説明

単位面積あたりの重量及びその面内均一性の測定方法

【課題】試料を切り出すことなく、単位面積あたりの重量を測定する。
【解決手段】以下のステップを備えてテラヘルツ時間領域分光法に基づいて試料の単位面積当たりの重量を求める。
(ステップ1)試料がない場合と、単位面積あたりの重量が既知の複数の標準試料について、テラヘルツ電磁波パルスの時間領域波形のピーク時間を測定し、標準試料の単位面積当たりの重量と、試料がない場合のピーク時間を基準としたときの単位面積当たりの重量に基づくピーク時間の遅延時間ΔTとの関係をあらかじめ求めて検量線を作っておくステップ、
(ステップ2)未知試料に対してテラヘルツ電磁波パルスの時間領域波形のピーク時間を測定してピーク時間の遅延時間ΔTsを求めるステップ、及び
(ステップ3)前記検量線から遅延時間ΔTsに対応する単位面積当たりの重量を未知試料の単位面積当たりの重量として求めるステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙、発泡フィルム、気泡含有食品などの種々の物品における単位面積あたりの重量と、その面内均一性を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単位面積あたりの重量の一例は紙の坪量である。本発明は紙の坪量と坪量ムラの測定方法に限定されるものではなく、単位面積あたりの重量が測定値として意味のある物品であれば適用できるものであるが、まず、紙を取り上げて説明を行う。
【0003】
紙の地合いは外観だけでなく、紙の強度や印刷適性等に影響を与えるものであり、紙の品質を議論する際に非常に重要な因子となる。紙の地合いとは、シートの単位面積当たりの重量で表される坪量(g/m2)の均一性であり、地合いを評価するためには坪量の2次元分布を測定すればよい。
【0004】
紙の製造現場においては従来から主に目視による評価が行われている。目視による評価は主観評価であるため、簡易的に客観評価を行う方法が必要とされてきた。
【0005】
地合いを客観的に評価する方法の主なものとしては、可視光の透過強度を測定する方法と、放射線(β線)の透過強度を測定する方法の2種類が挙げられる。
【0006】
前者は透過強度分布を任意の諧調(例えば250諧調)に分類してヒストグラムを作成し、ヒストグラムの形状や標準偏差を算出することによって地合いの程度や傾向を定義するという手法である。この方法は製造現場で行われている目視評価と一般に相関が高いことが示されており、地合の良し悪しを評価する上では役に立っている。しかし可視光の透過強度を測定するという原理上、厚い試料(すなわち坪量の大きい板紙など)については測定が難しく、色の付いた紙の場合は吸収の影響により誤差が生じるなどの問題もある。またヒストグラムにより数値化するため地合の相対的な評価となり、坪量の絶対値としての分布を測定することには適していない。
【0007】
一方後者の場合は、β線の透過光量を測定し、あらかじめ求めておいた検量線によって坪量に換算する手法である。これは紙の製造現場でBM計と呼ばれる坪量と水分のオンライン測定を行う装置にも利用されている方法であって、最も一般的な坪量測定方法である。一度に測定する面積を小さくし、試料を走査して測定することで坪量の分布を求めることが可能となる。この方法ではβ線が試料の絶対量、すなわち坪量に応じて吸収されることを利用し、透過光量からランバートベールの式を用いて坪量を得るというものである。つまり地合ムラを坪量の分布として絶対評価でき、かつ試料の色に影響されず、坪量の大きな紙でも測定可能であることが利点となる。
【0008】
以上の利点から、後者の方法は前者より優れた点があるが,放射線を利用しているため取り扱い及びメンテナンスが容易ではないという欠点がある。
【0009】
以上のように、紙の厚さや色に影響されず、かつ坪量の絶対値として地合を表すことが可能であって、安全性が高くメンテナンスも容易である実用的な装置はこれまでなかった。
