説明

半導体モジュール

【課題】温度差が生じても従来よりは絶縁部材の剥離を抑止することができる半導体モジュールを提供することである。
【解決手段】複数の半導体素子16と、各半導体素子16で生じる熱を放出する放熱部15と、少なくとも半導体素子16を覆う絶縁部材14とを備える半導体モジュール10において、絶縁部材14は線膨張係数差によって生じる応力を緩和する応力緩和部17(例えば長溝状スリット17a,17b等)を有する構成とした。この構成によれば、放熱部15と絶縁部材14との間に温度差が生じても、絶縁部材14に備える応力緩和部17が線膨張係数差によって生じる応力を緩和する。こうして応力が緩和されるので、従来よりは絶縁部材14の剥離を抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の半導体素子、放熱部、絶縁部材を備える半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、放熱効率に優れ、高い形状精度を有する半導体冷却ユニットに関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。この半導体冷却ユニットは、同文献の段落番号[0020]および図1の記載を参照すると、半導体素子(11)を挟むように相互に対面する2枚の電極板(15)を有し、各電極板(15)に対して絶縁層(30)を介在させて冷却チューブ(20)を接合する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−093593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1で開示された半導体冷却ユニットの構成によれば、各電極板(15)の全面に対して絶縁層(30)を接着させ、絶縁層(30)の全面に対して冷却チューブ(20)を接着させている。一般的に電極板(15)と冷却チューブ(20)との間には大きな温度差が生じるので、絶縁層(30)には線膨張係数差による応力が少なからず発生する。当該応力が接着力を上回る場合には、絶縁層(30)の一部(多くは端面)から剥離が発生するという問題があった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、温度差が生じても従来よりは絶縁部材の剥離を抑止することができる半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、複数の半導体素子と、各前記半導体素子で生じる熱を放出する放熱部と、少なくとも前記半導体素子を覆う絶縁部材とを備える半導体モジュールにおいて、前記絶縁部材は、線膨張係数差によって生じる応力を緩和する応力緩和部を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、放熱部と絶縁部材との間に温度差が生じても、絶縁部材に備える応力緩和部が線膨張係数差によって生じる応力を緩和する。こうして応力が緩和されるので、従来よりは絶縁部材の剥離を抑止することができる。
【0008】
なお「半導体素子」は、通電に伴って発熱する任意の半導体素子が該当する。例えば、半導体チップ、FET(具体的にはMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタ、ダイオード、サイリスタなどが該当する。「放熱部」は、半導体素子で生じる熱を放出可能な任意の部材を適用でき、材質・材料・形状等を問わない。「絶縁部材」は、熱伝導性があり、電気的絶縁性を有すれば任意の部材を適用でき、材質や材料等を問わない。「応力緩和部」は、線膨張係数差によって生じる応力を緩和可能な任意の形態(例えばスリット・穴・凹凸等)を含む。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記応力緩和部は、前記放熱部の相互間に位置する部位に設けることを特徴とする。この構成によれば、絶縁部材に備える応力緩和部を放熱部の相互間部位に位置させる。半導体素子や放熱部から放出される熱で線膨張係数差によって応力が生じても、当該放熱部の相互間部位に位置する応力緩和部が当該応力を緩和する。したがって、絶縁部材の剥離をより確実に抑止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記応力緩和部は、スリットおよび穴のうちで一方または双方が形成される部位であることを特徴とする。この構成によれば、応力緩和部としてスリットや穴を絶縁部材に形成すればよい。したがって、簡単かつ低コストで絶縁部材の剥離を抑止することができる。なお、「スリット」および「穴」の形状や数量等は任意に設定可能である。