説明

半導体レーザ素子及びその製造方法

【課題】電流の利用効率を高めた半導体レーザ素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子は、第1導電型の第1クラッド層12と、第1クラッド層12上に形成された活性層13と、活性層13上に形成された第2導電型の第2クラッド層14と、第1pクラッド層14上の所定の領域に形成された第2導電型のリッジ部2と、所定の領域とは異なるリッジ部2の近傍領域の第1pクラッド層14上に形成された第1導電型のn型イオン注入層16aとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子及びその製造方法、特に、エアリッジ構造を有する半導体レーザ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば下記の特許文献1のように、エアリッジ構造を有する半導体レーザ素子が知られている。このエアリッジ構造を有する半導体レーザ素子は、共振器として凸状のエアリッジ構造を設けることによって放熱効率を高め、耐熱性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−094181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等に記載された半導体レーザ素子は、供給電流に高周波電流を重畳させて駆動した場合に、リッジ部の直下以外の領域に容量成分が発生することにより、リッジ部の直下以外の領域にも電流が流れてしまう。これにより、従来の半導体レーザ素子では、発光に寄与しない電流によって、電極に供給した電流の利用効率が低下する問題があった。この問題のため、従来の半導体レーザ素子では、電流閾値が上がってしまい、余計な熱が発生することで耐熱性が低下していた。
【0005】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、電流の利用効率を高めた半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する第1の発明に係る半導体レーザ素子は、第1導電型の第1クラッド層(12)と、前記第1クラッド層(12)上に形成された活性層(13)と、前記活性層(13)上に形成された第2導電型の第2クラッド層(14)と、前記第2クラッド層(14)上の所定の領域に形成された第2導電型のリッジ部(2)と、前記所定の領域とは異なる前記リッジ部(2)の近傍領域の前記第2クラッド層(14)上又は前記第2クラッド層(14)内に形成された第1導電型の第1イオン注入層(16a、21a)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第1の発明に係る半導体レーザ素子であって、第2の発明は、前記リッジ部(2)の両側に凹部(4)を介してそれぞれ形成された第2導電型のランド部(3)をさらに備え、前記第1イオン注入層(16a)は前記ランド部(3)内に形成されていることを特徴とする。
【0008】
第2の発明に係る半導体レーザ素子であって、第3の発明は、前記第2クラッド層(14)の前記第1イオン注入層(16a)が形成されている領域に対応する領域に前記第2クラッド層(14)よりも不純物濃度が高い第2導電型の第2イオン注入層(14a)がさらに形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する第4の発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、第1導電型の半導体基板(11)上に第1導電型の第1クラッド層(12)、活性層(13)、第2導電型の第2クラッド層(14)、第2導電型のエッチングストップ層(15)、及び第2導電型の第3クラッド層(16)を順次成膜する成膜工程と、前記成膜工程の後に、前記第3クラッド層(16)を部分的にエッチングして、前記エッチングストップ層(15)上に前記第3クラッド層(16)を有する第2導電型のリッジ部(2)と、前記リッジ部(2)の両側に前記エッチングストップ層(15)が露出した凹部(4)を介して配置され、前記エッチングストップ層(15)上に前記第3クラッド層(16)を有する第2導電型のランド部(3)と、を形成するエッチング工程と、前記成膜工程と前記エッチング工程との間、又は前記エッチング工程の後に、前記ランド部(3)に第1導電型の不純物を注入して前記第3クラッド層(16)の内部に第1導電型の第1イオン注入層(16a)を形成する第1イオン注入工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する第5の発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、