説明

単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置及びエアギャップ修正方法

【課題】単相誘導電動機ごとのばらつきや外乱があってもノイズフィルタ等の雑音除去手段を設けることなく、エアギャップの偏心状態を精度よく検査することができるようにする。
【解決手段】主巻線110及び補助巻線111に流れる電流の電流波形を計測する電流計121a、121bと、主巻線110及び補助巻線111に交流電圧を印加した際に,ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向における単相誘導電動機の振動の振動波形を計測する加速度ピックアップ122a、122bとを設け、計測された振動波形の振幅によりエアギャップ101の偏心量を計算するとともに、計測された振動波形と電流波形との位相差の時間変化により偏心方向を計算し、このように計算された偏心量及び偏心方向に基づいてエアギャップ101の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置及びエアギャップ修正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単相誘導電動機に通電し、ロータが回転しない拘束状態(ロック状態とも呼ぶ)において発生する振動を計測し、これにより単相誘導電動機のエアギャップの偏心状態を推定するものがあった。例えば単相誘導電動機の主巻線か補助巻線のどちらか一方に定格電圧より低い電圧をかけてロック状態とし、印加した電圧の波形とロック状態において発生する振動波形とからロータとステータの隙間の状態を検出するようにしていた。
【0003】
主巻線または補助巻線に電圧を印加すると、電流が流れ磁束が発生し、ロータに磁気吸引力が作用する。磁束が最大となるときに磁気吸引力も最大となり、ロータがエアギャップの狭いほうへ移動するようになる。例えば磁束波形が電圧波形より1/4波長遅れている場合、電圧波形がゼロとなるときに振動波形が極大値、または極小値をとり、その符号とエアギャップ偏心方向とが一致することからエアギャップの偏心方向を判定することができる。また振動波形の振幅の大きさよりエアギャップ偏心状態の大きさを推定することができ、このようにしてエアギャップの偏心方向と偏心の大きさを検出するものである(特許文献1参照)。
【0004】
また電動機に通電し、起動時の回転を開始する前のロック状態において発生する振動波形からロータのエアギャップ偏心の量と方向を判定するものもある。ロック状態において発生する振動波形の立ち上がりの符号がエアギャップの偏心方向と一致するため、振動波形の立ち上がりの符号からエアギャップの偏心方向を判定するものである。また振動波形の振幅の最大値からエアギャップの偏心の大きさを推定することができ、このようにしてエアギャップの偏心方向と偏心の大きさを検出するものである(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−152262号公報(1頁4〜11行、2頁32〜56行、図8)
【特許文献2】特開平06−284655号公報(2頁2〜11行、2頁70〜76行、4頁1〜93行、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置は以上のように構成されており、上記特許文献1においては、電動機に印加した電圧波形と計測した振動波形とからエアギャップの偏心方向を判定する場合、電圧波形の位相と振動波形の位相のずれ(上記の例においては1/4波長のずれ)を検出し、振動波形の極値の符号からエアギャップの偏心方向を判定する際、実際の製品では電動機ごとに電圧波形と振動波形の位相のずれにばらつきがあり、また電動機について計測した電流波形と振動波形においても電流周期ごとに位相のずれにばらつきが生じてしまい、そのためエアギャップの偏心方向の判断に誤りが生ずる可能性があるという問題点があった。
【0007】
又上記特許文献2においては、計測した振動波形の立ち上がりからエアギャップの偏心方向を判定する場合、ノイズが混入することにより振動波形が立ち上がる点を判断するのが難しく、バンドパスフィルタなどを用いて周波数を選択するとしてもエアギャップの偏心方向を判定するためのパラメータを設定するのに多大な労力を必要とするため、異なる機種毎にエアギャップの偏心方向を判定できるように設定するのが困難であるという問題点があった。
【0008】
実際の製品では、部品の加工精度や組立精度により、主軸が回転することでエアギャップの偏心状態が変化する場合がある。例えば回転中心である主軸に対して焼嵌め固定されたロータの中心軸が偏心していたり、主軸が湾曲している場合があり、このような場合には主軸が回転しロータの位相が変化することでエアギャップの偏心状態も変化する。
【0009】
