説明

医療用材料、医療用器具及びその製造方法

【課題】基材の表面にコーティングされたDLC膜を生体適合性材料をはじめとする機能性の成分により長期にわたり安定に修飾し、修飾されたDLC膜がコーティングされた基材及び優れた生体適合性を持続する医療用材料を実現できるようにする。
【解決手段】セラミックス等の無機材料又は樹脂等の有機材料からなる基材の表面にダイヤモンド様薄膜(DLC膜)を形成し、形成されたDLC膜の表面をプラズマ等を用いて処理することにより活性化し、活性化されたDLC膜の表面に生体適合性等を有する種々のモノマーをグラフト重合することによDLC膜の表面にモノマーの重合体をグラフトする。これにより、容易に脱離することがない重合体により修飾されたDLC膜によりコーティングされた基材を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料、医療用器具及びその製造方法に関し、特に生体適合性材料が固定されたダイヤモンド様薄膜を有する医療用材料、医療用器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド様薄膜(DLC膜)は、硬く緻密で且つ不活性な表面を有しているため、金属やセラミックス等の無機系材料及び樹脂等の有機系材料等からなる基材の表面に形成することにより基材の表面に耐摩耗性、耐蝕性及び表面平滑性等の性質を付与することができる。
【0003】
例えば、金型や治工具の表面をDLC膜によりコーティングすることにより、耐久性を向上させたり、離型性を向上させたりすることが知られている。また、非常に平滑で不活性な表面であるため、生体物質との相互作用を嫌う医療用器具の基材を表面処理する方法としても期待されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【0004】
一方、材料表面を様々な物質により修飾することにより、材料表面に高度な機能性を付与することが研究されている。これにより、例えば、機能性の成分により修飾された半導体表面において分子認識を行うナノデバイスの開発や、基材の表面が抗血栓性材料により修飾された抗血栓性の医療用材料の開発等が期待されている。
【0005】
特に、医療用材料の表面に抗血栓性等の生体適合性を付与する方法については、様々な研究がなされており、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)又はo-メタクリロイル-L-セリン(SerMA)等の生体膜の構成成分に類似した化学構造を持つ人工材料を一成分とする重合体を医療用材料の表面に修飾することにより、医療用材料の表面に生体膜の表面と同様なヒドロゲル層を生成することができ、医療用材料の表面に優れた生体適合性を付与できることが知られている。
【0006】
このような機能性の成分により修飾する基材の表面は、反応性がなく不活性な方が好ましい。基材表面の反応性が高い場合には、基材表面と修飾した機能性分子との相互作用により、修飾した機能性の成分が変性して失活してしまう恐れがある。また、使用環境によっては、基材自体の劣化が生じてしまう。従って、非常に平滑で不活性なDLC膜によりコーティングされた材料は、機能性の成分等により修飾する基材として優れた性能を発揮することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−248923号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】伊藤晴夫ら、「生体材料」、1985年、第3巻、p.45−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、DLC膜は平滑で不活性であるため、生体適合性材料等の機能性の成分により修飾することが非常に困難であるという問題がある。非常に不活性な表面であるため機能性の成分と化学反応させて共有結合させることは、ほとんど不可能である。また、非常に平滑な表面であり、物理的な吸着をさせることもほとんど不可能である。また、機能性の成分を一時的に吸着させたとしても、すぐに脱離してしまう。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、基材の表面にコーティングされたDLC膜を生体適合性材料をはじめとする機能性の成分により長期にわたり安定に修飾し、修飾されたDLC膜がコーティングされた基材及び優れた生体適合性を持続する医療用材料を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明は基材を、生体適合性材料をはじめとする機能性の成分が表面にグラフトされたダイヤモンド様薄膜(DLC膜)によりコーティングされた構成とする。
【0012】
具体的に、本発明に係る基材は、表面に形成されたダイヤモンド様薄膜と、ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフトされた重合体とを備えていることを特徴とする。本発明の基材によれば、DLC膜の表面にグラフトされた重合体を備えているため、重合体がDLC膜から脱離しないので、基材の表面を重合体により長期にわたり安定的に修飾することが可能となる。
【0013】
本発明に係る第1の医療用材料は、基材の表面に形成されたダイヤモンド様薄膜の表面に生体適合性を有する成分が化学的に結合されていることを特徴とする。
【0014】