「スリット」には、切り込み(直線状、破線状、曲線状等を問わない)を含む。「穴」には、貫通穴と非貫通穴(すなわち凹部)とを含む。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記応力緩和部は、前記スリット相互間に前記穴が形成されることを特徴とする。この構成によれば、絶縁部材に複数のスリットおよび穴の双方が応力緩和部として形成され、複数のスリットの相互間に穴が形成される。スリットおよび穴のうちで一方の応力緩和部が応力の全部を緩和できない場合でも、他方で残余の応力を緩和する。したがって、絶縁部材の剥離をさらに確実に抑止することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記絶縁部材は、両面から覆うことを特徴とする。この構成によれば、絶縁部材は半導体素子や放熱部を覆う部材であるが、これらの半導体素子や放熱部についてその両面から覆う。こうすれば、絶縁部材の剥離を抑止できるだけでなく、両面側で電気的な絶縁性を確保することができる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記絶縁部材は、前記半導体素子を覆う内面と対向する外面に導体部材を有することを特徴とする。この構成によれば、導体部材は放熱部と同様に放熱作用がある。絶縁部材が受ける熱で線膨張係数差によって応力が生じても導体部材から放熱するので、絶縁部材の剥離をより確実に抑止することができる。なお「導体部材」は絶縁部材よりも熱伝導率が高い材質や材料等であれば任意である。例えば、銅(Cu)やアルミニウム(Al)等が該当する。導体部材の形状は問わない。すなわち、絶縁部材と関連する形状(例えば同一形状や類似形状等)で形成してもよく、絶縁部材とは無関係な形状で形成してもよい。
【0014】
請求項7に記載の発明は、前記導体部材は、予め前記絶縁部材と一体成形されることを特徴とする。この構成によれば、絶縁部材と導体部材とが予め一体成形されているので、あとは半導体素子や放熱部を覆えばよい。絶縁部材と導体部材との接着や接合を行う工程が不要になるので、半導体モジュールの製造に要する時間を短縮することができる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、前記絶縁部材は、絶縁フィルムまたは絶縁シートであることを特徴とする。この構成によれば、絶縁部材として用いる絶縁フィルムや絶縁シートは一般的に厚みが薄いので、半導体モジュール全体の体格を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】半導体モジュールの第1構成例を模式的に示す図である。
【図2】応力緩和部の第1構成例を模式的に示す平面図である。
【図3】半導体モジュールの第2構成例を模式的に示す図である。
【図4】応力緩和部の第2構成例を模式的に示す平面図である。
【図5】半導体モジュールの第3構成例を模式的に示す図である。
【図6】半導体モジュールの第4構成例を模式的に示す図である。
【図7】応力緩和部の第3構成例を模式的に示す図である。
【図8】応力緩和部の第4構成例を模式的に示す図である。
【図9】半導体モジュールで発生する熱を吸収する熱吸収部材(冷却装置)の構成例を模式的に示す斜視図である。
【図10】半導体モジュールで発生する熱を吸収する熱吸収部材(冷却フィン)の構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「接続する」という場合には電気的に接続することを意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示しているとは限らない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。
【0018】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は、2つの半導体素子を備え、各半導体素子の両面側を絶縁部材で覆う半導体モジュール(いわゆる両面モジュール)の第1構成例であって、図1と図2を参照しながら説明する。図1(A)には平面図で示し、図1(B)には図1(A)に示すIB−IB矢視の断面図を示す。なお、図1(A)に実線で示す導体部材13と破線で示す絶縁部材14とは、図1(B)にも示すように平面的に同一形状である。同じく、双方を破線で示す放熱部15と半導体素子16とは、図1(B)にも示すように平面的に同一形状である。いずれも各要素の存在を明示にするため、便宜的に相似形状で示しているに過ぎない。図2には絶縁部材の様々な第1構成例を模式的に平面図で示す。
【0019】
