説明

半導体発光素子

【課題】従来構造よりも低コストで高輝度な半導体発光素子を提供する。
【解決手段】第一導電型の半導体基板1上に、第一導電型のクラッド層2、アンドープ活性層3、第二導電型のクラッド層4からなる発光部101が積層された半導体発光素子100において、発光部101の一部である第一導電型のクラッド層2中に、互いに組成が異なる2層の半導体層5a,5bを一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層5が具備されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一導電型の半導体基板上に、第一導電型のクラッド層、アンドープ活性層、第二導電型のクラッド層からなる発光部を積層した、高輝度の半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、AlGaInP系エピタキシャルウェハを用いて製造する、赤色から緑色の高輝度発光ダイオード(Light-Emitting Diode、以降LEDとも書く)の需要が大幅に伸びている。主な需要は、携帯電話の液晶用バックライト、表示灯、交通用信号灯、自動車のブレーキランプなどである。
【0003】
AlGaInPは、窒化物を除くIII/V族化合物半導体の中で最大のバンドギャップを有する直接遷移型半導体であり、従来のGaPや、AlGaAsなどの間接遷移型半導体を用いた発光ダイオードと比較して、赤色から緑色に相当する可視波長域において高輝度の発光が可能である。
【0004】
一般に製造販売されている高輝度発光ダイオードの内部量子効率は極めて高い値にあり、これまで以上の高輝度化を求めるには、内部量子効率を向上させるよりも、外部量子効率を向上させた方が効果的である(例えば、特許文献1〜3)。
【0005】
図4に、外部量子効率を高めるための典型的な構造を有する従来の半導体発光素子の断面構造を示す。図4に示す各半導体層は、第一導電型の半導体基板を除き、全ての層が有機金属気相成長法(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy、以降MOVPE法と書く)によってエピタキシャル成長で形成されている。
【0006】
図4における半導体発光素子40では、第一導電型の半導体基板1の上に、第一導電型のバッファ層6と、異なる2層の半導体層7a,7bを一対とする多層膜からなる基板側光反射層7が積層され、その基板側光反射層7の上に、第一導電型のクラッド層2、アンドープ活性層3、第二導電型のクラッド層4を順次成長してなる発光部41が積層され、さらに発光部41の上に、第二導電型の電流分散層8が積層され、第二導電型の電流分散層8と発光部41との間に、それらの間のバンドギャップエネルギーを有する第二導電型の介在層9が積層されている。また、半導体発光素子40の表面および裏面には、表面電極10および裏面電極11がそれぞれ形成されている。
【0007】
この半導体発光素子40が備える基板側光反射層7は、アンドープ活性層3より発光して第一導電型の半導体基板1に向かう光を、反対方向へ反射させる役割を担い、これにより半導体発光素子40の外部量子効率を高め、第一導電型の半導体基板1に吸収される光を、半導体発光素子40の外部に効率良く取り出すことができる。
【0008】
一般的には、基板側光反射層7は、発光部41からの光を反射して高輝度化することを目的に、第一導電型の半導体基板1と発光部41との間に設けられる。また、基板側光反射層7は、その多層膜のペア数が多ければ多いほど、光反射効果は大きくなる。因みに、基板側光反射層7は所謂分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector;DBR)層であり、2層の半導体層7a,7bの層厚は、各々の屈折率をC、Dとすると、アンドープ活性層3の発光ピーク波長λpに対して、λp/(4×C)、λp/(4×D)と設計される。
【0009】
ここで、AlGaInP系のアンドープ活性層3に対する基板側光反射層7の構成として、例えば特許文献1〜3では、Al0.5In0.5P層とGaAs層のペアとしたものと、Al0.5In0.5P層と(Al0.4Ga0.60.5In0.5P層のペアとしたものの、何れかが用いられている。基板側光反射層7での光反射率を良くするためには、光反射層を構成する異なる半導体層7a,7bの屈折率の差が大きければ大きいほど良い。屈折率差を考慮すると、AlAs層とGaAs層のペアで製作した方が光反射率に優れる(AlAsの屈折率は約3.11、GaAsの屈折率は約3.85、Al0.5In0.5Pの屈折率は約3.18、(Al0.4Ga0.60.5In0.5Pの屈折率は約3.38)。しかし、GaAsはAlGaInP系の活性層から発光した光を吸収して赤外光を放出するため、発光した光に対して透明であり屈折率差の大きいAl0.5Ga0.5As層とAlAs層のペアが光反射層として好適に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−114277号公報
【特許文献2】特開平7−86638号公報
