説明

医療用術具

【課題】電気メスとレーザメスを切り換え可能な医療用術具であって、レーザ光線の照射が術野の血液や体液で妨げられたり、光ファイバーが損傷したりすることのない医療用術具を提供する。
【解決手段】電気メス併用型レーザメス1のプローブ5を導電性とし、プローブ5を高周波発振器39に接続する。ハンドスイッチ13A〜13Cによって電気メスの操作モードを切り替え可能にする。プローブ5内に光ファイバーケーブル7を導入し、光ファイバーの芯線7bの先端部7cからレーザ光線をプローブ5の先端に向けて照射可能にする。プローブ5の先端部に必要に応じて1又は2以上のレーザ放射孔15、17、19(又はメッシュ部5c)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や動物の生体組織の切開、凝固、蒸散、加温に使用する医療用術具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体や動物の生体組織を切開するために機械的メス(刃物)が使用されてきたが、近年、機械的メスに代わって電気メスやレーザメスも使用されるようになってきた。
【0003】
電気メスは生体組織に高周波電流を流し、生体組織の電気抵抗によって発生したジュール熱で生体細胞を蒸散することで切開作用を生じさせ、また、細胞の水分を蒸発させてタンパク質を凝固させることで凝固作用を生じさせる。
【0004】
電気メスはモノポーラ型とバイポーラ型に大別され、モノポーラ型は患者の背中などに貼り付ける金属製の対極板と、医師が手で持って操作するハンドル部と、前記対極板とハンドル部に電気ケーブルで接続されて両者に300kHz〜5MHzの高周波を供給する高周波発振器で構成される。医師が手で持つハンドル部の先端にメス先電極が取り付けられ、このメス先電極を生体組織の術野に当てて組織の切開などを行う。
【0005】
バイポーラ型は一対のメス先電極を有するピンセット型のハンドル部と高周波発振器の二つで構成される。一対のメス先電極の先端で目的の組織をつまみ上げ、電極間に通電することで主として凝固や血管シール切断を行う。電流は一対の電極先端間のみを流れて他の部位には漏電しないため、心臓ペースメーカー埋め込み患者や頭頸部外科など神経密集部位の手術に使用されることが多い。
【0006】
電気メスは取り扱いが容易で切開機能と止血機能が優れている反面、生体組織に電気を流すために局所麻酔下の手術では患者が電気刺激で痛みを感じたり、筋肉の不随意運動を起こしたりする欠点がある。電気メスの長所と短所をまとめると以下の通りである。
[電気メスの長所]
(1)高精度な止血が可能である。
(2)切開速度が速く止血しつつ切開することも可能である。
(3)プローブを他の金属性術具に接触させて通電することにより止血が可能である。
(4)比較的低価格である。
[電気メスの短所]
(1)人体に電流を流すため臀部などに対極板を貼るが、接触不良による火傷の危険性がある。
(2)筋肉が痙攣すると精密な切開の障害となる。
(3)局所麻酔下では使用できない。
(4)心臓ペースメーカーに悪影響がある。
(5)心電図などのモニターにノイズが発生する。
(6)動物は剃毛しないと対極板を当てることができないからモノポーラ型は使いにくい。
【0007】
一方、レーザメスはレーザ光線をメスに利用したもので、レーザ光線は固体レーザ、半導体レーザ、ガスレーザなど各種のレーザが使用可能である。一般的に生体組織の切開・蒸散用には炭酸ガスレーザが適しており、凝固・止血用にはNd:YAGレーザが適しているとされる。近年では小型で安価な半導体レーザが普及する傾向にあり、今後、レーザメスの需要が高まることが予想される。レーザメスは非接触式と接触式に大別されるが、いずれもレーザ光線を発生するレーザ発振器、光ファイバーを使用した屈曲自在な導光ケーブル、レーザ光線の照射部、加熱部又はプローブを先端に備えたハンドル部(又は鉗子やピンセットなどの術具)で構成される。レーザ発振器で発生させたレーザ光線を導光ケーブルでハンドル部に導き、このハンドル部から術野に向けてレーザ光線を直接照射して切開等を行うか(非接触式)、ハンドル部の先端に取り付けたブレードを術野に当てた状態でこのブレードをレーザ光線で照射・加熱して切開などを行ったりしている(接触式)。レーザメスは機械的メスに比べて出血が少なく、しかも電気メスのような電気的な刺激がなく、切開組織の熱壊死層が小さいため組織の治癒速度も早いという利点がある。このため、レーザメスはますます普及する傾向にあるが、切開速度が電気メスよりも劣るという欠点もある。