このような場合に、従来技術のようにロータが回転しないロック状態で振動を計測することにより、エアギャップの偏心量と偏心方向とを推定すると、ロータの位相によるエアギャップ偏心状態の変化を考慮していないため、エアギャップの良否判定に誤りが生ずる場合がある。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、エアギャップの偏心状態(偏心量及び方向)を精度よく測定することができるとともに、得られた偏心計測結果より、エアギャップの良否判定を確実に行い、更にエアギャップ偏心状態のデータを基にエアギャップを修正することができる単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置及びエアギャップ修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置は、主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備えロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップの偏心を検査するものであって、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加する手段と,主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測する電流計測手段と、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加した際に,ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測する振動計測手段と、振動波形の振幅によりエアギャップの偏心量を計算するとともに、振動波形と電流波形との位相差の時間変化によりエアギャップの偏心方向を計算し、計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいてエアギャップの良否を判定する手段とを設けたものである。
【0012】
この発明に係る単相誘導電動機のエアギャップ修正方法は、主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備えロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップ修正方法であって、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加し,主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測するとともに、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加した際に,ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測し、計測された振動波形の振幅によりエアギャップの偏心量を計算するとともに、振動波形と電流波形との位相差の時間変化によりエアギャップの偏心方向を計算し、計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいてエアギャップの良否を判定して、この判定結果に基づいてステータが固定されたシェルを変形させることによりエアギャップの偏心を修正するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置によれば、主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備えロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップの偏心を検出するものであって、主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測する電流計測手段と、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加した際に,ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測する振動計測手段と、振動計測手段により計測された振動波形の振幅によりエアギャップの偏心量を計算するとともに、振動波形と電流波形との位相差の時間変化によりエアギャップの偏心方向を計算し、計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいてエアギャップの良否を判定する手段とを設けたので、単相誘導電動機ごとのばらつきや外乱の影響を受けずに、正確にエアギャップ偏心方向及び偏心量を判定することができる。
【0014】
