説明

半導体記憶装置の製造方法および半導体記憶装置

【課題】ROMを形成する強誘電体メモリのダイナミック/スタティック・インプリント現象に対するデータ読み出しマージンを改善することのできる半導体記憶装置の製造方法および半導体記憶装置を提供する。
【解決手段】ROMを形成する強誘電体メモリに対し、ROMデータと逆極性のデータを書き込みを行って(工程S01)、所定時間のベーク処理を実行し(工程S02)、その後、ROMデータを書き込む(工程S03)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体記憶装置の製造方法および半導体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性の半導体記憶装置の1つに、メモリセルに強誘電体キャパシタを備える強誘電体メモリがある。強誘電体メモリは、強誘電体キャパシタの残留分極を利用することで、電源の供給がなくてもデータを保持できる。
【0003】
この強誘電体メモリでは、その使用状態や使用環境により、強誘電体キャパシタの残留分極のヒステリシス特性がシフトすることが知られている。これにより、データを書き込んで高温で放置すると、書き込んだデータと逆極性のデータが書き込みにくくなるスタティック・インプリント現象や、同一データの読み出しを繰り返すとデータの読み出しマージンが減少し、データが読めなくなっていくダイナミック・インプリント現象が生じる。
【0004】
一般に、これらのインプリント現象は強誘電体メモリの信頼性を低下させる現象と捉えられているが、一方では、スタティック・インプリント現象を積極的に利用して、強誘電体メモリをROMとして機能させるようにした半導体記憶装置も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この提案された半導体記憶装置では、強誘電体メモリにデータを書き込んだ後、メモリへの熱印加および同一データのパルス状電圧印加を行って、強誘電体キャパシタをスタティック・インプリント状態にし、ROMを形成するようにしている。
【0006】
しかし、このようにして形成されたROMでは、書き込みデータ極性側へヒステリシス特性がシフトしているため、データの読み出しマージンが少なく、ダイナミック・インプリントおよび更なるスタティック・インプリント現象の発生によりデータが読めなくなるまでの、データ読み出し回数が減少するという問題があった。
【特許文献1】特開平10−150157号公報 (第5ページ、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、ROMを形成する強誘電体メモリのダイナミック/スタティック・インプリント現象に対するデータ読み出しマージンを改善することのできる半導体記憶装置の製造方法および半導体記憶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ROMを形成する強誘電体メモリを備える半導体記憶装置の製造方法であって、ROMデータと逆極性のデータを前記強誘電体メモリへ書き込む工程と、所定時間のベーク処理を実行する工程と、ROMデータを前記強誘電体メモリへ書き込む工程とを有することを特徴とする半導体記憶装置の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の別の一態様によれば、ROM領域とRAM領域とに区分される強誘電体メモリを備える半導体記憶装置の製造方法であって、ROM/RAM領域を独立に制御する回路を形成する工程と、ROMデータと逆極性のデータを前記ROM領域へ書き込む工程と、所定時間のベーク処理を実行する工程と、ROMデータを前記ROM領域へ書き込む工程とを有することを特徴とする半導体記憶装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ROMを形成する強誘電体メモリのダイナミック/スタティック・インプリント現象によって発生するデータ読み出しマージンの減少量を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、半導体記憶装置に含まれる強誘電体メモリをROMとして使用するときのROMデータの書き込み方法を示す。
【0013】
図1は、本実施例におけるROMデータの書き込み処理のフローの例を示すフロー図である。
【0014】
処理を開始すると、まず、本来のROMデータの‘1’と‘0’とを反転させた逆極性のデータを強誘電体メモリへ書き込む(工程S01)。
【0015】
その後、強誘電体メモリにスタティック・インプリント現象を発生させるため、半導体記憶装置に対して所定時間のベーク処理を行う(工程S02)。
【0016】
その後、本来のROMデータを強誘電体メモリへ書き込み(工程S03)、本フローの処理を終了する。
【0017】
