記憶部23に一旦保存された後、形態画像データとして診断用画像データ生成部7へ供給される。尚、MPR画像データの生成及び表示は、入力部9において選択された、例えば、大きな虚血関与率を有する1つあるいは複数の狭窄部に対して行なわれる。
【0025】
図1へ戻って、血管形状解析部3は、冠動脈の芯線データを血管走行データとして生成する血管走行データ生成部31と、冠動脈において発生した狭窄部の位置情報を検出する病変部位検出部32と、狭窄部の狭窄率を計測する病変度計測部33を備え、血管走行データ生成部31は、図示しない血管領域検出部及び芯線データ生成部を有している。
【0026】
血管走行データ生成部31の血管領域検出部は、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相のボリュームデータにおけるボクセル値と予め設定された閾値αとを比較し、造影剤の投与により閾値αより大きなボクセル値を有するボクセルを抽出することにより冠動脈の血管領域を検出する。
【0027】
一方、血管走行データ生成部31の芯線データ生成部は、上述の血管領域検出部によって検出された血管領域の内部に基準点(第1の基準点)を設定し、この基準点を始点として芯線データを生成する。例えば、血管領域内において任意に配置された上述の基準点から3次元の全角度方向へ複数の単位ベクトルを発生させ、これらの単位ベクトルの中から探索ベクトルとして選定した血管領域の境界面までの距離が最大となる方向の単位ベクトルに直交する血管横断面の中心位置座標を算出する。次いで、上述の探索ベクトルと血管横断面との交差位置が血管横断面の中心と一致するようにその方向が補正された探索ベクトルを前記血管横断面の中心において新たに設定し、補正後の探索ベクトルを用いて上述の手順を繰り返すことにより得られた血管走行方向における複数の中心位置座標に基づいて冠動脈の芯線データを生成する。
【0028】
図3は、3次元領域に配列された複数のボクセルによって構成されるボリュームデータVaに対して上述の芯線データ生成部が生成した芯線データCaの座標系を示したものであり、芯線データCaは、ボリュームデータVaにおける座標F1(X1、Y1,Z1)を始点、FN(XN,YN,ZN)を終点とし、血管内腔の横断面における中心Fn(Xn,Yn、Zn)を連結することによって生成される。
【0029】
再び図1へ戻って、血管形状解析部3の病変部位検出部32は、上述の血管領域検出部から供給される冠動脈の血管領域データと芯線データ生成部から供給される冠動脈の芯線データとに基づき、冠動脈に発生した狭窄部の位置情報を検出する。一方、病変度計測部33は、病変部位検出部32によって検出された狭窄部における冠動脈の横断面積と正常の冠動脈における横断面積とを比較することにより前記狭窄部における狭窄率を計測する。
【0030】
次に、冠動脈に発生した狭窄部位の検出方法とこの狭窄部位における狭窄率の計測方法につき図4を用いて説明する。尚、図4では、説明を簡単にするために直線状に走行した冠動脈に対する狭窄部位の検出と狭窄率の計測について示すが、曲線状に走行した冠動脈に対しても同様の手順による狭窄部位の検出及び狭窄率の計測が可能である。
【0031】
この場合、病変部位検出部32は、血管走行データ生成部31の血管領域検出部から供給される冠動脈の血管領域データと芯線データ生成部から供給される冠動脈の芯線データを受信し、例えば、図4に示すように、芯線データCaに対してM個の基準点Pm(m=1乃至M)(第2の基準点)を所定間隔Δdで配置する。次いで、基準点Pmを含み芯線データCaに略垂直な断面Qm(m=1乃至M)を設定し、冠動脈の血管領域データWbと断面Qmとの交差断面積を基準点Pmにおける冠動脈の横断面積Sm(m=1乃至M)として計測する。そして、得られた横断面積Smが所定の閾値βより小さな値を有する狭窄部(例えば、Pm=Pmx)を検出する。
【0032】
病変部位検出部32によって検出された狭窄部の具体例を図5に示す。尚、図5では、血管走行データ生成部31の芯線データ生成部によって生成された冠動脈の芯線データCaに病変部位検出部32が検出した狭窄部Rs1乃至Rs4を重畳して示しており、これらの狭窄部を用いて以下の説明を行なうが、狭窄部の位置や数はこれらに限定されない。
【0033】
一方、病変度計測部33は、病変部位検出部32によって計測された基準点Pmにおける冠動脈の横断面積Sm(m=1乃至M)の全てあるいはその一部(例えば、狭窄部Pmxの近傍における複数の横断面積)を加算平均することにより平均横断面積Savを計測し、狭窄部Pmxの横断面積Smxと平均横断面積Savを次式(1)へ代入することにより狭窄部Pmxにおける狭窄率Rmxを計測する。
【数1】

【0034】
次に、図1の支配領域データ生成部4は、冠動脈の心筋組織(血管によって栄養が供給される領域)における支配領域(即ち、当該冠動脈によって血液が供給される心筋組織の領域)が示された3次元の冠動脈支配領域データを生成する冠動脈支配領域データ生成部(血管支配領域データ生成部)41と、冠動脈に発生した狭窄部の支配領域(即ち、狭窄部における血液の遮断により虚血状態となった心筋組織の領域)が示された3次元の病変部支配領域データを生成する病変部支配領域データ生成部42を備えている。