この発明に係る単相誘導電動機のエアギャップ修正方法によれば、主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備えロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップ修正方法であって、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加し,主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測するとともに、主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加した際に,ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測し、振動波形の振幅によりエアギャップの偏心量を計算するとともに、振動波形と電流波形との位相差の時間変化によりエアギャップの偏心方向を計算し、計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいてエアギャップの良否を判定して、この判定結果に基づいてステータが固定されたシェルを変形させることによりエアギャップの偏心を修正するようにしたので、エアギャップの偏心を容易かつ正確に修正することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
以下この発明の一実施形態を図に基づいて説明する。図1は単相誘導電動機を内部に有する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を示す縦方向断面図、図2は図1におけるA−A線横方向断面図である。単相誘導電動機は主にロータ102とステータ103から構成される。ロータ102とステータ103の間には円筒状の空間であるエアギャップ101が存在している。
【0016】
ステータ103は圧力容器であるシェル104に焼嵌め固定されている。ロータ102は主軸105と焼嵌めにより一体に固定されている。主軸105はフレーム106、シリンダヘッド107内に設けられたすべり軸受(図示されていない)において支持されている。フレーム106、シリンダヘッド107はシリンダ108にボルト(図示されていない)によって固定されており、シリンダ108はシェル104に3点ある溶接点109(図1にて1点のみ図示している)において溶接固定されている。
【0017】
ステータ103の巻線は主巻線110と補助巻線111と呼ばれる2種類の巻線から構成されている。ステータ103は圧縮機外部に設けられた交流電源(図示されていない)から、シェル104に溶接固定された端子112を通して電力を供給される。シェル104には圧縮前の気体の吸入口であるマフラ114及び圧縮した気体を外部へ排出する吐出パイプ113がろう付けにより固定されており、圧縮前の気体はマフラ114より吸入されたあと、シリンダ108内において圧縮され、フレーム106からシェル104内に吐き出された後、吐出パイプ113を通ってロータリ圧縮機100の外に吐出される。
【0018】
図3は単相誘導電動機を内在する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を被計測体とした単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置を示す断面図、図4は図3におけるB−B線横方向断面図である。
【0019】
接続端子120をロータリ圧縮機100の端子112に接続することで、ロータリ圧縮機100内の単相誘導電動機に交流電源(図示しない)から交流電圧を印加することができる。主巻線110に通電する導線に電流計121aが取り付けられるとともに、補助巻線111に通電する導線に電流計121bが取り付けられている。
【0020】
単相誘導電動機に通電した際に発生する振動を加速度ピックアップ122a、122bで計測する。図4に示すように、加速度ピックアップ122aにより主巻線110に交流電圧を通電した際にロータ102に発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向(一般に補助巻線のある方向であるため,以下では、補助巻線方向と記す)に生ずる振動を計測し、加速度ピックアップ122bにより補助巻線111に交流電圧を通電した際にロータ102に発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向(一般に主巻線のある方向であるため,以下では、主巻線方向と記す)に生ずる振動を計測する。
【0021】
加速度ピックアップ122a、122bはそれぞれ、加速度ピックアップシリンダ123によりロータリ圧縮機100の半径方向に移動可能であり、振動計測時にはピックアップ除振材124を介してロータリ圧縮機100に押し付けられ、ロータリ圧縮機100に通電した際に生じるシェル104の振動を測定する。加速度ピックアップ122a、122bをロータリ圧縮機100に押し付けたときにロータリ圧縮機100が横転しないように、クランプ爪125によってロータリ圧縮機100を固定する。
