半導体光位相変調器を用いた高繰り返しフェムト秒ファイバレーザ
【課題】光パルス圧縮器を用いず、500フェムト秒以下のパルス幅を有し、かつ波形の整った1GHz以上の高繰り返し光パルスを能動モード同期ファイバレーザから直接発生させる。
【解決手段】光増幅器7と群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバ2と光アイソレータ4と光変調器8と帯域通過型光フィルタ6をリング状に結合してリング共振器を形成し、リング共振器内で発生する光パルスを外部に取り出す光カプラ3を備えた能動モード同期ファイバレーザにおいて、前記光変調器8として半導体材料中における電気光学効果(ポッケルス効果)および電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)に伴う屈折率および光吸収係数変化を同時に利用した進行波型半導体光位相・強度変調器を用いる。
【解決手段】光増幅器7と群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバ2と光アイソレータ4と光変調器8と帯域通過型光フィルタ6をリング状に結合してリング共振器を形成し、リング共振器内で発生する光パルスを外部に取り出す光カプラ3を備えた能動モード同期ファイバレーザにおいて、前記光変調器8として半導体材料中における電気光学効果(ポッケルス効果)および電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)に伴う屈折率および光吸収係数変化を同時に利用した進行波型半導体光位相・強度変調器を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速光時分割多重伝送用光源として用いられるパルス幅が500フェムト秒(1フェムト秒=1 x 10-15秒)以下、繰り返し周波数が1 GHz以上である光パルスを直接発生させることができる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザに関するものである。また、本発明は、光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源として用いられる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス幅が100 フェムト秒程度の超短光パルスを発生させるレーザとしては、光ファイバ中の非線形光学効果(非特許文献1)や半導体、カーボンナノチューブなどの光学材料の可飽和吸収効果(非特許文献2、3)をモードロッカーとして利用した受動モード同期ファイバレーザが報告されている。しかし、これらのレーザから出力される光パルスの繰り返し周波数は数十ないし数百MHzであり、その繰り返し周波数を光通信で必要となる10 GHz以上とすることは困難であった。
【0003】
一方、光変調器を共振器内に有する能動モード同期ファイバレーザは、従来から10 GHz以上の高繰り返しパルス光源として知られており、光通信用光源として用いられている。例えば非特許文献4に記載の電気光学効果(ポッケルス効果)による屈折率変化を利用したLiNbO3光位相変調器を有する能動モード同期ファイバレーザより、繰り返し周波数が40 GHz、パルス幅が0.85 ps(850フェムト秒)である光パルスが生成されている。しかし、従来の能動モード同期ファイバレーザから出力される光パルスの最小パルス幅はおおよそ1ピコ秒程度であり、これからさらに細い光パルスを発生させるには光パルス圧縮器を用いてパルス圧縮する必要があった(非特許文献5)。
【0004】
また、本発明と類似した特許として、能動モード同期ファイバレーザ共振器内の光ファイバの波長分散と、利得媒質あるいは光ファイバのもつ非線形性を利用した短パルスレーザに関する特許(特許文献1、2)が報告されている。しかしながら、これらの特許文献に記載のレーザで使用している光変調器はLiNbO3結晶のポッケルス効果を利用した通常の光素子であり、特殊な光位相変調器を使用する本発明とそのレーザ構成が異なる。また、これら特許文献に記載のレーザでは、その共振器を構成する光ファイバの分散値を高精度に制御する必要があり、レーザを構築することが困難であった。さらに、これら特許文献に記載された形態のレーザによるフェムト秒領域の超短光パルスの発生に関する報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-70151号公報
【特許文献2】特開2002-232043号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Nakazawa, E. Yoshida, T. Sugawa, and Y. Kimura, “Continuum suppressed, uniformly repetitive 136 fs pulse generation from an erbium-doped fibre laser with nonlinear porarisation rotation,” Electron. Lett., vol. 29, pp. 1327-1328, 1993.
【非特許文献2】E. A. De Souza, C. E. Soccolich, W. Pleibel, R. H. Stolen, J. R. Simpson, and D. J. DiGiovanni, “Saturable absorber modelocked polarization maintaining erbium-doped fiber laser,” Electron. Lett., vol. 29, pp. 447−449, 1993.
【非特許文献3】S. Y. Set, H. Yaguchi, Y. Tanaka, M. Jablonski,Y. Sakakibara, A. Rozhin, M. Tokumoto, H. Kataura, Y. Achiba, and K. Kikuchi, "Mode-locked fiber lasers based on a saturable absorber incorporating carbon nanotubes," in Proc. Optical Fiber Communication Conference 2003, Post-deadline Paper PD44, 2003.
【非特許文献4】M. Nakazawa, and E. Yoshida, “A 40-GHz 850-fs regeneratively FM mode-locked polarization- maintaining erbium fiber ring laser,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 12, no. 12, pp. 1613-1615, 2000.
【非特許文献5】K. R. Tamura, and M. Nakazawa, “Femtosecond soliton generation over a 32-nm wavelength range using a dispersion-flattened dispersion-decreasing fiber,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 11, no. 3, pp. 319-321, 1999.
