説明

半導体モジュールと半導体モジュールの製造方法

【課題】 封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が剥がれてしまうのが防止された半導体モジュールを提供する。
【解決手段】 半導体モジュール12は、半導体素子15と、表面側導電板14と、裏面側導電板16、17と、封止樹脂20を備えている。半導体素子15は、表面側電極と裏面側電極を有している。表面側導電板14は、半導体素子15の表面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子15よりも外方に延びている。裏面側導電板16、17は、半導体素子15の裏面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子15よりも外方に延びている。封止樹脂20は、表面側導電板14と裏面側導電板16、17の間の空間を充填している。表面側導電板14と裏面側導電板16、17の内面であって、封止樹脂20と接する領域に、アンダーカット状の側面を持つ凹部23が分散配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子が封止樹脂によって封止されている半導体モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面側電極と裏面側電極を有する半導体素子と、半導体素子の表面側電極に接続固定されている表面側導電板と、半導体素子の裏面側電極に接続固定されている裏面側導電板を備える半導体モジュールが知られている。表面側導電板と裏面側導電板は、半導体素子に通電するとともに、半導体素子の放熱を行う機能を有している。半導体モジュールの発熱量は、年々大きくなっている。このため、半導体モジュールの放熱を効率良く行うために、表面側導電板と裏面側導電板が、半導体素子よりも外方に延びている半導体モジュールが出現している。表面側導電板と裏面側導電板が、半導体素子よりも外方に延びていることによって、放熱面積が大きく確保されている。表面側導電板と裏面側導電板の間の空間は、封止樹脂によって充填されている。封止樹脂は、半導体素子を封止するとともに、接着することによって表面側導電板と半導体素子と裏面側導電板を拘束している。
表面側導電板と半導体素子、裏面側導電板と半導体素子は、線膨張係数が異なっている。このため、半導体モジュールが繰り返し温度変化すると、表面側導電板と半導体素子、裏面側導電板と半導体素子を接続固定しているはんだ層に繰り返し応力が作用する。封止樹脂によって、表面側導電板と半導体素子と裏面側導電板が拘束されていると、はんだ層に作用する応力が緩和される。よって、はんだ層の破断が防止される。
【0003】
封止樹脂を充填するときには、接続固定して一体化した表面側導電板と半導体素子と裏面側導電板を成形型内に配置する。そして、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間に、高温な液体状の樹脂を流し込んで硬化させる。樹脂は、硬化にともなって収縮する。また、常温まで温度が低下することによっても収縮する。このような収縮が起きると、封止樹脂が表面側導電板と裏面側導電板の内面のいずれかから、あるいは双方から剥がれてしまうことがある。
特許文献1には、封止樹脂を充填する前に、表面側導電板と裏面側導電板の内面に、封止樹脂と強く接着するコーティング層を形成する技術が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−329828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、表面側導電板と裏面側導電板の内面に、封止樹脂と強く接着するコーティング層を形成しても、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が剥がれてしまうのを防止するのは難しい。封止樹脂の収縮する力が非常に大きいからである。半導体素子の片側の電極にのみ導電板が接続固定されており、半導体素子を封止樹脂が封止している半導体モジュールでも、封止樹脂が導電板から剥がれようとする。この場合には、コーティング層によって封止樹脂が導電板から剥がれるのを防止することができる。しかしながら、半導体素子に表面側導電板と裏面側導電板が接続固定されており、その間を封止樹脂が充填している半導体モジュールでは、封止樹脂が剥がれようとする力が大きく、コーティング層では不十分である。
