説明

半導体デバイス表面の防錆方法

【課題】化学的機械研磨加工の施された半導体デバイス表面を防錆するベンゾトリアゾールに代わる簡便な防錆方法を提供する。
【解決手段】化学的機械研磨加工の施された半導体デバイスの研磨面に炭酸エチレンの皮膜を形成する。炭酸エチレンは、融点 36.4℃の毒性の小さい水溶性の物質であり、皮膜の形成された半導体デバイスを温水等に浸漬することにより容易に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的機械研磨加工された半導体デバイス表面の防錆方法に係り、特に、研磨面に銅配線を有する半導体デバイス表面の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのデザインルールの縮小化に伴って、層間膜等を平坦化するため化学的機械研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing )が用いられている。
【0003】
このCMPによる半導体デバイス(ウェーハ)の研磨は、回転する研磨パッドにウェーハを回転させながら押し付け、研磨パッドとウェーハとの間に研磨剤スラリーを供給することにより行われる。
この研磨剤スラリー中には、主として研摩された銅配線が化学腐食(研磨スラリー、希釈研磨スラリー、超純水中での腐食)、及び光腐食(ウェーハ表面に研磨スラリー、洗浄液、超純水が付着している場合に発生)により、酸化するのを防止するため、銅の防錆剤であるベンゾトリアゾールが配合されている。
【特許文献1】特開2004−292792
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学的機械研磨加工されたウェーハは、この後、洗浄され、乾燥されて次工程の処理が行われる。このとき銅配線の表面には、銅とベンゾトリアゾールの反応による強固なポリマー状の疎水性皮膜が形成されているため、次工程の処理に先立って、この強固な皮膜を除去するための還元・分解及び表層の酸化膜除去を行う洗浄工程を必要とする難点があった。
【0005】
さらに、洗浄によりベンゾトリアゾールが除去された場合、CMP後の後処理工程で銅の防錆作用が弱まることが大きな問題であった。
【0006】
さらに、ベンゾトリアゾールは、変異原性の疑いがあるといわれており、生分解性がなく環境負荷が高いため、排水に特別な処理が必要になるという難点もある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題に対処してなされたもので、半導体デバイス表面の簡便な防錆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の半導体デバイス表面の防錆方法は、化学的機械研磨加工の施された半導体デバイスの研磨面に炭酸エチレンの皮膜を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明に用いられる炭酸エチレンは、融点 36.4℃、沸点 248℃、引火点 160℃の室温で無色無臭の安定な固体であり、沸点・引火点が高く、毒性が小さく、消防法における危険物に指定されていない物質である。また、炭酸エチレンは、極性溶剤によく溶解し、温水には速やかに溶解する。さらに、炭酸エチレンは銅に対する腐食が全くない。
【0010】
本発明においては、周知の化学的機械研磨加工された半導体デバイス(ウェーハ)は、まず、洗浄液で洗浄されて表面に付着した研磨剤スラリーが除去される。
【0011】
洗浄には、超純水やイソプロピルアルコール、その他の有機溶剤などの公知の洗浄液が用いられる。洗浄液には、界面活性剤を添加することもできる。洗浄は、一段で行ってもよいし、洗浄とリンスの複数段で行ってもよい。リンス液としては、超純水や公知の低沸点の有機溶剤が用いられる。
【0012】
また、次の処理工程の前に洗浄工程をおく場合には、化学的機械研磨加工後の洗浄工程を省略して直ちに炭酸エチレンによる防錆処理を行うことも可能である。
【0013】
洗浄された(洗浄の省略された)半導体デバイスは、次に、炭酸エチレン液に浸漬されて表面に炭酸エチレンの皮膜が形成される。
【0014】
炭酸エチレン液としては、炭酸エチレンを37℃以上、好ましくは40℃〜60℃程度に加温して溶融させた融液や炭酸エチレンを有機溶剤に溶解させた溶液を用いることができる。
【0015】