紙に限らず、物品の単位面積あたりの重量は試料を切り出して面積と重量を測定すれば容易に求めることができるが、試料を切り出すことなく品質管理の一環として単位面積あたりの重量を測定しようとすると、紙以外の材料や食品などの分野でも適当な測定手段がないのが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】阪井清美「テラヘルツ時間領域分光法」分光研究 第50巻 第6号 261−273(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の第1の目的は、紙をはじめ、種々の試料を切り出すことなく、単位面積あたりの重量を測定する方法を提供することである。
【0012】
本発明の第2の目的は、紙をはじめ、種々の試料において、単位面積あたりの重量の面内での均一性を測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
まず、紙を例として、本発明の測定原理を説明する。本発明において坪量測定に用いるのは試料の屈折率によって生じる電磁波の時間遅延である。
【0014】
まず同一の光路上で進行する電磁波を考える。試料がない場合にスタートからゴールまでに要する時間をTとすると、試料がある場合に要する時間T’は、試料の屈折率をN、試料の厚さをd、光速をcとすると、(1)式で表せる。
T’=T+d(N−1)/c (1)
【0015】
すなわち、試料を透過することによって生じる時間遅延ΔTは(1)式の第2項であり(2)式で表せる。
ΔT=d(N−1)/c (2)
【0016】
次に試料の屈折率Nと密度ρの相関を考える。組成一定の場合は、グラッドストーン−デイル則に従って(3)式で表せる。
k・ρ=(N−1) (3)
ここでkは比例定数である。
【0017】
一般的な紙は繊維と添料からなり、繊維間には微小な空気の隙間がある構造となっている。ここでカレンダー処理によって紙を両面から圧を加えて潰せば、厚さが変化し、同時に屈折率も変化する。これは紙のシート全体に占める空気の比率が少なくなるためであり、添料と繊維からなる固形分の屈折率により近づくからである。つまりカレンダー処理によって厚さは薄くなり、固形分と空気の比率は変化するものの、含有する成分そのものは変わらない。すなわち紙を試料とする場合は(3)式が成立する。
【0018】
次に坪量について考える。坪量は紙の単位面積当たりの重量として表せる。坪量についての説明は、坪量を他の物品の単位面積当たりの重量に置き換えればそのまま当てはまる。
【0019】
坪量BWを密度ρと厚さdで表すと(4)式となる。
BW=ρ・d (4)
【0020】
(3)式に(4)式を代入すると(5)式を得る。
(N−1)=k・BW/d (5)
【0021】
さらに、(5)式を(2)式に代入すると(6)式が得られる。
ΔT=k・BW/c (6)
【0022】
(6)式の定数部分をまとめて定数Aとすると(7)式で表せる。
ΔT=A・BW (7)
【0023】
つまり、試料がある場合の遅延時間ΔTは紙の坪量BWに比例し、あらかじめ検量線を作成して定数部分Aを求めておけば、ΔTを測定することで坪量を導き出せる。またΔTは坪量BWにのみに比例することから、紙の厚さや密度には影響されない。すなわち同一の試料であれば、カレンダー処理前後で厚さや密度が変化しても、ΔTは不変となる。よってあらかじめ厚さを測定することなく、坪量が求められることとなる。
【0024】
測定対象を紙以外の物品にまで広げると、紙の坪量の測定と同様にして一般の物品の単位面積当たりの重量を測定することができる。
【0025】
以上のように、ΔTを測定すれば単位面積当たりの重量が求められるが、実際にはΔTは数p秒であり正確に測定することは極めて難しい。また紙を例にとると、紙の繊維の直径は数10μmであるため、波長が100μm以上でなければ紙による散乱が大きく、電磁波はほとんど透過しない。一方、波長が長ければ紙を透過することが可能であるが、波長が長いほど空間分解能が悪くなるため、坪量の測定は可能であっても坪量ムラの測定には適さない。そこで、ΔTを正確に測定することと、適切な空間解像度が得られること、の2つの課題を同時に満たすことが必要であり、これを実現する手法として、テラヘルツ時間領域分光法の原理を用いる。
【0026】
