説明

半導体素子を有する半導体装置

【課題】半導体素子間や半導体素子と回路基板との間で生じる熱膨張による歪応力を緩和して高い信頼性を有する半導体装置を提供する。
【解決手段】電極3を有する半導体素子2と、回路基板1とが、接合部材を介して接合された構成を1以上含む半導体装置であって、前記接合部材は、Al合金層5と純Al層6との積層構造からなり、前記Al合金層は、前記半導体素子の電極側に配置され、前記純Al層は、前記回路基板側に配置されていることに要旨を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を有する半導体装置に関し、詳細には耐熱性に優れ、長期信頼性を高めることが可能な半導体素子を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、論理回路、CPUなどの様々な用途で使用されると共に、これらを組み込んだ電子機器は多岐に亘る。近年、電子機器の小型、軽量化や高性能化が求められており、半導体としてもSiよりもバンドギャップが大きいSiC、GaN、ダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体(パワー半導体)が注目されている。これらSiCなどのワイドギャップ半導体はSi半導体に比べて耐電圧性能が高く、また電力損失が少なく、高温動作性にも優れていることから、様々な分野での使用が検討されている。
【0003】
例えば高電圧、大電流の用途に用いられる大電力用半導体装置にワイドギャップ半導体を用いると、半導体素子の高集積化による高性能化やインバータなどの電力変換装置の小型化や低損失化が期待できることから、近年開発が進められている。もっとも、半導体装置の大電流化や半導体素子の高集積化に伴い、半導体素子からの発熱量も増大する傾向にある。発熱量が一定以上に達すると、半導体素子や回路基板などが熱膨張するが、熱膨張係数差に起因して、歪応力が残留し、その影響で半導体素子の特性の変動が発生するという問題が生じ、長期信頼性の確保が問題となっていた。
【0004】
また近年、ブルーレイディスクなどの高密度光ディスクの記録や読み出し用のレーザーや、LED照明などにもワイドギャップ半導体が用いられるようになっている。レーザーやLED照明などの用途では、さらなる発光強度の向上が要求されているが、電流量を増大させて発光強度を高めると発熱を伴うため、上記残留歪の影響で、波長や偏光特性にばらつきが発生し、長期信頼性が低下するという問題が生じていた。
【0005】
このように半導体装置の大電流化や半導体素子の集積化に伴い、半導体素子の発熱量は増大する傾向にあり、またSiCやGaNなど、Siより高い温度で動作可能な半導体素子の実用化によって、使用時の耐熱温度として、更に高い温度が要求されるようになっている。
【0006】
このような問題の対策として、従来からファンや冷却フィンなどの冷却装置によって温度の低減が図られているが、ワイドギャップ半導体などのように従来よりも高温となる場合には、冷却装置では十分に冷却することができない。
【0007】
また半導体素子同士や半導体素子と回路基板との接合に用いるはんだ材料としてPb系はんだを用いると、はんだに上記歪応力が残留しやすく、熱膨張と熱収縮の繰り返しによって、はんだ接合部に亀裂が生じたり、高温によってはんだが溶融してしまい、接合が外れるというがあった。
【0008】
そこで、Pb系はんだよりも融点の高いAu合金系はんだを用いることが提案されている。しかしワイドギャップ半導体の使用可能温度はAu合金系はんだの融点よりも高いため、Au合金系はんだが溶融したり、歪応力の残留によってはんだ接合部に亀裂が生じるという問題がある。またAu合金系はんだは高価であり、製造コストの面からも汎用的に使用することは難しい。
【0009】
上記歪応力を緩和する技術として特許文献1には半導体素子と回路基板との間にエポキシ樹脂などの応力緩和層を設ける技術が開示されているが、樹脂は塑性変形性に優れているものの、融点が低いため、上記Au合金系はんだと同様、高温時に溶融するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−10436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、半導体素子間や半導体素子と回路基板との間で生じる熱膨張による歪応力を緩和し、長時間使用(500時間以上)しても該歪応力の影響によって半導体素子の電極に亀裂が生じるのを抑制したり、歪応力による半導体素子の特性の変動を抑制することによって、長期間にわたって高い信頼性を有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成し得た本発明は、電極を有する半導体素子と、回路基板とが、接合部材を介して接合された構成を1以上含む半導体装置であって、前記接合部材は、Al合金層と純Al層との積層構造からなり、前記Al合金層は、前記半導体素子の電極側に配置され、前記純Al層は、前記回路基板側に配置されていることに要旨を有する。