【非特許文献6】G. P. アグラワール著「非線形ファイバー光学」、吉岡書店、1997年発行.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
100フェムト秒程度の光パルスを発生させるためにレーザの外部で光パルス圧縮器を使用した場合には、光パルスの裾が圧縮されずに残ったり、主となるパルス以外に小さな寄生パルスが発生するなどの欠点があり、波形の整った光パルスを高繰り返しで発生させることは困難であった。また、パルス圧縮する際に光パルス信号を高い強度に光増幅する必要があり、その光増幅の過程において放出される自然放出光の影響により光パルス信号に雑音が付加され、出力光パルスのS/Nが劣化するなどの問題があった。
【0008】
本発明は、光パルス圧縮器を用いずに、100フェムト秒程度のパルス幅を有し、かつ波形の整った1 GHz以上の高繰り返し光パルスをレーザから直接発生させることができる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
石英ガラスを主成分とする光ファイバでは、波長1.55 μm帯において、波長が長くなるほど伝搬速度が遅くなる異常分散特性をもつ。一方、光ファイバ中を伝搬する光信号は、光カー効果により自己位相変調を受ける。これらの事象が同時に存在することから、光ファイバ中を伝搬する光信号は、非線形シュレディンガ方程式
【数1】
によって表される(非特許文献6)。式(1)の左辺は光の伝搬を表し、右辺第1項は光ファイバの群速度分散効果を表し、右辺第2項は光カー効果を表している。式(1)の安定解は光ソリトンと呼ばれ、その中で次数の最も低い解は、双曲線正割関数(sech関数)
【数2】
で表される。このsech型の光ソリトンパルスは、光ファイバの群速度分散によるパルス広がりと、光カー効果による自己位相変調(正のチャーピング)により光パルスが細くなる効果が釣り合うことにより、光ファイバ中を伝搬しても波形が変化せず、またパルス内の位相は常に一定という特徴がある。
【0010】
そこで、光ソリトンパルスを直接発生する能動モード同期ファイバレーザから、フェムト秒パルスを発生させることができれば、波形の整ったS/Nの高いパルスを生成するという課題を解決することができる。
【0011】
これまでに報告されている光ソリトンパルスを発生する能動モード同期ファイバレーザの構成を図1に示す。本レーザは、エルビウム添加光ファイバ増幅器1、単一モード光ファイバ2、光パルスのパワーの一部を出力光として取り出す光カプラ3、光アイソレータ4、LiNbO3光変調器5、帯域通過型光フィルタ6で構成されたリング型共振器である。例えば、非特許文献4に記載のレーザは、共振器の平均分散値が1 ps/nm/kmの異常分散に設定され、これにより共振器内におけるソリトンパルスの伝搬を可能にしている。また、モードロッカーとしてLiNbO3光位相変調器を共振器内に挿入し、共振器を構成する単一モード光ファイバ中で生じる自己位相変調効果と同方向の正のチャープを光パルスに与えることにより共振器内の光パルスのスペクトルを効率よく広げ、パルス幅850 fsの安定なソリトンパルスを生成している。
【0012】
このような能動モード同期ファイバレーザから細い光パルスを発生させるためには、光位相変調器により光パルスに与える正のチャープ量を増大させることが重要である。ここからはレーザ共振器内に挿入する各種光位相変調器の特徴について述べる。従来のレーザで使用されているLiNbO3光位相変調器の構成を図2に示す。この変調器では、その動作帯域を広域化するために電気変調信号と光波を同方向に伝搬させる進行波型動作が用いられている。光波と電界の相互作用長を長くするほど高い電気光学効果が得られるが、動作帯域と電極長との間にはトレードオフの関係がある。そのため、例えば40 GHzの高速動作する光位相変調器の半波長電圧(光位相をπ変化させるために必要な電圧)は5〜7 Vと高い数値となってしまい、実現可能な変調幅は2π〜4π程度に制限される。
一方、近年半導体材料中の電気光学効果を用いた低半波長電圧を有する半導体光変調器が研究開発されている。半導体材料中のポッケルス係数はLiNbO3の20分の1程度と小さいが、半導体光導波路の幅および電極間隔をLiNbO3変調器の1/4および1/30~1/50に狭め100倍以上の電界を光電場に印加することができる。その中で、これまでにInGaAlAs/InAlAs量子井戸導波路を用いることにより2 V程度の低い半波長電圧を有する進行波型半導体光位相変調器が報告されている。
【0013】
一般に量子井戸構造を有する半導体素子は量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect: QCSE)を用いた光強度変調器として利用されている。以下に図3を用いてQCSEの原理について述べる。量子井戸に電界が印加されていないとき、図3(a)に示すように量子井戸中に閉じ込められた電子および正孔の波動関数は井戸の中心に対して対称な形となる。一方、量子井戸層に垂直な電界を印加すると、図3(b)に示すように伝導体の電子の波動関数は中心より左側に、荷電子帯の正孔の波動関数は右側にシフトし、また伝導帯の量子準位は相対的に低下し、荷電子帯の量子準位は上昇する。その結果、印加電界の増加とともに実効的なエネルギーギャップは減少し、バンド吸収端波長が長波長側にシフトする。この現象は電界吸収効果と呼ばれ、半導体素子の光吸収係数が印加電界によって変化する。ここで、物質の光吸収係数aと屈折率n(w)はクラマース・クロ−ニッヒの関係に従い、それらには次式の関係が成り立つ。
【数3】
上式においてcは光の速度、Pはコーシーの主値積分を表している。式(3)は電界吸収効果により光吸収係数変化Δαが生じると、それと同時に次式で与えられる屈折率変化Δnが起こることを示唆している。
【数4】
