説明

医療用X線撮影装置

【課題】X線ビームを被写体に走査してX線撮影を行うX線撮影において、撮影部位に対応して被写体へのX線照射領域を、X線ビームの走査方向に対して交差する方向で制限して、被写体への被曝量を低減できる医療用X線撮影装置を提供することを目的とする。
【解決手段】X線発生器とX線検出器とを被写体を挟んで対向させて支持する支持部材と、X線発生器から発生したX線ビームの照射野を規制する照射野規制部と、照射野規制部で規制されたX線ビームを被写体に対して走査させてX線撮影を行わせる走査駆動部とを備えた医療用X線撮影装置であって、X線ビームの走査中に、X線ビームの照射位置を、被写体の撮影部位に応じて、X線ビームの走査方向と交差する方向である高さ方向に変更させるX線照射位置変更部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体へX線ビームを照射してX線投影画像による2次元画像を撮影する医療用X線撮影装置の改良、特に、照射するX線ビームを走査させてX線撮影を行う医療用X線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用X線撮影装置は、X線照射を行うX線発生器と、X線発生器からのX線を受けるX線検出器とを備え、X線発生器から照射されて被写体を走査しながら透過したX線をX線検出器で受光することで、透過X線によるX線画像を撮影する。そして、パノラマX線撮影を行うときには、X線発生器及びX線検出器を被写体の周囲で旋回移動させてX線撮影を行うことで、曲面断層による2次元パノラマ画像が取得される(特許文献1)。特許文献1に示す医療用X線撮影装置は、X線検出器の代わりにX線フィルムを採用してパノラマX線撮影を行う構成であるが、近年は、イメージセンサを備えたX線検出器が採用されている。
【0003】
一方、本出願人は、X線検出器によって逐次取得された複数のフレーム画像に基づいて任意の断層面上のパノラマ画像を生成するデジタルパノラマX線撮影装置を提案している(特許文献2及び特許文献3)。特許文献2及び特許文献3におけるデジタルパノラマX線撮影装置は、パノラマX線撮影によって取得された複数のフレーム画像から画像情報を取り出して加算し、パノラマ画像を生成するが、このとき、各フレーム画像からの画像情報の取り出し間隔とシフト量を設定することで、任意の断層面上のパノラマ画像を生成している。
【0004】
又、本出願人は、被写体中に仮想局所部位を設定して、この仮想局所部位について局所照射X線CT撮影を行い、得られた3次元X線吸収計数データに基づいて、X線パノラマ画像を生成する局所照射X線CT装置も提案している(特許文献4)。この特許文献4において提案された局所照射X線CT装置は、仮想局所部位について局所照射X線CT撮影を行う際、X線発生器及びX線検出器それぞれの旋回中心を固定して、X線コーンビームの照射がなされ、局所照射X線CT撮影によって得られた各フレームの画像データに対して、歯列弓に略直交するオルソX線コーンビームによる部分画像となる画像データが抽出される。そして、抽出された部分画像となる画像データが演算処理されることで、目的の断層面におけるパノラマ画像が生成されている。
【0005】
又、この特許文献4では、パノラマ画像を生成する構成として、仮想局所部位について局所照射X線CT撮影を行う際、オルソX線コーンビームのみを照射するように、X線発生器の直前に設置されたスリットを移動させる構成についても提案している。
更に、本出願人は、X線細隙ビームを照射して、パノラマX線撮影とセファロX線撮影とを共用するX線撮影装置も提案している(特許文献5)が、このX線撮影装置では、セファロX線撮影を実行する際には、パノラマX線撮影用のX線検出器を退避させて、X線発生器からのX線細隙ビームを水平方向に走査させてX線撮影を行う構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭56−025145号公報
【特許文献2】特許第2787169号公報
【特許文献3】特公平02−029329号公報
【特許文献4】特許第3919048号公報
【特許文献5】特許第3964152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜特許文献5に示す、いずれの医療用X線撮影装置においても、X線走査中は、走査方向と交差する方向である高さ方向について、一定幅のX線ビームを照射してパノラマX線撮影又はセファロX線撮影を行う構成になっている。したがって、これらのX線撮影によって得られるパノラマ画像やセファロ画像を、その診療内容に対して必要な領域全てを含む画像とするには、撮影毎のX線ビームの高さ方向の照射幅を予め余裕を持たせて広くする必要があった。
即ち、従来は、パノラマX線撮影又はセファロX線撮影を行う場合、診療に寄与しない領域についてもX線ビームを照射する必要があり、これによって被写体となる被験者に対して、診療目的から考えると過剰な被曝による負担を与えている。
【0008】
本発明は、このような問題を鑑みて、X線ビームを走査して実行するX線撮影において、撮影部位に対応して被写体へのX線照射領域を走査中に走査方向に対して交差する方向で制限して、被写体への被曝量を最小限度に低減できるようにした医療用X線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の医療用X線撮影装置は、X線発生器とX線検出器とを被写体を挟んで対向させて支持する支持部材と、前記X線発生器から発生したX線の照射野を規制する照射野規制部と、前記照射野規制部で規制された前記X線ビームとして前記被写体に対して走査させてX線撮影を行わせる走査駆動部とを備えた医療用X線撮影装置であって、X線照射位置変更部を備えることで、X線ビームの走査中には、前記X線ビームの照射位置を、前記被写体の撮影部位に応じて、前記X線ビームの走査方向と交差する交差方向である高さ方向に変位させている。
ここに、X線走査中におけるX線ビームの照射位置は、被写体を固定して、X線ビームを高さ方向に移動させる制御、X線ビームを固定して、被写体を移動させる制御、および双方の態様を組み合わせた制御が含まれる。
【0010】
このような本発明の医療用X線撮影装置を構成する際、X線照射位置変更部は、X線発生器とX線検出器とを対向させて支持する支持部材を駆動制御する支持部材移動機構で構成することができ、そのような構成によれば、X線撮影中に、この支持部材移動機構により支持部材を移動させるだけで、X線ビームの照射位置を、被写体の撮影部位に応じて高さ方向に変位させることができ、装置の構成が簡易になる(請求項2)。
【0011】
また、医療用X線撮影装置において、X線照射位置変更部を、照射野規制部を作動させてX線ビームの透過孔の開口幅を高さ方向に変位させる照射野規制部駆動機構で構成し、X線ビームの走査中に、照射野規制部駆動機構により照射規制部を作動して、被写体の撮影部位に応じて、X線透過孔の高さ方向の開口幅を可変させて、X線ビームの照射位置を変位させる構成にしてもよい(請求項3)。
【0012】
請求項4では、X線照射位置変更部は、照射野規制部駆動機構を設けて、X線ビームの走査中に、X線ビームの透過孔を高さ方向に変位させる装置を提案しており、請求項5では、X線ビームの走査中、X線ビームの透過孔を高さ方向に変位させながら、さらにX線ビームの透過孔の開口幅を高さ方向に変位させて、X線ビームの照射位置を、被写体の撮影部位に応じて可変させる装置を提案している。
【0013】
これらにおいて、支持部材移動機構や照射野規制部駆動機構は、CPUと駆動機構を用いて作動させるために、所定のプログラムを準備し、それを起動することで、X線ビームの走査位置に対応して、支持部材移動機構を作動したり、照射野規制部のX線透過孔の高さ方向の位置や、X線透過孔の高さ方向の開口幅を変化させる方法が望ましく採用されるが、機械的機構を用いて作動する構成にしてもよい。
【0014】
本発明の医療用X線撮影装置は、X線細隙ビームを被写体に照射して走査する、パノラマX線撮影や、セファロX線撮影に適用できる(請求項6、9)。
また、前記X線検出器を、フレーム画像を撮像する2次元X線検出器として、パノラマX線撮影を行って、パノラマX線撮影を実行したときに前記2次元X線検出器で得られた複数フレームのフレーム画像より、被写体の撮影部位における、特定の断層面のパノラマ画像を生成するものであってもよい(請求項7)。
更に、前記X線撮影が、前記支持部材の旋回中心を固定して旋回させて行うパノラマX線撮影であってもよい(請求項8)。
【0015】
また、上述の医療用X線撮影装置において、前記X線照射位置変更部は、前記X線ビームの前記高さ方向における位置、X線ビームの前記高さ方向における幅の少なくとも一方を、診断者側で撮影前に設定できる構成にしてもよい(請求項10)。
【0016】
更に、医療用X線撮影装置は被写体を可視光光線で撮影するカメラを備え、前記X線照射位置変更部に、該カメラで撮影された被写体の画像に基づいて、撮影領域すなわち該被写体のX線照射領域を特定する機能を付加した構成にしてもよい(請求項11)。
【0017】
なお、以下の説明では、歯列弓や顎部位を撮影の対象とする歯科用の撮影装置を例に挙げているが、本件発明は、耳小骨部分などを撮影対象とする耳鼻科用の撮影などのように、歯科以外の医療用の撮影装置にも適用可能なことはいうまでもない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用X線撮影装置によれば、請求項1〜11のいずれの構成においても、X線ビームの撮影中、X線ビームの照射位置が、被写体の撮影部位に応じて、予め設定したX線照射領域を満たすように、X線ビームの走査方向に交差する方向で制限されるため、X線撮影時における被写体の被曝量を著しく軽減できる。
よって、撮影対象や撮影目的が異なった場合でも、X線撮影時におけるX線ビームの照射領域を、X線撮影の撮影対象領域に近づけて、被写体への被曝量を著しく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】は、本発明の医療用X線撮影装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】は、本発明において、X線の照射位置を変位させるために適用されるX線ビームの走査制御パターンの類型を示す説明図である。
【図3】は、本発明において適用されるX線ビームの走査制御パターンの類型(図2とは異なる走査制御パターン)を示す説明図である。
【図4】は、X線撮影時におけるX線ビームの走査制御を示す説明図である。
【図5】は、パノラマX線撮影時におけるX線発生器とX線検出器との位置関係を示す説明図である。
【図6】は、本発明において取得されるパノラマX線画像の特徴を示す説明図である。
