説明

半導体材料から成る結晶から多数のウェハを切断する方法

【課題】半導体ウェハのワイヤ切断のための新規の方法を提供する。
【解決手段】長手方向軸線及び横断面を有する半導体材料から成る結晶から多数のウェハを切断する方法において、テーブルに固定された結晶が該テーブルとワイヤソーのワイヤ群との相対移動によって案内され、切断ワイヤによって行われる進入切断が結晶の引上げエッジの近くにおいて行われるか又は切断ワイヤによって行われる退出切断が結晶の引上げエッジの近くにおいて行われるように、前記相対移動が、結晶の長手方向軸線に対して垂直な方向に、切断ワイヤによって形成されたワイヤ群を通過するように方向付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶から多数のウェハを切断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハは、一般的に、長手方向軸線及び横断面を有する半導体材料から成る単結晶又は多結晶がワイヤソーによって1回の作業で同時に多数の半導体ウェハに切断される方法によって製造される。
【0003】
加工物は、例えば、シリコンから成る円筒状の単結晶であることができる。
【0004】
「円筒状」とは、結晶が必ずしも円形の横断面を有さなければならないことを意味すると理解すべきではない。むしろ、結晶は、あらゆるほぼ円筒の形状を有することができる。ほぼ円筒とは、閉鎖された準線を備えた円筒面と2つの平行な平面、つまり円筒のベース面とによって規定される立体である。
【0005】
従って、このような方法は、周囲面を有する非円筒状の結晶ブロック、すなわち、例えば、正方形又は矩形の横断面を有する結晶ブロックを切断するのにも適している。
【0006】
特に、1回の作業で結晶から多数の半導体ウェハ、ソーラーウェハ及びその他の結晶ウェハを切断するためにワイヤソーが使用される。
【0007】
米国特許第5771876号明細書には、結晶から半導体ウェハを切断するのに適したワイヤソーの機能的原理が記載されている。
【0008】
独国特許出願公開第102006058823号明細書、独国特許出願公開第102006058819号明細書、及び独国特許出願公開第102006044366号明細書は、ワイヤソー切断のための対応する方法を開示している。
【0009】
ワイヤソーは、2つ以上のワイヤガイドローラの周囲に巻き付けられたソーイングワイヤによって形成されたワイヤ群を有している。
【0010】
ソーイングワイヤを研磨コーティングで被覆することができる。砥粒が固定結合されていないソーイングワイヤを有するワイヤソーを使用する場合、砥粒は、切断工程の間にスラリとして供給される。
【0011】
切断工程の過程で、加工物は、ソーイングワイヤが互いに平行に並んだワイヤセクションの形式で配置されているワイヤ群を通過させられる。ワイヤ群の通過は、加工物をワイヤ群に向かって又はワイヤ群を加工物に向かって案内する前進装置によって行われる。
【0012】
結晶から半導体ウェハを切断する場合、結晶はソーイングストリップに結合されるのが一般的であり、方法の最後において、このソーイングストリップにソーイングワイヤが切り込む。ソーイングストリップは、例えば、結晶の周囲面に接着剤結合又はセメント結合された黒鉛ストリップである。次いで、ソーイングストリップを備えた加工物は、支持体にセメント結合される。切断の後、結果として生じた半導体ウェハは、櫛の歯のように、ソーイングストリップに固定されたままであり、これにより、ワイヤソーから取り出すことができる。残りのソーイングストリップは、その後、半導体ウェハから取り外される。
【0013】
従来の方法の場合、切断された半導体ウェハはしばしば、大きなそりの値を有する。
【0014】
従来、求められる理想的なウェハ形状からの実際のウェハ形状のある程度のずれとしてのバウ及びワープというパラメータ("そり"ともいう)は、切断の直線度に極めて決定的に依存すると考えられていた。"ワープ"というパラメータは、SEMI規格 M1−1105に規定されている。測定可変ワープは、平坦かつ平面平行のウェハ側面によって特徴付けられる理想的なウェハ形状からのある程度のずれである。
【0015】
ワープは、加工物に対して軸方向での、切断工程の過程において生じる加工物に対するソーイングワイヤセクションの相対移動の結果として生じる。この相対移動は、例えば切断の間に生じる切断力、熱膨張の結果としてのワイヤガイドローラの軸方向変位、例えば軸受の遊び、又は加工物の熱膨張によって、生ぜしめられる。
【0016】
独国特許第10122628号明細書は、ロッド状又はブロック状の加工物をソーによって切断する方法を開示しており、この場合、切断の間の加工物の温度が測定され、測定信号は制御ユニットに送られ、制御ユニットは、加工物温度を制御するために使用される制御信号を生ずる。