【特許文献3】特開平11−87767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第一導電型のクラッド層の層厚は、400nmから1000nmにするのが一般的であり、半導体発光素子の内部量子効率は極めて高い値にある。このため、従来構造の半導体発光素子を現状より更に高輝度化するには、外部量子効率を高めるために、光反射層の層数を多くする必要がある。しかしながら、光反射層の層数を多くすることは、当然ながら高コストとなる。
【0012】
つまり半導体発光素子を一般的な構造とすると、現状よりも発光素子の製造コストを低くすることができない。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来構造よりも低コストで高輝度な半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために創案された本発明は、第一導電型の半導体基板上に、第一導電型のクラッド層、アンドープ活性層、第二導電型のクラッド層からなる発光部が積層された半導体発光素子において、前記発光部の一部である前記第一導電型のクラッド層中に、互いに組成が異なる2層の半導体層を一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層が具備されたものである。
【0015】
前記アンドープ活性層は、(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなり、前記第一導電型のクラッド層および前記クラッド側光反射層は、前記発光部より発光した光に対して透明な(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなると良い。
【0016】
前記クラッド側光反射層は、その多層膜の各半導体層の層厚が、下記の関係式より求まる設計層厚dの±30%以内の範囲であると良い。
d=λp/(4×n)
(但し、λpは発光部より発光した光のピーク波長であり、nは各半導体層の半導体材料の屈折率である)
【0017】
前記第一導電型の半導体基板と前記発光部との間に、互いに組成が異なる2層の半導体層を一対とする多層膜からなる基板側光反射層が更に具備されると良い。
【0018】
前記基板側光反射層は、前記発光部より発光した光に対して透明なAlXGa1-XAs(0≦X≦1)からなると良い。
【0019】
前記基板側光反射層は、その多層膜の各半導体層の層厚が、下記の関係式より求まる設計層厚dの±30%の範囲であると良い。
d=λp/(4×n)
(但し、λpは発光部より発光した光のピーク波長であり、nは各半導体層の半導体材料の屈折率である)
【0020】
前記基板側光反射層は、その多層膜の層数が40層以下であると良い。
【0021】
前記第一導電型の半導体基板と前記基板側光反射層との間に、GaAsからなる第一導電型のバッファ層が挿入されていると良い。
【0022】
前記第一導電型のクラッド層は、その層厚が200nm以上400nm以下であると良い。
【0023】
前記第一導電型の半導体基板が、GaAsからなると良い。
【0024】
前記アンドープ活性層が、多重量子井戸構造であると良い。
【0025】
前記第一導電型のクラッド層と前記アンドープ活性層との間に、前記第一導電型のクラッド層よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層が挿入されていると良い。
【0026】
前記第二導電型のクラッド層と前記アンドープ活性層との間に、前記第二導電型のクラッド層よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層が挿入されていると良い。
【0027】
前記発光部上に、第二導電型の電流分散層が更に積層され、前記第二導電型のクラッド層と前記第二導電型の電流分散層との間に、それらの間のバンドギャップエネルギーを有する介在層が積層されると良い。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第一導電型のクラッド層に対し、本来のクラッド層の役割以外に、光反射層の効果も持たせることによって、半導体基板と発光部との間に設けられる従来の光反射層の層厚を厚くすることなく、低コストで高輝度の半導体発光素子を製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の半導体発光素子の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の半導体発光素子の上面図である。
【図3】本発明の半導体発光素子の断面構造を示す模式図である。
【図4】従来の半導体発光素子の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の好適な実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
【0031】
本発明者は、上述の課題を達成すべく鋭意検討を行った結果、発光部の一部である第一導電型のクラッド層に対して、本来のクラッド層としての役割以外に、光反射層としての効果も持たせることによって、第一導電型の半導体基板と第一導電型のクラッド層との間に設けられる従来の光反射層の層厚を厚くすることなく、低コストで高輝度の半導体発光素子を製作できるとの知見に至った。
