説明

半導体レーザ構造

【課題】活性層内において「電流を閉じ込め、且つ、光を閉じ込めない」ことが可能な半導体レーザ構造を提供する。
【解決手段】半導体レーザ構造10では、n型クラッド層2、n型光ガイド層4、多重量子井戸発光層5、p型光ガイド層6、及びp型クラッド層8を積層して構成された構造であって、n型クラッド層2内におけるn型光ガイド層4と当接する領域、及び、p型クラッド層8内におけるp型光ガイド層6と当接する領域のうち、少なくとも一方の領域の両端部にだけ、n型クラッド層2およびp型クラッド層4よりも絶縁性の高い材質からなる電流狭窄部3,7を設けるようにした。この構成では、駆動電流が無駄なく活性層に供給され、且つ、活性層内において、光が電流狭窄部3,7に遮られずに増幅される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ構造を、例えばレーザレーダ等、パルス大電流による「高出力」が必要な装置に適用する場合、レーザ構造単位(n型クラッド層,活性層,p型クラッド層等の総称)を、基板の成長面に対して垂直方向に複数積層し、且つ、活性層内において、電流を狭窄する(「電流を閉じ込める」)ための構造が用いられる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の半導体レーザ構造は、電極の下方両端側に絶縁層を隣接させてなるストライプ状の電極部と、電極部のストライプ幅とほぼ一致する幅を有する高導電性半導体層とによって、p型クラッド層、活性層、及びn型クラッド層が挟まれるように各層を積層した構造である。この構造では、電極部から高導電性半導体層への電流経路を狭窄することが期待される。
【0004】
また、特許文献2及び3に記載の半導体レーザ構造は、発光層とクラッド層(p型,n型)との間に、両者の中間の屈折率を有し、ある程度厚みをもった光ガイド層(p型,n型)を設け、n型光ガイド層の両端に絶縁層(あるいは結晶欠陥)が形成されるように各層を積層した構造である。この構造では、電極部からn型光ガイド層への電流経路を狭窄することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−42882号公報
【特許文献2】特開平2−181985号公報
【特許文献3】特開平9−293932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体レーザ構造を、例えば車載レーダ装置等、「高出力」が必要なことに加えて、光の出力に関し、ある程度の照射面積の確保が必要である装置に適用する場合、一つの導波モードの光が共振するシングルモードではなく、複数の導波モードの光が共振するマルチモードを採用する必要があるため、発光層と光ガイド層とからなる活性層内において、光を狭窄しない(「光を閉じ込めない」)構造がさらに求められる。
【0007】
以上により、半導体レーザ構造を、車載レーダ装置等に適用し得るようにするには、活性層内において、「電流を閉じ込め、且つ、光を閉じ込めない」構造とすることが望ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の半導体レーザ構造では、電極部および高導電性半導体層がともに、活性層から離間して配置されているため、電極部から高導電性半導体層への電流経路が、活性層で迂回する可能性があり、活性層内において、「電流を閉じ込める」ことができない虞があるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2及び3に記載の半導体レーザ構造では、光ガイド層の両端に電流狭窄部(例えば絶縁層,結晶欠陥)が形成されているため、マルチモードを採用する場合に、活性層内において、光が電流狭窄部に遮られることにより、「光を閉じ込めない」構造にならないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するために、活性層内において、「電流を閉じ込め、且つ、光を閉じ込めない」ことが可能な半導体レーザ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた発明である請求項1に記載の半導体レーザ構造は、n型クラッド層、n型光ガイド層、発光層、p型光ガイド層、及びp型クラッド層を積層して構成された構造である。なお、n型光ガイド層、発光層、及びp型光ガイド層は、複数の導波モードの光が共振する光導波路として活性層を構成する。また、活性層は、レーザ発振が始まる電流値を有する電流(しきい電流)よりも電流値が大きい電流(以下「駆動電流)という)が流れると、光増幅が起き、これによりレーザ光が発生する層である。
