説明

半導体素子の製造方法

【課題】高温下での処理に適した半導体素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体ウエハ10の第1面11に半導体素子20の第1構成部21を作製する第1工程と、第1構成部21の表面に、シリコーン樹脂層30のみを介して、支持板40を貼り付ける第2工程と、支持板40を貼り付けた状態のまま、半導体ウエハ10の第1面に対向する第2面12を研削した後、研削面13に半導体素子20の第2構成部22を作製する第3工程と、第1構成部21および第2構成部22が作製された半導体ウエハ10から、シリコーン樹脂層30を剥離して、シリコーン樹脂層30および支持板40を除去し、また、半導体ウエハ10をチップ状に切断する第4工程とを備えることを特徴とする半導体素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造工程において、半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」ともいう)の表面に電子回路などを形成した後、ウエハの厚さを薄くするため、ウエハの裏面研削(所謂、バックグラインド)を行うことがある。その場合、ウエハの回路面の保護、ウエハの固定などを目的として、通常、ウエハの回路面に、両面密着シートを介して、支持板を貼り付ける(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
支持板をウエハの回路面に貼り付けると、ウエハの裏面研削後に、厚さの薄くなったウエハを補強することもでき、ウエハの研削面に裏面電極などを形成することもできる。その後、ウエハの回路面から両面密着シートを剥離することで、両面密着シートおよび支持板を除去し、また、ウエハを切断してチップを作製する。
【0004】
ところで、近年では、ウエハを貫通して設ける貫通電極(例えば、シリコン貫通電極)を利用したチップ積層技術が開発されている。このチップ積層技術によれば、従来のワイヤの代わりに、貫通電極を用いて、複数のチップの電子回路を電気的に接続するので、チップの高集積化、動作の高速化を図ることができる。
【0005】
このチップ積層技術を用いる場合、複数のチップの合計の厚さを薄くするため、ウエハの裏面研削を行うことが多い。そのため、支持板や両面密着シートを利用する機会が増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−26950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の両面密着シートは、基材フィルムを構成する樹脂の耐熱性が低いので、高温下での処理を有する半導体素子の製造工程に適用することが難しい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、高温下での処理に適した半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、
半導体ウエハの第1面に半導体素子の第1構成部を作製する第1工程と、
前記半導体ウエハの、前記第1構成部が作製された第1面に、シリコーン樹脂層のみを介して、支持板を貼り付ける第2工程と、
前記支持板を貼り付けた状態のまま、前記半導体ウエハの前記第1面に対向する第2面を研削した後、研削面に前記半導体素子の第2構成部を作製する第3工程と、
前記第1構成部および前記第2構成部が作製された前記半導体ウエハから、前記シリコーン樹脂層を剥離して、前記シリコーン樹脂層および前記支持板を除去し、また、前記半導体ウエハをチップ状に切断する第4工程とを備えることを特徴とする半導体素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下での処理に適した半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図(1)である。
【図2】本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図(2)である。
【図3】本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図(3)である。
【図4】本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図(4)である。
【図5】本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図(5)である。
【図6】図1の変形例の説明図である。