【図7】は、本発明の医療用X線撮影装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図8】は、パノラマ撮影時のX線透過孔、支持部材、被写体の位置変化を示す説明図である。
【図9】は、第1の実施形態によって得られるパノラマX線撮影画像と、X線ビームの走査時におけるX線透過孔の高さ位置変化(支持部材の旋回角度との関係)を示す説明図である。
【図10】は、第1の実施形態によって採用される照射野規制部駆動機構の一実施例の概略構成を示す図。
【図11】は、本発明の医療用X線撮影装置(第2の実施態様)の基本構成を示すブロック図。
【図12】は、パノラマX線撮影時における、支持部材の旋回角度に対する支持部材の高さ位置の変化を示す図。
【図13】は、第2の実施形態における、パノラマ撮影時のX線透過孔、支持部材、被写体の位置変化を示す説明図である。
【図14】は本発明において取得されるパノラマX線画像の特徴を示す説明図である。
【図15】は、本発明の医療用X線撮影装置(第2の実施態様)の別構成を示す概略外観図である。
【図16】は、本発明の医療用X線撮影装置(第3の実施態様)における照射野規制部駆動機構の一例を示す図である。
【図17】は、本発明の医療用X線撮影装置(第3の実施態様)照射野規制部駆動機構の別例を示す図である。
【図18】は、本発明の医療用X線撮影装置(第4の実施態様)におけるX線ビームの走査制御の基本原理を示す図である。
【図19】は、第4の実施形態において取得されるパノラマX線画像の一例を示す図である。
【図20】は、本発明の医療用X線撮影装置(第4の実施態様)において採用される照射野規制部駆動機構の概略構成を示す図である。
【図21】は、カメラ装置を備えた本発明の医療用X線撮影装置の構成を示す(被写体の側面より撮影)概略図である。
【図22】は、カメラ装置を備えた本発明の医療用X線撮影装置の構成を示す(被写体の正面より撮影)概略図である。
【図23】は、パノラマX線撮影におけるX線照射領域を設定する際の画像処理の基本原理を説明する図である。
【図24】は、セファロX線撮影及びパノラマX線撮影を兼用とした本発明の医療用X線撮影装置の構成を示す概略外観図である。
【図25】は、セファロX線撮影時の医療用X線撮影装置を示す図である。
【図26】は、セファロX線撮影におけるX線照射領域を示す図である。
【図27】は、照射野規制部駆動機構の更に別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の医療用X線撮影装置を詳細に説明するが、望ましい実施形態を説明する前に、本発明の基本構成、基本原理、基本コンセプトについて説明する。
【0021】
図1に本発明の医療用X線撮影装置の概略構成を示す。
医療用X線撮影装置Mは、図1に示したように、被写体OへX線を照射するX線発生器11を備えたX線発生部10と、被写体Oを透過したX線ビームを受けるX線検出器21を備えたX線検出部20と、被写体Oを挟んで対向する位置にX線発生部10及びX線検出部20をそれぞれ支持する支持部材30と、被写体Oの位置を固定するための被写体保持部40と、X線撮影を行う際にX線ビームの走査のために支持部材30を駆動させる走査駆動部50と、装置本体の制御を行う本体制御部60と、X線検出部20で取得されたX線透過画像を処理して、パノラマ、セファロなどの撮影種別に応じたX線画像を生成するための画像処理部70とを備え、更に、X線照射位置変更部Aを備えている。
【0022】
X線発生部10は、X線を発生するX線発生器11と、X線発生器11から発生したX線の照射範囲を制限する照射野規制部12とを備えている。
ここに、照射野規制部12は、通常は一次スリットと呼ばれるもので、X線透過孔12Sを備えており、X線発生器11から発生されたX線を、X線透過孔12Sにより照射領域が制限されたX線ビームとして、被写体Oの撮影部位に向けてX線照射がなされ、X線検出器21上には被写体Oの撮影部位のX線透過像が生成される。
すなわち、照射野規制部12は、X線発生器11から発生したX線を規制し、一部の透過を許容してX線ビームとしてX線照射する。
なお、主制御部60、画像処理部70の詳細は後述する。
【0023】
本発明の医療用X線撮影装置Mの特徴は、X線ビームの走査中に、X線ビームの照射位置を、被写体Oの撮影部位に応じてX線ビームの走査方向と交差する方向(以下、「高さ方向」という)に変位させるX線照射位置変更部Aを備えた点にある。
このX線照射位置変更部Aは、後述するようなX線ビームの走査制御ができる構成であればよく、一例としては、X線ビームを被写体に向けて照射するためのX線の透過孔12Sを高さ方向に変位させるものがあり、この態様では、X線ビームの透過孔12Sを被写体Oに向けて走査している間、X線の透過孔12Sの高さ方向の幅を一定にして、被写体Oの撮影部位に向けて上下に変位させる態様、X線ビームの透過孔12Sの高さ方向の開口幅を、被写体Oの撮影部位に応じて広狭変化させる態様がある。
【0024】
また、X線透過孔12Sを固定して、X線発生器11とX線検出器21を支持している支持部材30を上下に移動させるものもあり、更に、X線発生器11をX線透過孔12Sとともに上下に移動させたり、X線発生器11のみを上下移動させたり、X線発生器11を首振り動作させるなどの態様もあり、これらのいずれか、あるいは、これらを組み合わせる種々のパターンが適宜採択できる。
【0025】
医療用X線撮影装置Mは、望ましい実施例として、その基本構成を第1の実施形態から第4の実施形態として開示しているが、本発明思想が反映される限り、これらの例に限定されず、種々の変更が可能である。
【0026】
図2、図3は、本発明において実行されるX線ビームの走査制御パターンを示している。図2(a)〜(c)及び図3(a)〜(c)は、支持手段の旋回軸が鉛直方向であると想定して、側方視した概略図を示しており、図2(a)〜図2(c)及び図3(a),(b)において、(i)はX線ビームの照射位置を高くしたとき、(ii)はX線ビームの照射位置を低くした場合を示しており、図3(c)では、(i)はX線ビームの照射幅が狭く、(ii)はX線ビームの照射幅が広くなった例を示している。これらの走査制御パターンは、被写体Oを固定して、X線ビームを移動させるものであるが、本発明装置を構成する場合、X線ビームを固定して、被写体Oを移動する態様、それらを組み合わせる構成を除外するものではない。
【0027】
ここに、各類型を詳細に説明すると、図2(a)は、X線撮影のために、被写体に向けてX線ビームを走査しながら照射する際に、X線発生器11の前面に設けた照射野規制部12のみを移動させることで、X線透過孔12Sを高さ方向に変位させて、X線ビームの照射位置を、被写体Oの撮影部位に応じて、高さ方向に変位させる類型を示している。この場合、X線発生器11は支持部材30に固定されている。
【0028】
図2(b)は、X線ビームの走査時には、支持部材30を高さ方向に移動させてX線ビームの照射位置を高さ方向に変位させる類型を示している。この場合、X線発生器11と、その前面に設けた照射野規制部12とは支持部材30に固定され、支持部材30のみが被写体Oの撮影部位に応じて上下に移動する。
【0029】
図2(c)は、X線発生器11の前面に照射野規制部12を枢着させて一体的に連結しており、X線発生器11を首振り作動して、X線ビームを照射する位置を高さ方向に変位させている。
【0030】
図3(a)は、X線発生器11の前面に照射野規制部12を固定して設け、X線発生部10内部でX線発生器11を高さ方向に移動させて、X線ビームの照射位置を高さ方向に変位させている。
【0031】
図3(b)は、照射野規制部12は固定し、X線発生部10の内部でX線発生器11のみを高さ方向に移動させて、X線ビームの照射位置を高さ方向に変位させている。
【0032】
図3(c)は、X線発生器11の前面に設けた照射野規制部12がX線透過孔12Sの開口幅を高さ方向に広狭可変させる機能を備えたもので、X線ビームを走査する間、X線透過孔12Sの高さ方向の開口幅を変化させることによって、X線ビームの照射位置を高さ方向に変位させるものである。
【0033】
本発明の基本コンセプトは、不規則な関心領域の形状に合わせて、撮影種別に応じて、必要最小限度のX線照射を可能としたX線撮影装置を提供することにあり、次の観点から生じている。
すなわち、X線撮影の対象となる被写体の関心領域、つまり撮影種別ごとの診療の目的から、その観察をすることで診療に寄与する領域は、通常、直方体、立方体などのような幾何学的に規則的な形状ではなく、不規則な形状であるが、X線ビームの走査によって関心領域のX線撮影をする場合、できるだけ関心領域のみに限定してX線照射すれば余計なX線被曝を避けることが出来る。
このため、X線CT撮影の分野においては、コーンビームを用いて局所照射を行うことによって、X線の被曝軽減などの改善がなされているが、パノラマ撮影やセファロ撮影においては、被写体の関心領域の形状を反映して、X線被曝を最適な限度に軽減する創意工夫は何らされていない。
【0034】
本発明者らは、このような事情や要望を考慮して、本発明に到達したものであり、本発明では、第1には、撮影種別に応じて、X線ビームを被写体の関心領域(撮影部位)に対応した最小限度の照射域に制限して照射できるようにしている。また、第2には、X線照射位置変更部を設けて、X線ビームの走査中は、照射野規制部で規制されたX線ビームを、撮影部位の位置や形状に合わせて高さ方向に変位させるようにしている。
【0035】
図4は、X線撮影の基本原理とともに、従来のX線ビームの走査制御と、本発明によるX線ビームの走査制御の一例を対比して示している。
図4(a)は、支持手段の旋回軸が鉛直方向であるとして、側方視した概略図であり、図4(b)は照射野規制部である1次スリット12をX線ビームXBの焦点XFから照射方向に向けて正面視した図である。
照射野規制部12はX線発生器11からのX線XをX線ビームXBに規制する。
一般に、X線撮影では、図4(a)に示すように、被写体Oに対し、X線ビームXBの焦点XFと、X線ビームXBの高さ方向の広がりの一方の端部XB1と、他方の端部XB2との位置関係によって、X線照射領域、X線検出器21の検出面21aにおけるX線受光領域、X線検出器21の検出面21a上に生成されるX線透過画像が決定され、被写体Oに照射されるX線ビーム、X線撮影領域は、XB1上の特定の点XBaの位置と、XB2上の特定の点XBbの位置によって特定される。図示の例では、点XBa、点XBbは鉛直方向に並ぶ2点で示されている。
一方の端部XB1と、他方の端部XB2の位置は、照射野規制部12のX線透過孔12Sの高さ方向における一方の端部12S1と他方の端部12S2の位置によって決定される。
従って、X線ビームXBの幅は、図4(b)に示すように、照射野規制部12のX線透過孔12Sの高さ方向の幅12VWとX線ビームの走査方向の幅12HWによって特定され、検出器21の検出面21aでその高さ方向VDに広がる。
