説明

半導体装置

【課題】半導体装置は、必要に応じてダイナミックレンジを確保し、且つ低消費電流化に資するフィルタ回路を備える。
【解決手段】半導体装置は、トランスコンダクタンス増幅器(103a〜103d、203a〜203d)とキャパシタ(104a、104b)から構成されるフィルタ回路(10、20)を有し、前記フィルタ回路は、妨害信号の電界強度を検出し、検出結果に基づいて、前記トランスコンダクタンス増幅器の差動入力段トランジスタのソース側のインピーダンスと前記トランスコンダクタンス増幅器のバイアス電流の双方を調整するための制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ回路に係る技術に関し、特に、無線通信システム向けの受信装置用のフィルタ回路を備える半導体装置に適用して、有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信システムの高速化に伴い、信号帯域幅が増加している。また、信号帯域幅の可変を必要とする無線規格(3GPP TS 36.101 V9.2.0)が登場したため、RF(Radio Frequency)信号処理用のICチップ内に広帯域特性を有し、且つ帯域幅が可変できる要素回路を備える製品が今後多く市場に出回ると予想される。
【0003】
帯域幅の可変を容易に実現する従来技術として、特許文献1に開示がある。
【0004】
特許文献1に記載のアクティブフィルタ回路は、フィルタ回路を構成する相互コンダクタンス増幅器(以下、「Gm回路」とも称する。)内のトランジスタのトランスコンダクタンスGmと可変容量回路(キャパシタバンク)の容量Cの積を利用することによって帯域幅の可変を実現する。
【0005】
一方、近年の半導体集積回路のプロセスの微細化に伴う低電源電圧動作の要求から、Gm回路のダイナミックレンジの確保が困難となってきている。ダイナミックレンジが狭い場合、強電界の妨害信号によりフィルタ回路内で処理される信号が歪むおそれがある。フィルタ回路のダイナミックレンジを拡大する従来技術として、非特許文献1に開示がある。
【0006】
非特許文献1に記載のGm−Cフィルタ回路は、フィルタ回路を構成するGm回路内の入力段のMOSトランジスタのソース端子に抵抗を接続することにより、フィルタ回路のダイナミックレンジを拡大する。また、非特許文献2において、MOSトランジスタによるソース接地増幅回路のソース側に抵抗を直列に接続することにより、線形動作を達成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−5470号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“A Widely Tunable CMOS Gm−C Filter With a Negative Source Degeneration Resistor Transconductor” IEEE 2003
【非特許文献2】Behzad Razavi 「アナログCMOS集積回路の設計 基礎編」 丸善株式会社 平成15年3月30日 初版 p.73−82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に代表される一般的なGm回路は、低電源電圧動作の要求の下、Gm回路の動作電流を増加させてダイナミックレンジを確保することが一般的である。また、非特許文献1に示される方法では、ソース端子に接続された抵抗による熱雑音が発生し、トランスコンダクタンスGmが低下する。そのため、フィルタ回路における雑音の要求仕様を満足させるためにソース抵抗値に上限値を設定し、Gmを大きくするためにGm回路の動作電流を増加させている。すなわち、従来技術に係るフィルタ回路は、強電界の妨害信号による信号の歪みを防止するため、妨害信号の電界強度に関わらず、常に、Gm回路の動作電流を増加させてフィルタ回路全体の消費電流を増加させている。このようなGm回路を用いたフィルタ回路を、例えばバッテリ駆動の携帯端末に適用することは、低消費電力の観点により現実的でない。
【0010】
本発明の目的は、妨害信号の電界強度に応じてダイナミックレンジを確保し、且つ低消費電流化に資するフィルタ回路を備えた半導体装置を提供することにある。
【0011】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0013】
すなわち、半導体装置は、トランスコンダクタンス増幅器とキャパシタから構成されるフィルタ回路を有し、前記フィルタ回路は、妨害信号の電界強度を検出し、検出結果に基づいて、前記トランスコンダクタンス増幅器の差動入力段トランジスタのソース側のインピーダンスと前記トランスコンダクタンス増幅器のバイアス電流の双方を調整するための制御を行う。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0015】
すなわち、フィルタ回路を備えた半導体装置は、妨害信号の電界強度に応じてダイナミックレンジを確保し、且つ低消費電流化に資する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施の形態1に係る、無線通信向けの受信装置用のフィルタ回路の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、Gm回路103の一例を示す回路図である。
【図3】図3は、キャパシタバンク104の一例を示す回路図である。
【図4A】図4Aは、フィルタ回路10において各パラメータを変更した場合の入力電圧に対するDC特性の一例を示す特性図である。
【図4B】図4Bは、フィルタ回路10において各パラメータを変更した場合の周波数特性の一例を示す特性図である。
【図5】図5は、フィルタ制御部101によるフィルタ特性の調整に係る動作の一例を示す流れ図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る、無線通信向けの受信装置用のフィルタ回路の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は、Gm回路203の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0018】