第1導電型の半導体基板(11)上に第1導電型の第1クラッド層(12)、活性層(13)、第2導電型の第2クラッド層(14)、第2導電型のエッチングストップ層(15)、及び第2導電型の第3クラッド層(16)を順次成膜する成膜工程と、前記成膜工程の後に、前記第3クラッド層(16)を部分的にエッチングして、前記エッチングストップ層(15)上の所定の領域に前記第3クラッド層(16)を有する第2導電型のリッジ部(2)を形成するエッチング工程と、前記成膜工程と前記エッチング工程との間、又は前記エッチング工程の後に、前記所定の領域とは異なる領域に第1導電型の不純物を注入して前記第2クラッド層(14)の内部に第1導電型の第1イオン注入層(14a)を形成するイオン注入工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
第4の発明に係る半導体レーザ素子であって、第6の発明は、前記エッチング工程と前記イオン注入工程との間、又は前記イオン注入工程の後に、前記第1イオン注入層(16a)が形成されている領域に対応する領域の前記第2クラッド層(14)に第2導電型の不純物を注入して前記第2クラッド層(14)よりも不純物濃度が高い第2導電型の第2イオン注入層(14a)を前記第2クラッド層(14)の内部に形成する第2イオン注入工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リッジ部近傍の第2導電型の領域に第1導電型の第1イオン注入層を形成しているので、リッジ部に流れるべき電流がリッジ部近傍の発光に寄与しない領域に流れることを抑制して、電流の利用効率を従来よりも高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子において、GaAs基板上のパターニング状態を示す上面図である。
【図2】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態として示す他のエアリッジ型半導体レーザ素子の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、GaAs基板からコンタクト層まで成膜した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、コンタクト層上にレジスト膜を形成し、開口パターンを設けた状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、開口パターン上からn型不純物のイオン注入を行っている状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、開口パターン上からp型不純物のイオン注入を行っている状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子において、GaAs基板上のパターニング状態を示す上面図である。
【図9】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、GaAs基板からコンタクト層まで成膜した状態を示す断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、エッチングを行ってエアリッジ部となる領域以外を除去した状態を示す断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、第1pクラッド層及びコンタクト層上にレジスト膜を形成し、開口パターンを設けた状態を示す断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程において、開口パターン上からn型不純物のイオン注入を行っている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
[第1実施形態]
本発明を適用した第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子は、例えば図1に示すようにGaAs基板1上に形成され、図2に示すように構成される。図1は、GaAs基板1上に、MO−CVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長法)によってAlGaInP系材料を成膜し、当該成膜面上にエアリッジ共振器パターンを形成した状態を示している。このエアリッジ共振器パターンは、リッジ部2、ランド部3及びエッチング部4を所定の位置関係にレイアウトして構成される。
【0016】
GaAs基板1の成膜面には、略直方体状のリッジ部2と、リッジ部2の両脇に形成された凹形状(溝状)のエッチング部4、リッジ部2の両脇にエッチング部4をそれぞれ介して形成されたランド部3が配置されている。ランド部3は、リッジ部2と同じ高さ位置に上面を有し、リッジ部2の上面面積よりも広く形成されている。このレイアウトによって、リッジ部2にはランド部3及びエッチング部4が隣接されていることとなる(エアリッジ隣接部)。