【0022】
クランプ爪125はクランプ除振材126を介してクランプシリンダ127の推力により、ロータリ圧縮機100を横方向から把持することができる。ロータリ圧縮機100はワーク除振材128の上に配置されている。計測ユニットベース板129の下には防振材130が配置されており、計測部に外部からの振動が伝播することを防止している。
【0023】
計測した振動の電気信号はアンプ131によって増幅される。電流計121a、121bによって計測された電流の電気信号と増幅された振動の信号はA/Dボード(図示しない)によってコンピュータ132内に記録される。コンピュータ132は記録した電流波形と振動波形を元にエアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を計算し、計算された結果はコンピュータの表示器133によって表示される。
【0024】
電圧調整器134によって主巻線110と補助巻線111に印加する交流電圧を調整することができる。即ち主軸受に油が塗布され、かつ高速で主軸105が回転する場合、主軸受に油膜反力が発生し、計測される振動に誤差が発生することがあるが、電圧調整器134によって主巻線110と補助巻線111に印加する交流電圧を調整することによって、ロータ102の回転速度を低速にして、このような誤差が発生することを防ぐことができる。また抵抗器135及びコンデンサ136によって単相誘導電動機に流れる交流電流の大きさを調整する。上記の電気機器類は架台137によって固定される。
【0025】
交流電源(図示しない)より接続端子120と端子112を介して、ロータリ圧縮機100に交流電圧を印加し、主巻線110に流れる電流と補助巻線111に流れる電流をそれぞれ電流計121aと電流計121bにより計測すると同時に、ロータリ圧縮機100に生じる振動を加速度ピックアップ122aと加速度ピックアップ122bにより計測する。
【0026】
コンピュータ132により計測した電流波形と振動波形の位相差の時間変化を計算し、計算した位相差の時間変化からエアギャップ偏心方向を推定し、また計測した振動波形の大きさよりエアギャップ偏心量を推定する。補助巻線方向と主巻線方向についてそれぞれ計測を行い、計測結果から推定された補助巻線方向についてのエアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量、並びに主巻線方向についてのエアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量からエアギャップ偏心状態の良否を判定する。
【0027】
次に、エアギャップ偏心状態の検査手段の詳細を図5のフローチャートを用いて説明する。先ずロータリ圧縮機100をワーク除振材128の上に設置する(STEP500)。次にクランプ爪125をクランプシリンダ127によって前進させ、ロータリ圧縮機100を固定する(STEP501)。次に接続端子120を端子112に接続する(STEP502)。次に加速度ピックアップ122a、122bを加速度ピックアップシリンダ123によって前進させ、ロータリ圧縮機100に押し付ける(STEP503)。
【0028】
次に駆動回路を切り替えて、主巻線110に電流を流すことにより発生する磁束が、補助巻線111に電流を流すことにより発生する磁束より大きくなるようにする(STEP504)。図6はエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。主巻線スイッチ144を接点143側に接続する(STEP504−1)。
【0029】
そして補助巻線スイッチ145を接点146側に接続することにより、補助巻線111に対して直列に補助巻線抵抗器148と補助巻線コンデンサ149を接続する(STEP504−2)。これにより主巻線110に流れる電流を大きくし、補助巻線111に流れる電流を小さくなるように個々の巻線に流れる電流を調整し、通電時にエアギャップ101において主巻線110により発生させられる磁束の大きさが補助巻線111により発生させられる磁束の大きさより大きくなるようにする。
【0030】
次に交流電源150の電圧を電圧調整器134により特定の電圧になるように調整される(STEP504−3)。次に単相誘導電動機に交流電圧を印加し、主巻線110に流れる電流と補助巻線方向の振動の計測を開始する(STEP505)。主巻線110に流れる電流波形は電流計121aにより計測する。また補助巻線方向の振動波形は加速度ピックアップ122aにより計測する(STEP506)。
【0031】
所定の計測時間が経過したら計測を終了し、同時に通電も終了する(STEP507)。計測した電流波形をA/Dボード(図示しない)を介してコンピュータ132に取り込み記録する。また計測した振動波形をアンプ131によって増幅し、A/Dボード(図示しない)を介してコンピュータ132に取り込み記録する(STEP508)。
【0032】