〔1〕(妨害信号の強度に応じてダイナミックレンジを調整)
本発明の代表的な実施の形態に係る半導体装置(1、2)は、トランスコンダクタンス増幅器(103a〜103d、203a〜203d)とキャパシタ(104a、104b)から構成されるフィルタ回路(10、20)を有する。前記フィルタ回路は、妨害信号の電界強度を検出する検出部(102)と、前記検出された電界強度に応じて、前記トランスコンダクタンス増幅器の差動入力段のトランジスタのソース側のインピーダンスと前記トランスコンダクタンス増幅器のバイアス電流の双方を調整するための制御を行う制御部(101)を有する。
【0019】
これによれば、前記差動入力段のトランジスタのソース側のインピーダンスを可変することで、ダイナミックレンジを可変することができる。また、前記トランスコンダクタンス増幅器のバイアス電流を可変することで、ダイナミックレンジを可変するとともにトランスコンダクタンスGmを可変することができる。すなわち、前記フィルタ回路によれば、妨害信号の電界強度に応じて必要なダイナミックレンジとGmを決定することができるから、前記フィルタ回路の低消費電流化に資する。
【0020】
〔2〕(抵抗値調整によるインピーダンス可変構成)
項1の半導体装置において、前記トランスコンダクタンス増幅器(103a〜103d)は、差動入力段を構成するトランジスタ対(Q1、Q2)と、前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、電流値が調整可能とされる定電流源(Q5、Q6)と、前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース端子間に接続され、抵抗値が調整可能とされる抵抗部(R1〜R3)と、前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのドレイン側に接続される負荷素子(Q3、Q4)とを有する。前記制御部は、前記検出された電界強度に応じて、前記定電流源の電流値と前記抵抗部の抵抗値の双方を調整するための制御を行う。
【0021】
これによれば、前記インピーダンスと前記バイアス電流を容易に調整することができる。
【0022】
〔3〕(妨害信号の強度に応じて帯域幅を調整)
項1又は2の半導体装置において、前記キャパシタは容量値が調整可能とされ、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度に応じて前記容量値を調整するための制御を行う。
【0023】
これによれば、妨害電波の電界強度に応じて、前記フィルタ回路の帯域幅を調整することができる。
【0024】
〔4〕(妨害信号が強電界/弱電界の場合の電流値及び抵抗値の制御方法)
項1乃至3の何れかの半導体装置において、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記定電流源の電流値及び前記ソース端子間の抵抗値を大きくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記定電流源の電流値及び前記ソース端子間の抵抗値を小さくするための制御を行う。
【0025】
これによれば、妨害信号の電界強度が大きく、前記フィルタ回路内の信号が歪むおそれがある場合には、ダイナミックレンジを拡げるともにGmを大きくすることで信号の歪みを防止することができる。一方、妨害信号の電界強度が小さく、前記フィルタ回路内の信号が歪むおそれがない場合には、ダイナミックレンジを拡げないので、前記フィルタ回路の消費電流を抑えることができる。
【0026】
〔5〕(妨害信号が強電界/弱電界の場合の容量値の制御方法)
項1乃至4の何れかの半導体装置において、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記容量値を小さくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記容量値を大きくするための制御を行う。
【0027】
これによれば、前記フィルタ回路が前記容量値を調整することで、前記抵抗値を調整したことによる前記フィルタ回路の帯域幅の変動を抑えることができ、目標とする帯域幅に合わせ込むことが可能となる。
【0028】
〔6〕(バイアス電圧供給の有無によるインピーダンス可変構成)
項1の半導体装置において、前記トランスコンダクタンス増幅器(203a〜203d)は、差動入力段を構成する第1トランジスタ対(Q1、Q2)と、前記第1トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、供給されるバイアス電圧に応じた電流を供給する第1定電流源(Q5、Q6)を有する。また、前記トランスコンダクタンス増幅器は、前記第1トランジスタ対と同一の信号を入力し、差動入力段を構成する第2トランジスタ対(Q61とQ62、Q65とQ65、又はQ69とQ70)と、前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、供給されるバイアス電圧に応じた電流を供給する第2定電流源(Q63とQ64、Q67とQ68、又はQ71とQ72)と、前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース端子間に接続される抵抗(R11、R12、又はR13)と、前記第1トランジスタ対及び前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのドレイン側に共通に接続される負荷素子(Q3、Q4)を有する。前記制御部は、前記検出された電界強度に応じて、前記第1定電流源と前記第2定電流源のうち何れか一つの定電流源を選択し、バイアス電圧を供給することにより、前記インピーダンスと前記バイアス電流の双方を調整するための制御を行う。
【0029】