【0017】
図1に示した断面A−Aにおけるリッジ部2の長手方向と垂直する断面図を、図2に示す。
【0018】
n型のGaAs基板11上には、nクラッド層12(第1クラッド層)が形成されている。nクラッド層12は、n型(第1導電型)半導体である。nクラッド層12は、n型のGaAs基板11上にGaAsのバッファ層を形成し、AlGaInP層にSiドーピングして形成される。このnクラッド層12は、例えば2800nmの膜厚で形成されている。
【0019】
nクラッド層12上には、MQW(multi-quantum well:多重量子井戸)活性層13が形成されている。MQW活性層13は、AlGaInP層とGaInP層とを交互に多層に形成されてなる。このMQW活性層13は、例えばトータルで100nmの膜厚で形成されている。
【0020】
MQW活性層13上には、第1pクラッド層14(第2クラッド層)が形成されている。第1pクラッド層14は、p型(第2導電型)半導体である。第1pクラッド層14は、AlGaInP層にMgやZnをドーピングして形成される。第1pクラッド層14は、例えば170nmの膜厚で形成されている。
【0021】
第1pクラッド層14上には、エッチングストッパ層としてのp型MQB(multi-quantum barriers:多重量子障壁)層15が形成されている。p型MQB層15は、エッチング部4を形成するに際して、エッチング深度が第1p型クラッド層14にまで及ばないようエッチングストッパ層として機能する。p型MQB層15は、GaInP層とAlGaInP層とを交互に多層に形成されており、MgやZnをドーピングして形成される。p型MQB層15は、例えばトータルで34nmの膜厚で形成されている。
【0022】
リッジ部2は、p型MQB層15上に順次成膜された、第2pクラッド層16(第3クラッド層)、p型の障壁緩和層17、及びp型のコンタクト層18を備えている。
【0023】
第2pクラッド層16は、p型(第2導電型)半導体である。第2pクラッド層16は、AlGaInP層にMgやZnをドーピングして形成される。第2pクラッド層16は、例えば1250nmの膜厚で形成されている。
【0024】
障壁緩和層17は、GaInP層にZnをドーピングして形成される。障壁緩和層17は、例えば40nmの膜厚で形成されている。
【0025】
コンタクト層18は、GaAs層にZnをドーピングして形成される。コンタクト層18は、例えば300nmの膜厚で形成されている。
【0026】
ランド部3におけるコンタクト層18上及びエッチング部4における第1pクラッド層14上には、SiN(窒化シリコン膜)膜19が形成されている。SiN膜19は、例えば140nmの膜厚で形成されている。このSiN膜19は、リッジ部2の上面にコンタクト層18を露出させる開口部18aが形成されている。
【0027】
SiN膜19上には上記開口部18aを介してコンタクト層18にオーミックコンタクトするp側電極(金メッキ電極)20が形成されている。GaAs基板11の下層にはn側電極(金メッキ電極)が形成されているが省略している。
【0028】
また、このエアリッジ型半導体レーザ素子において、ランド部3における第2pクラッド層16には、n型イオン注入層16aが形成されている。このn型イオン注入層16aは、n型不純物がイオン注入された領域である。したがって、ランド部3の第2pクラッド層16は、第1pクラッド層14及びp型MQB層15上の第1p型層16c、第1p型層16c上のn型イオン注入層16a、n型イオン注入層16a上の第2p型層16bの3層構造とされている。
【0029】
このように、エアリッジ型半導体レーザ素子は、第2pクラッド層16(第3クラッド層)内に層状に形成されたn型(第1導電型)のn型イオン注入層16a(第1イオン注入層)を含む。このランド部3のn型イオン注入層16aは、エアリッジ構造の第2pクラッド層16(第3クラッド層)と面内方向において隣接して配置されている。
【0030】
このn型イオン注入層16aは、膜厚が厚いほど、厚さ方向において流れる電流を抑制する効果を高める。例えば、第2pクラッド層16が1250nmの場合、n型イオン注入層16aは、例えば300〜400nm程度の厚さを有することが望ましい。n型イオン注入層16aの厚さを調整するため、後述するエアリッジ型半導体レーザ素子の製造工程によって、イオン注入後の熱処理条件を調整する。
【0031】
また、第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の他の構成例を、図3に示す。
【0032】