第1の医療用材料によれば、基材の表面に形成されたDLC膜の表面に生体適合性を有する成分が結合されているため、DLC膜の表面に優れた生体適合性を付与することができる。また、生体適合性を有する成分はDLC膜の表面に化学的に結合されているため、DLC膜の表面から容易に脱離することはない。さらに、DLC膜は、種々の基材の表面に強固で緻密なコーティングを行うことができることから、DLC膜自体の脱離は生じず、基材自体の劣化を抑えることが可能となる。その結果、生体適合性を有する成分の脱離が生じない、長期にわたり安定な生体適合性を示す医療用材料が実現できる。
【0015】
第1の医療用材料において、生体適合性を有する成分は、ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフト重合により導入された重合体であることが好ましい。
【0016】
このような構成であれば、様々な分子を自由に設計してDLC膜の表面に導入することが可能となる。
【0017】
さらに、第1の医療用材料において、生体適合性を有する成分は、ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフトされたフッ素を含有するビニルモノマーの重合体であっても、シリコンを含有する分子であってもよい。また、ダイヤモンド様薄膜の表面に共有結合により結合されていてもよく、イオン結合により結合されていてもよい。このような構成とすることにより、DLC膜からの生体適合性を有する成分の脱離が生じない医療用材料を確実に得ることができる。
【0018】
第1の医療用材料において、生体適合性を有する成分は、エチレンオキシド基、水酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、ホスホリルコリン基、スルホン基又はカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1つの官能基を有していることが好ましい。このような官能基を有していることにより、医療用材料表面に生体適合性を確実に付与できる。
【0019】
第1の医療用材料において基材とダイヤモンド様薄膜との間には、基材とダイヤモンド様薄膜との密着性を向上させる中間層が設けられていてもよい。このような構成とすることにより、基材の表面により強固にDLC膜をコーティングすることができる。また、間層は、珪素及び炭素を主成分とするアモルファス膜であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る第2の医療用材料は、基材の表面に形成されたダイヤモンド様薄膜の表面に親水性の官能基が導入されていることを特徴とする。第2の医療用材料によれば、DLC膜の表面に親水性の官能基が導入されているため、DLC膜自体が親水性を示すので、長期にわたり安定な生体適合性を示す医療用材料が得られる。
【0021】
本発明の医療用材料において基材は、金属材料、セラミックス材料若しくは高分子材料又はこれらの複合体であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る医療用器具は、本発明の医療用材料を用いる。このような構成とすることにより、優れた生体適合性を有する医療用器具を得ることができる。
【0023】
本発明の医療用器具は、生体埋め込み用の医療用器具であることが好ましく、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、人工心臓弁膜又は人工関節であってもよい。
【0024】
本発明に係る第1の基材の表面処理方法は、基材の表面にダイヤモンド様薄膜を形成するダイヤモンド様薄膜形成工程と、ダイヤモンド様薄膜の表面に重合開始点となる反応性の部位を生起させる活性化工程と、重合開始点を用いてモノマーを重合させることにより、ダイヤモンド様薄膜の表面にモノマーの重合体をグラフトする重合工程とを備えていることを特徴とする。
【0025】
第1の基材の表面処理方法によれば、ダイヤモンド様薄膜の表面に重合開始点となる反応性の部位を生起させる活性化工程と、重合開始点を用いてモノマーを重合させる工程を備えているため、不活性なDLC膜の表面に重合体をグラフトすることが可能であり、DLC膜の表面を重合体により長期にわたり安定して修飾することが可能となり、耐久性等のDLC膜が持つ特性と重合体が持つ特性との両方を付与することが可能となる。
【0026】
第1の基材の表面処理方法は、ダイヤモンド様薄膜形成工程よりも前に、基材とダイヤモンド様薄膜との密着性を向上させる中間層を基材の表面に形成する中間層形成工程をさらに備えていることが好ましい。これにより、DLC膜を基材の表面に確実にコーティングすることができる。また、中間層形成工程において、中間層を珪素及び炭素を主成分とするアモルファス膜により形成することが好ましい。
【0027】
第1の基材の表面処理方法において、活性化工程は重合開始点としてフリーラジカルを生起させる工程であることが好ましく、活性化工程は、ダイヤモンド様薄膜の表面にプラズマを照射するプラズマ照射工程であることが好ましい。これにより、DLC膜の表面に重合開始点を確実に生起させることができる。また、プラズマ照射工程は、プラズマにアルゴン、キセノン、ネオン、ヘリウム、クリプトン、窒素、酸素、アンモニア、水素又は水蒸気を用いることが好ましい。
【0028】
第1の基材の表面処理方法において、基材は医療用材料の基材であり、重合体は生体適合性を有する成分であることが好ましい。このような構成とすることにより、長期にわたり安定な生体適合性を示す基材が得られ、生体適合性に優れた医療用材料を実現できる。
【0029】