テラヘルツ波は一般的に30μm〜3mmの範囲の波長の電磁波を指し、周波数で表すと100GHz〜10THzとなる。前述のとおり、波長が100μm以下の場合は紙の散乱が大きく、透過率は数%程度まで下がるため正確な測定が難しいことから、少なくとも波長が100μm以上であることが必要となる。一方空間分解能を向上させるためには波長を短くする必要があり、少なくとも1mm以下としなければ坪量ムラの測定には利用できない。つまり紙の坪量ムラを測定するために適している波長は100μm〜1mmの範囲となり、周波数で表すと0.3THz〜3THzである。この周波数帯はテラヘルツ帯に含まれており、テラヘルツ電磁波が紙の測定に適していることがわかる。
【0027】
次に本発明で用いるテラヘルツ波時間領域分光法の原理を説明する。テラヘルツ時間領域分光法はテラヘルツ電磁波のパルス波を発生させ、試料を透過した電磁波を受信して時間領域のテラヘルツ波のパルス波形を求める手法である。しかしテラヘルツ電磁波の発生は容易ではなく、100フェムト秒(1fsは10-15秒)の持続時間を有するレーザーパルス光を光伝導スイッチに照射することが必要となり、発生するテラヘルツ電磁波のパルス巾は数ピコ秒(1psは10-12秒)と極めて短い。このようなサブピコ秒オーダーのパルス波形を検出可能な検出器は現存しないため、サンプリングと言う手法を用いてテラヘルツ電磁波の波形を再現する。これは、前述のレーザーパルス光が周期的に安定して照射されることを利用したもので、テラヘルツ電磁波の発生に用いるレーザーパルスを途中で分岐し、時間遅延を行って検出側の受信機に照射することで時間領域のテラヘルツ電磁波パルスの波形を再現できる。
【0028】
図1は一般的なテラヘルツ時間領域分光法の装置の概略図であり、時間遅延は遅延ステージ20を光路長が変化する方向に動かすことによって可能となる。この手法により、試料を透過し、検出側にサブピコオーダーで遅れて到達するテラヘルツ波電磁波のパルス波形が正確に得られる。
【0029】
図1の装置の概略を説明すると、フェムト秒パルスレーザー装置10から発生したレーザーパルス波は、ビームスプリッタ11によってポンプパルス光Aとプローブパルス光Bに分けられる。ポンプパルス光Aはロックイン検出を行うためのチョッパ22により所定の周波数で断続される。フェムト秒パルスレーザー装置10から発生するレーザーパルス波の持続時間は、チョッパ22による断続の繰返し周期に比べて極めて短い。
【0030】
チョッパ22により断続されたポンプパルス光Aは集光レンズ19aによって集光され、光伝導アンテナ12aの受光面に照射される。光伝導アンテナ12aには電源23によりバイアス電圧が印加されており、ポンプパルス光Aが入射するとテラヘルツ電磁波パルスが発生し、超半球型シリコンレンズ13aから軸外し放物面鏡18aを経て平行光となって試料40に照射される。試料40を透過したテラヘルツ電磁波パルスは、軸外し放物面鏡18dにより集光され、超半球型シリコンレンズ13bを経て光伝導アンテナ12bに照射される。
【0031】
一方、プローブパルス光Bは平面ミラー15を経て遅延ステージ20上の交差ミラー16に送られ、交差ミラー16から平面ミラー17を経て集光レンズ19bによって光伝導アンテナ12bの受光面に照射され、その瞬間に光伝導アンテナ12bの裏面に到達したテラヘルツ電磁波の振幅に比例した電流が流れる。光伝導アンテナ12bに流れる電流は増幅器33で増幅され、ロックインアンプ31によりチョッパ22による断続の周期と同期して検出され、測定結果が直流電圧となってコンピュータ32に取り込まれる。コンピュータ32により遅延ステージ20を移動させることで、テラヘルツ電磁波パルス波形の各部位を順次走査して測定することが可能となり、図2に示されるような時間領域波形が得られる。
【0032】
