説明

半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板およびその製造方法

【課題】 環境上の問題から望ましくないとされるPb(鉛)およびCr(クロム)を使用することなく、Pbフリー半田付けにおける濡れ性に優れ、さらに耐食性および耐ホイスカー性にも優れたSn系めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるCuを含有するSn系めっき層と、該Sn系めっき層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を有し、前記Sn系めっき層中のSnの付着量を5.0〜20.0g/m、Cuの付着量を0.05〜0.30g/mの範囲とし、前記化成皮膜中のPの付着量を0.5〜10mg/m、Siの付着量を3〜60mg/mの範囲とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、家電製品のシヤーシーや部品ケース等に用いられる半田付け性、耐ホイスカー性を要求される鋼板に関するものであって、特に、Pb(鉛)を全く含まないPbフリー半田に対する濡れ性である半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn(錫)系めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オーディオ製品やパソコン等の家電製品においては、Pb−Sn合金半田を用いた接合が行われてきたが、この半田中のPbが人体に有害であることからPbの使用が規制され、Pbを使わないPbフリー半田に切り替えられてきている。家電製品のシャーシーや部品ケースには、従来のPb−Sn半田付け性に適したPb−Sn合金めっき鋼板が使われていたが、Pb使用規制に対応するためPbを使用せずにPbフリー半田付け性に優れる新たな鋼板が求められている。
【0003】
さらに、従来のPb−Sn合金めっき鋼板では、表面にクロメート処理がなされているが、家電業界では有害な6価Crを使用しない方向にあるため、新たな半田付け用の鋼板にはクロメート処理以外の化成処理を使用することが望まれている。
【0004】
Pbを使わない半田付け用の鋼板としては、例えば、特許文献1および2に記載されているように、鋼板上に形成したSn−Zn、Zn−Ni、Sn−Ni、Fe−Niを主体とする皮膜上にクロメート皮膜を形成した鋼板がある。
【0005】
【特許文献1】特公平6−99837号公報
【特許文献2】特公平6−33466号公報
【0006】
しかしながら、上掲特許文献1および2に記載された鋼板はいずれも、Znを使用しているためにPbフリー半田付け性に劣り、またクロメート皮膜を有するために家電業界には受け入れられないものである。
【0007】
また、特許文献3には、SnめっきまたはSn合金めっきの表面にCrを含有させず、Siを含有する後処理皮膜を有する表面処理鋼板が開示されているが、鋼板とSnめっき層との間にFe−Sn合金層を有するものではないため、鋼板とSnめっき層との密着性が悪く、またPbフリー半田付け性にも問題があった。
【特許文献3】特開2001−32085号公報
【0008】
また、電子製品用等に用いられるすずめっき材には、高い耐ホイスカー性も要求される。例えば、電子部品や半導体などに用いられる銅や銅合金上に錫めっきを施す場合については、特許文献4や特許文献5の技術が開発されている。
【0009】
特許文献4の技術は、銅又は銅合金の微細パターン上にスズメッキを施すに際し、まず厚さ0.15μm以上のスズメッキを施し、次いで加熱処理して該純スズ層をすべて銅素地とのCu−Sn拡散層とし、その上にスズメッキを施すスズメッキホイスカーの抑制方法であり、銅上のスズホイスカーの成長の駆動力であるといわれている銅−スズ拡散層(合金層)の成長を抑制するため、銅−錫合金層を積極的に形成するものである。
【0010】
また、特許文献5の技術は、スズ合金皮膜の接合強度や耐食性に優れ、析出速度が速い鉛フリーの無電解メッキ浴に関する技術であり、主に銅や銅合金上のスズメッキ皮膜のホイスカー発生を抑制し、かつ無電解めっきのめっき効率を改善しようとするものである。
【0011】
一方、鋼板表面上に錫めっきを施した、いわゆる錫めっき鋼板についても、半田付け用鋼板として用いられる際にはホイスカーの発生が問題となることがあり、耐ホイスカー性の改善が求められていた。
【特許文献4】特許第3014814号公報
【特許文献5】特開平11−21673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、環境上の問題から望ましくないとされるPb(鉛)およびCr(クロム)を使用することなく、Pbフリー半田付けにおける濡れ性、いわゆる半田付け性に優れ、さらに耐食性および耐ホイスカー性にも優れたSn系めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下にこの発明をさらに詳細に説明する。
Pb−Sn合金半田は、37%Pbを含有するもので融点が184℃と低いが、Pbフリー半田は、主流となりつつあるSn−3.5%Ag−0.75%Cu合金半田は、融点が219℃と高いため、Pb−Sn合金半田に比べて半田付け作業性が悪くなっている。このため、半田付け用の鋼板には、従来以上の半田付け性が要求されている。