本発明は、その問題を解決するためになされたものであり、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が剥がれてしまうのを防止する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体モジュールは、半導体素子と、表面側導電板と、裏面側導電板と、封止樹脂を備えている。半導体素子は、表面側電極と裏面側電極を有している。表面側導電板は、半導体素子の表面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子よりも外方に延びている。裏面側導電板は、半導体素子の裏面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子よりも外方に延びている。封止樹脂は、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間を充填している。表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接する領域に、アンダーカット状の側面を持つ凹部が分散配置されている。
ここで、アンダーカット状の側面とは、表面側導電板と裏面側導電板の内面に垂直な方向に対して、凹部に入り込んで硬化した封止樹脂に掛止する向きに傾斜している側面を意味する。また「表面/裏面」は相対的な位置関係を示しており、半導体モジュールの表面/裏面と必ずしも一致するものではない。
この半導体モジュールによれば、充填された封止樹脂の一部は、分散配置されている凹部に流れ込んで硬化する。凹部に入り込んで硬化した封止樹脂は、アンダーカット状の側面に掛止される。よって、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が、剥がれるのが防止された半導体モジュールを実現することができる。実験によれば、アンダーカット状の側面による封止樹脂の剥がれを防止する力は非常に大きい。このため、強く接着するコーティングでは封止樹脂の剥がれを防止できない表面側導電板と裏面側導電板を備える半導体モジュールでも、剥がれを充分に防止することができる。
【0007】
上記の半導体モジュールにおいて、凹部同士が連通していることが好ましい。
凹部同士が連通していると、その連通している部位を通過して、凹部から凹部に、液状の樹脂を順次流れ込ませることができる。このようにすると、凹部に液状樹脂が流れ込むときに、液状樹脂が空気を押し出すことによって、凹部に空気が残ったまま樹脂が硬化してしまうのが防止される。よって、封止樹脂は、より剥がれにくくなる。この技術は、液状樹脂を流し込むときに上方に配置される導電板の凹部(すなわち、下方を向いて開口している凹部)に対して特に有効である。下方に向いた凹部には、空気が残りやすいからである。
【0008】
本発明の半導体モジュールの製造方法は、半導体素子の表面側電極に接続固定されている表面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、半導体素子の裏面側電極に接続固定されている裏面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間に封止樹脂が充填されている半導体モジュールを製造する。その製造方法は、表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された凹部を形成する第1工程と、凹部と凹部が挟む部位をクサビ状のプレス型の先端部でプレスする第2工程を備えている。
この半導体モジュールの製造方法によれば、凹部と凹部が挟む部位をクサビ状のプレス
型の先端部がプレスすることによって、凹部の側面がアンダーカット状に形成される。よって、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が、剥がれてしまうのが防止される。
【0009】
本発明の半導体モジュールの他の一つの製造方法は、表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域を、表面側導電板と裏面側導電板の内面に対して傾斜した方向からプレス型の先端刃でプレスすることによって、アンダーカット状の側面を持つ凹部を分散配置する工程を備えている。
表面側導電板と裏面側導電板の内面の封止樹脂と接することになる領域に、アンダーカット状の側面を持つ凹部を分散配置しておくと、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が、剥がれてしまうのが防止される。
【0010】
本発明の半導体モジュールのさらに他の一つの製造方法は、表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された凹部を形成する凹部形成工程と、表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された溝を形成する溝形成工程とを備えている。凹部形成工程と溝形成工程が実行されることによって、凹部同士が溝によって連通される。