【0013】
本発明では、前記電極の一部または全部が、前記接合部材で構成されていることも好ましい実施態様である。
【0014】
また前記純Al層のAl純度が99.5%以上であることも好ましい実施態様である。
【0015】
更に前記Al合金は、Ni、Co、Fe、およびMnよりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜10原子%含有すると共に、Nd、La、およびPrよりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜6原子%含有するものであることも好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば半導体素子間や、半導体素子と回路基板は、純AlとAl合金の積層構造からなる接合部材を介して接合させているため、稼働時に発生する歪応力は、該接合部材が塑性変形することによって緩和できる。したがって本発明の半導体装置は、半導体素子や回路基板にかかるストレスを小さくできるため、残留した歪応力による半導体素子の特性の変動が抑制されており、従来よりも優れた長期信頼性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の半導体装置一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の他の半導体装置一例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、実施例1で使用したLED半導体装置を示す概略断面図である。
【図4】図4は、実施例2で使用した絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタを示す概略断面図である。
【図5】図5は、亀裂密度とNi、Co含有量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、半導体素子間、或いは半導体素子と基板を、純AlとAl合金との積層構造からなる接合部材を介して接合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の半導体装置の好ましい実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0020】
図1は、本発明に係る半導体装置の好ましい実施形態を説明する概略断面説明図である。図1は、電極3を有する半導体素子2と、回路基板1に形成された回路(図示せず)とが、接合部材4を介して接合された構成を1以上含む半導体装置である。具体的には、接合部材4は、純Al層6とAl合金層5との積層構造からなり、Al合金層5は、半導体素子2の電極3側に配置され、純Al層6は、回路基板1側に配置されている。
【0021】
本発明では接合部材4を純Al層6とAl合金層5からなる積層構造とすることにより、熱伝導性に優れ柔軟性の高い純Al層6によって稼働時の発熱によって生じる半導体素子間(後記図2参照)や半導体素子2と回路基板1との間の熱膨張係数差に起因する歪応力を緩和・吸収させると共に、純Alに比べて耐熱性の高いAl合金層5によって純Al層6と半導体素子2の電極3との接続性を確保することができる。
【0022】
また図2は本発明の他の好ましい実施形態であり、複数の半導体素子をアレイ状に集積させた半導体装置の概略説明図である。図2は、電極3aを有する第1の半導体素子2aと電極3bを有する第2の半導体素子2bとが、接合部材4を介して接合された構成を1以上含む半導体装置である。具体的には、上記図1と同様、接合部材4を構成するAl合金層5は、第1の半導体素子2aの電極3a側に配置され、純Al層6は、基板側に配置されている。
【0023】
このように接合部材4を介して複数の半導体素子間を接合させれば、上記図1の場合と同様、接合部材を構成する純Al層6によって稼働時の発熱によって生じる半導体素子間の熱膨張係数差に起因する歪応力を緩和・吸収することができると共に、Al合金層5によって純Al層6と半導体素子の電極との接続性を確保することができる。
【0024】
なお、複数の半導体素子を集積させる場合、本発明では図2に限定されず、更に多くの半導体素子と接合部材が接合されていてもよく、その場合の基本的な構造は図2と同じである。
【0025】
また本発明では、上記半導体素子の電極や回路の電極の一部または全部が、上記接合部材で構成されていてもよい。即ち、半導体素子の電極の一部または全部がAl合金で構成されていてもよく、また回路基板の電極の一部または全部が純Alで構成されていてもよい。なお、本発明では、基板に設けられた配線であっても、上記純Alとの接合部分は、電極に含まれる。
【0026】
このように半導体素子や回路の電極の一部または全部を上記接合部材で構成することによって、接合部材のみを純AlとAl合金とした場合に比べて、夫々の上記効果をより高めることができるからである。
【0027】
以下、本発明の純Al層とAl合金層からなる接合部材について説明する。
【0028】
