説明

医療用システムの包装物、および該医療用システムの包装物の熱滅菌方法。

【課題】医療用システムの包装状態の熱滅菌処理を、該医療用システムの包材内に収納された薬液バッグ中の薬液の変質が無く十分に熱滅菌可能で、かつ包装行程の生産操作性の向上を達成できる複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムの包装物および該医療用システム包装物の熱滅菌方法の提供。
【解決手段】複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムであって、前記バッグの少なくとも一個のバッグが折込まれて形成された折込み部の内部に該医療用システムの別のバッグを挟み込んだ状態で包材によって包装されたことを特徴とする医療用システムとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムの包装物、および該医療用システムの包装物の熱滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システム、例えばCAPD療法に使用する医療用システムは、体内に注液する透析液を収納した薬液バッグ、体内に注液した前記透析液の使用後の排液を収納する排液バッグ、および前記薬液バッグと排液バッグをそれぞれ装着可能で前記薬液バッグ内の薬液を体内への注入と前記体内の排液を前記排液バッグへの排出に使用する回路で少なくとも構成され、その熱滅菌は、通常、該医療用システムを包材内に収納して高温高圧滅菌、たとえば高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)が行われる。しかしながら、前記高温高圧滅菌に際してバッグ中に収納した薬液、例えば透析液の調製に使用するpH3.0〜4.0に調整され、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム及び塩酸を少なくとも含む薬液は、pHが酸性であるため菌が生育し難い環境に構成されているが、熱滅菌のための熱負荷によって前記ブドウ糖の分解が生じるという問題がある。
【0003】
また、本発明の対象とする前記複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システム、例えば透析のCAPD療法に使用する医療用システムは、包材中に該医療用システムを構成する部材を個々に分離した状態で、あるいは該医療用システムを構成する部材の少なくとも一部あるいは全部をあらかじめ結合した状態で包材中に包装されるが、この包装作業は包装行程における生産操作性が悪いという問題もあった。
【0004】
【特許文献1】特許3133149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医療用システムの包装状態の熱滅菌処理を、該医療用システムの包材内に収納された薬液バッグ中の薬液の変質あるいは変色が無く十分に熱滅菌可能で、かつ包装行程の生産操作性の向上を達成できる複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムの包装物および該医療用システムの包装物の熱滅菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムであって、前記薬液バッグの少なくとも一個のバッグが折込まれて形成された折込み部の内部に該医療用システムの別のバッグを挟み込んだ状態で包材によって包装されたことを特徴とする医療用システムを提供することにより前記課題を解決することができた。
なお、前記回路とは本発明の医療用システムを構成する複数のバッグを少なくとも装着可能なものを指し、例えば透析のCAPD療法に使用する医療用システムの場合には腹膜カテーテルや排液バッグ等を有するチューブが連結するコネクター、ローラクランプ等が装着された延長チューブを指し、通常、この前記回路を構成する延長チューブは薬液バッグに接続される。
【0007】
以下、本発明の包装された医療用システムの実施態様を、医療用システムとしてCAPD透析システムを図に基づいて具体的に説明する。
図1に示す包装されたCAPDシステムの透析液収納バッグは、隔離部2により独立に分離して形成された小室1および大室3を有し、かつ前記小室1および大室3には透析時に前記隔離部2が連通して所望の構成成分とpHの透析液を調製する薬液がそれぞれ収納された合成樹脂製のバッグである。
前記合成樹脂製のバッグは隔離部2を中心として折込まれ、その折込み部の内部に排液バッグ4を挿み込み、CAPDシステムを構成する他の部材である前記回路に相当する延長チューブとともに包材によって包装されCAPDシステムの包装物を構成している。
【0008】
前記図1に示す包装されたCAPDシステムの包装物は、図5に示す従来公知のCAPDシステムの包装物とは異なり、透析液収納バッグが折込まれ、その折込み部の内部にCAPDシステムを構成する排液バッグ4が挿み込まれて構成されているので、CAPDシステムの包装行程における生産操作性が良く、また該システムの生産コストも減少させることができる。
【0009】
また、前記図3に示すように折込まれた透析液収納バッグの折込み部の内部に、透析液収納バッグに接続された透析液収納バッグの連結チューブA、排液バッグ4の連結チューブBや腹膜カテーテルの連結チューブ(不図示)および前記各連結チューブが連結されたコネクターC、さらに必要に応じてローラクランプ等で構成される回路を排液バッグに載持された状態で挿み込まれて包装したものがさらに好ましい。前記のような構成を採用することにより、さらに前記回路が薬液バッグと排液バッグにより固定化されるのでCAPDシステムの包装行程における生産操作性が良く、また前記回路の固定のために該医療システム自体を構成する薬液バッグと排液バッグを使用し、該医療システム自体を構成する部材以外の部材を使用する必要が無いので、該医療システム自体の生産コストも減少させることができる。なお、前記図3のものにおいては、排液バッグ4の連結チューブBや腹膜カテーテルの連結チューブ(不図示)は、包装時にあらかじめ前記コネクターCに連結されたものであるが、前記各連結チューブは包装時に前記コネクターCに連結しないで排液バッグ4に載持されたものであってもよい。