【0032】
図1は、本実施の形態に係る半導体発光素子の断面構造を示す模式図である。なお、図1に示す半導体発光素子100の基本構造は、図4に示した従来の半導体発光素子40と同一であるので、共通の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
半導体発光素子100は、第一導電型の半導体基板1上に、第一導電型のクラッド層2、アンドープ活性層3、第二導電型のクラッド層4からなる発光部101が主に積層され、発光部101の一部である第一導電型のクラッド層2中に、互いに組成が異なる2層の半導体層5a,5bを一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層5が具備されたものである。具体的には、発光部101より発光した光に対して透明で、第一導電型のクラッド層2と同種の半導体材料からなり、互いに組成が異なる2層の半導体層5a,5bを一対とした多層膜からなるクラッド側光反射層5が、第一導電型のクラッド層2中に具備されている。例えば、第一導電型のクラッド層2が第一導電型の(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなる場合、同じく第一導電型の(AlXGa1-XYIn1-YPで形成される2層の半導体層5a,5bを一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層5が具備される。
【0034】
2層の半導体層5a,5bを構成する半導体材料の組成は、クラッド側光反射層5の半導体特性(バンドギャップエネルギー、価電子帯の準位など)が、第一導電型のクラッド層2と同等になるような組成の組み合わせから選択される。例えば、第一導電型のクラッド層2がAlGaInP系のn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるとき、クラッド側光反射層5は、AlGaInP系のn型Al0.5In0.5Pからなる半導体層5aと、n型(Al0.4Ga0.60.5In0.5Pからなる半導体層5bを一対とする多層膜からなる。これにより、クラッド側光反射層5は、クラッド層としての効果を有することができる。
【0035】
なお、クラッド側光反射層5のキャリア濃度(すなわち、添加するドーパントの濃度)は、基板側光反射層7よりも低くすることが好ましい。これは、クラッド側光反射層5からアンドープ活性層3へのドーパントの拡散を抑止するためである。
【0036】
また、クラッド側光反射層5は、その多層膜の各半導体層5a,5bの層厚を、下記の関係式より求まる設計層厚dとされる。
d=λp/(4×n)
(但し、λpは発光部101より発光した光のピーク波長であり、nは各半導体層5a,5bの半導体材料の屈折率である)
【0037】
これにより、クラッド側光反射層5はDBR層となり、光反射層としての効果を有することができる。
【0038】
なお本発明は、多層膜の各半導体層5a,5bの層厚を上記の関係式より求まる設計層厚dに限定するものではなく、一対で構成されている各半導体層5a,5bの層厚のバランスを崩して、ピーク波長λpとは異なる所望の波長の光を反射するようにしても良い。各半導体層5a,5bの層厚を、設計層厚dの±30%以内の範囲で調節することにより、所望の波長の光をクラッド側光反射層5で反射して、半導体発光素子100から取り出す光の波長を調節することができる。また、各半導体層5a,5bに行う層厚のバランス調節は、第一導電型の半導体基板1側に積層されている基板側光反射層7の各半導体層7a,7bについても、同様に行うことができる。
【0039】
本発明では、クラッド側光反射層5の多層膜の層数(すなわち、2層の半導体層5a,5bの合計層数)は、特に限定されない。第一導電型のクラッド層2の層厚を超えない範囲で、任意の層数の多層膜からなるクラッド側光反射層5とすることができる。
【0040】
次に、半導体発光素子100の各部の詳細について説明する。
【0041】
第一導電型の半導体基板1としては、安価な第一導電型のGaAs基板を用いることができる。GaAsの他にも、GaP、SiC、サファイアなどの公知の半導体材料から選択可能である。
【0042】
アンドープ活性層3は、赤色から緑色の範囲で高輝度に発光する(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなり、第一導電型のクラッド層2,第二導電型のクラッド層4は、発光部101より発光する光に対して透明な、第一導電型の(AlXGa1-XYIn1-YPと、第二導電型の(AlXGa1-XYIn1-YPからなる。なお、各クラッド層2,4を構成する(AlXGa1-XYIn1-YPの組成は、アンドープ活性層3からキャリアが漏れ出さないように、アンドープ活性層3よりもバンドギャップエネルギーが大きくなるような組成とされる。
【0043】
クラッド側光反射層5の多層膜を構成する2層の半導体層5a,5bは、第一導電型のクラッド層2と同じく、第一導電型の(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなる。この2層の半導体層5a,5bを構成する半導体材料の組成は、発光部101より発光する光に対して透明で、2層の屈折率差を大きくでき、かつ、クラッド側光反射層5としての半導体特性が第一導電型のクラッド層2と同等となる組み合わせから選択される。
