半導体製造装置
【課題】半導体ウェハのダイシング中にチッピングを発生することなく良好な切断面を有する半導体素子を作製することができる半導体製造装置を提供することにある。
【解決手段】ダイシングブレード34がダイシングシート11に切り込むように半導体ウェハ12のダイシングを行うと共に、その切り込み量Dがダイシングブレード34の円弧状の刃先先端部の半径rに対して((r×1/5)≦D≦rの範囲となるようにした。
【解決手段】ダイシングブレード34がダイシングシート11に切り込むように半導体ウェハ12のダイシングを行うと共に、その切り込み量Dがダイシングブレード34の円弧状の刃先先端部の半径rに対して((r×1/5)≦D≦rの範囲となるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置に関するものであり、詳しくは、半導体ウェハを切断して複数の半導体素子に分割(個片化)するダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の半導体製造装置のうち、ダイシング装置に係わる従来例として、以下に説明するようなものが開示されている。
【0003】
それは、予め、回転ダイシングソウの回転ブレードの先端を、X方向、Y方向及びZ方向に移動可能なX−Y−Zステージ上に取付けられた支持テーブルの上面に当接させた状態で、レーザ距離センサ(レーザ距離センサの投受光位置)から前記支持テーブルの上面までの距離を測定して取込む。
【0004】
そして、半導体ウェハを支持テーブル上にワックスを介して載置した後、回転ブレードを回転させた状態でレーザ距離センサから半導体ウェハの上面までの距離を取込みながら予め取込まれたレーザ距離センサから支持ステージの上面までの距離に基づくフィードバックにより、X−Y−ZステージのZ方向(高さ方向)の位置をリアルタイムで制御しながら所望の切り込み深さで半導体ウェハのダイシングを行うものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、他の従来例として、X−θステージ上に取付けられたワークテーブル上にワークをダイシングシートを介して載置し、加工部に取付けられたレーザ測長器によって予め、ダイシングシートとワークの合計厚み、及びダイシングシートの厚みを測定し取込む。この場合、レーザ測長器からワークテーブルの上面までの距離は予め測定されて記憶されており、レーザ測長器からダイシングシートの上面までの距離、及びレーザ測長器からワークの上面までの距離を測定することにより、ダイシングシート及びワークの夫々の厚みを容易に算出することができる。
【0006】
その後、回転ブレードを高速で回転させた状態で、レーザ測長器からワークの上面までの距離を取込んで、予め取込まれたレーザ測長器からワークテーブルの上面までの距離及び所望の切り込み深さに基づくフィードバックにより、加工部のZ方向(上下方向)の位置を制御して所望の切り込み深さでワークのダイシングを行うものである(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−232258号公報
【特許文献2】特開2003−151923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記ダイシング装置のうち前者(特開平6−232258号公報)のものは、ワックスの厚みと半導体ウェハの厚みを個別に測定するものではない。そのため、特にワックスの厚みがダイシング毎に異なる場合、ワックスへの切込み深さが一定せず、半導体ウェハが回転ブレードの異なる領域で切断されるものとなり、切断面の状態が一定にならない。
【0009】
また、後者(特開2003−151923号公報)のダイシング装置は、上述のようにダイシングシート及びワークの夫々の厚みが算出できるため、ワークを回転ブレードの所定の領域で且つ一定の領域で切断することができ、切断面の状態を一定にすることができる。
【0010】
但し、ワークを、例えば半導体ウェハと仮定すると、半導体ウェハの種類や、それを回転ブレードのどの領域で切断するかによって、切断面の状態が異なるものとなる。
【0011】
具体的には、回転ブレード80の刃先は、図7に示すように、該回転ブレード80を径方向に切断したときの断面形状が、例えば半径rの円弧状を呈しており、図8のように、回転ブレード80の刃先がワークテーブル81上のダイシングシート82まで達しない場合は、半導体ウェハ83が完全には切断されず切残しが生じるため、ダイシング工程としては好ましくない。
【0012】
また、図9に示すように、ワークテーブル81上のダイシングシート82に対して回転ブレード80の刃先の切り込みが浅い場合は、図10のように、切断後の半導体素子84の切断面の形状が、回転ブレードの刃先の形状を転写して部分的に円弧形状を呈することになる。つまり、半導体素子84はその全体形状が底部全周に亘って鋭利な突起部85を有するものとなる。
【0013】
この突起部は、ダイシング工程において、高速で回転する回転ブレードの振動によりチッピング(欠け)を生じる原因ともなる。
【0014】
また、図11に示すように、ダイシングシート82に対して回転ブレード86の位置がA1で刃先の切り込みが深い場合は、ダイシングシート82に対して回転ブレード86の位置がA2で刃先の切り込みが浅い場合に比べて、半導体ウェハ83の切断面に対する回転ブレード86の刃先の進入角度が大きくなる。つまり、A1の位置の回転ブレード86の半導体ウェハ83に対する進入角度をα1とし、A2の位置の回転ブレード86の半導体ウェハ83に対する進入角度をα2とすると、α1>α2の関係となる。
【0015】
すると、86回転ブレードによる半導体ウェハ83の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、ダイシング中に半導体ウェハ83にチッピングが発生し易くなる。
【0016】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、半導体ウェハのダイシング中にチッピングを発生することなく良好な切断面を有する半導体素子を作製することができる半導体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで前記ダイシングシートの途中まで切り込んで切断することにより、複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置であって、前記ダイシングブレードを径方向に切断したときの刃先の先端部の断面形状を半径rの円弧状とし、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量をDとしたときに、(r×1/5)≦D≦rの条件下で前記半導体ウェハの切断が行われることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、厚み測定器で測定された前記ダイシングシートの厚みと、予め前記((r×1/5)≦D≦rの範囲で設定された、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量とにより、前記ダイシングシートに切り込む前記ダイシングブレードの位置が設定されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで切断することにより複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置を、ダイシングブレードがダイシングシートに切り込むように半導体ウェハのダイシングを行うと共に、その切り込み量Dがダイシングブレードの円弧状の刃先先端部の半径rに対して((r×1/5)≦D≦rの範囲となるようにした。