主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形より、補助巻線方向のエアギャップの偏心方向と偏心量をコンピュータ132により計算する(STEP509)。図7はこの計算方法を示すためのフローチャートである。また、図8は計測した電流波形と振動波形の例を示すグラフである。
【0033】
電流波形と振動波形の位相差の時間変化を計算する方法として,図7のフローチャートでは,電流波形が極値(山,または谷)をとる時刻と振動波形が極大値(山),または極小値(谷)をとる時刻との差を,電流波形の半波長ごとに計算し,計算した時刻の差を度数分布で表す方法をとる。詳細を以下に示す。電流波形が極値をとる時刻をtn−1、tとし、振動波形が極大値をとる時刻をt1m−2〜t1m+2とし、振動波形が極小値をとる時刻をt2m−2〜t2m+2とする。図9は図8における電流半波長分を拡大して示したグラフである。電流波形が極値をとる時刻tと振動波形が極大値t1、t1m+1をとる時刻の差をp1、p1m+1とする。また電流波形が極値をとる時刻tと振動波形が極小値t2、t2m+1をとる時刻の差をp2、p2m+1とする。
【0034】
図7において、先ず主巻線110に流れる電流波形から、電流波形が極値(山、谷)となる時刻t(i=0、1、…、n、…)を計算する(STEP600)。次に補助巻線方向の振動波形から、振動波形が極大値(山)となる時刻t1(j=0、1、…、m、…)を計算する(STEP601)。次に主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形から、電流波形半周期ごとに、電流半波長間における振動の極大値と電流の極値の時刻の差p1=t1−tを計算する(STEP602)。
【0035】
次に主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形から、時間pごとにp=p1(i、j=0、1、…)となる極大値の個数k1(p)を計算する(STEP603)。図10は電流波形と振動波形の極値のずれ時間差と、ずれている極値の数の分布を示すグラフである。横軸はずれている時間p、縦軸は当該ずれている時間に対応する極大値の個数k1(p)、または後述する極小値の個数k2(p)である。
【0036】
図10において、主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形について、時間pのうち特定の範囲Δpについてk1(Δp)の和h1=Σk1(Δp)を計算する(STEP604)。ここで特定の範囲Δpについての具体的な決定方法については後述する。次に図8に示すように、補助巻線方向の振動の波形から、振動波形が極小値(谷)となる時刻t2(j=0、1、…、m、…)を計算する(STEP605)。次に主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形から、電流波形半周期ごとに、電流半波長間における振動の極小値と電流の極値の時刻の差p2=t2−tを計算する(STEP606)。
【0037】
次に、主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形から、時間pごとにp=p2(i、j=0、1、…)となる極小値の個数k2(p)を計算する(STEP607)。図10において、主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形について、時間pのうち特定の範囲Δpについて、k2(Δp)の和h2=Σk2(Δp)を計算する(STEP608)。
【0038】
次に、主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形について、時刻の差が特定の範囲Δpに入る極大値の個数h1と極小値の個数h2を比較することによりエアギャップ101の偏心方向の判定を行う(STEP609)。即ちh1>h2の場合、加速度ピックアップ122aの+側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定する。
【0039】
またh1<h2の場合、加速度ピックアップ122aの−側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定する。ここでいう加速度ピックアップ122aの+側及び−側とは、振動波形の符号が正となるような振動の方向を+側といい、振動波形の符号が負となるような振動の方向を−側という。
【0040】
最後に補助巻線方向の振動の大きさからエアギャップ101の偏心量を計算する(STEP610)。ここで振動の大きさとは振動波形の実効値により求めることができ、又振動波形の正方向の振動と負方向の振動のうち振動の絶対値の大きい方向の振動の絶対値の平均値により求めても良い。更には正方向の振動の強さの絶対値の平均値と負方向の振動の強さの絶対値の平均値との間の平均値により求めても良い。