有機溶剤としては、たとえば、炭酸エチレンの沸点(248℃)以下のアルコールで沸点が100℃以下のメタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の1価の低級アルコール類、酢酸エチル、アセトン、エチルメチルケトン等を用いることができる。
【0016】
炭酸エチレンの皮膜は、半導体デバイスを炭酸エチレンの融液中に浸漬し融液から引き上げるか、半導体デバイスの研摩面に前記融液を噴霧するか、もしくは半導体デバイスの研摩面に前記融液を滴下してから炭酸エチレンの融点より低い温度にまで放冷することにより形成することができる。
【0017】
また、炭酸エチレンの溶液に半導体デバイスを浸漬し、溶液から引き上げてから加熱により溶媒を揮散させ、しかる後、炭酸エチレンの融点より低い温度にまで放冷することによっても形成することができる。
【0018】
このようにして、銅配線の露出した研摩面に炭酸エチレンの皮膜が形成された半導体デバイスは、酸素や腐食性ガスに対する耐透過性に優れており、クリーンルーム雰囲気は勿論、腐食性ガスに対しても長時間にわたり銅配線を腐食(変色)から防護することができる。
【0019】
半導体デバイス表面に形成された炭酸エチレンの皮膜は、次工程の処理に先立って、炭酸エチレンに対する溶剤、例えば温水に浸漬することにより容易に除去することができる。
【0020】
銅表面に対する腐食性のない溶剤として、たとえば、塩酸水溶液、硫酸水溶液、酢酸水溶液、有機酸水溶液(乳酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酪酸、酒石酸、マロン酸)等を用いるようにしてもよい。
【0021】
なお、本発明においては、半導体デバイス(ウェーハ)の化学的機械研磨加工を、銅線への酸化の影響が考えられる水を全く使用しない次の工程を順により行うことも可能である。
【0022】
(1) 銅膜の化学的機械研磨加工
炭酸エチレンを分散媒とする研磨剤スラリーを用いて炭酸エチレンの37℃以上の温度で銅膜の化学的機械研磨加工を行う。
(2) バリア層(Ta/TaN)の化学的機械研磨加工
37℃以上の炭酸エチレンを分散媒とする研磨剤スラリーを用いて炭酸エチレンの融点以上の温度でバリア層の化学的機械研磨加工を行う。
(3) リンス
37℃以上の炭酸エチレンを用いてスラリーをリンスする。
(4) 洗浄1
37℃以上の炭酸エチレンベースのアルカリ界面活性剤により洗浄する。
(5) 洗浄2
37℃以上の炭酸エチレンベースの有機酸により洗浄する。
(6) リンス
37℃以上の炭酸エチレンによりリンスを行った後、冷却して炭酸エチレンの防錆膜を形成する。
(7) 防錆膜の除去
37℃以上の温超純水によりリンスして表面の炭酸エチレン皮膜を除去する。
(8) 乾燥
イソプロビルアルコール(IPA)による上記乾燥を行う。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、化学的機械研磨加工後の半導体デバイスの防錆を、半導体デバイスの表面に炭酸エチレンの皮膜を形成することにより達成したので、防錆皮膜の除去を簡単に行うことができ、しかも変異原性の疑いのあるベンゾトリアゾールを使用しないので、排水に対して特別な処理も要しない。また、炭酸エチレンは、例えば特開平2006−241088に開示されているように、回収再利用も可能なので環境への放出を最小限にしたり、再利用による生産コストの低減を図ることも可能である。
【0024】
特に、前述した化学的機械研磨加工から防錆膜の形成まで水を使用しないプロセスを用いた場合には、銅線の腐食の問題が全く解消され銅表面の清浄度が一層改善される上に、炭酸エチレンはバリア層(Ta/TaN)に対する濡れ性が高いので半導体デバイス表面にウォーターマークの形成がなく、さらに炭酸エチレンの再利用が可能なため、環境に対する負荷を軽減することができる。また、化学的機械研磨加工中に運転を中止しなければならない事情が生じた場合でも、銅表面が炭酸エチレンにより防護されているため、銅表面が変色するようなことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0026】
実施例1
(炭酸エチレン皮膜の形成)
銅配線の露出した研摩後の半導体デバイスの模擬試料として、20mmx20mmx1mmの銅プレート(関東化学(株)製 1級(99.85%)を使用した。
【0027】
この銅プレートを1規定の塩酸に30分間浸漬し、超純水でリンスした後、乾燥させ、40℃に加熱した炭酸エチレンの融液に10分間浸漬し、室温(25℃)に10分間放置して、炭酸エチレンの皮膜を形成し、腐食試験に供した。(試料No.1)。
【0028】