これによれば、前記インピーダンスと前記バイアス電流を容易に調整することができる。また、前記インピーダンスの調整手段として、例えば、前記ソース端子間に接続された抵抗と直列又は並列にスイッチ用のトランジスタ接続し、前記スイッチ用トランジスタを制御することにより抵抗値を調整する回路形式を採用した場合と本実施の形態に係る回路形式を採用した場合を比較する。前者の場合、スイッチ用のトランジスタをオン・オフすることにより抵抗値を切り換えることができるが、抵抗値を決める際には、スイッチ用トランジスタのオン抵抗を考慮しなければならない。一方、後者の本実施の形態に係る回路形式によれば、前記スイッチ用のトランジスタを別個に備える必要がないため、前記スイッチ用のトランジスタのオン抵抗による抵抗値に対する影響を考慮する必要がない。
【0030】
〔7〕(複数セットの可変定電流源と抵抗)
項6の半導体装置において、前記トランスコンダクタンス増幅器は、前記第2トランジスタ対、前記第2定電流源、及び前記抵抗を一組とするセットを複数セット有し、前記複数セット(2032〜2034)の前記抵抗は夫々異なる抵抗値とされる。
【0031】
これによれば、複数の候補の値から何れかの抵抗値を選択することが可能となる。
【0032】
〔8〕(妨害信号の強度に応じて帯域幅を調整)
項6又は7の半導体装置において、前記キャパシタは容量値が調整可能とされ、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度に応じて前記容量値を調整するための制御を行う。
【0033】
これによれば、項3と同様に、前記フィルタ回路の帯域幅を調整することができる。
【0034】
〔9〕(妨害信号が強電界/弱電界の場合の電流値及び抵抗値の制御方法)
項6乃至8の何れかの半導体装置において、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記インピーダンス及び前記バイアス電流が大きくなるように、前記第1定電流源と前記第2定電流源の何れか一つの定電流源にバイアス電圧を供給し、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記インピーダンス及び前記バイアス電流が小さくなるように、前記第1定電流源と前記第2定電流源の何れか一つの定電流源にバイアス電圧を供給する制御を行う。
【0035】
これによれば、項4と同様に、前記フィルタ回路の消費電流を抑えることができる。
【0036】
〔10〕(妨害信号が強電界/弱電界の場合の容量値の制御方法)
項6乃至9の何れかの半導体装置において、前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記容量値を小さくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記容量値を大きくするための制御を行う。
【0037】
これによれば、項5と同様に、前記フィルタ回路の帯域幅の変動を抑えることができる。
【0038】
〔11〕(フィルタ回路の構成)
項2乃至10の何れかの半導体装置において、前記フィルタ回路(10、20)は、前記トランスコンダクタンス増幅器を複数有し、前記複数のトランスコンダクタンス増幅器のうち、第1トランスコンダクタンス増幅器(103a、203a)と第2トランスコンダクタンス増幅器(103b、203b)が直列に接続される。また、第3トランスコンダクタンス増幅器(103c、203c)が前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力信号を入力し、その出力を前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力端子にフィードバックするループを形成する。更に第4トランスコンダクタンス増幅器(103d、203d)が、前記第2トランスコンダクタンス増幅器の出力信号を入力し、前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力端子にフィードバックするループを形成する。
【0039】
これによれば、より安定した2次フィルタを実現することが可能となる。
【0040】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0041】
図1は、実施の形態1に係る、携帯電話や無線LAN等の無線通信向けの受信装置用のフィルタ回路を備えた半導体装置である。同図に示される半導体装置1は、特に制限されないが、公知のCMOS集積回路の製造技術によって1個の単結晶シリコンのような半導体基板に形成されている。同図には、説明の便宜上必要な構成要素のみ図示している。
【0042】
フィルタ回路10は、複数のGm回路103a〜103d(以下、総称する場合は“103”と表記する。)と、キャパシタの容量値が可変とされるキャパシタバンク104a、104b(以下、総称する場合は“104”と表記する。)を用いて所望のフィルタ特性を実現し、コモンフィードバック回路105a、105bにより、前記Gm回路103の出力端子のDC電圧(コモンモード電圧)が一定となるように制御される。
【0043】
図2は、前記Gm回路103の回路構成の一例である。
【0044】
前記Gm回路103は、差動入力段を構成するN型のMOSトランジスタQ1及びQ2と、前記Gm回路103のバイアス電流を供給する電流源を構成するN型のMOSトランジスタQ5及びQ6と、能動負荷を構成するP型のMOSトランジスタQ3及びQ4と、ラダーに配置されるソース抵抗R1、R2、及びR3を有する。前記MOSトランジスタQ3及びQ4のゲート端子には、前記コモンモードフィードバック回路105(CMFB)の出力端子が接続され、前記Gm回路103の出力コモンモード電圧を一定にしている。
【0045】
図3は、前記キャパシタバンク104の回路構成の一例である。
【0046】
図3に示されるキャパシタバンク104は、差動入力を構成する正側入力(+)と負側入力(−)を有し、前記Gm回路103の正側の出力と負側の出力に夫々接続される。前記キャパシタバンク104は、例えば、キャパシタC1とC2が常時接続され、最小の容量値は“C1+C2”である。前記キャパシタバンク104は、後述するフィルタ制御部101からの制御信号CNT2によって容量値が可変とされる。
