説明

医療用光源装置使用方法

【課題】被覆付き光ファイバを容易に切断することが可能で、生体組織への光照射中に光ファイバが折れる原因となるガラス傷の発生を防いで生体組織に対する安全性を高めることができる医療用光源装置使用方法を提供する。
【解決手段】本発明の医療用光源装置使用方法は、光源部10,光ファイバ20,ハンドピース30および切断器具40を備える医療用光源装置1を使用する方法であり、クランプ41a,41bにより光ファイバ20を保持する保持工程と、光ファイバ20の被覆樹脂の上から刃部材42によりガラスファイバの側面に初期傷を与える初期傷付与工程と、枕47により光ファイバ20に曲げを与えて劈開し出射端面を形成する屈曲工程と、クランプ41a,41bによる光ファイバ20の保持を解除する解除工程とを備える。操作者による1回の指示に応じて、保持工程,初期傷付与工程,屈曲工程および解除工程を順次に連続的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用光源装置を使用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体組織に対して熱的または光化学的な作用を及ぼす光を照射して該生体組織を蒸散・切開する医療用光源装置が知られている。このような医療用光源装置は、一般に、レーザ光を出力する光源部と、この光源部から出力されるレーザ光を入射端に入力して導光し該光を出射端から出力する光ファイバとを備え、この光ファイバの出射端から出力されるレーザ光を生体組織に集光照射する。
【0003】
特許文献1には、光ファイバの出射端側に設けられるハンドピースについての発明が開示されている。この文献には、レーザ光を導光する光ファイバの出射端付近の被覆樹脂を剥がしてガラスファイバとし、そのガラスファイバを生体組織に接触させることで、生体組織およびガラスファイバの発熱により生体組織の切開が可能となることが記載されている。また、出射端付近の被覆樹脂が除去された後のガラスファイバと被覆付き光ファイバとの間に、熱および光を遮断する遮断部品を設けることで被覆樹脂の熱変性を抑制し、光ファイバの焼損を防止できることが示されている。
【0004】
特許文献2には、医療用光源装置に用いられるレーザプローブの光ファイバの出射端を生体組織に接触させると該出射端が汚れて切開性が低下することが記載されている。この文献には、光ファイバの出射端付近を保護する保護チューブを2重にすることで、保護チューブを切断せずに光ファイバの出射端を切断することを可能とし、簡便に光ファイバの出射端の清浄性回復を行えることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、光ファイバから被覆樹脂を除去した後のガラスファイバを保持するクランプを開閉するレバーと、そのガラスファイバに初期傷をつける刃部材と、ガラスファイバを曲げるための枕とを備え、これらが共通の操作レバーに連動して動作する光ファイバカッタについての発明が記載されている。この光ファイバカッタは、光ファイバ保持、初期傷付与および光ファイバ切断の一連の工程を一つの動作で実現して、光ファイバ切断を容易化することを意図している。
【0006】
特許文献4には、被覆樹脂を切り込むと同時にガラスファイバに傷を与えることにより光ファイバ被覆除去工程を不要として切断を容易化した光ファイバの切断装置および切断方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002-355256号公報
【特許文献2】特開2006-068445号公報
【特許文献3】特開2002-286943号公報
【特許文献4】特開2006-284839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたハンドピースでは、光ファイバの被覆樹脂を剥がす必要があった。被覆樹脂を剥がす行為は、時間を浪費させるだけでなく、光ファイバのガラスに意図しない傷を与える問題があった。発明者らが得た知見によれば、このような意図しない傷は、光ファイバを通して生体組織に光を照射する最中に該光ファイバが折れる問題を生じさせている。
【0008】
また、特許文献2に記載されたレーザプローブでは、保護チューブの切断を省略することによって光ファイバ切断を簡便化することが図られている。しかし、この文献には、被覆樹脂を剥がさずに光ファイバを切断することは開示されていない。また、この文献には、光ファイバの先端工程において意図しない傷を防ぐ方法も開示されていない。
【0009】