図4(c)は、X線ビームXBが交差する面におけるX線ビームXBを焦点XFから照射方向に向けて正面視したものであり、図示の例はX線検出器21の検出面をこの交差する面とし、X線ビームXBを見たものと考えてもよい。
走査はX線ビームXBが走査方向HDに移動して行われる。
走査方向HDに交差する方向が高さ方向VDである。
X線ビームXBが細隙X線ビームである場合、ビーム形状を高さ方向VDに細長く伸長するものとし、高さ方向VDに交差する方向を走査方向HDとすると、細隙X線ビームを用いながら広い撮影領域がX線撮影できる利点がある。
図示の例では、走査方向HDと高さ方向VDは直交する関係にあり、X線ビームXBは高さ方向VDに伸長する細隙X線ビームである。
【0036】
通常のX線ビームの走査制御では、X線細隙ビームを例にとると、X線ビームXBは、図4(c)に示すように、1次スリット12のX線透過孔12Sに応じて、高さ方向の寸法VWと、X線ビームの走査方向の幅HWとをもって、被写体Oの撮影領域を、走査方向HDに沿って走査され、X線ビームの走査中は、X線ビームの高さ方向の広がりVW、走査方向の幅HWはいずれも変化することなく、一定のままX線照射がなされている。
【0037】
これに対して、本発明におけるX線ビームの走査制御では、図4(d)に示したように、X線ビームXBは、走査方向HDに移動しながら、被写体Oの撮影部位に合わせて、走査方向HDと交差する方向VD、つまり、図では上下に移動してX線照射をしている。
また、後述するX線ビームXBの走査制御では、X線ビームXBは走査方向HDに移動しながら、X線ビームXBの上下の寸法VWも、被写体Oの撮影部位に応じて、広、狭変化させてX線を照射している。
したがって、このようなX線ビームの走査の結果、本発明では、被写体Oの撮影部位以外ではX線の被曝はなくなり、後述するように、図6に示したようなパノラマ画像が得られる。
図4(d)図示のX線ビームXBは、図4(c)と同様にX線ビームXBが交差する任意の面におけるX線ビームXBを焦点XFから照射方向に向けて正面視している。
本発明におけるX線ビームの走査制御では、図4(a)に示した端部XB1と端部XB2の少なくとも一方の位置が走査中に被写体Oに対して高さ方向に変位する。これは、本発明におけるX線ビームの走査制御では、図4(a)に示したX線ビームXBの経路上の端部XB1におけるある点XBaと端部XB2におけるある点XBbの少なくとも一方の位置が走査中に被写体Oに対して高さ方向に変位することでもある。
【0038】
図5は、パノラマX線撮影の基本原理を示している。
パノラマ撮影では、X線発生器11とX線検出器21とを歯列弓Sを挟んで旋回させながら、X線ビームは、例えば、左顎にX線照射する位置から前歯中央を通じて右頬まで移動する。つまり、X線発生器11については図5の位置Lt1、Lt2、Lt3の順に、X線検出器21については位置Lr1、Lr2、Lr3の順に変位して行くが、図では、説明を簡略にするため、パノラマ撮影のうち、左顎へのX線照射から前歯中央へのX線照射までの様子を示している。なお、前歯中央へのX線照射から右顎へのX線走査は正中線について対称に考えればよく、図中の曲線Laは、X線ビームXBの軌跡によって描かれた包絡線を示している。
【0039】
より具体的に説明すると、走査駆動部50を動作させることによって、支持部材30は、旋回中心R(図1参照)を中心にして水平に旋回しながら、X線発生器11はX線ビームXBを被写体Oに向けて照射する。
このようなパノラマ撮影では、X線検出器21で得られるX線画像の拡大率を一定に保つため、X線ビームの走査中は、X線発生器11、X線検出器21、歯列弓Sの3者の距離が一定に保持される必要があり、そのため、X線発生器11とX線検出器21の走査軌道は、多数の被写体の歯列弓Sに適合する制御パターンを種々準備しておくことが望ましいが、CPUを用いた構成にすれば、X線撮影の種別、大人、子供などの被写体の特徴や撮影部位を入力するだけで、歯列弓Sを想定した最適化された制御パターンが算出できる。
【0040】
X線ビームの強度は、X線発生制御部62によって、公知の手法でX線発生器11の管電流及び管電圧を制御して行う。
X線発生器11から放射され、X線透過孔12S(図4(a)参照)で制限されたX線ビームは、被写体Oを透過した後はX線検出部20に入射し、X線検出器21で受け止められて、X線透過像が生成される。ここに、X線検出器21は、X線検出制御部63より制御信号が与えられて、各画素における撮像動作(光電変換)とリセット動作(電荷再結合)を繰り返すことで、所定のタイミング毎に、画像データを生成してX線検出制御部63に送出し、X線発生部10及びX線検出部20のそれぞれの位置がシフトしつつ、X線検出器21に異なる撮影位置に応じたX線透過画像が生成される。
【0041】
かくして、X線検出器21から出力されたX線透過画像は、X線検出制御部63から主制御部61、通信インターフェース65を通じて画像処理部70に送信される。
画像処理部70では、このX線検出部20からのX線透過画像を通信インターフェース65、74を通じて受信すると、メモリ部72に格納し、メモリ部72では、同一のパノラマX線撮影で取得されたX線透過画像を、1つのデータ群として纏めて記憶する。
一纏めとした画像データ群は、その撮影日時や被験者を特定する情報にリンクさせてメモリ部72に記憶し、その後、画像生成部73は、このメモリ部72に記憶された画像データ群に基づいて、パノラマ画像を生成する。
【0042】
主制御部61は、CPUを備え、走査軌道設定部61a、照射位置設定部61bを備えている。
走査軌道設定部61aでは、パノラマ撮影、セファロ撮影などのX線撮影の種別が特定された場合に、X線ビームの走査を行うために走査駆動部50が実行すべき撮影軌道の情報が設定され、照射位置設定部61bでは、更に、被写体の撮影部位に応じたX線ビームの照射位置が設定され、X線照射位置変更部Aは、これらの情報に基づいて、前述したX線ビームの走査制御がなされる。
本体制御部60は、操作部66、表示部67を備えており、表示部67には、被写体の撮影画像のほか、必要な情報が表示できる構成にしている。また、画像処理部70は、術者によるマウスやキーボードによる入力を受付ける操作部75と、画像生成部73で生成されたパノラマ画像などを表示する表示部76とを備えている。
【0043】
ついで、本発明によって取得されるパノラマX線画像を説明する。
パノラマ画像は、上述したような手法で、X線ビームを被写体Oの歯列弓Sに向けて照射してX線検出器21上にX線透過画像を生成し、生成したX線透過画像を画像データ群として画像処理部70でまとめて処理して、全顎のパノラマ画像が生成されるが、歯列弓Sに沿った撮影部位は、高さ方向に対して、左右の顎関節側が高く、前歯側が低くなっている。そのため、従来手法のX線ビームの走査では、X線ビームの高さ方向の幅は、被写体Oの撮影部位の最も高い位置となる下顎頭の上端(Px)から、最も低い位置となる下顎骨の最下縁(Py)までの全ての部位が収まるように照射する必要があり、この結果、図6の矩形で囲んだ全域がX線の被曝領域となる。
【0044】
これに対して、本発明では、パノラマ画像を撮影する場合、前述したような類型で示したX線ビームの走査制御によって、X線ビームを被写体Oの撮影部位に対応した領域に限定してX線照射がなされるので、X線の照射領域は、図6(b)の診療に寄与する白抜き部分に限定されるためパノラマ画像において診療に寄与しない領域(斜線領域)へのX線照射は遮断されることになり、その結果、X線の被曝線量が著しく軽減されることになる。
【0045】
ついで、本発明のX線撮影装置について、望ましい実施形態を、第1〜第4の実施例に分けて説明する。
<第1の実施形態>
図7は医療用X線撮影装置MAの基本構成を示している。この装置MAは、被写体OへX線を照射するX線発生器11、照射野規制部12を有したX線発生部10と、被写体Oを透過したX線発生部10からのX線を受けるX線検出器21を有したX線検出部20と、被写体Oを挟んで対向する位置にX線発生部10及びX線検出部20のそれぞれを支持する支持部材30と、被写体Oの位置を固定するための被写体保持部40と、パノラマX線撮影を行う際に支持部材30を駆動させる走査駆動部50と、装置本体の制御を行う本体制御部60と、X線検出部20で取得されたX線透過画像に基づいて画像を生成する画像処理部70とを備え、さらに、照射野規制部駆動機構13を備えている。
【0046】
この第1の実施態様では、X線照射位置変更部Aが照射野規制部駆動機構13で構成されている点が特徴となっており、照射野規制部12は、X線発生器11から照射されるX線ビームのX線透過孔12Sを変化させる構成とし、照射野規制部駆動機構13は、X線ビームの走査時に、この照射野規制部12を作動して、X線ビームの照射位置を、被写体Oの撮影部位に応じて変位させる構成されており、その他の各部の構成は、図1に示した基本構成と同様であるので、対応する部分には、同一の符号を付して、その説明は省略する。
照射野規制部12は、後述するスリット部材12aに、遮蔽部材134、136・・・を組み合わせ、X線ビームの照射を遮断して、その照射範囲を規制する機能を備え、X線発生器11から放射されたX線ビームを通過させるX線透過孔12Sを上下に移動させることで、X線ビームの高さ方向の広がりを規制して被写体Oに向けて照射するようになっている。
【0047】
照射野規制部駆動機構13による照射野規制部12の制御パターンは、前述した図2(a)などの類型が実行可能であり、パノラマ撮影を行うときは図8の(a)〜(c)に示したように、X線ビームの走査時には、支持部30を被写体Oの周りに旋回させながら、被写体Oの撮影部位に向けてX線ビームを照射させるために、照射野規制部12を作動して、X線透過孔12Sを高さ方向に変位させている。
ここに、H1,H2は、X線透過孔12Sの最上位置、最下位置を示しており、X線透過孔12Sは、支持部材30の旋回動作に伴って、X線ビームを被写体Oに照射しながら、被写体Oの撮影部位にあわせて、H1〜H2の間を上下に移動する。
図8(a)、図8(b)に示す照射野規制部12は、H1、H2間の位置変化を強調するために、H1については実際より高めに、H2については実際より低めに描いてある。そのため、X線ビームの焦点が図の上でずれるような表示になっているが、これは理解を促すための強調であり、実際の照射野規制部12のH1、H2間の位置変化は図示されているほどではない。
【0048】
図9(a)は、本発明によって得られた全顎X線パノラマ画像であり、(b)はX線パノラマ撮影を行う際の、支持部材30の旋回角度に対応させたX線透過孔12Sの高さ位置の変化を示しており、支持部材30がLEθ→MMθ→REθと旋回移動するに伴って、パノラマ画像の対応した部分LE、MM、REが順次、X線照射を受けて、対応した部分のX線透過画像がX線検出器21上に生成される。