レーザメスの長所と短所をまとめると以下の通りである。
[レーザメスの長所]
(1)身体への侵襲が少なく手術後の痛みが少ない。また治癒速度も早い。
(2)骨からの出血を止血することが可能である。
(3)筋肉の痙攣が起こらない。
(4)心電図等のモニターに影響しない。
(5)対極板が不要であり、剃毛することなく動物にも使用可能である。
(6)非接触でビームを照射することにより広い範囲の止血が可能である。
(7)腫瘍の蒸散が可能である。
(8)高いスプレー止血能力などで出血を極力抑制できるから、輸血ができないペット動物など小動物に好適である。
[レーザメスの短所]
(1)切開速度が電気メスに比べて遅い。
(2)セラミック製のプローブは高価である。
(3)非接触式は保護メガネが必要である。
【0008】
従来、電気メスとレーザメスの前述の長所と短所を医師が考慮し、手術の種類に応じて両者を使い分けてきた。しかし、手術中に両者を使い分けるためには電気メスとレーザメスを持ち替える必要があり、この持ち替えが結構煩雑であり、手術の種類によっては持ち替える際の時間的ロスによる術野での出血量が無視できない場合もある。このため、電気メスとレーザメスを持ち替えることが事実上できない場合もあり、両者の利点をうまく生かし切れていなかった。
【0009】
そこで、一つのメスを電気メスとレーザメスに切り換えて使用することができる医療用術具が例えば特許文献1のように提案されている。この医療用術具は、ハンドル部の先端に取り付けられたフックブレードを光ファイバーからのレーザ光線で加熱可能にすると共に、フックブレードを高周波発振器に接続してフックブレードを電気メスとしても使用可能にしたものである。光ファイバーはフックブレードに対して接離自在となっていて、光ファイバーをフックブレードに近付けてフックブレードを加熱したり、光ファイバーをフックブレードから離して光ファイバーから組織に対して直接レーザ光線を照射したりして、組織の凝固や蒸散を行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−205789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のレーザメスは、光ファイバーの先端が露出しているため、光ファイバーの先端が術野において血液や体液で汚染されてフックブレードに対するレーザ光線の照射を妨げたり、光ファイバーの先端が損傷したりするおそれがある。
【0012】
そこで本発明の目的は、電気メスとレーザメスを切り換え可能な医療用術具であって、レーザ光線の照射が術野の血液や体液で妨げられたり、光ファイバーが損傷したりすることのない医療用術具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の医療用術具は以下のものである。
(1)術具本体の基端側にレーザ光線を受け入れる光導入部を設けると共に、前記術具本体の先端側に術野に接触する導電性の処置部を設けた医療用術具。
(2)前記処置部を、導電性の金属カバーで構成した(1)に記載の医療用術具。
(3)前記金属カバーの内部に、前記光導入部に受け入れたレーザ光線を前記処置部に照射する光路となる空間部を形成した(2)に記載の医療用術具。
(4)前記金属カバーの内部に、前記光導入部に受け入れたレーザ光線を前記処置部に照射する光路となる光伝導材を配置した(2)に記載の医療用術具。
(5)前記金属カバーに、レーザ光線が内側から外側に放射するレーザ放射孔を形成した(3)又は(4)に記載の医療用術具。
(6)前記レーザ放射孔を前記処置部の先端に形成した(5)に記載の医療用術具。
(7)前記レーザ放射孔を前記処置部の周面に形成した(5)に記載の医療用術具。
(8)前記レーザ放射孔の径を前記金属カバーの内側から外側にいくにつれて漸減させた(5)に記載の医療用術具。
(9)前記レーザ放射孔の外側の径を10〜500μmにした(5)に記載の医療用術具。
(10)前記金属カバーの先端部を、レーザ光線が部分的に放射するメッシュ部に形成した(2)に記載の医療用術具。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用術具は、術具本体の一端にレーザ光線を受け入れるための光導入部を設け、他端に術野に接触させるための導電性の処置部を設けたので、術野において術具本体に血液や体液が付着しても、これによってレーザ光線が遮られるおそれがない。
【0015】