本発明に係る第2の基材の表面処理方法は、基材の表面にダイヤモンド様薄膜を形成するダイヤモンド様薄膜形成工程と、ダイヤモンド様薄膜の表面にプラズマを照射することにより反応性の部位をダイヤモンド様薄膜の表面に生起させるプラズマ照射工程と、反応性の部位と酸素を含む分子とを反応させることにより、ダイヤモンド様薄膜の表面に水酸基を導入する表面修飾工程とを備えていることを特徴とする。
【0030】
第2の基材の表面処理方法によれば、ダイヤモンド様薄膜の表面にプラズマを照射することにより反応性の部位をダイヤモンド様薄膜の表面に生起させるプラズマ照射工程と、反応性の部位と酸素を含む分子とを反応させることにより、ダイヤモンド様薄膜の表面に水酸基を導入する表面修飾工程とを備えているため、DLC膜の表面を親水化することが可能であり、生体適合性に優れた基材を実現することができる。また、水酸基をさらに置換することが可能となるため、DLC膜の表面に自由に官能基を導入し、種々の化合物により修飾することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、基材の表面にコーティングされたDLC膜を生体適合性材料をはじめとする機能性の成分により長期にわたり安定に修飾し、修飾されたDLC膜がコーティングされた基材及び優れた生体適合性を持続する医療用材料、医療用器具を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る医療用材料の製造方法に用いるイオン化蒸着装置の模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例に係る医療用材料の製造方法に用いるプラズマ照射装置の模式図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明の一実施例に係る医療用材料の製造方法により製造した、アルミニウムを基材としたDLC膜の表面をXPSにより測定した結果を示し、(a)はHMPAグラフト前の測定結果であり、(b)はHMPAグラフト後の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本願発明者らは、本来反応性がない不活性なDLC膜にプラズマ等を照射することによりDLC膜を活性化することができ、DLC膜の表面にモノマーをグラフト重合によりグラフトしたり、種々の官能基を導入したりすることが可能であることを見出した。
【0034】
これにより、例えば金属、セラミックス、樹脂又はゴム等からなる基材の表面にDLC膜を形成し、形成したDLC膜の表面を活性化した後、種々の機能性の成分をグラフト重合又は共有結合若しくはイオン結合等の手法によりDLC膜の表面に化学的に結合させることにより、基材の表面を保護すると共に、種々の特性を基材に長期にわたり安定に付与することが可能となる。
【0035】
さらに、DLC膜の表面に化学的に結合させる成分を生体適合性を有する成分とすることにより、生体適合性を有する成分の基材表面からの脱離及び基材の劣化が生じない、長期にわたり優れた生体適合性を示す医療用材料が実現できることを見出し、本発明を完成した。以下に本発明の構成について説明する。
【0036】
本発明に用いられる基材とは、金属材料、シリコン等の半導体材料、セラミックス材料、ゴム若しくは樹脂等の高分子材料又はこれらの複合体等であり、種々の加工を受けて医療用途、半導体用途又はその他の用途に用いられるものである。例えば、医療用途においては、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、人工心臓弁膜又は人工関節等に代表される生体若しくは生体成分と接触する医療用器具を形成する医療用材料の母材となる。医療用材料とは、医療用器具に用いるワイヤ、チューブ及び平板等の素材並びにこれらの素材を医療用器具の形状に形成したもの及び形成途中のものである。また、半導体用途においては、半導体素子の材料となる半導体基板等があげられる。
【0037】
基材の材質としては特に限定されるものではないが例えば、鉄、ニッケル、クロム、銅、チタン、白金、タングステン又はタンタル等の金属を用いることができる。また、これらの合金である、SUS316L等のステンレス鋼、Ti−Ni合金若しくはCu−Al−Mn合金等の形状記憶合金、Cu−Zn合金、Ni−Al合金、チタン合金、タンタル合金、プラチナ合金又はタングステン合金等の合金を用いることもできる。
【0038】
また、シリコン又はガリウム系の半導体材料、アルミニウム、シリコン若しくはジルコン等の酸化物、窒化物若しくは炭化物等のセラミックス又はアパタイト若しくは生体ガラス等の生体活性を有するセラミックスでもよい。さらに、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、高密度ポリエチレン若しくはポリアセタール等の高分子樹脂又はポリジメチルシロキサン等のシリコンポリマー若しくはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー等であってもよい。
【0039】
本発明において基材の表面に形成するDLC膜は、ダイヤモンドに類似したカーボン(他の成分が不純物として微量含まれていてもよい)からなる薄膜であり、本来非常に平滑で不活性な膜である。しかし、DLC膜の表面にプラズマ等を照射して、表面のダイヤモンド(炭素−炭素)結合の一部を開裂させることによりフリーラジカル又はイオン種を生起させることができるため、DLC膜の表面に機能性の成分をグラフト重合によりグラフトしたり、活性化後に各種物質との反応させることにより種々の官能基を導入したりすることが可能となる。
【0040】