図1(A)および図1(B)に示す半導体モジュール10は「半導体素子パッケージ」とも呼ばれ、樹脂封止部11、2つの放熱部15、2つの半導体素子16などを有する。樹脂封止部11は、各放熱部15および各半導体素子16を封止して所定形状(例えば直方体等のような多面体)に形成するための封止体である。この封止体は、半導体素子16を封止可能な絶縁材料であれば任意である。例えば、エポキシ樹脂(EP)やフェノール樹脂(PF)等のような各種の樹脂、当該樹脂を主成分としてシリカ充填材等を加えた熱硬化性成形材料、レジン・モールド等のような耐熱樹脂、金属酸化物(例えばアルミナ等)や無機化合物(例えば窒化ケイ素等)などを含むセラミックスなどが該当する。
【0020】
放熱部15は、半導体素子16で生じる熱を放出可能な任意の部材を適用でき、材質・材料・形状等を問わない。本形態の放熱部15は、半導体素子16と直接または間接に接して放熱する機能を担い、熱伝導率が高い材料(例えば銅板等のような金属板)で形成したものを用いる。各放熱部15は、各半導体素子16の発熱面(図示する上面や下面)に対向して配置される。放熱部15の形状は任意であり、図示するような平板状でもよく、半導体素子16の形状や発熱量等に応じて曲面状でもよい。板厚についても均一であると不均一であるとを問わない。
【0021】
2つの半導体素子16は、それぞれが目的とする処理を行う電気回路が半導体で形成されている。インバータやコンバータ等の電力変換装置に用いる場合には、一方の半導体素子16を上アーム側に用い、他方の半導体素子16を下アーム側に用いる。各半導体素子16は、半導体チップ、スイッチング素子、当該スイッチング素子を駆動する駆動回路、還流用ダイオードなどが該当する。スイッチング素子は、例えばFET(具体的にはMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタ、ダイオード、サイリスタなどが該当する。各半導体素子16は、端子12,18との間でワイヤボンディング等によって予め接続される(図示せず)。
【0022】
端子12,18には、信号や電力の入出力を行う外部装置を接続する。図1(A)の構成例では、端子12を上面側に設け、端子18を下面側に設けている。なお、端子をどの面に設けるのかは任意であり、端子数を幾つに設定するのかも任意である。端子12に接続する外部装置の一例としては、例えば各半導体素子16へ個別に信号を入力するコントローラ(例えばECUやコンピュータ等)が該当する。端子18に接続する外部装置の一例としては、回転電機(例えば発電機,電動機,電動発電機等)や電力系統等が該当する。図1(A)の構成例では端子18が3つあるので、各端子は三相(U相,V相,W相)の電力を出力する端子に対応する。よって、接続する外部装置の相数に応じて端子18の数も異なってくる。端子12,18に代えて、例えばリード,ピン,バスバー等ように、外部装置との間で電気的な接続を行える導電性の部材(接続部材)を用いてもよい。半導体モジュール10の表面から突出しているか、当該表面に露出しているかを問わない。
【0023】
絶縁部材14は、熱伝導性があり、電気的絶縁性を有すれば任意の部材を適用でき、材質や材料等を問わない。本形態の絶縁部材14は、絶縁性の樹脂で形成される絶縁フィルムを用い、接着・溶着・一体成形等によって固定される。図1(A)および図1(B)に示すように、一面(図1(B)の上面または下面)における2つの放熱部15の合計面積よりも広い面積で形成され、放熱部15を介した半導体素子16や、樹脂封止部11の一部を覆う。この絶縁部材14は、放熱部15(あるいは半導体素子16)の相互間に応力緩和部17を有する。応力緩和部17は、線膨張係数差によって生じる応力を緩和する機能を担う。本形態では、上下の両端から中央部にかけて形成される長溝状スリット17bである。応力緩和部17の形状(第1構成例)については後述する(図2を参照)。
【0024】
導体部材13は、絶縁部材14を通じて放熱部15から伝わる熱を外部に逃がす機能を担い、絶縁部材14における放熱部15(あるいは半導体素子16)を覆う内面と対向する外面に備えられる。本形態の導体部材13は、絶縁部材14と平面的に同一形状に形成され、接着や溶着等によって予め絶縁部材14と一体成形される。絶縁部材14と平面的に同一形状に形成されることから、上述した長溝状スリット17bと同一形状の長溝状スリット17aを有する。この導体部材13は、絶縁部材14よりも熱伝導率が高い材質や材料等であれば任意である。例えば、銅(Cu)やアルミニウム(Al)等が該当する。なお、絶縁部材14と導体部材13との厚みは、同一でもよく異なってもよい。
【0025】