【0020】
その結果、半導体ウェハを個片化した半導体素子は、該半導体素子の切断面がチッピングの発生を抑制した平滑な平坦状に形成され、基台に対する優れた実装性と素子特性に対する優れた信頼性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係わる実施形態の説明図である。
【図2】実施形態の制御系に係わる説明図である。
【図3】ダイシング実験におけるダイシング状態を示す説明図である。
【図4】ダイシング実験の実験結果を示す表である。
【図5】ダイシングの最適状態を説明する説明図である。
【図6】同様に、ダイシングの最適状態を説明する説明図である。
【図7】従来例の説明図である。
【図8】同様に、従来例の説明図である。
【図9】同様に、従来例の説明図である。
【図10】同様に、従来例の説明図である。
【図11】同様に、従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図6を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0023】
図1は、実施形態に係わる半導体製造装置の説明図である。半導体製造装置(半導体ウェハのダイシング装置:以下、ダイシング装置と略称する)1は、符号10で示すワークカセット部、符号20で示す搬送部、符号30で示すダイシング部、及び符号50で示すダイシングブレード位置制御部を備えている。
【0024】
ワークカセット部10は、予めダイシングシート11に半導体ウェハ12が貼着されてなるワーク13を所定の数だけ収納し、送出要求に基づいて順次1シートずつ後述する搬送部20に送り出す機構を有している。
【0025】
搬送部20は、ワークカセット部10から送出されたワーク13を後述するダイシング部30のワークテーブル33に搬送する機能を有している。具体的には、例えばエンドレスベルト21と該エンドレスベルト21を支持し走行を駆動する複数の回転ロール22を備えている。
【0026】
また、エンドレスベルト21の上方には非接触式フィルム厚測定器(以下、フィルム厚測定器と略称する)23が配設されており、エンドレスベルト21の走行に伴ってワークカセット部10からダイシング部30に搬送されるワーク13のダイシングシート11の厚みを非接触で測定するようになっている。この非接触式のフィルム厚測定器23は、測定媒体にX線を用いるX線方式、測定媒体に赤外線を用いる赤外線方式、測定媒体にレーザ光を用いるレーザ方式等のものが使用されると共に、0.001〜1mm程度の測定レンジを有するものが用いられる。
【0027】
ダイシング部30は、X方向及びY方向に移動可能なX―Yステージ31上にθ方向に回動可能なθステージ32が設けられ、該θステージ32上にワークテーブル33がX方向、Y方向及びθ方向に移動及び回動可能に取付けられている。ワークテーブル33は上面に載置されたワーク13を吸着固定する機能を有している。そして、ワークテーブル33の上方にはZ方向(ワークテーブル33に略垂直な方向)に移動可能なダイシングブレード34が配設されている。
【0028】
ダイシングブレード34はブレード駆動用モータ(図示せず)のシャフト(回転軸)35の端部に嵌合固定され、ブレード駆動用モータはZ方向に移動可能なモータ支持部(図示せず)に支持固定されている。
【0029】
以上は、ダイシング装置の機械的構成についての説明であるが、以下に上記構成のダイシング装置の作動に係わる制御系(ダイシングブレード位置制御部50)について図2を参照して説明する。
【0030】
ダイシングブレード位置制御部50は、データを算出するデータ算出部とデータを格納するデータ格納部を有している。
【0031】
そのうち、データ格納部は、ダイシング工程に先立って設定及び測定されたデータの格納部と、ダイシング工程中に取り込まれるデータの格納部と、データ算出部で算出されたデータの格納部とを有している。
【0032】
ダイシング工程に先立って設定及び測定されたデータの格納部には、ダイシングブレード34を径方向に切断したときの断面円弧状の刃先の半径(r)に基づいて、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値を格納する切込量格納部S1と、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データを格納するブレード基準位置データ格納部S2がある。
【0033】
ダイシング工程中に取り込まれるデータの格納部は、ワークカセット部10からダイシング部30に搬送中に、ワーク13のダイシングシート11に対して複数の測定ポイントで測定された各測定ポイント毎の厚みデータを格納するシート厚データ格納部S3(S3(1)〜S3(n))である。
【0034】
また、データを算出するデータ算出部と該データ算出部で算出されたでデータを格納するデータ格納部とは一対で存在し、シート厚データ格納部S3に格納されたダイシングシート11の各厚みデータ(S3(1)〜S3(n))から平均値を算出する厚み平均算出部S4と、厚み平均算出部S4で算出されたダイシングシート11の厚みの平均値を格納する厚み平均値格納部S5とが一対となる。
【0035】
同様に、前記厚み平均値格納部S5に格納されたダイシングシート11の厚みの平均値から予め切込量格納部S1に格納された、ダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値を減算してワークテーブル33の上面に対するダイシングブレード34の刃先の最適な高さを算出する刃先最適位置算出部S6と、刃先最適位置算出部S6で算出されたダイシングブレード34の刃先の最適な高さを格納する刃先最適位置格納部S7とが一対となる。
【0036】
更に同様に、前記刃先最適位置格納部S7に格納された、ワークテーブル33の上面に対するダイシングブレード34の刃先の最適な高さデータに基づいて、予めブレード基準位置データ格納部S2に格納された、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データから、ダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置を算出するダイシングブレード最適位置算出部S8と、ダイシングブレード最適位置算出部S8で算出されたダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置を格納するダイシングブレード最適位置格納部S9とが一対となる。
【0037】
そして、ダイシングブレード最適位置格納部S9からのダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置データによって、ダイシング時のダイシングブレード34のZ方向の位置が制御され、最適化された条件の下で半導体フェハ12のダイシングが行われる。
【0038】
ところで、予め切込量格納部S1に格納される、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値については、前以て実験によって具体的に求めている。以下にその実験内容及び結果を説明する。