【0017】
さらに、従来技術は、ソーイングワイヤの案内を改善することに努めてきた。
【0018】
独国特許出願公開第102007019566号明細書は、例えば、円筒状の加工物から多数のウェハを同時に切断するためのワイヤソーにおいて使用するためのワイヤガイドローラを開示しており、このローラには、少なくとも2mm、多くとも7.5mmの厚さを有しかつ少なくとも60、多くとも99のショアーA硬度を有する材料から成るコーティングが設けられており、このローラは、さらに、多数の溝を有しており、これらの溝にソーイングワイヤが案内されており、各溝は、ソーイングワイヤ直径Dの0.25〜1.6倍に等しい曲率半径Rを有する湾曲した溝底部と、60〜130゜の開口角度aとを有している。
【0019】
このようなワイヤソーの使用は、うねりの改良につながる。
【0020】
厚さのばらつきの他に、半導体ウェハの2つの表面の平坦度が極めて重要である。半導体単結晶、例えばシリコン単結晶を切断するためにワイヤソーが使用された後、これによって形成されたウェハはうねりのある表面を有している。このうねりは、うねりの波長及び振幅、及び材料除去の深さに応じて、その後の工程、例えば研削又はラッピングにおいて、部分的に又は完全に除去することができる。最悪の場合、数mmから例えば50mmまでの周期性を有するこのような表面不規則性("波打ち"、"うねり")は、仕上げられた半導体ウェハにおけるポリッシングの後にさえも依然として検出され、このような表面不規則性は、局所的なジオメトリに対して望ましくない効果を有している。
【0021】
独国特許出願公開第102006050330号明細書は、特定の集合長さを有するワイヤソー群によって少なくとも2つの円筒状の加工物を多数のウェハに同時に切断する方法を開示しており、この場合、少なくとも2つの加工物は取付けプレートに長手方向で連続して固定され、加工物の間には、規定された距離がそれぞれ保たれ、加工物は、ワイヤソー群に締め付けられ、ワイヤソー群によって切断される。
【0022】
ウェハの低いワープ値が望まれる場合、できるだけ長い加工物が選択される。高いワープ値を達成するためには、比較的短い加工物が取付けプレートに固定され、対応して切断される。
【0023】
しかしながら、全ての手段にもかかわらず、従来技術では、高いワープ値を有するウェハが繰り返し生ずることが分かった。これは、明らかに、常に切断工程自体又は加工物、ガイドローラ等の熱特性に原因を求めることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第5771876号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006058823号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102006058819号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102006044366号明細書
【特許文献5】独国特許第10122628号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第102007019566号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第102006050330号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の課題は、これらの観察の真相を究め、ワイヤ切断のための新規の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の課題は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0027】
結晶片は、結晶方位に依存した形式及び引上げエッジの位置に依存した形式で、テーブル又は取付けプレートに固定され、その後、進入切断工程が引上げエッジのうちの1つのすぐ近くにおいて行われるか又は退出切断工程が引上げエッジのうちの1つのすぐ近くにおいて行われるように、ワイヤソーにおいて半導体ウェハに分割される。
【0028】
発明者は、半導体ウェハのワープ値が、ワイヤソーによる進入切断工程が開始するところの加工物の結晶平面に極めて著しく依存するということを確認した。
【0029】
既に上で説明したように、加工物はワイヤ群を通過するように案内され、すなわち、進入切断は、加工物の極めて特定の位置において行われ、退出切断は、反対側の位置において加工物の側面に行われる。
【0030】
驚くべきことに、退出切断が引上げエッジにおいて行われると低いワープ値が生ずることが分かった。これを達成するために、加工物は、引上げエッジの領域における側面において、ソーイングストリップ、支持体又はワイヤソーのテーブルに固定される。