【0012】
そして、本発明では、n型クラッド層内においてn型光ガイド層と当接する領域、及び、p型クラッド層内においてp型光ガイド層と当接する領域のうち、少なくとも一方の領域の両端部にだけ、n型クラッド層およびp型クラッド層よりも絶縁性の高い材質からなる電流狭窄部を設けるようにした。
【0013】
このように構成された本発明の半導体レーザ構造では、電流狭窄部が活性層に当接して配置されているため、電流狭窄部によって電流の直進性が向上し、これにより、駆動電流を無駄なく活性層に供給することができ、ひいては、活性層内において、「電流を閉じ込める」ことが可能となる。
【0014】
また、このように構成された本発明の半導体レーザ構造では、電流狭窄部が活性層の外部に形成されているため、活性層内において、光が電流狭窄部に遮られずに増幅され、これにより、複数の導波モードの光を共振させることができ、ひいては、「光を閉じ込めない」ことが可能となる。
【0015】
したがって、本発明の半導体レーザ構造によれば、活性層内において、「電流を閉じ込め、且つ、光を閉じ込めない」ことが可能となり、その結果、「高出力」が必要なことに加えて、光の出力に関し、ある程度の照射面積の確保が必要である装置に好適に用いることができる。
【0016】
ところで、上記特許文献2及び3に記載の半導体レーザ構造では、「光を閉じ込めない」構造にならない問題に加えて、以下の問題も考えられる。
即ち、特許文献2に記載の半導体レーザ構造は、イオン注入により結晶格子を破壊し、電気伝導性を失わせることで、電流狭窄部の絶縁化を図っているため、光ガイド層において、中央部と両端部との屈折率が異なることとなり、結晶格子の損傷、及び、原子密度の減少による屈折率の低下の少なくとも一方の理由により、発光特性異常の発生が懸念される。
【0017】
また、特許文献3に記載の半導体レーザ構造は、n型クラッド層の電流狭窄部において、結晶欠陥密度の高い複数種類のクラッド層を積層させているため、各クラッド層の界面、及び、クラッド層と電極部との界面において、結晶格子の整合性がなくなることとなり、これらの界面に高抵抗領域が生じ、エピタキシャル成長を好適に行うことが困難であると考えられる。
【0018】
よって、本発明の半導体レーザ構造では、例えば、請求項2に記載のように、n型光ガイド層およびp型光ガイド層が不純物半導体である構成において、電流狭窄部が、n型光ガイド層およびp型光ガイド層と同じ組成であり、且つ、真性半導体であることが好ましい。なお、不純物半導体は、不純物を調整してドープすることで、電子や正孔であるキャリアの密度を上げて、電気伝導性を高めた半導体である。一方、真性半導体は、不純物をドープしないノンドープの半導体である。
【0019】
この場合、結晶格子を破壊することなく、電流狭窄部の電気伝導性を低くすることができるため、発光特性異常の発生を抑制することが可能となり、しかも電流狭窄部が隣接するガイド層と同じ組成であるため、エピタキシャル成長を好適に行うことが可能となる点で有利になる。
【0020】
あるいは、請求項3に記載のように、n型クラッド層およびp型クラッド層が不純物半導体である構成において、電流狭窄部が、n型クラッド層およびp型クラッド層と同じ組成であり、且つ、真性半導体であってもよい。この場合も、請求項2に記載の構成と同様の効果を得ることができる。
【0021】
ところで、本発明の半導体レーザ構造では、請求項4に記載のように、電極の下方両端側に絶縁層を隣接させてなるストライプ状の電極部を備える構成において、電流狭窄部が、上記絶縁層に対向するように配置されていることが好ましい。
【0022】
この場合、電極部のストライプ幅と、クラッド層において電流狭窄部に挟まれてなる中央部(電流通過部)の幅とがほぼ一致するため、活性層に到達しない無効電流の発生を抑制し、且つ、これらの幅を調整することにより、活性層内において、効率よく「電流を閉じ込める」ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】半導体レーザ構造の構成を表す断面図である。
【図2】半導体レーザ素子の構成を表す斜視図である。
【図3】他の実施形態としての半導体レーザ構造の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明が適用された実施形態の半導体レーザ構造10について説明する。
[実施例]
<半導体レーザ構造の製造>
半導体レーザ構造10の製造方法を図1及び表1に基づいて説明する。n型InP基板1上に、MOCVD法により、キャリア濃度5×1017cm-3、厚さ0.8μmのInPからなるn型クラッド層2を積層する。なお、本実施例のn型クラッド層2は、不純物(ドーパント)としてSeがドープされた不純物半導体である。