図2には、応力緩和部17の第1構成例を平面図で示す。なお形状の相違を分かり易くするために、図2(A)には図1(A)に示す長溝状スリット17bを含む絶縁部材14を示す。導体部材13は絶縁部材14と平面的に同一形状であるので、長溝状スリット17aを含む導体部材13を示すことにもなる。
【0026】
図2(B)には、図2(A)に示す長溝状スリット17a,17bのほかに、穴17c,17dを有する構成を示す。具体的には、絶縁部材14について長溝状スリット17bの相互間に穴17dを備える。同様に、導体部材13については長溝状スリット17aの相互間に穴17cを備える。
【0027】
図2(C)には、図2(A)に示す長溝状スリット17a,17bのほかに、長穴17e,17fを有する構成を示す。ここにいう長穴は、長溝状スリットとほぼ同じ形状を意味する。具体的には、絶縁部材14について長溝状スリット17bの相互間に長穴17fを備える。同様に、導体部材13については長溝状スリット17aの相互間に長穴17eを備える。長穴17e,17fに代えて、後述する図2(F)のように、長溝状スリット17a,17bの相互間に穴群17g,17hを備えてもよい。
【0028】
図2(D)には、図2(A)に示す長溝状スリット17a,17bに代えて、穴群17g,17hを有する構成を示す。穴群17g,17hは、いずれも離散的な点列状に形成される複数の穴からなる。具体的には、絶縁部材14について長溝状スリット17bに対応する位置に穴群17hを備える。同様に、導体部材13については長溝状スリット17aに対応する位置に穴群17gを備える。
【0029】
図2(E)には、図2(D)に示す穴群17g,17hのほかに、長穴17e,17fを有する構成を示す。具体的には、絶縁部材14について穴群17hの相互間に長穴17fを備える。導体部材13については穴群17gの相互間に長穴17eを備える。
【0030】
図2(F)には、放熱部15(あるいは半導体素子16)の相互間において、上端から下端にかけて穴群17g,17hを有する構成を示す。具体的には、絶縁部材14について穴群17hを備え、導体部材13については穴群17gを備える。図2(E)との対比では、図2(D)に示す穴群17g,17hの相互間に対して、さらに穴群17g,17hを備えた構成とも言える。
【0031】
図2(G)には、図2(A)に示す長溝状スリット17a,17bに代えて、線状スリット17i,17jを有する構成を示す。線状スリット17i,17jは鋏やナイフ等で切ったような複数の線状スリットで構成される点で、幅がある長溝状スリット17a,17bと相違する。具体的には、絶縁部材14について長溝状スリット17bに対応する位置に線状スリット17jを備える。導体部材13については長溝状スリット17aに対応する位置に線状スリット17iを備える。
【0032】
図2(G)のさらなる変形例としては、図示しないが下記の態様が該当する。第1に、線状スリット17i,17jの相互間に長穴17e,17fや穴群17g,17hを備える態様である。第2に、線状スリット17i,17jを図2(G)に示すような直線状に代えて(あるいは加えて)、破線状や曲線状等で形成する態様である。第3に、線状スリット17i,17jに代えて(あるいは加えて)、所定字状(例えばX字状、Y字状、T字状等)を複数個形成する態様である。
【0033】
図2(H)には、図2(A)に示す長溝状スリット17a,17bに代えて、多角形状スリット17k,17mを有する構成を示す。多角形状スリット17k,17mは三角形以上の多角形で構成される点で、幅がある長溝状スリット17a,17bと相違する。具体的には、絶縁部材14について長溝状スリット17bに対応する位置に多角形状スリット17mを備える。導体部材13については長溝状スリット17aに対応する位置に多角形状スリット17kを備える。図示しないが、多角形状スリット17k,17mの相互間に長穴17e,17fや穴群17g,17hを備えてもよい。
【0034】
なお図示しないが、図2(A)〜図2(H)に示す構成以外の構成であって、スリット(長溝状スリット17b、線状スリット17j、多角形状スリット17m)、および、穴(穴17d、穴群17h)のうちで二以上を適宜組み合わせて絶縁部材14における放熱部15(半導体素子16)の相互間に形成する構成としてもよい。同様にして、スリット(長溝状スリット17a、線状スリット17i、多角形状スリット17k)、および、穴(穴17c、穴群17g)のうちで二以上を適宜組み合わせて導体部材13における放熱部15(半導体素子16)の相互間に形成する構成としてもよい。