また、基材の表面にはミクロスケール又はナノスケールの凹凸が存在しているが、DLC膜を表面に形成することによりこれらを平滑化することができる。これにより、基材の表面に均一にプラズマを照射することが可能となり、基材の表面において均一なグラフト重合を行うことができる。さらに、DLC膜は非常に緻密で且つ強固な膜であるため、外部の成分がDLC膜を浸透し、基材を劣化させること防止できる。従って、耐酸性や耐アルカリ性が要求されるような環境において用いる製品や、生体内で用いる製品の基材に用いることが可能である。
【0041】
本発明においてDLC膜は、スパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)、プラズマCVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法等の公知の方法により基材の表面に形成することができる。また、その厚さは特に限定されるものではないが、0.01〜3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.02〜1μmの範囲である。
【0042】
また、DLC膜は基材の表面に直接形成することができるが、基材とDLC膜とをより強固に密着させるために、基材とDLC膜との間に中間層を設けてもよい。中間層の材質としては、基材の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。その厚みは特に限定されるものではないが、0.005〜0.3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1μmの範囲である。
【0043】
中間層は、公知の方法を用いて形成することができ、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いればよい。
【0044】
本発明において、DLC膜にプラズマ又は光等のエネルギー照射を行うことによってDLC膜の表面を活性化し、DLC膜の表面に重合開始点となるラジカル、イオン等を生成させることができる。プラズマ照射を行う場合には、例えばアルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)、クリプトン(Cr)、キセノン(Xe)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)、アンモニアガス(NH4)、水素ガス(H2)若しくは水蒸気(H2O)等のDLC膜の表面に存在する炭素−炭素結合を切断して重合開始点を生起させることが可能なガス又はこれらの混合ガス等をプラズマガス種として用いることができる。また、紫外光又は紫外オゾン照射等によってもDLC膜の表面を活性化できる。
【0045】
活性化したDLC膜の表面には、重合開始点であるラジカル等が存在している。従って、種々のラジカル重合が可能なモノマーを活性化したDLC膜の表面にグラフト重合させることにより種々の有機成分をグラフトすることが可能である。例えば、[化1]に示すような一般式を持つビニルモノマー、[化2]に示すような一般式を持つビニリデンモノマー、[化3]に示すような一般式を持つビニレンモノマー又は[化4]に示すような一般式を持つ環状ビニレンモノマー等の付加重合が可能なモノマーをDLC膜の表面に生起させた重合開始点からグラフト重合させることができる。
【0046】
また、DLC膜表面のエネルギー照射を受けた部分にのみ重合開始点を発生させることができるため、適当なマスクを用いることにより基材表面の所望の位置にのみ重合体をグラフト重合により導入することが可能となる。さらに、基材の表面における重合体の密度を自由に調整することも可能である。例えば、抗血栓性を基材に付与する際には、DLC膜の表面にグラフトする抗血栓性の高分子材料の表面密度を調整することが重要となるが、本発明においては容易に表面密度を調整することができる。
【0047】
【化1】

【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
[化1]から[化3]に示すモノマー構造中の置換基X及びYは、エステル又はアミドであり、−COOR1又は−CONR2等に代表される構造であり、同一分子中のX及びYは同一であっても異なっていてもよい。[化4]に示すモノマー構造中の置換基Zは、環状構造を形成するエステル又はアミドであり、−CO−O−CO−又は−CO−NR3−CO−等に代表される構造である。
【0052】
特に、基材を医療用途に用いる場合には、R1からR3が高い生体適合性を示すエチレンオキシド基、水酸基、アミノ基、ホスホリルコリン基、リン酸基、スルホン酸基若しくは核酸塩基等の官能基又は単糖若しくは多糖を含む構造であって、グラフト重合させた場合に水との界面にハイドロゲル層を形成する分子であることが好ましい。
【0053】
また、親水性のモノマー以外に、グラフト重合させた場合にタンパク質を吸着しにくく、高い疎水性及び生体適合性を示すジメチルシロキサン又はフッ素等を含有するモノマーであってもよい。
【0054】