【0035】
冠動脈支配領域データ生成部41は、図示しない心筋領域抽出部を備え、この心筋領域抽出部は、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相のボリュームデータを、例えば、2値化処理して心筋組織の領域(心筋領域)を抽出し、3次元の心筋領域データを生成する。次いで、血管形状解析部3の血管走行データ生成部31から供給される3次元の芯線データに対してF個の基準点Paf(f=1乃至F)(第3の基準点)を所定間隔Δeで設定し、基準点Pafが設定された芯線データと心筋領域抽出部から供給される心筋領域データとに基づいて基準点Pafの各々が支配する領域(以下では、区分支配領域と呼ぶ。)によって構成された冠動脈支配領域データを生成する。
【0036】
具体的には、上述の心筋領域データと芯線データを合成し、3次元の芯線データ上に所定間隔Δeで設定された基準点Pafを3次元の心筋領域の表面に投影することにより基準点Pafの各々に対応した心筋組織表面の基準ボクセルGf(f=1乃至F)を検出する。そして、得られた基準ボクセルGfを起点として心筋領域に含まれたボクセルに対する膨張(Dilation)処理を行なうことにより3次元の冠動脈支配領域データを生成する。
【0037】
図6は、冠動脈支配領域データの生成に適用される膨張処理を模式的に示した図であり、図6(a)は、図示しない基準点Pa1及び基準点Pa2の投影によりその表面に基準ボクセルG1及び基準ボクセルG2が設定された心筋領域を示している。一方、図6(b)及び図6(c)は、基準ボクセルG1及び基準ボクセルG2を起点とした矢印方向への膨張処理により順次形成される区分支配領域を示しており、図6(d)は、これらの膨張処理により最終的に形成された区分支配領域Gs1及び区分支配領域Gs2を示している。
【0038】
即ち、図6(b)では、基準ボクセルG1及び基準ボクセルG2に隣接したボクセルが膨張処理によって連結され、図6(c)では、図6(b)における膨張処理により連結されたボクセルに隣接するボクセルに対して同様の膨張処理が繰り返される。そして、心筋領域の全てのボクセルに対し基準ボクセルGf(f=1乃至F)の何れかを起点とした膨張処理を行なうことにより、図7に示すような基準点Pafの各々に対応する区分支配領域Gsfで構成された3次元の冠動脈支配領域データが生成される。尚、図7に示した破線は、冠動脈の芯線データを示しており、この芯線データには基準点Pafが所定間隔Δeで設定されている。
【0039】
ところで、図6では、心筋領域の表面に存在するボクセルに対して膨張処理を行なう場合について示したが、実際には、心筋領域の内部に対しても上述の基準ボクセルGfを起点とした膨張処理を行なうことにより、図7に示すような3次元の冠動脈支配領域データが生成される。この場合、心筋領域の厚み方向は、図8に示すように、その表面に対して垂直に区分される。これは、心筋組織の表面を走行する比較的太い冠動脈(Epicardial Coronary Artery)から分岐した心筋組織内への血液補給を目的とする細い冠動脈(Transmural Coronary Artery)は、通常、太い冠動脈に対し略垂直な方向に走行していることによる。
【0040】
次に、図1に示した支配領域データ生成部4の病変部支配領域データ生成部42は、血管形状解析部3の病変部位検出部32から供給される狭窄部の位置情報を受信し、これらの狭窄部に対応する基準点を芯線データ上に設定された基準点Paf(f=1乃至F)の中から抽出する。更に、基準点Paf(f=1乃至F)の中から、抽出された前記基準点より下流方向(図7の右下方向)に設定されている全ての基準点を抽出し、得られた基準点の各々に対して冠動脈支配領域データ生成部41が形成した複数の区分支配領域を合成することにより3次元の病変部支配領域データを生成する。図9は、病変部支配領域データ生成部42によって生成された病変部支配領域データの具体例であり、図5に示した狭窄部Rs1乃至Rs4の病変部支配領域を斜線によって示している。
【0041】
次に、図1に示した虚血領域データ生成部5は、心筋組織内の血流情報を画像化した心筋パフュージョン画像データを機能画像データとして生成する機能画像データ生成部51と、得られた心筋パフュージョン画像データの虚血領域を抽出することにより虚血領域データを生成する虚血領域抽出部52を備えている。
【0042】
機能画像データ生成部51は、ボリュームデータ保管部1に予め保管されている時系列的なボリュームデータの中から造影剤投与時刻を基準とした所定心拍時相における複数のボリュームデータを抽出し、これらのボリュームデータを、例えば、積算処理することにより心筋パフュージョン画像データを生成する。
【0043】