【0014】
そこで、発明者らは、Pbフリー半田の主成分であるSnを主体とする錫めっきを基に、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介して所定量の錫めっき層を有し、その上層に、PとSiを含有した化成皮膜を形成した場合には、半田付け性が向上することを見出し、特開2004−60053号公報等で開示した。
【0015】
より具体的には、錫めっき層の上層に、好ましくはPと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液により、適正量のPとSiを含有する化成皮膜を形成することによって、優れたPbフリー半田との濡れ性が得られ、特にこの化成皮膜が有効な保護皮膜として経時劣化を抑制するので、加速劣化試験後においても優れたPbフリー半田との濡れ性が確保される。加えて、この化成皮膜によって十分な耐食性および耐ホイスカー性が得られることも示した。
【0016】
前述のように半田付け用鋼板には、高い耐ホイスカー性が要求されるが、これはホイスカーが発生すると、ホイスカーが電子回路を短絡させて誤動作させることがあり、電気・電子製品が機能不全に至る危険があるためである。半田付け用鋼板は、プレス加工等で部品に加工されるが、加工が厳しい場合には表面の化成皮膜に損傷を受け、損傷部分での耐ホイスカー性が劣化することがある。
【0017】
このため、発明者らは、この課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介してCu(銅)を含有するSn(錫)めっき層を有し、その上層に、P(リン)とSi(珪素)を含有した化成皮膜を形成した場合には、Pbフリー半田に対する半田付け性および厳しいプレス加工部での耐ホイスカー性の双方を高い次元で満足させることができることを新規に見出した。
【0018】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるCuを含有するSn系めっき層と、該Sn系めっき層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を有し、前記Sn系めっき層中のSnの付着量を5.0〜20.0g/m、Cuの付着量を0.05〜0.30g/mの範囲とし、前記化成皮膜中のPの付着量を0.5〜10mg/m、Siの付着量を3〜60mg/mの範囲とすることを特徴とする半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【0019】
(2)前記化成皮膜は、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて形成することを特徴とする上記(1)に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【0020】
(3)鋼板表面上にSnめっきを施した後、Cuイオンを含有するフラックスを用いた溶錫処理を施して、鋼板表面上にFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるCuを含有するSn系めっき層を形成し、その後、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いた化成処理を施して、PとSiを含有する化成皮膜を形成することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(4)鋼板表面上にSn−Cu合金めっきを施した後、溶錫処理を施して、鋼板表面上にFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるSn−Cu合金めっき層を形成し、その後、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いた化成処理を施して、PとSiを含有する化成皮膜を形成することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
この発明は、鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介してCuを含有するSn系めっき層と、該Sn系めっき層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を有することにより、半田濡れ性、耐食性および特に厳しい加工部での耐ホイスカー性に優れたSn系めっき鋼板を提供することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下にこの発明の構成を詳細に説明する。
この発明のSn系めっき鋼板は、鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介してCuを含有するSn系めっき層を形成したものであり、この銅を含有するSnめっき層は、下地表面のほぼ全面を覆うように、具体的には被覆率が99.0%超えとなるように形成されたものである。Cuを含有するSnめっき層が、Fe−Sn合金層を被覆する割合、すなわち表面積での被覆率が99.0%以下であると、十分な半田付け性が得られないばかりでなく、耐食性も不十分となるからである。