第1の目的を達成するための坪量(一般的には単位面積当たりの重量)を測定する第1の形態を説明する。坪量を得るためには、あらかじめ同一組成で坪量のみ異なり、かつ坪量が既知である3種以上の試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて時間領域のパルス波形を得る。図2は3種類の坪量の異なる紙を測定したときの時間領域のテラヘルツ電磁波パルスの波形を示している。試料を配置しなかったときのリファレンスに対し、坪量に応じてパルス波形が遅れることがわかる。図2より3種の坪量の紙について、それぞれのパルス波形のピーク位置が試料を設置しなかったときのリファレンスのパルス波形のピーク位置からどれだけ遅れているかを示す遅延時間ΔTを求めて図3の検量線を得た。検量線の傾きが(7)式の比例定数となる。よって坪量が未知の試料について、テラヘルツ電磁波パルスの波形を測定してΔTを計算すれば、図3により坪量が得られる。
【0033】
ΔTを求めるためにはテラヘルツ電磁波パルス波形のピーク時間を正確に測定することが重要であるが、パルス波形のピーク付近の値は変化が小さい、すなわち傾きが小さく、パルス波形がピークとなる正確な時間を求めることは容易ではない。また坪量ムラを測定する場合は、わずかな坪量変化を検出する必要があり、ΔTのわずかな変動を正確に求めることは、さらに容易ではない。
【0034】
そこで、次に第1の目的を達成するための本発明の第2の形態として、ΔTに代わる特性値に基づいて坪量(一般的には単位面積当たりの重量)を測定する方法を説明する。図5は坪量の異なる3種類の紙を試料としてテラヘルツ電磁波のパルス波形を測定した結果である。図5の上図では3つのパルス波形が重なっているように見えるが、その時間軸を拡大すると、図5の下図のように互いに分離していることがわかる。ここで、図5の下図に示すようにテラヘルツ電磁波のパルス波形の傾きの大きな時間を決めて、その波形での検出電圧を用いて坪量との検量線を作成する。テラヘルツ電磁波のパルス波形の傾きの大きな時間を決めるというのは、遅延ステージ20をその時間に相当する位置に固定して光伝導アンテナ12bに流れる電流を検出することである。
【0035】
この手法の場合、ΔTを求める方法と比較して有利な点が2点ある。第1の利点は、検出電圧として絶対値が得られることである。これは、テラヘルツ時間領域分光法が遅延ステージ20を段階的に移動(通常数μmピッチ)させながら時間領域のパルス波形を求めるために、時間のデータは実際には連続的ではなく、段階的な値としてでしか得られないことによる。しかし図5で示す方法を利用すれば、得られる値は切れ目のない連続的な変動となり、記録された値そのものが真の値となる。もう一つの利点は、ΔTがわずかに変化しただけでも、パルス波形の傾きが大きい時間付近を選択しているために検出電圧が大きく変化することである。すなわち坪量測定の精度と感度の両方を同時に大幅に改善することができるようになった。
【0036】
いま、紙について説明しているので、坪量の測定となっているが、紙以外の物品にも適用できるので、一般には単位面積当たりの重量の測定に拡張することができる。
【0037】
次に、第2の目的を達成する本発明の説明のために、再び紙の測定を例にして坪量ムラの測定について説明する。坪量ムラの測定を行うためには、紙の坪量の面内分布を求めればよい。すなわち紙の微小面積での坪量を、測定位置をずらしながら測定し、2次元でマッピングを行う。具体的な手法としては、テラヘルツ時間領域分光法の装置の光学系を集光系にし、測定面積を小さくすることで可能となる。図4は集光系としたテラヘルツ時間領域分光法の装置の概略図である。図4の装置の説明は改めて後述する。テラヘルツ時間領域分光法で測定を行う場合、パルス波形を測定するために図4の遅延ステージ20を移動して時間遅延を行っているために、測定時間は遅延ステージ20が移動する時間に支配される。つまり測定点が1点であれば問題ないが、2次元マッピングを行うためには測定点数が増えるために測定時間も膨大となるという問題がある。
【0038】
具体的な測定方法の一例を以下に示す。ここでは、測定を紙以外にも適用できるように、坪量に代えて単位面積あたりの重量を用いて説明する。
【0039】
(ステップ1)測定したい試料と同一組成で、単位面積あたりの重量が既知でありかつ単位面積あたりの重量の異なる3種以上の試料を用意し、単位面積あたりの重量の順に並べたときに両端の試料を除くいずれかの単位面積あたりの重量となる試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて時間領域のパルス波形を得るステップ。