一方、虚血領域抽出部52は、当該被検体のボリュームデータに基づいて機能画像データ生成部51が生成した心筋パフュージョン画像データのボクセル値と所定の閾値γとを比較することにより、例えば、図10の斜線部で示すような閾値γより小さなボクセル値を有する領域(即ち、心筋組織内に流入する血流量が所定の値より少ない領域)を虚血領域として抽出し、この抽出結果に基づいて3次元の虚血領域データを生成する。
【0044】
次に、図1の関与率算出部6は、上述の虚血領域データに示された虚血領域に対する狭窄部の関与率を算出する機能を有し、重なり率算出部61と演算部62を備えている。
【0045】
重なり率算出部61は、支配領域データ生成部4の病変部支配領域データ生成部42から供給される3次元の病変部支配領域データと虚血領域データ生成部5の虚血領域抽出部52から供給される3次元の虚血領域データを用いてこれらの領域データの重なり率を算出する。例えば、病変部支配領域データの病変部支配領域をBa、虚血領域データの虚血領域をBbとした場合、重なり率Axは、予め設定された次式(2)によって算出される。
【数2】

【0046】
但し、式(2)に示した(Ba∩Bb)は、病変部支配領域と虚血領域の共通領域であり、(Ba∪Bb)は、病変部支配領域あるいは虚血領域の少なくとも何れかに属する領域を示している。
【0047】
一方、関与率算出部6の演算部62は、冠動脈に発生した狭窄部の各々が虚血領域データの虚血領域に関与している可能性を示す虚血関与率を算出する機能を有している。具体的には、上述の重なり率算出部61から狭窄部単位で供給される病変部支配領域と虚血領域との重なり率に血管形状解析部3の病変度計測部33から狭窄部単位で供給される狭窄率を乗算することによって狭窄部の虚血関与率を算出する。
【0048】
次に、診断用画像データ生成部7は、支配領域データ生成部4において生成された3次元の冠動脈支配領域データ及び病変部支配領域データと虚血領域データ生成部5において生成された3次元の虚血領域データを受信する。次いで、形態画像データ生成部2から供給された3次元画像データに上述の各種領域データを重畳し、関与率算出部6から狭窄部単位で供給される虚血関与率の算出結果を付加して診断用画像データを生成する。
【0049】
図11は、診断用画像データ生成部7によって生成された診断用画像データの具体例を示したものであり、既に述べたように、この診断用画像データは、形態画像データである3次元画像データとこの3次元画像データに重畳された冠動脈支配領域データ、病変部支配領域データ及び虚血領域データとこれらの領域データに付加された虚血関与率の算出結果に基づいて生成されている。
【0050】
この場合、狭窄部に対する虚血関与率の算出結果は、この狭窄部が存在する位置あるいはその近傍に配置される。この算出結果と狭窄部との関連を明確にするために、図11のような狭窄部の位置を示すマーカや芯線データを更に付加して診断用画像データを生成してもよい。又、MPR画像データを表示するための指示信号及びMPR画像データの表示が必要な狭窄部の選択信号が入力部9において入力された場合、選択された狭窄部に対し形態画像データ生成部2のMPR画像データ生成部22が生成したMPR画像データが上述の診断用画像データに付加される。
【0051】
次に、図1の表示部8は、診断用画像データ生成部7によって生成された診断用画像データを表示する機能を有し、例えば、図示しない表示データ生成部、変換処理部及びモニタを備えている。表示データ生成部は、診断用画像データ生成部7から供給された診断用画像データに対し被検体情報や画像データ生成条件等の付帯情報を付加して表示データを生成する。一方、変換処理部は、表示データ生成部が生成した表示データに対しD/A変換やテレビフォーマット変換等の変換処理を行なってモニタに表示する。
【0052】
一方、入力部9は、図示しないキーボード、スイッチ、選択ボタン、マウス等の各種入力デバイスや表示パネルを備え、被検体情報の入力、閾値α、閾値β及び閾値γの設定、画像データ生成条件及び領域データ生成条件の設定、MPR画像データの表示が必要な狭窄部の選択、各種指示信号の入力等を行なう。そして、この入力部9と上述の表示部8を組み合わせることによりインターラクティブなインターフェースが形成される。
【0053】
システム制御部10は、図示しないCPUと記憶部を備え、前記記憶部には、入力部9において入力/設定/選択された各種情報が保存される。そして、前記CPUは、これらの情報に基づいて医用画像処理装置100の各ユニットを統括的に制御し、形態画像データ、冠動脈支配領域データ、病変部支配領域データ及び虚血領域データの生成と虚血関与率の算出を実行させ、更に、これらのデータに基づいた診断用画像データの生成と表示を実行させる。
【0054】
(診断用画像データの生成/表示手順)
次に、本実施形態における診断用画像データの生成/表示手順につき図12のフローチャートに沿って説明する。
【0055】