具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-メチル-2-メタクリロイルアミドエチルホスホリルコリン、メタクリル酸2-グルコキシルオキシエチル、硫酸化メタクリル酸2-グルコシルオキシエチル、p-N-ビニルベンジル-D-ラクトトンアミド、p-N-ビニルベンジル-D-プロピオンアミド、p-N-ビニルベンジル-D-マルトトリオンアミド、o-メタクリロイル-L-セリン、o-メタクリロイル-L-トレオニン、o-メタクリロイル-L-チロシン、o-メタクリロイル-L-ヒドロキシプロリン、2-メトキシエチルメタクリルアミド、2-メトキシエチルアクリルアミド、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、N-2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、ビニルフェノール、N-2-ヒドロキシアクリルアミド、アクリルアミド誘導体モノマー、メタクリルアミド誘導体モノマー、リン脂質類似ビニルモノマー又はポリエチレンオキシドのマクロモノマー等のグラフト重合をさせた場合に生体適合性を有する重合体が得られる既知の重合可能なモノマーを用いることができる。
【0055】
例えば、MPCをDLC膜の表面にグラフト重合により導入することにより、DLC膜の表面に生体膜の表面と同様な生体からの異物認識を阻害するハイドロゲル層を形成することができる。また、血液中に存在するリン脂質がDLC膜の表面にグラフトされたMPCを核として配向・配列するため、DLC膜の表面に生体膜と類似した機能を付与することができる。
【0056】
これらのモノマーは、単独でグラフト重合させても、多元の共重合体としてグラフト重合させてもよい。また、1段階のグラフト重合を行っても、多段階に繰り返してグラフト重合を行ってもよい。
【0057】
グラフト重合により得られる重合体の最適な分子量は基材の用途及びグラフトするモノマー等によって異なるが、高分子だけでなく重合体の分子量が1000以下のオリゴマーであってもよく、特に基材を医療用途に用いる場合には、基材の表面ぬれ性等の性状が変化するものであればよい。
【0058】
なお、以上においてはラジカル重合を用いる例を示したが、DLC膜の表面に、重合開始点としてカチオン種又はアニオン種を発生させれば、ラジカル重合に代えてアニオン重合又はカチオン重合によってグラフトすることもできる。これらの重合開始点も、低温プラズマ照射、紫外線照射又は紫外オゾン照射、γ線等によって生起させることができる。
【0059】
基材の表面にコーティングされたDLC膜の表面を機能性の成分により修飾する方法として、モノマーをグラフト重合させる手法以外に、例えばアミノ基又はカルボキシル基等の官能基をDLC膜の表面に導入し、DLC膜の表面に導入した官能基と分子鎖が有する官能基とを反応させることにより分子鎖をグラフトする手法を用いることもできる。
【0060】
DLC膜の表面を例えばプラズマ処理により活性化し、ラジカル等の活性点を生起させた後、活性点を水や酸素と反応させることにより、DLC膜の表面に水酸基を導入することが容易にできる。
【0061】
DLC膜の表面に導入された水酸基は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等の官能性アルコキシシラン誘導体、2-メルカプト酢酸等の官能性カルボン酸誘導体、ジイソシアネート誘導体、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、N-メタクリロイルスクシンイミド、又はN-アクリロイルスクシンイミド等と反応させることにより、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基又はビニル基に容易に変換することができる。このDLC膜の表面に導入された官能基と反応する、例えばアミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基又はトリメトキシシラン若しくはトリエトキシシラン等のトリアルキルオキシシラン基等の官能基を分子中に含む機能性の成分は、DLC膜の表面に共有結合させることが容易である。また、2官能性試薬を用いることにより、機能性の成分がDLC膜の表面の官能基と直接反応する官能基を有していない場合にもDLC膜の表面に共有結合させることが可能である。
【0062】
特に、基材を医療用途に用いる場合には、ペプチド、タンパク質、核酸塩基、糖鎖、キチン若しくはキトサン等の官能基を有する生体由来の成分又は高分子鎖の末端に水酸基、カルボキシル基若しくはアミノ基等を連鎖移動反応によって導入した生体適合性を有する高分子鎖を、DLC膜の表面に予め導入しておいた官能基とカップリング反応させて共有結合により固定化すればよい。また、高分子鎖だけでなくアミノ酸若しくは単糖又はこれらのオリゴマー等の低分子の成分であってもよい。さらに、官能基を変換する反応は1段階に限定するものではなく、多段階に反応するものでもよく、水酸基からアミノ基を経てビニル基を得るような多段階に官能基を変換するものであってもよい。
【0063】
さらに、DLC膜の表面及び生体適合性の成分に存在するカルボキシル基、アミノ基又はリン酸基等のイオン性の官能基を用いてDLC膜の表面と生体適合性の成分との間にイオン結合を形成させて生体適合性を有する成分をDLC膜の表面に導入してもよい。この場合生体適合性を有する成分がヒドロキシアパタイト等の無機物であっても容易にDLC膜の表面に導入できる。
【0064】
また、DLC膜の表面に別の生体適合性を有する成分を導入する代わりに、DLC膜の表面に官能基を導入することによりDLC膜の表面自体を親水性に変え、DLC膜自体に生体適合性を付与してもよい。
【0065】
(一実施例)
以下に、一実施例に沿って本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら制約されるものではない。
【0066】
−DLC膜のコーティング−