【0047】
ここで、前記フィルタ回路10におけるフィルタ特性と、前記Gm回路103及び前記キャパシタバンク104における各種パラメータとの関係について説明する。
【0048】
まず、基準となるトランスコンダクタンスの値をGmとしたとき、前記Gm回路103a、103b、103c及び103dのトランスコンダクタンスの値を夫々、“u×Gm”、“v×Gm”、“p×Gm”、及び“w×Gm”とする。なお、u、v、p、及びwは、各Gm回路のGm値の重みづけを表わす定数である。また、キャパシタバンク104a、104bの容量値を夫々、Ca及びCbとする。このとき、前記フィルタ回路10のフィルタ特性は式1〜式4により表現される。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
【数3】

【0052】
【数4】

【0053】
ここで、式1は、前記フィルタ回路10の伝達関数であり、式2は前記フィルタ回路10の遮断周波数を表わす。また、式3は前記重みづけを表わす定数の夫々の関係を表わし、式4は、フィルタの共振のピークの鋭さを表わすQ値である。前記フィルタ回路に所望のフィルタ特性を持たせるためには、要求仕様に応じて“ωn”と“Q”の値を決定し、これらの値を満足するように、前記Gm回路103の夫々のトランスコンダクタンス“u×Gm”、“v×Gm”、“p×Gm”、及び“w×Gm”と、キャパシタバンクの容量C1、C2を決定すればよい。
【0054】
また、GmとダイナミックレンジΔVINは、式5と式6により表わされる。
【0055】
【数5】

【0056】
【数6】

【0057】
ここで、Iは図2におけるGm回路103の入力段MOSトランジスタQ1及びQ2に流れるドレイン電流(バイアス電流)である。また、WはMOSトランジスタQ1及びQ2のゲート幅であり、LはMOSトランジスタQ1及びQ2のゲート長である。また、CoxはMOSトランジスタQ1及びQ2の単位面積当たりの酸化膜容量であり、μはキャリアの移動度である。
【0058】
前記フィルタ回路10において、広帯域の帯域幅特性を得るためには、式2に示すように、前記Gm回路103のGmを大きくし、キャパシタCa及びCbの値を小さくすればよい。しかしながら、Gmが増加するほど線形性(ダイナミックレンジ)ΔVINが低下するため、回路設計の際は、要求される線形性の仕様値によってGmの上限値が決定され、また、キャパシタCa及びCbの素子ばらつき幅等によって容量の大きさの下限値が決定される。
【0059】
ダイナミックレンジΔVINを低下させることなくGmを増加させるためには、式5及び式6に示すように、ドレイン電流Iを増加させれば良い。ここで、式6に示すように、入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のアスペクト比(W/L)を小さくし、ドレイン電流を増加させると、ダイナミックレンジΔVINが拡大して線形性は改善する。しかしながら、式5に示すようにドレイン電流Iの増加量に対してアスペクト比(W/L)の低減量が大きい場合にはGmは低下する。そこで、ドレイン電流Iを増加させることなく、ダイナミックレンジΔVINを増加させるため、MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を挿入する。一般に、ソース側に抵抗を接続した場合、式7及び式8の関係が成り立つ。
【0060】
【数7】

【0061】
【数8】

【0062】
ここで、Rsはソース端子間の抵抗値である。
【0063】
式8に示すように、ソース抵抗Rsを大きくすることによって、ダイナミックレンジΔVINを増加させることができるが、式7に示すようにソース抵抗Rsの追加によって、Gmが減少する。更に、ソース抵抗Rsの値を大きくするほど、ソース抵抗から発生する熱雑音も多くなるため、雑音の要求仕様によって、ソース抵抗Rsの上限値が決定される。
【0064】
したがって、前記フィルタ回路10の設計を行う際は、要求される雑音の仕様を満足するようにソース抵抗Rsの値を決定してダイナミックレンジを確保するとともに、Gmの低下を抑えるために入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のアスペクト比(W/L)を大きくし、且つドレイン電流Iを増加させる。そして、前記キャパシタバンク104の容量値Ca及びCbの値を調整することで、要求される帯域幅を確保して、所望のフィルタ特性を実現する。
【0065】
図4Aは、前記フィルタ回路10において各パラメータを変更した場合の入力電圧Vinに対するDC特性(Gm及びダイナミックレンジΔVIN)を表わす特性図である。
【0066】
図4Bは、前記フィルタ回路10において各パラメータを変更した場合のAC特性(周波数帯域幅)を表わす特性図である。
【0067】
図4A及び図4Bに示される参照符号aは、前記Gm回路103の入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を入れない場合の特性を示したものである。この場合、ソース端子間に抵抗Rsを挿入しないことから入力電圧振幅Vinに対して大きなGmを得ることができる。これにより、広帯域、且つQが大きいフィルタ特性が得ることができる半面、入力電圧振幅Vinを増加させるとGmが低減し、大振幅の信号が入力されたとき、歪みが発生してしまう。
【0068】
図4A及び図4Bに示される参照符号bは、前記Gm回路103の入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を挿入せず、入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のアスペクト比(W/L)を小さくし、且つバイアス電流を増加させた場合の特性を示したものである。この場合、DC特性に関しては、参照符号(a)のグラフに比べて入力電圧振幅Vinに対するGmは低減しているが、入力電圧振幅Vinの増加に対するGmの変動量は小さく、大振幅の信号が入力されたときに発生する歪みも小さくなる。またAC特性に関しては、参照符号(a)に比べてGmが低下するため、フィルタ回路の通過帯域は減少する。所望の帯域幅を確保するためには、キャパシタバンクの容量値を小さくすることで遮断周波数を高域に移行させる。