虚血性心疾患を有した当該被検体に対する診断用画像データの生成に先立ち、医用画像処理装置100を操作する医師ら(以下では、操作者と呼ぶ。)は、別途設置された医用画像診断装置からネットワーク等を介して供給される時系列的なボリュームデータをボリュームデータ保管部1に保存し(図12のステップS1)、次いで、入力部9において被検体情報の入力、閾値α、閾値β及び閾値γの設定、画像データ生成条件や領域データ生成条件の設定等を行なった後、診断用画像データの生成開始指示信号を入力する(図12のステップS2)。このとき、上述の初期設定において入力あるいは設定された情報は、システム制御部10の記憶部に保存される。
【0056】
上述の指示信号を、システム制御部10を介して受信した形態画像データ生成部2の3次元画像データ生成部21は、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相におけるボリュームデータのボクセル値を予め設定された3次元表示用の視線ベクトルと臓器境界面に対する法線ベクトルとの内積値に基づいて補正し、補正されたボクセル値に基づいて不透明度や色調を設定する。そして、設定された不透明度及び色調に基づいて上述のボリュームデータをレンダリング処理し3次元画像データを生成する(図12のステップS3)。
【0057】
一方、診断用画像データの生成を開始するための指示信号をシステム制御部10から受信した血管形状解析部3の血管走行データ生成部31は、ボリュームデータ保管部1から読み出した前記所定心拍時相のボリュームデータにおけるボクセル値とステップS2の初期設定において設定された閾値αとを比較し、造影剤の投与により閾値αより大きなボクセル値を有したボクセルを抽出することにより冠動脈の血管領域を検出する。そして、検出された血管領域の内部に基準点(第1の基準点)を設定し、この基準点を始点として芯線データを生成する(図12のステップS4)。
【0058】
次に、血管形状解析部3の病変部位検出部32は、上述の血管走行データ生成部31から供給される冠動脈の血管領域データと芯線データとに基づいて冠動脈に発生した狭窄部の位置情報を検出し(図12のステップS5)、病変度計測部33は、病変部位検出部32によって検出された狭窄部における冠動脈の横断面積と正常の冠動脈における横断面積とを比較することにより前記狭窄部における狭窄率を計測する(図12のステップS6)。
【0059】
一方、診断用画像データの生成を開始するための指示信号をシステム制御部10から受信した支配領域データ生成部4の冠動脈支配領域データ生成部41は、ボリュームデータ保管部1から読み出した前記所定心拍時相のボリュームデータを2値化処理して3次元の心筋領域データを生成する。次いで、血管形状解析部3の血管走行データ生成部31から供給された3次元の芯線データに対し複数の基準点(第3の基準点)を所定間隔で設定し、これらの基準点が設定された芯線データと上述の心筋領域データとに基づいて基準点の各々が支配する区分支配領域を前記心筋領域データに対して形成する。そして、得られた複数の区分支配領域を合成することにより冠動脈支配領域データを生成する(図12のステップS7)。
【0060】
次に、支配領域データ生成部4の病変部支配領域データ生成部42は、血管形状解析部3の病変部位検出部32から供給された1つあるいは複数からなる狭窄部の位置情報を受信し、これらの狭窄部に対応した基準点を芯線データ上に設定された複数の基準点の中から抽出する。更に、前記複数の基準点の中から、狭窄部に対応した基準点より下流方向に設定されている全ての基準点を抽出し、得られた基準点の各々に対して冠動脈支配領域データ生成部41が形成した複数の区分支配領域を合成することにより3次元の病変部支配領域データを生成する(図12のステップS8)。
【0061】
一方、診断用画像データの生成を開始するための指示信号をシステム制御部10から受信した虚血領域データ生成部5の機能画像データ生成部51は、ボリュームデータ保管部1に予め保管されていた時系列的なボリュームデータの中から造影剤投与時刻を基準とした所定心拍時相における複数のボリュームデータを抽出し、これらのボリュームデータを処理することにより心筋パフュージョン画像データを生成する(図12のステップS9)。
【0062】
次いで、虚血領域データ生成部5の虚血領域抽出部52は、機能画像データ生成部51において生成された心筋パフュージョン画像データのボクセル値とステップS2において設定された閾値γとを比較し、閾値γより小さなボクセル値を有する領域を虚血領域として抽出することにより3次元の虚血領域データを生成する(図12のステップS10)。
【0063】
次に、関与率算出部6の重なり率算出部61は、支配領域データ生成部4の病変部支配領域データ生成部42から供給された3次元の病変部支配領域データと虚血領域データ生成部5の虚血領域抽出部52から供給された3次元の虚血領域データを用いてこれらの領域の重なり率を算出し(図12のステップS11)、関与率算出部6の演算部62は、重なり率算出部61から狭窄部単位で供給される病変部支配領域データと虚血領域データとの重なり率に血管形状解析部3の病変度計測部33から狭窄部単位で供給される狭窄率を乗算することによりこれらの狭窄部に対する虚血関与率を算出する(図12のステップS12)。
【0064】
