説明

医療器具固定具

【課題】留置中の管状医療器具のずれを防止しかつ留置の圧迫による褥瘡形成を予防し、さらに粘着剤での固定による皮膚剥離を防止する管状部材固定具の提供。
【解決手段】使用者の皮膚上で用いられる医療器具を固定するための固定具で、医療器具を固定する固定部と、該固定部が備えられた面と前記使用者の皮膚と接触する接触面を有するベース部と、ベース部の接触面に弾性を有する材料で構成された軟粘着剤層が形成されている医療器具固定具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具固定具、特に医療用管状部材固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の皮膚や血管は加齢に伴って脆弱化し、少しの衝撃により損傷することが知られている。とりわけ、高齢者医療における医療行為では、血管への針の穿刺や留置、またその針を保持するためのテープ固定によって、望ましくない現象が発生する。例えば、留置針を留置している間に、体動と共に針先端が微小に動くことによって、血管を傷つけて出血してしまったり、静脈炎が発生したりする。
【0003】
また、針を保持するために貼付したテープを剥がす際に、皮膚も一緒に剥離してしまったりする。さらに、留置針をより強固に固定するために、輸液チューブと留置針の間をコネクターなどで固定することもあるが、このコネクターが硬質の部材で構成されているため、皮膚に圧力が加わり、コネクターの下に褥瘡が形成されてしまうこともある。これらの事象は、医療行為によって却って患者を傷つけてしまうことになるだけでなく、再度、新たな留置針を刺しなおさなければならない為、患者にとっても病院にとっても望ましくない結果となっている。
【0004】
この様な状態を回避するため、特許文献1に記載されている針を固定し防護するためのデバイスなどが考案されている。
【0005】
しかし、これだけでは、針の固定は行えても、留置針やコネクターの下に褥瘡が形成するのを防ぐことはできず、またこのデバイスを除去する時の皮膚の剥離を回避することができない為、望ましいとは言えなかった。また特許文献2には、カテーテルのハブやコネクターを固定するデバイスが記載されている。しかし、この様なデバイスにおいても、留置針のハブやコネクターの下に褥瘡が形成するのを防ぐことはできず、またこのデバイスを除去する時の皮膚の剥離を回避することができない為、望ましいとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−526401号公報
【特許文献2】米国特許第7014627号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記問題を鑑み、上記問題点を解決し、留置中の医療器具のずれを防止しかつ留置の圧迫による褥瘡形成を予防し、さらに粘着剤での固定による皮膚剥離を防止する管状部材固定具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、上記課題は以下の本発明により解決される。
(1)使用者の皮膚上で用いられる医療器具を固定するための固定具であって、前記医療器具を固定する固定部と、該固定部が備えられた面と前記使用者の皮膚と接触する接触面を有するベース部とを有し、前記ベース部の接触面に弾性を有する材料で構成された軟粘着剤層が形成されてなる医療器具固定具。
(2)前記軟粘着剤層の硬さがショアA硬さにおいて10〜50である請求項1に記載の医療器具固定具。
(3)前記軟粘着剤層の剥離強度が、0.2N/10mm〜1.5N/10mmである請求項1又は2のいずれかに記載の医療器具固定具。
(4)前記医療器具が管状部材を有し、管状部材が、留置針、翼状針、輸液チューブ、透析チューブ、経鼻チューブ、PEGチューブ、CVカテーテル、尿道カテーテル、PICCカテーテル、コネクター、ドレーンである(1)〜(3)のいずれかに記載の管状部材固定具。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療器具固定具によれば、留置中の医療器具のずれを防止し、かつ留置の圧迫による褥瘡形成を予防し、さらに粘着剤での固定による皮膚剥離を防止することができる。
また、本発明の医療器具固定具があれば、留置針のずれを防止することで、出血、静脈炎の発生を減らし、刺し替えることなく、留置期間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の医療器具固定具の一例である。