【0069】
図4A及び図4Bに示される参照符号cは、前記Gm回路103の入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を挿入した場合の特性を示したものである。この場合、DC特性に関しては、参照符号(b)のグラフに比べて入力電圧振幅Vinに対するGmは低下するが、入力電圧振幅Vinの増加に対するGmの変動量は更に小さくなり、大振幅の信号が入力されたときであっても、ほとんど歪みが発生しない。また、AC特性に関しては、参照符号(b)のグラフに比べてGmが低下するため、フィルタの通過帯域は更に低下する。所望の帯域幅を確保するためには、キャパシタバンクの容量値を小さくすること、又は、アスペクト比(W/L)を大きくすると共にバイアス電流Iを増加させることにより、遮断周波数を高域に移行させることができる。なお、AC特性に関して、参照符号(b)及び参照符号(c)のグラフにおいて、Qの値が低下しているが、各Gm回路のGm値の重みづけの定数u、v、及びpを伝達関数に従った値に再設定することにより、所望のQ値を得ることができる。
【0070】
無線通信システム向けの受信装置用のフィルタ回路の設計においては、線形性仕様、雑音仕様、消費電力、回路面積、温度特性、電源電圧特性、及びプロセスばらつき等の制限下、所望のフィルタ特性が得られるように、バランス良く各種パラメータを決定しなければならない。例えば、同じAC特性(周波数帯域幅)を得るにあたり、Gm値とキャパシタ値を共に大きく設定して特性を得ることもできるし、Gm値とキャパシタ値を共に小さくして求める特性を得ることもできる。前者は少ない消費電流で大きなGmを得られるメリットがあるが、線形性仕様を満足せず、大きいキャパシタを要するため回路面積が大きくなるといったデメリットがある。後者は小さいキャパシタで実現することができるから回路面積が小さくなるメリットがあるが、前述したように、線形性の仕様を満足して必要なGmを確保するためにソース抵抗の追加する必要があり、ソース抵抗による熱雑音の増加、及び消費電流の増加というデメリットがある。したがって、所望の信号の受信レベルが小さく、近接妨害信号が大きい条件では後者で設計し、所望信号の受信レベルが小さく、近接妨害信号が小さい条件では前者で設計を行うことが有効である。そこで、本実施の形態に係るフィルタ回路10は、以下の制御を行う。例えば、強電界の妨害信号が存在する場合、前記フィルタ回路10は、前記Gm回路103の入力段のMOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を挿入することにより、ダイナミックレンジを拡大するとともに、挿入した抵抗が原因で低下したGmをバイアス電流の増加により増加させて所望のGmを得る。また、ソース端子間の抵抗とバイアス電流の調整により変化した帯域幅を、前記キャパシタバンク104の容量値を可変することにより所望の帯域幅に合わせ込む。一方、強電界の妨害信号が存在しない場合には、前記フィルタ回路10は、ダイナミックレンジを拡大する必要がないため、前記Gm回路103の入力段のMOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間に抵抗を挿入せず、バイアス電流の増加を行わない。
【0071】
上述した受信環境に応じたフィルタ特性の切り替え制御を行うため、実施の形態1に係る前記フィルタ回路10は、所望の信号特性を劣化させる妨害信号を検出するパワーディテクタ回路102と、妨害信号の電界強度に応じたフィルタ特性の切り替え制御を行うフィルタ制御部101を更に備える。
【0072】
図1に示される前記パワーディテクタ回路102は、所望の信号特性を劣化させる妨害信号の電圧振幅を検知するものであって、初段のGm回路103aの出力端子に現れる妨害信号の電圧振幅を検知する。前記パワーディテクタ回路102は、例えば、妨害信号がOFDM(Orthogonal Frequency−Division Multiplexing)のようにピーク値と平均値の差が10dB程度ある場合には、rms(実行値)特性を備えている。前記パワーディテクタ回路102は、検知した妨害信号の電圧振幅に応じて信号を出力し、前記フィルタ制御部101に与える。例えば、前記パワーディテクタ回路102は、検知した妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を超えた場合には、ロー(Low)レベルの信号を出力し、検知した妨害信号の電圧振幅が所定の閾値よりも小さくなった場合には、ハイ(High)レベルの信号を出力し、前記フィルタ制御部101に与える。前記所定の閾値は、例えば、受信する信号レベルと近接妨害信号の信号レベルとの関係から、受信する所望の信号に歪みが生じる妨害信号の電界強度を予め算出し、設定しておく。
【0073】
図1に示される前記フィルタ制御部101は、前記パワーディテクタ回路102から与えられた信号に応じて、前記Gm回路103a〜103dの夫々のバイアス電流値とソース端子間の抵抗値の切り替えを実行すると共に、前記キャパシタバンク104a及び104bの容量値の切り替えを実行する。
【0074】
前記フィルタ制御部101による前記ソース端子間の抵抗値、バイアス電流値、及びキャパシタの容量値の調整方法について、具体的に説明する。
【0075】
先ず、前記MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間の抵抗値は、図2に示されるように、前記フィルタ制御部101からの制御信号CNT1に基づいてN型のMOSスイッチQ21〜Q28が切り替えられることにより決定される。すなわち、前記ソース端子間の抵抗値は、前記制御信号CNT1に基づいて段階的に切り換え可能とされる。例えば、妨害信号が弱電界である場合には、前記フィルタ制御部101は、前記制御信号CNT1によりMOSトランジスタQ27及びQ28をオン状態とし、MOSトランジスタQ21〜Q26をオフ状態として、ソース端子間を短絡して抵抗を挿入しない。また、妨害信号が強電界である場合には、前記フィルタ制御部101は前記制御信号CNT1により、MOSトランジスタQ21及びQ22をオン状態とし、MOSトランジスタQ23〜Q28をオフ状態として、ソース端子間の抵抗値をR1とする。