【0025】
その後、n型クラッド層2と同様の組成(InP)であるがSeをドープしない真性半導体であるInPノンドープ層3aを、厚みが0.01〜0.1μmとなるように成長させる。次に、InPノンドープ層3a上の中央部に、例えばフォトリソグラフィによるパターンエッチングにより、InPノンドープ層3aの厚み分の開口をストライプ状に形成する。さらに、そのストライプ状の開口が埋まるように、InPノンドープ層3aの厚み分、再度、n型クラッド層2を成長させる。
【0026】
これにより、厚さ0.81〜0.9μmの不純物半導体(InP)からなるn型クラッド層2において、両端部の領域にそれぞれ厚さ0.01〜0.1μmの真性半導体(InP)からなるInPノンドープ層3aが設けられることになる。なお、真性半導体(InP)の電気伝導性は、不純物半導体(InP)の電気伝導性よりも低い。このため、n型クラッド層2において、厚み方向に流れる電流は、不純物半導体(InP)であるn型クラッド層2の中央部の領域に狭窄することになる。よって、以下では、このn型クラッド層2に設けられたInPノンドープ層3aを、第1電流狭窄層3と称する。
【0027】
次に、n型クラッド層2および第1電流狭窄層3の表面上に、キャリア濃度5×1017cm-3、厚さ0.1μmのAlGaInAsからなるn型光ガイド層4、n型光ガイド層4(及びp型光ガイド層6)よりも光の屈折率が高くなるようにキャリア濃度が異なる2種類のAlGaInAsの積層構造を有する多重量子井戸発光層5、キャリア濃度1×1018cm-3、厚さ0.1μmのAlGaInAsからなるp型光ガイド層6を順に積層する。なお、本実施例のn型光ガイド層4およびp型光ガイド層6はいずれも、ドーパントとしてZnがドープされた不純物半導体である。
【0028】
その後、p型光ガイド層6上に、p型光ガイド層6と同様の組成(AlGaInAs)であるがZnをドープしない真性半導体であるAlGaInAsノンドープ層7aを、厚みが0.01〜0.1μmとなるように成長させる。
【0029】
次に、AlGaInAsノンドープ層7a上の中央部に、例えばフォトリソグラフィによるパターンエッチングにより、AlGaInAsノンドープ層7aの厚み分の開口をストライプ状に形成する。なお、ここでは、p型光ガイド層6上の両端側に残存するAlGaInAsノンドープ層7aが、第1電流狭窄層3に対向する領域に形成されるように、AlGaInAsノンドープ層7aをエッチングする。本実施例において、第1電流狭窄層3に対向する領域とは、多重量子井戸発光層5に対して、第1電流狭窄層3と面対称の関係を有する領域である。
【0030】
さらに、p型光ガイド層6およびAlGaInAsノンドープ層7aの表面上に、キャリア濃度1×1018cm-3、厚さ1.5μmのInPからなるp型クラッド層8を積層する。なお、本実施例のp型クラッド層8は、n型クラッド層2と同様に、ドーパントとしてSeがドープされた不純物半導体である。
【0031】
これにより、厚さ1.51〜1.6μmの不純物半導体(InP)からなるp型クラッド層8において、両端部の領域にそれぞれ厚さ0.01〜0.1μmの真性半導体(AlGaInAs)からなるAlGaInAsノンドープ層7aが設けられることになる。なお、本実施例では、不純物半導体(InP)の電気伝導性が、少なくとも真性半導体(AlGaInAs)の電気伝導性よりも高くなるように、ドーパント量が調整されている。このため、p型クラッド層8において、厚み方向に流れる電流は、不純物半導体(InP)であるp型クラッド層8の中央部の領域に狭窄することになる。よって、以下では、このp型クラッド層8に設けられたAlGaInAsノンドープ層7aを、第2電流狭窄層7と称する。
【0032】
そして、p型クラッド層8上の中央部に、上記パターンエッチングにより、p型光ガイド層6との界面に平行且つ同じストライプ幅を有する開口を形成し、その後、キャリア濃度1×1019cm-3、厚さ0.2μmのInGaAsからなるp型キャップ層9を積層する。
【0033】
各層のキャリア濃度、厚さ、組成は、表1に示すとおりである。なお、各層の積層時(成長時)の基板温度は550〜800℃とした。
【0034】
【表1】

【0035】
<半導体レーザ素子の製造>
上記のように製造した半導体レーザ構造10を用いて、図2に示す半導体レーザ素子100を製造した。
【0036】