本発明では、支持部材30が旋回している間に、X線透過孔12Sは、被写体Oの撮影部位の位置にあわせて、H1〜H2の間を上下に移動するので、図9(a)に示したような、左右の顎関節側Px、Pxが高く、前歯側MMが低くなったX線パノラマ画像が生成され、結果として、斜線部分へのX線被曝をなくすことが出来る。
【0049】
なお、医療用X線撮影装置が立位の状態で被写体のパノラマX線撮影を行うものでは、X線ビームの走査方向は支持手段の旋回軸に交差し、X線ビームと交わる水平面上または略水平な面上のX線ビームの経路上のある1点の変位方向となるが、横臥した状態でパノラマX線撮影を行うものでは、X線ビームの走査方向は支持手段の旋回軸に交差し、X線ビームと交わる垂直面上または略垂直な面上のX線ビームの経路上のある1点の変位方向となる。
また、医療用X線撮影装置がセファロX線撮影を行う場合は、X線ビームの走査方向は水平となり、照射野規制部12とX線検出器81とは同期して水平方向に移動する。
更にまた、セファロX線撮影装置で、X線ビームを垂直方向に走査させるものでは、照射野規制部12とX線検出器81とは垂直方向に同期して移動する。したがって、X線ビームの走査方向は、医療用X線撮影装置の構造やX線撮影方法に応じて特定される。
【0050】
X線検出部20は、X線検出器21を備え、X線検出器21で生成されたX線透過画像を画像データとして本体制御部60に送出する。X線検出部20はX線検出器21の交換が可能な構成であってもよいし、X線検出器21が固定されたものであってもよい。
X線検出器21は、表面に入射されたX線を可視光に変換するシンチレータと、シンチレータで変換された可視光を受光して電気信号に変換するCCD(Charge Coupled Device)センサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどのイメージセンサとで構成される。
X線検出器21はX線検出制御部63から所定タイミングでクロックパルスを受け、支持部材30の旋回動作によるシフト量に応じて撮像動作を行う。
X線検出制御部63は、所定のタイミング毎にX線検出器21で取得された画像データを受信すると、通信インターフェース65を通じて、画像処理部70に送信する。
このようなX線検出器21はX線ビームが充分検出できれば特に形状を限定することなく、適宜のものが使用できる。例えば、2次元にコーンビームが検出できるぐらいに2次元に拡がる形状のフラットパネルディテクタを用いて検出面の一部で細隙X線ビームを受光することも可能であり、検出面が細長いものには限らない。
【0051】
支持部材30は、例えば、旋回アームによって構成される。
旋回アームは、X線発生部10とX線検出部20とを、被写体Oを挟んで対向するようにして支持し、X線ビームの撮影中は、支持部材駆動部50によって被写体Oの回りを旋回する。
走査駆動部50は、支持部材30の軸部(旋回軸)Rxを水平方向(X軸方向)に変位させるためのX軸モータ51と、X軸方向と直交する方向(Y軸方向)に軸部(旋回軸)Rxを変位させるためのY軸モータ52と、X軸モータ51及びY軸モータ52の駆動によって支持部材30を水平、垂直方向に移動させるXYテーブル53と、支持部材30を軸部Rxの旋回中心Rを軸心として旋回させる旋回用モータ54とを備えている。
走査駆動部50は、X軸モータ51及びY軸モータ52が回転駆動して、XYテーブル53上で支持部材30の軸部Rxを移動させて、支持部材30の旋回中心Rを所定位置に変位させ、旋回用モータ54の回転駆動によって、X線発生部10とX線検出部20とを被写体Oの周りに旋回する。
このX軸モータ51及びY軸モータ52の回転駆動と、旋回用モータ54の回転駆動とが同時になされることで、X線発生部10及びX線検出部20による、前述したパノラマX線撮影が行われる。
【0052】
支持部材30は、X線発生部10及びX線検出部20と共に、X線撮影部を構成するが、軸部Rxを固定して、この軸部Rxを旋回用モータ54が回転駆動するようにしてもよい。
また、XYテーブル53に軸部Rxを固定し、この軸部Rxに対して支持部材30を回動可能に取り付けて、支持部材30に固定した旋回用モータ54で軸部Rxに駆動力を作用させて支持部材30を回転駆動するようにしてもよい。
【0053】
本体制御部60は、本体制御部60内の各ブロックと送受する各データの演算処理を行う主制御部61と、X線発生部10内のX線発生器11のON、OFFや、X線発生器11における管電流及び管電圧の値などを制御するX線発生制御部62と、X線検出部20内のX線検出器21を制御するとともにX線検出部20からの画像データを受けるX線検出制御部63と、走査駆動部50内の各モータ51,52,54及び照射野規制部駆動機構13へ供給する制御信号を生成するモータドライバ64と、画像処理部70との間で信号を送受信する通信インターフェース65と、術者の操作による入力を受け付ける操作部66と、液晶ディスプレイなどで構成される表示部67と、を備える。ここに、X線発生部10、X線検出部20及び支持部材30はX線撮影部を構成し、X線発生制御部62、X線検出制御部63、及びモータドライバ64はX線撮影制御部を構成している。
【0054】
本体制御部60は、操作パネルなどで構成される操作部66を設けており、術者によって、被写体となる被験者の性別や年齢などの入力を受け、X線撮影のための撮影種別や、撮影部位の位置や大きさが選択されると、選択された撮影種別、撮影部位に対して、支持手段30の撮影軌道とを算出し、更に、算出された撮影軌道が走査軌道設定部61aに設定され、X線ビーム走査に伴って、制御されるべきX線ビームの照射位置情報が照射位置設定部61bに設定される。
【0055】
例えば、撮影種別をパノラマ撮影とし、被写体が大人であれば標準的な大人に応じた位置・大きさのパノラマ断層を撮影するように、子供であれば標準的な子供に応じた位置・大きさのパノラマ断層を撮影するように旋回中心Rの軌道と、支持手段30の旋回角度とが算出され、X線ビームの撮影軌道が決定される。
パノラマ撮影は、支持手段30の旋回中心Rの移動と支持手段30の旋回動作とを合成した運動により決定されるので、旋回中心Rの軌道と、この軌道上の各位置における支持部材30の旋回角度(X線ビームの走査撮影軌道)の制御パターンを、撮影プロファイル情報として準備しておいてもよい。このプロファイル情報にはX線透過孔の高さ位置を含ませてもよい。
このような撮影プロファイル情報は基本情報を1つだけ準備して、基本情報から撮影軌道を算出するようにしてもよいし、大人・子供の別や性別などに応じた撮影軌道の複数の制御パターンを予め準備しておいて、選択して用いるようにしてもよい。
なお、上述の例は支持部材30の軸部RxをX軸モータ51とY軸モータ52の駆動で変位させる構成例であるが、支持部材30の旋回角度に応じて軸部Rxが予め設けた溝に沿って変位するような機械的な旋回軸移動案内構成としてもよく、この場合は図示の走査軌道設定部61aは必須の構成要素ではない。
【0056】
走査駆動部50は、X軸モータ51、Y軸モータ52、XYテーブル53、旋回用モータ54で構成され、支持手段30を移動することにより、上述の照射野規制部12で規制された前記X線ビームが移動し、走査によるX線撮影を行わせる。
また、図示の例ではX軸モータ51、Y軸モータ52、XYテーブル53、旋回用モータ54が走査駆動部を構成する例を示しているが、X線ビームでの走査を実現させるためにX線ビームを移動させる構成であればよく、上述のXYテーブル53を用いるものには限定されず、X線発生部10、X線検出部20を2次元に移動できる適宜な機構を採用することができる。
【0057】
主制御部61は、算出した旋回中心Rの軌道と旋回角度による撮影軌道情報を、モータドライバ64に通知し、モータドライバ64は、支持部材駆動部50内の各モータ51,52,54のそれぞれに制御信号を出力し、これにより、支持部材30が水平方向に変位しながらX線発生部10及びX線検出部20が、各位置で最適な位置に変位し旋回する。
なお、図示の例ではモータドライバ64を独立の要素として表示したが、各モータに制御信号を出力する機能を例えば主制御部61内部に持たせることもできるので、独立の要素として必須のものではない。後述する図11のモータドライバ64についても同様である。
【0058】
主制御部61は、支持部材30の旋回角度に対する、X線透過孔12Sの高さ位置の変位量を予め記憶している。
この基準情報は、パノラマX線撮影の開始時における、支持部材30の撮影開始時の旋回角度に対するX線透過孔12Sの高さ位置を基準位置とし、支持部材30が所定角度で旋回する毎に、この基準位置に対して高さ方向に変位させるX線透過孔の変位量の情報で構成される。無論、必ずしも撮影開始時の高さ位置を基準位置とせずとも、任意の位置を設定して構わない。
【0059】
主制御部61は、パノラマX線撮影の間、支持部材30の旋回角度に対する、X線透過孔12Sの高さ位置を変位する制御を行う。
このX線透過孔12Sの高さ位置は、モータドライバ64の駆動制御によって行われる。又、モータドライバ64による駆動制御により、支持部材30の移動も同時に行われる。
【0060】
主制御部61には、撮影プロファイルとして、被写体における撮影部位に応じた、X線ビームの走査撮影軌道、この軌道上の各位置における支持部材30の旋回角度に加えて、X線透過孔12Sの高さ位置を含ませてもよい。このような撮影プロファイル情報としては、前述したように、大人・子供の別や性別などに応じた複数の制御パターンを準備して選択して用いることが望まれる。
主制御部61は、この撮影プロファイル情報に基づいて、パノラマX線撮影を実行するが、撮影プロファイル情報を用いることなく、操作部66によって撮影部位の位置が入力することで、撮影開始時の旋回角度に対するX線透過孔12Sの高さ位置を算出するようにしてもよい。この場合、主制御部61は、算出した撮影開始時の旋回角度に対するX線透過孔12Sの高さ位置と、記憶している基準情報とに基づいて、図9(b)に示すような、支持部材30の旋回角度に対するX線透過孔12Sの高さ位置を決定する。
【0061】
更に、主制御部61は、X線発生制御部62及びX線検出制御部63の制御動作を、モータドライバ64による制御動作に同期させ、これにより、X線発生制御部62は、モータドライバ64によって制御される支持部材駆動部50の駆動によって決定される、支持部材30の旋回中心Rの位置や旋回角度に応じて、X線発生器11に与える管電流及び管電圧の少なくとも一方の値を制御できる。
X線発生器11に与える管電流又は管電圧は、X線発生部10がX線ビーム束を照射する領域に応じた値に設定できる。例えば、X線ビーム束の照射領域内に、X線撮影対象以外の障害物(頸椎など)がある場合は、管電流又は管電圧の少なくとも一方を大きくするなどのように、X線発生部10から照射するX線量を最適な値に制御できる。
【0062】