まず、基材へのDLC膜のコーティングについて説明する。本実施例において基材には、長さ50mm、幅5mm、厚さ55μmのアルミニウム合金(JIS−8021材合金相当)及びポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
【0067】
図1は、本実施例において用いたイオン化蒸着装置を模式的に示したものであり、真空チャンバーの内部に設けられた直流アーク放電プラズマ発生器2に、炭素源であるベンゼン(C66)ガスを導入することにより発生させたプラズマを、負電圧にバイアスしたコーティング対象である基板1に衝突させることにより基板1の上に固体化し成膜する、通常のイオン化蒸着装置である。
【0068】
基材を図1に示すイオン化蒸着装置のチャンバー内にセットし、チャンバーにアルゴンガス(Ar)を圧力が10-3〜10-5Torrとなるように導入した後、放電を行うことによりArイオン発生させ、発生したArイオンを基材の表面に衝突させるボンバードクリーニングを約30分間行う。
【0069】
続いて、チャンバーにテトラメチルシラン(Si(CH34)を導入し、珪素(Si)及び炭素(C)を主成分とするアモルファス状で膜厚が0.02μm〜0.05μmの中間層を形成する。
【0070】
中間層を形成した後、C66ガスをチャンバーに導入し、ガス圧を10-3Torrとする。C66を30ml/minの速度で連続的に導入しながら放電を行うことによりC66をイオン化し、イオン化蒸着を約10分間行い、厚さ0.1μmのDLC膜を基材の表面に形成する。
【0071】
DLC膜を形成する際の基板電圧は1.5kV、基板電流は50mA、フィラメント電圧は14V、フィラメント電流は30A、アノード電圧は50V、アノード電流は0.6A、リフレクタ電圧は50V、リフレクタ電流は6mAとした。また、基板の温度は約160℃であった。
【0072】
なお、中間層は基材とDLC膜との密着性を向上させるために設けており、基材とDLC膜との十分な密着性を確保できる場合には省略してもよい。
【0073】
また、本実施例においては炭素源としてC66の単独ガスを用いたが、C66とCF4等のフロンガスとの混合ガスを用いて、フッ素を含むDLC膜を基材表面に形成してもよい。
【0074】
−DLC膜の活性化−
基材の表面に形成したDLC膜にプラズマを照射することによりその表面を活性化した後、機能性の成分をDLC膜の表面にグラフトする。図2には、本実施例において使用したプラズマ照射装置を模式的に示している。
【0075】
図2に示すように、プラズマ照射装置は、真空ポンプ22が接続されガス置換が可能なセパラブルフラスコからなるチャンバー21の底面及び胴部に電極23及び24を設け、その電極にマッチングネットワーク25を通して高周波電源26から高周波を印加することによりチャンバー21の内部にプラズマを発生させる一般的なプラズマ照射装置である。
【0076】
まず、DLC膜を形成した基材11をプラズマ照射装置のチャンバー21の内部にセットし、Arガスを流してチャンバー21の内圧を1.3Paとする。続いて、高周波電源26(日本電子製、JRF−300型;周波数13.56MHz)を用いて20Wの高周波を電極23及び24に印加して、チャンバー21の内部にプラズマを発生させる。DLC膜を形成した基材11にプラズマを約2分間照射することによりDLC膜の表面にラジカルを発生させる。
【0077】
−DLC膜へのグラフト−
本実施例においては、活性化したDLC膜に、親水性の2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)をグラフトする例について説明する。
【0078】
プラズマを照射した後、基材を空気中に約1分間暴露し、続いてHPMAのエタノール溶液(濃度=0.17g/ml)10mlと共にガラス製重合管に入れる。液体窒素中による凍結−脱気−窒素置換を数回繰り返し行うことにより重合管内の溶存酸素を除去し、その後、減圧下において重合管を密封し80℃にて24時間重合を行い、DLC膜の表面にHPMAをグラフト重合させてHPMAの重合体をグラフトする。
【0079】
次に、重合後の基材を多量のエタノール中に浸漬し、さらに多量のリン酸緩衝液(pH=7.4)により洗浄した後、凍結乾燥を行ってHPMAの重合体がグラフトされたグラフト基材を得る。なお、プラズマを照射した後の基材は、必ずしも空気中に暴露する必要はない。
【0080】
得られたグラフト基材は、X線光電子分光法(XPS)を用いてその表面に存在する元素の組成を測定することによりHPMAの導入を確認した。XPS測定には、パーキンエルマー社製XPS/ESCA装置Model5600CiMCを用い、X線源には、monochromatized Alkα(1486.5eV)を出力100w(14kV、7mA)で用いた。また、測定の際には中和電子銃としてニュートラライザーを使用し、測定深度は4nmである。
【0081】
図3は、アルミニウムを基材としたDLC膜の表面に存在する元素の分布をXPSにより測定した結果であって、図3(a)はHPMAの重合体をグラフトする前の基材の表面を測定した結果を示し、図3(b)はHPMAの重合体をグラフトした後の測定結果を示している。
【0082】
図3(b)に示すように、HPMAの重合体をグラフトした後のDLC膜の表面には、グラフト前(図3(a))には認められなかった窒素(N)の1sピークが認められる。また、ピーク面積から求めた炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)の構成比率は、グラフト前にはC:85.1%、O:13.93%、N:0.89%であったが、グラフト後にはC:67.14%、O:22.22%、N:10.63%となり、Cに対しN及びOが大きく増加した。これはDLC膜の表面にHPMAの重合体がグラフトされたことによりDLC膜の表面にアミド基が導入されたことを示している。