【図7】図4の変形例の説明図である。
【図8】第2工程の詳細図(1)である。
【図9】第2工程の詳細図(2)である。
【図10】第2工程の詳細図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0013】
なお、本発明は、後述の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、後述の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0014】
図1〜図5は、本発明の一実施形態による半導体素子の製造方法の説明図である。図1〜図5は、側面断面図である。
【0015】
(第1工程)
第1工程では、図1に示すように、半導体ウエハ10(以下、単に「ウエハ10」ともいう)の第1面11に半導体素子20の第1構成部21を作製する。
【0016】
ウエハ10は、特に限定されないが、シリコン(Si)ウエハ、シリコンカーバイド(SiC)ウエハ、サファイアウエハ、または化合物半導体ウエハなどであって良い。化合物半導体ウエハには、窒化ガリウム(GaN)ウエハ、ガリウムヒ素(GaAs)ウエハ、リン化インジウム(InP)ウエハなどが含まれる。
【0017】
半導体素子20は、特に限定されないが、例えばIC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integration)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などであって良い。半導体素子20は、ウエハ10の第1面11側から作製される第1構成部21、ウエハ10の第1面11に対向する第2面12側から作製される第2構成部22などで構成される。
【0018】
第1構成部21は、一般的な構成であって良く、例えば、トランジスタ、配線、第1面電極などで構成される。第1構成部21の作製方法は、半導体素子20の作製に用いられる一般的な方法であって良く、フォトリソグラフィ法、エッチング法、イオン注入法、CVD法などが用いられる。
【0019】
図6は、図1の変形例の説明図である。図6に示す第1構成部21Aは、上記トランジスタなどの他、ウエハ10の第1面11から第2面12に貫通して設けられる貫通電極23を含んでいる。貫通電極23は、例えば、ウエハ10に貫通孔(Via)を形成し、貫通孔の内壁に絶縁膜を形成した後、絶縁膜上に導電体を形成して作製される。貫通孔の形成には、RIE(Reactive Ion Etching)法などが用いられる。絶縁膜の形成には、プラズマCVD法などが用いられる。導電体の形成には、銅メッキなどの金属メッキ、CVD法によるポリシリコンの成膜法などが用いられる。
【0020】
(第2工程)
第2工程では、例えば第1構成部21の保護、ウエハ10の固定を目的として、図2に示すように、半導体ウエハ10の、第1構成部21が作製された側の面に、シリコーン樹脂層30のみを介して、支持板40を貼り付ける。即ち、第1構成部21の表面に、シリコーン樹脂層30のみを介して、支持板40を貼り付ける。
【0021】
シリコーン樹脂層30は、後述の第4工程において、剥離操作が行われるまで、第1構成部21が作製されたウエハ10の位置ずれを防止すると共に、剥離操作によってウエハ10から容易に分離し、ウエハ10などが剥離操作によって破損するのを防止する。
【0022】
シリコーン樹脂層30は、一般的な粘着剤が有するような粘着力ではなく、固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する力によって、第1構成部21が作製されたウエハ10に貼り付いていることが好ましい。容易に剥離することができるからである。以下、この容易に剥離できる性質を剥離性という。
【0023】
なお、シリコーン樹脂層30は、後工程の種類などに応じて、第1構成部21が作製されたウエハ10に対する結合力を高める必要がある場合、粘着力によってウエハ10に貼り付いていても良い。
【0024】
シリコーン樹脂層30は、支持板40に対する結合力が、第1構成部21が作製されたウエハ10に対する結合力よりも相対的に高くなるように形成される。これによって、後述の第4工程において、剥離操作が行われる際に、シリコーン樹脂層30と支持板40との間での意図しない剥離を防止することができる。
【0025】
シリコーン樹脂層30は、耐熱性に優れており、ウエハ10と支持板40との間に挟まれた状態で、例えば大気中300℃程度で1時間程度処理した場合に、剥離性がほとんど変化しない点で優れている。
【0026】