【0041】
以上においては、主巻線110によって発生する磁束が補助巻線111によって発生する磁束よりも大きい場合を説明したが、以下においては補助巻線111によって発生する磁束の方が大きい場合を図11のフローチャートに基づいて説明する。駆動回路を切り替えて、補助巻線111に電流を流すことにより発生する磁束が、主巻線110に電流を流すことにより発生する磁束より大きくなるようにする(STEP700)。
【0042】
図12はエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図であり、主巻線スイッチ144を接点142側に接続することにより、主巻線110に対して直列に主巻線抵抗器141と主巻線コンデンサ140を接続する(STEP700−1)。そして補助巻線スイッチ145を接点147側に接続する(STEP700−2)。これにより主巻線110に流れる電流を小さくし、補助巻線111に流れる電流を大きくなるように個々の巻線に流れる電流を調整し、通電時にエアギャップ101において補助巻線111により発生させられる磁束の大きさが主巻線110により発生させられる磁束の大きさより大きくなるようにする。
【0043】
次に、交流電源150の電圧を電圧調整器134により特定の電圧になるように調整される(STEP700−3)。次に単相誘導電動機に交流電圧を印加し、補助巻線111に流れる電流と主巻線方向の振動の計測を開始する(STEP701)。補助巻線111に流れる電流波形は電流計121bにより計測する。また主巻線方向の振動波形は加速度ピックアップ122bにより計測する(STEP702)。
【0044】
所定の計測時間が経過したら計測を終了し、同時に通電も終了する(STEP703)。計測した電流波形をA/Dボード(図示しない)を介してコンピュータ132に取り込み記録する。また計測した振動波形をアンプ131によって増幅し、A/Dボード(図示しない)を介してコンピュータ132に取り込み記録する(STEP704)。補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形より、主巻線方向のエアギャップの偏心方向と偏心量をコンピュータ132により計算する(STEP705)。図13はこの計算方法を示すためのフローチャートである。
【0045】
図13において、先ず補助巻線111に流れる電流の波形から、電流波形が極値(山、谷)となる時刻t’(i=0、1、…、n、…)を計算する(STEP800)。次に主巻線方向の振動の波形から、振動波形が極大値(山)となる時刻t1’(j=0、1、…、m、…)を計算する(STEP801)。次に補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形から、電流波形半周期ごとに、電流半波長間における振動の極大値と電流の極値の時刻の差p1’=t1’−t’を計算する(STEP802)。
【0046】
次に、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形から、時間pごとにp=p1’(i、j=0、1、…)となる極大値の個数k1’(p)を計算する(STEP803)。次に、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形について、時間pのうち特定の範囲Δpについてk1’(Δp)の和h1’=Σk1’(Δp)を計算する(STEP804)。次に、主巻線方向の振動の波形から、振動波形が極小値(谷)となる時刻t2’(j=0、1、…、m、…)を計算する(STEP805)。
【0047】
次に、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形から、電流波形半周期ごとに、電流半波長間における振動の極小値と電流の極値の時刻の差p2’=t2’−t’を計算する(STEP806)。次に、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形から、時間pごとにp=p2’(i、j=0、1、…)となる極小値の個数k2’(p)を計算する(STEP807)。補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形について、時間pのうち特定の範囲Δpについて、k2’(Δp)の和h2’=Σk2’(Δp)を計算する(STEP808)。
【0048】
次に、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形について、時刻の差が特定の範囲Δpに入る極大値の個数h1’と極小値の個数h2’を比較することによりエアギャップ101の偏心方向の判定を行う(STEP809)。即ちh1’>h2’の場合、加速度ピックアップ122bの+側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定する。またh1’<h2’の場合、加速度ピックアップ122bの−側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定する。
