説明

半導体発光素子デバイス

【課題】ボンディングワイヤを用いて実装された半導体発光素子デバイスであって、光束値の低下の少ない半導体発光素子デバイスを提供する。
【解決手段】半導体発光素子と、半導体発光素子とリード電極とを電気的に接続するボンディングワイヤと、半導体発光素子の上方に設置され、かつ半導体発光素子が発する光の一部の波長を変換する波長変換部材とを具備する半導体発光素子デバイスであって、波長変換部材には開口部および/または切り欠け部が形成されており、かつボンディングワイヤの少なくとも一部が、当該開口部および/または切り欠け部を貫通していることを特徴とする半導体発光素子デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)等の半導体発光素子が発する光の一部の波長を別の波長に変換し、主に白色光を照射するための半導体発光素子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LED等の半導体発光素子デバイスは、白熱電球や蛍光灯に代わる次世代の光源として、照明用途への応用が期待されている。一般に、白色LEDは、無機蛍光体粉末と樹脂の混合物を励起LEDチップ上に被覆モールドした構造を有している。しかしながら、LEDチップから照射される熱や光は、限られた部分に集中的に照射されるため、被覆モールドに用いられる樹脂が容易に着色あるいは変形してしまう。そのため、短期間で発光色の変化が起こり、半導体発光素子デバイスとしての寿命が短くなるという問題がある。LEDチップの高出力化に伴ってこの問題は深刻化すると考えられており、耐熱性に優れる半導体発光素子デバイスの開発が望まれていた。
【0003】
これに対し、樹脂を用いない完全無機固体からなる波長変換部材を使用したLEDデバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該波長変換部材は、耐熱性に劣る樹脂が使用されておらず、完全無機固体からなるため、優れた耐熱性を有し、熱劣化がほとんど生じない。特許文献1に開示されている波長変換部材は、ガラス粉末および無機蛍光体粉末の混合物を金型に充填し、軟化点付近で熱処理(焼結)することで、例えば板状成型体として提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−258308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
板状の波長変換部材を用いた従来の半導体発光素子デバイスを図8に示す。図8に示すように、半導体発光素子3はボンディングワイヤ5を用いて基板2上のリード電極(図示せず)と電気的に接続されている。ここで、波長変換部材4を半導体発光素子3上に実装する場合、ボンディングワイヤ5が波長変換部材4と半導体発光素子3の接近を阻害してしまい、実装の自由度の低下を招く。加えて、半導体発光素子3と波長変換部材4の距離Dが大きくなることにより、半導体発光素子3から発せられた光が、波長変換部材4に入射する前に減衰するため光束値が低下するという問題もある。
【0006】
さらに、半導体発光素子3と波長変換部材4の間にボンディングワイヤ5が存在することにより、半導体発光素子3から発せられた光をボンディングワイヤ5が吸収したり、ボンディングワイヤ5の影が波長変換部材4に投影されたりして、光束値が低下するという問題もある。
【0007】
したがって、本発明は、ボンディングワイヤを用いて実装された半導体発光素子デバイスであって、光束値の低下の少ない半導体発光素子デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、ボンディングワイヤを用いて実装された半導体発光素子デバイスを、特定の構造を有するものとすることにより、前記課題を解消できることを見出し、本発明を提案するものである。
【0009】
すなわち、本発明は、半導体発光素子と、半導体発光素子とリード電極とを電気的に接続するボンディングワイヤと、半導体発光素子の上方に設置され、かつ半導体発光素子が発する光の一部の波長を変換する波長変換部材とを具備する半導体発光素子デバイスであって、波長変換部材には開口部および/または切り欠け部が形成されており、かつボンディングワイヤの少なくとも一部が、当該開口部および/または切り欠け部を貫通していることを特徴とする半導体発光素子デバイスに関する。
【0010】
既述のように、従来の半導体発光素子デバイスでは、板状(特に、平板状)の波長変換部材を半導体発光素子上に実装する場合、ボンディングワイヤが波長変換部材と半導体発光素子の接近を阻害してしまうという問題があった。本発明の構成によれば、波長変換部材に形成された開口部および/または切り欠け部を、ボンディングワイヤが貫通する構造となっているため、波長変換部材を半導体発光素子に対して、より接近させることが可能となる。その結果、パッケージへの実装の自由度が向上するとともに、半導体発光素子から発せられた光が効率良く波長変換部材に入射するため、光束値を増加させることができる。さらに、ボンディングワイヤの光の吸収や、ボンディングワイヤの影が波長変換部材に投影されるという問題も大幅に改善することができる。