その他、本発明の医療用術具は電気メス併用型レーザメスとして使用した場合に以下の効果を有する。
(1)電気メスとレーザメスの持ち替えが不要であるからスピーディな手術が可能である。
(2)止血作用に優れた電気メスのタイムリーな使用により出血量が低減し輸血の必要性が低減するから感染症を低減することができる。
(3)医師およびスタッフの出血に対するストレスを軽減することができる。
(4)電気とレーザの同時使用によって手術のスピードアップが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の電気メス併用型レーザメスの概念的側面図である。
【図2】第1実施形態の電気メス併用型レーザメスの先端部断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図7】本発明の第6実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図8】本発明の第7実施形態の電気メス併用型レーザメスの断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の電気メス併用型レーザメスで術野を切開する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を医療用術具として代表的な電気メス併用型レーザメスに適用した実施形態を図面を参照して説明する。なお、本発明は鉗子やピンセットなどメス以外の医療用術具にも勿論適用可能である。
【0018】
図1は本発明の第1の実施形態に係る電気メス併用型レーザメス1とこのメス1に接続する機器を示したもので、図2はメス1の先端部の拡大断面図である。このメス1はペンシル型をしていて、医師が手に持つ細長円筒状のハンドル部3と、このハンドル部3の先端の先端孔3aに差し込まれた直線状のプローブ5を有する。プローブ5は術具本体を構成するもので、生体に対して安全な導電性と耐腐食性のある金属によって直径約2mm、長さ約40mmの先が尖った中空のパイプ状に成形してある。プローブ5に使用する金属は、ステンレス(SUS304、316等)、チタン、タンタル、ニクロムなどから選ぶことができる。プローブ5は、先端にやや丸みを付けた円錐部5aと、この円錐部の基端側に続く円筒部5bで構成され、円錐部5aとこれに続く円筒部5bの一部によって術野に接触する処置部が構成される。前記処置部の表面は、必要に応じて適当な面粗度の粗面に形成してもよく、このような粗面にすることよって処置部に生体組織が固着しにくくする作用が得られる。
【0019】
プローブ5の後端円筒部5bには光ファイバーケーブル7が挿入され、この光ファイバーケーブル7の被覆チューブ7aを除去した芯線7b(コアとクラッド)の先端部7cがプローブ5の先端側の円錐部5aの始まり部分まで延びている。プローブ5の先端側の内部には円板状の支持部材9が嵌合固定され、この支持部材9の中心に形成した貫通孔9aに光ファイバーケーブル7の芯線7bがその軸線をプローブ5の中心線に一致させた状態で挿入固定されている。そして、光ファイバーケーブル7の先端部7cからプローブ5の先端部に向けてレーザ光線が照射されるようになっている。従って、プローブ5の円錐部5aの始まり部分がレーザ光線を受け入れる光導入部を構成する。光ファイバーケーブル7の被覆チューブ7aの先端は、プローブ5の円筒部5bの内側に嵌合されている。
【0020】
光ファイバーケーブル7はハンドル部3の後端から外部に引き出され、光ファイバコネクタ部29を介してレーザ発振器31に接続されている。レーザ発振器31にはフットスイッチコネクタ部33を介してフットスイッチ35が接続され、このフットスイッチ35を医師が足で踏むことにより、光ファイバーケーブル7にレーザ光線が供給されるようになっている。レーザ発振器31はNd:YAGレーザ発振器や半導体レーザ発振器など各種のレーザ発振器を使用可能であるが、低侵襲性を優先する場合は炭酸ガスレーザが望ましく、装置のコンパクト性を優先する場合は半導体レーザが望ましい。
【0021】