【0024】
なお、被覆率99.0%超えとするには、例えば溶錫処理時に溶融したSnが十分塗れ広がることができるように、フラックスなどの溶錫処理条件を適宜調整すればよい。
ここで被覆率(面積率)は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率5000倍に拡大した表面を観察(10視野)し、各視野にてSn系めっき層が被覆している面積率を求め、これら測定した面積率の平均をSn系めっき層の被覆率としている。
【0025】
本発明でいうCuを含有するSn系めっき層は、例えば公知の電気Sn−Cu合金めっき法で形成することができ、めっき後の溶錫処理においても、Cuは溶錫処理温度では、鋼板とほとんど合金化しないので、めっきとの界面にはFe−Sn合金層が形成されるだけで、CuはSn−Cu合金めっき層中にそのまま残留する。
【0026】
また、より簡便な方法としては、例えば公知の電気Snめっき法でSnめっき層を形成した後、銅イオンを含有させたフラックスを用いて溶錫処理を行なう方法が挙げられる。この方法では、フラックス中のCuイオンがSnめっき層の表面に置換析出し、析出したCuはそのまま溶錫処理で溶融したSnめっき層中に拡散するので好都合である。
ここで銅イオンを含有させたフラックスとしては、銅イオンを含有する塩化アンモニウム溶液(塩化アンモニウム水溶液と塩酸の混合液(pH2〜2.5)に塩化銅を添加)などが使用できる。また、上記フラックスの使用方法としては、フラックスに浸漬後に溶錫処理を行ってもよいし、フラックスを塗布した後に溶錫処理を行ってもよい。
【0027】
本発明においては、鋼板上に公知の電気めっき法でSnめっきあるいはSn−Cu合金めっきを行った後、鋼板を錫の融点以上に加熱し、一旦錫めっきを溶融させる溶錫処理(リフロー処理ともいう)を行う。電気めっきされたままの上記Sn系めっき層には、電着応力が存在し、この電着応力を開放しようとするエネルギーによってSn表面からホイスカーと称される針状結晶が成長する。ホイスカーが成長すると、電気回路での短絡事故を引き起こしかねないため、ホイスカーの成長が無いことが要求される。電気めっきされたSn系めっき層を一旦溶融すると、電着応力が開放されてホイスカーの発生が抑えられるため、本発明では溶錫処理が必須である。
【0028】
溶錫処理によって、鋼板とCuを含有するSn系めっき層との界面に、Fe−Sn合金層が形成される。このFe−Sn合金層は、鋼板とSn系めっき層の密着性を向上させて、加工時のSn系めっき層の剥離を防止するとともに、Pbフリー半田付け時にSn系めっき層が、半田浴に溶解した際の鋼板と半田との濡れ性を確保するため、極めて重要である。
【0029】
したがって、本発明では、鋼板とSn系めっき層との間をFe−Sn合金層が介していること、すなわち鋼板表面上に溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介してSn系めっき層を有することが必須である。上記効果を発揮するためには、Fe−Sn合金層は、付着量にして0.05g/m以上とすることが好ましい。一方、このFe−Sn合金層は、Snめっき層に比べて硬い合金層であるため、生成量が多くなると加工性を低下させるので、この観点からは合金生成量を少なく抑える事が好ましく、Fe−Sn合金層は、付着量にして2g/m以下とすることが好ましく、1.5g/m以下とすることがより好ましい。
【0030】
Niフラッシュめっき処理やNi拡散処理などNi系の前処理を行った鋼板を用いると、溶錫処理時に形成されるFe−Sn合金層の生成量が抑制されるので、これらNi前処理は適宜用いることができる。
【0031】
溶錫処理後のCuを含有するSn系めっき層の付着量は、Snの付着量にして5.0〜20.0g/mであることが好ましい。前記Snの付着量が5.0g/m未満だと、十分なPbフリー半田との濡れ性が得られないばかりでなく、耐食性も不十分である。また、前記Snの付着量が20.0g/m超えにしても、性能の向上効果が期待できず、厚めっきとするのに長時間を要するとともに、コスト高になるため、Snの付着量は20.0g/m以下とすることが好ましい。なお、Sn系めっき層中のSnの付着量は、電量法または蛍光X線による表面分析により測定できる。
【0032】
ここで、蛍光X線にてSn系めっき層の付着量を測定する場合は、まず、Sn系めっき鋼板について、蛍光X線によりFe−Sn合金層中のSn付着量と、Sn系めっき層中のSn付着量の合計を測定した後、Sn系めっき層を5%NaOH(1%KIO含有)溶液などにより溶解し、鋼板上にFe−Sn合金層のみが残った状態としてから、蛍光X線によりFe−Sn合金層中のSn付着量を測定し、先に求めたSn付着量の合計からFe−Sn合金層中のSn付着量を差し引くことにより、Sn系めっき層の付着量を求めることができる。
【0033】
Sn系めっき層中に含有するCuは、Cuの付着量にして、0.05〜0.30g/mであることが必要である。Cuの付着量が0.05g/m未満であると、化成皮膜が損傷した加工部での耐ホイスカー性が不十分であるからであり、また、Cuの付着量が0.30g/m超えになると、耐ホイスカー性は十分であるが、Sn系めっき層の融点が高くなり、半田性が劣化するので好ましくない。
なお、Sn系めっき層中のCuの付着量は、蛍光X線による表面分析により測定できる。