【0011】
第二に、本発明の半導体発光素子デバイスは、波長変換部材と半導体発光素子の距離が800μm以下であることが好ましい。
【0012】
当該構成によれば、半導体発光素子から発せられた光を効率良く波長変換部材に入射させることができるため、光束値増加の効果を享受しやすくなる。
【0013】
第三に、本発明の半導体発光素子デバイスは、開口部および/または切り欠け部が、レーザー加工により形成されたものであることが好ましい。
【0014】
波長変換部材が有する開口部および/または切り欠け部が必要以上に大きければ、半導体発光素子から発せられた光の波長変換ロスにつながる。その結果、変換効率の低下を引き起こし、所望の色の光が得られないおそれがある。したがって、波長変換部材が有する開口部および/または切り欠け部は、少なくともボンディングワイヤが貫通可能な程度であればよい。この場合、レーザー光を用いれば、波長変換部材に対して微細加工を施すことができるため、波長変換部材に微細な開口部および/または切り欠け部を形成することができる。よって、変換効率の高い半導体発光素子デバイスを得ることが可能となる。
【0015】
例えば、半導体発光素子デバイスの実装には、直径50μm程度またはそれ以下のボンディングワイヤが用いられるが、レーザー加工によると、従来の切削加工ツールでは不可能であった直径100μm以下の開口部を形成することが可能となる。
【0016】
第四に、本発明の半導体発光素子デバイスは、波長変換部材が、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末の焼結物からなることが好ましい。
【0017】
既述のように、波長変換部材がガラス粉末と無機蛍光体粉末の混合粉末を焼成することで得られる完全無機固体からなることにより、樹脂製の波長変換部材と比較して優れた耐熱性を有し、熱劣化が生じにくい。具体的には、ガラス中に無機蛍光体粉末を分散させることにより、無機蛍光体粉末を保護する効果が高められると同時に、ガラスは、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料と比較して、熱、紫外線に対する耐久性が高いため、波長変換部材の寿命を長くすることが可能となる。
【0018】
第五に、本発明は、半導体発光素子デバイスにおける半導体発光素子の上方に設置して用いられ、半導体発光素子が発する光の一部の波長を変換するための波長変換部材であって、半導体発光素子とリード電極とを電気的に接続するボンディングワイヤを貫通させるための開口部および/または切り欠け部が形成されていることを特徴とする波長変換部材に関する。
【0019】
本発明の波長変換部材は、ボンディングワイヤを用いて実装された半導体発光素子デバイスに用いることにより、既述のような効果を享受することができる。
【0020】
第六に、本発明の波長変換部材は、開口部および/または切り欠け部が、レーザー加工により形成されたものであることを特徴とする。
【0021】
第七に、本発明の波長変換部材は、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末の焼結物からなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の半導体発光素子デバイスの第一の実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)図1の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第一の実施形態を示す平面図である。(b)図1の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第二の実施形態を示す平面図である。(c)図1の半導体発光素子デバイス用いられる波長変換部材の第三の実施形態を示す平面図である。(d)図1の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第四の実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の半導体発光素子デバイスの第二の実施形態を示す断面図である。
【図4】(a)図3の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第一の実施形態を示す平面図である。(b)図3の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第二の実施形態を示す平面図である。(c)図3の半導体発光素子デバイス用いられる波長変換部材の第三の実施形態を示す平面図である。