シリコーン樹脂層30は、単層構造であっても良いし、複数層構造であっても良い。複数層構造の場合、シリコーン樹脂層30は、互いに異なる複数種類のシリコーン樹脂組成物の硬化物で構成されて良い。
【0027】
シリコーン樹脂層30は、シリコーン樹脂層30中の成分が、第1構成部21が作製されたウエハ10に移行しにくい性質、すなわち低シリコーン移行性を有することが好ましい。
【0028】
シリコーン樹脂層30の厚さは、特に限定されないが、1〜100μmであることが好ましい。シリコーン樹脂層30の厚さがこのような範囲であると、シリコーン樹脂層30を第1構成部21が作製されたウエハ10に十分に密着することができ、また、密着の際に気泡やゴミなどの異物が存在しても、異物の厚さを十分に吸収することができる。一方、シリコーン樹脂層30の厚さが厚すぎると、形成するのに時間および材料を要するため経済的ではない。より好ましい範囲は5〜20μmである。
【0029】
シリコーン樹脂層30は、第1構成部21が作製されたウエハ10との密着前において、16〜21mJ/mの表面エネルギーを有していることが好ましい。表面エネルギーが上記範囲であると、密着時に混入した気泡を容易に除去することができる。また、表面エネルギーが上記範囲であると、第4工程において、第1構成部21が作製されたウエハ10からシリコーン樹脂層20を容易に剥離することができる。
【0030】
シリコーン樹脂層30の表面サイズは、特に限定されないが、支持板40の表面サイズと同じ程度であって良い。
【0031】
支持板40は、シリコーン樹脂層30を介して、ウエハ10を支持して補強し、後工程におけるウエハ10の変形、傷付き、破損などを防止する。
【0032】
支持板40は、シリコーン樹脂層30よりも耐熱性の高い材料で形成される。例えば、支持板40は、ガラス板、セラミックス板、アクリル板、半導体板、金属板などであって良い。中でも、ガラス板が好ましい。ガラス板の材料は、特に限定されないが、例えばソーダライムガラス、無アルカリガラスなどであって良い。中でも、ウエハ10との熱膨張差の小さい無アルカリガラスが好ましい。
【0033】
支持板40とウエハ10との平均線膨張係数の差の絶対値は、ウエハ10の第1面11のサイズなどに応じて適宜設定されるが、例えば35×10−7/℃以下であることが好ましい。ここで、平均線膨張係数とは、50〜300℃の温度範囲における平均線膨張係数(JIS R 3102)をいう。
【0034】
支持板40とウエハ10との平均線膨張係数の差の絶対値を35×10−7/℃以下とすることで、後工程(例えば、第3工程)での熱処理による反りを十分に低減することができる。より好ましい範囲は25×10−7/℃以下であり、さらに好ましい範囲は15×10−7/℃以下である。なお、上記範囲内にある限り、支持板40の平均線膨張係数は、ウエハ10の平均線膨張係数よりも大きくても良いし、小さくても良い。
【0035】
支持板40の厚さは、支持板40の材質などに応じて適宜設定されるが、例えば0.01〜1.0mm未満であって良い。0.01mm以上とすることで、ウエハ10を十分に補強することができる。一方、1.0mm以上であると、大型化するので、好ましくない。
【0036】
支持板40のシリコーン樹脂層30が形成される側の表面41は、機械的研磨または化学的研磨の処理がなされた研磨面でもよく、または研磨処理がされていない未研磨面であってもよい。生産性およびコストの点からは、未研磨面であることが好ましい。
【0037】
支持板40の表面41のサイズは、ウエハ10の第1面11に作製される第1構成部21を保護する観点から、ウエハ10の第1面のサイズと同じか、それ以上であることが好ましい。
なお、第2工程の詳細については後述する。
【0038】
(第3工程)
第3工程では、図3および図4に示すように、支持板40を貼り付けた状態のまま、半導体ウエハ10を裏返し、半導体ウエハ10の第2面12を研削した後、研削面13に半導体素子20の第2構成部22を作製する。研削面13を清浄にするため、半導体素子20の第2構成部22を作製する前に、研削面13を洗浄、乾燥することが好ましい。
【0039】
第2構成部22は、一般的な構成であって良く、例えば第2面電極などで構成されて良い。また、第2構成部22は、第2面電極に加えて、トランジスタ、配線などで構成されても良い。第2構成部22の作製方法は、第1構成部21の作製方法と同様である。
【0040】
図7は、図4の変形例の説明図である。図7に示す第2構成部22Aは、上記第2面電極の他、ウエハ10の研削面13から第1面11に貫通して設けられる貫通電極24を含んでいる。図7に示す貫通電極24は、図6に示す貫通電極23の代わりに形成されるものであって、図6に示す貫通電極23と同様にして形成される。