【0083】
また、PETを基材としたDLC膜の表面にHPMAの重合体をグラフトした場合にも同様の測定を行ったが、アルミニウムを基材とした場合と同様に、HPMAの重合体グラフト後にはグラフト前には認められなかった窒素の1sピークが認められ、HPMAの重合体が導入されていることが確認された。
【0084】
次に、得られたグラフト基材の表面のぬれ性を接触角測定機を用いて測定した。接触角の測定には、Erma社製ゴニオメーター式接触角測定機G−I型を用い、医療用材料の表面上に15μlの水滴を置き、50秒後に左の接触角、70秒後に右の接触角を測定した。なお、測定値は10点の平均値である。
【0085】
アルミニウムを基材としたDLC膜の表面にHPMAの重合体をグラフトした場合には、HPMAの重合体をグラフトする前に67.8±3.5°であった接触角が、51.8±3.0°にまで低下した。これはDLC膜の表面にHPMAの重合体がグラフトされたことにより表面が親水化され、グラフト基材の生体適合性が向上したことを示している。
【0086】
また、PETを基材とした場合には、HPMAの重合体をグラフトする前に80.2±2.2°であった接触角が、52.1±2.5°にまで低下し、アルミニウムを基材とした場合と同様に表面が親水化されている。
【0087】
以上説明したように、医療用材料に形成されたDLC膜の表面にHPMAの重合体をグラフトすることにより、DLC膜の表面が親水化され、DLC膜の表面に生体による異物認識を阻害するハイドロゲル層が形成されるため、医療用材料の生体適合性が向上する。また、HPMAの重合体はDLC膜の表面にグラフト重合により導入されており、容易に脱離しないため、長期にわたり安定な生体適合性を維持できる。
【0088】
さらに、本実施例の手法を用いることによりDLC膜の表面に親水性の水酸基を導入することができる。DLC膜を本実施例の手法に従いプラズマ処理し、さらに2分間空気中で暴露処理を行った後、XPS測定及び接触角の測定を行った。XPS測定において、287eV付近に未処理のDLC膜の表面には認められないC1sのC−O結合に基づくピークが認められ、水酸基が導入されていることが確認された。また、プラズマ処理前に79.2±3.0°であった接触角が69.8±3.2°に低下し、DLC膜の表面のぬれ性が増した。これは、DLC膜をプラズマ処理した後、空気中に暴露することによって、DLC膜の表面に生起されたラジカルが空気中の酸素と反応し、DLC膜の表面に水酸基が導入されたことを示している。
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、基材の表面を平滑で不活性なDLC膜で覆い、さらにDLC膜の表面を様々な分子により自由に修飾することが可能となる。これにより、基材に耐久性を与えるばかりでなく、DLC膜の表面を修飾する分子の持つ機能性を付与することも可能となる。例えば、生体適合性の機能を有する分子によりDLC膜を修飾すれば、耐久性が高くさらに長期にわたり安定な生体適合性を示す医療用材料が得られる。また、DLC膜の表面に刺激応答性の生体適合性ゲルをグラフトすることにより、剥離の際のダメージが小さい細胞培養用基材としたり、活性の高いバイオリアクター用の基材としたりすることが可能となる。
【0090】
さらに、例えば、シリコン等の半導体基板の表面をDLC膜によりコーティングした後、重合体をグラフト重合することにより、半導体基板の表面に重合体を安定的に導入することができ、基板の表面において分子認識を行うような有機半導体デバイスの基材等として用いることもできる。また、DLC膜の表面全体にグラフトを行うことが可能なだけでなく、任意のパターンにグラフトすることが可能であるため、微量物質等の測定に用いるマイクロセンサーの基材等としても応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る基材の表面処理方法及び表面処理された基材、医療用材料用、医療用器具は、基材の表面にコーティングされたダイヤモンド様薄膜を生体適合性材料をはじめとする機能性の成分により長期にわたり安定に修飾し、修飾されたダイヤモンド様薄膜がコーティングされた基材を実現でき、これにより生体内において優れた生体適合性を持続する医療用材料及び医療用器具を実現できる。従って、ダイヤモンド様薄膜が形成された基材を表面処理する方法及び表面処理された基材等として有用であるばかりでなく生体適合性に優れた医療用材料及びそれを用いた医療用器具等としても有用である。さらに、生体適合性以外の機能を基材に付与することも可能であり、有機半導体デバイスの基材等としても有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 基板
2 アーク放電プラズマ発生器
11 基材
21 チャンバー
22 真空ポンプ
23 電極
24 電極
25 高周波電源
26 マッチングネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成されたダイヤモンド様薄膜の表面に生体適合性を有する成分が化学的に結合されている医療用材料。
【請求項2】
前記生体適合性を有する成分は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフト重合により導入された重合体である請求項1に記載の医療用材料。
【請求項3】