【図5】本発明の半導体発光素子デバイスの第三の実施形態を示す断面図である。
【図6】(a)図5の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第一の実施形態を示す平面図である。(b)図5の半導体発光素子デバイスに用いられる波長変換部材の第二の実施形態を示す平面図である。(c)図5の半導体発光素子デバイス用いられる波長変換部材の第三の実施形態を示す平面図である。
【図7】本発明の半導体発光素子デバイスの第四の実施形態を示す断面図である。
【図8】従来の半導体発光素子デバイスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の半導体発光素子デバイスの第一の実施形態の断面図であり、図2は図1の半導体発光素子デバイスにおける波長変換部材を示す平面図である。図1に示すように、半導体発光素子3は基板2上に設置されており、2本のアーチ状のボンディングワイヤ5により基板2上のリード電極(図示せず)と電気的に接続されている。さらに、板状の波長変換部材4が半導体発光素子3の上方に設置されている。なお、図1では示していないが、通常、波長変換部材4は、ケーシングやカップ上に設置して用いられる。ここで、図2に示すように、波長変換部材4には開口部Oまたは切り欠け部Cが設けられている。半導体発光素子3と接続したボンディングワイヤ5は、一旦開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通した後、波長変換部材4上でアーチ状に屈曲し、再び開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通して基板2上のリード電極と接続する構造を有している。
【0025】
図2の(a)に示すように、図1における波長変換部材4の第一の実施形態では、波長変換部材4の平面形状が長方形であり、各ボンディングワイヤ5が貫通するための楕円形の開口部Oが、左右にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。この実施形態では、半導体発光素子3とリード電極とを接続するアーチ状のボンディングワイヤ5の頂部が、開口部Oにて波長変換部材4の上方に突出する構成となっている。
【0026】
図2の(b)に示すように、図1における波長変換部材4の第二の実施形態では、各ボンディングワイヤ5が貫通するための円形の開口部Oが、左右にそれぞれ2箇所ずつ形成されている。この実施形態では、半導体発光素子3と接続したボンディングワイヤ5が、開口部Oの一つを貫通して波長変換部材4上に突出するとともに、波長変換部材4上でアーチ状に屈曲し、別の開口部Oを貫通してリード電極と接続する構成となっている。
【0027】
図2の(c)に示すように、図1における波長変換部材4の第三の実施形態では、各ボンディングワイヤ5が貫通するための半楕円形の切り欠け部Cが、左右にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。この実施形態では、半導体発光素子3とリード電極とを接続するアーチ状のボンディングワイヤ5の頂部が、切り欠け部Cにて波長変換部材4の上方に突出する構成となる。
【0028】
図2の(d)に示すように、図1における波長変換部材4の第六の実施形態では、波長変換部材4の平面形状が円形であり、(a)と同様に、各ボンディングワイヤ5が貫通するための楕円形状の開口部Oが、左右にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。
【0029】
図3は本発明の半導体発光素子デバイスの第二の実施形態の断面図であり、図4は図3の半導体発光素子デバイスにおける波長変換部材の平面図である。本実施形態では、2本のボンディングワイヤ5がアーチ形状を形成しており、各ボンディングワイヤ5がそれぞれ1箇所ずつの開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通して波長変換部材4の上方に突出、アーチ状に屈曲した後、波長変換部材4の外側を通って、すなわち、再び開口部Oや切り欠け部Cを貫通することなくリード電極と接続する構造を有している。
【0030】
図4の(a)に示すように、図3における波長変換部材4の第一の実施形態では、各ボンディングワイヤ5が貫通するための円形の開口部Oが、左右にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。
【0031】
図4の(b)に示すように、図3における波長変換部材4の第二の実施形態では、各ボンディングワイヤ5が貫通するための三角形の切り欠け部Cが、左上隅と右下隅にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。