【0041】
図7に示すように、ウエハ10の研削面13から貫通電極24を作製する場合、既に、ウエハ10の厚さが薄くなっているので、貫通電極24の作製が容易である。一方、図6に示すように、ウエハ10の第1面11から貫通電極23を作製する場合、貫通電極23を作製する際に、シリコーン樹脂層30などを使用しないので、より高温での処理が可能である。
【0042】
(第4工程)
第4工程では、図5に示すように、第1構成部21および第2構成部22が作製された半導体ウエハ10から、シリコーン樹脂層30を剥離して、シリコーン樹脂層30および支持板40を除去する。即ち、第1構成部21の表面から、シリコーン樹脂層30を剥離して、シリコーン樹脂層30および支持板40を除去する。
【0043】
剥離方法は、剃刀、圧縮空気、または圧縮空気と液体との混合物などを、第1構成部21とシリコーン樹脂層30との境界に挿入して、初期剥離を行う方法であって良い。初期剥離を行うことで、その後の剥離を容易に行うことができる。剥離後は、シリコーン樹脂層30に傷等の欠陥がなければ、シリコーン樹脂層30および支持板40からなる補強板をそのまま再利用することも可能である。再利用までの時間が長い場合、シリコーン樹脂層30の表面に保護シートを貼り付けておくことが好ましい。
【0044】
加えて、第4工程では、図5に示すように、第1構成部21および第2構成部22が作製された半導体ウエハ10をチップ状に切断する。なお、半導体ウエハ10をチップ状に切断する切断工程と、シリコーン樹脂層30を剥離する剥離工程とは、その順序に制限はなく、いずれが先であっても良い。
【0045】
剥離工程後に、切断工程を実施する場合、ウエハ10の第2面12に一般的なダイシングテープを貼り付けた状態でウエハ10をチップ状に切断する。一方、剥離工程前に、切断工程を実施する場合、シリコーン樹脂層30および支持板40からなる補強板が、ダイシングテープの役割を果たすので、ダイシングテープを不要とすることができる。
【0046】
このようにして、半導体素子を製造する。
【0047】
ところで、本実施形態では、第2工程において、第1構成部21が作製されたウエハ10に支持板40を貼り付ける際に、シリコーン樹脂層30のみを使用しており、従来の樹脂製のテープ基材を使用していない。樹脂製のテープ基材の厚さにムラがあると、第2面研削時にウエハの厚さにムラが生じ、第2面研削されたウエハ10の研削面13の表面粗さRa(JIS B 0601)が大きくなるからである。従って、本実施形態によれば、従来に比べて、第2面研削されたウエハ10の研削面13の表面粗さRaを小さくすることができる。
【0048】
また、シリコーン樹脂層30は、上述の如く、耐熱性に優れており、ウエハ10と支持板40との間に挟まれた状態で、例えば大気中300℃程度で1時間程度処理した場合に、剥離性がほとんど変化しない。そのため、第3工程で高温下での処理が行われる場合でも、第4工程で剥離操作が行われるまで、ウエハ10の位置ずれを防止することができ、且つ、第4工程での剥離操作時にシリコーン樹脂層30をウエハ10から容易に剥離することができ、ウエハ10などの破損を防止することができる。この効果は、第2構成部22が貫通電極24を含む場合に顕著である。この場合、第3工程において、ウエハ10を貫通する貫通孔の内壁面に絶縁膜を300〜400℃の温度で形成するからである。
【0049】
(第2工程の詳細)
例えば、第2工程では、図10に示すように、シリコーン樹脂層30を支持板40に固定した後、半導体ウエハ10の、第1構成部21が作製された側の面にシリコーン樹脂層30を貼り付ける。即ち、シリコーン樹脂層30を支持板40に固定した後、第1構成部21の表面にシリコーン樹脂層30を貼り付ける。
【0050】
この場合、シリコーン樹脂層30は、例えば図8に示すように、支持板40上にシリコーン樹脂組成物32を塗布し、図9に示すように、硬化させることで固定形成されて良い。この場合、シリコーン樹脂組成物32が支持板40と相互作用するので、シリコーン樹脂層30と支持板40との結合力を高めることができる。
【0051】
なお、シリコーン樹脂組成物32が溶剤などの揮発性成分を含む場合、硬化前に加熱等で揮発性成分を除去することが好ましい。
【0052】
シリコーン樹脂組成物32の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などがある。これらの塗布方法は、シリコーン樹脂組成物32の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、シリコーン樹脂組成物32が剥離紙用シリコーンを含む場合、ダイコート法、スピンコート法またはスクリーン印刷法が好ましい。