QCSEによる光吸収係数変化およびそれに伴う屈折率変化の様子を図4に模式的に示す。図4(a)は量子井戸構造を有する半導体素子に電界を印加したときにバンド吸収端波長が長波長側にシフトする様子を示している。また、図4(b)および4(c)は電界印加時における吸収係数の変化量Δαおよびそれに対応した屈折率変化Δnをそれぞれ示している。図4(b)および4(c)の関係から明らかなようにバンド吸収端波長と動作波長の関係を適切に設定することにより、量子井戸構造を有する半導体素子は光強度変調器だけでなく光位相変調器として利用できることがわかる。例えば、図中のAで示すバンド吸収端波長より僅かに長波長側にずれた光波長域は光強度変調器としての動作が有効である。一方、図中のBで示すバンド端吸収波長より長波長側に大きく離れ、光吸収係数変化が十分小さい光波長域では光位相変調器としての動作が有効である。また、それらの中間の光波長域で動作させることにより光強度および位相変調効果を同時に得ることもできる。即ち、進行波型半導体光位相変調器を構成する量子井戸のバンド吸収端波長を適切に設定すれば、電気光学効果による屈折率変化のみでなくQCSEによる光吸収係数および屈折率変化を同時に利用した光変調効果を得ることができる。このような光変調器を能動モード同期ファイバレーザのモードロッカーとして使用すれば、従来のLN光位相変調器を用いた場合と比べ2〜3倍の正のチャーピングを共振器内の光パルスに与えることができるとともに、さらにQCSEによる強度変調効果を同時に利用して効率の高い光位相・強度変調動作が可能である。そしてその結果、500フェムト秒以下のパルス幅を有する光パルスをレーザから直接出力することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来の能動モード同期ファイバレーザでは1〜10 psであった出力光パルス幅を数100フェムト秒(300〜500 fs)に細くすることが可能となり、その結果、パルス幅がフェムト秒、かつ1 GHz以上の高繰り返しのパルス光源を実現できる。そして本パルス光源を伝送速度640 Gbit/s〜1.28 Tbit/sの超高速光時分割多重伝送用光源として応用すれば、従来のパルス圧縮器を用いた光伝送システムにおいて問題であった光パルスの波形歪みやS/N劣化の問題が解消され、その光伝送特性の大幅な向上が図られる。また、光パルス圧縮装置が不要となりシステムが簡素化される。さらに、本パルス光源はフェムト秒光源として、光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源としても応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光ソリトンパルスを発生する従来の能動モード同期ファイバレーザの構成を示す図。
【図2】電気光学効果(ポッケルス効果)を用いたLiNbO3光位相変調器の構成を示す図。
【図3】電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)の原理を示す説明図。
【図4】量子閉じ込めシュタルク効果による光吸収係数および屈折率変化を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施形態を示すブロック図。
【図6】本発明の第1の実施形態の変形例を示すブロック図。
【図7】LiNbO3光位相変調器を用いた従来の能動モード同期ファイバレーザから出力された光パルスの測定結果の一例を示す図。
【図8】進行波型半導体光位相変調器の光吸収損失特性の測定結果を示す図。
【図9】第1の実施形態の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザから出力された光パルスの測定結果の一例を示す図。
【図10】本発明の第2の実施形態を示すブロック図。
【図11】本発明の第2の実施形態の変形例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図5は、本発明の第1の実施形態を示すブロック図である。図において、光増幅器7、単一モード光ファイバ2、光パルスのパワーの一部を出力光として取り出す光カプラ3、光アイソレータ4、進行波型半導体光位相変調器8、帯域通過型光フィルタ6をリング状に結合して能動モード同期ファイバレーザを構成する。光増幅器1としては、波長1.55 μm帯ではエルビウム添加光ファイバ増幅器または半導体光増幅器を用いることができる。進行波型半導体光位相変調器8は、波長1.55 μmの短波長側近傍に吸収端を有する量子井戸構造の半導体を用いて作製し、半導体材料中におけるポッケルス効果およびQCSEによる屈折率および光吸収係数変化を同時に利用する。即ち、光位相・強度変調器として動作する。その半導体材料としては、例えばInGaAlAs/InAlAsあるいはGaInAsP/InP量子井戸構造を有する半導体を用いることができる。また、InGaAs/GaAs量子ドットを有する半導体も有効である。
【0017】
以上の能動モード同期ファイバレーザの構成において、平均値が異常分散である単一モード光ファイバ2を用い、単一モード光ファイバ2中の自己位相変調および進行波型半導体光位相変調器8による位相変調により生じた正のチャーピングと釣り合いのとれた安定なソリトンパルスを共振器内に生成する。このとき生成するパルス幅を狭めるためにQCSEによる光吸収変化に伴う強度変調効果を同時に用いることが特徴である。そして生成したソリトンパルスのパワーの一部を光カプラ3より取り出す構成とする。異常分散を有する単一モード光ファイバとしては、1.31 μmにゼロ分散波長を有するステップインデックスファイバやゼロ分散波長を1.55 μm帯にシフトさせた分散シフトファイバを用いることができる。
【0018】
また、図6に示すように、光カプラ9およびクロック抽出器10を用いてレーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、移相器11および電気アンプ12を用いてその位相と振幅を調整した後に、抽出したクロック信号で進行波型半導体光位相変調器8を駆動する再生モード同期ループを構成してもよい。
【0019】