【0034】
Sn系めっき層中に含有されるCuは、Sn−Cu金属間化合物の状態のものと、Snに固溶された状態のものがあるが、これはどちらの形態でも同様に耐ホイスカー性の向上に効果があるので特には規定しない。
【0035】
なお、Sn系めっき層中にCuを含有することにより、厳しい加工条件下でも耐ホイスカー性を確保できるのは、詳細は明らかではないが、Sn系めっき層中のSnの拡散がCuの含有により阻害されるためと考えられる。
【0036】
そして、この発明では、さらに、Sn系めっき層の上層に、好ましくはPと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて形成する、PとSiを含有する化成皮膜を有し、前記化成皮膜中のPの付着量を0.5〜10mg/m、Siの付着量を3〜60mg/mの範囲とする。
【0037】
(1)化成皮膜中のP付着量を0.5〜10mg/mの範囲とすること。
化成皮膜中のPは、りん酸塩としてSn表面を覆い、SnとSi化合物間のバインダーとして働き、化成皮膜を形成する。化成皮膜中のP付着量は、0.5〜10mg/mの範囲とすることが必要である。0.5mg/m未満では、化成皮膜の被覆が不十分であり、時間の経過とともにSn表面で酸化Snが成長して、半田濡れ性が劣るようになるからである。また、化成皮膜の被覆が不十分であるため、良好な耐ホイスカー性を得ることができない。一方、10mg/mを超えると、半田とSn系めっき層の接触が阻害されて半田濡れ性が劣るからである。なお、P付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行った。
【0038】
(2)化成皮膜中のSi付着量を3〜60mg/mの範囲とすること。
化成皮膜中に含有するSiの付着量は、3mg/m未満ではめっき母板である化成皮膜の被覆が不十分で、時間の経過とともにSn表面で酸化Snが成長して半田濡れ性が劣るようになり、また、耐食性も劣化し、良好な耐ホイスカー性を得ることができないため、3mg/m以上とする必要がある。また、化成皮膜中に含有するSiの付着量が60mg/m超えであっても、十分な半田濡れ性と耐食性は得られるが、経済性を鑑み、化成皮膜中に含有するSiの付着量は60mg/m以下とし、より好ましくは30mg/m以下とする。
なお、Si付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行った。
【0039】
本発明において、化成皮膜中に含有するSiは、好ましくは、化成処理液中に含有させたシランカップリング剤、アルコキシシランによって含有させたものである。シランカップリング剤の一般化学式は、X−Si−OR2or3(R:アルコキシ基)であり、アルコキシシランの一般化学式はR−Si−OR4−a(a=0〜3)である。
【0040】
シランカップリング剤およびアルコキシシランは、アルコキシシリル基(Si−OR)が水により加水分解されてシラノール基を生成し、金属表面のOH基との脱水縮合反応により密着し強固な皮膜を形成する。
【0041】
尚、シランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アミノ基の存在する、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが使用できる。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが使用できる。
【0042】
また、PとSiを含有する化成皮膜の形成方法としては、例えば、リン酸系化成処理によって行なうことが好ましく、この場合、化成処理液中のPの供給源としては、リン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム等の金属塩、および/または、1水素リン酸塩などを使用することがより好適である。また、Siの供給源としては、前述したシランカップリング剤やアルコキシシランの1種または2種以上を含有する化成処理液を用いることが好ましいが、かかる場合、化成処理液中のpHを1.5〜5.5の範囲に調整すれば、シランカップリング剤やアルコキシシランを化成処理液中に均一に溶解することができる。
【0043】
尚、化成処理液には、Sn、Fe、Niの金属塩、例えば、SnCl、FeC1、NiC1、SnSO、FeSO、NiSOなどの金属塩を適宜添加することができる。この場合には、侭進剤として塩素酸ナトリウム、亜硝酸塩などの酸化剤、フッ素イオンなどのエッチング剤を適宜添加してもよい。また、化成処理液の均一処理性を向上させる目的で、ラウリル硫酸ナトリウムやアセチレングリコールなどの界面活性剤を適宜添加しても良い。
【0044】
りん酸系化成処理を用いた化成皮膜の形成は、上記化成処理液の鋼板への塗布または浸潰処理を行った後、乾燥させることによって行えば良い。
【0045】
以上のことから、この発明では、鋼板表面に形成したCuを含有するSn系めっき層の上層に、P及びSiを上記適正範囲で含有する化成皮膜を形成することによって、Pbフリー半田との濡れ性、耐食性および耐ホイスカー性の全ての性能を満足させ、特に厳しい加工部での耐ホイスカー性をも満足させることに成功したのである。
【0046】
次にこの発明に従う具体的な製造方法の一例を説明する。