【0053】
シリコーン樹脂組成物32の塗布量は、シリコーン樹脂組成物32の種類に応じて適宜設定される。例えば、シリコーン樹脂組成物32が無溶剤型の剥離紙用シリコーンである場合、1g/m〜100g/mであることが好ましく、5g/m〜20g/mであることがより好ましい。
【0054】
シリコーン樹脂組成物32の硬化条件は、シリコーン樹脂組成物32の種類などに応じて適宜選択される。例えば、シリコーン樹脂組成物32が剥離紙用シリコーンを含む場合、加熱温度は、好ましくは50〜250℃であり、より好ましくは100〜200℃であって、処理時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは10〜30分である。
【0055】
上記硬化条件で剥離紙用シリコーンを硬化することで、シリコーン樹脂層30中に含まれる未反応のシリコーン成分の含有量を十分に低減することができる。これによって、低シリコーン移行性に優れたシリコーン樹脂層30を支持板40に形成することができる。また、これによって、後工程での熱処理時に、シリコーン樹脂層30中に含まれる未反応のシリコーン成分が第1構成部21と相互作用するのを抑えることもでき、シリコーン樹脂層30と第1構成部21との結合力が高くなりすぎるのを抑えることもできる。
【0056】
一方、上記硬化条件に比べて、加熱時間が長すぎる、または、加熱温度が高すぎる場合、シリコーン樹脂の酸化分解が同時に起こり、低分子量のシリコーン成分が生成するため、シリコーン移行性が高くなってしまう。
【0057】
シリコーン樹脂層30を第1構成部21の表面に貼り付ける方法としては、特に限定されないが、例えば、大気圧雰囲気下または減圧雰囲気下で圧着する方法がある。中でも、気泡の混入を抑制するため、減圧雰囲気下で圧着する方法が好ましい。圧着の方式としては、ロール式、プレス式などがある。
【0058】
シリコーン樹脂層30を第1構成部21の表面に貼り付ける工程は、クリーン度の高い環境下で実施されることが望ましい。ゴミなどの異物の付着は、半導体素子20の破損や歪みなどの原因となるからである。
【0059】
なお、第2工程は、上記工程に限定されない。例えば、予めフィルム状に形成したシリコーン樹脂層30が、支持板40に対して高い密着性を有し、第1構成部21に対して低い密着性を有する場合、予めフィルム状に形成したシリコーン樹脂層30を、支持板40と第1構成部21との間に挟んで、大気圧雰囲気下または減圧雰囲気下で圧着しても良い。シリコーン樹脂層30との積層前に、支持板40の表面41を処理して、シリコーン樹脂層30に対する密着性を改善しても良い。
【0060】
別の方法として、シリコーン樹脂組成物32の硬化による接着性が、第1構成部21に対して低く、支持板40に対して高い場合、支持板40と第1構成部21との間でシリコーン樹脂組成物32を硬化させてシリコーン樹脂層30を形成しても良い。シリコーン樹脂組成物32との積層前に、支持板40の表面41を処理して、シリコーン樹脂組成物32の硬化時の接着性を改善しても良い。
【0061】
(シリコーン樹脂組成物)
シリコーン樹脂組成物32は、剥離紙用シリコーンを含むことが好ましい。剥離紙用シリコーンは、シリコーンの中でも、特に剥離性にすぐれる直鎖状のジメチルポリシロキサンを分子内に含むシリコーンを主剤とする。剥離紙用シリコーンは、上記主剤と、架橋剤とを含み、触媒、光重合開始剤などによって硬化される。剥離紙用シリコーンの硬化物は、優れた剥離性と適度な柔軟性を有するシリコーン樹脂層30となる。
【0062】
剥離紙用シリコーン中の非反応性シリコーンの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。ここで、非反応性シリコーンとは、主剤や架橋剤と反応しないものである。5質量%以下とすることで、低シリコーン移行性に優れたシリコーン樹脂層30を形成することができる。
【0063】
なお、シリコーン樹脂層30の剥離性を高めることを目的として、剥離紙用シリコーン中の非反応性シリコーンの含有量を5質量%超としても良い。この場合、非反応性シリコーンとして、直鎖ジメチルポリシロキサンで非常に高分子量のものか、フェニル基や高級アルキル基を導入し、硬化皮膜への相溶性を低くした比較的低分子量のものが用いられる。
【0064】
剥離紙用シリコーンは、形態的に、溶剤型、エマルジョン型、無溶剤型があり、いずれの型も使用可能である。但し、生産性、安全性、環境特性の面で無溶剤型が好ましい。無溶剤型を使用した場合、シリコーン樹脂層30中に気泡が残留しにくい。