図7は、LiNbO3光位相変調器を用いて構成した従来の繰り返し周波数が40 GHzである能動モード同期ファイバレーザから出力された光パルスを測定した結果の一例である。本レーザ共振器は、光増幅器としてエルビウム添加光ファイバ増幅器を使用し、平均分散値が約1 ps/nm/kmの異常分散を有する単一モード光ファイバを用いてリング状に構成されている。図7(a)および7(b)はそれぞれ光パルスの自己相関波形および光スペクトル波形に対応している。これらの図よりレーザ出力光のパルス幅は0.9 ps、スペクトル幅は370 GHzであることがわかる。
【0020】
次に本発明の第1の実施形態の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザから出力された光パルスを測定した結果について述べる。本レーザでは、1.43 μmに吸収端を有するInGaAlAs/InAlAs量子井戸光導波路により構成された進行波型半導体光位相変調器をモードロッカーとして使用している。光変調器以外のその他のレーザ構成は、図7に示した出力パルス特性を有する共振器と同じである。使用した進行波型半導体光位相変調器の光吸収特性を図8に示す。逆バイアス電圧を6 V以上にすると波長1.55 μmにおいてQCSEによる光吸収損失が存在することがわかる。逆バイアス電圧をこの光吸収効果が生ずる7.5 Vに設定して本変調器を駆動した際に得られた光パルス特性を図9に示す。図9(a)および(b)はそれぞれ光パルスの自己相関波形および光スペクトル波形に対応している。これらの図よりパルス幅が460 fs、スペクトル幅が720 GHz、繰り返し周波数(縦モードの周波数間隔)が40 GHzである波長1.55 μm帯の光パルスが得られていることがわかる。また、この光パルスの時間バンド幅積は0.33であり、この値がトランスフォームリミットなsech型パルスの値0.32とよく一致していることより、レーザより波形の整ったソリトンパルスが出力されていることがわかる。なお、1.30 μmにバンド吸収端を有し、1.55 μm帯における電界吸収効果の弱い進行波型半導体光位相変調器をモードロッカーとして用いた場合には、時間幅が800 fs以下の光パルスの生成は不可能であった。以上のように、LiNbO3光位相変調器の代わりにポッケルス効果およびQCSEを利用した進行波型半導体光位相・強度変調器を用いることにより500フェムト秒以下の光パルスをレーザより直接出力させることができる。
【0021】
図10は、本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。図において、光増幅器7、帯域通過型光フィルタ6、進行波型半導体光位相変調器8、単一モード光ファイバ2を一対の反射鏡13の間に配置してファブリー・ペロー共振器を形成し、この共振器内で発生する光パルスのパワーの一部を反射鏡13の透過光として外部に取り出す能動モード同期ファイバレーザを構成する。本実施形態の動作原理は第1の実施形態と同じである。
また、図11に示すように、光カプラ9およびクロック抽出器10を用いてレーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、移相器11および電気アンプ12を用いてその位相と振幅を調整した後に、抽出したクロック信号で進行波型半導体光位相変調器8を駆動する再生モード同期ループを構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザは、超高速光パルス通信(光時分割多重)用光源として応用できる。また、本レーザは光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源としても応用できる。なお、実施形態において波長1.55 μm帯のレーザについてのみ記述しているが、レーザの利得媒質や光変調器を構成する半導体材料を変更することにより、本発明は1.55 μm以外の波長帯にも応用できることは自明である。
【符号の説明】
【0023】
1 エルビウム添加光増幅器
2 単一モード光ファイバ(任意)
3 光カプラ
4 光アイソレータ
5 LiNbO3光位相変調器
6 帯域通過型光フィルタ
7 光増幅器
8 進行波型半導体光位相変調器
9 光カプラ
10 クロック抽出器
11 移相器
12 電気アンプ
13 反射鏡
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速光時分割多重伝送用光源として用いられるパルス幅が500フェムト秒(1フェムト秒=1 x 10-15秒)以下、繰り返し周波数が1 GHz以上である光パルスを直接発生させることができる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザに関するものである。また、本発明は、光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源として用いられる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス幅が100 フェムト秒程度の超短光パルスを発生させるレーザとしては、光ファイバ中の非線形光学効果(非特許文献1)や半導体、カーボンナノチューブなどの光学材料の可飽和吸収効果(非特許文献2、3)をモードロッカーとして利用した受動モード同期ファイバレーザが報告されている。しかし、これらのレーザから出力される光パルスの繰り返し周波数は数十ないし数百MHzであり、その繰り返し周波数を光通信で必要となる10 GHz以上とすることは困難であった。
【0003】
一方、光変調器を共振器内に有する能動モード同期ファイバレーザは、従来から10 GHz以上の高繰り返しパルス光源として知られており、光通信用光源として用いられている。例えば非特許文献4に記載の電気光学効果(ポッケルス効果)による屈折率変化を利用したLiNbO3光位相変調器を有する能動モード同期ファイバレーザより、繰り返し周波数が40 GHz、パルス幅が0.85 ps(850フェムト秒)である光パルスが生成されている。しかし、従来の能動モード同期ファイバレーザから出力される光パルスの最小パルス幅はおおよそ1ピコ秒程度であり、これからさらに細い光パルスを発生させるには光パルス圧縮器を用いてパルス圧縮する必要があった(非特許文献5)。