【0039】
図3のように、径方向に切断したときの断面円弧状の刃先の半径(r)を0.015mmとするダイシングブレード34によって、厚み0.135〜0.137mmと0.143〜0.146mmの2種類のダイシングシート11の夫々に対して、切込位置D1(−0.004mm)、D2(−0.002mm)、D3(0.000mm)、D4(+0.005mm)、D5(+0.010mm)、D6(+0.015mm)、D7(+0.02mm)、D8(+0.025mm)とする半導体ウェハ12のダイシングを行った。この場合、半導体ウェハ12とダイシングシート11との境界面(S)の位置を0.000mmとし、境界面(S)から半導体ウェハ12側の方向を(−)方向とし、ダイシングシート11側の方向を(+)方向とする。
【0040】
すると、実験結果をまとめた図4の表より、いずれのダイシングシート11においても、ダイシングシート11に対するダイシングブレード34の切込量がD4(+0.005mm)〜D6(+0.015mm)の範囲においては、ダイシングによって複数の個片化された半導体素子の夫々に欠けの発生が抑制されていることがわかる。
【0041】
そこで、ダイシングによって複数の個片化された半導体素子の夫々に欠けを生じないときの、ダイシングブレードの刃先の半径(r)とダイシングシートに対するダイシングブレードの切込量(D)との関係は、上記実験結果に基づいて(r×(1/5))≦D≦rとする関係式を導くことができる。この関係式によると、ダイシングブレードの刃先の半径(r)を0.015mmとすると0.003mm≦D≦0.015mmとなり、0.003mmから0.005mmの範囲は実験結果の半導体素子に欠けを生じない範囲から外れているが、実際にはこの範囲においても実験によって半導体素子に欠けを生じないことを確認している。
【0042】
したがって、切込量格納部S1に格納される、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量は、(r×(1/5))≦D≦rの関係式で表される範囲であることが好ましい。
【0043】
そこで、(r×(1/5))≦D≦rの関係式に基づいて半導体ウェハのダイシング状態を考察すると以下のようになる。
【0044】
図5(a)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離DがD<0の範囲にある場合、換言すると、ダイシングブレード34の刃先の先端がダイシングシート11まで達しない場合は、半導体ウェハが完全には切断されず切残しが生じるため、ダイシング工程としては好ましくない。
【0045】
また、図5(b)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離Dが0≦D<(r×(1/5))の範囲にある場合、換言すると、ダイシングブレード34の刃先の先端がダイシングシート11まで達してはいるが、ダイシングシート11に対する切り込みの量(深さ)が刃先の半径(r)の1/5よりも少ない(浅い)場合は、切断後の半導体素子の切断面の形状が、ダイシングブレード34の刃先の形状を転写して部分的に円弧形状を呈することになる。つまり、半導体素子はその全体形状が底部全周に亘って鋭利な突起部を有するものとなる。
【0046】
この突起部は、ダイシング工程において、高速で回転するダイシングブレード34の振動によりチッピング(欠け)を生じる原因ともなる。特に、図5(b)の場合に生じるチッピングは、図5(b´:図5(b)のダイシング後の半導体素子14の裏面図)のように、半導体素子14の切断面に沿って底面が断面円弧形状に欠けるチッピング12aが発生し易くなる。
【0047】
また、図5(d)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離DがD>rの範囲にある場合、換言すると、図6に示すように、ダイシングブレード34の位置がA1のときのダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の先端の切り込み量(深さ)が刃先の半径(r)よりも大きい(深い)場合は、ダイシングブレード34の位置がA2のときのダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の先端の切り込み量(深さ)が浅い場合に比べて、半導体ウェハ12の切断面に対するダイシングブレード34の刃先の進入角度が大きくなる。つまり、A1の位置のダイシングブレード34の半導体ウェハ12に対する進入角度をα1が、A2の位置のダイシングブレード34の半導体ウェハ12に対する進入角度をα2よりも大きくなる。
【0048】
すると、ダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、図5(d)のように、ダイシング中に切断面のダイシングシート11と接する部分に円弧状に欠けるチッピング12bが発生し易くなる。
【0049】
その原因としては、ダイシングブレード34の刃先にダイシングシート11が付着して、ダイシングシート11が半導体ウェハ12と接する部分に盛り上がり、図5(d´:図5(d)のダイシング後の半導体素子14の裏面図)のように、半導体素子14の切断面を起点に、その底面が欠けるチッピング12bを誘発するものと考えられる。
【0050】
あるいは、上述したように、ダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、その荷重圧力で半導体ウェハ12の切断部分がダイシングブレード34に巻き込まれてチッピングを起こす。
【0051】
なお、チッピング12bは、切断した半導体素子14の側面に沿った底面に発生する点でチッピング12aと共通するが、チッピングの形状および分布状態が完全に異なるものとして分類できる。具体的には、チッピング12aが切断面に沿って断面円弧状をなしており、ダイシングにより個片化した半導体素子14を底面側から観察したときに、ダイシングしたストリートラインとほぼ平行に分布する(図5(b´)参照)。一方、チッピング12bは切断面に沿って断面円弧形状もしくは直線形状であり、全体としては非円弧形状をなす。また、ダイシングにより個片化した半導体素子14を底面側から観察したときに、ダイシングしたストリートラインの面に沿って非平行、おおよそ、円弧形状(1/4円弧)に分布する傾向を示す(図5(d´)参照)。
【0052】
同時に、図6に示すように、半導体ウェハ12に対するダイシングブレード34の位置がA1、A2のときのダイシングブレード34の夫々の刃先の進入角度α1、α2と同様に、半導体ウェハ12に対するダイシングブレード34の位置がA1、A2のときのダイシングブレード34の夫々の刃先の脱出角度β1、β2も異なるものとなり、ダイシングブレード34の位置がA2のときのダイシングブレード34の脱出角度β1が、ダイシングブレード34の位置がA1のときの脱出角度β2よりも大きくなる。そのため、A1の位置のダイシングブレード34の回転に引きずられてダイシングシート11が盛り上がり、それに伴ってダイシングシート11と半導体ウェハ12との貼着性が低下する。すると、半導体ウェハ12のダイシングシート11に対する貼着性が低下した部分がダイシングブレード34の回転による振動を受けチッピング12bを生じ易くなる、等の原因が考えられる。