【0044】
また、基板側光反射層7の多層膜を構成する2層の半導体層7a,7bは、発光部101より発光した光に対して透明な第一導電型のAlXGa1-XAs(0≦X≦1)からなる。この2層の半導体層7a,7bを構成する半導体材料の組成は、発光部101より発光する光に対して透明で、2層の屈折率差を大きくできる組み合わせから選択される。
【0045】
第一導電型のバッファ層6,第二導電型の介在層9,第二導電型の電流分散層8には、それぞれ公知の半導体材料を使用することができ、ここでは詳細な説明は省略する。一例では、第一導電型のバッファ層6として第一導電型のGaAsを、第二導電型の介在層9として第二導電型のGa0.7In0.3Pを、第二導電型の電流分散層8として第二導電型のGaPを、それぞれ使用することができる。
【0046】
表面電極10および裏面電極11は、従来と同じ構成とすることができ、例えば金・ベリリウム合金(AuBe合金)、ニッケル(Ni)、金(Au)を順次積層し、これを加熱してアロイ化処理したものを用いることができる。なお、表面電極10の形状は、発光部101での電流分布を均一にでき、かつ、発光した光を遮る部分を少なくできる形状とされ、例えば図2に示すように、半導体発光素子100の中央に円形の基部10aを有し、その基部10aから四方に延びる直線状の腕部10bを有する形状とされる。
【0047】
これら半導体発光素子100を構成する半導体層1〜9のうち、第一導電型の半導体基板1を除く各層2〜9は、MOVPE法により形成される。
【0048】
MOVPE法において用いる原料ガスは、Gaの原料としてトリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)、Alの原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、Inの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、などの有機金属ガスを用いる。その他、As源としてアルシン(AsH3)、P源としてホスフィン(PH3)、などの水素化物ガスを用いる。
【0049】
各層2〜9の導電型を決定するための不純物原料として、n型の半導体層には、セレン化水素(H2Se)、ジシラン(Si26)、モノシラン(SiH4)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)などの不純物原料ガスを用いる。また、p型の半導体層には、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)、ジメチルジンク(DMZn)やジエチルジンク(DEZn)を用いる。
【0050】
これら原料ガスを、MOVPE炉内で加熱した第一導電型の半導体基板1上に所定の流量比で供給し、各層2〜9を順次成長させることで、半導体発光素子100を製造するための発光素子用エピタキシャルウェハが得られる。
【0051】
このエピタキシャルウェハの表面および裏面に、真空蒸着法などにより表面電極10および裏面電極11を形成し、これを切断して得たベアチップをステム上にマウントした後、ベアチップにワイヤボンディングを行うことで、半導体発光素子100が製造される。
【0052】
以上を要するに、本実施の形態に係る半導体発光素子100は、発光部101の一部である第一導電型のクラッド層2中に、互いに組成の異なる2層の半導体層5a,5bを一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層5を具備したものである。
【0053】
これにより、発光部101から裏面側に向けて発光した光をクラッド側光反射層5で反射し、より高輝度の半導体発光素子100とすることができる。
【0054】
また、クラッド側光反射層5が、本来のクラッド層としての効果に加え、光反射層としての効果を有することにより、第一導電型の半導体基板1と発光部101との間に積層する基板側光反射層7の層数及び層厚を厚くすることなく、低コストで高輝度の半導体発光素子100を製作できる。具体的には、基板側光反射層7の多層膜の層数を40層(20対)以下として低コスト化しても、高輝度半導体発光素子として十分な発光出力(輝度)の光を取り出すことができる。
【0055】
さらに、クラッド側光反射層5を具備して外部量子効率を高めたことにより、内部量子効率を高めるための第一導電型のクラッド層2の層厚を200〜400nmとして低コスト化しても、高輝度半導体発光素子として十分な輝度の光を取り出すことができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、種々の変形が可能である。
【0057】
