説明

半導体膜形成用塗料、光電池用電極ならびその製造方法、および光電池

【課題】 低温で半導体膜を成膜でき、基材としてプラスチックフィルムを使用でき、しかも半導体膜を連続生産できる半導体膜形成用塗料を提供する。さらには、光電池用電極ならびにその製造方法を提供する。また、それを使用した光電池を提供する。
【解決手段】 本発明の半導体膜形成用塗料は、酸化亜鉛粒子とクマリン系色素と結着剤と溶媒とを含有する。本発明の光電池用電極10は、透明基材11と、透明基材11上に形成された透明導電膜12と、透明導電膜12上に上述した半導体膜形成用塗料が塗布されて形成された半導体膜13とを有する。本発明の光電池は、上述した光電池用電極10と、光電池用電極10の半導体膜13に対向する位置に設けられた対向電極20とを具備し、光電池用電極10と対向電極20との間に電解質材料30が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電池用電極に備えられる半導体膜を形成するための半導体膜形成用塗料に関する。さらには、色素増感光電池用の電極とその製造方法、およびそれを使用した光電池に関する。
【背景技術】
【0002】
グレッツェルが、非特許文献1に、変換効率7.9%の新しい型の光電池(色素増感光電池)を発表して以来、色素増感光電池の研究開発は世界的に行われてきた。グレッツェルの発表した色素増感光電池は、TiO(酸化チタン)電極と対向電極とを対峙させ、それらの間に電解質溶液を配置した構造を有するのものである。TiO電極としては、フッ素ドープ酸化スズからなる透明導電膜付きのガラス板と、透明導電膜上に設けられ、表面に通常N3と呼ばれるルテニウム増感色素が吸着している多孔質TiO膜とからなるものが使用されている。また、対向電極としては、導電性ガラス基板に白金膜を形成したたものが、電解質溶液としてはアセトニトリルなどの溶媒にI/Iを含む酸化還元溶液が使用されている。
【0003】
従来、色素増感光電池のTiO電極を製造するためには、例えば、まず、数十nmサイズのTiO粉末をポリエチレングリコールやセルロース系結着剤に分散させてペーストを調製し、そのペーストをガラス基材上の透明導電膜上に塗布して塗膜を形成する。その後、500℃程度の高温で焼成して結着剤を分解し、TiO粉末粒子同士を結合させ、次いで、TiO表面に染料(色素)を吸着させる。
【0004】
ところで、近年では、用途拡大のために、電極における基材をプラスチック化して、薄型かつ軽量で、屈曲性を有する光電池を開発することが求められている。また、電極における基材をプラスチック化して可撓性を持たせ、光電池を連続生産することにより、コストダウンを図ることも考えられている。しかしながら、上記のような、TiO粉末を使用した電極の製造方法では、高温で焼結する必要があるため、プラスチックフィルムを基材とした電極を製造することは困難であった。
【0005】
そこで、プラスチックフィルムを基材とした電極を低温で製造する方法として、次の(1)〜(3)の方法が提案されている。
(1)TiO微粒子をプラスチックフィルムに加圧プレスにより接合する方法(非特許文献2参照)
(2)TiO微粒子を静電的電着法により成膜する方法(非特許文献3参照)
(3)TiO微粒子を水熱合成法により成膜する方法(非特許文献4参照)
【非特許文献1】グレッツェル,「ネイチャー(Nature)」,第353巻,1991年、p.737
【非特許文献2】エイチ・リンドストローム(H.Lindstroem)ら、「ジャーナル オブフォトケミストリ アンド フォトバイオロジ エイ(Journal of Photochemistry and Photobiology A)」、第145巻、2001年、p.107
【非特許文献3】ディ・マッシューズ(D.Matthews)ら、「オーストラリアン ジャーナル オブ ケミストリ(Australian Journal of chemistry)」、第47巻、1994年、p.1869
【非特許文献4】ディ・チャン(D.Zhang)ら、「ケミストリ レターズ(Chemistry Letters)、2002年、p.874
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法では、原理的には加圧ロールを使うことで連続生産が可能であるが、幅方向にて均一にTiO微粒子をプラスチックフィルムに加圧接合することは極めて難しい。また、(2)及び(3)の方法では、特殊なバッチ処理を必要とするため、連続生産を行うことは困難である。
また、上記TiO2を用いた光電池の課題を解決する手法として、TiOの代わりにZnOを用いることが考えられる(特開2005−135798号公報参照)。具体的には、酸化亜鉛と増感色素とバインダポリマーと溶媒とを含む塗料を、透明電極付きプラスチック基板に塗布、乾燥することにより、色素増感光電池用電極を製造できる。しかしながら、この場合には、光電池特性が不充分であった。
以上のように、従来の方法では、光電池特性に優れた色素増感光電池用電極のプラスチック化及びその連続生産は困難であるのが実情であった。
【0007】
本発明の目的は、低温で光電池特性に優れた半導体膜を成膜でき、基材としてプラスチックフィルムを使用でき、しかも半導体膜を連続生産できる半導体膜形成用塗料を提供することにある。さらには、基材がプラスチック化された光電池用電極ならびにその製造方法を提供することにある。また、それを使用した光電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、TiOの代わりに酸化亜鉛を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し、さらに検討した結果、以下の半導体膜形成用塗料、光電池用電極ならびその製造方法、および光電池を発明した。
すなわち、本発明の半導体膜形成用塗料は、酸化亜鉛粒子とクマリン系色素と結着剤と溶媒とを含有することを特徴とする。
本発明の半導体膜形成用塗料においては、前記クマリン系色素が下記一般式(1)で表される置換基を有することが好ましい。
−COOR (1)
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
また、前記クマリン系色素が下記一般式(2)で表される置換基を有することが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
さらに、前記クマリン系色素が下記一般式(3)または一般式(4)で表される分子構造を有することが好ましい。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示す)
また、本発明の半導体膜形成用塗料においては、前記酸化亜鉛粒子に前記クマリン系色素が吸着されていることが好ましい。
【0013】
本発明の光電池用電極は、透明基材と、該透明基材上に形成された透明導電膜と、該透明導電膜上に上述した半導体膜形成用塗料が塗布されて形成された半導体膜とを有することを特徴とする。
本発明の光電池用電極において、透明基材がプラスチックフィルムであってもよい。
本発明の光電池用電極の製造方法は、上述した半導体膜形成用塗料を、透明基材上にあらかじめ形成した透明導電膜上に塗布し、乾燥することを特徴とする。
あるいは、本発明の光電池用電極の製造方法は、剥離性支持体上に、上述した半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥して半導体膜を形成して半導体膜積層体を作製する工程と、透明基材上にあらかじめ形成した透明導電膜の表面に、半導体膜が隣接するように前記半導体膜積層体を積層する工程と、半導体膜から剥離性支持体を剥離する工程とを有することを特徴とする。
本発明の光電池は、上述した光電池用電極と、該光電池用電極の半導体膜に対向する位置に設けられた対向電極とを具備し、光電池用電極と対向電極との間に電解質材料が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体膜形成用塗料によれば、低温で光電池特性に優れた半導体膜を成膜でき、基材としてプラスチックフィルムを使用でき、しかも半導体膜を連続生産できる。
本発明の半導体膜形成用塗料では、クマリン系色素として、式(1)の置換基を有するクマリン系色素、とりわけ、式(2)または式(3)の構造式を有するクマリン系色素を用いる場合には、光電池の光電変換効率(η)を高くできる。
本発明の光電池用電極は、基材をプラスチック化できるので、屈曲性を持たせることができ、薄肉・軽量化できる。
本発明の光電池用電極の製造方法によれば、基材がプラスチック化され、屈曲性を有し、薄肉・計量で光電池特性に優れた光電池用電極を製造できる。
本発明の光電池は、基材をプラスチック化することにより、屈曲性を持たせることができ、薄肉・軽量化できる。また、本発明の光電池は、充分な実用特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(半導体膜形成用塗料)
本発明の半導体膜形成用塗料は、酸化亜鉛粒子とクマリン系色素と結着剤と溶媒とを含有するものである。
ここで、酸化亜鉛(ZnO)粒子としては、焼成法(フランス法)と湿式法のいずれの方法で製造されたものを使用できる。酸化亜鉛粒子の平均粒子径は数nmから数μmの範囲のものが使用できるが、10〜200nmの範囲の粒子径のものが好ましい。平均粒子径が10nm未満であると、分散安定性やハンドリング性が低くなり、一方、200nmを超えると表面積が小さくなって染料の吸着量が低下してしまうことがある。ただし、光散乱効果を期待して200nmを超える粒径のものを一部使用することは可能である。
【0016】
クマリン系色素は、クマリンを化学構造中に含み、色素増感剤として機能する化合物である。クマリン系色素としては特に制限されないが、光電池の光電変換効率が向上することから、クマリン系色素の中でも、上記式(1)に示される置換基を有するものが好ましく、式(2)に示される置換基を有することがより好ましい。さらには、式(3)あるいは式(4)の構造式で示されるクマリン系色素が特に好ましい。
式(1)〜(4)のRは水素原子またはアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、直鎖状あるいは分岐を有する炭化水素基、該炭化水素基の水素原子がハロゲンや水酸基により置換されたものなどが挙げられる。
式(3)のR,R,R,Rは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、直鎖状あるいは分岐を有する炭化水素基、該炭化水素基の水素原子がハロゲンや水酸基により置換されたものなどが挙げられる。
式(4)のR,R,R,Rは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、直鎖状あるいは分岐を有する炭化水素基、該炭化水素基の水素原子がハロゲンや水酸基により置換されたものなどが挙げられる。
【0017】
結着剤は、酸化亜鉛粒子を結着し、かつ、成膜可能なものである。具体的には、セルロース誘導体、澱粉及びその誘導体、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの中でも、電解質材料の溶媒として用いられるアセトニトリル等の有機溶媒に対して溶解しにくいものが好ましく、具体的には、セルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロースが好ましい。カルボキシメチルセルロースは、電解質材料に侵されにくいだけでなく、酸化亜鉛粒子の分散性にも優れる。
なお、光電池の液漏れ防止を優先する場合には、電解液に対して親和性が高く、若干膨潤する結着剤を選ぶことが好ましい。
【0018】
半導体膜形成用塗料において、酸化亜鉛粒子と結着剤との質量比は100/1〜100/20の範囲であることが好ましい。酸化亜鉛粒子と結着剤との質量比100/1よりも結着剤比率が少ないと結着力が不足する傾向にあり、100/20よりも結着剤比率が多いと、半導体膜中の酸化亜鉛粒子間の接合が不充分となり、光電池の変換効率が低下する傾向にある。
また、その他の成分の配合比率は、該塗料を塗布する方法に適した粘度に合わせて適宜選択すればよい。
【0019】
溶媒としては、例えば、水、または、アルコール系、ケトン系、エステル系、アミド系、ニトリル系、カーボネート系、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。上記溶媒の中でも、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールが好ましい。
【0020】
半導体膜形成用塗料は、各成分を別々に配合して調製してもよいが、例えば酸化亜鉛粒子をクマリン系色素の溶液に浸漬させて、酸化亜鉛粒子にクマリン系色素をあらかじめ吸着させておくことが好ましい。酸化亜鉛粒子にクマリン系色素をあらかじめ吸着させれば、酸化亜鉛粒子表面へのクマリン系色素の吸着状態を容易に制御できる。
また、半導体膜形成用塗料を調製する際には、酸化亜鉛粒子を充分に分散させるために、サンドミルや、ホモジナイザー等の分散装置を使用することが好ましい。
【0021】
以上説明した半導体膜形成用塗料によれば、塗布後、低温で乾燥することにより、半導体膜を形成できる。したがって、高温での焼成工程は不要であるため、プラスチック製の基材を使用することができる。また、塗料の塗布、乾燥という簡便な方法により半導体膜を形成するから、半導体膜を連続生産できる。したがって、光電池用電極のロール・ツー・ロールでの連続生産も実現可能である。
さらに、従来の半導体膜の形成方法では、半導体膜形成後に色素溶液で染色する必要があったが、本発明の半導体膜形成用塗料は色素を含有するため、半導体膜形成後の染色を省略できる。この点も、連続生産を可能にする要因である。
【0022】
(光電池用電極)
本発明の光電池用電極について説明する。
図1に、光電池用電極の一例を示す。この光電池用電極10は、透明基材11と、透明基材11上に形成された透明導電膜12と、透明導電膜12上に形成された半導体膜13とを有するものである。
【0023】
透明基材11としては、ガラス基板やプラスチックフィルムなどが挙げられるが、プラスチックフィルムが好ましい。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、シクロオレフィン樹脂等が挙げられ、これらの単独または混合、更には積層したものを用いることができる。
透明基材11として上記のようなプラスチックフィルムを用いることにより、薄肉・軽量化や屈曲性の向上を図ることができるが、そのような効果が不要な場合にはガラス板を使用しても構わない。
透明基材11の厚さとしては5〜300μmであることが好ましい。
【0024】
透明導電膜12は、主にITOや酸化亜鉛等の導電性の金属酸化物を含む膜である。この透明導電膜12は、透明性と導電性が共に高いことが好ましく、透明基材11の種類にも異なるが、具体的には、透明性としては全光線透過率が80%以上であることが好ましく、導電性としては表面抵抗率500Ω/□以下であることが好ましい。
透明導電膜12は、例えば、スパッタリング等の方法で成膜することができる。
【0025】
半導体膜13は、上記半導体膜形成用塗料が塗布されて形成されたものであり、酸化亜鉛粒子とクマリン系色素と結着剤を含有する膜である。好ましくは、クマリン系色素が吸着した酸化亜鉛粒子が結着剤により結着されている膜である。
半導体膜13中の酸化亜鉛粒子と結着剤との配合比率は半導体膜形成用塗料中の範囲と同じである。
半導体膜の厚さとしては0.01〜300μmであることが好ましい。
【0026】
上述した光電池用電極は、上述した半導体膜形成用塗料から形成された半導体膜を有するため、透明基材をプラスチック化できる。その結果、光電池用電極に屈曲性を持たせることができ、また、薄肉・軽量化できる。
【0027】
(光電池用電極の製造方法)
本発明の光電池用電極の第1の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、上述した半導体膜形成用塗料を、透明基材上に設けられた透明導電膜に塗布、乾燥する方法である。
半導体膜形成用塗料の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を適用できる。
半導体膜形成用塗料を塗布後、乾燥する際の乾燥条件としては、溶媒を揮発させて除去できる条件であればよく、例えば、100〜150℃で、1〜30分間程度である。
【0028】
上述した第1の製造方法によれば、簡便な操作により、図1に示すような、透明基材11と透明導電膜12と半導体膜13とを有する光電池用電極10を製造できる。
【0029】
次に、本発明の光電池用電極の第2の製造方法について説明する。
第2の製造方法では、まず、剥離性支持体上に上述した半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥して半導体膜を形成して半導体膜積層体を作製する。次いで、透明基材上にあらかじめ形成した透明導電膜の表面に、半導体膜が隣接するように前記半導体膜積層体を積層する。そして、半導体膜から剥離性支持体を剥離して、図1に示す光電池用電極10を得る。第2の製造方法における半導体膜形成用塗料の塗布、乾燥は第1の製造方法と同様である。
【0030】
上記第2の製造方法において、剥離性支持体としては、例えば、紙またはプラスチックフィルムがシリコーン樹脂などで表面処理された剥離紙や剥離性プラスチックフィルムなどが挙げられる。中でも、表面の平滑性から剥離性PETフィルムが好ましい。
透明導電膜の表面に半導体膜積層体を積層した後には、挟持装置により挟持し、透明導電膜と半導体膜との密着性を高めることが好ましい。
【0031】
この第2の製造方法は、剥離性支持体上の半導体膜を透明導電膜の表面に転写する方法であり、生産性の高い塗工設備や印刷装置を使用して半導体膜積層体を作製でき、作成された半導体膜積層体は保管することができる。また、転写法であるため、1種類の半導体膜積層体に種々の透明基材を組み合わせることができ、融通性が高く、品種を容易に多様化できる。
【0032】
(光電池)
次に、本発明の光電池の一例について説明する。
この光電池は、図2に示すように、上述した光電池用電極10と、光電池用電極10の半導体膜13に対向する位置に設けられた対向電極20とを具備し、光電池用電極10と対向電極20との間に電解質材料30が充填されているものである。
また、光電池用電極の透明導電膜12と対向電極20とは外部負荷回路40を介して電気的に接続されている。
【0033】
ここで、対向電極20としては、白金板、白金スパッタ膜を設けたガラス板、カーボン電極などが挙げられる。対向電極20を光電池用電極10に対向するように設ける際には、例えば、光電池用電極10と対向電極20との間にスペーサ50を配置することが好ましい。
電解質材料30としては、ヨウ素とヨウ素化合物を溶媒に溶解したものが好ましい。ヨウ素化合物としてはヨウ化リチウム、例えば、ヨウ化カリウム、テトラプロピルアンモニウムヨウ素、テトラブチルアンモニウムヨウ素、ジメチルプロピルイミダゾリルヨウ素などが挙げられる。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピオンカーボネート、ジメチルカーボネートやこれらの混合溶剤が使用でき、さらに、t−ブチルピリジンを添加することもできる。
【0034】
光電池の製造方法としては、例えば、まず、上記のように製造された光電池用電極上に、スペーサを設置し、スペーサ上に対向電極を設置した後、この状態で固定する。次いで、光電池用電極と対向電極との間に電解質材料を注入し、最後に光電池用電極および対向電極に配線を取り付けて光電池を得る。
【0035】
上述した光電池では、光電池用電極の透明基材をプラスチック化できるため、屈曲性を持たせることができ、また、薄肉・軽量化できる。しかも、この光電池は、充分な実用特性を有する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
式(3)(ただし、R=Hで、R〜Rの全てがCH)で示されるクマリン系色素(林原生物化学研究所社製、商品名NKX2587)の5.0質量%エタノール溶液100gに、酸化亜鉛粒子(ナノファイン50、堺化学社製、粒子径20nm)20gを分散した後、一晩常温で暗所に放置した。その後、濾過してエタノールを除去し、クマリン系色素により染色された酸化亜鉛粒子を得て、これを真空乾燥した。
このクマリン系色素により染色された酸化亜鉛粒子10gと、カルボキシメチルセルロース(CMC−DN−10L、ダイセル化学工業社製)の2質量%水溶液20gと、水10gとを混合し、撹拌した後、超音波ホモジナイザーにより分散性を高めて半導体膜形成用塗料を調製した。
この半導体膜形成用塗料を、ITO膜付きのガラス基板(縦10mm×横15mm×厚さ0.7mm、表面抵抗率10Ω/□)のITO膜上に塗布し、100℃で15分間乾燥して乾燥膜厚13μmの半導体膜を形成して、光電池用電極を得た。
【0037】
この光電池用電極の半導体膜上に、厚さ0.3mmのポリフルオロエチレンシートからなるスペーサを介して白金電極を設けた。次いで、半導体膜と白金電極との間隙に、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5mol/lとヨウ素0.05mol/lのアセトニトリル溶液からなる電解液を注入して、光電池を組み立てた。得られた光電池を、JASCO社製の太陽電池特性評価システムにより、1sun照射下でI−V特性を測定した。結果を表1に示す。なお、この光電池の受光面積は0.25cmであった。
【0038】
【表1】

【0039】
(実施例2)
実施例1で調製した半導体膜形成用塗料を、剥離性PETフィルム(PET38X、リンテック社製、厚さ38μm)上にスクリーン印刷法により5mm×5mmのサイズで印刷し、100℃で1分間乾燥して半導体膜を形成して半導体膜積層体を得た。なお、半導体膜の厚さは15μmであった。
この半導体膜積層体の半導体膜と、透明導電性ITOフィルム−300RE(東洋紡社製、表面抵抗率250Ω/□、厚さ188μm)の透明導電膜面とを重ね合わせ、平板熱プレスで120℃、0.3MPa、3分間加圧した。その後、剥離性PETフィルムを剥離して、光電池用電極を得た。この光電池用電極を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0040】
(実施例3)
クマリン系色素を式(4)(ただし、R=Hで、R〜Rの全てがCH)で示されるクマリン系色素(林原生物化学研究所社製、NKX2677)に置き換えたこと以外は、実施例2と同様にして光電池用電極を得た。光電池用電極の半導体膜の乾燥膜厚は14μmであった。
そして、この光電池用電極を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
クマリン系色素の5.0質量%エタノール溶液を、ミオシンYの3.5質量%エタノール溶液に置き換えたこと以外は、実施例1と同様にして光電池用電極を得た。そして、この光電池用電極を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
酸化亜鉛を、酸化チタン(TTO−55(N)、石原産業社製、粒子径;40nm)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様にして光電池用電極を得た。そして、この光電池用電極を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
酸化亜鉛とクマリン系色素と結着剤と溶媒とを含有する半導体膜形成用塗料を透明導電膜上に塗布した実施例1〜3、特に実施例2,3では基材としてプラスチックフィルムを用いているにもかかわらず、半導体膜を形成して光電池用電極を得ることができた。この光電池用電極を備えた実施例1〜3の光電池用電極は、充分な光電池特性を有していた。また、屈曲性を有しており、かつ、薄肉・軽量化できた。
これに対し、クマリン系色素の代わりにミオシンYを含む半導体膜形成用塗料を透明導電膜上に塗布した比較例1の光電池用電極、酸化亜鉛の代わりに酸化チタンを含む半導体膜形成用塗料を透明導電膜上に塗布した比較例2の光電池用電極は、光電池特性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の光電池用電極の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光電池の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 光電池用電極
11 透明基材
12 透明導電膜
13 半導体膜
20 対向電極
30 電解質材料
40 外部負荷回路
50 スペーサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子とクマリン系色素と結着剤と溶媒とを含有することを特徴とする半導体膜形成用塗料。
【請求項2】
前記クマリン系色素が下記一般式(1)で表される置換基を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体膜形成用塗料。
−COOR (1)
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
【請求項3】
前記クマリン系色素が下記一般式(2)で表される置換基を有することを特徴とする請求項2に記載の半導体膜形成用塗料。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
【請求項4】
前記クマリン系色素が下記一般式(3)または一般式(4)で表される分子構造を有することを特徴とする請求項3に記載の半導体膜形成用塗料。
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示す)
【請求項5】
前記酸化亜鉛粒子に前記クマリン系色素が吸着されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体膜形成用塗料。
【請求項6】
透明基材と、該透明基材上に形成された透明導電膜と、該透明導電膜上に請求項1〜5のいずれかに記載の半導体膜形成用塗料が塗布されて形成された半導体膜とを有することを特徴とする光電池用電極。
【請求項7】
前記透明基材がプラスチックフィルムからなることを特徴とする請求項6に記載の光電池用電極。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の半導体膜形成用塗料を、透明基材上にあらかじめ形成した透明導電膜上に塗布し、乾燥することを特徴とする光電池用電極の製造方法。
【請求項9】
剥離性支持体上に、請求項1〜5のいずれかに記載の半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥して半導体膜を形成して半導体膜積層体を作製する工程と、
透明基材上にあらかじめ形成した透明導電膜の表面に、半導体膜が隣接するように前記半導体膜積層体を積層する工程と、
半導体膜から剥離性支持体を剥離する工程とを有することを特徴とする光電池用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の光電池用電極と、該光電池用電極の半導体膜に対向する位置に設けられた対向電極とを具備し、光電池用電極と対向電極との間に電解質材料が充填されていることを特徴とする光電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−67046(P2007−67046A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249013(P2005−249013)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】