【0032】
図4の(c)に示すように、図3における波長変換部材4の第三の実施形態では、各ボンディングワイヤ5が貫通するための長方形の切り欠け部Cが、左上隅と右上隅にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。
【0033】
図5は本発明の半導体発光素子デバイスの第三の実施形態の断面図であり、図6は図5の半導体発光素子デバイスにおける波長変換部材の平面図である。本実施形態では、1本のボンディングワイヤ5がアーチ形状を形成しており、ボンディングワイヤ5が波長変換部材4に形成された開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通して波長変換部材4の上方に突出、アーチ状に屈曲した後、波長変換部材4の外側を通って、すなわち、再度開口部Oや切り欠け部Cを貫通することなくリード電極と接続する構造を有している。また、半導体発光素子3の下面は、基板2上に形成されたリード電極(図示せず)と電気的に接続されている。
【0034】
図6の(a)に示すように、図5における波長変換部材4の第一の実施形態では、ボンディングワイヤ5が貫通するための円形の開口部Oが1箇所形成されている。
【0035】
図6の(b)に示すように、図5における波長変換部材4の第二の実施形態では、ボンディングワイヤ5が貫通するための半楕円形の切り欠け部Cが1箇所形成されている。
【0036】
図6の(c)に示すように、図5における波長変換部材4の第三の実施形態では、ボンディングワイヤ5が貫通するための長方形の切り欠け部Cが、右上隅に1箇所形成されている。
【0037】
図7は本発明の半導体発光素子デバイスの第四の実施形態の断面図である。本実施形態では、基板2は半導体発光素子3が発する光および波長変換部材4により波長変換された光を反射集光させるリフレクターの役割を兼ね備えている。半導体発光素子3はケーシング状の基板2の底部に設置されており、ボンディングワイヤ5を用いて基板2上のリード電極(図示せず)と外部のリード電極6にそれぞれ電気的に接続されている。さらに、波長変換部材4が半導体発光素子3の上方に設置されている。ここで、波長変換部材4には左右に一箇所ずつ開口部Oまたは切り欠け部C(例えば、図4の(a)〜(c))が設けられており、半導体発光素子3に接続されたボンディングワイヤ5が、開口部Oまたは切り欠け部C(波長変換部材4とケーシング状の基板2との間に形成された空隙)を貫通して波長変換部材4の上方に突出、アーチ状に屈曲した後、波長変換部材4の外側を通って、すなわち、再び開口部Oや切り欠け部Cを貫通することなくリード電極と接続する構造を有している。
【0038】
本発明の半導体発光素子デバイスは、以上のような構成により、半導体発光素子と波長変換部材の距離を小さくすることが可能となる。半導体発光素子と波長変換部材の距離は、800μm以下、500μm以下、特に300μm以下が好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、10μm以上、特に50μm以上で適宜調整される。また、半導体発光素子と波長変換部材が接触していても構わない。なお、半導体発光素子と波長変換部材の距離とは、図1に示すように、半導体発光素子3の上面と波長変換部材4の下面の距離Dを指す。
【0039】
なお、波長変換部材に形成される開口部の形状は特に限定されず、円形や楕円形以外に、長方形、三角形等の多角形であってもよい。また、切り欠け部の形状も特に限定されず、円形の一部(半円形等)、楕円形の一部(半楕円形等)、三角形、長方形等の多角形などから適宜選択される。
【0040】
既述のように、波長変換部材に形成される開口部および切り欠け部の大きさは、光変換効率の観点からなるべく小さいほうが好ましい。例えば、開口部(または切り欠け部)が円形(または円形の一部)の場合、直径が100μm以下、80μm以下、特に60μm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には、10μm以上、さらには30μm以上である。開口部(または切り欠け部)が楕円形(または楕円形の一部)の場合、短径が100μm以下、80μm以下、特に60μm以下(下限は、10μm以上、さらには30μm以上)であることが好ましい。開口部(または切り欠け部)が長方形の場合、短辺が100μm以下、80μm以下、特に60μm以下(下限は、10μm以上、さらには30μm以上)であることが好ましい。
【0041】
なお、波長変換部材には開口部と切り欠け部の両方が形成されていても構わない。
【0042】