冷延鋼板に電気Snめっきを施した後、Cuイオンを含有する塩化アンモニウム溶液のフラックスに浸漬した後、錫の融点(231.9℃)以上の温度で加熱溶融(リフロー)処理を行い、Fe−Sn合金からなる中間層と、上層のCuを含有するSn系めっき層を形成させ、引き続き、浸漬処理によって化成処理を行う。尚、リフロー処理後に表面に生成したSn酸化物を除去するため、15g/lの炭酸ナトリウム水溶液中で1C/dmの陰極処理を行ってもよい。
【0047】
なおここで、Snめっき層中のCuの含有量は、フラックス中のCuイオンの濃度と浸漬時間、温度により適宜調整することができる。
【0048】
化成処理液としては、リン酸イオン換算で1〜80g/1のリン酸、Snイオン換算で0.001〜10g/1の塩化第一錫、0.1〜1.0g/1の塩素酸ナトリウムを含有し、さらにシランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上を0.5〜20.0mass%添加した水溶液を用いる。
【0049】
化成処理の条件は、温度を40〜80℃、処理(浸漬)時間を1〜5秒間とすることが好ましい。化成処理液中に浸漬した後の錫めっき鋼板は、80〜150℃で乾燥させ、その後、水洗し、温風で乾燥する。
【0050】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば上記では、Snめっき層を、Cuイオンを含有するフラックスを用いて溶錫処理することにより形成したが、公知の方法にてSn−Cu合金めっきを施し、その後溶錫処理を施しても良い。
【実施例1】
【0051】
次に、この発明の実施例について以下で詳細に説明する。
実施例1〜7
板厚0.4〜1.8mmの低炭素鋼または極低炭素鋼からなる冷延鋼板の両面に、電気めっき法によりSnめっきあるいはSn−Cu合金めっきを施した後、溶錫処理を施し、Fe−Sn合金層を形成させて、表1に示す片面当たりのCuを含有したSn付着量およびSn被覆率の錫系めっき層を形成した後、表2に示す3種類の化成処理液A〜Cから選んだ表1に示す化成処理液を用いて種々のPおよびSi付着量の化成皮膜を形成した。なお、表1の示したFe−Sn合金層、Snめっき層、化成皮膜の付着量、含有量は片面あたりの値である。ここで、Snめっき、Sn−Cu合金めっき、溶錫処理の条件を以下に示す。
【0052】
Snめっき
塩化第一錫:75g/L
フッ化ナトリウム:25g/L
フッ化水素カリウム:50g/L
塩化ナトリウム:45g/L
pH:2.7
温度:65℃
電流密度:48A/dm
【0053】
Sn−Cu合金めっき
めっき液:石原薬品製HTC−601
温度:45℃
電流密度:20A/dm
【0054】
溶錫処理
温度:Snの融点(231.9℃)〜270℃
時間:0.05〜5sec
【0055】
また、ここで、Sn−Cu合金めっきを施した場合を除き、溶錫処理時にCuイオンを含有するフラックスを用いることによりCuイオンをSnめっき層中に含有させた。具体的には、塩化アンモニウム水溶液と塩酸の混合液(pH2〜2.5)に塩化銅を添加した、Cuイオンを含有する塩化アンモニウム溶液をフラックスとして用い、該フラックスに浸漬後、溶錫処理を行った。Sn−Cu合金めっきを施した場合は、上記フラックスに塩化銅を添加せずに用いた。
【0056】
比較例1〜10
尚、比較のため、この発明の適正範囲外であるSn系めっき鋼板についても製造した。
【0057】
Sn系めっき層に含有されるCuの付着量および化成皮膜に含有されるP、Siの付着量は蛍光X線により測定した。
Snの付着量は、Sn系めっき鋼板について蛍光X線分析によりSn系めっき層中およびFe−Sn合金層中のSn付着量の合計となるSn付着量を測定した後、Sn系めっき層を5%NaOH(1%KIO含有)溶液により溶解し、鋼板上にFe−Sn合金層のみが残った状態としてから蛍光X線分析によりFe−Sn合金層中のSn付着量を測定し、先に求めた合計のSn付着量からFe−Sn合金層中のSn付着量を差し引くことにより求めた。
【0058】
また、Fe−Sn合金層の付着量は、蛍光X線分析により求めたFe−Sn合金層中のSn付着量から、Fe−Sn合金層(FeSn)の付着量に換算して求めた。
【0059】
さらに、Sn系めっき層の被覆率(面積率)は走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率5000倍に拡大した表面を観察(10視野)し、各視野にてSn系めっき層が被覆している面積率を求め、これら測定した面積率の平均値をSn系めっき層の被覆率として表1に示した。
【0060】
(性能評価)
実施例および比較例の各Sn系めっき鋼板について、Pbフリー半田濡れ性、耐食性および耐ホイスカー性の性能評価を行った。
【0061】
(1)半田濡れ性(半田付け性)の評価
Pbフリー半田として、千住金属製のSn−3.5%Ag−0.75%Cu半田を用いた。半田温度を245℃とし、レスカ製「SAT−5100」装置を用いて平衡法にて、半田が濡れるまでのゼロクロスタイムを測定し、半田濡れ性の評価とした。なお、サンプルは板厚0.6mmのものを用い、温度105℃、湿度100%RHで圧力1.22×10Paの試験槽に8時間曝して加速劣化させた後評価した。サンプルの半田槽への浸漬は、浸漬速度3mm/sec、浸漬深さ3mmとした。ゼロクロスタイムは3秒以下を合格レベルとした。表1にその評価結果を示す。