p型キャップ層9上の中央部に、上記パターンエッチングにより、p型クラッド層8とp型光ガイド層6との界面に平行且つ同じストライプ幅を有する開口を形成し、その後、所定の材料からなる絶縁膜105を形成する。
【0037】
次に、その絶縁膜105の表面上の中央部に、上記パターンエッチングにより、底面がP型キャップ層9、側面が絶縁膜105であり、p型クラッド層8とp型光ガイド層6との界面に平行且つほぼ同じ(若干小さい)ストライプ幅を有する開口を形成する。
【0038】
そして、絶縁膜105およびP型キャップ層9の表面上に、Cr/Pt/Auからなる電極107を真空蒸着法で成膜する。なお、電極107では、Crの厚さが15nm、Ptの厚さが50nm、Auの厚さが600nmとなるように、Cr、Pt、Auを基板1側から順に成膜する。
【0039】
以上のように形成された電極107および絶縁膜105を、p電極部101と総称する。
次に、n型InP基板1の膜厚が120μm程度となるように、#2000番手の砥石を用い、n型InP基板1を研削する。この場合、研削面はRa:10-15nm、Rmax:55-170程度となる。なお、この研削面にケミカルエッチングを行うと、転位の導入原因となる加工変質層(破砕層)を取り除くことができる。また、研削面を鏡面に仕上げずに用いることで、表面積が増すため、電極や半田の密着性が向上するメリットがある。
【0040】
そして、このn型InP基板1の研削面に、Au-Ge/Ni/Auからなる電極109を真空蒸着法で成膜する。なお、電極109では、Au-Geの厚さが100nm、Niの厚さが20nm、Auの厚さが100nmとなるように、Au-Ge、Ni、Auを基板1側から順に成膜する。また、電極109と半導体レーザ構造10とのコンタクトを安定化させるために385℃で約2分間の熱処理を実施する。熱処理は、コンタクト比抵抗が10-6〜10-7(Ω・cm2)となる条件が望ましい。
【0041】
さらに、電極109上に、Ni/AuSnからなる半田層111を真空蒸着法で成膜する。なお、半田層111では、Niの厚さが100nm、AuSnの厚さが1350nmとなるように、Ni、AuSnを基板1側から順に成膜する。
【0042】
以上のように形成された電極109および半田層111を、n電極部103と総称する。なお、本実施例では、説明の便宜上、半導体レーザ素子100が、p電極部101およびn電極部103を備えるようにしたが、半導体レーザ構造10が、p電極部101およびn電極部103を備えると捉えることができる。
【0043】
次に、共振器を形成するために壁開により幅500μmで短冊化し、Al2O3,a-Si等の材料を用い、一方の端面にレーザ光の波長に対して低反射率の低反射率膜113を形成し、もう一方の端面に高反射率の反射層115を形成し、所定の大きさに素子化することで半導体レーザ素子100を作製する。
【0044】
<効果>
このように製造された半導体レーザ素子100では、半導体レーザ構造10の各層の厚み方向に、p電極部101からn電極部103へ順方向の電流(以下「順方向電流」という)が流れるように電圧を印加し、活性層内に「駆動電流」が到達すると、発生した光が低反射率膜113と反射層115との間を往復し、複数の導波モードの光が共振することで、光増幅が起き、これにより発生したレーザ光が低反射率膜113から出射される。
【0045】
なお、活性層は、n型光ガイド層4、多重量子井戸発光層5、及びp型光ガイド層6からなり、n型クラッド層2および第1電流狭窄層3、p型光ガイド層6および第2電流狭窄層7よりもバンドギャップエネルギーが小さく、且つ屈折率が高い層である。
【0046】
ここで、半導体レーザ素子100における半導体レーザ構造10では、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7が活性層に当接して配置されているため、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7によって「順方向電流」の直進性が向上する。これにより、活性層に到達しない(発光に寄与しない)電流(以下「無効電流」という)を低減させることができるので、「駆動電流」を効率よく活性層内に供給することができる。
【0047】
また、半導体レーザ素子100における半導体レーザ構造10では、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7が活性層の外部に形成されているため、活性層内において、発生した光が、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7に遮られることなく、低反射率膜113と反射層115との間を往復することが可能となり、複数の導波モードの光が共振することで、「高出力」のマルチモードレーザ光を得ることができる。