【0065】
剥離紙用シリコーンは、その硬化機構により、縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーン、電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれの反応機構のシリコーンも使用可能である。これらの中でも、付加反応型シリコーンは、硬化反応がしやすく、硬化物の剥離性の程度が良好であり、硬化物の耐熱性に優れている。
【0066】
付加反応型シリコーンは、両末端および/または側鎖中にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなる主剤Aと、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンからなる架橋剤Bとを含み、白金系触媒の存在下で加熱硬化され、架橋反応物となる。
【0067】
この架橋反応物は、高度に3次元架橋が進行しているので非常に高い耐熱性を有する。また、表面張力が低く他の物質が付着しにくい表面特性を有する。こうした特性ゆえに、剥離性に優れたシリコーン樹脂層30を得ることができる。
【0068】
一方で、この架橋反応物は適度な弾力性を有しているため、面内方向へのずり力(剪断力:Shearing Force)に対しては大きな抗力を発現する。したがって、第1構成部21が作製されたウエハ10をずれることなく保持し続けることができる。
【0069】
主剤Aは、例えば、下記一般式(化1、化2)で表される化合物であって良い。
【0070】
【化1】

一般式(化1)において、m,nは0以上の整数を表す。mが0の場合、この化合物は、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンとなる。mが1以上の整数の場合、この化合物は、両末端および側鎖中にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンとなる。
【0071】
【化2】

一般式(化2)において、mは2以上の整数、nは0以上の整数を表す。この化合物は、側鎖中にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンである。
【0072】
架橋剤Bは、例えば、下記一般式(化3)で表される化合物であって良い。
【0073】
【化3】

一般式(化3)中のaは0以上の整数、bは1以上の整数を表す。なお、メチルハイドロジェンポリシロキサンの末端のメチル基の一部は水素原子や水酸基であっても良い。
【0074】
主剤Aと架橋剤Bとの混合比率は、架橋材Bに含まれるハイドロシリル基と、主剤Aに含まれるビニル基とのモル比(ハイドロシリル基/ビニル基)が1.3/1〜0.7/1となるように調整されることが好ましい。より好ましい範囲は、1.2/1〜0.8/1である。
【0075】
モル比(ハイドロシリル基/ビニル基)が1.3/1を超える場合には、シリコーン樹脂層30に含まれる未反応の架橋剤Bの含有量が多すぎる。そのため、後工程(例えば第3工程)での加熱処理によって、シリコーン樹脂層30と、第1構成部21が作製されたウエハ10との結合力が上昇しやすく、剥離性が十分でない可能性がある。一方、モル比(ハイドロシリル基/ビニル基)が0.7/1未満である場合には、硬化物の架橋密度が低下するため、耐薬品性などに問題が生じる可能性がある。
【0076】
主剤Aと架橋剤Bとは、上述の如く、白金系触媒の存在下で加熱硬化され、架橋反応物となる。白金系触媒としては、公知のものを用いることができる。具体的には、塩化第一白金酸、塩化第二白金酸などの塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物あるいは塩化白金酸と各種オレフィンとの鎖塩などがあげられる。白金系触媒は、主剤Aと架橋剤Bとの合計100質量部に対して、0.1〜20質量部使用することが好ましく、1〜10質量部使用することがより好ましい。
【0077】
主剤Aと架橋剤Bとの組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、KNS−320A,KS−847(いずれも信越化学工業株式会社製)、TPR6700(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、ビニルシリコーン「8500」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11364」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」との組み合わせ、ビニルシリコーン「11365」とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」との組み合わせ等が挙げられる。なお、KNS−320A、KS−847およびTPR6700は、すでに主剤Aおよび架橋剤Bを含んだシリコーンである。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0079】