【0040】
(ステップ2)得られた波形について、傾きが最も大きくなる時間を選択し、その時間となるように時間遅延を固定するステップ。
【0041】
(ステップ3)用意した3種以上の試料について、試料を移動させて測定位置をずらしながら2次元データを得るステップ。
【0042】
(ステップ4)それぞれの試料について、得られた検出電圧を平均し、各試料の平均検出電圧値を得るステップ。
【0043】
(ステップ5)各試料の平均検出電圧値と、各試料の単位面積あたりの重量とをプロットし、検量線を得るステップ。
【0044】
(ステップ6)測定したい試料について、ステップ3と同様にして2次元データを得るステップ。
【0045】
(ステップ7)得られたデータを検量線によって単位面積あたりの重量に換算し、単位面積あたりの重量の2次元分布データとするステップ。
【0046】
単位面積あたりの重量は、測定対象が紙の場合は坪量であるが、本発明は紙の測定に限られるものではない。例えば、発泡ポリエステルなどの発泡フィルムを試料とすると、坪量に相当する物性として単位面積当たりの重量を測定することができ、紙の地合いに相当するものとして発泡ムラを測定することもできる。また、単位面積当たりの重量と別途測定した厚さとから、発泡フィルムの発泡率を求めることもできる。
【0047】
チョコレートやムースといった泡を含有した食品でも単位面積当たりの重量を測定できるので、本発明をそれらの食品の品質管理に利用することもできる。
【0048】
スポンジの単位面積当たりの重量も同様に測定することができる。
【0049】
紙の地合いに相当する単位面積当たりの重量の面内均一性の測定は、例えば塗工紙のコーティング時の塗工ムラの管理に利用することができる。
【0050】
また、板紙などの厚い紙の中の異物検出にも利用することができる。これは、屈折率の異なるものが紙の中に含まれておれば、本発明の測定に係る遅延時間ΔTが極端に変化するからである。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、試料を切り出すことなく、テラヘルツ波を利用して単位面積当たりの重量を測定することができる。
【0052】
紙の測定においては、従来坪量ムラの測定を行うのに不可欠であったβ線を用いることなく、安全かつ正確に坪量の分布を測定することが可能となる。また赤外や可視域での透過測定では坪量の大きい場合や、紙の色などの制約があったが、紙の透過性がよいテラヘルツ波を利用すること、試料による制約を受けなくなる。さらに一般的なテラヘルツ時間領域分光法の装置がそのまま利用でき、かつ一般的なテラヘルツ時間領域分光法と比較して短時間で高精度、高感度測定ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】テラヘルツ時間領域分光法が実施される平行光系の装置を示す概略図である。
【図2】試料がないときと、坪量の異なる3種類の紙を測定したときの時間領域のテラヘルツ電磁波パルスを示す波形図である。
【図3】図2のΔTより求めた検量線を示すグラフである。
【図4】テラヘルツ時間領域分光法が実施される集光系の装置を示す概略図である。
【図5】3つのテラヘルツ電磁波パルスの波形図(上図)と、時間軸を拡大した同テラヘルツ電磁波パルスの波形図である。
【図6】図5の特定の時間でのデータに基づく検量線を示すグラフである。
【図7】一実施例によるテラヘルツ波を用いた米坪ムラ画像を示す図である。
【図8】同試料の可視透過画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図4にテラヘルツ電磁波を利用して試料の単位面積当たりの重量とその面内均一性を測定するための装置の一例を示す。例として紙の坪量及びその均一性としての坪量ムラを測定する場合を説明するが、発泡フィルムなど、他の試料を測定する場合にも適用できることは言うまでもない。
【0055】