X線検出制御部63は、X線検出器21にクロックパルスを出力することで、X線検出器21は、所定タイミング毎に撮像動作を行う。すなわち、X線検出部20では、支持部材30の旋回動作によるシフト量に応じて、X線検出器21が撮像動作を行っており、X線検出制御部63は、所定のタイミング毎にX線検出器21で取得された画像データを受信し、通信インターフェース65を通じて、画像処理部70に送信する。
【0063】
画像処理部70は、画像処理部70の各ブロックの動作を制御する主制御部71と、本体制御部60から受信した画像データを記憶するメモリ部72と、メモリ部72に記憶された画像データに基づいてパノラマ画像を生成する画像生成部73と、本体制御部60の通信インターフェース65との間でデータを送受する通信インターフェース74と、術者によるマウスやキーボードによる入力を受付ける操作部75と、画像生成部74で生成されたパノラマ画像などを表示する表示部76と、を備える。
【0064】
このように構成される画像処理部70は、通信インターフェース65、74によって、X線検出器21で生成されたX線透過画像を順次本体制御部60から受信すると、受信した画像データをメモリ部72に記憶し、主制御部71は、メモリ部72に記憶した画像データを読み出して、画像生成部73に与える。
画像生成部73は、特定の断層面におけるパノラマ画像となるパノラマ画像データを生成して、メモリ部72に記憶させる。
その後、術者により操作部75が操作されて、パノラマ画像の表示が要求されると、メモリ部72に記憶されたパノラマ画像データが、主制御部71によって読み出されて、表示部76に与えられ、表示部76に、生成されたパノラマ画像が表示される。
【0065】
ついで、第1の実施形態の要部となるX線照射位置変更部を構成する照射野規制部駆動機構について説明する。
図10(a)〜図10(c)は、照射野規制部駆動機構13の具体例を示している。
それぞれの構成を詳細に説明すると、図10(a)に示した照射野規制部駆動機構13は、高さ方向に伸長する開口121を開設したスリット部材12aの一方端122をガイド溝131に嵌入し、スリット部材12aの反対側の他方端123に、それぞれの内部にネジ溝を形成した雌ネジ部124,124を設け、これらの雌ネジ部124,124に、ネジ山を形成したモータ133の回転軸132を螺合貫通させた構造とされており、照射野規制部12はスリット部材12aで構成され、その開口121がX線透過孔12Sを構成している。
【0066】
このような構造によれば、本体制御部60からモータ133に制御信号を与え、モータ133を正転、逆転させることで、回転軸132に螺合した雌ネジ部124,124を螺進させてスリット部材12aを上下に移動させることができるので、X線ビームの走査時に、被写体の撮影部位に応じて、モータ133を正逆転制御すれば、X線透過孔12Sを上下に移動させて、被写体Oの撮影部位に照射するX線ビームの照射位置を高さ方向に沿って変位させることができる。
【0067】
図10(b)の照射野規制部駆動機構13は、図10(a)と同一のスリット部材12aで構成された照射野規制部12に、スリット部材12aの開口121よりも水平方向に広くなった開口134cを開設した遮蔽板134を組み合わせて構成されており、遮蔽板134の一方端138をガイド溝131に嵌め入れ、遮蔽板134の反対側の他方端137に、それぞれの内部にネジ溝を形成した雌ネジ部135,135を設け、この雌ネジ部135,135に、ネジ山を形成したモータ133の回転軸132を螺合貫通させた構造とされている。
【0068】
このような構造によれば、スリット部材12aに開設された開口121と、遮蔽板134に開設した開口134cとの重ね合わせによって、X線透過孔12Sが形成される。
ここに開口134cは、縦方向は開口121のそれより小さいが、横方向は開口121のそれよりも大きい寸法になっている。
したがって、本体制御部60からモータ133に制御信号を与え、モータ133を正転、逆転させることで、回転軸132が回転して、回転軸132と螺合した雌ネジ部135,135を螺進させて、遮蔽板134を上下に移動させることができるので、X線ビームの走査時に、被写体の撮影部位に応じて、モータ133を正逆転制御すれば、X線透過孔12Sを上下させて、被写体Oへ照射するX線ビームの照射位置を高さ方向に沿って変位させることができる。
また、スリット部材12aを取り外せば、遮蔽板134の開口134cよりX線コーンビームを放射できるので、局所X線CT撮影も可能となる。
更に、スリット部材12aを着脱可能な構成とすることで、医療用X線撮影装置Mを、上述のパノラマX線撮影と局所照射X線CT撮影とを兼用する医療用X線撮影装置とすることもできる。
さらにまた、遮蔽板134の開口134cを、スリット部材12aの開口121の上下端付近に近づけて移動させたときには、遮蔽板134の開口134cと、スリット部材12aの開口121との重合部が、スリット部材12aの開口121よりも小さくなるので、そのときに形成される重合部の範囲において、X線透過孔12Sの上下方向の開口寸法も増減変化させることが出来る。
【0069】
図10(c)に示す照射野規制部駆動機構13も、スリット部材12aと、遮蔽板136とを組み合わせて構成されているが、遮蔽板136は、水平方向に移動する構成になっている。
すなわち、スリット部材12aは、前述したものと同様な縦長の開口121を開設しているが、遮蔽板136は、その下方端137をガイド溝131に嵌め入れ、上方端138に、それぞれの内部にネジ溝を形成した雌ネジ部135c,135cを設け、これらの雌ネジ部135c,135cに、ネジ山を形成したモータ133の回転軸132を螺合貫通させた構造とされている。そして、遮蔽板136に開設した開口136cは、上下が同じ寸法となって斜め下方向に延びている。
【0070】
このような構造によれば、スリット部材12aに開設された開口121と、遮蔽板136に開設した開口136cとの重ね合わせによって、X線透過孔12Sが形成されるので、本体制御部60からモータ133に制御信号を与え、モータ133を正転、逆転させれば、回転軸132が回転して、この回転軸132に螺合した雌ネジ部135c,135cを螺進させて、遮蔽板136を水平方向に移動させることができるので、X線ビームの走査時に、被写体の撮影部位に応じて、モータ133を正逆転制御すれば、X線透過孔12Sを上下させて、被写体Oへ照射するX線ビームの照射位置を高さ方向に沿って変位させることができる。
また、遮蔽板136において、水平方向に延びる開口136cを、被写体の撮影部位に応じた形状に形成しておけば、簡易なX線透過フィルタとなるので、開口136cの形状以外に照射されるX線ビームを遮断することができるので、撮影すべき被写体の撮影部位の形状に応じた開口を形成した遮蔽板を種々準備しておけば、これを取り替えることで、被写体の撮影部位以外へのX線被曝を簡易に防止することができる。
なお、図示はしないが、この第1の実施形態の変形として、X線検出部20において、X線検出器21が高さ方向に対して変位するものとしてもよい。この場合、X線発生部10の照射野規制部12の高さ位置の変位に合わせて、X線検出器21の高さ位置も変位させ、高さ方向において、X線発生器11の焦点XFからX線検出器21の検出面の中心を結ぶ直線上に、常に、照射野規制部12の中心ないしX線ビームの中心が存在するようにすれば、X線検出器21へのX線照射領域を略一定とすることができるので、X線検出器21の検出面面積を狭めることができる。また、X線検出器21がX線検出部20に固定され、支持部材30に対してX線検出部20全体が高さ方向に対して変位できる構成としてもよい。
【0071】
<第2の実施形態>
ついで、本発明の医療用X線撮影装置の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
図11は、医療用X線撮影装置MBの概略基本構成を示すブロック図である。
この実施形態の特徴は、X線照射位置変更部Aを、支持部材移動機構で構成している点にあり、図11の例では、支持部材移動機構13Aは、更に走査駆動部50によって構成されており、図1に示す医療用X線撮影装置と同一の目的で使用する部分については、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0072】
本実施形態の医療用X線撮影装置MBは、図11に示すように、支持部材移動機構13Aを備え、支持部材移動機構13Aは、支持部材30を旋回させる旋回用モータ54と、支持部材30を高さ方向(Z軸方向)に変位させるためのZ軸モータ55と、Z軸モータ55によって支持部材30を高さ方向に変位させるZ軸テーブル56と、を備える。このZ軸モータ55は、本体制御部60側に設けたモータドライバ64からの制御信号を受けて回転し、Z軸テーブル56を駆動することで、支持部材30を高さ方向(Z軸方向)に変位させる。また、スリット部材などで構成される照射野規制部12は、第1の実施形態とは異なり、X線発生部10内に固定されている。
【0073】
主制御部61は、支持部材30の走査軌道を設定する走査軌道設定部61aと、照射位置設定部61bとを備えており、被写体の撮影部位が、前述したプロファイル情報などによって特定されると、CPUを用いたプログラムが実行されて、X線ビームの走査時における走査軌道が特定されて、前述したX線ビームの走査制御がなされる。
すなわち、この第2の実施形態では、主制御部61に設けたCPUは、プロファイル情報を読み込んで、支持部材30の走査軌道を算出して、走査軌道設定部61aに算出した走査軌道を設定し、照射位置設定部61bには、X線ビームの走査時に、被写体Oの撮影部位に応じたX線ビーム照射位置が設定され、主制御部61はこれらに設定された情報に基づいて、モータドライバ64に制御信号を送出して、支持部材移動機構13Aが作動される。その結果、支持部材移動機構13Aは、支持部材30を旋回しながら、被写体Oの撮影部位に合わせて高さ方向に上下することで、X線透過孔12Sから放射されたX線ビームは被写体Oの撮影部位にのみ照射される。
【0074】
図12は、第2の実施形態において、パノラマ撮影を行う際に、X線ビームの走査時における支持部材30の高さ位置を、支持部材30の旋回角度に対応させて示した図であり、図13(a)〜(c)は、X線ビームの走査時における支持部材30と、被写体Oとの位置関係を、支持部材30の旋回動作に対応させて示している。
被写体Oの全顎パノラマX線撮影を行う場合、本実施形態では、支持部材30は、被写体Oの周りを旋回しながら、左右の顎関節部分で最高点Hxに移動し、前歯部分で最低点Hyに移動するようにして、支持部材30は最高点Hxと最低点Hyとの間を連続的に上下に移動する。
支持部材30がLEθ→MMθ→REθと旋回移動することは図9(b)と同様であるので詳述は略す。
【0075】