【0053】
また、図5(c)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離Dが(r×(1/5))≦D≦rの範囲にある場合、半導体ウェハ12のダイシングブレード34による切断面は、ダイシングブレード34の刃先の形状の影響を受けることがなく、且つダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力も大きくはない。そのため、ダイシング後の個々の半導体素子はチッピングがなく且つ断面が平滑な平坦状に形成される。
【0054】
したがって、切込量格納部S1に上記(r×(1/5))≦D≦rの関係式から導かれた値を格納した状態で一連のダイシング工程を進めることにより、半導体素子の良品を高い歩留まりで作製することができる。
【0055】
次に、本ダイシング装置の作動について、図1及び図2を参照して説明する。
【0056】
まず、予め、切込量格納部S1及びブレード基準位置データ格納部S2に所定のデータを格納すると共に、ワークカセット部10にダイシングシート11に半導体ウェハ12が貼着されてなるワーク13を所定の数だけ収納する。また、予め、θステージ32を作動させてワークテーブル33をθ方向の所定の位置に位置合わせを行う。
【0057】
次に、ダイシング工程をスタートさせる。すると、ワークカセット部10からワーク13が搬送部20のエンドレスベルト21上に送出され、エンドレスベルト21の走行に伴ってダイシング部30の方に搬送される。その途中、非接触式のフィルム厚測定器23によって、ワーク13のダイシングシート11の厚みが複数の測定ポイントにおいて測定され、各測定ポイントにおける厚みデータ(S3(1)〜S3(n))がシート厚データ格納部S3に格納される。
【0058】
その後、シート厚データ格納部S3に格納された夫々の厚みデータ(S3(1)〜S3(n))を厚み平均算出部S4に送って厚みの平均値(W)を算出し、結果を厚み平均値格納部S5に格納する。
【0059】
その後、厚み平均値格納部S5に格納された厚みの平均値(W)のデータを刃先最適位置算出部S6に送ると共に、予め切込量格納部S1に格納された切込量設定値D(具体的には、(r×(1/5))≦D≦r、rはダイシングブレードの刃先の半径)を読出して刃先最適位置算出部S6に送り、刃先最適位置算出部S6において厚みの平均値(W)から切込量設定値Dを減算し、結果(W−D)=Hを刃先最適位置格納部S7に格納する。このとき、刃先最適位置格納部S7に格納されたデータは、ワークテーブル33の上面からダイシングブレードの刃先までの距離の最適値である。
【0060】
最後に、刃先最適位置格納部S7に格納されたデータ(H)をダイシングブレード最適位置算出部S8に送ると共に、予めブレード基準位置データ格納部S2に格納にされた、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データ(E)を読出してダイシングブレード最適位置算出部S8に送り、ダイシングブレード最適位置算出部S8において、ワークテーブル33の上面からダイシングブレードの刃先までの距離の最適値(H)に基づいて、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置(E)から、ダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置(P)を算出され、結果がダイシングブレード最適位置格納部S9に格納される。
【0061】
この間、ワーク13はエンドレスベルト21上を搬送された後、ワークテーブル33上に移送されて該ワークテーブル33に吸着固定される。
【0062】
その後、このダイシングブレード最適位置格納部S9に格納されたダイシングブレード34の最適化された位置データ(P)に基づいてダイシングブレード34のZ方向の位置が設定されてダイシングブレード34の高速回転が開始される。そして、ワーク13を吸着固定したワークテーブル33をX方向の一方の側に向かって移動して半導体ウェハ12に一本の切り込みを入れ、Y方向に所定のピッチで移動してX方向の他方の側に向かって2本目の切り込みを入れる。この操作を繰り返すことにより、半導体ウェハ12に対して所定の間隔でX方向に延びる複数の切り込みが平行に並設される。
【0063】
その後、θステージ32を作動させてワークテーブル33をθ方向に90°回転させ、上記同様に、ワークテーブル33をX方向の一方の側に向かって移動して半導体ウェハ12に一本の切り込みを入れ、Y方向に所定のピッチで移動してX方向の他方の側に向かって2本目の切り込みを入れる。この操作を繰り返すことにより、半導体ウェハ12に対して所定の間隔でX方向に延びる複数の切り込みが平行に並設される。
【0064】
すると、半導体ウェハ12に、所定の間隔で平行に並設された複数の切り込みが互いに直交する方向の夫々に形成されることになり、ダイシングシート11上には半導体ウェハ12を縦横に分離して個片化した複数の半導体素子が位置することになる。
【0065】
このとき、ダイシングシート上で個片化された夫々の半導体素子は、切断時にダイシングシートに対する切込量Dを((r×(1/5))≦D≦r、rはダイシングブレードの刃先の半径)の範囲に設定し、最適な切り込み条件の下にダイシングを行うようにした。
【0066】
その結果、個片化された半導体素子は、該半導体素子の切断面がチッピングの発生を抑制した平滑な平坦状に形成され、基台に対する優れた実装性と素子特性に対する優れた信頼性を有するものとなる。
【0067】
なお、本発明の半導体製造装置は、ダイシング時にSi系ウェハに比べてチッピングが生じ易いGaAs系、GaP系、GaAsP系、InGaAlのウェハに用いることによりその特徴を効果的に活用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1… 半導体製造装置(半導体ウェハのダイシング装置)
10… ワークカセット部
11… ダイシングシート
12… 半導体ウェハ
12a… チッピング(欠け)
12b… チッピング(欠け)
13… ワーク
14… 半導体素子
20… 搬送部
21… エンドレスベルト
22… 回転ロール
23… 非接触式フィルム厚測定器
30… ダイシング部
31… X−Yステージ
32… θステージ
33… ワークテーブル
34… ダイシングブレード
35… シャフト(回転軸)
50… ダイシングブレード位置制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置に関するものであり、詳しくは、半導体ウェハを切断して複数の半導体素子に分割(個片化)するダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の半導体製造装置のうち、ダイシング装置に係わる従来例として、以下に説明するようなものが開示されている。
【0003】
それは、予め、回転ダイシングソウの回転ブレードの先端を、X方向、Y方向及びZ方向に移動可能なX−Y−Zステージ上に取付けられた支持テーブルの上面に当接させた状態で、レーザ距離センサ(レーザ距離センサの投受光位置)から前記支持テーブルの上面までの距離を測定して取込む。
【0004】