(実施例)
実施例では、支持板として、直径350mm、板厚0.6mm、線膨張係数38×10−7/℃の無アルカリガラス板(旭硝子株式会社製、AN100)の表面を純水洗浄、UV洗浄によって清浄化したものを準備した。
【0080】
次いで、シリコーン樹脂組成物として、剥離紙用シリコーンを用意した。剥離紙用シリコーンとしては、両末端にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサン(主剤、荒川化学工業株式会社製、「8500」)と、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤、荒川化学工業株式会社製、「12031」)と、白金系触媒(荒川化学工業株式会社製、「CAT12070」)とを混ぜた、無溶剤型の付加反応型シリコーンを用意した。
【0081】
ここで、主剤と架橋剤との混合比は、架橋剤に含まれるハイドロシリル基と、主剤に含まれるビニル基とのモル比(ハイドロシリル基/ビニル基)が0.9/1となるように設定した。また、白金系触媒は、主剤と架橋剤との合計100質量部に対して2質量部添加した。
【0082】
次いで、用意したシリコーン樹脂組成物を、準備した支持板上に直径345mmの大きさでダイコート装置にて塗布し(塗布量20g/m)、210℃にて30分間大気中で加熱硬化して厚さ20μmのシリコーン樹脂層を固定形成した。
【0083】
次いで、シリコーン樹脂層の表面に、直径340mm、厚さ350μmのシリコンウエハを減圧雰囲気下で圧着して、シリコンウエハ、シリコーン樹脂層、および支持板からなる積層体を得た。続いて、支持板をステージに吸着固定して、シリコンウエハを固定し、カップ型のダイヤモンドホイールで研削した。
【0084】
次いで、研削後の積層体から、50mm角のサンプルを切り出して評価サンプルとした。各評価サンプルにおいて、シリコンウエハと支持板とは、シリコーン樹脂層を介して良好に密着していた。
【0085】
1つの評価サンプルにおいて、シリコンウエハを平坦に保持した状態で、シリコンウエハとシリコーン樹脂層との間に剃刀を刺入して初期剥離を行った。続いて、初期剥離を行った位置から、シリコーン樹脂層および支持板からなる補強板を順次撓み変形させて剥離することで、補強板をシリコンウエハから除去した。その際、補強板を構成するシリコーン樹脂層および支持板は良好に密着していた。なお、研削後のシリコンウエハの平均厚さは、50μmであった。
【0086】
残りの評価サンプルを窒素雰囲気炉内に設置し、以下の条件A〜Cで熱処理した。
条件A:150℃、10分
条件B:220℃、10分
条件C:350℃、10分
その後、各評価サンプルにおいて、上記と同様にして、シリコーン樹脂層および支持板からなる補強板をシリコンウエハから除去した。その際、補強板を構成するシリコーン樹脂層および支持板は良好に密着していた。続いて、シリコーン樹脂層における発泡や膨れの有無を確認したところ、いずれの条件A〜Cでも発泡や膨れは確認されなかった。また、シリコンウエハの第1面に傷などは認められなかった。
【0087】
(比較例)
比較例では、支持板上に剥離紙用シリコーンを塗布して硬化させることでシリコーン樹脂層を固定形成する代わりに、硬質基板上に両面密着シートを貼り付けた以外は、実施例と同様にして、積層体を作製した。
【0088】
両面密着シートとしては、厚さ100μmのPETフィルムの両面に、実施例のシリコーン樹脂組成物を塗布し硬化させて得られたものを使用した。両面密着シートにおける各シリコーン樹脂層の厚さは、20μmとした。
【0089】
こうして得られた、シリコンウエハ、両面密着シートおよび支持板からなる積層体から、実施例と同様にして、評価サンプルを作製し、両面密着シートの耐熱性を評価した。
【0090】
比較例では、条件Aの場合、両面密着シートと支持板との間の一部に隙間が見られ、両面密着シートを構成するPETフィルムの一部が膨れていた。また、条件Bの場合、両面密着シートと支持板とが剥離し、両面密着シートを構成するPETフィルムが膨れていた。さらに、条件Cの場合、両面密着シートと支持板とが剥離し、両面密着シートを構成するPETフィルムは熱分解して、収縮していた。