凹部同士が溝によって連通していると、その溝を通過して、凹部から凹部に、液状の樹脂を順次流れ込ませることができる。このようにすると、凹部に液状樹脂が流れ込むときに、液状樹脂が空気を押し出すことによって、樹脂は、凹部に充分に入り込んだ状態で硬化する。樹脂が凹部に充分に入り込んで硬化すると、封止樹脂と表面側導電板、封止樹脂と裏面側導電板が、剥がれてしまうのが防止される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、両面に導電板を有する放熱性と絶縁性に優れた半導体モジュールの信頼性を高めることができる。両面に導電板を有する半導体モジュールは、放熱性と絶縁性に優れているものの、大きな熱応力が発生する。従って、封止樹脂で確実に拘束しておかないと、はんだ層が応力によって破断してしまい、信頼性が低下する。封止樹脂が表面側導電板と裏面側導電板の内面から、長期に亘って剥がれないようにするのは困難である。この問題は、凹部を利用すると、見事に解決される。長期に亘って、表面側導電板と裏面側導電板の内面から封止樹脂が剥がれるのを防止することができる。本発明によって、両面に導電板を有する半導体モジュールで、初めて、長期に亘る信頼性を確保することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
後述する実施例の主要な特徴を記載する。
(形態1)
パワーモジュールは、コレクタ導電板、パワー素子、小型導電板、エミッタ導電板、封止樹脂を有している。パワー素子のコレクタ電極とコレクタ導電板は、はんだ層によって固定されている。パワー素子のエミッタ電極と小型導電板の一方側の面は、はんだ層によって固定されている。小型導電板の他方側の面とエミッタ導電板は、はんだ層によって固定されている。コレクタ導電板とエミッタ導電板の間には、封止樹脂が充填されている。
コレクタ導電板とエミッタ導電板の内面であって、封止樹脂と接する領域には、アンダーカット状の側面を持つ凹部が分散配置されている。凹部側面のアンダーカットは、隣接する凹部と凹部を隔てる壁の頂面を、クサビ状部を持つプレス型でプレスして形成する。
凹部に入り込んで硬化した封止樹脂は、アンダーカット状の側面に掛止される。よって、封止樹脂とコレクタ導電板、封止樹脂とエミッタ導電板が剥がれてしまうのが防止される。
(形態2)
隣接する凹部同士は、切欠きによって連通されている。
(形態3)
コレクタ導電板とエミッタ導電板の内面であって、封止樹脂と接する領域には、連続する凹部がプレス加工で形成されている。凹部と凹部に挟まれて、凸部が形成されている。凹部の側面は、アンダーカット状に形成されている。そのアンダーカットは、凸部の頂面をクサビ状部を持つプレス型でプレスして形成する。
(形態4)
コレクタ導電板とエミッタ導電板の内面であって、封止樹脂と接する領域には、掛止部が分散配置されている。掛止部は、連続する凹部を有している。連続する凹部の平面形状は、方形状である。凹部の一方の側面は、アンダーカット状に形成されている。凹部を形成するときには、コレクタ導電板あるいはエミッタ導電板の内面を、斜め方向からプレス型でプレスする。
【実施例】
【0013】
(第1実施例)
本発明を半導体モジュールの一種であるパワーモジュールに適用した第1実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、パワーモジュール12は、コレクタ導電板14、パワー素子15、小型導電板16、エミッタ導電板17、制御端子18、封止樹脂20を有している。
コレクタ導電板14は、略矩形板状に形成されている。コレクタ導電板14の内側中央には、平面部29が設けられている。平面部29の周囲領域には、複数の凹部23が形成されている(凹部23が分散配置されている)。なお、図1では、明瞭化のために、凹部23を実際よりも大きく、かつ少なく図示している。
パワー素子15は、略方形板状に形成されている。パワー素子15には、電力をスイッチングするトランジスタ(例えば「IGBT」)やダイオードが多数収容されている。パワー素子15の一方側(図1の下方側)の面には、コレクタ電極(図示省略)が設けられている。パワー素子15の他方側の面には、エミッタ電極(図示省略)が設けられている。パワー素子15の他方側の面の端部には、制御電極や信号取出端子(図示省略)が複数設けられている。各制御電極には、配線30の一端が接続されている。配線30の他端には、制御端子18が接続されている。配線30と制御端子18は、紙面垂直方向に複数配されている。パワー素子15のコレクタ電極とコレクタ導電板14の平面部29は、はんだ層24によって固定されている。
【0014】
小型導電板16は、ブロック状に形成されている。小型導電板16の一方側の面とパワー素子15のエミッタ電極は、はんだ層25によって固定されている。
エミッタ導電板17は、略矩形板状に形成されている。エミッタ導電板17の内側中央には、平面部26が設けられている。平面部26の周囲領域には、複数の凹部28が形成されている。凹部28は、コレクタ導電板14の凹部23と同形状である。エミッタ導電板17の平面部26と小型導電板16の他方側の面は、はんだ層27によって固定されている。
コレクタ導電板14、小型導電板16、エミッタ導電板17、制御端子18は、金属製(例えば、銅製)である。