プローブ5の円筒部5bの後端はハンドル部3の内部の拡大孔3bに収容され、この円筒部5bの後端の外周面に電気ケーブル11の芯線11aがスポット溶接で接続されている。この電気ケーブル11はハンドル部3の後端から光ファイバーケーブル7と一緒に束ねられた状態で外部に引き出され、ハンドスイッチコネクタ部37を介して高周波発振器39に接続されている。また、この高周波発振器39の対極板コネクタ部は電気ケーブル43によって対極板45に接続されている。図1は高周波発振器39をレーザ発振器31の上に載せた状態で示しているが、図1は概念図であってこのような配置関係に限定される趣旨ではない。従って、両発振器31、39を横並びで配置したり、一体化したりする構成も可能である。両発振器31、39を一体化した場合は両方の電源部を共通化することなどによって装置全体をコンパクトに構成することが可能である。
【0022】
ハンドル部3の側面には、図1のようにボタン型の3つのハンドスイッチ13A、13B、13Cが横並びに配設されている。これらハンドスイッチ13A、13B、13Cは電気メスの操作モードを選択するためのものであって、先端側のハンドスイッチ13Aは切開モード、基端側のハンドスイッチ13Cは凝固モード、そして中間のハンドスイッチ13Bは切開と凝固の混合モードである。
【0023】
切開モードは高周波を連続的に発生させるモードで、高周波エネルギによって生体組織が瞬間的に数百度まで熱せられ、生体組織内の水分が爆発的に蒸発することで組織が一緒に吹き飛んで切開状態が得られる。この切開モードは、切開部分周辺の組織を焦がす作用がなく止血作用が得られないため使用頻度は低い。凝固モードはやや弱めの高周波を断続的に発生させるモードで、生体組織が約100℃前後に加熱されて止血作用が得られる。混合モードは凝固モードよりもやや強めに高周波を断続的に発生させるモードで、切開作用と止血作用の両方が得られる。通常の切開はこの混合モードで行うことが多い。なお、ハンドスイッチはスイッチ13Bと13Cの2つだけにし、スイッチ13Bをオンにした状態で高周波発振器39の方をブレンドモードからピュアモードに切り替えることによりスイッチ13Bで純粋な切開モードとなるようにしてもよい。
【0024】
電気メス併用型レーザメス1は以上のように構成され、普通のレーザメスとしてのみ使用する場合は、電気メスの高周波発振器39をオフにしておくか、ハンドル部3のハンドスイッチ13A〜13Cをすべてオフにしておく。また、電気メスを使用する可能性がある場合は予め対極板45を患者の背中などに貼り付け、高周波発振器39をオンにしておく。このように準備しておいてからプローブ5の先端を術野に当てながらレーザ光線のフットスイッチ35を足で踏むことにより、レーザ発振器31で発生したレーザ光線が光ファイバーケーブル7を通して図2のようにプローブ5の先端に向けて照射される。プローブ5の円錐部5aの内面にレーザ光線が照射されると、そのエネルギによってプローブ5の円錐部5aが集中的に加熱され、加熱されたプローブ5によって術野の組織を切開、凝固、蒸散又は加温することができる。
【0025】
レーザメスモードで切開する場合、プローブ5の表面に接触した生体組織が焼灼されて瞬間的に蒸散するので、プローブ5をそのまま術野で移動させることにより生体組織を線状に切開することができる。また、切開された生体組織の断面が加熱されることにより切開部分を止血するのに十分な厚さの凝固層を形成でき、しかも術感があるためこの凝固層を均一に形成することができるから、確実に止血を行いながら切開することが可能になる。
【0026】
また、手術中に電気メスの速い切開機能や止血機能が必要になった場合、レーザメスに代えて、或いはレーザメスと共に、ハンドル部3の必要なハンドスイッチ13A、13B、13Cをオンにすることにより所望の電気メスの機能が得られる。電気メスに切り換えた場合、電気メスはモノポーラ型として機能し、患者を通して対極板45とプローブ5との間に高周波電流が流れ、プローブ5の近傍の生体組織が電気抵抗によって発生したジュール熱で加熱されることにより切開機能や凝固機能が得られる。
【0027】
電気メス併用型レーザメス1を凝固(止血)用途で使用する場合は、レーザメスまたは電気メスのいずれでも可能であるが、レーザメスではプローブ5を100℃前後に加熱するようにレーザ発振器31の出力を調整し、電気メスではプローブ5に接触した生体組織が100℃前後に加熱されるように凝固モードのハンドスイッチ13Cをオンにする。これでプローブ5に接触した生体組織の血液が凝固して止血される。なお、炭酸ガスレーザで生体組織の凝固を行う場合、組織への浸透力が弱いので、生体組織表面のみの凝固に留まることがあるが、電気メスに切り換えることにより組織内部まで簡単に凝固させることができる。
【0028】