【0035】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、半導体モジュール10において、絶縁部材14は、線膨張係数差によって生じる応力を緩和する応力緩和部17を有する構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、放熱部15と絶縁部材14との間に温度差が生じても、絶縁部材14に備える応力緩和部17が線膨張係数差によって生じる応力を緩和する。こうして応力が緩和されるので、従来よりは絶縁部材14の剥離を抑止することができる。
【0036】
請求項2に対応し、応力緩和部17は、放熱部15の相互間に位置する部位に設ける構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、絶縁部材14に備える応力緩和部17を放熱部15の相互間部位に位置させる。半導体素子16や放熱部15から放出される熱で線膨張係数差によって応力が生じても、当該放熱部15の相互間部位に位置する応力緩和部17が当該応力を緩和する。したがって、絶縁部材14の剥離をより確実に抑止することができる。
【0037】
請求項3に対応し、応力緩和部17は、スリット(長溝状スリット17a,17b、線状スリット17i,17j、多角形状スリット17k,17m)および穴(穴17c,17d、穴群17g,17h)のうちで一方または双方が形成される部位である構成とした(図2(A)〜図2(H)を参照)。この構成によれば、簡単かつ低コストで絶縁部材14の剥離を抑止することができる。
【0038】
請求項4に対応し、応力緩和部17は、スリット(長溝状スリット17a,17b、線状スリット17i,17j、多角形状スリット17k,17m)相互間に穴(穴17c,17d、穴群17g,17h)が形成される構成とした(図2(B),図2(C),図2(E),図2(F)を参照)。この構成によれば、スリットおよび穴のうちで一方の応力緩和部17が応力の全部を緩和できない場合でも、他方で残余の応力を緩和する。したがって、絶縁部材14の剥離をさらに確実に抑止することができる。
【0039】
請求項5に対応し、絶縁部材14は、放熱部15(あるいは半導体素子16)の両面から覆う構成とした(図1(B)を参照)。この構成によれば、絶縁部材14の剥離を抑止できるだけでなく、両面側で電気的な絶縁性を確保することができる。
【0040】
請求項6に対応し、絶縁部材14は、放熱部15(あるいは半導体素子16)を覆う内面と対向する外面に導体部材13を有する構成とした(図1を参照)。この構成によれば、絶縁部材14が受ける熱で線膨張係数差によって応力が生じても導体部材13から放熱するので、絶縁部材14の剥離をより確実に抑止することができる。
【0041】
請求項7に対応し、導体部材13は、予め絶縁部材14と一体成形される構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、絶縁部材14と導体部材13とが予め一体成形されているので、あとは半導体素子16や放熱部15を覆えばよい。絶縁部材14と導体部材13との接着や接合を行う工程が不要になるので、半導体モジュール10の製造に要する時間を短縮することができる。
【0042】
請求項8に対応し、絶縁部材14は、絶縁フィルムである構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、絶縁部材14として用いる絶縁フィルムは一般的に厚みが薄いので、半導体モジュール10全体の体格を小さく抑えることができる。なお、絶縁フィルムに代えて絶縁シートを用いる場合でも同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、3つの半導体素子を備え、各半導体素子の両面側を絶縁部材で覆う半導体モジュール(いわゆる両面モジュール)の第2構成例であって、図3と図4を参照しながら説明する。図3(A)には平面図で示し、図3(B)には図3(A)に示すIIIB−IIIB矢視の断面図を示す。なお図3(A)は、図1(A)と同様の図示である。図4には絶縁部材の様々な第2構成例を模式的に平面図で示す。図示および説明を簡単にするために、実施の形態2では実施の形態1と異なる点について説明する。よって実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
実施の形態2が実施の形態1と異なるのは、半導体モジュール10内に備える半導体素子16の数である。半導体素子16が2つから3つに増えるのに伴って、放熱部15も3つになり、導体部材13および絶縁部材14の面積も拡大する。
【0045】