また、特許文献3に記載された光ファイバカッタは、一つの動作で光ファイバを切断することができる。しかし、この光ファイバカッタは事前に被覆除去されたガラスファイバでの使用が想定されており、これを被覆付き光ファイバに適用することは見出されていなかった。
【0010】
一方、特許文献4に記載された光ファイバ切断装置および方法では、被覆樹脂を除去せずに光ファイバを切断することが可能であるが、刃部材でガラスファイバに初期傷を付ける際に光ファイバを刃部材に対して側方から圧迫する機構が必要であり、装置コストを増大させていた。このような機構は、光ファイバの被覆の上からガラスファイバに初期傷を付ける場合にガラスファイバが逃げて初期傷深さが不足する不具合を低減させるが、この文献に記載されているように側方から被覆樹脂を圧迫しただけでは、ガラスファイバの逃げを防ぐことができないことが多かった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、被覆付き光ファイバを容易に切断することが可能で、生体組織への光照射中に光ファイバが折れる原因となるガラス傷の発生を防いで生体組織に対する安全性を高めることができる医療用光源装置使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る医療用光源装置使用方法は、医療用光源装置を使用する方法である。その医療用光源装置は、(1) 生体組織に対して熱的または光化学的な作用を及ぼす光を出力する光源部と、(2) 外径200μm以上のガラスファイバと該ガラスファイバを包囲する被覆樹脂とを有し、光源部から出力される光を入射端に入力して導光し、その光を出射端から出力する光ファイバと、(3)光ファイバの出射端側の所定位置を挟む第1位置および第2位置それぞれで光ファイバを保持する保持手段と、光ファイバの上記所定位置に初期傷を与える刃部材と、初期傷が与えられた上記所定位置において光ファイバに屈曲を与える屈曲手段とを含み、上記所定位置において光ファイバを切断する切断器具と、を備える。
【0013】
本発明に係る医療用光源装置使用方法は、(a) 保持手段により光ファイバの第1位置および第2位置それぞれで光ファイバを保持する保持工程と、(b) 保持工程の後に光ファイバの上記所定位置で被覆樹脂の上から刃部材を当ててガラスファイバの側面に初期傷を与える初期傷付与工程と、(c)初期傷付与工程の後に、屈曲手段により上記所定位置において該初期傷を外側にして光ファイバに曲げを与え、光ファイバを上記所定位置において劈開して、光ファイバの出射端面を形成する屈曲工程と、(d)屈曲工程の後に保持手段による光ファイバの保持を解除する解除工程と、(e) 解除工程の後に、光源部から光を出力させ、その光を光ファイバの入射端に入射させて光ファイバにより導光させ、屈曲工程で形成された光ファイバの出射端面から該光を生体組織に向けて放射する放射工程と、を備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る医療用光源装置使用方法は、切断器具において、操作者による1回の指示に応じて、保持工程,初期傷付与工程,屈曲工程および解除工程を順次に連続的に行うことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、初期傷以外の意図しない傷がガラスファイバに生じるのが防止され、光照射中に光ファイバが折れる問題の発生が抑制され、被照射物への安全性が高められる。また、ガラスファイバ径が太いことにより初期傷付与時の光ファイバの逃げが低減され、切断不良が低減される。
【0015】
本発明に係る医療用光源装置使用方法は、光ファイバの出射端側がハンドピースにより固定されており、切断器具においてハンドピースを固定する工程を更に含むのが好ましい。この場合には、初期傷付与工程や屈曲工程の際に、ハンドピースが動いて光ファイバに意図しない傷が生ずるのが防止され、光照射の安全性が高められる。
【0016】
本発明に係る医療用光源装置使用方法では、被覆樹脂がシリコーン樹脂であるのが好ましく、また、この樹脂が単層であるのが好ましい。この場合には、光ファイバの出射端面から光を生体組織に向けて放射する放射工程の際に、光ファイバ端部において被覆樹脂が光および熱によって変性し、さらにそれが被照射対象である生体に接触した場合の、生体への安全性が高められる。また、単層であることにより初期傷付与工程の際に光ファイバの逃げが防止されて切断不良が低減される。
【0017】