【0049】
そして、主巻線方向の振動の大きさからエアギャップ101の偏心量を計算する(STEP810)。再び図11のフローチャートに戻り、主巻線110に流れる電流波形と補助巻線方向の振動波形に基づいて推定されるエアギャップ偏心状態と、補助巻線111に流れる電流波形と主巻線方向の振動波形に基づいて推定されるエアギャップ偏心状態より、エアギャップ101の良否の判定を行い、その結果をコンピュータの表示器133に表示する(STEP706)。尚この良否の判定の仕方については後述する。
【0050】
そして、加速度ピックアップ122a、122bを加速度ピックアップシリンダ123によって後退させる(STEP707)。次に接続端子120を端子112から取外す(STEP708)。次にクランプ爪120をクランプシリンダ127によって後退させる(STEP709)。最後にロータリ圧縮機100をワーク徐振材128の上から取り除く(STEP710)。
【0051】
ここで、補助巻線抵抗器148の大きさ、補助巻線コンデンサ149の容量、主巻線抵抗器141の大きさ、主巻線コンデンサ140の容量及び電圧調整器134によって調整される電圧の大きさは、各巻線に印加される交流電圧の周波数の2/3以下の回転周期でロータ102が回転できるように調整された抵抗の大きさ、コンデンサ容量及び電圧の大きさであり、様々な値の組み合わせが存在する。
【0052】
ロータの回転数が大きくなるようにコンデンサ容量及び電圧の大きさを調整した場合,ロータに働く不平衡磁気吸引力が大きくなり,振動時のロータの反動が大きくなる。このような場合の振動波形においては,不平衡磁気吸引力による振動であるのか,反動による振動であるのかを判断することが難しくなる。一方,ロータの回転数が小さくなるようにコンデンサ容量及び電圧の大きさを調整する場合,ロータに働く不平衡磁気吸引力が小さくなり,振動時のロータの反動も小さくなるため,不平衡磁気吸引力による振動が明確になり,エアギャップ偏心方向の判定が容易となる。またロータの回転数が小さい程,不平衡磁気吸引力が最大となる時点でのロータの位相は様々異なり,ロータの位相により変化するエアギャップ偏心状態を精度よく計測できるようになる。特に各巻線に印加する交流電圧の周波数の2/3以下の回転周期でロータが回転するようにコンデンサ容量及び電圧を調整した場合,図14に示すように印加する電圧周波数の2倍周波の振動が発生するため,ロータが1回転する間に3回以上不平衡磁気吸引力が最大となり,3種類以上の異なるロータ位相における振動を計測することができ,ロータやステータの部品精度、組立精度が悪い場合でも、エアギャップ偏心状態の良否を確実に判定することができるようになる。
【0053】
また上記構成においては、それぞれの巻線によりエアギャップ101に誘起される磁束を調整する手段として、電圧調整器、コンデンサ、抵抗器を用いた場合を示したが、巻線の電流を調整する電流調整器を用いてもよい。
【0054】
次に、特定の範囲Δpについての具体的な決定方法について説明する。特定の範囲Δpは単相誘導電動機に印加する電源周波数に応じて設定する必要があり、例えば計測される振動波形が、電流周波数の2倍周波から6倍周波までの周波数の成分を多く含む場合には、時間pが0秒から電流周期の1/12〜1/4程度までの範囲を選択する。
【0055】
また例えばあらかじめエアギャップ偏心方向のわかっている単相誘導電動機を用いてΔpを設定するための実験を行い、図10のような度数分布表を作成して、特定の範囲Δpの設定値を決める方法がある。例えばエアギャップの偏心方向が加速度ピックアップ122a、122bの+側である場合には、作成した度数分布表においてk1(p)>k2(p),またはk1’(p)>k2’(p)となる範囲を見つけ、これをΔpと定義し、また例えばエアギャップの偏心方向が加速度ピックアップ122a、122bの−側である場合には、作成した度数分布表においてk1(p)<k2(p),またはk1’(p)<k2’(p)となる範囲を見つけ、これをΔpと定義すればよい。
【0056】
複数の範囲を選びうる場合は、時間pが正であり、かつ0に近い範囲とするのがよい。これは電流波形が極値となるときに、不平衡磁気吸引力(ロータに働く加振力)が最大となり、エアギャップが狭い方向へロータが振動するため、電流波形が極値となる直後の振動波形の極値の符号の方向にエアギャップが偏心しているためである。図10においては、Δpの範囲を上記のように、時間pが正であり、かつ0に近い範囲としている。
【0057】