フェムト秒パルスレーザー装置10は高周波信号発信器30から発生するロックイン検出を行うための高周波信号の繰返し周期に比べて十分に短い持続時間のレーザーパルス波を発生する。高周波信号発信器30から発生する高周波信号の周波数は例えば20KHz(繰返し周期は50μsec)であり、図1に示されたようなチョッパ22による周波数に比べると高周波であるが、フェムト秒パルスレーザー装置10から発生するレーザーパルス波のパルス幅は高周波信号発信器30から発生する高周波信号の繰返し周期より遥かに短い例えば100fsecである。そのような短いパルス幅のレーザーパルス波が例えば80MHzの周波数で発生する。
【0056】
フェムト秒パルスレーザー装置10から発生したレーザーパルス波の光路上には、そのレーザーパルス波をポンプパルス光とプローブパルス光に分割するためにビームスプリッタ11が配置されている。
【0057】
ポンプパルス光の光路には、集光レンズ19aを経て、光伝導アンテナ12aが配置され、ポンプパルス光は集光レンズ19aによって集光されて光伝導アンテナ12aの受光面に照射されるようになっている。光伝導アンテナ12aには、高周波信号発信器30から発せられたロックイン検出を行うための参照信号である高周波信号がバイアス電圧として供給される。光伝導アンテナ12aにバイアス電圧が印加された状態のときにポンプパルス光が照射されると、光伝導効果によって光伝導アンテナ12aの裏面からテラヘルツ電磁波パルスが発生する。
【0058】
光伝導アンテナ12aから発生するテラヘルツ電磁波パルスを試料ステージ上の試料40に導く光学系として、光伝導アンテナ12aの受光面の裏面に取り付けられた超半球型シリコンレンズ13aと、超半球型シリコンレンズ13aを通して発生するテラヘルツ電磁波パルスを平行光にする軸外し放物面鏡18aと、平行光にされたテラヘルツ電磁波パルスを試料40上に集光させる軸外し放物面鏡18bが配置されている。
【0059】
試料が配置されている試料ステージ(図示略)は、試料40上にテラヘルツ電磁波パルスが集光される点を2次元に移動させることのできるXYステージである。試料ステージを移動させることにより試料40の当該部分のイメージング測定を行うことができる。
【0060】
試料40を透過したテラヘルツ電磁波パルスを光伝導アンテナ12bに導く光学系として、試料40を透過したテラヘルツ電磁波パルスを平行光に戻す軸外し放物面鏡18cと、平行光にされたテラヘルツ電磁波パルスを集光させる軸外し放物面鏡18dと、集光されたテラヘルツ電磁波パルスを光伝導アンテナ12bに照射するために光伝導アンテナ12bに取り付けられた超半球型シリコンレンズ13bが配置されている。
【0061】
一方、プローブパルス光の光路には、平面ミラー14、15を介して遅延ステージ20
上に設置された交差ミラー16が配置されている。交差ミラー16から出射したプローブパルス光の光路には、平面ミラー17が配置され、平面ミラー17で反射したプローブパルス光は集光レンズ19bによって集光されて光伝導アンテナ12bの受光面に照射されるようになっている。
【0062】
交差ミラー16は平面ミラー15及び17に対向して配置されている。遅延ステージ20を平面ミラー15、17との距離を変化させる方向に移動させることにより、平面ミラー15から交差ミラー16を経て平面ミラー17に至る光路長を変化させることができ、その結果としてプローブパルス光が光伝導アンテナ12bの受光面に到達する時間の遅延時間を変化させることができる。
【0063】
プローブパルス光が光伝導アンテナ12bの受光面に入射すると、その瞬間に光伝導アンテナ12bの裏面に到達したテラヘルツ電磁波の振幅に比例した電流が流れる。その電流を検出するために、光伝導アンテナ12bにはロックインアンプ31が接続されている。ロックインアンプ31には、光伝導アンテナ12aにバイアス電圧として供給された高周波信号発信器30からの高周波信号が参照信号として供給され、光伝導アンテナ12bに流れる電流がロックイン検出される。
【0064】