まず、本発明者らは熱膨張係数差に起因する歪応力の影響によって半導体素子の特性が低下するという上記問題を解消するために、半導体素子間、あるいは半導体素子と回路基板との間に該応力を吸収できる熱応力緩和層(接合部材4)を設けることとし、最適な材料について調べたところ、純Alが有効であることを見出した。
【0029】
純Alは、Pb系はんだやAu合金系はんだよりも融点が高く、また熱伝導性が高く、放熱効果に優れているため、SiCなどのワイドギャップ半導体を使用した半導体素子の稼働時の発熱温度でも溶融することがない。また半導体装置の稼働によって発生する温度において純Al層が軟化するため、熱膨張係数差によって発生する歪応力を、純Al層が柔軟に変形することによって、吸収、緩和できる。
【0030】
もっとも、このような歪応力に対する吸収、緩和効果を発揮するためには、純Al層にある程度の厚みを持たせることが望ましい。純Al層の厚みが薄すぎると、歪応力を十分に吸収、緩和できず、上記効果を発揮できないことがある。純Al層の厚みは、半導体素子の形状、素材や、稼働時の温度、熱膨張係数などに応じて適宜決定すればよいが、好ましくは半導体素子を構成する主要母材の厚さよりも厚くするのがよく、例えば好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上とする。一方、純Al層の厚みを増大させすぎても、上記熱応力緩和層の効果は飽和すると共に、半導体装置の厚みが増すことから、好ましくは10倍以下、より好ましく5倍以下とすることが望ましい。
【0031】
なお、半導体素子を構成する主要母材の厚さとは、半導体素子を構成する半導体(例えばSi、SiCなど)の厚さをノギスやマイクロメータ、或いはレーザー干渉法によって測定されるマザーウエハの厚さをいう。
【0032】
また本発明で用いる純Alとは、純度99.5%以上のAlであることが好ましい。本発明では上記の通り、純Al層は歪応力を吸収、緩和する層としての役割を果たすが、Al層の柔軟性はAlの純度が低下するほど失われる。したがって純Al層が250℃以上の高温下で柔軟に変形して歪応力を吸収、緩和する効果を十分に発揮させるためには、Alの純度は高い方が望ましい。具体的に純度は99.5%以上のAlが好ましく、より好ましく純度99.9%以上のAl、更に好ましくは純度99.95%以上のAlである。なお、残部は不可避不純物である。
【0033】
本発明では、半導体素子側の電極と、上記純Al層との接合を高めるために、該電極と純Al層の間にAl合金の層を設ける。Al合金層を設けることによって、純Al層では十分な耐熱性が得られない200℃以上の温度域でも優れた耐熱性を発揮できる。
【0034】
このように、Al合金層は純Al層の欠点を補完するために設けられたものであり、純Al層とAl合金層からなる積層構造を接合部材として用いることによって、熱膨張係数差による熱応力の緩和と高い耐熱性を兼ね備えた接合部材を得ることができる。
【0035】
また本発明に用いるAl合金層に添加する合金元素としては、次の観点から約300℃程度の熱履歴によって導電性の高い析出物が形成可能な元素であることが望ましい。
【0036】
まず、300℃程度としたのは、半導体素子の稼働時の温度がおおむね300℃程度となることがあり、この温度域での耐熱性を確保し、半導体素子と純Al層との接合を維持する必要があるからである。
【0037】
また、Al合金層に300℃程度の熱履歴が加えられた場合に、合金成分が析出することが望ましいとしたのは、300℃程度の熱履歴が加えられた際に、Al合金層内部で合金元素を析出させれば、この析出物によって半導体素子の電極と純Al層との導電性を維持しつつ、Al合金層に歪応力による亀裂等が生じるのを防ぐことができるため、接合部材を介して半導体素子同士、あるいは半導体素子と回路基板との接合を維持できるからである。このようにAl合金層内部で析出物を析出させることによって、本発明の熱緩和部材が、高温下でも優れた安定性を発揮できる。
【0038】
なお、本発明において300℃の熱履歴には、製造工程において加えられる300℃以上の熱に限らず、使用に伴う発熱によって300℃以上に達する場合も含む。
【0039】
このような性質を付与する合金元素(X)として、Ni、Co、Fe、Mnなどの遷移金属を添加すると、耐熱性を高めることができるので望ましい。またNi、Co、Fe、およびMnは、Al合金層と、このAl合金層に直接接触する半導体素子の電極との接触電気抵抗を低減するのに有効な元素である。これらの中でも、特に好ましい合金元素はNiやCoである。NiやCoは熱処理によって界面に導電性のNi含有析出物などが形成され、絶縁性酸化アルミニウム等の生成が抑制されるため、接触電気抵抗を低く抑えることができる。これらの合金元素(X)は単独で添加してもよいし、併用してもよい。
【0040】