【0076】
前記Gm回路103のバイアス電流値は、前記フィルタ制御部101の制御により、電流源Q5及びQ6のゲート端子に供給されるバイアス電圧(Bias)が調整されることによって調整され、バイアス電圧が大きい程バイアス電流は多くなる。バイアス電流の調整は、前記フィルタ制御部101が前記バイアス電圧を制御することにより行われる。前記フィルタ制御部101は、妨害信号が弱電界であって、ソース端子間に抵抗が挿入されていない場合には、バイアス電流を小さくする制御を行い、妨害信号が強電界であって、ソース端子間に抵抗が挿入されている場合には、前記フィルタ制御部101はバイアス電流を大きくする制御を行う。
【0077】
前記キャパシタバンク104の容量値は、前述のように前記フィルタ制御部101からの制御信号CNT2によって調整される。具体的には、図3において、キャパシタC3及びC4と、C5及びC6と、C7及びC8が、ペア毎に切り替え可能とされる。例えば、容量値を“C1+C2+C3+C4”とする場合には、キャパシタC3及びC4のペアをC1とC2に接続する。このとき、P型のMOSスイッチQ31、Q34、Q35、及びQ38をオン状態とし、N型のMOSスイッチQ32、Q33、Q36、及びQ37をオフ状態とする。これにより、キャパシタC3、C4が正側入力(+)と負側入力(−)間にC1及びC2と共通に接続される。一方、P型のMOSスイッチQ39、Q42、Q43、Q46、Q47、Q50、Q51、及びQ54をオフ状態とし、N型のMOSスイッチQ40、Q41、Q44、Q45、Q48、Q49、Q52、及びQ53をオン状態とすることで、キャパシタC5〜C8の両端がグラウンド端子VSSに接続され、不使用の状態となる。
【0078】
前記フィルタ制御部101によるフィルタ特性の調整を、図5を用いて詳細に説明する。
【0079】
図5は、前記フィルタ制御部101によるフィルタ特性の調整に係る動作フローの一例である。
【0080】
図5では、前記フィルタ回路10が、大振幅の入力信号を許容できるようにダイナミックレンジを広く設定する通常モードと、ダイナミックレンジを狭く設定する低消費電流モードの2つの動作モードを切り替える場合を一例として説明する。
【0081】
先ず、前記フィルタ回路10は、前記パワーディテクタ回路102のイネーブル状態に設定して、妨害信号を検出できる状態にする(S1001)。このとき、前記フィルタ制御部101は、前記Gm回路103及び前記キャパシタバンク104を制御して、前記フィルタ回路10を前記通常モードに設定する。そして、信号が前記Gm回路103aに入力されると、前記パワーディテクタ回路102は、前記Gm回路103aの出力信号に含まれる妨害信号の振幅を検出する(S1002)。前記パワーディテクタ回路102が、妨害信号の電圧振幅を検知する期間は、例えば、フィルタのセットアップ時間を考慮して、所望信号が入力されてから実行データを受信するまでのプリアンブルの期間とするとよい。
【0082】
妨害信号の振幅を検出した前記パワーディテクタ回路102は、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を上回っているか否かを判定する(S1003)。ステップ1003において、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を上回っていると判定した場合、すなわち、妨害信号により信号が歪むおそれがあると判断した場合には、ステップ1002に移行し、妨害信号の検出動作を繰り返す。一方、ステップ1003において、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を下回っていると判定した場合、すなわち、妨害信号により信号が歪むおそれがないと判断した場合には、前記パワーディテクタ回路102は、例えば、ハイレベルの信号を前記フィルタ制御部101に与え、前記低消費電流モードに移行させる(S1004)。前記低消費電流モードの設定は、例えば、前記Gm回路103のバイアス電流を少なくし、入力段MOSトランジスタのソース抵抗を挿入せず、且つキャパシタバンクの容量Cを大きくする。これにより、妨害信号が弱電界である場合には、前記フィルタ回路10は、Gmが大きく、且つダイナミックレンジは狭い状態に設定され、消費電流の低い状態となる。
【0083】
続いて、前記パワーディテクタ回路103が妨害信号の電圧振幅の検出を開始する(S1005)。前記パワーディテクタ回路102は、ステップ1003と同様に、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を上回っているか否かを判定する(S1006)。ステップ1006において、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を下回っていると判定した場合、すなわち、妨害信号により信号が歪むおそれがないと判断した場合には、動作モードを切り替えることなく、ステップ1005に移行し、妨害信号の検出動作を繰り返す。一方、ステップ1006において、妨害信号の電圧振幅が所定の閾値を上回っていると判定した場合、すなわち、妨害信号により信号が歪むおそれがあると判断した場合には、前記パワーディテクタ回路102は、例えば、ローレベルの信号を前記フィルタ制御部101に与え、前記通常モードに移行させる(S1007)。そして、上記のフィルタ特性を調整する処理がステップ1001から繰り返し実行される。
【0084】