封止樹脂20は、コレクタ導電板14とエミッタ導電板17との間、およびコレクタ導電板14とエミッタ導電板17の外周部を封止している。封止樹脂20は、液状の樹脂が硬化したものである。封止樹脂20を硬化させるときには、はんだ層24、25、27によって固定されて一体化したコレクタ導電板14とパワー素子15と小型導電板16とエミッタ導電板17と、制御端子18を成形型のキャビティ内に配置する。このときには、コレクタ導電板14に設けられているバスバー21と、エミッタ導電板17に設けられているバスバー31と、制御端子18の一部を、キャビティから突出させておく。そして、成形型内に高温の液状樹脂を充填する。このときには、成形型も加熱されて高温になっている。すると、充填された液状樹脂は、成形型内で高温のまま硬化する。封止樹脂20には、例えば、エポキシ樹脂を用いる。
【0015】
コレクタ導電板14の凹部23と、エミッタ導電板17の凹部28を形成する技術について説明する。凹部23と凹部28は、同じ技術によって形成されているので、凹部23で代表して説明する。
最初に、コレクタ導電板14の平面部29の周囲領域に、図2、図3に示すように、等間隔に配置された方形状の凹部23を複数形成する。凹部23は、方形状の凸部を複数有するプレス型で、コレクタ導電板14をプレスして形成する。凹部23が形成されることによって、各凹部23を隔てる壁37が形成される。
続いて、コレクタ導電板14をさらにプレス加工する。そのプレス加工では、図4に示すプレス型35を用いる。プレス型35は、直交する複数のクサビ状部36を持っている。そして、図5に示すように、壁37とクサビ状部36が対向するようにプレス型35を配置し、コレクタ導電板14をプレス加工する。
図6に示すように、プレス型35でコレクタ導電板14をプレスすると、プレス型35のクサビ状部36が壁37に食い込む。クサビ状部36が壁37に食い込むと、図7に示すように、凹部23の側面39がアンダーカット状に形成される(深部が拡大した凹部23が形成される)。図8は、コレクタ導電板14の凹部23が形成された部分を平面視している。壁37の上面には、プレス型35のクサビ状部36によって、溝38が形成されている。
【0016】
封止樹脂20は、175±10(℃)の高温状態下で硬化する。封止樹脂20は、硬化するときに、0.1±0.05(%)(線収縮率)ほど体積が収縮する(硬化収縮)。また、封止樹脂20は、高温で硬化してから常温まで温度が低下するときに、線膨張係数(14±2(ppm/K))によって定まる分だけ体積が収縮する(熱収縮)。
小型導電板16を、例えば銅製とした場合、その線膨張係数は17(ppm/K)程度である。パワー素子15の線膨張係数は、2〜4(ppm/K)である。従って、硬化樹脂20が硬化収縮と熱収縮を起こすと、その収縮量は、小型導電板16とパワー素子15の温度低下による収縮量よりも大きい。このため、硬化樹脂20は、コレクタ導電板14とエミッタ導電板17から剥がれようとする。
【0017】
封止樹脂20は、充填されたときに、その一部がコレクタ導電板14の凹部23とエミッタ導電板17の凹部28に入り込んで硬化する。上述したように、凹部23と凹部28の側面は、アンダーカット状に形成されている。このため、封止樹脂20の凹部23、28に入り込んでいる部分は、アンダーカット状の側面に掛止される(凹部23、28から抜け出しにくくなる)。従って、封止樹脂20とコレクタ導電板14、封止樹脂20とエミッタ導電板17は強く接合され、剥がれてしまうのが防止される。
【0018】
コレクタ導電板14の内面とエミッタ導電板17の内面に、封止樹脂と強く接着するコーティング層を形成する技術が知られている。このようなコーティング層を形成しても、封止樹脂は、コレクタ導電板14とエミッタ導電板17のそれぞれに凹部23と凹部28を形成する場合ほどには、強く接合されない。また、コーティング層がコレクタ導電板14とエミッタ導電板17の外面に付着すると、導電板14、17の放熱性能が低下する。このため、コレクタ導電板14の外面とエミッタ導電板17の外面をマスキングした状態で、コーティング液に浸漬することによって、コレクタ導電板14とエミッタ導電板17にコーティング層を形成しなければならない。このような複雑なプロセスでコレクタ導電板14とエミッタ導電板17にマスキング層を形成するのは、手間がかかる。本発明の技術によれば、マスキング層を形成することなく、コレクタ導電板14、封止樹脂20とエミッタ導電板17を強く接合することができる。
【0019】
(第2実施例)
第1実施例と重複する内容は省略し、本第2実施例の特徴的な内容のみを説明する。
図9、図10に示すように、壁37には、隣り合う凹部23同士を連通させる切欠き41が形成されている。
凹部23と切欠き41が形成されているコレクタ導電板14をプレス型35でプレス加工すると、第1実施例と同様に、凹部23の側面39がアンダーカット状に形成される。図11は、コレクタ導電板14の凹部23が形成された部分を平面視している。
この場合、液状の樹脂を充填するときに、コレクタ導電板14が拡がる方向に沿って、一方端から他方端に向かって流し込むのが好ましい。すると、液状樹脂は、切欠き41を通過して順次隣の凹部23に流れ込んでゆく。凹部23の側面39は、アンダーカット状に形成されている。このため、凹部23の開口から液状樹脂を流し込むと、内部に空気が残ったまま封止樹脂20が硬化してしまうことがある。凹部23の内部に空気が残ったまま封止樹脂20が硬化してしまうと、凹部23から封止樹脂20が抜け出しやすくなる。切欠き41を通過して液状樹脂が凹部23に流れ込むと、押し出されるようにして、空気が凹部23から除去される。