次に、本発明の第2の実施形態を図3により説明する。この第2の実施形態はプローブ5の円錐部5aの先端にレーザ放射孔15を形成したもので、このレーザ放射孔15からレーザ光線の一部が外部に漏れ出るようにしたものである。レーザ光線の大半はプローブ5の円錐部5aの内面に照射されてプローブ5を加熱し、前述したレーザメスとしての機能が得られるだけでなく、プローブ5の円錐部5aの先端を組織に接触させた状態でレーザ光線の直接照射による組織の切開作用または凝固作用を得ることができる。また、プローブ5の先端を生体組織から離間させてレーザ放射孔15からのレーザ光線で切開やスプレー止血を行うなど非接触式のレーザメスとして使用する場合は、光ファイバーケーブル7の先端部7cをレーザ放射孔15に接近させて配置するとよい。なお、ハンドル部3のハンドスイッチ13A、13B、13Cのいずれかをオンにすることにより、レーザメスに電気メスを併用した使用法も図2の実施形態と同様に可能である。
【0029】
次に、本発明の第3の実施形態を図4により説明する。この第3の実施形態は、プローブ5の先端のレーザ放射孔15に加えてプローブ5の周面にも複数のレーザ放射孔17を形成したものである。この実施形態では、図9のようにプローブ5の周面のレーザ放射孔17からレーザ光線が放射され、これによって生体組織23のアポトーシス(再生壊死)が誘導され、切開断面の治癒速度を早めることができる。
【0030】
アポトーシスは生体組織内で癌化した細胞やその他内部に異常を起こした細胞のほとんどが自然に取り除かれる仕組みであって、これによりほとんどの腫瘍の成長は未然に防がれるといわれている。レーザ光線はこのアポトーシスを積極的に誘導する効果がある。
【0031】
なお、レーザ放射孔15、17の径は望ましくはプローブ5の内側から外側にいくにつれて漸減させておくとよい。これにより、レーザ放射孔15、17からプローブ5内に血液や体液、生体組織の一部が侵入するのを抑制する効果が得られる。レーザ放射孔15、17の外側の径は望ましくは10〜500μmにするとよい。レーザ放射孔15、17の外側の径を500μm以上にすると異物侵入抑制効果が急減し、10μm以下ではレーザ放射孔15、17の加工が困難になって製品の歩留まりが低下する。このようなレーザ放射孔15、17は、例えばプローブ5をエッチング加工またはレーザ加工することにより形成することができる。
【0032】
次に、本発明の第4の実施形態を図5により説明する。この第4の実施形態は、図4と同様に先端に複数のレーザ放射孔19を形成したプローブ5の内部に、レーザ光線の光伝導材として石英ガラスやセラミック等の円錐状チップ21を密着嵌合したものである。このようにチップ21を密着嵌合させておくことにより、レーザ放射孔19からプローブ5内に血液や体液、生体組織の一部が侵入するのを確実に防止することができ、これら侵入物が光ファイバーの先端部7cに焦げ付いてレーザ光線の照射が妨げられるのを防止することができる。プローブ5の厚みはレーザ光線のエネルギロスを少なくするためには極力薄い方がよく、チップ21の表面に例えばめっき処理やコーティング処理により薄い導電性金属層としてプローブ5を形成するようにしてもよい。
【0033】
光伝導材としては石英ガラスの他に、カルコゲナイトガラス、フッ化物ガラス等のガラス材料、セラミック、フッ化カルシウム、サファイア、ジンクセレン等の結晶材料、透明プラスチック材料などを使用することができる。
【0034】
プローブ5内に照射されたレーザ光線はチップ21の後端面の光導入部21aからチップ21の内部を通ってプローブ5の円錐部5a内面に照射され、レーザ光線のエネルギによって円錐部5aが加熱されることで前述した切開、凝固、蒸散、加温の各機能が得られる。また、レーザ放射孔19から放射するレーザ光線によって生体組織のアポトーシス(再生壊死)が誘導され、切開断面の治癒速度を早めることができる。
【0035】
石英ガラスやセラミックなどの光伝導材は接触式レーザメスのプローブとして使用されているが、非常に脆く欠けたり折損したりしやすいという弱点がある。石英ガラスやセラミック製のプローブが高価であることから、レーザメス治療の費用高騰の一因にもなっている。従来、プローブの先端に血液等が焦げ付くなどした場合、プローブの先端を研磨シートに擦り付けるなどしてその汚れを除去することが行われているが、この際にプローブを損傷することがよくある。図5のように石英ガラスなどのチップ21を金属製プローブ5で覆っておけばチップ21が損傷することがないし、プローブ5の先端を研磨シートに擦り付けるなどしてもプローブ5が損傷することもない。
【0036】