レーザー光を用いれば、波長変換部材に対して微細加工を施すことができるため、波長変換部材に微細な開口部および/または切り欠け部を形成することができる。レーザー光としては、フェムト秒レーザー光を用いることが好ましい。フェムト秒レーザーを用いると、多光子吸収を利用して熱を発生させずに被加工物に対して加工を行うことができる。したがって、波長変換部材への熱劣化によるダメージがない。また通常のレーザー加工のように光吸収を利用しないため、ガラスなどの透明材料でも加工可能である。さらにレーザー照射範囲が狭いため微細加工に適している。
【0043】
波長変換部材の厚みは特に限定されないが、50〜1000μm、80〜500μm、特に100〜200μmが好ましい。波長変換部材の厚みが50μm以下であると、機械的強度に劣るとともに、製造および加工が困難となる。一方、波長変換部材の厚みが1000μmを超えると、半導体発光素子から照射される光が透過しにくくなり、光束値が低下する傾向がある。
【0044】
波長変換部材の大きさは特に限定されず、半導体発光素子デバイスに要求される仕様に応じて適宜選択される。具体的には、波長変換部材の大きさ(面積)は、0.1〜10000mm、0.5〜1000mm、特に1〜100mmの範囲で選択される。例えば、平面形状が長方形の場合、0.5×0.5mm〜50×50mm、0.6×0.6mm〜10×10mm、特に0.8×0.8mm〜5×5mmの範囲で選択される。平面形状が円形の場合、直径が0.5〜50mm、0.6〜10mm、特に0.8〜5mmの範囲で選択される。
【0045】
なお、1つの波長変換部材に対して、複数の半導体発光素子を設置しても構わない。大面積の波長変換部材に対して複数の半導体発光素子を設置することにより、色のばらつきが抑制された面状照明を作製することが可能である。
【0046】
波長変換部材の材質は特に限定されず、例えば、ガラスや樹脂などのマトリクスに無機蛍光体粉末を分散させたものや、YAG等のガーネット結晶を含む多結晶体などが挙げられる。なかでも、波長変換部材は無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなることが好ましい。既述のように、当該構成とすることにより、耐熱性に優れた信頼性の高い波長変換部材を得ることができる。
【0047】
無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用できる。無機蛍光体粉末には、YAG、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物などからなるものがある。YAG、酸化物の各蛍光体は、ガラスと混合して高温に加熱しても安定であるという特徴を有する。窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物の各蛍光体は、焼結時の加熱によりガラスと反応しやすく、発泡や変色などの異常反応を起こしやすく、その程度は、焼結温度が高温であればあるほど顕著になる傾向がある。これらの無機蛍光体を用いる場合、焼成温度とガラス組成を最適化することで、ガラスとの反応を抑制することができる。
【0048】
なお、励起光の波長域や発光させたい色に合わせて、複数の無機蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して、白色光を得ようとする場合は、青色、緑色および赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末を混合して使用すればよい。
【0049】
無機蛍光体粉末の平均粒径D50は1〜75μm、特に1〜50μmであることが好ましい。無機蛍光体粉末の平均粒径D50が75μmを超えると、励起光が、波長変換部材4の内部まで透過しにくくなり、発光効率が低下しやすくなる。一方、平均粒径D50が1μmより小さくなると、焼成時に、ガラスと反応したり発泡したりして、波長変換部材4中の気孔率(残存泡の割合)が大きくなり、発光効率が低下しやすくなる。なお、本発明において、平均粒径D50はレーザー回折法により測定したものをいう。
【0050】
本発明において使用するガラス粉末には、無機蛍光体粉末を安定に保持するための媒体としての役割がある。使用するガラス組成系によって、波長変換部材の色調が異なり、また無機蛍光体粉末との反応性に差が出るため、種々の条件を考慮して使用するガラス組成を選択する必要がある。さらに、ガラス組成に適した無機蛍光体粉末の含有量や部材の厚みを決定することも重要である。
【0051】
ガラス粉末としては、無機蛍光体粉末と反応しにくいものであれば、特に制限はないが、850℃以下、好ましくは800℃以下の軟化点を有するものを用いることが好ましい。ガラス粉末の軟化点が高くなると、焼成温度も高くなるため、無機蛍光体粉末が劣化して、発光効率の高い波長変換部材が得られにくくなる。
【0052】