【0004】
また、本発明と類似した特許として、能動モード同期ファイバレーザ共振器内の光ファイバの波長分散と、利得媒質あるいは光ファイバのもつ非線形性を利用した短パルスレーザに関する特許(特許文献1、2)が報告されている。しかしながら、これらの特許文献に記載のレーザで使用している光変調器はLiNbO3結晶のポッケルス効果を利用した通常の光素子であり、特殊な光位相変調器を使用する本発明とそのレーザ構成が異なる。また、これら特許文献に記載のレーザでは、その共振器を構成する光ファイバの分散値を高精度に制御する必要があり、レーザを構築することが困難であった。さらに、これら特許文献に記載された形態のレーザによるフェムト秒領域の超短光パルスの発生に関する報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-70151号公報
【特許文献2】特開2002-232043号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Nakazawa, E. Yoshida, T. Sugawa, and Y. Kimura, “Continuum suppressed, uniformly repetitive 136 fs pulse generation from an erbium-doped fibre laser with nonlinear porarisation rotation,” Electron. Lett., vol. 29, pp. 1327-1328, 1993.
【非特許文献2】E. A. De Souza, C. E. Soccolich, W. Pleibel, R. H. Stolen, J. R. Simpson, and D. J. DiGiovanni, “Saturable absorber modelocked polarization maintaining erbium-doped fiber laser,” Electron. Lett., vol. 29, pp. 447−449, 1993.
【非特許文献3】S. Y. Set, H. Yaguchi, Y. Tanaka, M. Jablonski,Y. Sakakibara, A. Rozhin, M. Tokumoto, H. Kataura, Y. Achiba, and K. Kikuchi, "Mode-locked fiber lasers based on a saturable absorber incorporating carbon nanotubes," in Proc. Optical Fiber Communication Conference 2003, Post-deadline Paper PD44, 2003.
【非特許文献4】M. Nakazawa, and E. Yoshida, “A 40-GHz 850-fs regeneratively FM mode-locked polarization- maintaining erbium fiber ring laser,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 12, no. 12, pp. 1613-1615, 2000.
【非特許文献5】K. R. Tamura, and M. Nakazawa, “Femtosecond soliton generation over a 32-nm wavelength range using a dispersion-flattened dispersion-decreasing fiber,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 11, no. 3, pp. 319-321, 1999.
【非特許文献6】G. P. アグラワール著「非線形ファイバー光学」、吉岡書店、1997年発行.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
100フェムト秒程度の光パルスを発生させるためにレーザの外部で光パルス圧縮器を使用した場合には、光パルスの裾が圧縮されずに残ったり、主となるパルス以外に小さな寄生パルスが発生するなどの欠点があり、波形の整った光パルスを高繰り返しで発生させることは困難であった。また、パルス圧縮する際に光パルス信号を高い強度に光増幅する必要があり、その光増幅の過程において放出される自然放出光の影響により光パルス信号に雑音が付加され、出力光パルスのS/Nが劣化するなどの問題があった。
【0008】
本発明は、光パルス圧縮器を用いずに、100フェムト秒程度のパルス幅を有し、かつ波形の整った1 GHz以上の高繰り返し光パルスをレーザから直接発生させることができる高繰り返しフェムト秒ファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
石英ガラスを主成分とする光ファイバでは、波長1.55 μm帯において、波長が長くなるほど伝搬速度が遅くなる異常分散特性をもつ。一方、光ファイバ中を伝搬する光信号は、光カー効果により自己位相変調を受ける。これらの事象が同時に存在することから、光ファイバ中を伝搬する光信号は、非線形シュレディンガ方程式
【数1】
によって表される(非特許文献6)。式(1)の左辺は光の伝搬を表し、右辺第1項は光ファイバの群速度分散効果を表し、右辺第2項は光カー効果を表している。式(1)の安定解は光ソリトンと呼ばれ、その中で次数の最も低い解は、双曲線正割関数(sech関数)
【数2】