例えば図3に示すように、第一導電型のクラッド層2とアンドープ活性層3との間に、第一導電型のクラッド層2よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層12aが挿入され、第二導電型のクラッド層4とアンドープ活性層3との間に、第二導電型のクラッド層4よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層12bが挿入されていても良い。これら挿入層12a,12bをアンドープ活性層3の上下に挿入した発光部301を有する半導体発光素子300では、さらに高輝度の光を取り出すことができる。アンドープ活性層3の上下に挿入層12a,12bの双方を挿入するほかにも、アンドープ活性層3の上下のうち一方のみに挿入層12a若しくは挿入層12bを挿入する構造としても、本発明の意図する効果が得られることは容易推考である。
【0058】
なお、これら挿入層12a,12bの層厚は、200nm以下であることが好ましい。これは、挿入層12a,12bにより半導体発光素子300を高出力化(高輝度化)できる一方で、順方向電圧が高くなるためである。より好ましい層厚は、50〜100nmである。つまり、アンドープ活性層3の上下に挿入層12a,12bの双方を挿入する場合、その合計層厚は400nm以下が望ましく、100〜200nmがより望ましい。
【0059】
また、上記実施の形態では、第一導電型の半導体基板1と基板側光反射層7との間に、第一導電型のバッファ層6を積層する構造としたが、積層しなくても本発明の意図する効果が得られることは容易推考である。
【0060】
また、上記実施の形態では、アンドープ活性層3を単層構造としたが、多重量子井戸構造としても、本発明の意図する効果が得られることは容易推考である。
【0061】
また、上記実施の形態では、表面電極10の形状を、円形の基部10aとその基部10aから四方に延びる直線状の腕部10bとを有する形状としたが、この形状以外の異形状、例えば四角、菱形、多角形、櫛形などの形状を有した表面電極であっても、本発明の意図する効果が得られることは容易推考である。
【0062】
また、上記実施の形態では、第一導電型のクラッド層2の一部として設けたクラッド側光反射層5の材料を、第一導電型のクラッド層2と同種のAlGaInP系材料として形成したが、As系材料とP系材料を一つのペアとして形成しても、本発明の意図する同等の効果が得られることは容易推考である。但し、この場合は、内部量子効率が若干低下するため、キャリア濃度を高くする必要がある。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0064】
[実施例1]
図1に示した構造の半導体発光素子1として、発光ピーク波長631nm付近の赤色LED素子を作製した。LED素子の作製に用いたLED用エピタキシャルウェハのエピタキシャル成長法、エピタキシャル層層厚、エピタキシャル構造や電極形成方法、及びLED素子製作方法は、以下の通りである。なお、n型の半導体層のドーパントにはSe元素を、p型の半導体層のドーパントにはMg元素を用いた。
【0065】
まず、第一導電型の半導体基板1としてのn型GaAs基板(15°オフ)上に、MOVPE法で、第一導電型のバッファ層6としてn型GaAs層(層厚200nm、キャリア濃度1×1018/cm3)を成長させた。その上に、n型AlAs層(層厚50.7nm)からなる半導体層7aとn型Al0.5Ga0.5As層(層厚45.0nm)からなる半導体層7bの2層を1ペアとして、各々15層ずつ交互に積層した15ペア(30層)の多層膜からなる基板側光反射層7を成長させた。基板側光反射層7のキャリア濃度は、約1×1018/cm3とした。
【0066】
次に、基板側光反射層7の上に、n型Al0.5In0.5P層(層厚49.6nm)からなる半導体層5aとn型(Al0.4Ga0.60.5In0.5P層(層厚47.9nm)からなる半導体層5bの2層を1ペアとして、各々2層ずつ交互に積層した2ペア(4層)の多層膜からなるクラッド側光反射層5を成長させた。クラッド側光反射層5のキャリア濃度は、双方共に5×1017/cm3とした。キャリア濃度を基板側光反射層7よりも低くしたのは、アンドープ活性層3へのドーパントの拡散を抑止するためである。
【0067】
さらにその上に、第一導電型のクラッド層2としてn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P層(層厚200nm、キャリア濃度4×1017/cm3)、アンドープ活性層3としてi型(Al0.1Ga0.90.5In0.5P層(層厚600nm)、第二導電型のクラッド層4としてp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P層(層厚500nm、キャリア濃度2×1017/cm3)、第二導電型の介在層9としてp型Ga0.7In0.3P層(層厚20nm、キャリア濃度6×1018/cm3)、第二導電型の電流分散層8としてp型GaP層(層厚8000nm、キャリア濃度4×1018/cm3)を、MOVPE法で順次積層成長させた。
【0068】
ここで、MOVPE成長での成長温度は、第一導電型のバッファ層2から第二導電型の介在層9までを650℃とし、その上の第二導電型の電流分散層8は675℃として成長した。その他の成長条件は、成長圧力は50Torr(6.66kPa)、成長速度は0.3〜1.5nm/sec、V/III比は約150で行った。但しV/III比については、第二導電型の電流分散層9のみ25とした。因みにここで言うV/III比とは、分母をTMGaやTMAlなどのIII族原料のモル数とし、分子をAsH3、PH3などのV族原料のモル数とした比率(商)を指す。