前記生体適合性を有する成分は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフトされたフッ素を含有するビニルモノマーの重合体である請求項2に記載の医療用材料。
【請求項4】
前記生体適合性を有する成分は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面にグラフトされたシリコンを含有する分子からなる請求項2に記載の医療用材料。
【請求項5】
前記生体適合性を有する成分は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面に共有結合により結合されている請求項1に記載の医療用材料。
【請求項6】
前記生体適合性を有する成分は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面にイオン結合により結合されている請求項1に記載の医療用材料。
【請求項7】
前記生体適合性を有する成分は、エチレンオキシド基、水酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、ホスホリルコリン基、スルホン基又はカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1つの官能基を有している請求項1に記載の医療用材料。
【請求項8】
前記基材と前記ダイヤモンド様薄膜との間には、前記基材と前記ダイヤモンド様薄膜との密着性を向上させる中間層が設けられている請求項1に記載の医療用材料。
【請求項9】
前記中間層は、珪素及び炭素を主成分とするアモルファス膜である請求項8に記載の医療用材料。
【請求項10】
基材の表面に形成されたダイヤモンド様薄膜の表面に親水性の官能基が導入されている医療用材料。
【請求項11】
前記基材は、金属材料、セラミックス材料若しくは高分子材料又はこれらの複合体である請求項1から10のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の医療用材料を用いた医療用器具。
【請求項13】
前記医療用器具は、生体埋め込み用の医療用器具である請求項12に記載の医療用器具。
【請求項14】
前記医療用器具は、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、人工心臓弁膜又は人工関節である請求項13に記載の医療用器具。
【請求項15】
基材の表面にダイヤモンド様薄膜を形成するダイヤモンド様薄膜形成工程と、
前記ダイヤモンド様薄膜の表面に重合開始点となる反応性の部位を生起させる活性化工程と、
前記重合開始点を用いて生体適合性を有する重合体が得られるモノマーを重合させることにより、前記ダイヤモンド様薄膜の表面に前記モノマーの重合体をグラフトする重合工程とを備えている医療用材料の製造方法。
【請求項16】
前記ダイヤモンド様薄膜形成工程よりも前に、前記基材と前記ダイヤモンド様薄膜との密着性を向上させる中間層を前記基材の表面に形成する中間層形成工程をさらに備えている請求項15に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項17】
前記中間層形成工程において、前記中間層を珪素及び炭素を主成分とするアモルファス膜により形成する請求項16に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項18】
前記活性化工程は、前記重合開始点としてフリーラジカルを生起させる工程である請求項15に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項19】
前記活性化工程は、前記ダイヤモンド様薄膜の表面にプラズマを照射するプラズマ照射工程である請求項15に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項20】
前記プラズマ照射工程において照射するプラズマは、アルゴン、キセノン、ネオン、ヘリウム、クリプトン、窒素、酸素、アンモニア、水素又は水蒸気のプラズマである請求項19に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項21】
前記生体適合性を有する重合体が得られるモノマーは、エチレンオキシド基、水酸基、アミノ基、ホスホリルコリン基、リン酸基、スルホン酸基若しくは核酸塩基を含むモノマー、又はジメチルシロキサン若しくはフッ素を含有するモノマーである請求項15から20のいずれか1項に記載の医療用材料の製造方法。
【請求項22】
基材の表面にダイヤモンド様薄膜を形成するダイヤモンド様薄膜形成工程と、
前記ダイヤモンド様薄膜の表面にプラズマを照射することにより反応性の部位を前記ダイヤモンド様薄膜の表面に生起させるプラズマ照射工程と、
前記反応性の部位と酸素を含む分子とを反応させることにより、前記ダイヤモンド様薄膜の表面に水酸基を導入する表面修飾工程とを備えている医療用材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5428(P2010−5428A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230317(P2009−230317)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【分割の表示】特願2006−512026(P2006−512026)の分割
【原出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(303037828)
【Fターム(参考)】