説明

半導体光増幅素子

【課題】高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができる半導体光増幅素子を提供すること。
【解決手段】第1の活性コア層を有する入力側光増幅導波路部と、前記入力側光増幅導波路部に接続し、前記第1の活性コア層よりも幅の広い第2の活性コア層を有する出力側光増幅導波路部と、を備え、前記第1の活性コア層と前記第1の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差、および前記第2の活性コア層と前記第2の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差が、前記第1の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数が前記第2の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数のそれぞれよりも高くなるように、設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光増幅素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信においては、光ファイバの伝送損失、あるいはAWG(Arrayed Waveguide Grating)等の光コンポーネントの挿入損失を補償するために、低雑音で高利得な光増幅器が大変重要となる。電流励起型の半導体光増幅素子(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)は、Er添加型光ファイバ増幅器(EDFA:Er-Doped Fiber Amplifier)とは異なり、ポンプレーザが不要であるため、小型、かつ安価な光増幅器である。特に近年、半導体光増幅素子は、その小型性のためにAWG等の微小光回路に集積可能である等の点で、大変注目されている。なお、半導体光増幅素子の開発当初は、EDFAと比較すると飽和出力、雑音指数(NF:Noise Figure)の特性において劣っていたが、近年開発が進み、飽和出力、雑音指数の点でEDFAと遜色ない半導体光増幅素子が報告されてきている(たとえば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
はじめに、半導体光増幅素子の光出力特性を決定するパラメータである飽和強度、利得係数、およびネットゲインについて説明する。まず、半導体光増幅素子の光出力は、飽和強度なるパラメータに依存する。飽和強度が大きい半導体光増幅素子の方が、入力した信号光が増幅されて強度が大きくなっても利得飽和が起こりにくいので、大きい光出力を実現できる。飽和強度をIsatとすると、Isatは以下の式(1)で表される。
【0004】
Isat=hν/(ΓAgτ)×W×d ・・・ (1)
なお、式(1)において、hはプランク定数、Γは光増幅を行う導波路構造における、活性コア層への光閉じ込め係数、Agは微分利得係数、τは光の減衰時間、Wは活性コア層の幅、dは活性コア層の厚さを示す。
【0005】
また、活性コア層の利得係数をg(n)(nはキャリア密度)とすると、g(n)は以下の式(2)で表される。
【0006】
g(n)=Ag×(n−n0) ・・・ (2)
なお、式(2)において、n0は透明キャリア密度を示す。
【0007】
また、半導体光増幅素子の導波路構造依存性や光損失等を含めた単位長さあたりの利得であるネットゲインGは、以下の式(3)で表される。
【0008】
G=Γ×g(n)−α=Γ×Ag×(n−n0)−α ・・・ (3)
なお、式(3)において、αは光の損失係数を示す。
【0009】
つぎに、高効率かつ高出力な光出力特性を得るための半導体光増幅素子の設計について説明する。図12は、高効率かつ高出力な光出力特性を得るために好ましいネットゲインG=Γ×g(n)−αの、半導体光増幅素子の長手方向に対するプロファイルを示す図である。なお、横軸の「入力」とは、増幅すべき、強度の小さい信号光が入力する側を示し、「出力」とは、増幅して強度が大きくなった信号光を出力する側を意味する。図12に示すように、好ましいプロファイルでは、信号光の強度が小さい入力側では活性コア層の幅を狭くしてキャリア密度を高くし、かつ光閉じ込め係数を高くしてネットゲインを高くしている。一方、信号光の強度が大きい出力側では活性コア層の幅を広くし、光閉じ込め係数を低くして飽和出力Isatを大きくすることによって、光出力を飽和しにくくするため、ネットゲインは低くなる。
【0010】