ガラス粉末としては、例えば、SiO−B系ガラス、SiO−RO系ガラス(ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの少なくとも1種を表す)、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−RO系ガラス(ROは、LiO、NaO、KOの少なくとも1種を表す)、SiO−B−Al系ガラス、SiO−B−ZnO系ガラス、ZnO−B系ガラス等を用いることができる。なお、低温焼成を目的とする場合は、比較的低い軟化点(例えば、400℃以下、さらには380℃以下)が得られやすいZnO−B系ガラスまたはSnO−P系ガラスを選択することが好ましい。波長変換部材の耐候性を向上させたい場合は、SiO−B系ガラス、SiO−RO系ガラス、SiO−B2O−RO系ガラス、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−Al系ガラスまたはSiO−B−ZnO系ガラスを選択すればよい。なお本発明において、「〜系ガラス」とは該当する成分を合計50質量%以上含有するガラスをいう。
【0053】
SiO−B−RO系ガラスの組成範囲は、質量%で、SiO 30〜70%、B 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 8〜40%、RO 10〜45%、Al 0〜20%、ZnO 0〜10%であることが好ましい。また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KOの少なくとも1種)、P、La等を合量で30%以下の範囲で添加してもよい。
【0054】
SnO−P系ガラスの組成範囲は、質量%で、SnO 30〜90%、P 10〜60%であることが好ましい。また、上記成分以外にBを0〜30%添加することができる。その他、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、SiO、Al、P、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaOの少なくとも1種)等を合量で30%まで添加してもよい。
【0055】
ガラス粉末の平均粒径D50は0.1〜300μm、特に0.7〜250μmであることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径D50が300μmより大きくなると、低温焼成が困難となる傾向がある。一方、平均粒径D50が0.1μmより小さくなると、焼成時に発泡して、波長変換部材の気孔率が大きくなり、発光効率が低下しやすくなる。
【0056】
波長変換部材の発光効率は、ガラス中に分散した無機蛍光体粉末の種類や含有量、および波長変換部材の肉厚によって変化する。波長変換部材の発光効率を高めたい場合、肉厚を薄くして励起光や波長変換された光の透過率を高めたり、無機蛍光体粉末の含有量を増加させて、発光量を増大させることで調整すればよい。ただし、無機蛍光体粉末の含有量が多くなりすぎると、焼結しにくくなって、波長変換部材の気孔率が大きくなる。その結果、励起光が効率良く無機蛍光体粉末に照射されにくくなったり、波長変換部材の機械的強度が低下するおそれがある。一方、無機蛍光体粉末の含有量が少なくなりすぎると、十分に発光が得られにくくなる。したがって、波長変換部材中の無機蛍光体粉末の含有量は0.01〜30質量%、0.05〜20質量%、特に0.08〜15質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0057】
混合粉末としては、ガラス粉末および無機蛍光体粉末のみからなるものを用いてもよいが、それ以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、高軟化点ガラス、あるいはアルミナ、シリカ等の結晶粉末などの無機粉末を、波長変換部材の強度向上や色合い、配向性、散乱性の調節等の目的で含有しても構わない。これらの無機粉末の含有量は、波長変換部材中において、合量で0.01〜50質量%、特に0.05〜20質量%であることが好ましい。
【0058】
半導体発光素子は、波長350〜430nmの紫外光あるいは近紫外光や波長430〜480nmの青色光のLEDまたはLDであることが好ましい。無機蛍光体のなかには紫外光(あるいは近紫外光)または青色光により励起され発光し、効率的に白色光が得られるものが多数存在するため、LEDおよびLDによる狭い波長帯域の光で効率よく励起することができる。
【0059】
ボンディングワイヤの直径は、強度、作業性、コストなどの観点から、10〜50μm、さらには20〜40μmであることが好ましい。ボンディングワイヤの材質としては、電気伝導性や機械的強度等の観点から、銅、金、白金、アルミニウム、またはこれらの合金などを用いることが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜3および比較例1、2)