図3に示すエアリッジ型半導体レーザ素子は、図2に示したエアリッジ型半導体レーザ素子に対して、n型イオン注入層16a(第1イオン注入層)の下方における第1pクラッド層14(第2クラッド層)内に、P型(第2導電型)のイオン注入層14a(第2イオン注入層)がさらに配置された構成を有している。このランド部3のP型イオン注入層14aは、リッジ部2の近傍に配置されている。
【0033】
これにより、ランド部3の第1pクラッド層14は、MQW活性層13上のp型層14c、p型層14c上のP型イオン注入層14a、P型イオン注入層14a上のp型層14bの3層構造となる。
【0034】
型のイオン注入層14aは、不適切な熱処理条件によってn型イオン注入層16aが第1pクラッド層14に至る領域にまで形成されてしまった場合においても、ランド部3下の第1pクラッド層14をP型イオン注入層14aによって確実にp型(第2導電型)とすることができる。
【0035】
つぎに、上述した第1実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造方法について説明する。
【0036】
先ず、図4に示すように、GaAs基板11上に、nクラッド層12、MQW活性層13、第1pクラッド層14、p型MQB層15、第2pクラッド層16、障壁緩和層17及びコンタクト層18を順次成膜する(成膜工程)。
【0037】
次の工程では、図5に示すように、コンタクト層18上にレジスト膜31を形成し、ランド部3となる部分に相当するレジスト膜31を開口して、開口パターン31aを形成する。
【0038】
次の工程では、図6に示すように、レジスト膜31の開口パターン31a上から、n型(第1導電型)の不純物をイオン注入して、所定の深さ位置に注入領域16a’を形成する。このとき、第2pクラッド層16(第2クラッド層)内にn型イオン注入層16a(第1イオン注入層)を形成するようイオン注入強度が調整される。また、n型イオン注入層16aの厚さに応じてイオン注入量を調整する。このn型不純物は例えばSiが使用可能である。その後、熱処理が施されることによって、所定の濃度、膜厚のn型イオン注入層16aを形成する(第1イオン注入工程)。
【0039】
このイオン注入工程は、成膜工程を行った後のエッチングによってリッジ部2,エッチング部4及びランド部3の形成する(エッチング工程)前であっても、リッジ部2,エッチング部4及びランド部3を形成した(エッチング工程)後であっても良い。これにより、n型イオン注入層16aを形成した領域の近傍にリッジ2は形成される。
【0040】
その後、SiN膜19でリッジ部2、ランド部3、及びエッチング部4を被覆し、フォトエッチングを用いてリッジ部2の上部のSiN膜19にコンタクト層18を露出させる開口部18aを形成する。その後、リッジ部2、エッチング部4及びランド部3を覆うと共にリッジ部2のコンタクト層18と接続するp側電極(金メッキ電極)20を形成する。
【0041】
また、図3に示したエアリッジ型半導体レーザ素子の製造方法では、図7に示すように、第2pクラッド層16に注入領域16a’を形成するイオン注入後に、レジスト膜31の開口パターン31a上から、p型(第2導電型)の不純物をイオン注入する。これにより、第1pクラッド層14内の所定の深さ位置に注入領域14a’を形成する。このとき、第1pクラッド層14(第1クラッド層)内にP型イオン注入層14a(第2イオン注入層)を形成するようイオン注入強度が調整される。また、P型イオン注入層14aの厚さに応じてイオン注入量を調整する。その後、熱処理が施されることによって、所定の濃度、膜厚のP型イオン注入層14aを形成する(第2イオン注入工程)。
【0042】
なお、P型イオン注入層14aを形成する工程は、エッチングによってリッジ部2,エッチング部4及びランド部3の形成してn型イオン注入層16aを形成する前であっても、n型イオン注入層16aを形成した後であっても良い。これにより、第1pクラッド層14のn型イオン注入層16aが形成されている領域に対応する領域にP型イオン注入層14aを形成できる。
【0043】
以上のようなエアリッジ型半導体レーザ素子によれば、リッジ部2に隣接するランド部3の第2pクラッド層16、すなわち第1pクラッド層14上に、n型イオン注入層16aを含むNPN構造を有する。したがって、エアリッジ型半導体レーザ素子は、p側電極20とn側電極との間に供給電流に高周波電流を重畳させて印加した場合に、容量成分となったランド部3にも電流が流れようとするが、NPN構造によってランド部3に流れる電流が抑制される。したがって、ランド部3に流れる電流が抑制された分の電流がリッジ部2に流れる。これにより、上述したエアリッジ型半導体レーザ素子によれば、電流の利用効率を高めて、電流閾値を下げ、発光時の発熱を抑制できる。
【0044】
[第2実施形態]