切欠き41を形成する技術は、導電板がパワー素子の片面側にのみ存在するパワーモジュール(片面冷却タイプ)にも適用することができる。
【0020】
(第3実施例)
本第3実施例の特徴的な内容のみを説明する。
本第3実施例では、図12に示すように、コレクタ導電板14の平面部29の周囲領域に、連続する凹部(溝)45をプレス加工によって形成する。凹部45を形成したことによって、凹部45と凹部45に挟まれた凸部44が形成される。そして、プレス型35のクサビ状部36の交差部分が凸部44の頂面中央に対向するようにして、プレス型35で凸部44をプレスする。プレス型35で凸部44をプレスすると、クサビ状部36が凸部44に食い込むことによって、図13に示すように、凹部45の側面46がアンダーカット状に形成される。図14は、コレクタ導電板14の凹部45が形成された部分を平面視している。エミッタ導電板17の平面部26の周囲領域にも、凹部45と同様な、アンダーカット状の側面を持つ凹部を形成する。
【0021】
封止樹脂20を充填するときには、第2実施例と同様に、液状樹脂をコレクタ導電板14が拡がる方向に沿って、一方端から他方端に向かって流し込むのが好ましい。そのようにすると、液状樹脂は、凹部45を通過して充填されてゆく。このため、凹部45内から、空気が押し流されるようにして除去される。
凹部45の側面46がアンダーカット状に形成されていると、凹部45に入り込んで硬化した封止樹脂20は、凹部45から抜け出しにくくなる。従って、封止樹脂20とコレクタ導電板14は、強く接合され、剥がれるのが防止される。封止樹脂20は、凹部45と同形状の凹部が形成されているエミッタ導電板17からも剥がれるのが防止される。
【0022】
(第4実施例)
本第4実施例の特徴的な内容のみを説明する。本第4実施例の技術は、コレクタ導電板14とエミッタ導電板17の両者に適用することができる。以下においては、コレクタ導電板14で代表して説明する。
図16、図17は、コレクタ導電板14の平面部の周囲領域に分散配置される掛止部58を示している。図17に良く示すように、掛止部58は、方形状に連なる凹部52と、凹部52の外方に形成された凹部56と、凹部56のさらに外方に形成された凹部59を有している。図17に良く示すように、凹部52、56、59の一方の側面55は、アンダーカット状に形成されている。
凹部52、56、59を形成するときには、図15に示すように、紙面直角方向に延びる3本の刃51を持つプレス型50で、コレクタ導電板14を、その面に対して傾斜した状態でプレスする。
掛止部58は、アンダーカット状の側面55を有しているので、凹部52,56、59に入り込んで硬化した封止樹脂20は、コレクタ導電板14と強く接合し、剥がれてしまうのが防止される。
【0023】
第1実施例〜第4実施例に記載した封止樹脂20が剥がれるのを防止するアンダーカット面を、コレクタ導電板14にのみ形成することもできる。このように構成すると、封止樹脂20が収縮したときに、封止樹脂20とエミッタ導電板17の内面が剥がれる。すなわち、コレクタ導電板14とパワー素子15を固定しているはんだ層24と、パワー素子15と小型導電板16を固定しているはんだ層25が封止樹脂20によって確実にカバーされる。コレクタ導電板14と小型導電板16は、パワー素子15よりも線膨張係数が大きい。従って、半導体モジュール12の温度が変化すると、はんだ層24、25に大きな応力が作用する。はんだ層24、25は、大きな応力によって破断することがある。
封止樹脂20とエミッタ導電板17の内面が剥がれ、はんだ層24、25が封止樹脂20によって確実にカバーされた状態で、コレクタ導電板14とパワー素子15と小型導電板16が封止樹脂20に拘束されると、はんだ層24、25の破断が防止される。封止樹脂20とエミッタ導電板17の内面が剥がれると、小型導電板16とエミッタ導電板17を固定しているはんだ層27は、封止樹脂20によってカバーされなくなる。小型導電板16とエミッタ導電板17は同じ金属製なので、線膨張係数も等しい。このため、半導体モジュール12の温度が変化しても、はんだ層27に大きな応力は作用しない。よって、はんだ層27が封止樹脂20によってカバーされなくても、問題は生じない。
【0024】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】パワーモジュールの断面図(第1実施例)。
【図2】プレス加工前のコレクタ導電板の凹部の斜視図(第1実施例)。
【図3】プレス加工前のコレクタ導電板の凹部の平面図(第1実施例)。
【図4】プレス型の斜視図(第1実施例)。
【図5】コレクタ導電板とプレス型の断面図(第1実施例)。
【図6】コレクタ導電板をプレス型がプレスした状態の断面図(第1実施例)。
【図7】コレクタ導電板の部分断面図(第1実施例)。
【図8】プレス加工後のコレクタ導電板の凹部の平面図(第1実施例)。