このように本実施例では、強誘電体メモリをROMとして使用するときは、一度、本来のROMデータとは極性のデータを強誘電体メモリへ書き込む。その後、ベーク処理を行って強誘電体メモリにスタティック・インプリント現象を強制的に発生させて、強誘電体キャパシタのヒステリシス特性をシフトさせる。このヒステリシス特性のシフトは、本来のROMデータに対しては、読み出しマージンを増加させる方向へ発生する。
【0018】
図2に、ベーク処理工程によりシフトした強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0019】
図2(a)は、逆極性のデータとして‘0’を書き込んでベーク処理したときの強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0020】
ヒステリシス特性は、ベーク処理により図の破線で示す特性から実線で示す特性へと、図の左方向へシフトする。
【0021】
その結果、この実線で示すヒステリシス特性を有する強誘電体キャパシタへROMデータとして‘1’を書き込むと、そのデータを読み出したときの読み出しマージン(‘1’ レベルと‘0’レベルの差)m1は、ベーク処理前のヒステリシス特性における読み出しマージンm0よりも増加する。
【0022】
図2(b)は、逆極性のデータとして‘1’を書き込んでベーク処理したときの強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0023】
ヒステリシス特性は、ベーク処理により図の破線で示す特性から実線で示す特性へと、図の右方向へシフトする。
【0024】
その結果、この実線で示すヒステリシス特性を有する強誘電体キャパシタへROMデータとして‘0’を書き込むと、この場合も、そのデータを読み出したときの読み出しマージンm1は、ベーク処理前のヒステリシス特性における読み出しマージンm0よりも増加する。
【0025】
次に、ROMデータが書き込まれた強誘電体メモリにおけるダイナミック・インプリント現象について説明する。
【0026】
ROMデータが書き込まれた強誘電体メモリからは常に同じ値のデータしか読み出されないため、通常、高温放置で生じるスタティック・インプリントとともに、読み出しを繰り返すたびに強誘電体キャパシタのヒステリシス特性がシフトするダイナミック・インプリント現象が発生する。このダイナミック・インプリント現象によるヒステリシス特性のシフトは、逆データを書き込んでのベーク処理によるシフトの方向とは逆方向に発生する。
【0027】
図3に、ダイナミック・インプリント現象によりシフトする強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0028】
図3(a)は、図2(a)のベーク処理後のヒステリシス特性(実線)に対して、ダイナミック・インプリント現象によりシフトしたヒステリシス特性(破線)を示す。
【0029】
この場合、ダイナミック・インプリント現象によりシフトの方向は、図の右方向となる。したがって、シフト後のヒステリシス特性におけるデータの読み出しマージンm2は、当初の読み出しマージンm1より減少する。
【0030】
図3(b)は、図2(b)のベーク処理後のヒステリシス特性(実線)に対して、ダイナミック・インプリント現象によりシフトしたヒステリシス特性(破線)を示す。
【0031】
この場合、ダイナミック・インプリント現象によりシフトの方向は、図の左方向となる。この場合も、シフト後のヒステリシス特性におけるデータの読み出しマージンm2は、当初の読み出しマージンm1より減少する。
【0032】
このように、ダイナミック・インプリント現象が発生すると、ROMデータが書き込まれた強誘電体メモリのデータ読み出しマージンは減少する。
【0033】
しかし、本実施例の方法によるROMデータの書き込みを行った強誘電体メモリは、ベーク処理により、使用開始時の読み出しマージンが増加している。したがって、使用中にダイナミック・インプリント現象が発生し、読み出しマージンが減少するようになっても、読み出しエラーが発生するまでには余裕がある。
【0034】
すなわち、本実施例によれば、従来に比べて、ROMを形成する強誘電体メモリのダイナミック・インプリント現象に対するデータ読み出しマージンを改善することができる。
【実施例2】
【0035】
本実施例では、ROM領域とRAM領域とに区分される強誘電体メモリを備える半導体記憶装置の例を示す。
【0036】
図4は、本発明の実施例2に係る半導体記憶装置の構成の例を示すブロック図である。
【0037】
本実施例の半導体記憶装置100は、強誘電体メモリ1と、動作制御回路2と、を備える。強誘電体メモリ1は、ROM領域11とRAM領域12とに区分される。
【0038】
本実施例では、ROM領域11へのROMデータの書き込みに、実施例1で示した製造方法を用いる。そのROMデータの書き込みを行うとき、RAM領域12に何らかのデータが書き込まれていると、ベーク処理によりRAM領域12にもスタティック・インプリント現象が発生する。その結果、実使用時のRAM領域12の読み出しマージンが減少する可能性がある。
【0039】