本発明に係る医療用光源装置使用方法では、初期傷付与工程においてガラスファイバの側面に与える初期傷の深さがガラスファイバの径の1〜20%の範囲内であるのが好ましい。この場合には、劈開時に意図しない傷が生じるのが防止され、放射工程の際の安全性が高められる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被覆付き光ファイバを容易に切断することが可能で、生体組織への光照射中に光ファイバが折れる原因となるガラス傷の発生を防いで、生体組織に対する安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る医療用光源装置使用方法において用いられる医療用光源装置1の構成を示す図である。この図に示される医療用光源装置1は、光源部10,光ファイバ20,ハンドピース30および切断器具40を備え、生体組織に対して熱的または光化学的な作用を及ぼす光を照射して該生体組織を蒸散・切開するものである。
【0021】
光源部10は、光照射対象である生体組織に対して熱的または光化学的な作用を及ぼす光を出力するものであり、好適にはレーザ光源であり、また、ランプやLEDであってもよい。
【0022】
光ファイバ20は、ガラスファイバと、該ガラスファイバを包囲する被覆樹脂と、を有する。ガラスファイバは、ガラスのコアと、該コアを包囲するガラスのクラッドと、を含む。コアおよびクラッドを構成するガラスは、SiOを主成分とし、屈折率調整のためにGeOやFが適量添加される。このような光ファイバ20は、波長約200〜2000nmにおいて低い損失を有するので種々の光源と共に用いることができ、化学的にも安定であるので溶出物による生体の汚染を防げるので好ましい。
【0023】
光ファイバ20のガラスファイバの外径は200μm以上であるのが好ましく、これにより、切断時に初期傷を付ける際のガラスの逃げを防ぐことができ、切断の不良を低減することができる。また、ガラスファイバの外径は1000μm以下が好ましく、これにより、曲げ誘起応力が小さくなり、意図しないファイバ曲がりによって切断時に端面に圧縮応力が生じてガラスの突起が生じることが抑制され、生体を障害することが回避され得る。
【0024】
光ファイバ20の被覆樹脂は、耐熱性に優れるシリコーン樹脂またはポリイミド樹脂であるのが好ましい。特に先端に被覆樹脂を残したまま光ファイバ20を切断する本実施形態においては、透明または白色のシリコーン樹脂は、光照射時に仮に焼損した場合にも生体に有害な物質の生成が比較的少なく、生体への安全性が高まるので好ましい。また、被覆樹脂は単層とするのが好ましく、それにより、初期傷付与時のガラスファイバの逃げを防ぐことができ、切断の不良を低減することができる。
【0025】
光ファイバ20の一端(入射端)は光源部10と光学的に結合されている。光ファイバ20は、光源部10から出力される光を入射端に入力して導光し、その光を出射端から出力する。
【0026】
ハンドピース30は、光ファイバ20の出射端側に設けられ、ネジやピンチなどの手段で光ファイバ20の出射端を固定するものである。使用者またはロボットは、ハンドピース30を操作することで、光ファイバ20の出射端の位置および方位を調整して、光ファイバ20の出射端から出力される光を所定の位置に導くことができる。
【0027】
切断器具40は、光ファイバ20の出射端側の所定位置において該光ファイバ20を切断するものである。なお、図1で、切断器具40の内部に延びた光ファイバ20'は、光源部10に接続された光ファイバ20のうちハンドピース30を通ってハンドピース30の先端側に突き出された部分である。
【0028】
図2は、医療用光源装置1に含まれる切断器具40の構成を示す図である。切断器具40は、光ファイバ20'の出射端側の所定位置(切断予定箇所CT)を挟む第1位置および第2位置それぞれで光ファイバ20'を保持する保持手段として1対のクランプ41a,41bを備える。切断器具40は、光ファイバ20'の所定位置(切断予定箇所CT)において光ファイバ20'のファイバ軸に対して直交する方向へ移動する円板状の刃部材42を備える。
【0029】
この刃部材42は、ファイバ軸方向に移動自在であるスライダ44に締結部材44aを介して固定されており、外周縁である刃先42aが鋭角な形状を有している。本体部43に対してスライダ44が移動することにより、刃部材42は、所定位置(切断予定箇所CT)において、光ファイバ20'の被覆を切り込み、さらに、光ファイバ20'のガラスファイバに初期傷を付与することができる。
【0030】
切断予定箇所CTを挟んで第1位置および第2位置それぞれに設けられた下クランプ41aの上部にはゴム45aが装着されている。また、切断予定箇所CTを挟んで第1位置および第2位置それぞれに設けられた上クランプ41bの下部にはゴム45bが装着されていて、上クランプ41bは上下方向に移動が自在である。本体部43の上面には溝部43aが設けられていて、この溝部43aにハンドピース30が嵌合して位置固定される。なお、図3に示されるように、ハンドピース30に凹部30bが形成され、本体部43の上面に凸部43bが形成されて、両者が嵌合してハンドピース30が本体部43上に位置固定されるようになっていてもよい。