このとき、被写体Oや照射野規制部12に設けたX線透過孔12Sは、固定した状態にあるが、被写体OやX線透過孔12Sを同時に上下に移動させてもよく、要は、X線ビームの走査中は、その照射位置が、被写体Oの撮影部位から外れて、照射域が不用意に拡大しなければよい。
【0076】
尚、本実施形態において、支持部材移動駆動機構13Aは、支持部材30の軸部Rxを直接、上下に移動させる構成でなく、支持部材30を枢支し、かつ支持部材30全体を昇降させる昇降手段を設けて、その昇降手段を昇降させる機構によって構成されてもよい。
【0077】
図15は、支持部材30を枢支し、かつ支持部材30全体を昇降させる昇降手段である昇降アーム35が、被写体保持部40に接続された患者フレーム45に対して、高さ方向において相対的に昇降する医療装置MB‘を示しており、昇降アーム35と患者フレーム45との間にはZ軸移動機構36を設けている。
Z軸移動機構36は、その軸方向がZ軸方向(高さ方向)となるネジ軸を設け、このネジ軸をモータで回転させる構成にしてもよい。
このような構成において、X線撮影のためにX線ビームを被写体に照射しながら、Z軸移動機構36を駆動して昇降アーム35の高さ位置を患者フレーム45に対して相対的に変位させて昇降させることで、被写体OへのX線照射領域を、高さ方向に変位できる。
【0078】
図14は第2の実施形態において得られたパノラマX線画像を示している。
X線ビームの照射によってX線検出器21によって生成されるX線透過画像を、そのまま重ね合わせ並べると、生成された画像は、高さ方向の位置が無視されて、図14(a)に示したようなパノラマ画像が生成される。そのため、画像生成部73では、高さ方向の位置補正を行い、その結果、図14(b)に示したように、撮影部位が自然な高さ位置で配列されたパノラマ画像が生成される。
前述の第1の実施形態の変形である、X線検出器21が高さ方向に対して変位する変形例や、支持部材30に対してX線検出部20全体が高さ方向に対して変位できる変形例においても、同様の補正を行う。
【0079】
<第3の実施形態>
ついで、本発明の医療用X線撮影装置の第3の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0080】
本実施形態は、被写体O、支持部材30を固定した状態で、X線発生器11と照射野規制部12とを一体的に移動させる構成である。
図16は、本実施形態の要部をなすX線発生部10の概略構成を示している。
支持部材30からX線発生部10に延びる基部10Bは梁部10BMを垂下させ、その先端に軸10Pを設けている。X線発生器11は、照射野規制部12が中空のブロック11Bを介して固定されており、頂部には軸10Pが貫通する軸受11Cが固定され、軸受11Cは軸10Pまわりに回動可能となっている。
また、基部10Bには円弧の中心が軸10Pの軸心と一致するような円弧状のラック10R1が設けられ、X線発生器11の頂部にはモータ57が固定されて、その回転軸はラック10R1と噛み合うピニオン57Pが固定されている。
このような構造によれば、モータ57を回転駆動すれば、ラック10R1上をピニオン57Pが回転しながら移動するので、その移動に伴ってX線発生器11も軸10Pを中心にして回動する。
したがって、X線ビームを被写体Oに向けて照射し、支持部材30を旋回させながら、X線発生器11を回動駆動させれば、X線発生器11の回動に伴って照射野規制部12も図示の低位置RLから高位置RHに、またはその逆に変位するので、照射野規制部12に規制されたX線ビームもその照射位置を高さ方向に変位させることができる。
また、この実施形態では、軸10P、軸受11C、モータ57、ラック10R1、ピニオン57P、X線発生器11、照射野規制部12、ブロック11Bを組み合わせた機構が照射野規制部駆動機構13Bを構成している。
この第3の実施態様では、X線照射位置変更部Aが照射野規制部駆動機構13Bで構成されている点が特徴となっている。
【0081】
図17は第3の本実施形態の別構成を示す概略図である。
本実施形態では、X線発生器11が高さ方向にスライドして変位する構成になっている。
基本的な構造を説明すると、支持部材30のX線発生部10に延びる基部10Bは、1組のガイド部材10T、10Tと、ラック10R2を垂下させ、X線発生器11には複数のローラ11W・・・が対応して設けられ、これらのローラ11W・・・で、それぞれのガイド部材10T、10Tを挟持し、X線発生器10の筐体の上方に設けたモータ58の回転軸にはピニオン58Pを設けて、ラック10R2に噛合させている。
また、X線発生器11の前面には照射野規制部12が中空のブロック11Bを介して固定されている。
このような構造において、X線ビームを被写体Oに向けて照射し、支持部材30を旋回させながら、モータ58を回転駆動すれば、ラック10R2上をピニオン58Pが回転しながら移動し、その移動に伴ってX線発生器11もX線発生部10内部で高さ方向にスライドして移動する。
この実施形態では、ガイド部材11T、ローラ11W、モータ58、ラック10R2、ピニオン58P、X線発生器11、照射野規制部12、ブロック11Bを組み合わせた機構が照射野規制部駆動機構13Bを構成している。
【0082】
このような本実施形態の構成によれば、第2の実施形態のように支持手段30全体を移動させる必要はなく、X線発生器11の移動のみで、被写体の撮影部位に対してX線ビームの照射位置を変位させることが可能である。
なお、図示はしないが、この第3の実施形態の変形として、図3(b)に示したX線走査制御パターンに対応して、X線発生部10内部で支持部材30に対して固定された照射野規制部12に対してX線発生器11のみを高さ方向に移動させて、X線ビームが照射する位置を高さ方向に変位させる構成にしてもよい。
【0083】
<第4の実施形態>
本発明の医療用X線撮影装置の第4の実施形態について説明する。
本実施形態の医療用X線撮影装置は、ブロック図で示す限り、図7と異なるところはないので、ブロック図は省略する。
この第4の実施形態の特徴は、照射野規制部駆動機構13が、X線ビームの走査中において、X線透過孔の高さ方向の開口幅を広くしたり、狭くしたり変更できる機能を備えた点にある。
【0084】
図18(a),(b)は、第4の実施形態よって、実行されるX線ビームの走査制御の基本原理を示している。
このX線ビームの走査制御の特徴を、第1の実施形態と対比して説明すると、第1の実施形態では、図4(c)に示したように、X線ビームは、その走査中は、高さ方向の幅を変化させずに変位している。これは、X線透過孔12Sが開口幅を変化させずに高さ方向の位置を、被写体Oの撮影部位に応じて変位させているためであるが、第4の実施形態では、X線ビームは、その走査中は、X線透過孔12Sの高さ方向の開口幅、つまりX線ビームの高さ方向の広がりを、被写体Oの撮影部位に応じて大小変化させており、これによって、第1の実施形態よりも、高い精度でX線ビームを撮影部位に対して最適な範囲に制限して照射するようにしている。
【0085】
図18(a)は、X線ビームXBの高さ方向の幅を、X線ビームの走査に伴って、順次上下共に制限されるように絞って行くパターン、図18(b)は、X線ビームXBの高さ方向の幅を、X線ビームの走査に伴って、下端はそのままにしておき、上端のみを順次小さくして、高さ方向の幅を小さく変化させていくパターンを示している。
このX線ビームXBの高さ方向の幅の変化は、X線透過孔12Sの高さ方向の幅の制御によって実現できる。
X線透過孔12Sの高さ方向の幅は照射位置設定部61bで設定される。
実際のX撮影時には、被写体Oの撮影部位の位置や形状に応じて、X線ビームXBの高さ方向の幅を広げたり、縮めたり変化させており、この結果、図19に示したようなパノラマ画像が取得できる。
【0086】
図19は、第4の実施形態によって取得したパノラマX線画像を示している。
図中の斜線領域は、前述と同様にX線ビームの照射が遮断された領域部分である。
この図に示したパノラマX線画像を、図6のパノラマX線画像や第2の実施形態によって取得された図9(a)と比較すると、図19のパノラマX線画像では、左、右の顎関節から前歯部に至る部分と、左、右の顎関節の外方は、更にX線の照射領域が削られ、図6や図9(a)の場合に比べてより厳密に診療に寄与する領域と診療に寄与しない領域が区画されて、X線被曝がさらに軽減されている。
【0087】
図20(a)〜(c)は、第4の実施形態で使用される照射野規制部駆動機構を示している。第4の実施形態においては、X線照射位置変更部Aが照射野規制部駆動機構13Cで構成されることが特徴であり、照射野規制部駆動機構13Cは、いずれもがX線透過孔の高さ方向の開口幅を自在に変化させる態様のものを示している。
照射野規制部駆動機構13Cは照射野規制部駆動機構13の一例である。
それぞれの態様を説明すると、図20(a)に示す照射野規制部駆動機構13Cは、高さ方向に伸長する開口121を開設したスリット部材12aと、この開口121に対して互いに平行に配置された、上下で1組の遮蔽板134a,134bを組み合わせて構成され、スリット部材12aは固定されるとともに、1組の遮蔽板134a,134bは、それぞれの同じ側の一方端を、対応して設けたガイド溝131a,131bに嵌め入れ、それぞれの同じ側の他方端には、それぞれの内部にネジ溝を形成した雌ネジ部135a,135bを設け、これらの雌ネジ部135a,135bを、対応して設けた1組のモータ133a,133bのネジ山を形成した回転軸132a、132bに螺合貫通させている。
このような構造では、1組の遮蔽板134a,134bを、それらの間に隙間が形成されるように平行移動させれば(このとき、遮蔽板134a,134bのそれぞれが、開口121の上、下端を塞ぐようにする)、そのとき生じた隙間と、スリット部材12aに開設された開口121の重合した部分がX線透過孔12Sを形成する。
このような構造によれば、本体制御部60から2つのモータ133a,133bに制御信号を与え、それぞれのモータ133a、133bを組み合わせて駆動させて、1組の遮蔽板134a,134bを上下に移動させることで、X線通過孔12Sを上下方向に広くしたり、狭くできるので、X線ビームの走査時に、被写体Oの撮影部位に応じて、X線透過孔12Sの高さ方向の開口幅をより細かい精度で変化させて、被写体Oへ照射するX線ビームの照射位置を高さ方向に沿って変位させることができる。
【0088】
また、図20(b)に示す照射野規制部駆動機構13Cは、図10(a)に示したようなスリット部材12aは用いることなく、L字状の2枚の遮蔽板134a1,134b1を、中央部に開口136aが形成されるように、互いに逆向に配置した構成になっており、2枚のL字状の遮蔽板134a1,134b1は、同じ側端に、それぞれの内部にネジ溝を形成した雌ネジ部135a,135bを設け、それぞれの雌ネジ部135a、135bを、ネジ山を形成した2つのモータ133a,133bの回転軸132a,132bに螺合貫通させている。