図3(A)および図3(B)に示す半導体モジュール10は、3つの半導体素子16が対応する放熱部15とともに横一列のタイル状に並べて、樹脂封止部11で一体成形されている。絶縁部材14に形成される応力緩和部17すなわち長溝状スリット17bは、左側の放熱部15(半導体素子16)と中側の放熱部15(半導体素子16)との相互間と、中側の放熱部15(半導体素子16)と右側の放熱部15(半導体素子16)との相互間とにそれぞれ形成される。同じく導体部材13に形成される応力緩和部17すなわち長溝状スリット17aは、上記長溝状スリット17bと同位置に形成される。
【0046】
図4には、応力緩和部17の第2構成例を平面図で示し、図2と同様である。すなわち図4(A)には、図3(A)に示す長溝状スリット17bを含む絶縁部材14と、同図に示す長溝状スリット17aを含む導体部材13とを示す。図4(B)には、図4(A)に示す長溝状スリット17a,17bのほかに、穴17c,17dを有する構成を示す。当該図4(B)の構成例は、図2(B)と同様の変形例である。図4(C)には、図4(A)に示す長溝状スリット17a,17bに代えて、穴群17g,17hを有する構成を示す。当該図4(C)の構成例は、図2(D)と同様の変形例である。図4(D)には、図4(C)に示す穴群17g,17hのほかに、長穴17e,17fを有する構成を示す。当該図4(D)の構成例は、図2(E)と同様の変形例である。
【0047】
なお図示しないが、図2(C),図2(F),図2(G),図2(H)のそれぞれと同様の変形を行った構成例としてもよい。また、スリット(長溝状スリット17b、線状スリット17j、多角形状スリット17m)、および、穴(穴17d、穴群17h)のうちで二以上を適宜組み合わせて絶縁部材14における放熱部15(半導体素子16)の相互間に形成する構成としてもよい。同様にして、スリット(長溝状スリット17a、線状スリット17i、多角形状スリット17k)、および、穴(穴17c、穴群17g)のうちで二以上を適宜組み合わせて導体部材13における放熱部15(半導体素子16)の相互間に形成する構成としてもよい。
【0048】
上述した実施の形態2によれば、放熱部15(半導体素子16)の相互間が二箇所になり、各箇所に応力緩和部17を備える点が実施の形態1と相違するに過ぎない。よって、実施の形態1に示す各請求項に対して同様の作用効果を得ることができる。
【0049】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、3つの半導体素子を備え、各半導体素子の両面側を絶縁部材で覆う半導体モジュール(いわゆる両面モジュール)の第3構成例であって、平面図で示す図5を参照しながら説明する。図5に示すIB−IB矢視の断面図(縦側断面図と横側断面図)は、いずれも図1(B)と同じである。図示および説明を簡単にするために、実施の形態3では実施の形態1と異なる点について説明する。よって実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
実施の形態3が実施の形態1と異なるのは、半導体モジュール10内に備える半導体素子16の数である。半導体素子16が2つから4つに増えるのに伴って、放熱部15も4つになり、導体部材13および絶縁部材14の面積は実施の形態2よりもさらに拡大する。
【0051】
図5に示す半導体モジュール10は、4つの半導体素子16が対応する放熱部15とともに二行二列のタイル状に並べて、樹脂封止部11で一体成形されている。絶縁部材14に形成される応力緩和部17すなわち長溝状スリット17bは、四辺の端部から中央部にかけて十字状のように形成される。同じく導体部材13に形成される応力緩和部17すなわち長溝状スリット17aは、上記長溝状スリット17bと同位置に形成される。
【0052】
図示しないが、応力緩和部17の変形例は実施の形態1における図2と同様に行うことが可能である。図2(A)には図1(A)に記載した絶縁部材14および導体部材13の平面形状を示し、図2(B)〜図2(H)に変形例を示した。図5に示す絶縁部材14および導体部材13についても、図2(B)〜図2(H)と同様に変形する構成としてもよい。スリット(長溝状スリット17a,17b、線状スリット17i,17j、多角形状スリット17k,17m)、および、穴(穴17c,17d、穴群17g,17h)のうちで二以上を適宜組み合わせて形成する構成としてもよい。
【0053】
上述した実施の形態3によれば、放熱部15(半導体素子16)の相互間が四箇所になり、各箇所に応力緩和部17を備える点が実施の形態1と相違するに過ぎない。よって、実施の形態1に示す各請求項に対して同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
〔実施の形態4〕