【0048】
よって、本実施例の半導体レーザ素子100を、例えば車載レーダ装置の構成として好適に用いることができる。
また、半導体レーザ構造10では、第1電流狭窄層3がInPノンドープ層3aであり、第2電流狭窄層7がAlGaInAsノンドープ層7aであるため、それぞれn型クラッド層2とp型クラッド層8の原子間隔(格子定数)が一致し、質の高い結晶層を作製することができる。
【0049】
さらに、半導体レーザ素子100では、p電極部101のストライプ幅と、クラッド層2,8において電流狭窄層3,7に挟まれてなる中央部(電流通過部)の幅とがほぼ一致するため、半導体レーザ構造10において「無効電流」の発生をより好適に抑制し、ひいては、活性層内において効率よく「電流を閉じ込める」ことが可能となる。
【0050】
<発明との対応>
なお、本実施例において、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7の少なくとも一方が電流狭窄部、p電極部101が電極部、絶縁膜105が絶縁層に相当する。
【0051】
[変形例1]
上記実施例では、半導体レーザ構造10において、第1電流狭窄層3がInPノンドープ層3aであり、第2電流狭窄層7がAlGaInAsノンドープ層7aである構成について説明した。例えば、第1電流狭窄層3がInPノンドープ層3aであることに代えて、AlGaInAsノンドープ層7aであってもよい。
【0052】
<半導体レーザ構造の製造>
半導体レーザ構造10の製造方法を図1及び表2に基づいて説明する。n型InP基板1上に、MOCVD法により、キャリア濃度5×1017cm-3、厚さ0.8μmのInPからなるn型クラッド層2を積層する。なお、n型クラッド層2は、不純物(ドーパント)としてSeがドープされた不純物半導体である。
【0053】
その後、n型光ガイド層4と同様の組成(AlGaInAs)であるがZnをドープしない真性半導体であるAlGaInAsノンドープ層7aを、厚みが0.01〜0.1μmとなるように成長させる。次に、AlGaInAsノンドープ層7a上の中央部に、例えばフォトリソグラフィによるパターンエッチングにより、AlGaInAsノンドープ層7aの厚み分の開口をストライプ状に形成する。さらに、そのストライプ状の開口が埋まるように、AlGaInAsノンドープ層7aの厚み分、再度、n型クラッド層2を成長させる。
【0054】
これにより、厚さ0.81〜0.9μmの不純物半導体(InP)からなるn型クラッド層2において、両端部の領域にそれぞれ厚さ0.01〜0.1μmの真性半導体(AlGaInAs)からなるAlGaInAsノンドープ層7aが設けられることになる。なお、真性半導体(AlGaInAs)の電気伝導性は、不純物半導体(InP)の電気伝導性よりも低い。このため、n型クラッド層2において、厚み方向に流れる電流は、不純物半導体(InP)であるn型クラッド層2の中央部の領域に狭窄することになる。よって、このn型クラッド層2に設けられたAlGaInAsノンドープ層7aを、第1電流狭窄層3とする。以下、実施例と共通するため、説明を省略する。
【0055】
なお、各層のキャリア濃度、厚さ、組成は、表2に示すとおりである。
【0056】
【表2】

【0057】
[変形例2]
また、上記実施例の第2電流狭窄層7がAlGaInAsノンドープ層7aであることに代えて、第2電流狭窄層7がInPノンドープ層3aであってもよい。
【0058】
<半導体レーザ構造の製造>
半導体レーザ構造10の製造方法を図1及び表3に基づいて説明する。なお、n型クラッド層2〜p型光ガイド層6を作製するところは、上記実施例と共通するため、説明を省略する。
【0059】
p型光ガイド層6の作製後、p型光ガイド層6上に、p型クラッド層8と同様の組成(InP)であるがSeをドープしない真性半導体であるInPノンドープ層3aを、厚みが0.01〜0.1μmとなるように成長させる。
【0060】
次に、InPノンドープ層3a上の中央部に、例えばフォトリソグラフィによるパターンエッチングにより、InPノンドープ層3aの厚み分の開口をストライプ状に形成する。なお、ここでは、p型光ガイド層6上の両端側に残存するInPノンドープ層3aが、第1電流狭窄層3に対向する領域に形成されるように、InPノンドープ層3aをエッチングする。
【0061】
さらに、p型光ガイド層6およびInPノンドープ層3aの表面上に、キャリア濃度1×1018cm-3、厚さ1.5μmのInPからなるp型クラッド層8を積層する。なお、本実施例のp型クラッド層8は、n型クラッド層2と同様に、ドーパントとしてSeがドープされた不純物半導体である。