【図2(a)】図2(a)は、本発明の医療器具固定具に留置針をセットした例である。
【図2(b)】図2(a)は、本発明の医療器具固定具に留置針をセットした例である。
【図2(c)】図2(a)は、本発明の医療器具固定具に留置針をセットした例である。
【図3(a)】図3(a)は本発明の別の医療器具固定具の例である。
【図3(b)】図3(b)は本発明の別の医療器具固定具の例である。
【図4(a)】図4(a)本発明の別の医療器具固定具の例である。
【図4(b)】図4(b)本発明の別の医療器具固定具の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、本発明に係る、図1に例示する医療器具固定具について詳細に説明する。本発明の医療器具固定具は、主に中空管状の医療機器を用いる際に、中空管状部Aを皮膚に固定するためのものである。この場合の中空管状部Aとは、留置針、翼状針、輸液チューブ、透析チューブ、経鼻チューブ、PEGチューブ、CVカテーテル、尿道カテーテル、PICCカテーテル、コネクター、ドレーンの管状の部材であるがこれらに限定されず、中空管状の医療用具を示す。
【0012】
本発明の医療器具固定具である管状部材固定具1は、固定部2と固定部が取り付けられる面及び使用者の皮膚と接する接触面を有するベース部3と、接触面に設けられ、弾性を有する材料で構成された軟粘着剤層4を有する。
【0013】
固定部2は、半円形状をし、中空管状部Aが取り付けられる取り付け部31と、中空管状部Aを固定するロック部32とを備える。取り付け部31は、周面を有する窪みを形成し中空管状部Aを収容できる程度の大きさを有している。この取り付け部31により、留置針などの固定した部材が前方や後方に移動することを回避できるため、点滴の漏れや静脈炎、出血などのトラブルを低減することができる。
【0014】
ロック部32は、周面の一端に形成され、中空管状部Aが取り付け部31に取り付けられた際、中空管状部Aが取り付け部内に固定するためのものである。本実施形態におけるロック部32は、中空管状部Aの直径長さよりも短いスリット部を形成している。
【0015】
固定部2は、シリコン、ポリスチレン系エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの弾性を有する材料で構成されていてもいいし、その他の剛性材料で構成されていても構わない。また、後述するベース部の材料と同一であってもかまわない。
【0016】
ベース部3は、固定部2が設けられた面と、使用者の皮膚と接する面とを有する。そして、皮膚と接する面には、軟粘着剤層4が設けられている。
【0017】
ベース部は、固定した管状部材によって皮膚に褥瘡ができることを避けるため、弾性を有する材料で構成されていることが望ましい。具体的には、皮膚への圧力が32mmHg以下になることが必要であり、管状部材と皮膚の間の部材のショアA硬さが、10〜50のものが望ましく、より望ましくは、15〜35の材質である。この範囲より柔らかくなると、管状部材をしっかりと固定するのが難しくなり、これ以上硬くなると、褥瘡の形成を予防できなくなる。
【0018】
ベース部3を構成する材料としては、例えば、シリコーン、ポリスチレン系エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、塩ビ系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーおよびこれらの混合物や有機発泡剤で発泡させた材料が挙げられるが、シリコーン、ポリスチレン系エラストマー、ポリエチレンジェルなどのジェル素材が最も望ましく、ポリウレタンフォーム、ポリビニルアルコールフォームなどの多孔質素材が次に望ましい。
【0019】
皮膚に接着する面には軟粘着剤層3が設けられている。軟粘着剤層3に用いられている軟粘着剤の剥離強度は、0.2N/10mm〜1.5N/10mmが望ましく、より望ましくは、0.5N/10mm〜1.2N/10mmである。この範囲であれば、皮膚に接着することができ、安定して固定することができる。
【0020】
この様な剥離強度を達成する粘着剤として、シリコーン系粘着剤、親水性アクリル系粘着剤、水溶性アクリル系粘着剤、疎水性アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤などがあるが、中でもシリコーン系粘着剤が望ましい。