実施の形態4は、2つの半導体素子を備え、各半導体素子の片面側を絶縁部材で覆う半導体モジュール(いわゆる片面モジュール)の第4構成例であって、図1(A)と図6とを参照しながら説明する。図1(A)には平面図で示し、図6には図1(A)に示すIB−IB矢視の断面図を示す。
【0055】
実施の形態4が実施の形態1と異なるのは、半導体モジュール10内に備える放熱部15の数である。実施の形態1では各半導体素子16の両面に対応して4つ備えるのに対して、実施の形態4では各半導体素子16の片面に対応して2つ備える。通電に伴う半導体素子16の発熱量が比較的少ない場合に構成される。絶縁部材14および導体部材13に形成される応力緩和部17の構成は実施の形態1と同様である(図2を参照)。
【0056】
上述した実施の形態4によれば、半導体モジュール10内に備える放熱部15の数が実施の形態1と相違するに過ぎず、応力緩和部17の構成は実施の形態1と同じである。また実施の形態2に示す半導体モジュール10(図3を参照)および実施の形態4に示す半導体モジュール10(図5を参照)についても同様に適用できる。いずれの形態にせよ、実施の形態1に示す各請求項に対して同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1〜4に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0058】
上述した実施の形態1〜4では、応力緩和部17は、スリット(長溝状スリット17a,17b、線状スリット17i,17j、多角形状スリット17k,17m)や穴(穴17c,17d、穴群17g,17h)で構成した(図2,図4を参照)。この形態に代えて、スリットおよび穴以外の他の態様で構成してもよい。他の態様で構成した例を図7と図8に示す。以下では、図7と図8に示す各態様について説明する。
【0059】
図7に示す態様は、応力緩和部17を凹部で構成する。図7(A)に示す絶縁部材14および導体部材13は、図2(A)の構成例に対応する。図7(B)には、図7(A)に示すVIIB−VIIB矢視の断面図を示す。図7(A)および図7(B)に示す応力緩和部17は、放熱部15(あるいは半導体素子16)の相互間に形成される凹部17n,17pである。絶縁部材14には凹部17pを形成し、導体部材13には凹部17nを形成する。図7(B)の構成例では円弧状(湾曲状)に形成しているが、応力緩和部17以外の部位よりも厚みが薄くなれば他の形状(例えばV字状等)であってもよい。また、凹部17pと凹部17nとを対向させる構成としているが、双方の凹部を同一方向(上向きまたは下向き)に形成する構成としてもよい。図7に示す構成例は図1に対応する構成例であるが、実施の形態1に示す絶縁部材14や導体部材13(図2を参照)および実施の形態2に示す絶縁部材14や導体部材13(図4を参照)についても同様に対応して適用可能である。いずれの形態にせよ、厚みが薄い部位で線膨張係数差によって生じる応力を緩和するので、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0060】
図8に示す態様は、応力緩和部17を、複数層からなる絶縁部材14で構成する。少なくとも一層は、他層とは樹脂の弾性係数(弾性率)が異なる。図8に断面図で示す構成例は二層からなる絶縁部材14であり、第1層14aの弾性係数は第2層14bの弾性係数よりも大きくなるように形成する。図1(B)と比べると、第2層14bの下面側に放熱部15が配置される。図示しないが、三層以上で構成してもよい。線膨張係数差によって生じる応力は弾性係数が大きな層(図8の例では第1層14a)で緩和されるので、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
上述した実施の形態1〜4では、半導体素子16で発生した熱は、絶縁部材14を介して導体部材13に伝わり、導体部材13で外部に放出する構成とした(図1,図3,図5,図6を参照)。この形態に代えて、導体部材13に伝った熱を積極的に吸収する熱吸収部材20を備える構成としてもよい。熱吸収部材20の構成例を図9と図10に示す。以下では、図9と図10に示す各構成例について説明する。
【0062】
図9の斜視図に示す熱吸収部材20は、複数の冷却体21aと複数の管路21bとで構成される冷却装置21である。冷却体21aの相互間にそれぞれ半導体モジュール10を矢印Dinで示すように配置し、冷却体21aの表面と導体部材13の表面とを接触させる。接触面積の広さに応じて熱交換が行われる。図9の構成例では冷却体21aが5つあるので、4つの半導体モジュール10からなる半導体モジュール群10G(具体的には半導体素子16)を冷却することができる。2つの管路21bのうちで、一方は流体(例えば水,空気,油等)を流入する流入管であり、他方は当該流体を流出させる流出管である。冷却装置21を用いることで絶縁部材14や導体部材13に残存する熱を低下させ、応力緩和部17の設定範囲や数量等を縮小することができる。