以上、実施の形態1に係るフィルタ回路を備えた半導体装置によれば、妨害信号の電界強度に応じてダイナミックレンジを調整するから、強電界の妨害信号が存在しない場合には、フィルタ回路の消費電流を低減することができる。また、電界強度に応じたダイナミックレンジの調整に伴いフィルタの帯域幅が所望の帯域幅からずれた場合であっても、前記キャパシタバンク104の容量値を調整して帯域幅を調整することができる。すなわち、前記フィルタ回路10を備えた半導体回路によれば、妨害信号の電界強度に応じて必要なフィルタ特性を維持しつつ、フィルタ回路全体として低消費電流化を実現することができ、環境負荷の低減に資する。
【0085】
≪実施の形態2≫
図6は、実施の形態2に係る、携帯電話や無線LAN等の無線通信向けの受信装置用のフィルタ回路を備えた半導体装置である。同図に示される半導体装置2は、特に制限されないが、公知のCMOS集積回路の製造技術によって1個の単結晶シリコンのような半導体基板に形成されている。同図には、説明の便宜上必要な構成要素のみ図示している。図6において、実施の形態1に係るフィルタ回路10と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0086】
実施の形態1に係るフィルタ回路10におけるGm回路103は、図2に示したように抵抗R1〜R3の両端に接続されるMOSスイッチQ21〜Q28のオン抵抗の影響を受ける。このオン抵抗は前記抵抗R1〜R3と同様に雑音を発生させる原因となり、雑音等に関し要求される仕様によっては許容できない場合がある。そこで、実施の形態2に係るフィルタ回路2は、前記Gm回路103の代わりに、Gm回路203を備える。
【0087】
図7は、前記Gm回路203の回路構成の一例である。
【0088】
図7において、入力段のMOSトランジスタと定電流源を構成するMOSトランジスタを接続した回路ブロック2031〜2034が複数あり、夫々の回路ブロック2031〜2034における入力段のN型MOSトランジスタQ1とQ2、Q61とQ62、Q65とQ66、及びQ69とQ70のドレイン端子が、能動負荷を構成するP型のMOSトランジスタQ3とQ4のドレイン端子に接続されている。夫々の回路ブロック2031〜2034において、夫々の回路ブロック2031〜2034における定電流源を構成するN型のMOSトランジスタQ5とQ6、Q63とQ64、Q67とQ68、及びQ71とQ72の夫々の電流値は、バイアス電圧Bias1、Bias2、Bias3、及びBias4により制御される。また、入力段のMOSトランジスタのソース端子間の抵抗値は夫々の回路ブロック2030〜2033によって異なる。例えば、入力段MOSトランジスタQ1及びQ2のソース端子間は短絡され、入力段MOSトランジスタQ61及びQ62のソース端子間には抵抗R11が接続され、入力段MOSトランジスタQ65及びQ66のソース端子間には抵抗R12が接続され、入力段MOSトランジスタQ69及びQ70のソース端子間には抵抗R13が接続される。前記Gm回路203のソース端子間の抵抗値は以下のように制御される。
【0089】
例えば、妨害信号が弱電界である場合、前記フィルタ制御部101は前述と同様に前記パワーディテクタ回路102から信号を受け取る。前記フィルタ制御部101は、受け取った信号に応じてソース端子間の抵抗値を小さくするように制御する。例えば、前記フィルタ制御部101は、前記バイアス電圧Bias1に所定の電圧を印加して電流供給を行うと共に、バイアス電圧Bias2〜4に“0V”を印加してQ63とQ64、Q67とQ68、及びQ71とQ72をオフ状態とする。一方、妨害信号が強電界である場合には、前記フィルタ制御部101は、前記パワーディテクタ回路102から受け取った信号に応じて、ソース端子間の抵抗値を大きくするように制御を行う。例えば、前記バイアス電圧Bias3に所定の電圧を印加して電流源Q67とQ68により電流供給を行わせると共に、それ以外の定電流源Q5とQ6、Q63とQ64、及びQ71とQ72のゲート端子には“0V”を印加してオフ状態とする。このとき、定電流源Q63とQ64、Q67とQ68、及びQ71とQ72のうち何れの定電流源にバイアス電圧を供給するかは、設定したいソース端子間の抵抗値に基づいて決定する。
【0090】
以上、実施の形態2に係るフィルタ回路20を備えた半導体装置によれば、各電流源にバイアス電圧を与えるか否かにより、ソース端子間の抵抗値とバイアス電流値の双方を調整することができる。これにより、MOSスイッチのON抵抗の影響を受けることなくソース端子間の抵抗値を調整することができ、より雑音耐性のある回路の実現が可能となる。また、その他の制御を実施の形態1と同様とすることで、妨害信号の電界強度に応じて必要なフィルタ特性を維持しつつ、フィルタ回路全体として低消費電流化を実現することができる。
【0091】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0092】
例えば、前記フィルタ回路10及び20において、前記Gm回路103及び前記Gm回路203の電流源の電流値の制御をバイアス電圧Biasにより制御する方法を示したが、これに限られない。例えば、前記Gm回路103において、定電流源Q5及びQ6が、図示されない別のMOSトランジスタとの間でカレントミラー回路を構成する場合には、当該カレントミラー回路の基準電流の電流値を変更することで前記電流源Q5及びQ6の電流値を調整する方法としてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10、20 フィルタ回路
101 フィルタ制御部
102 パワーディテクタ回路
103a〜103d、203a〜203d Gm回路(相互コンダクタンス増幅器)
104a、104b キャパシタバンク
105a、105b コモンフィードバック回路
2031〜2034 回路ブロック
Q1、Q2、Q61、Q62、Q65、Q66、Q69、Q70 入力段N型MOSトランジスタ
Q5、Q6、Q63、Q64、Q67、Q68、Q71、Q72 定電流用N型MOSトランジスタ
Q3、Q4 負荷用P型MOSトランジスタ
R1〜R3、R11〜R13 抵抗
Q21〜Q28 抵抗値選択用N型MOSトランジスタ
C1〜C8 キャパシタ
Q31〜Q54 容量値選択用MOSトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスコンダクタンス増幅器とキャパシタから構成されるフィルタ回路を有する半導体装置であって、