この装置の動作は以下の通りである。フェムト秒パルスレーザー装置10から発生したレーザーパルス波は、ビームスプリッタ11によってポンプパルス光とプローブパルス光に分けられ、ポンプパルス光は集光レンズ19aによって集光され、光伝導アンテナ12aの受光面に照射される。光伝導アンテナ12aにバイアス電圧が印加された状態でポンプパルス光が入射するとテラヘルツ電磁波パルスが発生し、超半球型シリコンレンズ13aから軸外し放物面鏡18a、18bを経て試料40に照射される。試料40を透過したテラヘルツ電磁波パルスは、軸外し放物面鏡18c、18dから超半球型シリコンレンズ13bを経て光伝導アンテナ12bに照射される。プローブパルス光は平面ミラー14、15を経て遅延ステージ20上の交差ミラー16に送られ、交差ミラー16から平面ミラー17を経て集光レンズ19bによって光伝導アンテナ12bの受光面に照射され、その瞬間に光伝導アンテナ12bの裏面に到達したテラヘルツ電磁波の振幅に比例した電流が流れ、増幅器33を経てロックインアンプ31により検出されて直流電圧として測定結果が得られ、コンピュータ32に取り込まれる。コンピュータ32により遅延ステージ20を移動させることで、テラヘルツ電磁波パルス波形の各部位を順次走査して測定することが可能となり、図2示されるような時間領域波形が得られる。
【0065】
ここで試料がある場合とない場合での時間領域でのパルス波形を比較すると、試料を透過したテラヘルツ電磁波は、試料の屈折率と厚さに応じて、試料がない場合よりも検出側の光伝導アンテナに到達する時間が遅れる。図2の例では、この遅れは0.1〜0.2ピコ秒程であり非常に微小な時間である。テラヘルツ時間領域分光法は、このような微小な時間の遅れを正確に測定できる唯一の方法である。
【0066】
坪量測定では、あらかじめ坪量が既知である試料について、図5のごとく測定しておき、図6に示す検量線を得る。しかし坪量が既知であっても坪量ムラがあるので、試料の面内の複数個所で測定をしてその平均値をその試料の坪量として検量線を作成するのが好ましい。
【0067】
上記の例のほか、テラヘルツ時間領域分光法の使用できるテラヘルツ波発生法、及びテラヘルツ波検出法が幾つか有り、非特許文献1に紹介されている。本発明においても、テラヘルツ波発生法及び検出法は上記の例に限定されず、全てのテラヘルツ波発生法、検出法が利用できることは言うまでもない。
【実施例】
【0068】
本発明者らは、図4に示す装置を用いて、紙の坪量ムラを示す2次元の坪量測定を行った。手順を以下に示す。なおフェムト秒レーザー装置10は、中心波長800nmであり、パルス巾100フェムト秒を有し、繰返し周期80MHzでレーザー光を発生する。ポンプパルス光とレーザーパルス光のパワーは、それぞれ10mWとした。
【0069】
既知の坪量の試料として、坪量がそれぞれ68.5g/m2である上質紙について、テラヘルツ時間領域分光法により時間領域波形を求めた。この波形から遅延ステージを7.047ピコ秒となる位置に固定し、坪量が55.9、68.5、82.6g/m2と既知である3種の試料について、12mm×15mmの測定範囲内を0.5mmごとに移動させながらXY方向に移動させながら検出電圧の2次元イメージングデータを得た。得られたデータを試料ごとに平均をとり、坪量と検出電圧をプロットして図6の検量線を得た。
【0070】
次に坪量が未知である低質紙について同様に測定を行い、検出電圧から図6の検量線に従って、図7に示す坪量のイメージングデータを得た。図7で坪量は濃淡により表示されている。図7の画像の右側に濃淡と坪量(40−100g/m2)の対応関係が示されている。図7の画像の周囲の数値は寸法(mm)である。図8は同じサンプルの可視光透過画像であり、両者を比較すると可視透過画像で明るい部分(坪量が少ないところ)は、テラヘルツ波で測定した場合でも坪量が少なくなっており、ほぼ可視透過画像と一致していることがわかる。また、テラヘルツ波で測定した結果は坪量の値に換算できるため、坪量ムラ測定装置として非常に有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 フェムト秒パルスレーザー
11 ビームスプリッタ
12a、12b 光伝導アンテナ
13a、13b 超半球型シリコンレンズ
14、15 平面ミラー
16 交差ミラー
17 平面ミラー
18a、18b、18c、18d 軸外し放物面鏡
19a、19b 集光レンズ
20 遅延ステージ
30 高周波信号発振器
31 ロックインアンプ