一方、診断用画像データ生成部7は、支配領域データ生成部4において生成された3次元の冠動脈支配領域データ及び病変部支配領域データと虚血領域データ生成部5において生成された3次元の虚血領域データを受信する。次いで、形態画像データ生成部2から供給された3次元画像データに上述の各領域データを重畳し、更に、関与率算出部6から狭窄部単位で供給された虚血関与率の算出結果を付加して診断用画像データを生成する。そして、得られた診断用画像データを表示部8に表示する(図12のステップS13)。
【0065】
尚、表示部8に表示された診断用画像データの観察下で、この診断用画像データに示された狭窄部におけるMPR画像データの表示指示信号と当該狭窄部の選択信号が入力部9において入力された場合、システム制御部10を介してこれらの信号を受信した形態画像データ生成部2のMPR画像データ生成部22は、血管形状解析部3の血管走行データ生成部31から供給された冠動脈の芯線データと病変部位検出部32から供給された狭窄部の位置情報に基づき、前記狭窄部を中心とした所定範囲の芯線データを含む平面状あるいは曲面状のMPR断面(第1のMPR断面)と、前記狭窄部を含み前記芯線データに垂直なMPR断面(第2のMPR断面)を形成する。
【0066】
次いで、ボリュームデータ保管部1から読み出した所定心拍時相のボリュームデータに対して上述の第1のMPR断面及び第2のMPR断面を設定し、これらのMPR断面に存在するボリュームデータのボクセルを抽出して狭窄部を中心としたMPR画像データを生成する。
【0067】
一方、診断用画像データ生成部7は、上述のステップS13において既に生成した診断用画像データにMPR画像データ生成部22から供給されたMPR画像データを付加して新たな診断用画像データを生成し、得られた診断用画像データを表示部8に表示する。
【0068】
次に、本実施形態の診断用画像データに示された虚血関与率の臨床的意義につき図13を用いて説明する。図13は、狭窄部Rs1乃至Rs4における虚血関与率の算出に用いた狭窄率及び重なり率の具体例を示しており、例えば、狭窄部Rs1及び狭窄部Rs3は、比較的高い狭窄率を有しているが病変部支配領域と虚血領域との重なりが無いため虚血関与率は0%となり、従って、これらの狭窄部に対する治療の優先度は低いと診断される。これに対して、狭窄部Rs2の狭窄率はあまり大きくないが病変部支配領域と虚血領域との重なりが大きいため虚血関与率も比較的大きな25%となり早急な治療が必要と診断される。このような虚血関与率を各種画像データや各種領域データに示された狭窄部の近傍に表示することにより当該狭窄部に対する好適な治療方針を容易に決定することが可能となる。
【0069】
以上述べた本開示の実施形態によれば、医用画像診断装置により冠動脈疾患を有する被検体から収集されたボリュームデータに基づいて生成した心臓領域の3次元画像データに前記ボリュームデータに基づいて生成した病変部支配領域データあるいは虚血領域データを重畳して表示することにより虚血性心疾患の診断を正確かつ容易に行なうことができる。
【0070】
更に、虚血領域データにおける虚血領域と病変部支配領域データにおける病変部支配領域との重なり率と前記ボリュームデータに基づいて計測した狭窄部の狭窄率とによって得られる虚血関与率を上述の3次元画像データあるいは各種領域データに付加することにより、狭窄部の虚血領域に対する関与の有無や程度を定量的かつ客観的に把握することが可能となり、従って、当該狭窄部に対する好適な治療方針を短時間で決定することができる。
【0071】
又、上述の実施形態によれば、操作者等による狭窄部の選択信号に基づき、この狭窄部を中心とした冠動脈や心筋組織のMPR画像データを表示することができるため、例えば、高い虚血関与率を有した狭窄部の状態を詳細に観測することができる。
【0072】
以上、本開示の実施形態について述べてきたが、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、変形して実施することが可能である。例えば、上述の実施形態では、別途設置されたX線CT装置やMRI装置等の医用画像診断装置からネットワークあるいは記憶媒体を介して供給されたボリュームデータを用いて虚血性心疾患の診断を目的とした診断用画像データを生成する場合について述べたが、ボリュームデータは、医用画像診断装置から直接供給されてもよく、又、医用画像処理装置100は、医用画像診断装置の一部であっても構わない。
【0073】
又、上述の実施形態では、予め収集された時系列的なボリュームデータを積算処理することによって機能画像データとしての心筋パフュージョン画像データを生成し、前記時系列的なボリュームデータの中から抽出した所定心拍時相のボリュームデータをレンダリング処理することによって形態画像データとしての3次元画像データを生成する場合について述べたが、他の画像データを機能画像データや形態画像データとして生成してもよい。
【0074】
更に、上述の実施形態における血管走行データ生成部31は、検索ベクトルを用いたトラッキング法により血管走行データとしての芯線データを生成する場合について述べたが、これに限定されるものではなく、例えば、ボリュームデータに対する2値化処理によって抽出した冠動脈の血管領域を細線化処理することにより血管走行データを生成してもよい。