【0010】
さらに、前記図1に示すCAPDシステムの包装物おいて、図2に示すように排液バッグ4を折込んで該折込み部の内部に前記回路を挿み込んで一つのユニット化物を構成し(該ユニット化物を排液バッグセル化物という)、さらに隔離部2を中心として折込まれた薬液バッグの折込み部の内部に前記排液バッグセル化物を挿み込んで一つのユニット化物を構成したもの(該ユニット化物を薬液バッグセル化物という)は、図3に示すものに比較していっそうCAPDシステムの包装行程における生産操作性を向上させることができる。
前記排液バッグ4の折込み前のものとしては、例えば図4に示すように該排液バッグ4の内側に薬液バッグ側チューブAと排液バッグ側チューブBおよびこれらチューブが挿し込まれ接続される薬液バッグ側チューブAの差込み口8と排液バッグ側チューブBの差込み口7を有するコネクターCが配置されて構成されるものである。
【0011】
前記図1〜3に示すCAPDシステムの包装物おいては、合成樹脂製バッグの2つの薬液収納室は一方の薬液収納室に比較して容量が大きい大室3と該大室3に比較して容量の小さい小室1で構成され、前記小室1と大室3には、透析液使用時には前記隔離部4を連通させることによりそれぞれ所望のpHと透析液の構成成分を含有する薬液が収納されているが、前記小室1に収納される薬液はCAPDシステムの包装物の熱滅菌に際して熱により変質、あるいは変色等の変化を受け易く、かつ大室3に収納した薬液に比較して加熱温度が低くても加熱滅菌の目的を達成する薬液例えばpH3.0〜4.0に調整され、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム及び塩酸を少なくとも含有するものが収納されるのが好ましい。
また、前記のような薬液を収納した薬液バッグは、図1〜3に示すよう大室3が熱滅菌の熱源側に配置され、小室1は熱滅菌の際に前記大室3を介在させて加熱滅菌されるように配置されるのが好ましい。このように薬液収納バッグを折りたたみ、かつ小室1と大室3の配置を上記のような構成とすることにより、熱滅菌する熱源と小室1の間には大室3、排液バッグ4および回路6等を介在させることができるので、大室3側に加熱滅菌の熱源を置いて加熱滅菌を十分に行っても、小室1内の熱により変色あるいは変質等を生じ易い薬液の熱により変色あるいは変質等を避けることができる。
したがって、前記のようにCAPDシステムの構成部材を排液バッグセル化物および薬液バッグセル化物としたものは、CAPDシステムの包装行程における生産操作性が良く、該システムの生産コストも減少させることができる、という効果だけではなく、さらに小室1内の透析液を構成する熱により変色あるいは変質等を生じ易い薬液の熱により変色あるいは変質等を避け、かつ透析液の熱滅菌を十分に、かつ容易に行い得るという非常に優れた効果を奏することができる。なお、前記薬液バッグの大室3には熱滅菌に際して変色または変色あるいは変質等を生じ難い薬液が収納されるが、該薬液としては、例えばpH7.0〜8.7に調整され、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを少なくとも含有する薬液が挙げられる。
【0012】
前記実施態様においては、本発明の医療用システムの包装物について、CAPDシステムの包装物に基づいて説明したが、複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成され、かつ熱滅菌を必要とする医療用システムの包装物であれば、本発明の採用する技術手段は前記CAPDシステム以外の医療用システムの包装物にも広く適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、医療用システムの包装状態の熱滅菌処理を、該医療用システムの包材内に収納された薬液バッグ中の薬液の変質がほとんど無く十分に熱滅菌可能で、かつ包装行程の生産操作性の向上を達成できる複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムの包装物および該医療用システムの包装物の熱滅菌方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
CAPDシステムの包装物の実施例を図2に基づいて示す。
【実施例1】
【0015】
隔離部2を介して互いに独立した容量の小さい小室1と容量の大きい大室3を有し、前記容量の小さい小室1には少なくともブドウ糖を含む透析液の構成成分の一部を含有する薬液が収納され、また他方の容量の大きい大室3には前記小室に収納した薬液と一緒になって所望のpHと構成成分の透析液を形成可能なブドウ糖を含有しない薬液が収納された薬液バッグが前記隔離部2を中心にして二つ折りに折り込まれた。また、前記薬液バッグはポリプロピレン樹脂で形成され、該薬液バッグには該薬液バッグを形成するポリプロピレン樹脂とは熱滅菌時にスティッキング現象を生じることが無いグレードが異なるポリプロピレン樹脂で形成された延長チューブAが接合されている。
【0016】
一方、ポリアミド樹脂層を積層したポリプロピレン樹脂で形成された排液バッグには前記薬液バッグの延長チューブA、腹膜カテーテルの連結チューブ(不図示)および排液バッグの延長チューブBが連結されたコネクターCを有する回路が前記延長チューブBによって接合され、該排液バッグは二つ折りに折込み、その折込み部内部に前記回路を収納してセル化した。このセル化した排液バッグを前記薬液バッグの折込み部内部に挿し込み、これを包材中に収納し包材外から温度110〜120℃で20〜40分間適宜選択して熱滅菌を行った。