つぎに、第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子及びエアリッジ型半導体レーザ素子の製造方法について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分については同一符号を付することによってその詳細な説明を省略する。
【0045】
本発明を適用した第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子は、例えば図8及び図9に示すように構成される。
【0046】
図8に示すように、第2実施形態としてのエアリッジ型半導体レーザ素子は、GaAs基板1上に、リッジ部2及びエッチング部4のみが形成されている。このレイアウトによって、リッジ部2にはエッチング部4が隣接されていることとなる(エアリッジ隣接部)。
【0047】
図8に示した断面A−Aにおけるリッジ部2の長手方向と垂直する断面図を、図9に示す。このエアリッジ型半導体レーザ素子におけるリッジ部2は、第1実施形態と同様に構成されている。
【0048】
第2実施形態としてのエアリッジ型半導体レーザ素子は、リッジ部2に隣接して、エッチング部4が形成されている。エッチング部4は、リッジ部2に隣接する凹部(溝部)であるが、第1実施形態と比較してランド部3が無いように構成されている。
【0049】
このエッチング部4における第1pクラッド層14には、n型イオン注入層21aが形成されている。このn型イオン注入層21aは、n型不純物がイオン注入により含まれている。したがって、エッチング部4の第1pクラッド層14は、MQW活性層13上の第1p型層21c、第1p型層21c上のn型イオン注入層22a、n型イオン注入層21a上の第2p型層21bの3層構造を有する。
【0050】
このように、エアリッジ型半導体レーザ素子は、第1pクラッド層14(第2クラッド層)内に層状に形成されたn型(第1導電型)のn型イオン注入層21a(第1イオン注入層)を含む。このエッチング部4のn型イオン注入層21aは、リッジ部2の近傍に形成されている。
【0051】
このn型イオン注入層21aは、膜厚が厚いほど、厚さ方向において流れる電流を抑制する効果を高める。n型イオン注入層21aの厚さを調整するため、後述するエアリッジ型半導体レーザ素子の製造方法によって、イオン注入後の熱処理条件を調整する。
【0052】
つぎに、上述した第2実施形態として示すエアリッジ型半導体レーザ素子の製造方法について説明する。
【0053】
先ず、図10に示すように、第1実施形態と同様に、GaAs基板11上に、nクラッド層12、MQW活性層13、第1pクラッド層14、p型MQB層15、第2pクラッド層16、障壁緩和層17及びコンタクト層18を順次成膜する(成膜工程)。
【0054】
次の工程では、コンタクト層18上からフォトエッチングを行うことによって、図11に示すように、第2pクラッド層16、障壁緩和層17及びコンタクト層18が順次積層された略直方体形状を有するリッジ部2を形成する(エッチング工程)。
【0055】
次の工程では、図12に示すように、リッジ部2及びその近傍の領域のみを覆うようにレジスト膜31を形成する。p型MQB層15が露出している領域を開口パターン31aと称す。
【0056】
次の工程では、図13に示すように、レジスト膜31をマスクとして開口パターン31a上から、n型(第1導電型)の不純物をイオン注入して、所定の深さ位置に注入領域21a’を形成する。このとき、第1pクラッド層14(第2クラッド層)内にn型イオン注入層21a(第1イオン注入層)を形成するようイオン注入強度が調整される。また、n型イオン注入層21aの厚さに応じてイオン注入量を調整する。このn型不純物は例えばSiが使用可能である。その後、熱処理が施されることによって、所定の濃度、膜厚のn型イオン注入層21aを形成する(イオン注入工程)。
【0057】
このイオン注入工程は、成膜工程を行った後のエッチングによってリッジ部2,エッチング部4及びランド部3の形成する前であっても、リッジ部2,エッチング部4及びランド部3を形成した後であっても良い。これにより、n型イオン注入層16aを形成した領域の近傍にリッジ部2は形成される。
【0058】
その後、SiN膜19でリッジ部2及びエッチング部4を被覆し、フォトエッチングを用いてリッジ部2の上部のSiN膜19にコンタクト層18を露出させる開口部18aを形成する。その後、リッジ部2及びエッチング部4を覆うと共にリッジ部2のコンタクト層18と接続するp側電極(金メッキ電極)20を形成する。
【0059】
なお、第2実施形態においても、n型イオン注入層21aの下層の第1pクラッド層14内に、第1実施形態のP型イオン注入層に相当する領域を形成しても良い。
【0060】