【0091】
なお、本実施例および比較例において使用されるウエハの第1面および第2面にはトランジスタや配線、電極などが作製されていないが、これらはウエハに比べて極めて小さいので、これらの存在の有無は上記評価結果にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。
【符号の説明】
【0092】
10 半導体ウエハ
11 第1面
12 第2面
13 研削面
20 半導体素子
21 第1構成部
22 第2構成部
23 貫通電極
24 貫通電極
30 シリコーン樹脂層
32 シリコーン樹脂組成物
40 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの第1面に半導体素子の第1構成部を作製する第1工程と、
前記半導体ウエハの、前記第1構成部が作製された第1面に、シリコーン樹脂層のみを介して、支持板を貼り付ける第2工程と、
前記支持板を貼り付けた状態のまま、前記半導体ウエハの前記第1面に対向する第2面を研削した後、研削面に前記半導体素子の第2構成部を作製する第3工程と、
前記第1構成部および前記第2構成部が作製された前記半導体ウエハから、前記シリコーン樹脂層を剥離して、前記シリコーン樹脂層および前記支持板を除去し、また、前記半導体ウエハをチップ状に切断する第4工程とを備えることを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2構成部は、前記半導体ウエハの前記研削面から前記第1面に貫通する貫通電極を含む請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂層は、剥離紙用シリコーンの硬化物で形成される請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記剥離紙用シリコーンの硬化物は、両末端および/または側鎖中にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンとの架橋反応物である請求項3に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記メチルハイドロジェンポリシロキサンが有する前記ハイドロシリル基と、前記直鎖状ポリオルガノシロキサンが有するビニル基とのモル比(ハイドロシリル基/ビニル基)が1.3/1〜0.7/1である請求項4に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記支持板と前記半導体ウエハとの平均線膨張係数の差の絶対値が35×10−7/℃以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記半導体ウエハの、前記第1構成部が作製された前記第1面に、減圧雰囲気下で、前記シリコーン樹脂層を介して前記支持板を圧着する請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程において、前記シリコーン樹脂層を前記支持板に固定した後、前記半導体ウエハの、前記第1構成部が作製された前記第1面に前記シリコーン樹脂層を貼り付ける請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記シリコーン樹脂層は、前記支持板上に剥離紙用シリコーンを塗布し、硬化させることで固定形成される請求項8に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記剥離紙用シリコーン中の非反応性シリコーンの含有量が5質量%以下である請求項9に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記剥離紙用シリコーンの塗布を、ダイコート法、スピンコート法またはスクリーン印刷法を用いて実施する請求項9または10に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記剥離紙用シリコーンの硬化を、50〜250℃の温度で実施する請求項9〜11のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−64710(P2012−64710A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206900(P2010−206900)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】