【0062】
(2)耐食性の評価
塩水噴霧(JIS Z 2371準拠)8時間と噴霧休止16時間とを1サイクルとするサイクル腐食試験を3サイクル行い、赤錆びの発生面積率(%)で耐食性を評価した。なお、赤錆び面積率は3%以下を合格レベルとした。表1にその評価結果を示す。
【0063】
(3)耐ホイスカー性評価
サンプルを曲げ半径5mmで曲げ、−25℃と120℃の繰返し熱サイクルを500回行ったのち、曲げ部表面を走査型電子顕微鏡で観察し、ホイスカーの発生状況を観察した。ホイスカーの発生および長さで耐ホイスカー性を評価した。表1にその評価結果を示す。なお、ホイスカーの発生がない場合を、耐ホイスカー性に優れるものとして評価した。
【0064】
(4)厳しい加工部での耐ホイスカー性評価
図1に模式的に示すように、供試材1を、ポンチ径:50mmφ、クリアランス:板厚+0.4mm、ポンチ肩曲率:3mmR、ダイス肩曲率:3mmRのポンチ2とダイス3でプレス速度(絞り速度):50mm/minで深さ15mmのプレス絞り加工を行い、−25℃と120℃の繰返し熱サイクルを500回行ったのち、図1に示した供試材1の加工部4の化成皮膜が損傷を受けた表面を走査型電子顕微鏡で観察し、ホイスカーの発生状況を観察した。ホイスカーの発生および長さで耐ホイスカー性を評価した。表1にその評価結果を示す。なお、ホイスカーの発生がない場合を、耐ホイスカー性に優れるものとして評価した。
【0065】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜7はいずれも、半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性の全性能について優れていた。一方、比較例1〜10はいずれも、半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性のいずれかの性能が悪く、実用レベルにないことがわかる。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明は、鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介してCuを含有するSn系めっき層と、該Sn系めっき層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を有することにより、半田濡れ性、耐食性および特に厳しい加工部での耐ホイスカー性に優れたSn系めっき鋼板を提供することができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】厳しい加工部での耐ホイスカー性評価試験を説明するための図である。
【符号の説明】
【0070】
1 供試材
2 ポンチ
3 ダイス
4 供試材の加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面上に、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるCuを含有するSn系めっき層と、該Sn系めっき層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を有し、前記Sn系めっき層中のSnの付着量を5.0〜20.0g/m、Cuの付着量を0.05〜0.30g/mの範囲とし、前記化成皮膜中のPの付着量を0.5〜10mg/m、Siの付着量を3〜60mg/mの範囲とすることを特徴とする半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記化成皮膜は、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて形成することを特徴とする請求項1に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板表面上にSnめっきを施した後、Cuイオンを含有するフラックスを用いた溶錫処理を施して、鋼板表面上にFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるCuを含有するSn系めっき層を形成し、その後、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いた化成処理を施して、PとSiを含有する化成皮膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
鋼板表面上にSn−Cu合金めっきを施した後、溶錫処理を施して、鋼板表面上にFe−Sn合金層を介して被覆率が99.0%超えとなるSn−Cu合金めっき層を形成し、その後、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いた化成処理を施して、PとSiを含有する化成皮膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−57145(P2006−57145A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240514(P2004−240514)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】