以上のようなエアリッジ型半導体レーザ素子によれば、リッジ部2に隣接するエッチング部4の第1pクラッド層14内に、n型イオン注入層21aを含むNPN構造を有する。したがって、エアリッジ型半導体レーザ素子は、p側電極20とn側電極との間に供給電流に高周波電流を重畳させて印加した場合に、容量成分となったエッチング部4にも電流が流れようとするが、NPN構造によってエッチング部4に流れる電流が抑制される。したがって、エッチング部4に流れる電流が抑制された分の電流がリッジ部2に流れる。これにより、上述したエアリッジ型半導体レーザ素子によれば、電流の利用効率を高めて、電流閾値を下げ、発光時の発熱を抑制できる。
【0061】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
1 GaAs基板
2 エアリッジ部
3 ランド部
4 エッチング部
11 GaAs基板
12 nクラッド層
13 MQW活性層
14 第1pクラッド層
14a P型イオン注入層14
15 MQBエッチングストッパ層
16 第2pクラッド層
17a n型イオン注入層
17 障壁緩和層
18 コンタクト層
19 窒化シリコン(SiN)膜
20 p側電極(金メッキ電極)
31 レジスト膜
31a 開口パターン
21a n型イオン注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2導電型の第2クラッド層と、
前記第2クラッド層上の所定の領域に形成された第2導電型のリッジ部と、
前記所定の領域とは異なる前記リッジ部の近傍領域の前記第2クラッド層上又は前記第2クラッド層内に形成された第1導電型の第1イオン注入層と、
を備えることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記リッジ部の両側に凹部を介してそれぞれ形成された第2導電型のランド部をさらに備え、
前記第1イオン注入層は前記ランド部内に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第2クラッド層の前記第1イオン注入層が形成されている領域に対応する領域に前記第2クラッド層よりも不純物濃度が高い第2導電型の第2イオン注入層をさらに形成されていることを特徴とする請求項2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
第1導電型の半導体基板上に第1導電型の第1クラッド層、活性層、第2導電型の第2クラッド層、第2導電型のエッチングストップ層、及び第2導電型の第3クラッド層を順次成膜する成膜工程と、
前記成膜工程の後に、前記第3クラッド層を部分的にエッチングして、前記エッチングストップ層上に前記第3クラッド層を有する第2導電型のリッジ部と、前記リッジ部の両側に前記エッチングストップ層が露出した凹部を介して配置され、前記エッチングストップ層上に前記第3クラッド層を有する第2導電型のランド部と、を形成するエッチング工程と、
前記成膜工程と前記エッチング工程との間、又は前記エッチング工程の後に、前記ランド部に第1導電型の不純物を注入して前記第3クラッド層の内部に第1導電型の第1イオン注入層を形成する第1イオン注入工程と、
を含むことを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項5】
第1導電型の半導体基板上に第1導電型の第1クラッド層、活性層、第2導電型の第2クラッド層、第2導電型のエッチングストップ層、及び第2導電型の第3クラッド層を順次成膜する成膜工程と、
前記成膜工程の後に、前記第3クラッド層を部分的にエッチングして、前記エッチングストップ層上の所定の領域に前記第3クラッド層を有する第2導電型のリッジ部を形成するエッチング工程と、
前記成膜工程と前記エッチング工程との間、又は前記エッチング工程の後に、前記所定の領域とは異なる領域に第1導電型の不純物を注入して前記第2クラッド層の内部に第1導電型の第1イオン注入層を形成するイオン注入工程と、
を含むことを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項6】
前記エッチング工程と前記イオン注入工程との間、又は前記イオン注入工程の後に、前記第1イオン注入層が形成されている領域に対応する領域の前記第2クラッド層に第2導電型の不純物を注入して前記第2クラッド層よりも不純物濃度が高い第2導電型の第2イオン注入層を前記第2クラッド層の内部に形成する第2イオン注入工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−182374(P2012−182374A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45260(P2011−45260)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】