そこで、動作制御回路2が、ROM領域11とRAM領域12とを独立に活性化させるように、強誘電体メモリ1の動作を制御する。
【0040】
ROMデータの書き込みを行うときは、動作制御回路2が、ROM領域11のみを活性化させ、RAM領域12は活性化させない。これにより、RAM領域12にはデータが何も書きこまれないため、ベーク処理をおこなっても、RAM領域12にはスタティック・インプリント現象が発生しない。
【0041】
活性化の具体的な方法として、図4では、ROM領域11のプレート線PL1の電位とRAM領域12のプレート線PL2の電位を個別に制御する例を示している。ROMデータの書き込みを行うときは、ROM領域11のプレート線PL1にのみ、所定のプレート線電位を供給する。
【0042】
図5に、本実施例におけるROMデータの書き込み処理フローの例をフロー図で示す。
【0043】
本実施例におけるROMデータの書き込み処理フローは、図1に示したフローの前に、動作制御回路2を用いてROM領域11のみを活性化させる工程(工程S11)を追加したものである。
【0044】
以降の処理(工程S01〜S03)は、図1のフローで同一の符号が付されている処理と同一であるので、ここではその説明を省略する。
【0045】
なお、ROM領域11とRAM領域12とを独立に活性化させる方法として、図3ではプレート線PL1、PL2を制御する例を示したが、活性化制御の方法はこれに限るものではない。
【0046】
例えば、図5に示す動作制御回路2Aのように、ROM領域11のワード線WL1へのアクセスとRAM領域12のワード線WL2へのアクセスを個別に制御するようにしてもよい。この場合、ROMデータの書き込みを行うとき、動作制御回路2Aは、ROM領域11のワード線WL1にのみ、アクセスを許可する。
【0047】
このような本実施例によれば、ROM領域とRAM領域とに区分される強誘電体メモリであっても、RAM領域の読み出しマージンを減少させることなく、ROM領域のダイナミック・インプリント現象に対するデータ読み出しマージンを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1に係る半導体記憶装置の製造方法の例を示す処理フロー図。
【図2】ベーク処理によるヒステリシス特性のシフトを示す説明図。
【図3】ダイナミック・インプリント現象によるヒステリシス特性のシフトを示す説明図。
【図4】本発明の実施例2に係る半導体記憶装置の構成の例を示すブロック図。
【図5】本発明の実施例2に係る半導体記憶装置の製造方法の例を示す処理フロー図。
【図6】本発明の実施例2に係る半導体記憶装置の構成の別の例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0049】
1 強誘電体メモリ
11 ROM領域
12 RAM領域
2、2A 動作制御回路
100 半導体記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROMを形成する強誘電体メモリを備える半導体記憶装置の製造方法であって、
ROMデータと逆極性のデータを前記強誘電体メモリへ書き込む工程と、
所定時間のベーク処理を実行する工程と、
ROMデータを前記強誘電体メモリへ書き込む工程と
を有することを特徴とする半導体記憶装置の製造方法。
【請求項2】
ROM領域とRAM領域とに区分される強誘電体メモリを備える半導体記憶装置の製造方法であって、
ROM/RAM領域を独立に制御する回路を形成する工程と、
ROMデータと逆極性のデータを前記ROM領域へ書き込む工程と、
所定時間のベーク処理を実行する工程と、
ROMデータを前記ROM領域へ書き込む工程と
を有することを特徴とする半導体記憶装置の製造方法。
【請求項3】
ROM領域とRAM領域とに区分される強誘電体メモリと、
前記ROM領域と前記RAM領域とを独立に動作させる動作制御回路と
を備える半導体記憶装置であって、
前記ROM領域へのROMデータの書き込みが、請求項2に記載の製造方法により行われることを特徴とする半導体記憶装置。
【請求項4】
前記活性化制御回路が、
前記ROM領域のプレート線の電位と前記RAM領域のプレート線の電位を個別に制御することにより、前記ROM領域と前記RAM領域とを独立に動作させる
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体記憶装置。
【請求項5】
前記活性化制御回路が、
ワード線へのアクセスを制御することにより、前記ROM領域と前記RAM領域とを独立に動作させる
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−49778(P2010−49778A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215849(P2008−215849)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】