そして、半導体ウェハを支持テーブル上にワックスを介して載置した後、回転ブレードを回転させた状態でレーザ距離センサから半導体ウェハの上面までの距離を取込みながら予め取込まれたレーザ距離センサから支持ステージの上面までの距離に基づくフィードバックにより、X−Y−ZステージのZ方向(高さ方向)の位置をリアルタイムで制御しながら所望の切り込み深さで半導体ウェハのダイシングを行うものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、他の従来例として、X−θステージ上に取付けられたワークテーブル上にワークをダイシングシートを介して載置し、加工部に取付けられたレーザ測長器によって予め、ダイシングシートとワークの合計厚み、及びダイシングシートの厚みを測定し取込む。この場合、レーザ測長器からワークテーブルの上面までの距離は予め測定されて記憶されており、レーザ測長器からダイシングシートの上面までの距離、及びレーザ測長器からワークの上面までの距離を測定することにより、ダイシングシート及びワークの夫々の厚みを容易に算出することができる。
【0006】
その後、回転ブレードを高速で回転させた状態で、レーザ測長器からワークの上面までの距離を取込んで、予め取込まれたレーザ測長器からワークテーブルの上面までの距離及び所望の切り込み深さに基づくフィードバックにより、加工部のZ方向(上下方向)の位置を制御して所望の切り込み深さでワークのダイシングを行うものである(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−232258号公報
【特許文献2】特開2003−151923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記ダイシング装置のうち前者(特開平6−232258号公報)のものは、ワックスの厚みと半導体ウェハの厚みを個別に測定するものではない。そのため、特にワックスの厚みがダイシング毎に異なる場合、ワックスへの切込み深さが一定せず、半導体ウェハが回転ブレードの異なる領域で切断されるものとなり、切断面の状態が一定にならない。
【0009】
また、後者(特開2003−151923号公報)のダイシング装置は、上述のようにダイシングシート及びワークの夫々の厚みが算出できるため、ワークを回転ブレードの所定の領域で且つ一定の領域で切断することができ、切断面の状態を一定にすることができる。
【0010】
但し、ワークを、例えば半導体ウェハと仮定すると、半導体ウェハの種類や、それを回転ブレードのどの領域で切断するかによって、切断面の状態が異なるものとなる。
【0011】
具体的には、回転ブレード80の刃先は、図7に示すように、該回転ブレード80を径方向に切断したときの断面形状が、例えば半径rの円弧状を呈しており、図8のように、回転ブレード80の刃先がワークテーブル81上のダイシングシート82まで達しない場合は、半導体ウェハ83が完全には切断されず切残しが生じるため、ダイシング工程としては好ましくない。
【0012】
また、図9に示すように、ワークテーブル81上のダイシングシート82に対して回転ブレード80の刃先の切り込みが浅い場合は、図10のように、切断後の半導体素子84の切断面の形状が、回転ブレードの刃先の形状を転写して部分的に円弧形状を呈することになる。つまり、半導体素子84はその全体形状が底部全周に亘って鋭利な突起部85を有するものとなる。
【0013】
この突起部は、ダイシング工程において、高速で回転する回転ブレードの振動によりチッピング(欠け)を生じる原因ともなる。
【0014】
また、図11に示すように、ダイシングシート82に対して回転ブレード86の位置がA1で刃先の切り込みが深い場合は、ダイシングシート82に対して回転ブレード86の位置がA2で刃先の切り込みが浅い場合に比べて、半導体ウェハ83の切断面に対する回転ブレード86の刃先の進入角度が大きくなる。つまり、A1の位置の回転ブレード86の半導体ウェハ83に対する進入角度をα1とし、A2の位置の回転ブレード86の半導体ウェハ83に対する進入角度をα2とすると、α1>α2の関係となる。
【0015】
すると、86回転ブレードによる半導体ウェハ83の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、ダイシング中に半導体ウェハ83にチッピングが発生し易くなる。
【0016】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、半導体ウェハのダイシング中にチッピングを発生することなく良好な切断面を有する半導体素子を作製することができる半導体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで前記ダイシングシートの途中まで切り込んで切断することにより、複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置であって、前記ダイシングブレードを径方向に切断したときの刃先の先端部の断面形状を半径rの円弧状とし、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量をDとしたときに、(r×1/5)≦D≦rの条件下で前記半導体ウェハの切断が行われることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、厚み測定器で測定された前記ダイシングシートの厚みと、予め前記((r×1/5)≦D≦rの範囲で設定された、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量とにより、前記ダイシングシートに切り込む前記ダイシングブレードの位置が設定されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで切断することにより複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置を、ダイシングブレードがダイシングシートに切り込むように半導体ウェハのダイシングを行うと共に、その切り込み量Dがダイシングブレードの円弧状の刃先先端部の半径rに対して((r×1/5)≦D≦rの範囲となるようにした。
【0020】
その結果、半導体ウェハを個片化した半導体素子は、該半導体素子の切断面がチッピングの発生を抑制した平滑な平坦状に形成され、基台に対する優れた実装性と素子特性に対する優れた信頼性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係わる実施形態の説明図である。
【図2】実施形態の制御系に係わる説明図である。
【図3】ダイシング実験におけるダイシング状態を示す説明図である。
【図4】ダイシング実験の実験結果を示す表である。
【図5】ダイシングの最適状態を説明する説明図である。
【図6】同様に、ダイシングの最適状態を説明する説明図である。
【図7】従来例の説明図である。
【図8】同様に、従来例の説明図である。
【図9】同様に、従来例の説明図である。
【図10】同様に、従来例の説明図である。
【図11】同様に、従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図6を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0023】
図1は、実施形態に係わる半導体製造装置の説明図である。半導体製造装置(半導体ウェハのダイシング装置:以下、ダイシング装置と略称する)1は、符号10で示すワークカセット部、符号20で示す搬送部、符号30で示すダイシング部、及び符号50で示すダイシングブレード位置制御部を備えている。