またこれら合金元素(X)の含有量は合計量(単独の場合は単独量)で、0.1〜10原子%とすることが好ましい。0.1原子%を下回ると合金元素(X)による上記耐熱性向上効果が十分に得られないことがある。より好ましい合金元素(X)の添加量の下限は0.2原子%、更に好ましくは0.5原子%である。一方、合金元素(X)の含有量が10原子%を超えると、Al合金の柔軟性が失われて、高温下で使用した場合に歪応力の影響によってAl合金層に亀裂が生じることがある。より好ましい合金元素(X)の添加量の上限は6原子%、更に好ましくは2原子%である。
【0041】
また上記合金元素(X)と共に、希土類元素(Y)を添加することが望ましい。300℃近傍の高温下では、ヒロックと呼ばれる微細な突起が電極を構成する配線膜等の表面に形成されて、半導体装置としての性能が低下する場合があるが、希土類元素は、加熱による結晶粒の成長、拡散を抑制して、耐ヒロック性の向上に有用だからである。
【0042】
希土類元素(Y)として、Nd、La、Prなどの高融点希土類元素を添加すると、これら希土類元素が、大電流通電時の断線防止という効果を発揮することができるので望ましい。これらの中でも、特に好ましい希土類元素(Y)としてはNdやLaである。これらの希土類元素(Y)は単独で添加してもよいし、併用してもよい。
【0043】
本発明で用いるAl合金は好ましくは上記合金元素を含み、残部Al及び不可避不純物である。
【0044】
またこれら希土類元素(Y)の含有量は合計量(単独の場合は単独量)で、0.1〜6原子%とすることが好ましい。希土類元素(Y)が0.1原子%を下回ると希土類元素(Y)による上記断線防止効果が十分に得られないことがある。より好ましい希土類元素(Y)の添加量の下限は0.25原子%、更に好ましくは0.35原子%である。一方、希土類元素(Y)の含有量が6原子%を超えると、希土類元素を起因とする膜割れや剥離が生じることがある。より好ましい希土類元素(Y)の添加量の上限は3原子%、更に好ましくは2原子%である。なお上記Al合金層の厚みは特に限定されない。
【0045】
以上、本発明の積層構造について説明した。
【0046】
次に本発明の半導体素子の製造方法について説明する。
【0047】
回路基板としては特に限定されず、各種用途に用いられる電子回路等が例示される。また回路基板に形成される電極や配線材料等についても特に限定されない。本発明の接合部材を構成する純Al層は、回路基板の電極や配線など所望の位置に形成すればよい。
【0048】
接合部材を構成する純Al層を形成するにあたっては、成膜方法は特に限定されず、例えば公知のスパッタリング法や溶射法で成膜してもよい。
【0049】
次に、接合部材を構成するAl合金層を、上記純Al層上に形成する。Al合金層を形成するにあたっては、成膜が容易であることからスパッタリング法によることが好ましい。
【0050】
スパッタリング法の条件としては上記純Al層と同様の条件でもよい。また使用するターゲット材は、Al合金層と同じ組成のものをもちいればよい。
【0051】
このようにして形成した接合部材のAl合金側に、半導体素子の電極を接地させるが、公知の方法により、接地させればよい。
【0052】
なお、本発明で用いることができる半導体素子としては特に限定されず、各種トランジスタ、サイリスタ(SCR)、ダイオード(整流器)、発光ダイオード(LED)等が例示される。
【0053】
以上のようにして、半導体素子は接合部材を介して回路基板と接合することができる。
【0054】
また本発明では、半導体素子を個別部品(単体チップ)として上記のように接合部材を介して回路基板に接合させる場合に限らず、複数の半導体素子を用いて集積回路とする場合にも適用できる。特に複数の半導体素子を積層させアレイ状の集積回路とする場合は、半導体素子間に上記接合部材を介在させればよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0056】
(実施例1)
半導体素子としてGaN系LED(シチズン電子製:LC−L230−CION−A)を用いて図3に示すような電極部を作製して、100時間の通電試験と500時間の通電試験を行ない、夫々の試験における亀裂発生の有無を調べた。
【0057】
回路基板(材質:アルミナ)上にまず、純度99.9%のAl膜(純Al層:厚さ600nm)をスパッタリング法で成膜した後、2原子%Ni−Al合金膜(Al合金層:厚さ300nm)をスパッタリング法で成膜し、接合部材(純Al/Al合金)を形成した。次いでAl合金層にLED(半導体素子)の電極面(図示せず)を接地させた。なお、半導体素子を構成する主要母材の厚さ(100nm)は、レーザー干渉法によって測定した。また純Al層、Al合金層の厚みは触針式膜厚計によって測定した。各膜の成分についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析法によって測定した。
【0058】
また回路基板の片面には、基板側から順に約150nm厚のNi層および約100nm厚のAu層が形成された配線膜が形成されているが(図示しない)、上記純Al層とAl合金層は図示しないオーミック層とバリア層との間に形成されている。
【0059】
LED(半導体素子)のp側電極は、3nm厚のNi層と約150nm厚のAu層の積層構造とした。また拡散防止層は、約30nm厚のTi層と約300nm厚のAu層の積層構造とした。