次に、本発明の第5の実施形態を図6により説明する。この第5の実施形態は、 プローブ5の先端をメッシュ部5cに形成したもので、このプローブ5の内部にも、レーザ光線の光伝導材として石英ガラスの円錐状チップ21を密着嵌合している。レーザ光線がメッシュ部5cの隙間から外部に漏れ出るので、図4の周面に複数のレーザ放射孔19を形成した実施形態と同様に、メッシュ部5cの隙間から放射されるレーザ光線によって生体組織のアポトーシス(再生壊死)が誘導され、切開断面の治癒速度を早めることができる。
【0037】
図7と図8はプローブ5A、5Bの形状を変えたもので、それぞれ本発明の第6と第7の実施形態を示すものである。この実施形態は主として凝固、蒸散、加温に適するように図7は先端を半球形で基端側は円筒形とし、図8はプローブ全体を円筒形にしている。これらプローブ5A、5Bは中空密閉構造にする他、先端や周面に一つ又は複数のレーザ放射孔を形成したり、一部をメッシュ部にしたりすることも可能である。また、内部に血液や体液、生体組織の一部が侵入するのを確実に防止するために、石英ガラスやセラミックなどの光伝導材のチップを密着嵌合させてもよい。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であり、電気メスはモノポーラ型でなくバイポーラ型にしてもよいし、前述したように本発明を鉗子やピンセットなどメス以外の医療用術具に適用することも可能である。鉗子やピンセットに適用する場合、術具先端の処置部を導電性の金属カバーで構成し、この金属カバーを高周波発振器に接続すると共に、金属カバーの内部に光ファイバーでレーザ光線を導入可能に構成する。そして、必要に応じて、金属カバーに1又は2以上のレーザ放射孔を形成したり、一部をメッシュ部やスリット状にしたり、或いは金属カバーの内部に石英ガラスやセラミックなどの光伝導材を密着嵌合してもよい。また、金属カバーを術具本体に対して着脱自在に装着可能にし、金属カバーの処置部を使い捨てタイプに構成してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 電気メス併用型レーザメス
3 ハンドル部
5 金属製プローブ
5a 円錐部
5b 円筒部
5c メッシュ部
7 光ファイバーケーブル
7a 被覆チューブ
7b 芯線
7c 先端部
9 支持部材
11 電気ケーブル
11a 芯線
13A〜13C ハンドスイッチ
15、17、19 レーザ放射孔
21 チップ
21a 光導入部
23 生体組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術具本体の基端側にレーザ光線を受け入れる光導入部を設けると共に、前記術具本体の先端側に術野に接触する導電性の処置部を設けた医療用術具。
【請求項2】
前記処置部を、導電性の金属カバーで構成した請求項1に記載の医療用術具。
【請求項3】
前記金属カバーの内部に、前記光導入部に受け入れたレーザ光線を前記処置部に照射する光路となる空間部を形成した請求項2に記載の医療用術具。
【請求項4】
前記金属カバーの内部に、前記光導入部に受け入れたレーザ光線を前記処置部に照射する光路となる光伝導材を配置した請求項2に記載の医療用術具。
【請求項5】
前記金属カバーに、レーザ光線が内側から外側に放射するレーザ放射孔を形成した請求項3又は4に記載の医療用術具。
【請求項6】
前記レーザ放射孔を前記処置部の先端に形成した請求項5に記載の医療用術具。
【請求項7】
前記レーザ放射孔を前記処置部の周面に形成した請求項5に記載の医療用術具。
【請求項8】
前記レーザ放射孔の径を前記金属カバーの内側から外側にいくにつれて漸減させた請求項5に記載の医療用術具。
【請求項9】
前記レーザ放射孔の外側の径を10〜500μmにした請求項5に記載の医療用術具。
【請求項10】
前記金属カバーの先端部を、レーザ光線が部分的に放射するメッシュ部に形成した請求項2に記載の医療用術具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−105766(P2012−105766A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255898(P2010−255898)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(510303291)飛鳥メディカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】