【0024】
ワークカセット部10は、予めダイシングシート11に半導体ウェハ12が貼着されてなるワーク13を所定の数だけ収納し、送出要求に基づいて順次1シートずつ後述する搬送部20に送り出す機構を有している。
【0025】
搬送部20は、ワークカセット部10から送出されたワーク13を後述するダイシング部30のワークテーブル33に搬送する機能を有している。具体的には、例えばエンドレスベルト21と該エンドレスベルト21を支持し走行を駆動する複数の回転ロール22を備えている。
【0026】
また、エンドレスベルト21の上方には非接触式フィルム厚測定器(以下、フィルム厚測定器と略称する)23が配設されており、エンドレスベルト21の走行に伴ってワークカセット部10からダイシング部30に搬送されるワーク13のダイシングシート11の厚みを非接触で測定するようになっている。この非接触式のフィルム厚測定器23は、測定媒体にX線を用いるX線方式、測定媒体に赤外線を用いる赤外線方式、測定媒体にレーザ光を用いるレーザ方式等のものが使用されると共に、0.001〜1mm程度の測定レンジを有するものが用いられる。
【0027】
ダイシング部30は、X方向及びY方向に移動可能なX―Yステージ31上にθ方向に回動可能なθステージ32が設けられ、該θステージ32上にワークテーブル33がX方向、Y方向及びθ方向に移動及び回動可能に取付けられている。ワークテーブル33は上面に載置されたワーク13を吸着固定する機能を有している。そして、ワークテーブル33の上方にはZ方向(ワークテーブル33に略垂直な方向)に移動可能なダイシングブレード34が配設されている。
【0028】
ダイシングブレード34はブレード駆動用モータ(図示せず)のシャフト(回転軸)35の端部に嵌合固定され、ブレード駆動用モータはZ方向に移動可能なモータ支持部(図示せず)に支持固定されている。
【0029】
以上は、ダイシング装置の機械的構成についての説明であるが、以下に上記構成のダイシング装置の作動に係わる制御系(ダイシングブレード位置制御部50)について図2を参照して説明する。
【0030】
ダイシングブレード位置制御部50は、データを算出するデータ算出部とデータを格納するデータ格納部を有している。
【0031】
そのうち、データ格納部は、ダイシング工程に先立って設定及び測定されたデータの格納部と、ダイシング工程中に取り込まれるデータの格納部と、データ算出部で算出されたデータの格納部とを有している。
【0032】
ダイシング工程に先立って設定及び測定されたデータの格納部には、ダイシングブレード34を径方向に切断したときの断面円弧状の刃先の半径(r)に基づいて、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値を格納する切込量格納部S1と、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データを格納するブレード基準位置データ格納部S2がある。
【0033】
ダイシング工程中に取り込まれるデータの格納部は、ワークカセット部10からダイシング部30に搬送中に、ワーク13のダイシングシート11に対して複数の測定ポイントで測定された各測定ポイント毎の厚みデータを格納するシート厚データ格納部S3(S3(1)〜S3(n))である。
【0034】
また、データを算出するデータ算出部と該データ算出部で算出されたでデータを格納するデータ格納部とは一対で存在し、シート厚データ格納部S3に格納されたダイシングシート11の各厚みデータ(S3(1)〜S3(n))から平均値を算出する厚み平均算出部S4と、厚み平均算出部S4で算出されたダイシングシート11の厚みの平均値を格納する厚み平均値格納部S5とが一対となる。
【0035】
同様に、前記厚み平均値格納部S5に格納されたダイシングシート11の厚みの平均値から予め切込量格納部S1に格納された、ダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値を減算してワークテーブル33の上面に対するダイシングブレード34の刃先の最適な高さを算出する刃先最適位置算出部S6と、刃先最適位置算出部S6で算出されたダイシングブレード34の刃先の最適な高さを格納する刃先最適位置格納部S7とが一対となる。
【0036】
更に同様に、前記刃先最適位置格納部S7に格納された、ワークテーブル33の上面に対するダイシングブレード34の刃先の最適な高さデータに基づいて、予めブレード基準位置データ格納部S2に格納された、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データから、ダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置を算出するダイシングブレード最適位置算出部S8と、ダイシングブレード最適位置算出部S8で算出されたダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置を格納するダイシングブレード最適位置格納部S9とが一対となる。
【0037】
そして、ダイシングブレード最適位置格納部S9からのダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置データによって、ダイシング時のダイシングブレード34のZ方向の位置が制御され、最適化された条件の下で半導体フェハ12のダイシングが行われる。
【0038】
ところで、予め切込量格納部S1に格納される、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量の最適値については、前以て実験によって具体的に求めている。以下にその実験内容及び結果を説明する。
【0039】
図3のように、径方向に切断したときの断面円弧状の刃先の半径(r)を0.015mmとするダイシングブレード34によって、厚み0.135〜0.137mmと0.143〜0.146mmの2種類のダイシングシート11の夫々に対して、切込位置D1(−0.004mm)、D2(−0.002mm)、D3(0.000mm)、D4(+0.005mm)、D5(+0.010mm)、D6(+0.015mm)、D7(+0.02mm)、D8(+0.025mm)とする半導体ウェハ12のダイシングを行った。この場合、半導体ウェハ12とダイシングシート11との境界面(S)の位置を0.000mmとし、境界面(S)から半導体ウェハ12側の方向を(−)方向とし、ダイシングシート11側の方向を(+)方向とする。
【0040】
すると、実験結果をまとめた図4の表より、いずれのダイシングシート11においても、ダイシングシート11に対するダイシングブレード34の切込量がD4(+0.005mm)〜D6(+0.015mm)の範囲においては、ダイシングによって複数の個片化された半導体素子の夫々に欠けの発生が抑制されていることがわかる。
【0041】
そこで、ダイシングによって複数の個片化された半導体素子の夫々に欠けを生じないときの、ダイシングブレードの刃先の半径(r)とダイシングシートに対するダイシングブレードの切込量(D)との関係は、上記実験結果に基づいて(r×(1/5))≦D≦rとする関係式を導くことができる。この関係式によると、ダイシングブレードの刃先の半径(r)を0.015mmとすると0.003mm≦D≦0.015mmとなり、0.003mmから0.005mmの範囲は実験結果の半導体素子に欠けを生じない範囲から外れているが、実際にはこの範囲においても実験によって半導体素子に欠けを生じないことを確認している。