【0031】
そして、上クランプ41bが上方に待避していて、ハンドピース30が溝部43aに嵌合して位置固定されている状態で、ハンドピース30の先端から突き出された光ファイバ20'は、切断予定箇所CTを挟んで第1位置および第2位置それぞれに設けられた下クランプ41aの上部に装着されたゴム45aの上に置かれる。そして、この光ファイバ20'は、上クランプ41bが下降することで、上クランプ41bの下部に装着されたゴム45bと下クランプ41aの上部に装着されたゴム45aとの間に把持される。上下のゴム45a,45bにより、光ファイバ20'は確実に把持されるとともに、光ファイバ20'の不用意な変形が防止され得る。
【0032】
切断予定箇所CTにおいて光ファイバ20'の上方にガイド部46が設けられている。このガイド部46は光ファイバ20'に対して刃部材42の反対側にあって、ガイド部46の内部に枕47が設けられている。枕47の先端には、ゴムやスポンジ等の軟質部材48が装着されている。また、枕47は、ガイド部46の内部でガイドされつつ駆動部49により上下方向に移動が可能であり、下方に移動したとき光ファイバ20'に対して側圧を与えることができる。すなわち、この枕47は、初期傷が与えられた切断予定箇所CTにおいて光ファイバ20'に屈曲を与える屈曲手段として作用することができる。
【0033】
また、切断器具40には操作部51が設けられている。この操作部41は、医療用光源装置1を操作する操作者による指示を受け付けるものであり、その操作者による指示を受け付けると切断器具40に対して所定の一連の動作を行わせる。この操作部51は、操作レバーを含んでいてもよいし、操作ボタンを含んでいてもよい。
【0034】
次に、本実施形態に係る医療用光源装置1を使用する方法について説明する。図4は、本実施形態に係る医療用光源装置使用方法を説明するフローチャートである。初めにステップS1では、操作者は、ハンドピース30の先端から所定長の光ファイバ20'を突き出させる。このとき、突き出す光ファイバ20'の長さは数〜数十mmであるのが好ましく、このようにすることで操作性が良く、また、人為ミスの発生が抑えられる。
【0035】
続いてステップS2では、操作者は、ハンドピース30を本体部43上に固定する。仮に、固定しない場合は、この後の初期傷付与工程(ステップS5)において、操作者はハンドピース30を把持する必要があり、その際にハンドピース30の把持が不完全となることによって、初期傷付与工程中に光ファイバ20'が動き、切断に必要な初期傷以外の傷を光ファイバ20'に与えてしまうことがある。このような意図しない傷により光ファイバ20の強度が低下し、生体への光照射中に光ファイバ20が折れる確率が高まり、安全性が低下する。本実施形態では、ハンドピース30を本体部43に固定することにより、意図しない傷の発生を防ぎ、光照射中の生体への安全性を高めることができる。
【0036】
更に続くステップS3では、操作者は、ハンドピース30の先端から突き出された光ファイバ20'を下クランプ41a上に置く。そして、操作者は、以降の保持工程(ステップS4),初期傷付与工程(ステップS5),屈曲工程(ステップS6)および解除工程(ステップS7)を切断器具40が順次に連続的に行うよう、操作部51に対して指示を与える。
【0037】
保持工程(ステップS4)では、上クランプ41bが下降して、切断予定箇所CTを挟む第1位置および第2位置それぞれでクランプ41a,41bにより光ファイバ20'が保持される。初期傷付与工程(ステップS5)では、スライダ44が移動して、切断予定箇所CTにおいて、光ファイバ20'の被覆樹脂の上から刃部材42が当てられ、光ファイバ20'のガラスファイバの側面に初期傷が与えられる。
【0038】
屈曲工程(ステップS6)では、枕47が駆動部49により下方に移動されて、この枕47により切断予定箇所CTにおいて初期傷を外側にして光ファイバ20'に曲げが与えられる。これにより、切断予定箇所CTにおいて初期傷が進展して、光ファイバ20'が劈開され、光ファイバ20'の出射端面が形成される。そして、解除工程(ステップS7)では、上クランプ41bが上昇してクランプ41a,41bが解放され、光ファイバ20'の保持が解除される。
【0039】