で表される。このsech型の光ソリトンパルスは、光ファイバの群速度分散によるパルス広がりと、光カー効果による自己位相変調(正のチャーピング)により光パルスが細くなる効果が釣り合うことにより、光ファイバ中を伝搬しても波形が変化せず、またパルス内の位相は常に一定という特徴がある。
【0010】
そこで、光ソリトンパルスを直接発生する能動モード同期ファイバレーザから、フェムト秒パルスを発生させることができれば、波形の整ったS/Nの高いパルスを生成するという課題を解決することができる。
【0011】
これまでに報告されている光ソリトンパルスを発生する能動モード同期ファイバレーザの構成を図1に示す。本レーザは、エルビウム添加光ファイバ増幅器1、単一モード光ファイバ2、光パルスのパワーの一部を出力光として取り出す光カプラ3、光アイソレータ4、LiNbO3光変調器5、帯域通過型光フィルタ6で構成されたリング型共振器である。例えば、非特許文献4に記載のレーザは、共振器の平均分散値が1 ps/nm/kmの異常分散に設定され、これにより共振器内におけるソリトンパルスの伝搬を可能にしている。また、モードロッカーとしてLiNbO3光位相変調器を共振器内に挿入し、共振器を構成する単一モード光ファイバ中で生じる自己位相変調効果と同方向の正のチャープを光パルスに与えることにより共振器内の光パルスのスペクトルを効率よく広げ、パルス幅850 fsの安定なソリトンパルスを生成している。
【0012】
このような能動モード同期ファイバレーザから細い光パルスを発生させるためには、光位相変調器により光パルスに与える正のチャープ量を増大させることが重要である。ここからはレーザ共振器内に挿入する各種光位相変調器の特徴について述べる。従来のレーザで使用されているLiNbO3光位相変調器の構成を図2に示す。この変調器では、その動作帯域を広域化するために電気変調信号と光波を同方向に伝搬させる進行波型動作が用いられている。光波と電界の相互作用長を長くするほど高い電気光学効果が得られるが、動作帯域と電極長との間にはトレードオフの関係がある。そのため、例えば40 GHzの高速動作する光位相変調器の半波長電圧(光位相をπ変化させるために必要な電圧)は5〜7 Vと高い数値となってしまい、実現可能な変調幅は2π〜4π程度に制限される。
一方、近年半導体材料中の電気光学効果を用いた低半波長電圧を有する半導体光変調器が研究開発されている。半導体材料中のポッケルス係数はLiNbO3の20分の1程度と小さいが、半導体光導波路の幅および電極間隔をLiNbO3変調器の1/4および1/30~1/50に狭め100倍以上の電界を光電場に印加することができる。その中で、これまでにInGaAlAs/InAlAs量子井戸導波路を用いることにより2 V程度の低い半波長電圧を有する進行波型半導体光位相変調器が報告されている。
【0013】
一般に量子井戸構造を有する半導体素子は量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect: QCSE)を用いた光強度変調器として利用されている。以下に図3を用いてQCSEの原理について述べる。量子井戸に電界が印加されていないとき、図3(a)に示すように量子井戸中に閉じ込められた電子および正孔の波動関数は井戸の中心に対して対称な形となる。一方、量子井戸層に垂直な電界を印加すると、図3(b)に示すように伝導体の電子の波動関数は中心より左側に、荷電子帯の正孔の波動関数は右側にシフトし、また伝導帯の量子準位は相対的に低下し、荷電子帯の量子準位は上昇する。その結果、印加電界の増加とともに実効的なエネルギーギャップは減少し、バンド吸収端波長が長波長側にシフトする。この現象は電界吸収効果と呼ばれ、半導体素子の光吸収係数が印加電界によって変化する。ここで、物質の光吸収係数aと屈折率n(w)はクラマース・クロ−ニッヒの関係に従い、それらには次式の関係が成り立つ。
【数3】
上式においてcは光の速度、Pはコーシーの主値積分を表している。式(3)は電界吸収効果により光吸収係数変化Δαが生じると、それと同時に次式で与えられる屈折率変化Δnが起こることを示唆している。
【数4】
QCSEによる光吸収係数変化およびそれに伴う屈折率変化の様子を図4に模式的に示す。図4(a)は量子井戸構造を有する半導体素子に電界を印加したときにバンド吸収端波長が長波長側にシフトする様子を示している。また、図4(b)および4(c)は電界印加時における吸収係数の変化量Δαおよびそれに対応した屈折率変化Δnをそれぞれ示している。図4(b)および4(c)の関係から明らかなようにバンド吸収端波長と動作波長の関係を適切に設定することにより、量子井戸構造を有する半導体素子は光強度変調器だけでなく光位相変調器として利用できることがわかる。例えば、図中のAで示すバンド吸収端波長より僅かに長波長側にずれた光波長域は光強度変調器としての動作が有効である。一方、図中のBで示すバンド端吸収波長より長波長側に大きく離れ、光吸収係数変化が十分小さい光波長域では光位相変調器としての動作が有効である。また、それらの中間の光波長域で動作させることにより光強度および位相変調効果を同時に得ることもできる。即ち、進行波型半導体光位相変調器を構成する量子井戸のバンド吸収端波長を適切に設定すれば、電気光学効果による屈折率変化のみでなくQCSEによる光吸収係数および屈折率変化を同時に利用した光変調効果を得ることができる。このような光変調器を能動モード同期ファイバレーザのモードロッカーとして使用すれば、従来のLN光位相変調器を用いた場合と比べ2〜3倍の正のチャーピングを共振器内の光パルスに与えることができるとともに、さらにQCSEによる強度変調効果を同時に利用して効率の高い光位相・強度変調動作が可能である。そしてその結果、500フェムト秒以下のパルス幅を有する光パルスをレーザから直接出力することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来の能動モード同期ファイバレーザでは1〜10 psであった出力光パルス幅を数100フェムト秒(300〜500 fs)に細くすることが可能となり、その結果、パルス幅がフェムト秒、かつ1 GHz以上の高繰り返しのパルス光源を実現できる。そして本パルス光源を伝送速度640 Gbit/s〜1.28 Tbit/sの超高速光時分割多重伝送用光源として応用すれば、従来のパルス圧縮器を用いた光伝送システムにおいて問題であった光パルスの波形歪みやS/N劣化の問題が解消され、その光伝送特性の大幅な向上が図られる。また、光パルス圧縮装置が不要となりシステムが簡素化される。さらに、本パルス光源はフェムト秒光源として、光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源としても応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光ソリトンパルスを発生する従来の能動モード同期ファイバレーザの構成を示す図。
【図2】電気光学効果(ポッケルス効果)を用いたLiNbO3光位相変調器の構成を示す図。
【図3】電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)の原理を示す説明図。
【図4】量子閉じ込めシュタルク効果による光吸収係数および屈折率変化を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施形態を示すブロック図。
【図6】本発明の第1の実施形態の変形例を示すブロック図。
【図7】LiNbO3光位相変調器を用いた従来の能動モード同期ファイバレーザから出力された光パルスの測定結果の一例を示す図。
【図8】進行波型半導体光位相変調器の光吸収損失特性の測定結果を示す図。
【図9】第1の実施形態の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザから出力された光パルスの測定結果の一例を示す図。
【図10】本発明の第2の実施形態を示すブロック図。
【図11】本発明の第2の実施形態の変形例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図5は、本発明の第1の実施形態を示すブロック図である。図において、光増幅器7、単一モード光ファイバ2、光パルスのパワーの一部を出力光として取り出す光カプラ3、光アイソレータ4、進行波型半導体光位相変調器8、帯域通過型光フィルタ6をリング状に結合して能動モード同期ファイバレーザを構成する。光増幅器1としては、波長1.55 μm帯ではエルビウム添加光ファイバ増幅器または半導体光増幅器を用いることができる。進行波型半導体光位相変調器8は、波長1.55 μmの短波長側近傍に吸収端を有する量子井戸構造の半導体を用いて作製し、半導体材料中におけるポッケルス効果およびQCSEによる屈折率および光吸収係数変化を同時に利用する。即ち、光位相・強度変調器として動作する。その半導体材料としては、例えばInGaAlAs/InAlAsあるいはGaInAsP/InP量子井戸構造を有する半導体を用いることができる。また、InGaAs/GaAs量子ドットを有する半導体も有効である。
【0017】
以上の能動モード同期ファイバレーザの構成において、平均値が異常分散である単一モード光ファイバ2を用い、単一モード光ファイバ2中の自己位相変調および進行波型半導体光位相変調器8による位相変調により生じた正のチャーピングと釣り合いのとれた安定なソリトンパルスを共振器内に生成する。このとき生成するパルス幅を狭めるためにQCSEによる光吸収変化に伴う強度変調効果を同時に用いることが特徴である。そして生成したソリトンパルスのパワーの一部を光カプラ3より取り出す構成とする。異常分散を有する単一モード光ファイバとしては、1.31 μmにゼロ分散波長を有するステップインデックスファイバやゼロ分散波長を1.55 μm帯にシフトさせた分散シフトファイバを用いることができる。
【0018】
また、図6に示すように、光カプラ9およびクロック抽出器10を用いてレーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、移相器11および電気アンプ12を用いてその位相と振幅を調整した後に、抽出したクロック信号で進行波型半導体光位相変調器8を駆動する再生モード同期ループを構成してもよい。
【0019】
図7は、LiNbO3光位相変調器を用いて構成した従来の繰り返し周波数が40 GHzである能動モード同期ファイバレーザから出力された光パルスを測定した結果の一例である。本レーザ共振器は、光増幅器としてエルビウム添加光ファイバ増幅器を使用し、平均分散値が約1 ps/nm/kmの異常分散を有する単一モード光ファイバを用いてリング状に構成されている。図7(a)および7(b)はそれぞれ光パルスの自己相関波形および光スペクトル波形に対応している。これらの図よりレーザ出力光のパルス幅は0.9 ps、スペクトル幅は370 GHzであることがわかる。
【0020】
次に本発明の第1の実施形態の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザから出力された光パルスを測定した結果について述べる。本レーザでは、1.43 μmに吸収端を有するInGaAlAs/InAlAs量子井戸光導波路により構成された進行波型半導体光位相変調器をモードロッカーとして使用している。光変調器以外のその他のレーザ構成は、図7に示した出力パルス特性を有する共振器と同じである。使用した進行波型半導体光位相変調器の光吸収特性を図8に示す。逆バイアス電圧を6 V以上にすると波長1.55 μmにおいてQCSEによる光吸収損失が存在することがわかる。逆バイアス電圧をこの光吸収効果が生ずる7.5 Vに設定して本変調器を駆動した際に得られた光パルス特性を図9に示す。図9(a)および(b)はそれぞれ光パルスの自己相関波形および光スペクトル波形に対応している。これらの図よりパルス幅が460 fs、スペクトル幅が720 GHz、繰り返し周波数(縦モードの周波数間隔)が40 GHzである波長1.55 μm帯の光パルスが得られていることがわかる。また、この光パルスの時間バンド幅積は0.33であり、この値がトランスフォームリミットなsech型パルスの値0.32とよく一致していることより、レーザより波形の整ったソリトンパルスが出力されていることがわかる。なお、1.30 μmにバンド吸収端を有し、1.55 μm帯における電界吸収効果の弱い進行波型半導体光位相変調器をモードロッカーとして用いた場合には、時間幅が800 fs以下の光パルスの生成は不可能であった。以上のように、LiNbO3光位相変調器の代わりにポッケルス効果およびQCSEを利用した進行波型半導体光位相・強度変調器を用いることにより500フェムト秒以下の光パルスをレーザより直接出力させることができる。