【0042】
したがって、切込量格納部S1に格納される、ダイシング時のダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の切り込み量は、(r×(1/5))≦D≦rの関係式で表される範囲であることが好ましい。
【0043】
そこで、(r×(1/5))≦D≦rの関係式に基づいて半導体ウェハのダイシング状態を考察すると以下のようになる。
【0044】
図5(a)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離DがD<0の範囲にある場合、換言すると、ダイシングブレード34の刃先の先端がダイシングシート11まで達しない場合は、半導体ウェハが完全には切断されず切残しが生じるため、ダイシング工程としては好ましくない。
【0045】
また、図5(b)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離Dが0≦D<(r×(1/5))の範囲にある場合、換言すると、ダイシングブレード34の刃先の先端がダイシングシート11まで達してはいるが、ダイシングシート11に対する切り込みの量(深さ)が刃先の半径(r)の1/5よりも少ない(浅い)場合は、切断後の半導体素子の切断面の形状が、ダイシングブレード34の刃先の形状を転写して部分的に円弧形状を呈することになる。つまり、半導体素子はその全体形状が底部全周に亘って鋭利な突起部を有するものとなる。
【0046】
この突起部は、ダイシング工程において、高速で回転するダイシングブレード34の振動によりチッピング(欠け)を生じる原因ともなる。特に、図5(b)の場合に生じるチッピングは、図5(b´:図5(b)のダイシング後の半導体素子14の裏面図)のように、半導体素子14の切断面に沿って底面が断面円弧形状に欠けるチッピング12aが発生し易くなる。
【0047】
また、図5(d)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離DがD>rの範囲にある場合、換言すると、図6に示すように、ダイシングブレード34の位置がA1のときのダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の先端の切り込み量(深さ)が刃先の半径(r)よりも大きい(深い)場合は、ダイシングブレード34の位置がA2のときのダイシングシート11に対するダイシングブレード34の刃先の先端の切り込み量(深さ)が浅い場合に比べて、半導体ウェハ12の切断面に対するダイシングブレード34の刃先の進入角度が大きくなる。つまり、A1の位置のダイシングブレード34の半導体ウェハ12に対する進入角度をα1が、A2の位置のダイシングブレード34の半導体ウェハ12に対する進入角度をα2よりも大きくなる。
【0048】
すると、ダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、図5(d)のように、ダイシング中に切断面のダイシングシート11と接する部分に円弧状に欠けるチッピング12bが発生し易くなる。
【0049】
その原因としては、ダイシングブレード34の刃先にダイシングシート11が付着して、ダイシングシート11が半導体ウェハ12と接する部分に盛り上がり、図5(d´:図5(d)のダイシング後の半導体素子14の裏面図)のように、半導体素子14の切断面を起点に、その底面が欠けるチッピング12bを誘発するものと考えられる。
【0050】
あるいは、上述したように、ダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力が大きくなり、その荷重圧力で半導体ウェハ12の切断部分がダイシングブレード34に巻き込まれてチッピングを起こす。
【0051】
なお、チッピング12bは、切断した半導体素子14の側面に沿った底面に発生する点でチッピング12aと共通するが、チッピングの形状および分布状態が完全に異なるものとして分類できる。具体的には、チッピング12aが切断面に沿って断面円弧状をなしており、ダイシングにより個片化した半導体素子14を底面側から観察したときに、ダイシングしたストリートラインとほぼ平行に分布する(図5(b´)参照)。一方、チッピング12bは切断面に沿って断面円弧形状もしくは直線形状であり、全体としては非円弧形状をなす。また、ダイシングにより個片化した半導体素子14を底面側から観察したときに、ダイシングしたストリートラインの面に沿って非平行、おおよそ、円弧形状(1/4円弧)に分布する傾向を示す(図5(d´)参照)。
【0052】
同時に、図6に示すように、半導体ウェハ12に対するダイシングブレード34の位置がA1、A2のときのダイシングブレード34の夫々の刃先の進入角度α1、α2と同様に、半導体ウェハ12に対するダイシングブレード34の位置がA1、A2のときのダイシングブレード34の夫々の刃先の脱出角度β1、β2も異なるものとなり、ダイシングブレード34の位置がA2のときのダイシングブレード34の脱出角度β1が、ダイシングブレード34の位置がA1のときの脱出角度β2よりも大きくなる。そのため、A1の位置のダイシングブレード34の回転に引きずられてダイシングシート11が盛り上がり、それに伴ってダイシングシート11と半導体ウェハ12との貼着性が低下する。すると、半導体ウェハ12のダイシングシート11に対する貼着性が低下した部分がダイシングブレード34の回転による振動を受けチッピング12bを生じ易くなる、等の原因が考えられる。
【0053】
また、図5(c)のように、ダイシングシート11の上面とダイシングブレード34の刃先の先端との距離Dが(r×(1/5))≦D≦rの範囲にある場合、半導体ウェハ12のダイシングブレード34による切断面は、ダイシングブレード34の刃先の形状の影響を受けることがなく、且つダイシングブレード34による半導体ウェハ12の垂直方向(厚み方向)に対する荷重圧力も大きくはない。そのため、ダイシング後の個々の半導体素子はチッピングがなく且つ断面が平滑な平坦状に形成される。
【0054】
したがって、切込量格納部S1に上記(r×(1/5))≦D≦rの関係式から導かれた値を格納した状態で一連のダイシング工程を進めることにより、半導体素子の良品を高い歩留まりで作製することができる。
【0055】
次に、本ダイシング装置の作動について、図1及び図2を参照して説明する。
【0056】
まず、予め、切込量格納部S1及びブレード基準位置データ格納部S2に所定のデータを格納すると共に、ワークカセット部10にダイシングシート11に半導体ウェハ12が貼着されてなるワーク13を所定の数だけ収納する。また、予め、θステージ32を作動させてワークテーブル33をθ方向の所定の位置に位置合わせを行う。
【0057】
次に、ダイシング工程をスタートさせる。すると、ワークカセット部10からワーク13が搬送部20のエンドレスベルト21上に送出され、エンドレスベルト21の走行に伴ってダイシング部30の方に搬送される。その途中、非接触式のフィルム厚測定器23によって、ワーク13のダイシングシート11の厚みが複数の測定ポイントにおいて測定され、各測定ポイントにおける厚みデータ(S3(1)〜S3(n))がシート厚データ格納部S3に格納される。