質量%で、SiO 60%、B 10%、BaO 10%、CaO 20%の組成を有するSiO−B−RO系ガラス粉末(軟化点820℃、平均粒径D50:2.5μm)、または、質量%で、SnO 70%、P 20%、B 5%、MgO 5%の組成を有するSnO−P系ガラス粉末(軟化点350℃、平均粒径D50:15μm)に対して、表1および2に記載の無機蛍光体粉末を添加して混合粉末とし、円柱状にプレス成型して予備成型体を得た。得られた予備成型体を、200Paの減圧雰囲気下にて表1および2に記載の焼成温度で30分間焼結し、平板状(円盤状)の波長変換部材を得た。
【0061】
得られた波長変換部材に対して、フェムト秒レーザー照射装置(サイバーレーザー社製)を用いて切削加工を行うことにより、図2(d)に示すような楕円形の開口部(短径50μm)を形成した。一方、比較例1および2では波長変換部材に開口部を形成しなかった。上記方法にて作製した波長変換部材を、実施例1〜3については図1に示すように、比較例1および2については図8に示すように、ワイヤーボンディングで実装された青色半導体発光素子(励起波長450nm)上に設置し、白色半導体発光素子デバイスを作製した。半導体発光素子と波長変換部材の距離は電子顕微鏡(SEM)にて観察し測定した。
【0062】
得られた白色半導体発光素子デバイスを校正された積分球内で発光させ、その発光スペクトルを小型分光機(オーシャンフォトニクス社製、USB2000)を通してPC上に取り込んだ。得られた発光スペクトルから標準比視感度を掛け合わせた後、全光束値(lm)を算出した。発光効率は、全光束値を光源の電力で除することにより算出した。結果を表1および2示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1および2から明らかなように、実施例1〜3の半導体発光素子デバイスは、波長変換部材と半導体発光素子の距離を小さくすることができるため、優れた発光効率を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0066】
1 半導体発光素子デバイス
2 基板
3 半導体発光素子
4 波長変換部材
5 ボンディングワイヤ
6 リード電極
O 開口部
C 切り欠け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、半導体発光素子とリード電極とを電気的に接続するボンディングワイヤと、半導体発光素子の上方に設置され、かつ半導体発光素子が発する光の一部の波長を変換する波長変換部材とを具備する半導体発光素子デバイスであって、
波長変換部材には開口部および/または切り欠け部が形成されており、かつボンディングワイヤの少なくとも一部が、当該開口部および/または切り欠け部を貫通していることを特徴とする半導体発光素子デバイス。
【請求項2】
波長変換部材と半導体発光素子の距離が800μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子デバイス。
【請求項3】
開口部および/または切り欠け部が、レーザー加工により形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子デバイス。
【請求項4】
波長変換部材が、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末の焼結物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体発光素子デバイス。
【請求項5】
半導体発光素子デバイスにおける半導体発光素子の上方に設置して用いられ、半導体発光素子が発する光の一部の波長を変換するための波長変換部材であって、半導体発光素子とリード電極とを電気的に接続するボンディングワイヤを貫通させるための開口部および/または切り欠け部が形成されていることを特徴とする波長変換部材。
【請求項6】
開口部および/または切り欠け部が、レーザー加工により形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の波長変換部材。
【請求項7】
ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末の焼結物からなることを特徴とする請求項5または6に記載の波長変換部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−219166(P2010−219166A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62086(P2009−62086)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】