このように、保持工程(ステップS4),初期傷付与工程(ステップS5),屈曲工程(ステップS6)および解除工程(ステップS7)の一連の動作は、操作者による操作部51に対する1回の指示により実行される。したがって、これらのステップの間に光ファイバ20'やハンドピース30が動いて周囲の物体に接触することが回避され、光ファイバ20'のガラスファイバに初期傷以外の意図しない傷が付くのが防止され得る。
【0040】
その後のステップS8では、ハンドピース30は本体部43から解放される。このとき、ハンドピース30から突き出した光ファイバ20'はハンドピース30内に再び格納されると操作性が高まるので良い。その後、放射工程(ステップS9)では、光源部10から光が出力され、その光が光ファイバ20の入射端に入射されて光ファイバにより導光され、屈曲工程(ステップS6)で形成された光ファイバ20'の出射端面から該光が生体組織に向けて放射される。この生体組織への光照射により治療や診断が行われる。
【0041】
従来技術では、初期傷付与時に光ファイバを刃部材の反対側から圧迫する機構などが必要とされていた。しかし、本実施形態では、そのような機構を不要化することもできる。すなわち、従来技術では、例えば特許文献4の段落[0025]に記載されているように、光ファイバのガラスファイバ径として150μm以下が想定されていたので、ガラスファイバの柔軟性が高く、初期傷付与時のガラスファイバの逃げによって初期傷深さが不足し、切断面の平坦性が悪化するなどの不良が生じることがあり、これを防ぐために上記のような機構が必要であった。光通信に用いられる光ファイバのガラスファイバは典型的には125μmの径を有するので、上記のような従来技術は有効である。一方、本発明者らは、ガラスファイバ径を200μm以上とすることにより、ガラスファイバの逃げを防いで初期傷の深さ不足を防止し、切断の不良を低減できることを見出した。また、医療用光源装置では適度な剛性を有するガラスファイバ径200μm以上の光ファイバが用いられることが多く、かつ、光ファイバ切断の品質が医療の安全性の確保に重要であることから、ガラスファイバ径200μm以上の光ファイバを本実施形態の方法で切断して医療用レーザの照射に用いることが有効であることを見出した。
【0042】
初期傷付与工程(ステップS5)においてガラスファイバの側面に与える初期傷の深さはガラスファイバの径の1〜20%の範囲内であるのが好ましい。初期傷の深さがガラスファイバ径の1%以下であると、屈曲工程(ステップS6)の際の初期傷への応力集中が不十分となって、劈開面以外のガラスに傷が生じることがある。一方、初期傷の深さがガラスファイバ径の20%以上であると、劈開後の端面に大きな初期傷が残留し、それが起点となってガラスファイバが欠けることがある。このことから、ガラスファイバ径に対する初期傷の深さの比が1〜20%であることが、安全性を確保する上で好ましい。
【0043】
操作者による操作部51の操作の回数は計数部52によって計数されるのが好ましい。多数の光ファイバを切断すると、刃部材42の刃先42aが磨耗や欠けを生じて、ガラスファイバに十分な大きさの初期傷を与えることができなくなる。ガラスファイバに十分な大きさの初期傷を与えることができないと、枕47により光ファイバを曲げて劈開する際に、初期傷への応力集中が不十分となり、劈開面以外のガラスファイバに意図しない傷を生じさせることがあり、生体への光照射中の安全性を低下させる。そこで、本実施形態では、操作部51への1回の操作により一連の切断動作を行わせるとともに、その操作回数(すなわち、刃部材42による初期傷付与の回数)を計数部52により計数して、刃部際42の使用回数を操作者が容易に把握できるようにすることで、耐用回数を超えた刃部材42が使われて生体への安全性が損なわれるのを防ぐことができる。
【0044】
初期傷付与工程(ステップS5)および屈曲工程(ステップS6)の際に光ファイバ20'に張力を与えるのが好ましい。光ファイバ20'に張力を与えるには、切断予定箇所CTを挟む第1位置および第2位置それぞれに設けられるクランプ41a,41bを互いに離間させる方向に何れか一方のクランプに対してバネ等により弾性力を作用させればよい。特許文献4の段落[0025]に記載されているように、ガラスファイバ径150μm以上の光ファイバでは初期傷深さが不足すると鏡面状の切断面が形成できなくなることがある。ガラスファイバ径を大きくすると曲げ誘起応力が増大するので、意図的あるいは意図しない光ファイバの曲がりによって内周側に圧縮応力が生じて鏡面状の切断面の形成を妨げることがある。しかし、光ファイバ20'に張力を与えることによって、鏡面状の切断面を形成することができる。
【0045】