【0060】
比較例として、上記接合部材(純Al層とAl合金層)に代えて20原子%Sn−Au(比較例1)、10原子%Ge−Au(比較例2)を用いてはんだ付けした以外は実施例1と同様にしてLED半導体装置を作製した。なお、はんだ条件は290℃で60秒間、加圧着した。
【0061】
試験条件
LED半導体装置に定格電流密度比+15%の条件で、100時間、500時間通電させた後、LED(半導体素子)のp側電極を光学顕微鏡(倍率30〜100倍)で観察して、亀裂の有無を調べた。亀裂が観察された場合を×、観察されなかった場合を○と評価した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、本発明の要件を満たす純Alと、2原子%Ni−Al合金膜からなる積層構造の接合部材を用いた場合は、100時間通電のみならず、500時間もの長時間通電させてもp側電極に亀裂は生じておらず、高温状態で稼働させても半導体素子の長期信頼性を確保できたと共に、長時間に亘って電流密度を高めてLEDの発光効率を維持することができた。
【0064】
なお、Al合金層、純Al層、基板についても光学顕微鏡で観察したが亀裂は発生していなかった。
【0065】
一方、比較例1では、100時間通電後は良好な結果だったが、500時間通電試験後の半導体素子の電極に亀裂が観察された。また比較例2では100時間通電試験後の半導体素子の電極に亀裂が観察され、高温状態で稼働させると半導体素子の信頼性が低下することが分かった。
(実施例2)
図4に示すような絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ(IGBT)が実装された半導体装置(応力緩和層を有する半導体装置と半導体素子の集合体)を作製した。
【0066】
具体的には、まず、回路基板(材質:AlN)上に純度99.5%のAl膜(純Al層)を溶射した後、図5に示す各種合金膜(Al合金層:厚さ100nm)をスパッタリング法で成膜し、接合部材(純Al/Al合金)を形成した。次いでAl合金膜上に半導体素子(IGBT)の電極面を接地させた。なお、半導体素子の接地は、不溶性ガス中で600℃の加熱を1時間保持しておこなった。また半導体素子を構成する主要母材の厚さは200nmであり、純Al層の厚さは350nmであった。なお、図5における各種合金膜(Al−x原子%Ni−5原子%Nd、Al−x原子%Ni−3原子%La、Al−x原子%Co−6原子%Nd、Al−x原子%Co−3原子%La)はNiとCoの含有量(x)を変化させたものである。
【0067】
このような半導体装置に、電子情報技術産業規格(JEITA:ED−4701)に準拠して信頼性試験を実施した。具体的には、熱衝撃試験(100℃で5分間保持した後、0℃で5分間保持するサイクルを10サイクル)と温度サイクル試験(−40℃で60分保持した後、155℃で60分保持するサイクルは100サイクル繰り返し)を実施した。その後、回路基板を分解し、Al合金層を透過X線で観察し、線状コントラストが観察された場合、該線状コントラストを亀裂密度として計測した。具体的には、マイクロフォーカス機能付きのX線顕微鏡でAl合金層の透過像を観察した。この際、管電圧を20〜30kVとすると共に、等倍撮影したデータを2〜10倍に拡大して線状コントラストを確認した。結果を図5に示す。
【0068】
図5に示すように、Al合金層が本発明で規定する範囲内の添加量のAl合金を用いた場合、優れた効果を発揮した。
【符号の説明】
【0069】
1 回路基板
2、2a、2b、2c、2d 半導体素子
3、3a、3b 電極
4 接合部材
5 Al合金層
6 純Al層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する半導体素子と、回路基板とが、接合部材を介して接合された構成を1以上含む半導体装置であって、
前記接合部材は、Al合金層と純Al層との積層構造からなり、
前記Al合金層は、前記半導体素子の電極側に配置され、
前記純Al層は、前記回路基板側に配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記電極の一部または全部が、前記接合部材で構成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記純Al層のAl純度が99.5%以上である請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記Al合金は、Ni、Co、Fe、およびMnよりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜10原子%含有すると共に、Nd、La、およびPrよりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜6原子%含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate