説明

半導体薄膜の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体薄膜の製造方法に関わり、特に基板上に半導体薄膜を堆積し、この半導体薄膜に高エネルギービームを連続的に照射しながら繰り返し操作する結晶化処理工程の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】周知の如く、従来の2次元半導体装置の素子を微細化してこれを高集積化及び高速化するには限界があり、これを越える手段として多層に素子を形成するいわゆる3次元半導体装置が提案された。そして、これを実現するため、基板上の多結晶あるいは非晶質半導体に高エネルギービームを照射しながら走査して、粗大粒の多結晶若しくは単結晶の半導体層を形成する結晶化処理方法がいくつか提案されている。
【0003】従来の方法でよく用いられている高エネルギービームの走査方法を図1に示す。このうち図1aは特によく用いられているビームの走査方法である。ある方向へ(X方向)への操作と、これと垂直な方向(Y方向)の比較的遅い送りとからなっている。しかしこの方法では、ビームの未照射領域を形成しないように、実線で表わせられるX軸の正方向に繰り返し照射すると、図1R>1aに示すようにビームの重複した照射領域12が発生する。このため、1回のみのビーム照射領域11と、重複した照射領域12にあるシリコ層が受けるエネルギー量が異なるため、その照射領域によって結晶化率または屈折率などの物性値が異なるシリコン層が形成されてしまう。さらに、ビーム強度が大きいときには、照射の重複部分では、高エネルギーが集中して、半導体薄膜が蒸発してしまうなどの大きな指傷を受けた。
【0004】一方、図1bに示すのはX軸に正の方向の走査速度と負の方向の走査速度を同じくして、操作の無駄をなくすために考えられた走査方法である。しかしこの場合もビームのX軸方向の照射で、アニールが重複する領域12があり、半導体薄膜のエネルギー吸収量の違いによるシリコン層(半導体薄膜)の膜質の違いや、エネルギー集中によるビーム損傷を避けることは困難となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】図1aの方法ではビームが照射している地点のX座標を時間の関数で表わすと、ビームがXの負の方向の速度が必ず0となり、ここでビームが停滞することになる。このため、半導体薄膜の一地点に高エネルギーが集中して、半導体薄膜が蒸発してしまうなどの大きな損傷を受けた。
【0006】一方、図1bに示すのはX軸に正の方向の走査速度と負の方向の走査速度を同じくして、操作の無駄をなくすために考えられた走査方法である。第2図の方法の場合もビームのX軸方向の速度が必ず0になる地点があり、半導体薄膜の一地点に高エネルギーが集中することによる損傷を避けることは困難となっていた。
【0007】さらに、図1aの場合も、図1bの場合もビームをX紬方向に繰り返し走査するために照射領域が重複する部分12が生じるため、重複する部分12とそうでない部分11の間で、シリコン層(半導体層)が受けるエネルギー量が異なり、結晶化率、または屈折率などの物性が異なるシリコン層(半導体薄膜)が生じた。
【0008】本発明の目的は、かかる従来の欠点を取り除き、基板上の半導体薄膜上で高出力のエネルギービームが一点に集中して損傷を及ぼすことを防止し、均一な物性で良質の半導体薄膜結晶層を従来に比べ簡便に製造することができ、3次元半導体装置の素子形成用基板の作成等に有用な半導体薄膜結晶層の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、 基板上に半導体薄膜を堆積し、該半導体薄膜に高出力エネルギービームを照射して、前記半導体薄膜の結晶粒径の拡大又は結晶化を行う半導体薄膜の製造方法において、ビーム源からの前記高出力エネルギービームをレンズにより前記半導体薄膜の全幅を照射できるよう前記半導体薄膜の幅方向に拡大させ且つ板状の平行ビームに変形させ、当該変形させたビームを凸レンズにより前記平行ビームの幅と等しくなるような幅で、且つエネルギー密度を高めた状態で前記半導体薄膜の全幅にわたって照射しながら前記半導体薄膜の長手方向に走査することを特徴とする。
【0010】
【作用】本発明の骨子は、エネルギービームの形状が板状になっていることにある。
【0011】すなわち本発明は、絶縁体基板上に半導体薄膜を堆積し、この薄膜にレーザービームなどの高出力エネルギービームを連続的に照射して、上記薄膜の結晶粒径増大化もしくは単結晶化をはかる半導体薄膜結晶層の製造方法に於て、ビーム源のエネルギービームを凸レンズと凹レンズに透過させて、板状に変形したものである。
【0012】これによって、図1aや図1bで示された、ビームの走査の繰り返しによって生じる、シリコン層(半導体薄膜)のビーム照射の重複部分がなくなり、シリコン層(半導体薄膜)全面にわたって均一なエネルギー照射ができる。
【0013】
【実施例】以下、本発明の詳細を図示の実施例によって説明する。
【0014】第2図は本発明の一実施例に使用したレーザーアニール装置を示す概略構成図である。図中21はレーザー発振部、22は凹レンズ、23は凸レンズ、24は鏡、25は凸レンズ、26は試料である。
【0015】次に、上記装置を用いた半導体薄膜結晶層の製造方法について説明する。まず図3aに示すが如く1辺25〔cm〕正方形のガラス基板(絶縁体基板)31表面全面に100(nm)のシリコン層(半導体薄膜)32を形成する。レーザーの発振波長はXeClエキシマレーザーの308〔nm〕とした。レーザービームの大きさは、1辺5〔mm〕の正方形であり、エネルギー強度は500〔mJ/パルス〕であり、レーザーのパルス幅は約50〔ns〕であり、発振周波数は120〔Hz〕とした。また、レーザービームの走査方法として、鏡24をY軸方向に1〔mm/s〕の速度で動作してレーザービームを走査した。X軸方向のレーザービームの幅は凹レンズ22と凸レンズ23の距離を変化させて調節する。さらに、レーザー発信部出口でのレーザービームのエネルギー密度は、2000〔mJ/(cm・パルス)〕であるが、凸レンズ23を透過直後では、ビームの幅が50倍となるため、400〔mJ/cm・パルス)〕と50分の1となる。アニール効果を減少させないため、凸レンズ25でエネルギー密度を再び2000〔mJ/(cm・パルス)〕に高める。エネルギー密度は、試料と凸レンズ25の距離で調整できる。この距離を少なくするには曲率の大きい凸レンズを使用すれば実現できる。これにより、図2に示すが如くレーザービームの走査方向はY軸方向のみとなるため、図1の照射例でみられたようなシリコン層(半導体薄膜)のアニールの重複を防止でき、これにより均一な物性で良質なシリコン層(半導体薄膜)を得られるアニールが可能となった。即ち、レーザービームの大きさが5mmで凸レンズを透過直後のビーム幅が50倍となるため、25cmの幅になり、この幅は基板の幅25cmに相当する。凸レンズ25を透過後のビームの幅は第2図のように基板の幅に相当するので、エネルギー線が平行ビームのまま基板に照射されることになる。
【0016】これに対して、従来のようにX軸方向のビームを繰り返すアニールのように、照射の重なり部分がある場合には、シリコン層の物性のばらつきや、重なり部分でのビーム損傷が認められた。なお本発明は上述した実施例に限定されるものではない。実施例では、ガラス基板(絶縁体基板)全面にシリコン層を形成し、シリコン層の全領域をアニールする例を示したが、シリコン層の必要な部分だけをアニールしたい場合にはその必要な大きさの幅にビームの大きさを調整した板状のビームで照射すればよい。また、シリコンの溶融再結晶化による結晶成長だけでなく、他の半導体や金属などにも適用することが可能である。さらに、イオン注入層の活性化に本発明を適用し、アニール領域を均一にすることも可能である。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、ビームの繰り返し走査によって生じる照射領域の重複部分がなくなるので速度が0に近い付近、すなわちビームの走査方向の反転領域が、アニール領域にないため、ビームが停留することがなくなり、また照射の重複部分がなくなるので、アニール領域におけるシリコン層(半導体薄膜)の物性のばらつきがなくなり、さらにビーム損傷を未然に防止することができる。このため均一で良質の半導体薄膜結晶層を積層することができ、3次元半導体装置の素子形成基板として実用上十分な特性をもたせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】a、bはエネルギービームの走査方法の例を示す模式図。
【図2】本発明の1実施例方法に使用したレーザーアニール装置を示す概略構成図。
【図3】上記実施例にかかわるシリコン薄膜結晶層の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例である。
【符号の説明】
21…レーザー発振部
22…凹レンズ
23…凸レンズ
24…鏡
25…凸レンズ
26…試料
31…ガラス基板(絶縁体基板)
32…シリコン層(半導体薄膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に半導体薄膜を堆積し、該半導体薄膜に高出力エネルギービームを照射して、前記半導体薄膜の結晶粒径の拡大又は結晶化を行う半導体薄膜の製造方法において、ビーム源からの前記高出力エネルギービームをレンズにより前記半導体薄膜の全幅を照射できるよう前記半導体薄膜の幅方向に拡大させ且つ板状の平行ビームに変形させ、当該変形させたビームを凸レンズにより前記平行ビームの幅と等しくなるような幅で、且つエネルギー密度を高めた状態で前記半導体薄膜の全幅にわたって照射しながら前記半導体薄膜の長手方向に走査することを特徴とする半導体薄膜の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【特許番号】特許第3201395号(P3201395)
【登録日】平成13年6月22日(2001.6.22)
【発行日】平成13年8月20日(2001.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−324071
【分割の表示】特願平2−87977の分割
【出願日】平成2年4月2日(1990.4.2)
【公開番号】特開2000−133613(P2000−133613A)
【公開日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【審査請求日】平成11年11月26日(1999.11.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−74620(JP,A)