上述のような包装操作および熱滅菌方法を採用することにより、極めて簡単な操作で熱滅菌したCAPDシステムの包装物を製造することができた。
【0017】
さらに本実施例においては、上述のように極めて簡単な操作で熱滅菌したCAPDシステムの包装物を製造することができるだけでなく、前記小室1を熱滅菌の際の熱源に対して反対側に配置して加熱滅菌することにより、熱滅菌する熱源と小室1の間には大室3、排液バッグ4および回路6等を介在させることができるので、大室3側に加熱滅菌の熱源を置いて加熱滅菌を十分に行っても、小室1内の薬液中のブドウ糖が熱により変色、変質あるいは分解等を避けることができる、という優れた効果を奏することができる。この点の効果を従来技術である薬液バッグと排液バッグを包材中に平置きして熱滅菌した場合のものとの比較を下記図6に示す。この図6の結果より熱滅菌に際してブドウ糖の分解により種々の熱分解生成物が生じるが、中でも腹膜に悪影響を及ぼす5−HMF(5−ヒドロキメチルフルフラール)および3−DG(3−デオキシグルコサン)の生成量を著しく減少させることができた。なお、図6のGDP(Glucose Degradation Products)量とは、グルコース分解生成物量を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の医療用システム(CAPDシステム)の包装物の1実施態様を説明した図である。
【図2】本発明の医療用システム(CAPDシステム)の包装物の他の実施態様を説明した図である。
【図3】本発明の医療用システム(CAPDシステム)の包装物の他の実施態様を説明した図である。
【図4】本発明の医療用システム(CAPDシステム)の薬液バッグの折込み部の内部に排液バッグと回路を配置した構成を説明した図である。
【図5】従来公知の医療用システム(CAPDシステム)の包装物の1実施態様を説明した図である。
【図6】実施例1と従来のCAPDシステムの薬液バッグを熱滅菌した場合のCAPDシステム)の5HMFおよび3−DGの生成量を比較した図である。
【符号の説明】
【0019】
1 薬液バッグ(小室)
2 薬液バッグ(小室)と薬液バッグ(大室)の間の隔離(シール)部
3 薬液バッグ(大室)
4 排液バッグ
5 包材
6 回路
7 排液バッグ側延長チューブが挿し込まれる挿し口
8 薬液バッグ側延長チューブが挿し込まれる挿し口
A 薬液バッグ側延長チューブ
B 排液バッグ側延長チューブ
C チューブAとチューブBが接合されるコネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッグと該バッグ同士をそれぞれ装着可能な回路で少なくとも構成された医療用システムであって、前記バッグの少なくとも一個のバッグが折込まれて形成された折込み部の内部に、該医療用システムの別のバッグを挟み込んだ状態で包材によって包装されたことを特徴とする医療用システム。
【請求項2】
体内に注液する薬液を収納した薬液バッグ、体内に注液した前記薬液の使用後の排液を収納する排液バッグ、および前記薬液バッグと排液バッグをそれぞれ装着可能で前記薬液バッグの薬液の体内への注入と前記体内の排液を前記排液バッグへの排出に使用する回路で少なくとも構成され、かつ前記薬液バッグを折込んで形成した折込み部の内部に前記排液バッグを挟み込んだ状態で包材によって包装されたことを特徴とする請求項1に記載の医療用システム。
【請求項3】
折込んだ薬液バッグに挟み込まれた排液バッグも折込まれて折込み部を形成してセル化され構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用システム。
【請求項4】
バッグのもっとも内側の折込み部の内部に前記回路の少なくとも一部を挟み込んだ状態で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の医療用システムの包装物。
【請求項5】
医療用システムがCAPDシステムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の医療用システムの包装物。
【請求項6】
薬液バッグが隔離部で隔離された2つの薬液収納室で構成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の医療用システムの包装物。
【請求項7】
2つの薬液収納室は容量が相違するものであることを特徴とする請求項6に記載の医療用システムの包装物。
【請求項8】
容量の小さい薬液収納室(以下、小室と言う)には少なくともブドウ糖を含む透析液の構成成分の一部を含有する薬液が収納され、また他方の容量の大きい薬液収納室(以下、大室と言う)には前記小室に収納した薬液と一緒になって所望のpHと構成成分の透析液を形成可能なブドウ糖を含有しない薬液が収納されたものであることを特徴とする請求項7に記載の医療用システムの包装物。
【請求項9】
熱滅菌用熱源に対して少なくとも大室を介在させた小室の配置状態で、請求項7または8に記載の医療用システムの包装物を熱滅菌することを特徴とする医療用システムの包装物の熱滅菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−174988(P2006−174988A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370565(P2004−370565)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】