図12に示すようなネットゲインのプロファイルを実現するため、テーパ状の導波路構造を有する半導体光増幅素子が従来広く採用されている。図13は、従来の半導体光増幅素子の幅方向の導波路構造を示す図である。図13に示すように、この半導体光増幅素子200は、入力部200aから入力された入力信号光ILを増幅して出力信号光OLとして出力部200bから出力するものである。この半導体光増幅素子200は、メサ形状の活性コア層30の幅方向両側が、クラッド部として機能する電流阻止半導体層31によって埋め込まれた埋め込みメサ構造の導波路構造を有している。さらに、活性コア層30は、入力部200a側の比較的幅の狭い等幅の狭幅部30aと、出力部200b側に向かってテーパ状に拡幅するテーパ部30baおよび幅広の等幅部30bbからなる広幅部30bとから構成される。なお、図13において符号D2は入力信号光ILの狭幅部30aにおける幅方向の光の電界強度分布を示している。この半導体光増幅素子200は、上記構成によって、入力部200a側ではキャリア密度と光閉じ込め係数を高くしてネットゲインを高くしており、出力部200b側では広幅部30bによって飽和出力Isatを大きくしており、ネットゲインは低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−21454号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】K. Morito et al.,”A Broad-Band MQW Semiconductor Optical Amplifier With HighSaturation Output Power and Low Noise Figure” IEEE Photonics Technol. Lett., Vol.17, No.5, pp.974-976, May 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の埋め込みメサ構造の導波路構造では、入力側の狭幅部30aの幅(メサ幅)をあまり狭くすると、幅方向に光の閉じ込めが弱くなり、かえって光閉じ込め係数が低下する。その結果、キャリア密度を高めたにもかかわらずかえってネットゲインの増加が妨げられ、所望の高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができないという問題がある。
【0014】
図14は、図13に示す従来の導波路構造において、狭幅部30aの幅(活性コア層幅)と閉じこめ係数との関係の計算結果を示す図である。なお、狭幅部30aと電流阻止半導体層31との比屈折率差(Δ3)は0.16%程度としている。図14の曲線C2が示すように、活性コア層幅を4μmから1μmまで狭くすると、閉じ込め係数は1.13%から0.76%まで、32%も低下する。したがって、図14より、狭幅部30aの幅の狭小化がネットゲイン増加の妨げとなっていることがわかる。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができる半導体光増幅素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る半導体光増幅素子は、第1の活性コア層を有する入力側光増幅導波路部と、前記入力側光増幅導波路部に接続し、前記第1の活性コア層よりも幅の広い第2の活性コア層を有する出力側光増幅導波路部と、を備え、前記第1の活性コア層の幅および前記第1の活性コア層と前記第1の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差、ならびに前記第2の活性コア層の幅および前記第2の活性コア層と前記第2の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差が、前記第1の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数が前記第2の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数のそれぞれよりも高くなるように、設定されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る半導体光増幅素子は、上記の発明において、前記第1の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部はポリイミドからなり、前記第2の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部は半導体からなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る半導体光増幅素子は、上記の発明において、前記入力側光増幅導波路部において、少なくとも前記第1の活性コア層の側面に形成された半導体保護層をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る半導体光増幅素子は、上記の発明において、前記入力側光増幅導波路部に電力を供給する入力側電極と、前記入力側電極とは電気的に分離するように設けられ、前記出力側光増幅導波路部に電力を供給する出力側電極とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、入力側における活性コア層の狭小化に対応した効果的なネットゲインの増加を実現できるので、高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施の形態1に係る半導体光増幅素子の模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示す半導体光増幅素子のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す半導体光増幅素子のB−B線断面図である。
【図4】図4は、図1に示す半導体光増幅素子の幅方向の導波路構造を模式的に示す図である。
【図5】図5は、図13に示す従来の半導体光増幅素子の導波路構造と図4に示す実施の形態1に係る半導体光増幅素子の導波路構造とを比較する図である。
【図6】図6は、図13に示す従来の半導体光増幅素子の導波路構造と図4に示す実施の形態1に係る半導体光増幅素子の導波路構造とにおいて、狭幅部または第1の活性コア層13aの幅と閉じこめ係数との関係の計算結果を示す図である。
【図7】図7は、図1に示す半導体光増幅素子の製造方法の一例の説明図である。
【図8】図8は、図1に示す半導体光増幅素子の製造方法の一例の説明図である。
【図9】図9は、図1に示す半導体光増幅素子の製造方法の一例の説明図である。
【図10】図10は、図1に示す半導体光増幅素子の製造方法の一例の説明図である。
【図11】図11は、実施例および比較例に係る半導体光増幅素子における駆動電流と光出力との関係を示す図である。
【図12】図12は、高効率かつ高出力な光出力特性を得るために好ましい、半導体光増幅素子の長手方向に対するネットゲインのプロファイルを示す図である。
【図13】図13は、従来の半導体光増幅素子の幅方向の導波路構造を模式的に示す図である。
【図14】図14は、図13に示す従来の導波路構造の半導体光増幅素子において、狭幅部の幅と閉じこめ係数との関係の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体光増幅素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。
【0023】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、波長1.55μm帯の光を増幅するための半導体光増幅素子について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体光増幅素子100の模式的な平面図である。図1に示すように、この半導体光増幅素子100は、入力側光増幅導波路部1と、入力側光増幅導波路部1に接続した出力側光増幅導波路部2とを備えており、入力部100aから入力された入力信号光ILを増幅して出力信号光OLとして出力部100bから出力するものである。また、符号3はポリイミドからなる電極パッド支持材、符号4は誘電体保護膜、符号5は入力側p側電極、符号7は出力側p側電極、符号6、8は電極パッドを示す。入力側p側電極5の幅W1と出力側p側電極7の幅W2とを例示すると、幅W1は1.5μmであり、幅W2は20μmである。入力側p側電極5と出力側p側電極7との間にはたとえば10μmの幅W3が形成されており、電気的に分離されている。また、電極パッド8の長さL1、幅W4を例示すると、長さL1は200μmであり、幅W4は600μmである。電極パッド6は電極パッド8と同じ大きさである。
【0024】
図2は、図1に示す半導体光増幅素子100のA−A線断面図である。図2に示すように、出力側光増幅導波路部2は、裏面にn側電極11を形成したn型のInPからなる基板10上に、バッファ層としての役割も果たしているn型のInPからなる下部クラッド層12と、第2の活性コア層13bと、p型のInPからなる上部クラッド層14、15とが積層した構造を有している。基板10の一部から上部クラッド層15まではメサ構造となっており、その両側はp型のInPからなる下部電流阻止半導体層16aとn型のInPからなる上部電流阻止半導体層16bとからなる電流阻止半導体層16によって埋め込まれており、埋め込みメサ構造となっている。また、上部クラッド層15と電流阻止半導体層16との上にはp型のInPからなる上部クラッド層17、p型のInGaAsPからなるコンタクト層18が積層している。また、コンタクト層18上には、第2の活性コア層13b全体を覆うように出力側p側電極7が形成され、またはSiN膜からなる誘電体保護膜4で保護されている。さらに、誘電体保護膜4に形成された開口部において出力側p側電極7に接触するように、電極パッド8が形成されている。