【0021】
図10は、本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。図において、光増幅器7、帯域通過型光フィルタ6、進行波型半導体光位相変調器8、単一モード光ファイバ2を一対の反射鏡13の間に配置してファブリー・ペロー共振器を形成し、この共振器内で発生する光パルスのパワーの一部を反射鏡13の透過光として外部に取り出す能動モード同期ファイバレーザを構成する。本実施形態の動作原理は第1の実施形態と同じである。
また、図11に示すように、光カプラ9およびクロック抽出器10を用いてレーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、移相器11および電気アンプ12を用いてその位相と振幅を調整した後に、抽出したクロック信号で進行波型半導体光位相変調器8を駆動する再生モード同期ループを構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザは、超高速光パルス通信(光時分割多重)用光源として応用できる。また、本レーザは光サンプリング、時間分解分光、光学素子の評価用の光源としても応用できる。なお、実施形態において波長1.55 μm帯のレーザについてのみ記述しているが、レーザの利得媒質や光変調器を構成する半導体材料を変更することにより、本発明は1.55 μm以外の波長帯にも応用できることは自明である。
【符号の説明】
【0023】
1 エルビウム添加光増幅器
2 単一モード光ファイバ(任意)
3 光カプラ
4 光アイソレータ
5 LiNbO3光位相変調器
6 帯域通過型光フィルタ
7 光増幅器
8 進行波型半導体光位相変調器
9 光カプラ
10 クロック抽出器
11 移相器
12 電気アンプ
13 反射鏡
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増幅器と帯域通過型光フィルタと光変調器と光アイソレータと群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバをリング状に結合してリング共振器を形成し、リング共振器内で発生する光パルスを外部に取り出す出力カプラを備えた能動モード同期ファイバレーザまたは、光増幅器と帯域通過型光フィルタと光変調器と群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバを一対の反射鏡の間に配置してファブリー・ペロー共振器を形成し、ファブリー・ペロー共振器内で発生する光パルスを該反射鏡の透過光として外部に取り出す能動モード同期ファイバレーザにおいて、前記光変調器として半導体材料中における電気光学効果(ポッケルス効果)および電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)に伴う屈折率および光吸収係数変化を同時に利用した半導体光位相・強度変調器を用いることを特徴とする高繰り返しフェムト秒ファイバレーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザにおいて、レーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、該クロック信号で前記光変調器を駆動する再生モード同期ループを有することを特徴とする高繰り返しフェムト秒ファイバレーザ。
【請求項1】
光増幅器と帯域通過型光フィルタと光変調器と光アイソレータと群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバをリング状に結合してリング共振器を形成し、リング共振器内で発生する光パルスを外部に取り出す出力カプラを備えた能動モード同期ファイバレーザまたは、光増幅器と帯域通過型光フィルタと光変調器と群速度分散の平均値が異常分散である単一モード光ファイバを一対の反射鏡の間に配置してファブリー・ペロー共振器を形成し、ファブリー・ペロー共振器内で発生する光パルスを該反射鏡の透過光として外部に取り出す能動モード同期ファイバレーザにおいて、前記光変調器として半導体材料中における電気光学効果(ポッケルス効果)および電界吸収効果(量子閉じ込めシュタルク効果)に伴う屈折率および光吸収係数変化を同時に利用した半導体光位相・強度変調器を用いることを特徴とする高繰り返しフェムト秒ファイバレーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の高繰り返しフェムト秒ファイバレーザにおいて、レーザ出力光の一部より共振器長に対応した基本周波数の整数倍の周波数のクロック信号を抽出し、該クロック信号で前記光変調器を駆動する再生モード同期ループを有することを特徴とする高繰り返しフェムト秒ファイバレーザ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−38849(P2012−38849A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176272(P2010−176272)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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