【0069】
上述のようにして作製されたLED用エピタキシャルウェハをMOVPE装置から搬出した後、当該LED用エピタキシャルウェハの表面(上面)に、レジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィプロセスに用いられる器材と周知の方法を駆使して、ワイヤボンディング部分(基部10a)が直径100μmの表面電極10(図2参照)を、マトリックス状に真空蒸着法で形成した。蒸着後の電極形成にはリフトオフ法を用いた。この表面電極10は、AuBe合金、Ni、Auを、それぞれ400nm、10nm、1000nmの順に蒸着して形成した。更に、LED用エピタキシャルウェハの底面の全面に、同じく真空蒸着法によって裏面電極11を形成した。裏面電極11は、AuGe合金(金・ゲルマニウム合金)、Ni、Auを、それぞれ60nm、10nm、500nmの順に蒸着して形成した。その後、電極の合金化であるアロイ工程を、窒素ガス雰囲気中にて400℃に加熱し、5分間熱処理することで行い、電極付きLED用エピタキシャルウェハとした。
【0070】
構成された電極付きLED用エピタキシャルウェハを、マトリックス状に形成された表面電極10のそれぞれが中心になるようにダイシング装置を用いて切断・分割し、チップサイズ275μm角のLEDベアチップを作製した。さらにLEDベアチップをTO−18ステム上にマウント(ダイボンディング)し、その後、マウントされたベアチップにさらにワイヤボンディングを行い、実施例1のLED素子を作製した。
【0071】
[実施例2]
実施例2のLED素子では、図3に示したように、挿入層12a,12bとして層厚100nmのi型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pをアンドープ活性層3の上下に挿入した。また、アンドープ活性層3としてi型Ga0.5In0.5Pを用い、その他の構造は実施例1と同じとした。
【0072】
次に、比較例として作製した従来形態のLED素子の構造について説明する。
【0073】
[比較例1]
比較例1のLED素子では、図4に示したように、クラッド側光反射層5を具備せず、本来のクラッド層としての効果のみを有する第一導電型のクラッド層2を積層し、その他の構造は実施例1と同じとした。この比較例1のLED素子では、クラッド層による内部量子効率を実施例1と同等にするために、第一導電型のクラッド層2の層厚を400nm(キャリア濃度4×1017/cm3)とした。
【0074】
[比較例2]
比較例2のLED素子では、クラッド側光反射層5を具備せず、本来のクラッド層としての効果のみを有する第一導電型のクラッド層2(層厚400nm、キャリア濃度4×1017/cm3)を積層し、その他の構造は実施例2と同じとした。
【0075】
作製したLED素子の初期特性を評価した結果、実施例1のLED素子の発光出力は2.06mWであり、比較例1(従来構造)の発光出力は1.79mWであった。また、実施例2のLED素子の発光出力は2.10mWであり、比較例2の発光出力は1.81mWであった。このように、第一導電型のクラッド層2中にクラッド側光反射層5を具備したことにより、実施例1のLED素子では比較例1の約1.15倍の発光出力が得られ、実施例2のLED素子では比較例2の約1.16倍の発光出力が得られた。
【0076】
次に、各LED素子の発光出力以外の特性について評価した。20mA通電時の順方向動作電圧を評価した結果、実施例1および比較例1では1.90Vであり、実施例2および比較例2では1.94Vであった。また、発光波長を評価した結果、実施例1のLED素子では630nmのピーク波長が得られ、その他のLED素子においても、ほぼ設計通りのピーク波長が得られた。さらに信頼性試験として、室温・通電50mAの条件で、168時間通電後の発光出力の変化を評価した結果、全てのLED素子において、試験前後での発光出力は同じであり、相対出力(168時間通電後の発光出力/初期の発光出力×100(%))は100%であった。
【0077】
以上のことから、実施例1,2では、比較例1,2と同コストでありながら、ほぼ同程度の発光波長、順方向動作電圧、信頼性で、発光出力(輝度)を向上できることが分かる。
【0078】
本発明によれば、第一導電型の半導体基板1と第一導電型のクラッド層2との間に従来から設けられてきた基板側光反射層7の層厚を厚くすることなく、高輝度の半導体発光素子100,300を製作できる。このため、従来と同じコストで、高輝度の半導体発光素子の製作が可能になる。言い換えれば、同コストで従来よりも高輝度の半導体発光素子の製造ができる。さらには、従来よりも低コストで、従来と同程度の輝度の半導体発光素子の製造ができる。
【0079】
なお、上記実施例においては、発光波長630nmの赤色LED素子のみを作製例としたが、その他の波長帯域の発光素子であっても本発明の意図する効果が得られることは容易推考である。
【符号の説明】
【0080】
1 第一導電型の半導体基板(n型GaAs)