【0025】
第2の活性コア層13bは、InGaAsPからなり、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造の上下に3段階の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH:Separate Confinement Heterostructure)を形成したMQW−SCH活性層からなる。なお、MQWは例えば、4nmの井戸層と、10nmの障壁層が3ペア積層された構造である。
【0026】
つぎに、図3は、図1に示す半導体光増幅素子100のB−B線断面図である。図3に示すように、入力側光増幅導波路部1は、出力側光増幅導波路部2と同様に、裏面にn側電極11を形成した基板10上に、下部クラッド層12と、第1の活性コア層13aと、上部クラッド層14、15、17と、コンタクト層18とが積層した構造を有している。また、この入力側光増幅導波路部1は、コンタクト層18から基板10の一部に到る深さまで、第1の活性コア層13aの両側面側が削られたハイメサ構造HMとなっている。なお、第1の活性コア層13aの両側面側には、下部電流阻止半導体層16aと上部電流阻止半導体層16bとからなる電流阻止半導体層16がわずかに存在するが、電流阻止半導体層16はなくてもよい。また、このハイメサ構造HMの側面と基板10の表面とは、InPからなる半導体保護層19と、SiN膜からなる誘電体保護膜20で順次覆われている。半導体保護層19は、第1の活性コア層13aの側面を覆ってキャリアの表面再結合を低減する機能を有する。また、コンタクト層18上には入力側p側電極5が形成されている。さらに、ハイメサ構造HMの両側にはポリイミドからなる電極パッド支持材3が形成されており、入力側p側電極5上から電極パッド支持材3上にわたって電極パッド6が形成されている。
【0027】
また、第1の活性コア層13aは、第2の活性コア層13bと同様のMQW−SCH活性層からなる。
【0028】
つぎに、図4は、図1に示す半導体光増幅素子100の幅方向の導波路構造を模式的に示す図である。図4に示すように、半導体光増幅素子100の出力側光増幅導波路部2は、図13に示す導波路構造と同様に、第2の活性コア層13bの幅方向両側が、クラッド部として機能する電流阻止半導体層16によって埋め込まれた埋め込みメサ構造の導波路構造を有している。さらに、第2の活性コア層13bは、出力部100b側に向かってテーパ状に拡幅するテーパ部13baおよび幅広の等幅部13bbからなる。
【0029】
一方、入力側光増幅導波路部1では、第1の活性コア層13aはハイメサ構造の導波路構造となっている。ここで、図3に示したように、半導体保護層19および誘電体保護膜20は厚さが薄く、また、電流阻止半導体層16は存在してもわずかであるので、この導波路構造においては、第1の活性コア層13aの幅方向両側に形成されたポリイミドからなる電極パッド支持材3が実質的にクラッド部として機能する。
【0030】
ここで、第1の活性コア層13aの幅W5は入力側p側電極5の幅W1と同じであり、たとえば1.5μmである。また、第2の活性コア層13bについては、テーパ部13baの幅は幅W1から等幅部13bbの幅W6までテーパ状に変化している。幅W6はたとえば4μmである。また、第1の活性コア層13aの長さL2はたとえば1mmであり、第2の活性コア層13bにおけるテーパ部13baの長さL3はたとえば0.8mm、等幅部13bbの長さL4はたとえば0.2mmである。
【0031】
一方、第1の活性コア層13aはInGaAsPからなるのでその実効的な屈折率は波長1.55μm帯において3.175程度であり、第1の活性コア層13aの幅方向における実質的なクラッド部である電極パッド支持材3は屈折率が波長1.55μm帯において1.5程度であるから、第1の活性コア層13aと電極パッド支持材3との比屈折率差(Δ1)は45%程度となり、きわめて大きい。他方、第2の活性コア層13bの屈折率も波長1.55μm帯において3.175程度であり、第2の活性コア層13bの幅方向におけるクラッド部であるInPからなる電流阻止半導体層16は屈折率が波長1.55μm帯において3.17程度であるから、第2の活性コア層13bと電流阻止半導体層16との比屈折率差(Δ2)は、0.16%程度であり、第1の活性コア層13aと電極パッド支持材3との比屈折率差Δ1よりもきわめて小さい。
【0032】