【図9】プレス加工前のコレクタ導電板の凹部の斜視図(第2実施例)。
【図10】プレス加工前のコレクタ導電板の凹部の平面図(第2実施例)。
【図11】プレス加工後のコレクタ導電板の凹部の平面図(第2実施例)。
【図12】プレス加工前のコレクタ導電板の凸部の斜視図(第3実施例)。
【図13】プレス加工後の凸部の断面図(第3実施例)。
【図14】プレス加工後の凸部の平面図(第3実施例)。
【図15】コレクタ導電板をプレス加工している状態の断面図(第4実施例)。
【図16】掛止部の平面図(第4実施例)。
【図17】図16のXVII−XVII線断面図(第4実施例)。
【符号の説明】
【0026】
12:パワーモジュール
14:コレクタ導電板
15:パワー素子
16:小型導電板16
17:エミッタ導電板
18:制御端子
20:封止樹脂
21:バスバー
23:凹部
24、25:はんだ層
26:平面部
27:はんだ層
28:凹部
29:平面部
31:バスバー
35:プレス型
36:クサビ状部
37:壁
38:溝
39:側面
41:切欠き
45:凹部
46:側面
50:プレス型
51:刃
52:凹部
55:アンダーカット面
56:凹部
58:掛止部
59:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側電極と裏面側電極を有する半導体素子と、
半導体素子の表面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子よりも外方に延びている表面側導電板と、
半導体素子の裏面側電極に接続固定されているとともに、半導体素子よりも外方に延びている裏面側導電板と、
表面側導電板と裏面側導電板の間の空間を充填している封止樹脂を備えており、
表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接する領域に、アンダーカット状の側面を持つ凹部が分散配置されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
凹部同士が連通していることを特徴とする請求項1の半導体モジュール。
【請求項3】
半導体素子の表面側電極に接続固定されている表面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、半導体素子の裏面側電極に接続固定されている裏面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間に封止樹脂が充填されている半導体モジュールを製造する方法であり、
表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された凹部を形成する第1工程と、
凹部と凹部が挟む部位をクサビ状のプレス型の先端部でプレスする第2工程を備えていることを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項4】
半導体素子の表面側電極に接続固定されている表面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、半導体素子の裏面側電極に接続固定されている裏面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間に封止樹脂が充填されている半導体モジュールを製造する方法であり、
表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域を、表面側導電板と裏面側導電板の内面に対して傾斜した方向からプレス型の先端刃でプレスすることによって、アンダーカット状の側面を持つ凹部を分散配置する工程を備えていることを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項5】
半導体素子の表面側電極に接続固定されている表面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、半導体素子の裏面側電極に接続固定されている裏面側導電板が半導体素子よりも外方に延びており、表面側導電板と裏面側導電板の間の空間に封止樹脂が充填されている半導体モジュールを製造する方法であり、
表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された凹部を形成する凹部形成工程と、
表面側導電板と裏面側導電板の内面であって、封止樹脂と接することになる領域に、分散配置された溝を形成する溝形成工程とを備えており、
凹部形成工程と溝形成工程が実行されることによって、凹部同士が溝によって連通されることを特徴とする半導体モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−222347(P2006−222347A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35791(P2005−35791)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】