腐食試験は、200mlのビーカーに100mlの超純水(溶存酸素:10ppm)を入れ、その上に保持具で試料の銅プレートを吊り下げて超純水中に浸漬しビーカーの上部を蓋で覆って室温(25℃)で放置した。
【0029】
結果は次のとおりであった。
試料 放置時間 表面の色
No.1 24時間 1
168時間 1
No.2 24時間 1
168時間 1
No.3 24時間 2
168時間 3
なお、試料No.2は、ベンゾトリアゾール(0.05%)水溶液で処理した銅プレートを、試料No.3は未処理の銅プレートであり、本発明との比較のために示したものである。
【0030】
また、「表面の色」の数字は、変色した表面の色をマンセル記号(7.94YR.4.14/6.45)で示したものである(以下、同じ。)。
【0031】
数字は、腐食試験前の銅プレートの色を「1」、2%の過酸化水素水溶液に24時間浸漬した後の色(マンセル記号:7.94YR.4.14/6.45)を「5」として、その間をほぼ5等分したものである。
【0032】
以上の実施例からも明らかなように、本発明によれば、銅表面を効果的に防錆することができる。
【0033】
なお、以上の実施例では、半導体デバイスの銅配線の防錆について説明したが、本発明は、半導体デバイス以外の銅表面の防錆にも使用できることは勿論である。
【0034】
(炭酸エチレン皮膜の除去)
実施例1と同じ銅プレートを使用し同じ条件で作成した炭酸エチレン皮膜を形成した試験試料(試料No.4)を、45℃の温超純水に浸漬して放置した。
【0035】
この試験試料は、1時間温超純水に浸漬後、24時間、室温(25℃)の超純水に浸漬した後の表面の色が未処理の試料No.3 と同じ[2]となり、温水により炭酸エチレンの皮膜が完全に溶解除去されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的機械研磨加工の施された半導体デバイスの研磨面に炭酸エチレンの皮膜を形成することを特徴とする半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項2】
化学的機械研磨加工の施された半導体デバイスを洗浄する工程と、
洗浄された半導体デバイスの研磨面に炭酸エチレンの皮膜を形成する工程と
を有することを特徴とする半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項3】
化学的機械研磨加工の施された半導体デバイスを洗浄する工程と、
洗浄された半導体デバイスを乾燥する工程と、
乾燥された半導体デバイスの研磨面に炭酸エチレンの皮膜を形成する工程と
を有することを特徴とする半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項4】
炭酸エチレンの皮膜は、半導体デバイスを炭酸エチレンの融液中に浸漬し前記融液から引き上げるか、前記半導体デバイスの研摩面に前記融液を噴霧するか、もしくは前記半導体デバイスの研摩面に前記融液を滴下することにより形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項5】
炭酸エチレンの皮膜は、半導体デバイスを炭酸エチレンの溶液中に浸漬し前記溶液から引き上げた後、乾燥させることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項6】
研磨面に炭酸エチレン皮膜の形成された半導体デバイスを、前記炭酸エチレンの皮膜を溶解する溶媒中に浸漬して前記炭酸エチレンを除去する工程と、
炭酸エチレン皮膜の除去された半導体デバイスを乾燥する工程とを、
さらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項7】
炭酸エチレンを溶解する溶媒が温水であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の半導体デバイス表面の防錆方法。
【請求項8】
半導体デバイスの研磨面には、銅配線が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の半導体デバイス表面の防錆方法。

【公開番号】特開2008−140933(P2008−140933A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324745(P2006−324745)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】