【0031】
これに対して、進入切断が引上げエッジのうちの1つにおいて行われるように結晶が支持体に固定されると、高いワープ値が生ずる。
【0032】
引上げエッジの数は、原理的に、結晶構造の対称性によって予め決まっている。つまり、例えば(111)シリコン結晶は、3つの引上げエッジを有している(図1参照)。
【0033】
切断される加工物は、好適には、シリコンから成る単結晶である。
【0034】
シリコン単結晶は、好適には、結晶方位(100)、(110)又は(111)を有している。
【0035】
増大したワープを生ずるために好適には進入切断が引上げエッジにおいて行われる。これは、例えば半導体ウェハのエピタキシャルコーティングが提供されている場合、後続の方法工程にとって有利である。
【0036】
以下に2つの図面を参照しながら発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】2つの加工物を備えたワイヤソーの構成を概略的に示す図である。
【図2】シリコンから成る切断された(111)結晶におけるワープ測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
結晶片は、帯のこによって2つの部分に切断された。
【0039】
2つの結晶片11及び12は、取付けプレート又はソーイングストリップ3に別個にセメント結合された。
【0040】
2つの結晶片11及び12は、結晶方位(111)を有している。
【0041】
(111)結晶は、3つの引上げエッジ(pulling edge)2を有している。
【0042】
4はワイヤソーのワイヤ群を示している。
【0043】
結晶片12は、側面において、引上げエッジ22の近くにおいてソーイングストリップ3に固定されている(引上げエッジにおける退出切断)。
【0044】
結晶片11は、引上げエッジ21と反対側に位置する側面によって、ソーイングストリップ3に固定されている(引上げエッジにおける進入切断)。
【0045】
両結晶片11及び12は、同じ加工条件を保証するために、1回の作業で切断される。5は、加工物11及び12とワイヤ群4との相対移動の方向vを示している。
【0046】
全ての切断されたウェハが、ワープについて試験され、これにより、図2に示された分布を示した。
【0047】
引上げエッジにおける退出切断の場合、オーダだけ優れたワープ分布7が見られる。
【0048】
6は、進入切断が引上げエッジにおいて行われた単結晶のためのワープ分布を示している。
【符号の説明】
【0049】
11,12 結晶片、 2 引上げエッジ、 21 進入切断が行われる引上げエッジ、 22 退出切断が行われる引上げエッジ、 3 ソーイングストリップ、 4 ワイヤソーのワイヤ群、 5 加工物とワイヤ群との間の相対移動、 6 引上げエッジにおける進入切断の場合のワープ分布、 7 引上げエッジにおける出口ソーイングの場合のワープ分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸線及び横断面を有する半導体材料から成る結晶から多数のウェハを切断する方法において、テーブルに固定された結晶が該テーブルとワイヤソーのワイヤ群との相対移動によって案内され、切断ワイヤによって行われる進入切断が結晶の引上げエッジの近くにおいて行われるか又は切断ワイヤによって行われる退出切断が結晶の引上げエッジの近くにおいて行われるように、前記相対移動が、結晶の長手方向軸線に対して垂直な方向に、切断ワイヤによって形成されたワイヤ群を通過するように方向付けられることを特徴とする、多数のウェハを切断する方法。
【請求項2】
結晶が、シリコンから成り、結晶方位(100)、(110)又は(111)を有している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
低いワープを有するウェハが望まれる場合、切断ワイヤによって行われる退出切断が引上げエッジの近くにおいて行われるように、結晶がワイヤ群を通過して案内される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
高いワープを有するウェハが望まれる場合、切断ワイヤによって行われる進入切断が引上げエッジの近くにおいて行われるように、結晶がワイヤ群を通過して案内される、請求項1又は2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−166154(P2011−166154A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−27710(P2011−27710)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】