【0075】
又、上述の実施形態における病変部位検出部32は、基準点Pm単位で計測された冠動脈の横断面積と所定の閾値βとの比較により狭窄部位を検出する場合について述べたが、基準点Pmにおける最大血管径あるいは平均血管径に基づいて狭窄部位を検出してもよい。
【0076】
又、上述の実施形態における冠動脈支配領域データ生成部41は、心筋組織表面の基準ボクセルGf(f=1乃至F)を起点として心筋領域に含まれたボクセルに対し一定の速度(図6参照)で膨張処理を行なう場合について述べたが、例えば、病変部位検出部32において基準点Pm単位で計測された冠動脈の横断面積あるいは上述の血管径に対応した速度で膨張処理を行なってもよい。このような膨張処理の適用により、更に、正確な支配領域データの生成が可能となる。
【0077】
一方、上述の実施形態における診断用画像データは、図13のような表示方式によって表示される場合について示したが、これに限定されるものではなく、例えば、図14に示すような極座標系のPolar−Map画像として表示してもよい。この場合、診断用画像データを構成する形態画像データ(3次元画像データ)、虚血領域データ、冠動脈支配領域データ及び病変部支配領域データも同様の極座標系によって生成される。
【0078】
又、上述の実施形態における虚血領域データ生成部5の虚血領域抽出部52は、機能画像データ生成部51が生成した心筋パフュージョン画像データのボクセル値とステップS2において初期設定された閾値γとを比較することにより心筋パフュージョン画像データにおける虚血領域を抽出する場合について述べたが、診断用画像データの生成中に閾値γの更新を行なってもよい。即ち、医用画像処理装置100の操作者は、表示部8に表示された診断用画像データの観察下で閾値γの更新を入力部9において行ない、診断用画像データ生成部7は、更新された閾値γに基づいて虚血領域データ生成部5が生成した虚血領域データと既に得られている形態画像データ、冠動脈支配領域データ及び病変部支配領域データに基づいて新たな診断用画像データを生成し表示部8に表示する。この場合、更新後の閾値γによって得られた虚血領域データに基づいて関与率算出部6が算出した虚血関与率が上述の画像データや領域データに付加されて新たな診断用画像データが生成される。
【0079】
更に、上述の実施形態では、診断用画像データの観察下で入力部9において選択された狭窄部のMPR画像データが生成/表示される場合について述べたが、最も高い虚血関与率を有する狭窄部のMPR画像データを自動的に生成/表示してもよく、又、狭窄部の各々において生成したMPR画像データを、例えば、虚血関与率が高い順から順次表示してもよい。この場合、表示されているMPR画像データに対応した狭窄部位、芯線データあるいは虚血関与率の算出結果等が診断用画像データにおいて異なる表示条件(例えば、異なる色調)で強調表示(ハイライト表示)される。
【0080】
又、本実施形態の冠動脈支配領域データを構成する区分支配領域は、芯線データ上に所定間隔Δeで配置された基準点Pafを起点とする膨張処理によって形成される場合について述べたが、他の方法によって区分支配領域を形成することも可能であり、例えば、AHA(American Heart Association:アメリカ心臓協会)が提唱する、心筋領域を17個のセグメントに分割し、各々のセグメントを支配する冠動脈を定義した世界標準の分類方法を適用することによって区分支配領域の形成や冠動脈支配領域データの生成を行なってもよい。この場合、セグメント番号を冠動脈支配領域データに付加することにより狭窄部の把握等が更に容易となる。
【0081】
尚、本実施形態に係る医用画像処理装置100の一部は、例えば、コンピュータをハードウェアとして用いることでも実現することができる。例えば、システム制御部10等は、上述のコンピュータに搭載されたCPU等のプロセッサに所定の制御プログラムを実行させることにより各種機能を実現することができる。この場合、システム制御部10は、上述の制御プログラムをコンピュータに予めインストールしてもよく、又、コンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体への保存あるいはネットワークを介して配布された制御プログラムのコンピュータへのインストールであっても構わない。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 ボリュームデータ保管部
2 形態画像データ生成部
21 3次元画像データ生成部
22 MPR画像データ生成部
3 血管形状解析部
31 血管走行データ生成部
32 病変部位検出部
33 病変度計測部
4 支配領域データ生成部
41 冠動脈支配領域データ生成部
42 病変部支配領域データ生成部
5 虚血領域データ生成部
51 機能画像データ生成部
52 虚血領域抽出部
6 関与率算出部
61 重なり率算出部
62 演算部