32 コンピュータ
40 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを備えてテラヘルツ時間領域分光法に基づいて試料の単位面積当たりの重量を求める測定方法。
(ステップ1)試料がない場合と、単位面積あたりの重量が既知の複数の標準試料について、テラヘルツ電磁波パルスの時間領域波形のピーク時間を測定し、標準試料の単位面積当たりの重量と、試料がない場合のピーク時間を基準としたときの単位面積当たりの重量に基づくピーク時間の遅延時間ΔTとの関係をあらかじめ求めて検量線を作っておくステップ、
(ステップ2)未知試料に対してテラヘルツ電磁波パルスの時間領域波形のピーク時間を測定してピーク時間の遅延時間ΔTsを求めるステップ、及び
(ステップ3)前記検量線から遅延時間ΔTsに対応する単位面積当たりの重量を未知試料の単位面積当たりの重量として求めるステップ。
【請求項2】
以下のステップを備えてテラヘルツ時間領域分光法に基づいて試料の単位面積当たりの重量を求める測定方法。
(ステップ1)測定したい試料と同一組成で、単位面積あたりの重量が既知でありかつ単位面積あたりの重量の異なる3種以上の標準試料を用意し、単位面積あたりの重量の順に並べたときに両端の標準試料を除くいずれかの単位面積あたりの重量となる標準試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて時間領域のパルス波形を得るステップ。
(ステップ2)得られた波形について、傾きが最も大きくなる時間を選択し、その時間となるように時間遅延を固定するステップ。
(ステップ3)用意した3種以上の標準試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、ステップ2で固定した時間遅延における検出電圧値を得るステップ。
(ステップ4)各標準試料の検出電圧値と、各標準試料の単位面積あたりの重量とをプロットし、検量線を得るステップ。
(ステップ5)測定したい未知試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、ステップ2で固定した時間遅延における検出電圧値を得るステップ。
(ステップ6)前記検量線からステップ5における検出電圧値に対応する単位面積当たりの重量を未知試料の単位面積当たりの重量として求めるステップ。
【請求項3】
テラヘルツ時間領域分光法の装置の試料照射光学系を集光系とし、以下のステップで測定を行う単位面積あたりの重量の均一性測定方法。
(ステップ1)測定したい試料と同一組成で、単位面積あたりの重量が既知でありかつ単位面積あたりの重量の異なる3種以上の試料を用意し、単位面積あたりの重量の順に並べたときに両端の試料を除くいずれかの単位面積あたりの重量となる試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて時間領域のパルス波形を得るステップ。
(ステップ2)得られた波形について、傾きが最も大きくなる時間を選択し、その時間となるように時間遅延を固定するステップ。
(ステップ3)用意した3種以上の試料について、試料を移動させて測定位置をずらしながら2次元データを得るステップ。
(ステップ4)それぞれの試料について、得られた検出電圧を平均し、各試料の平均検出電圧値を得るステップ。
(ステップ5)各試料の平均検出電圧値と、各試料の単位面積あたりの重量とをプロットし、検量線を得るステップ。
(ステップ6)測定したい試料について、ステップ3と同様にして2次元データを得るステップ。
(ステップ7)得られたデータを検量線によって単位面積あたりの重量に換算し、単位面積あたりの重量の2次元分布データとするステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−68086(P2012−68086A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211900(P2010−211900)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】