この半導体光増幅素子100においては、上述のように第2の活性コア層13bの幅は第1の活性コア層13aの幅より大きく、かつ、第1の活性コア層13aと電極パッド支持材3との比屈折率差Δ1は第2の活性コア層13bと電流阻止半導体層16との比屈折率差Δ2より大きくなるように構成されている。そのため、第1の活性コア層13aにおいては、その幅の狭さによって第2の活性コア層13bよりもキャリア密度を高くできる。それとともに、第1の活性コア層13aにおいては、高い比屈折率差Δ1によって幅方向の光閉じ込めが強くなるので、幅を狭めたにもかかわらず光閉じ込め係数が低下せず、キャリア密度を高くした効果が適切に発揮される。その結果、この半導体光増幅素子100においては、入力側光増幅導波路部1のネットゲインが高くなる。
【0033】
図5は、図13に示す従来の半導体光増幅素子200の導波路構造と図4に示す実施の形態1に係る半導体光増幅素子100の導波路構造とを比較する図である。図5(a)に示す従来の半導体光増幅素子200の導波路構造は、全体が半導体層の埋め込みによる埋め込みメサ構造となっているため、活性コア層と電流阻止半導体層との間の比屈折率差Δ3が比較的小さい。その結果、入力信号光ILが入力する狭幅部30aにおいてキャリア密度を高めるために幅を狭くすると、光の閉じ込めが弱くなって光の電界強度分布D2が広がり、光閉じ込め係数が低下する。
【0034】
一方、図5(b)に示す、本発明の実施の形態1に係る半導体光増幅素子100の導波路構造では、入力側の第1の活性コア層13aをハイメサ構造としているため、比屈折率差Δ1が極めて高い。その結果、入力信号光ILが入力する第1の活性コア層13aにおいてキャリア密度を高めるために幅を狭くしても、光の電界強度分布D1は広がらず、光閉じ込め係数は低下しないのである。
【0035】
なお、本実施の形態1に係る半導体光増幅素子100では、出力側光増幅導波路部2の第2の活性コア層13bは埋め込みメサ構造としており、ハイメサ構造のようには光閉じ込め係数を高めないようにして、式(1)に示すIsatが高くなるようにしている。このようにして、本実施の形態1に係る半導体光増幅素子100は、図12に示すような好ましいネットゲインプロファイルを実現しており、所望の高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができるのである。
【0036】
つぎに、図6は、図13に示す従来の半導体光増幅素子200の導波路構造と図4に示す実施の形態1に係る半導体光増幅素子100の導波路構造とにおいて、狭幅部30aまたは第1の活性コア層13aの幅(活性コア層幅)と閉じこめ係数との関係の計算結果を示す図である。なお、狭幅部30aに関する比屈折率差Δ3を0.16%程度とし、第1の活性コア層13aに関する比屈折率差Δ1を45%程度としている。また、曲線C1、C2はそれぞれ実施の形態1に係る半導体光増幅素子100、従来の半導体光増幅素子200を示しており、曲線C2は図14の曲線C2と同じである。図6に示すように、活性コア層幅を4μmから1μmまで狭くすると、従来の半導体光増幅素子200(曲線C2)では閉じ込め係数は1.13%から0.76%まで、32%も低下するが、本実施の形態1(曲線C1)では1.2%に維持され、低下しない。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態1に係る半導体光増幅素子100では、所望の高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができる。
【0038】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る半導体光増幅素子100の製造方法について説明する。図7〜10は、図1に示す半導体光増幅素子100の製造方法の一例の説明図である。なお、図7、9は、図1に示すA−A線断面を参照して説明しており、図7では主に素子全体の共通構造を形成する工程について説明し、図9では出力側光増幅導波路部2の構造を形成する工程について説明する。また、図8、10では、B−B線断面を参照して、入力側光増幅導波路部1の構造を形成する工程について説明する。
【0039】
まず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)結晶成長装置を用い、成長温度600度において以下のような結晶成長を行なう。すなわち、図7(a)に示すように、基板10上に、下部クラッド層12、半導体活性層13、上部クラッド層14、15を形成する。
【0040】