2 第一導電型のクラッド層(n型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P)
3 アンドープ活性層(i型(Al0.1Ga0.90.5In0.5
4 第二導電型のクラッド層(p型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P)
5 クラッド側光反射層
5a 半導体層(n型Al0.5In0.5P)
5b 半導体層(n型(Al0.4Ga0.60.5In0.5P)
6 第一導電型のバッファ層(n型GaAs)
7 基板側光反射層
7a 半導体層(n型AlAs)
7b 半導体層(n型Al0.5Ga0.5P)
8 第二導電型の電流分散層(p型GaP)
9 第二導電型の介在層(p型Ga0.7In0.3P)
10 表面電極
11 裏面電極
100 半導体発光素子
101 発光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型の半導体基板上に、第一導電型のクラッド層、アンドープ活性層、第二導電型のクラッド層からなる発光部が積層された半導体発光素子において、
前記発光部の一部である前記第一導電型のクラッド層中に、互いに組成が異なる2層の半導体層を一対とする多層膜からなるクラッド側光反射層が具備されたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記アンドープ活性層は、(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなり、
前記第一導電型のクラッド層および前記クラッド側光反射層は、前記発光部より発光した光に対して透明な(AlXGa1-XYIn1-YP(0≦X≦1,0≦Y≦1)からなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記クラッド側光反射層は、その多層膜の各半導体層の層厚が、下記の関係式より求まる設計層厚dの±30%以内の範囲である請求項1又は2記載の半導体発光素子。
d=λp/(4×n)
(但し、λpは発光部より発光した光のピーク波長であり、nは各半導体層の半導体材料の屈折率である)
【請求項4】
前記第一導電型の半導体基板と前記発光部との間に、互いに組成が異なる2層の半導体層を一対とする多層膜からなる基板側光反射層が更に具備された請求項1〜3いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記基板側光反射層は、前記発光部より発光した光に対して透明なAlXGa1-XAs(0≦X≦1)からなる請求項4記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記基板側光反射層は、その多層膜の各半導体層の層厚が、下記の関係式より求まる設計層厚dの±30%の範囲である請求項4又は5記載の半導体発光素子。
d=λp/(4×n)
(但し、λpは発光部より発光した光のピーク波長であり、nは各半導体層の半導体材料の屈折率である)
【請求項7】
前記基板側光反射層は、その多層膜の層数が40層以下である請求項4〜6いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記第一導電型の半導体基板と前記基板側光反射層との間に、GaAsからなる第一導電型のバッファ層が挿入されている請求項4〜7いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記第一導電型のクラッド層は、その層厚が200nm以上400nm以下である請求項1〜8いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第一導電型の半導体基板が、GaAsからなる請求項1〜9いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記アンドープ活性層が、多重量子井戸構造である請求項1〜10いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記第一導電型のクラッド層と前記アンドープ活性層との間に、前記第一導電型のクラッド層よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層が挿入されている請求項1〜11いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項13】
前記第二導電型のクラッド層と前記アンドープ活性層との間に、前記第二導電型のクラッド層よりもキャリア濃度が低いか、若しくはアンドープの挿入層が挿入されている請求項1〜12いずれか記載の半導体発光素子。
【請求項14】
前記発光部上に、第二導電型の電流分散層が更に積層され、
前記第二導電型のクラッド層と前記第二導電型の電流分散層との間に、それらの間のバンドギャップエネルギーを有する介在層が積層された請求項1〜13いずれか記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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