【0058】
その後、シート厚データ格納部S3に格納された夫々の厚みデータ(S3(1)〜S3(n))を厚み平均算出部S4に送って厚みの平均値(W)を算出し、結果を厚み平均値格納部S5に格納する。
【0059】
その後、厚み平均値格納部S5に格納された厚みの平均値(W)のデータを刃先最適位置算出部S6に送ると共に、予め切込量格納部S1に格納された切込量設定値D(具体的には、(r×(1/5))≦D≦r、rはダイシングブレードの刃先の半径)を読出して刃先最適位置算出部S6に送り、刃先最適位置算出部S6において厚みの平均値(W)から切込量設定値Dを減算し、結果(W−D)=Hを刃先最適位置格納部S7に格納する。このとき、刃先最適位置格納部S7に格納されたデータは、ワークテーブル33の上面からダイシングブレードの刃先までの距離の最適値である。
【0060】
最後に、刃先最適位置格納部S7に格納されたデータ(H)をダイシングブレード最適位置算出部S8に送ると共に、予めブレード基準位置データ格納部S2に格納にされた、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置データ(E)を読出してダイシングブレード最適位置算出部S8に送り、ダイシングブレード最適位置算出部S8において、ワークテーブル33の上面からダイシングブレードの刃先までの距離の最適値(H)に基づいて、ダイシングブレード34の刃先の先端をワークテーブル33の上面に当接させた状態でのダイシングブレード34のZ方向の基準の位置(E)から、ダイシングブレード34のZ方向の最適化された位置(P)を算出され、結果がダイシングブレード最適位置格納部S9に格納される。
【0061】
この間、ワーク13はエンドレスベルト21上を搬送された後、ワークテーブル33上に移送されて該ワークテーブル33に吸着固定される。
【0062】
その後、このダイシングブレード最適位置格納部S9に格納されたダイシングブレード34の最適化された位置データ(P)に基づいてダイシングブレード34のZ方向の位置が設定されてダイシングブレード34の高速回転が開始される。そして、ワーク13を吸着固定したワークテーブル33をX方向の一方の側に向かって移動して半導体ウェハ12に一本の切り込みを入れ、Y方向に所定のピッチで移動してX方向の他方の側に向かって2本目の切り込みを入れる。この操作を繰り返すことにより、半導体ウェハ12に対して所定の間隔でX方向に延びる複数の切り込みが平行に並設される。
【0063】
その後、θステージ32を作動させてワークテーブル33をθ方向に90°回転させ、上記同様に、ワークテーブル33をX方向の一方の側に向かって移動して半導体ウェハ12に一本の切り込みを入れ、Y方向に所定のピッチで移動してX方向の他方の側に向かって2本目の切り込みを入れる。この操作を繰り返すことにより、半導体ウェハ12に対して所定の間隔でX方向に延びる複数の切り込みが平行に並設される。
【0064】
すると、半導体ウェハ12に、所定の間隔で平行に並設された複数の切り込みが互いに直交する方向の夫々に形成されることになり、ダイシングシート11上には半導体ウェハ12を縦横に分離して個片化した複数の半導体素子が位置することになる。
【0065】
このとき、ダイシングシート上で個片化された夫々の半導体素子は、切断時にダイシングシートに対する切込量Dを((r×(1/5))≦D≦r、rはダイシングブレードの刃先の半径)の範囲に設定し、最適な切り込み条件の下にダイシングを行うようにした。
【0066】
その結果、個片化された半導体素子は、該半導体素子の切断面がチッピングの発生を抑制した平滑な平坦状に形成され、基台に対する優れた実装性と素子特性に対する優れた信頼性を有するものとなる。
【0067】
なお、本発明の半導体製造装置は、ダイシング時にSi系ウェハに比べてチッピングが生じ易いGaAs系、GaP系、GaAsP系、InGaAlのウェハに用いることによりその特徴を効果的に活用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1… 半導体製造装置(半導体ウェハのダイシング装置)
10… ワークカセット部
11… ダイシングシート
12… 半導体ウェハ
12a… チッピング(欠け)
12b… チッピング(欠け)
13… ワーク
14… 半導体素子
20… 搬送部
21… エンドレスベルト
22… 回転ロール
23… 非接触式フィルム厚測定器
30… ダイシング部
31… X−Yステージ
32… θステージ
33… ワークテーブル
34… ダイシングブレード
35… シャフト(回転軸)
50… ダイシングブレード位置制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで前記ダイシングシートの途中まで切り込んで切断することにより、複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置であって、
前記ダイシングブレードを径方向に切断したときの刃先の先端部の断面形状を半径rの円弧状とし、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量をDとしたときに、(r×1/5)≦D≦rの条件下で前記半導体ウェハの切断が行われることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項2】
厚み測定器で測定された前記ダイシングシートの厚みと、予め前記((r×1/5)≦D≦rの範囲で設定された、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量とにより、前記ダイシングシートに切り込む前記ダイシングブレードの位置が設定されることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項1】
ダイシングシート上に貼着された半導体ウェハを高速回転するダイシングブレードで前記ダイシングシートの途中まで切り込んで切断することにより、複数の個片化された半導体素子を作製する半導体製造装置であって、
前記ダイシングブレードを径方向に切断したときの刃先の先端部の断面形状を半径rの円弧状とし、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量をDとしたときに、(r×1/5)≦D≦rの条件下で前記半導体ウェハの切断が行われることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項2】
厚み測定器で測定された前記ダイシングシートの厚みと、予め前記((r×1/5)≦D≦rの範囲で設定された、前記ダイシングブレードの前記ダイシングシートに対する切り込み量とにより、前記ダイシングシートに切り込む前記ダイシングブレードの位置が設定されることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−227487(P2012−227487A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96364(P2011−96364)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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