つぎに、図7(b)、(c)に示すように、上部クラッド層15上の全面にSiN膜からなるマスクM1を形成し、このマスクM1を、図4に示すメサ構造を形成するための形状にエッチングする。そして、図7(d)に示すように、マスクM1を形成した以外の領域の上部クラッド層14、15、半導体活性層13、下部クラッド層12を、塩素系またはメタン水素系のガスを用いたドライエッチングによって除去する。つづいて、図7(e)に示すように、ウェットエッチングを用いて、さらに上部クラッド層15から基板10の一部に到る深さまでをエッチングし、図4に示す導波路構造のメサ構造を形成する。この工程において半導体活性層13から第2の活性コア層13bのメサ形状が形成される。なお、上部クラッド層15の幅W7は、マスクM1の幅に合わせて長手方向で変化している。
【0041】
つぎに、図7(f)に示すように、メサ構造の両側に、下部電流阻止半導体層16aと上部電流阻止半導体層16bとを順次形成して電流阻止半導体層16を形成し、メサ構造を埋め込む。その後、BHF(バッファードフッ酸)により、マスクM1を除去する。つぎに、図7(g)に示すように、上部クラッド層17、コンタクト層18を形成し、さらに必要に応じて保護層であるキャップ層Capを形成する。キャップ層Capはその後、図7(h)に示すように除去される。
【0042】
つぎに、図8(a)、(b)に示すように、入力側光増幅導波路部1を形成すべき領域のコンタクト層18上に、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法により厚さ120nmのSiN膜からなるマスクM2を形成し、このマスクM2を、ハイメサ構造を形成するための形状にパターニングする。
【0043】
つぎに、図8(c)に示すように、マスクM2を形成した以外の領域を、基板10の一部に到る深さまで塩素系またはメタン水素系のガスを用いたドライエッチングによって除去する。この工程においてハイメサ構造HMが形成されるとともに、半導体活性層13から第1の活性コア層13aのメサ形状が形成される。つぎに、図8(d)に示すように、ドライエッチングされて露出した第1の活性コア層13aの側面での表面再結合を低減するために、ハイメサ構造HMの側面および基板10の表面に半導体保護層19を形成する。
【0044】
つぎに、図9(a)に示すように、図7(h)で形成した構造上にフォトリソグラフィーにより、出力側p側電極7に対応する部分をパターニングしたレジストR1を形成し、その上にAuZn膜E1を蒸着する。つぎに、図9(b)に示すように、レジストR1を除去し、リフトオフして出力側p側電極7を形成する。その後、図9(c)に示すように、SiN膜からなる誘電体保護膜4を成膜する。つぎに、図9(d)に示すように、誘電体保護膜4上に、フォトリソグラフィーにより、電極パッド8を出力側p側電極7に接触させるための部分をパターニングしたレジストR2を形成する。
【0045】
つぎに、図9(e)に示すように、CFガスを用いたRIEにより、レジストR2をパターニングした部分の誘電体保護膜4をエッチングし、その後レジストR2を除去する。さらに、図9(f)に示すように、誘電体保護膜4上に、フォトリソグラフィーにより、電極パッド8に対応する部分をパターニングしたレジストR3を形成し、その上にTi/Pt膜E2を蒸着する。その後、図9(g)に示すように、レジストR3を除去し、リフトオフして電極パッド8を形成する。
【0046】
つぎに、図10(a)に示すように、図8(d)の工程で形成したハイメサ構造HMの半導体保護層19上にSiN膜からなる誘電体保護膜20を形成する。つぎに、図10(b)に示すように、ハイメサ構造HMを埋めるようにポジ型のレジストR4を塗布し、RIEによってハイメサ構造HMの上部を露出させる。つぎに、図10(c)に示すように、ハイメサ構造HMを覆うようにネガ型のレジストR5を塗布し、フォトリソグラフィーによりハイメサ構造HMの上部とその周囲のレジストR5を除去する。つぎに、図10(d)に示すように、コンタクト層18上の半導体保護層19、誘電体保護膜20のみを除去し、その上にAuZn膜E3を蒸着する。
【0047】
つぎに、図10(e)に示すように、レジストR4、R5を除去し、リフトオフして入力側p側電極5を形成する。つぎに、図10(f)に示すように、感光性のポリイミドをハイメサ構造HMを埋めるように塗布し、フォトリソグラフィーとウェットエッチングによって入力側p側電極5上のポリイミドを除去し、電極パッド支持材3を形成し、さらに加熱し電極パッド支持材3をキュアする。つぎに、図10(g)に示すように、全体を覆うようにネガ型のレジストR6を塗布し、フォトリソグラフィーにより入力側p側電極5上とその周囲のレジストR6を除去し、その上にTi/Pt膜E4を蒸着する。その後、図10(h)に示すように、レジストR6を除去し、リフトオフして電極パッド6を形成する。
【0048】