【0021】
軟粘着剤層3の厚みとしては、皮膚貼り付けた際、上述する粘着強度を有するように適宜設定することができるが、皮膚に褥瘡ができることを避けるために必要となる弾性を有することが望ましいため、その厚さとしては例えば、1mm以上10mm以下、好ましくは3mm以上6mm以下であることが望ましいが、皮膚への圧力が32mmHg以下になるように上述の材料を用い、厚さを適宜選択可能であることは言うまでもない。
【0022】
次に、図2(a),(b)を用いて本発明の管状部材固定具1で留置針を固定した時の使用方法を示す。
【0023】
まず、使用者の皮膚に内針および外針(カテーテル)Xからなる留置針を穿刺し、内針のみを抜去することで、カテーテルXを使用者に留置する。その後、輸液ラインなどをカテーテルXのコネクター部に接続する。
【0024】
そして、管状部材固定具1を留置針と皮膚の間に設置し、皮膚に貼付する。固定部2の取り付け部31中空管状部Aであるコネクター部を取り付け、コネクター部を嵌め込む。このとき、コネクター部がロック部により取り付け部にしっかりと固定される。
【0025】
<変形例>
上述した第1の実施形態にかかる医療器具固定具は、図1に示すように1つの固定具2が設けられていたが、少なくとも1つ以上の固定部2があれば良く、図3(a)、(b)の様に医療器具のチューブ部5をU字に曲げた状態を維持できる様に、2つ以上の管状部材を固定部41、42があってもよい。
【0026】
また、上述した第1の実施形態における医療器具固定具は、図1に示すように半円状の形状をし、窪みが形成された固定部2を有していたが、図3(a)、(b)に示すようにベース部3の両端に窪みを有した医療器具固定具10であっても良い。
<変形例2>
【0027】
本発明の第2の実施形態にかかる医療器具固定具10は、翼状針などを固定するための固定部20を備えている。
【0028】
固定部20は、ベース部31の両端に1対設けられ、その対向するに面に取り付け部31が設けられている。取り付け部310は、翼状針Bの翼状部6が挿入されるように、窪みとして形成されている。
【0029】
以上、上述の本発明の医療器具固定具は、耐熱性包材に収納してオートクレーブ滅菌してもよく、ガス透過性包材に収納してEOG滅菌することもできる。また、適切な包材に収納し、γ線滅菌や電子線滅菌することもできる。
【0030】
以上、上述した実施形態及び変形例において、軟粘着層はベース部の皮膚と接する面にベース部とは別体に設けられていたが、これに限定されるものではなく、ベース部と一体に成形され、皮膚と接する面が軟粘着成分を有するように成形されるものであってもよい。
【0031】
以上、本発明の各実施形態の例について説明したが、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1、10 医療器具固定具
2、20 固定部
3、30 ベース部
31 取り付け部
32 ロック部
4 軟粘着剤層
5 チューブ部
6 翼状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の皮膚上で用いられる医療器具を固定するための固定具であって、
前記医療器具を固定する固定部と、
該固定部が備えられた面と前記使用者の皮膚と接触する接触面を有するベース部とを有し、
前記ベース部の接触面に弾性を有する材料で構成された軟粘着剤層が形成されてなる医療器具固定具。
【請求項2】
前記軟粘着剤層の硬さがショアA硬さにおいて10〜50である請求項1に記載の医療器具固定具。
【請求項3】
前記軟粘着剤層の剥離強度が、0.2N/10mm〜1.5N/10mmである請求項1又は2のいずれかに記載の医療器具固定具。
【請求項4】
前記医療器具が管状部材を有し、管状部材が、留置針、翼状針、輸液チューブ、透析チューブ、経鼻チューブ、PEGチューブ、CVカテーテル、尿道カテーテル、PICC、コネクタ、ドレーンである請求項1〜3のいずれかに記載の医療器具固定具。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【公開番号】特開2013−13446(P2013−13446A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146413(P2011−146413)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】