前記フィルタ回路は、妨害信号の電界強度を検出する検出部と、
前記検出された電界強度に応じて、前記トランスコンダクタンス増幅器の差動入力段のトランジスタのソース側のインピーダンスと前記トランスコンダクタンス増幅器のバイアス電流の双方を調整するための制御を行う制御部と、を有する半導体装置。
【請求項2】
前記トランスコンダクタンス増幅器は、差動入力段を構成するトランジスタ対と、
前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、電流値が調整可能とされる定電流源と、
前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース端子間に接続され、抵抗値が調整可能とされる抵抗部と、
前記トランジスタ対の夫々のトランジスタのドレイン側に接続される負荷素子と、を有し、
前記制御部は、前記検出された電界強度に応じて、前記定電流源の電流値と前記抵抗部の抵抗値の双方を調整するための制御を行う、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記キャパシタは容量値が調整可能とされ、
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度に応じて前記容量値を調整するための制御を行う、請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記定電流源の電流値及び前記ソース端子間の抵抗値を大きくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記定電流源の電流値及び前記ソース端子間の抵抗値を小さくするための制御を行う、請求項3記載の半導体装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記容量値を小さくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記容量値を大きくするための制御を行う、請求項4記載の半導体装置。
【請求項6】
前記トランスコンダクタンス増幅器は、差動入力段を構成する第1トランジスタ対と、
前記第1トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、供給されるバイアス電圧に応じた電流を供給する第1定電流源と、
前記第1トランジスタ対と同一の信号を入力し、差動入力段を構成する第2トランジスタ対と、
前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース側に接続され、供給されるバイアス電圧に応じた電流を供給する第2定電流源と、
前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのソース端子間に接続される抵抗と、
前記第1トランジスタ対及び前記第2トランジスタ対の夫々のトランジスタのドレイン側に共通に接続される負荷素子と、を有し、
前記制御部は、前記検出された電界強度に応じて、前記第1定電流源と前記第2定電流源のうち何れか一つの定電流源を選択し、バイアス電圧を供給することにより、前記インピーダンスと前記バイアス電流の双方を調整するための制御を行う、請求項1記載の半導体装置。
【請求項7】
前記トランスコンダクタンス増幅器は、前記第2トランジスタ対、前記第2定電流源、及び前記抵抗を一組とするセットを複数セット有し、
前記複数セットの前記抵抗は夫々異なる抵抗値とされる、請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
前記キャパシタは容量値が調整可能とされ、
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度に応じて前記容量値を調整するための制御を行う、請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記インピーダンス及び前記バイアス電流が大きくなるように、前記第1定電流源と前記第2定電流源の何れか一つの定電流源にバイアス電圧を供給し、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記インピーダンス及び前記バイアス電流が小さくなるように、前記第1定電流源と前記第2定電流源の何れか一つの定電流源にバイアス電圧を供給する制御を行う、請求項8記載の半導体装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも大きいとき、前記容量値を小さくするための制御を行い、前記検出された妨害信号の電界強度が所定の閾値よりも小さいとき、前記容量値を大きくするための制御を行う、請求項9記載の半導体装置。
【請求項11】
前記フィルタ回路は、前記トランスコンダクタンス増幅器を複数有し、
前記複数のトランスコンダクタンス増幅器のうち、第1トランスコンダクタンス増幅器と第2トランスコンダクタンス増幅器が直列に接続され、
第3トランスコンダクタンス増幅器が前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力信号を入力し、その出力を前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力端子にフィードバックするループを形成し、
第4トランスコンダクタンス増幅器が、前記第2トランスコンダクタンス増幅器の出力信号を入力し、前記第1トランスコンダクタンス増幅器の出力端子にフィードバックするループを形成する、請求項2又は6記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−239265(P2011−239265A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110049(P2010−110049)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】