初期傷を付ける位置は光ファイバ20'の先端から3mm以上であるのが好ましい。これが3mm以下である場合、クランプによる先端側の把持が不十分となり、屈曲時に把持が外れて初期傷への応力集中が不十分となって、意図しないガラス傷が生じることがある。初期傷を付ける位置が光ファイバ20'の先端から3mm以上であれば、クランプによる先端側の把持が十分となり、意図しないガラス傷の発生が抑制される。
【0046】
また、劈開面よりも遠端側の光ファイバは光ファイバ屑となるが、クランプ41a,41bを解放した際に光ファイバ屑が転がり落ちて容器53に収納されるように該容器53を備えるのが好ましい。このような容器53を備えることにより、光ファイバ屑を指や被照射物に突き刺すなどの問題が生じるのが防止され、安全性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態に係る医療用光源装置使用方法において用いられる医療用光源装置1の構成を示す図である。
【図2】医療用光源装置1に含まれる切断器具40の構成を示す図である。
【図3】医療用光源装置1に含まれる切断器具40に対するハンドピース30の固定方法を説明する図である。
【図4】本実施形態に係る医療用光源装置使用方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1…医療用光源装置、10…光源部、20…光ファイバ、30…ハンドピース、40…切断器具、41a,41b…クランプ、42…刃部材、43…本体部、44…スライダ、45a,45b…ゴム、46…ガイド部、47…枕、48…軟質部材、49…駆動部、51…操作部、52…計数部、53…容器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に対して熱的または光化学的な作用を及ぼす光を出力する光源部と、
外径200μm以上のガラスファイバと該ガラスファイバを包囲する被覆樹脂とを有し、前記光源部から出力される光を入射端に入力して導光し、その光を出射端から出力する光ファイバと、
前記光ファイバの前記出射端側の所定位置を挟む第1位置および第2位置それぞれで前記光ファイバを保持する保持手段と、前記光ファイバの前記所定位置に初期傷を与える刃部材と、初期傷が与えられた前記所定位置において前記光ファイバに屈曲を与える屈曲手段とを含み、前記所定位置において前記光ファイバを切断する切断器具と、
を備える医療用光源装置を使用する方法であって、
前記保持手段により前記光ファイバの第1位置および第2位置それぞれで前記光ファイバを保持する保持工程と、
前記保持工程の後に前記光ファイバの前記所定位置で前記被覆樹脂の上から前記刃部材を当てて前記ガラスファイバの側面に初期傷を与える初期傷付与工程と、
前記初期傷付与工程の後に、前記屈曲手段により前記所定位置において該初期傷を外側にして前記光ファイバに曲げを与え、前記光ファイバを前記所定位置において劈開して、前記光ファイバの出射端面を形成する屈曲工程と、
前記屈曲工程の後に前記保持手段による前記光ファイバの保持を解除する解除工程と、
前記解除工程の後に、前記光源部から光を出力させ、その光を前記光ファイバの前記入射端に入射させて前記光ファイバにより導光させ、前記屈曲工程で形成された前記光ファイバの前記出射端面から該光を生体組織に向けて放射する放射工程と、
を備え、
前記切断器具において、操作者による1回の指示に応じて、前記保持工程,前記初期傷付与工程,前記屈曲工程および前記解除工程を順次に連続的に行う、
ことを特徴とする医療用光源装置使用方法。
【請求項2】
前記光ファイバの前記出射端側がハンドピースにより固定されており、
前記切断器具において前記ハンドピースを固定する工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項1記載の医療用光源装置使用方法。
【請求項3】
前記被覆樹脂がシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の医療用光源装置使用方法。
【請求項4】
前記初期傷付与工程において前記ガラスファイバの側面に与える初期傷の深さが前記ガラスファイバの径の1〜20%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の医療用光源装置使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−119117(P2009−119117A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298051(P2007−298051)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】