7 診断用画像データ生成部
8 表示部
9 入力部
10 システム制御部
100 医用画像処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータに基づいて、血管の血管走行データを生成する血管走行データ生成手段と、
前記ボリュームデータに基づいて、前記血管における病変部の位置情報を検出する病変部位検出手段と、
前記血管走行データに基づいて、栄養が供給される領域における、前記血管の支配領域を示す血管支配領域データを生成する血管支配領域データ生成手段と、
前記血管走行データ及び前記病変部の位置情報に基づいて、前記栄養が供給される領域における、前記病変部の支配領域を示す病変部支配領域データを生成する病変部支配領域データ生成手段と、
前記ボリュームデータに基づいて生成された形態画像データあるいは機能画像データに前記血管支配領域データ及び前記病変部支配領域データを重畳して診断用画像データを生成する診断用画像データ生成手段と、
を有する医用画像処理装置。
【請求項2】
前記血管を冠動脈とし、前記栄養が供給される領域を心筋領域とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記血管支配領域データ生成手段は、前記血管走行データに対し所定間隔で設定した基準点を起点とする膨張処理を、前記栄養が供給される領域に対して行なうことにより前記血管支配領域データを生成する請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記血管支配領域データ生成手段は、前記基準点の各々を起点とする膨張処理により複数の区分支配領域を、前記栄養が供給される領域に対して形成し、前記複数の区分支配領域を合成することにより前記血管支配領域データを生成する請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記病変部支配領域データ生成手段は、前記血管走行データに設定された複数からなる基準点の中から前記病変部に対応した基準点及びこの基準点より下流に存在する複数の基準点を抽出し、これらの基準点に対して前記血管支配領域データ生成手段が形成した区分支配領域に基づいて前記病変部支配領域データを生成する請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記形態画像データを生成する形態画像データ生成手段をさらに有し、
前記形態画像データ生成手段は、前記ボリュームデータに基づいて前記病変部を含む3次元画像データあるいはMPR(Multi Planar Reconstruction)画像データの少なくとも何れかを前記形態画像データとして生成する請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記機能画像データを生成する機能画像データ生成手段をさらに有し、
前記機能画像データ生成手段は、前記ボリュームデータに基づいたパフュージョン画像データを前記機能画像データとして生成する請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記機能画像データに基づいて、前記栄養が供給される領域における虚血領域を示す虚血領域データを生成する虚血領域データ生成手段をさらに有し、
前記診断用画像データ生成手段は、前記形態画像データあるいは前記機能画像データに前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データを重畳して前記診断用画像データを生成する請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記虚血領域データ生成手段は、前記ボリュームデータに基づいて生成したパフュージョン画像データのボクセル値あるいは画素値と所定の閾値との比較により前記パフュージョン画像データにおける虚血領域を抽出して前記虚血領域データを生成する請求項8に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記診断用画像データ生成手段は、前記ボリュームデータに基づいて3次元的に生成された前記形態画像データあるいは前記機能画像データ、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データに基づいて3次元の診断用画像データを生成する請求項8に記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記病変部の病変度を計測する手段をさらに有し、
前記診断用画像データ生成手段は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに前記計測された病変度を付加して前記診断用画像データを生成する請求項8に記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
前記病変部支配領域データの病変部支配領域と前記虚血領域データの虚血領域との重なり率を算出する手段をさらに有し、