このような構造では、2つの遮蔽板134a1,134b1の中央部に形成される開口136aがX線透過孔12Sとして使用できるので、やはり、照射野規制部12が組み込まれたものといえる。
したがって、このような構造によれば、本体制御部60から2つのモータ133a,133bに制御信号を与え、それぞれのモータ133a、133bを組み合わせて駆動させることで、X線通過孔12Sを高さ方向に広げたり狭くしたりするだけではなく、垂直方向にも広げたり、狭くしたりできるので、X線ビームの走査時に、被写体の撮影部位に応じて、被写体Oへ照射するX線ビームの照射位置をより精度高く変位させることができる。
【0089】
図20(c)に示す照射野規制部駆動機構13Cは、高さ方向に伸長する開口121を開設したスリット部材12aと、開口136dを形成した遮蔽板134dとを組み合わせ、遮蔽板134dは、その下方に基台141を設けて、基台141には、それぞれにネジ溝を形成した1組の雌ネジ部142、142を設けて、それぞれの雌ネジ部142,142を、モータ144のネジ山を形成した回転軸143に螺合貫通させている。
また、遮蔽板134dは、一方端をガイド溝に嵌入し、他方端には、それぞれにネジ溝を形成した1組の雌ネジ部135、135を設けて、それぞれの雌ネジ部135,135を、基台141上に固定したモータ133のネジ山を形成した回転軸132に螺合貫通させ、スリット部材12aに形成した開口121と、遮蔽板134dに形成した開口136dとを重合させることによって、X線透過孔12Sを形成している。
ここに、スリット部材12aに形成された開口121は、縦長の形状をなしているが、遮蔽板134dに形成した開口136dは、図では、右側端が左側端よりも寸法が大きく開口した台形状になっているので、遮蔽板134dをモータ144の回転駆動によって左方向に移動させて、開口121と開口136dを重合させて、透過孔12Sを形成すれば、X線透過孔12Sの高さ方向の開口幅は移動に伴って増大し、逆に右方向に移動させれば、X線透過孔12Sの高さ方向の開口幅は移動に伴って減少する。
したがって、本体制御部60から2つのモータ133,144に制御信号を与え、それぞれのモータ133、144を組み合わせ駆動させることで、X線通過孔12Sの高さ方向の幅を広くしたり、狭くできるので、X線ビームの走査時に、被写体Oの撮影部位に応じて、X線ビームの高さ方向の広がりを細かい精度で変化させて、被写体Oに照射することができる。
また、このような構造によれば、遮蔽板134dに形成した開口136dの形状を被写体の撮像部位に合わせて構成することで、図10(c)の場合と同様に、簡易なX線被曝防止フィルタが構成できる。
【0090】
本発明で実行されるパノラマ撮影は、X線細隙ビームを受けてX線検出器21上に生成したX線透過画像を画像処理によって配列して、全体画像を生成する前述したようなパノラマX線撮影以外に、特許文献2及び特許文献3に開示されたパノラマX線撮影装置のように、X線検出器21によってフレーム画像を連続的に撮影し、歯列弓Sに沿った曲面断層領域における所望の断層面に対するパノラマ画像を取得できるものとしてもよい。
このような方法でパノラマ画像を生成する場合、X線検出部20のX線検出器21は、水平方向及び垂直方向それぞれに並んだ画素を備えた構成とし、パノラマX線撮影を行う際には、所定タイミング毎に、1枚のフレーム画像となるX線透過画像を撮影する。そして、1回のパノラマX線撮影によって、複数フレームとなるX線透過画像がX線検出部20から出力されると、画像処理部70においては、これらの複数フレームのX線透過画像を特定断層が強調されるように重ね合わせる画像処理を行い、これにより、所望の断層面におけるパノラマX線画像を構成する。このとき、フレーム画像を重ね合わせるシフト量を調整すれば、複数の断層面も構成することができる。
【0091】
また、パノラマX線撮影として、特許文献4の局所照射X線CT装置のように、X線コーンビームを仮想局所部位に照射することで、オルソX線コーンビームによる部分画像となる画像データを抽出して、パノラマX線撮影を行うものとしてもよい。
このような仮想局所部位を利用したパノラマX線撮影を行う際、支持部材30となる旋回アームについて、その旋回中心を固定した状態で旋回させることができる。
この場合、歯列弓Sの中心中央付近(歯列弓Sの左右対象軸線上であって歯列弓Sと頸椎部の間の適切な位置)に、旋回アームの旋回中心を配置させ、X線コーンビームでその旋回中心周囲の仮想局所部位にX線照射し、そのX線ビームによる照射の一部の成分をパノラマ画像生成に利用する。また、X線コーンビームを照射する際にスリットやコリメータなどでその走査方向に規制するとともに、その規制位置をX線ビームの走査方向に従って変位させるものとして、照射するX線コーンビームのうち、パノラマ画像に必要な成分のみを被写体に照射するようにしてもよい
【0092】
本発明によってX線画像を取得するためには、まず、被写体の撮影部位を特定し、それに応じて、前述したようにX線透過孔や、支持部材を変位制御する必要がある。
被写体の撮影部位は、撮影目的、被験者の個体差によって異なるため、撮影前に簡易に準備できるものが望ましい。
【0093】
このような要望に応えるために、カメラ装置を設けて、それで被写体を撮影し、撮影した画像から撮影部位を特定できるようにすればよい。
図21、図22は、医療用X線撮影装置Mに可視光光線で撮影するカメラ装置15を備えたもので、このカメラ装置15によって撮影された画像に基づいて、パノラマX線撮影の撮影部位が設定される。
カメラ装置15は、CCDセンサ又はCMOSセンサをイメージセンサとして備えるデジタルカメラによって構成され、被写体Oの正面、側面を撮影する。
カメラ装置15で撮影した被写体Oの画像データは、画像処理部70に取り込まれ、表示部76に表示され、術者が画像データを見ながら操作部75を操作することで、撮影部位を特定する。
【0094】
カメラ装置12で被写体Oの側頭部を撮影すると、画像処理部70の表示部76には、例えば、図23に示すように、被写体Oの側頭部の全体像が表示されるので、この側頭部の全体像を見ながら、術者は、ポインティングデバイスなどを操作して撮影部位を特定する。
このようにして、術者が撮影部位を特定すると、主制御部61は、所定の演算処理を行い、X線ビームの走査時に、特定した撮影部位に応じて、X線透過孔12Sや支持部材30がX線ビームの照射位置を制御するために必要な制御データを算出する。
【0095】
図23は、カメラ装置で撮影された被写体の側頭部の画像から撮影部位が自動的に特定される要領を概念的に示している。
図23(a)に示されるような、カメラ装置12によって撮影された被写体Oの画像が、画像処理部73に入力されると、画像処理部73は、被写体Oの側頭部全域の輪郭線Edを図23(b)に示されるように検出する。
この輪郭線Edは、例えば、画素間のデータ量の微分値などの変化量に基づいて画像内の輪郭部位を検出する輪郭検出方法などによって検出する。
そして、この被写体Oの側頭部全域の輪郭線Edを検出した後は、主制御部61は、この輪郭線Edの各位置に対応する撮影部位を演算により求めて、被写体Oの側頭部における撮影部位Fを図23(c)に示されるように決定する。
例えば、検出した輪郭線Edに応じて、被写体Oの頭、額、眼、鼻、口、顎、首などの各撮影部位Fを決定する。
主制御部61は、このようにして決定した各撮影部位Fに基づいて、輪郭線Edで囲まれる領域に対して、上下顎骨が位置する領域を推定すると、主制御部61は、走査軌道設定部61aに走査軌道を設定し、照射位置設定部61bには、X線透過孔12Sや支持部材30を移動させて、X線ビームの照射位置が撮影部位に制御するために必要な制御データを設定する。
【0096】
主制御部61は、撮影部位Fが決定されることによって、支持部材30の旋回角度に対する、X線透過孔12Sの高さ位置、あるいはX線透過孔12Sを制御するための制御パラメータを算出し準備する。
また、このように決定される撮影部位Fについて、カメラ装置15で撮影された画像とともに表示部67に表示して、術者が操作部66を操作することによって一部を修正したり、部分的に拡大又は縮小できるようにしてもよい。
【0097】
また、カメラ装置12は、被写体の正面を撮影し、あるいは正面と側面との撮影を組み合わせて、被写体の撮影部位を特定してもよい。
この場合、図22に示すように、支持部材駆動部50によって支持部材30が駆動して、カメラ装置15は、被写体Oの前方における、被写体Oの顔表面全体を撮影できる位置に、位置決めされる。そして、被写体Oの側頭部を撮影した場合と同様、カメラ装置15は、被写体Oの顔表面を可視光光線により撮影し、その画像データを主制御部61に出力する。
【0098】
カメラ装置15は複数台を設置して、一度に異なる複数方向より被写体Oの画像を撮影するものにしてもよい。このとき、X線検出部10内のカメラ装置15以外に、例えば、支持部材30を支持する昇降手段(図15参照)にカメラ装置が設置されるものとしてもよい。
前述したカメラ装置15はパノラマX線撮影の場合と同様、後述の図24に示す医療用X線撮影装置MCのようなセファロX線撮影の場合にも適用できる。
【0099】
ついで、セファロX線撮影について説明する。
図24、図25には、パノラマ撮影とセファロ撮影が兼用できる医療用X線撮影装置MCを示している。
この医療用X線撮影装置MCは、支持部材30を枢支し、支柱に沿って昇降する昇降手段である昇降アーム35から固定アーム84を延出し、その先端にセファロ撮影用被写体保持部80を設ける。
支持部材30は、昇降アーム35に旋回可能に取り付けられ、その一端にはX線発生部10、他端にはX線検出部20を設けて、X線発生部10にはX線発生器11を設け、X線検出部20にはX線検出器21を設けており、X線発生部10とX線検出部20とを、間に被写体Oを挟んで、旋回させることでパノラマ撮影を行うようになっている。
また、支持部材30の一端に設けたX線発生部10は、それ自体が回動可能になっており、これによって、X線ビームの照射方向を撮影種別に応じた位置に移動させ設定できるようになっている。
一方のセファロ撮影用被写体保持部80は、被写体Oの頭部を固定する頭部固定手段83を垂下支持し、X線検出器81と、2次スリットとなる照射野規制部82を設けている。X線検出器81と、照射野規制部82は、セファロ撮影のために設けられている。
【0100】
セファロ撮影では、支持部材30側に設けたX線発生器11を共用するため、図25に示したように、支持部材30を本体昇降部30に対して斜め方向に向け、更に、X線発生部10をセファロ撮影用被写体保持部80に対して正対させて、X線発生器11から照射され、X線検出器81で受光されるX線ビームの経路上に支持部材30のX線検出部20が位置しない状態、すなわちセファロ撮影のために照射されるX線ビームをX線検出部20が妨げないように支持部材30が角度設定された状態でX線ビームを被写体Oに向けて照射し、走査する。走査は、例えばX線発生部10内で固定されたX線発生器11の前面のスリット板などの照射野規制部12と、X線検出器81、照射野規制部82とを走査方向に同期させて移動する。