【0062】
これにより、厚さ1.51〜1.6μmの不純物半導体(InP)からなるp型クラッド層8において、両端部の領域にそれぞれ厚さ0.01〜0.1μmの真性半導体(InP)からなるInPノンドープ層3aが設けられることになる。なお、真性半導体(InP)の電気伝導性は、不純物半導体(InP)の電気伝導性よりも低い。このため、p型クラッド層8において、厚み方向に流れる電流は、不純物半導体(InP)であるp型クラッド層8の中央部の領域に狭窄することになる。よって、このp型クラッド層8に設けられたInPノンドープ層3aを、第2電流狭窄層7とする。
【0063】
そして、p型クラッド層8上の中央部に、上記パターンエッチングにより、p型光ガイド層6との界面に平行且つ同じストライプ幅を有する開口を形成し、その後、キャリア濃度1×1019cm-3、厚さ0.2μmのInGaAsからなるp型キャップ層9を積層する。
【0064】
なお、各層のキャリア濃度、厚さ、組成は、表3に示すとおりである。
【0065】
【表3】

【0066】
[変形例3]
さらに、上記変形例1及び2を組み合わせとして、第1電流狭窄層3がAlGaInAsノンドープ層7aであり、第2電流狭窄層7がInPノンドープ層3aであってもよい。なお、半導体レーザ構造10の製造については、上記変形例1及び2の単なる組み合わせであるため、説明を省略する。ちなみに、各層のキャリア濃度、厚さ、組成は、表3に示すとおりである。
【0067】
【表4】

【0068】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態の半導体レーザ構造10では、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7が活性層に当接して配置されているが、図3(a)及び図3(b)に示すように、第1電流狭窄層3および第2電流狭窄層7のうち、いずれか一方の電流狭窄層が活性層に当接して配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…n型InP基板、2…n型クラッド層、3…第1電流狭窄層、3a…InPノンドープ層、4…n型光ガイド層、5…多重量子井戸発光層、6…p型光ガイド層、7…第2電流狭窄層、7a…AlGaInAsノンドープ層、8…p型クラッド層、9…p型キャップ層、10…半導体レーザ構造、100…半導体レーザ素子、101…p電極部、103…n電極部、105…絶縁膜、107…電極、109…電極、111…半田層、113…低反射率膜、115…反射層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型クラッド層、n型光ガイド層、発光層、p型光ガイド層、及びp型クラッド層を積層して構成された半導体レーザ構造であって、
前記n型クラッド層内において前記n型光ガイド層と当接する領域、及び、前記p型クラッド層内において前記p型光ガイド層と当接する領域のうち、少なくとも一方の領域の両端部にだけ、前記n型クラッド層および前記p型クラッド層よりも絶縁性の高い材質からなる電流狭窄部が設けられていることを特徴とする半導体レーザ構造。
【請求項2】
前記n型光ガイド層および前記p型光ガイド層は、不純物半導体であり、
前記電流狭窄部は、前記n型光ガイド層および前記p型光ガイド層と同じ組成であり、且つ、真性半導体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ構造。
【請求項3】
前記n型クラッド層および前記p型クラッド層は、不純物半導体であり、
前記電流狭窄部は、前記n型クラッド層および前記p型クラッド層と同じ組成であり、且つ、真性半導体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ構造。
【請求項4】
電極の下方両端側に絶縁層を隣接させてなるストライプ状の電極部を備え、
前記電流狭窄部は、前記絶縁層に対向するように配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体レーザ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−41874(P2013−41874A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176032(P2011−176032)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】