前記診断用画像データ生成手段は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに、前記計測された病変度と前記算出された重なり率とを付加して前記診断用画像データを生成する請求項11に記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
前記病変度、前記虚血領域データ及び前記病変部支配領域データに基づいて虚血関与率を算出する関与率算出手段をさらに有し、
前記診断用画像データ生成手段は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに、前記計測された病変度と前記算出された重なり率と、前記算出された虚血関与率とを付加して前記診断用画像データを生成する請求項12に記載の医用画像処理装置。
【請求項14】
前記関与率算出手段は、前記病変部支配領域データの病変部支配領域と前記虚血領域データの虚血領域との重なり率を算出し、この重なり率と前記病変度計測手段によって計測された前記病変部における狭窄率等の病変度に基づいて前記虚血関与率を算出する請求項13に記載の医用画像処理装置。
【請求項15】
前記診断用画像データを表示装置に表示させる表示制御手段をさらに有し、
前記表示制御手段は、前記算出された虚血関与率に応じて、前記病変部あるいは病変部支配領域を強調表示させる請求項13に記載の医用画像処理装置。
【請求項16】
前記診断用画像データを表示装置に表示させる表示制御手段をさらに有し、
前記表示制御手段は、前記診断用画像データを極座標系のPolar−Map画像として表示させる請求項13に記載の医用画像処理装置。
【請求項17】
前記病変部としての狭窄部を選択する狭窄部選択手段をさらに有し、
前記診断用画像データ生成手段は、前記狭窄部選択手段によって選択された狭窄部に対し前記形態画像データ生成手段が生成したMPR画像データを用いて前記診断用画像データを生成する請求項6に記載の医用画像処理装置。
【請求項18】
記憶装置から、医用画像診断装置によって収集されたボリュームデータを取得し、
前記取得されたボリュームデータに基づいて、血管の血管走行データを生成し、
前記ボリュームデータに基づいて、前記血管における病変部の位置情報を検出し、
前記血管走行データに基づいて、栄養が供給される領域における、前記血管の支配領域を示す血管支配領域データを生成し、
前記血管走行データ及び前記病変部の位置情報に基づいて、前記栄養が供給される領域における、前記病変部の支配領域を示す病変部支配領域データを生成し、
前記ボリュームデータに基づいて生成された形態画像データあるいは機能画像データに前記血管支配領域データ及び前記病変部支配領域データを重畳して診断用画像データを生成し、
前記診断用画像データを表示装置に表示させる医用画像処理方法。
【請求項19】
前記機能画像データに基づいて前記栄養が供給される領域における虚血領域を示す虚血領域データをさらに生成し、
前記診断用画像データの生成は、前記形態画像データあるいは前記機能画像データに前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データを重畳して前記診断用画像データを生成する請求項18に記載の医用画像処理方法。
【請求項20】
前記病変部の病変度をさらに計測し、
前記診断用画像データの生成は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに前記計測された病変度を付加して前記診断用画像データを生成する請求項19に記載の医用画像処理方法。
【請求項21】
前記病変部支配領域データの病変部支配領域と前記虚血領域データの虚血領域との重なり率をさらに算出し、
前記診断用画像データの生成は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに、前記計測された病変度と前記算出された重なり率とを付加して前記診断用画像データを生成する請求項20に記載の医用画像処理方法。
【請求項22】
前記病変度、前記虚血領域データ及び前記病変部支配領域データに基づいて虚血関与率をさらに算出し、
前記診断用画像データの生成は、前記血管支配領域データ、前記病変部支配領域データ及び前記虚血領域データが重畳された前記形態画像データあるいは前記機能画像データに、前記計測された病変度と前記算出された重なり率と、前記算出された虚血関与率とを付加して前記診断用画像データを生成する請求項21に記載の医用画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図14】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−81254(P2012−81254A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187159(P2011−187159)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】