【0101】
これらの構成には、本願出願人の出願にかかる特開2002−17718で提案し、開示しているX線撮影装置のような構成を適宜応用できる。
そして、X線発生部10からのX線ビームが被写体Oに対して照射され、X線検出器81では、X線ビームの走査タイミングに応じて撮像動作を行って、生成した画像データを順次本体制御部60へ送出する。このようにして本体制御部60が受信した画像データを、順次画像処理部70に送出して、1枚のセファロ画像となる画像データを生成する。
【0102】
図24、図25の医療用X線撮影装置MCにおけるX線照射位置変更部Aを構成する照射野規制部駆動機構13Dの一例を図27(a)で示す。
この照射野規制部駆動機構13Dは、基本的には図20(a)に示す照射野規制部駆動機構13Cと同様の構造なのであるが、スリット部材12aが走査方向に移動可能な構造である点が異なっている。特徴的な点を述べると、スリット部材12aの上端にはネジ溝を形成した雌ネジ部154を設けて、雌ネジ部154を、モータ133a、133bが固定されるのと同じベース上に固設したモータ用固定台151上に固定したモータ153のネジ山を形成した回転軸152に螺合貫通させている。スリット部材12aは、下端をガイド溝155に嵌入し、モータ153の駆動により走査方向に変位可能とされている。
これは、X線発生器11の前面で、セファロ撮影の走査のためにX線透過孔12Sを走査方向に移動させるためである。
【0103】
図27(a)の照射野規制部駆動機構13Dは、パノラマ撮影にもセファロ撮影にも用いることができる。
照射野規制部駆動機構13Dのスリット部材12aをさらに変形応用して、図27(b)のように、スリット部材12aにパノラマ撮影専用開口121a、セファロ撮影専用開口121bを設け、パノラマ撮影時にはパノラマ撮影専用開口121aを、セファロ撮影時にはセファロ撮影専用開口121bをX線発生器11の前面に選択的に配置して用いるようにしてもよい。
各開口の選択は、モータ153の駆動により容易に行える。
X線検出器81は、上記のように、X線検出器81の走査方向の幅を、受光する細隙X線ビームの走査方向の幅とほぼ同等の幅で構成し、細隙X線ビームの走査と同期移動するものとしてもよいが、頭部全体が投影できるような検出面を有した大判のもので構成して、X線検出器81を固定して被写体を走査する細隙X線ビームを検出面の一部で受けるようにしてもよい。
また、X線発生器11からのX線ビームの走査については、上記のように固定したX線発生器11の前面の照射野規制部12をX線発生器11に対して走査方向に摺動させて行われるものとしてもよいし、XYテーブル53を利用して、支持部材30全体を走査方向に移動させて行われるものとしてもよい。
【0104】
図26は、セファロ画像の概念を説明する図である。
セファロ撮影で画像として診療に寄与する領域は、図26のGで示した部分であり、斜線部分HはX線の被曝されないことが望まれる診療に寄与しない領域である。
すなわち、被写体Oの撮影部位は、被験者の後頭部側は、高さ方向の領域幅が狭く、顔側では、高さ方向の領域幅が広くなっている。
本発明によれば、前述した原理によって、撮影部位に制限して、X線ビームを照射できるので、図26の斜線部分HへのX線ビームの照射を遮断できる。
【0105】
また、このようなセファロX線撮影を行うことができる医療用X線撮影装置においては、X線発生部10側の照射野規制部12によって、走査するX線ビームの被写体Oへの照射領域を制限できるため、セファロ撮影用被写体保持部80側の照射野規制部82を除いた構成としてもよい。
また、照射野規制部82を備えた構成等する場合においても、照射野規制部82におけるX線透過孔の高さ位置及び高さ幅を、X線ビームの走査方向に沿って変化できる構成とし、照射野規制部82によって、その撮影対象領域に対応して、被写体OへのX線照射を制限できるようにしてもよい。
【0106】
前述したように、パノラマX線撮影の場合と同様、図21、図22のカメラ装置15は医療用X線撮影装置MCのようなセファロX線撮影の場合にも適用できる。カメラ装置15を医療用X線撮影装置MCの任意の箇所に2箇所設けて被写体Oを複数の角度から撮影してもよいし、支持手段30を旋回しつつ複数の角度から被写体Oを撮影するようにしてもよい。また、セファロ撮影においては、図23(c)の段階において、撮影部位Fの代わりに図26の撮影部位Gを認識する。
【符号の説明】
【0107】
M,MA,MB,MC 本発明の医療用X線撮影装置
XB X線ビーム
O 被写体
HD 走査方向
VD 高さ方向
10 X線発生部
11 X線発生器
12 照射野規制部
12S X線透過孔
13,13B,13C,13D 照射野規制部駆動機構
(X線照射位置変更機構)
13A 支持部材移動機構(X線照射位置変更機構)
20 X線検出部
21 X線検出器
30 支持部材
35 昇降本体
36 Z軸移動機構
37 ネジ軸
38 モータ
40 被写体保持部
45 患者フレーム
50 走査駆動部
51 X軸モータ
52 Y軸モータ
53 XYテーブル
54 旋回用モータ
55 Z軸モータ
56 Zテーブル
60 本体制御部
61 主制御部
61a 照射位置設定部
62 X線発生制御部
63 X線検出制御部
64 モータドライバ
65 通信インターフェース
66 操作部
67 表示部
70 画像処理部
71 主制御部
72 画像生成部
73 モータドライバ
74 通信インターフェース
75 操作部
76 表示部
80 セファロX線撮影部
81 X線検出器
82 照射野規制部(2次スリット部材)
83 被写体保持部
84 支持部材(支持アーム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生器とX線検出器とを被写体を挟んで対向させて支持する支持部材と、前記X線発生器から発生したX線の照射野を規制する照射野規制部と、前記照射野規制部で規制された前記X線をX線ビームとして前記被写体に対して走査させてX線撮影を行わせる走査駆動部と、を備える医療用X線撮影装置であって、
前記X線ビームの走査中に、前記X線ビームの照射位置を、前記被写体の撮影部位に応じて前記X線ビームの走査方向と交差する方向である高さ方向に変位させるX線照射位置変更部を備えたことを特徴とする医療用X線撮影装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記X線照射位置変更部は、支持部材移動機構で構成されており
前記支持部材移動機構は、前記X線ビームの走査中に、前記被写体の撮影部位に応じて、前記支持部材を移動させて、前記X線ビームの照射位置を、前記高さ方向に変位させる構成としている医療用X線撮影装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記照射野規制部は、前記X線発生器から照射される前記X線ビームの透過孔の前記高さ方向の開口幅を変位させるものであり、
前記X線照射位置変更部は、前記照射野規制部を駆動する照射野規制部駆動機構で構成されており、
該照射野規制部駆動機構は、前記X線ビームの走査中に、前記被写体の撮影部位に応じて、前記照射野規制部を作動させて、前記X線ビームの透過孔の前記高さ方向の開口幅を変位させる構成としている医療用X線撮影装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記照射野規制部は、前記X線発生器から照射される前記X線ビームの透過孔を前記高さ方向に変位させるものであり、
前記X線照射位置変更部は、前記照射野規制部を駆動する照射野規制部駆動機構で構成されており、
前記照射野規制部駆動機構は、前記X線ビームの走査中に、前記被写体の撮影部位に応じて前記照射野規制部を作動させて、前記X線ビームの透過孔を前記高さ方向に変位させる構成としている医療用X線撮影装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記照射野規制部は、前記X線発生器から照射される前記X線ビームの透過孔の開口幅を前記高さ方向に更に変位させるものであり、
前記照射野規制部駆動機構は、前記X線ビームの走査中に、前記被写体の撮影部位に応じて前記照射野規制部を作動させて、前記X線ビームの透過孔を前記高さ方向に変位させながら、前記開口幅を前記高さ方向に変位させる構成としている医療用X線撮影装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記X線ビームはX線細隙ビームであり、前記X線撮影が該X線細隙ビームを被写体に照射して走査する、パノラマX線撮影であることを特徴する医療用X線撮影装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記X線検出器が、フレーム画像を撮像する2次元X線検出器で構成されており
前記パノラマX線撮影を実行したときに前記2次元X線検出器で得られた複数フレームのフレーム画像に基づいて、前記被写体の撮影部位における、特定の断層面のパノラマ画像を生成することを特徴とする医療用X線撮影装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、
前記X線撮影が、前記支持部材の旋回中心を固定して旋回させて行うパノラマX線撮影であることを特徴する医療用X線撮影装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、
前記X線撮影が、前記X線細隙ビームを前記被写体に照射して走査する、セファロX線撮影であることを特徴する医療用X線撮影装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記X線照射位置変更部は、前記X線ビームの前記高さ方向の位置、前記X線ビームの前記高さ方向の幅のうちの少なくとも一方を設定可能にする照射位置設定部を備えたことを特徴とする医療用X線撮影装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項において、
前記被写体を撮影するカメラを更に備え、
前記X線照射位置変更部は、該カメラで撮影された前記被写体の画像に基づいて、該被写体の撮影領域を特定することを構成としている医療用X線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−41598(P2011−41598A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190082(P2009−190082)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】