最後に、基板10の裏面全面を研磨し、研磨した裏面にAuGeNi/Au膜を蒸着してn側電極11を形成した後、オーミックコンタクトをとるために430℃で焼結(シンタ)する。その後、へき開により入力部100aと出力部100bを形成するための端面を形成し、この端面に反射率が−30dB以下となるようにAR(Anti Reflection)コートを施し、素子分離して、半導体光増幅素子100が完成する。
【0049】
(実施例、比較例)
本発明の実施例として、実施の形態1と同様の構造の半導体光増幅素子を作製し、比較例として、図13に示す従来の構造の半導体光増幅素子を作製した。なお、比較例の従来の半導体光増幅素子のサイズ、材質は実施例と同様とした。そして、実施例および比較例に係る半導体光増幅素子について、入力部から波長1.55μm、強度0dBmの信号光を入力し、駆動電流を変化させながら光出力を測定した。
【0050】
図11は、実施例および比較例に係る半導体光増幅素子における駆動電流と光出力との関係を示す図である。図11に示すように、駆動電流が300mAの場合に、比較例の光出力は約78mWであったが、実施例の光出力は約110mWであり、同じ駆動電流において約40%光出力が向上した。すなわち、本発明の実施例に係る半導体光増幅素子では、高効率かつ高出力な光出力特性を得ることができた。
【0051】
なお、上記実施の形態1または実施例に係る半導体光増幅器は、波長1.55μm用にその化合物半導体や電極等の材料、サイズ等が設定されている。しかしながら、各材料やサイズ等は、光増幅させたいレーザ光の波長等に応じて適宜設定でき、特に限定はされない。
【符号の説明】
【0052】
1 入力側光増幅導波路部
2 出力側光増幅導波路部
3 電極パッド支持材
4 誘電体保護膜
5 入力側p側電極
6、8 電極パッド
7 出力側p側電極
10 基板
11 n側電極
12 下部クラッド層
13 半導体活性層
13a 第1の活性コア層
13b 第2の活性コア層
13ba テーパ部
13bb 等幅部
14、15、17 上部クラッド層
16 電流阻止半導体層
16a 下部電流阻止半導体層
16b 上部電流阻止半導体層
18 コンタクト層
19 半導体保護層
20 誘電体保護膜
100 半導体光増幅素子
100a 入力部
100b 出力部
C1、C2 曲線
Cap キャップ層
D1、D2 電界強度分布
E1〜E4 膜
HM ハイメサ構造
IL 入力信号光
L1〜L4 長さ
M1、M2 マスク
OL 出力信号光
R1〜R6 レジスト
W1〜W7 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の活性コア層を有する入力側光増幅導波路部と、
前記入力側光増幅導波路部に接続し、前記第1の活性コア層よりも幅の広い第2の活性コア層を有する出力側光増幅導波路部と、
を備え、前記第1の活性コア層の幅および前記第1の活性コア層と前記第1の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差、ならびに前記第2の活性コア層の幅および前記第2の活性コア層と前記第2の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部との比屈折率差が、前記第1の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数が前記第2の活性コア層におけるキャリア密度および光閉じ込め係数のそれぞれよりも高くなるように、設定されていることを特徴とする半導体光増幅素子。
【請求項2】
前記第1の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部はポリイミドからなり、前記第2の活性コア層の幅方向に隣接するクラッド部は半導体からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体光増幅素子。
【請求項3】
前記入力側光増幅導波路部において、少なくとも前記第1の活性コア層の側面に形成された半導体保護層をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の半導体光増幅素子。
【請求項4】
前記入力側光増幅導波路部に電力を供給する入力側電極と、前記入力側電極とは電気的に分離するように設けられ、前記出力側光増幅導波路部に電力を供給する出力側電極とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体光増幅素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−108845(P2011−108845A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262304(P2009−262304)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】