【0063】
図10の断面図に示す熱吸収部材20は、金属等で形成される冷却フィン22である。この冷却フィン22は、図示するように、複数の導体部材13と接合や接着等させる。冷却フィン22を用いる場合でも、絶縁部材14や導体部材13に残存する熱を低下させ、応力緩和部17の設定範囲や数量等を縮小することができる。
【0064】
上述した実施の形態1〜4では、絶縁部材14と導体部材13とを一体成形する構成とした(図1,図3,図5,図6を参照)。この形態に代えて、絶縁部材14のみで半導体モジュール10を構成してもよく、絶縁部材14と導体部材13とを別体に形成した後に接着や溶着等を行う構成としてもよい。いずれの構成にせよ、最終的には図1,図3,図5,図6で示す半導体モジュール10の構成になる。よって、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
上述した実施の形態1〜4では、絶縁部材14と導体部材13とを同一形状で形成する構成とした(図2,図4を参照)。この形態に代えて、絶縁部材14と導体部材13とを異なる形状で形成する構成としてもよい。例えば、絶縁部材14と導体部材13とを関連する形状(例えば相似形状や類似形状等)で形成してもよく、無関係な形状で形成してもよい。絶縁部材14に備える応力緩和部17が線膨張係数差によって生じる応力を緩和するので、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
上述した実施の形態1〜4では、絶縁部材14および導体部材13の双方に応力緩和部17を有する構成とした(図2,図4を参照)。この形態に代えて、絶縁部材14および導体部材13のうちで一方に応力緩和部17を有する構成としてもよい。線膨張係数差によって絶縁部材14に生じる応力が小さい場合には、一方に備える応力緩和部17で緩和できる。よって、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
10 半導体モジュール
11 樹脂封止部
13 導体部材
14 絶縁部材
15 放熱部
16 半導体素子
17 応力緩和部
17a,17b 長溝状スリット
17c,17d 穴
17e,17f 長穴
17g,17h 穴群
17i,17j 線状スリット
17k,17m 多角形状スリット
17n,17p 凹部
20 熱吸収部材
21 冷却装置
22 冷却フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体素子と、各前記半導体素子で生じる熱を放出する放熱部と、少なくとも前記半導体素子を覆う絶縁部材とを備える半導体モジュールにおいて、
前記絶縁部材は、線膨張係数差によって生じる応力を緩和する応力緩和部を有することを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記応力緩和部は、前記放熱部の相互間に位置する部位に設けることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記応力緩和部は、スリットおよび穴のうちで一方または双方が形成される部位であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記応力緩和部は、前記スリット相互間に前記穴が形成されることを特徴とする請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記絶縁部材は、両面から覆うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記絶縁部材は、前記半導体素子に対向する面とは反対側の面に導体部材を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記導体部材は、予め前記絶縁部材と一体成形されることを特徴とする請求項6に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記絶縁部材は、絶縁フィルムまたは絶縁シートであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−105882(P2013−105882A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248670(P2011−248670)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】