上記のことを鑑みて、計測される振動波形が、電流周波数の2倍周波から6倍周波までの周波数の成分を多く含む場合の偏心の測定について以下説明する。上記のように計測される振動波形が、電流周波数の2倍周波から6倍周波までの周波数の成分を多く含む場合には、特定の範囲Δpとしては電流周期の1/12〜1/4程度までの範囲を選択する。更に上記のように特定の範囲Δpを選択する際には、時間pが正であり、かつ0に近い範囲とするのがよいので、図10に示すように、特定の範囲Δpは電流周期の1/12〜1/4程度までの範囲であって、時間pが正でありかつ0に近い範囲が選択されることとなる。
【0058】
そしてこの特定の範囲Δpにおいて、上記のようにk1(Δp)の和h1=Σk1(Δp)を計算するとともに、k2(Δp)の和h2=Σk2(Δp)を計算し、時刻の差が特定の範囲Δpに入る極大値の個数h1と極小値の個数h2を比較することによりエアギャップ101の偏心方向の判定を行う。即ちh1>h2の場合、加速度ピックアップの+側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定され、またh1<h2の場合、加速度ピックアップの−側の方向にエアギャップ101は偏心していると判定するのである。そして振動の大きさからエアギャップ101の偏心量を計算する。
【0059】
電流波形半周期ごとに電流波形の極値と振動波形の極大値、極小値は数m秒程度のずれがあり、そのずれはばらつきがある。例えば図10に示すように、時間pがΔpとなる範囲をあらかじめ設定しておき、その範囲内の極大値の数の和Σk1(Δp)と極小値の数の和Σk2(Δp)を比較することでエアギャップ偏心方向を判定することができる。
【0060】
例えば主巻線110の巻線方向と垂直の方向にエアギャップ101が偏心している場合、主巻線110に電流が流れ、磁束が誘起されると、磁束と直交する方向に不平衡磁気吸引力が働き、ロータ102はエアギャップ101の狭いほうへ移動する。例えば単相2極誘導電動機に交流電圧が印加された場合、電流の絶対値の増加に伴い磁束が大きくなり、不平衡磁気吸引力も増加する。
【0061】
電流の絶対値が最大となると(すなわち電流波形が極値となると)、不平衡磁気吸引力も最大となり、振動波形もエアギャップの狭い方向へ極値をとる。電流波形と振動波形の関係の典型例としては、図14に示されるように、振動波形が電流波形の倍周波数の振動となる例が考えられる。
【0062】
しかし実際に計測される電流波形の極値の位相と電流周波数の倍周波数である振動波形の極大値、極小値の位相には位相ずれが存在する上に、電流周波数の4倍周波数や6倍周波数というような高次の振動や外乱も計測されるため、計測される振動波形は例えば図8に示されるようになり、エアギャップ偏心方向を判定するのは困難となる。
【0063】
そこで上記に示すように、電流波形半波長ごとに電流波形が極値となる時刻と振動波形が極大値、及び極小値となる時刻の差の度数分布を計算することで、電流波形と振動波形のずれを明確に把握することができる。時間のずれについて上記のように特定の範囲Δpをあらかじめ設定することにより、エアギャップ偏心方向の正確な判定を行うことができる。
【0064】
また上記説明においては、電流波形の極値の時刻t、またはt’を計算する場合について説明したが、例えば電流波形が極値となる時刻の代わりに電流波形がゼロとなる時刻を計算してt、またはt’を求めるようにしても良い。また上記説明では、単相誘導電動機に通電される電流波形と振動波形を用いてエアギャップ偏心方向を推定する場合について説明したが、例えば単相誘導電動機に通電する電流波形ではなく、単相誘導電動機に印加する電圧の波形を計測し、電圧波形と振動波形との位相差を求めるようにしてもよい。
【0065】
次にエアギャップの良否を判定する手段について説明する。ロータ102に作用する不平衡磁気吸引力は磁束の大きさとエアギャップ偏心量によって決定されるため、あらかじめ振動を計測する方向についてエアギャップ偏心量と振動の大きさの関係をそれぞれ調査しておくことで、振動の大きさからエアギャップ偏心量を推定することができる。即ちロータリ圧縮機100を溶接によって密閉する前の段階でエアギャップ偏心量をゲージ等によって測定し、また所定の交流電圧を印加した場合の振動の大きさを計測し、振動の大きさとエアギャップ偏心量との相関関係を示すデータを作成しておく。
【0066】
ロータリ圧縮機100を組み立てた後、主巻線110に電流を通電した際に誘起される磁束と垂直な方向、及び補助巻線111に電流を通電した際に誘起される磁束と垂直な方向の2方向について、それぞれ計測した振動の大きさとあらかじめ作成しておいた上記データを比較することによりエアギャップ偏心量を推定することができるため、上記で説明したようなエアギャップ偏心量とエアギャップ偏心方向の計算結果に基づいてエアギャップ偏心状態を2次元座標系として表し、エアギャップの良否を判定することができる。
【0067】
上記のように構成することにより、本発明によればロータ102とステータ103の位置関係が直接目視することができない製品の完成状態において、単相誘導電動機ごとの加工や組立のばらつきや外乱がある場合でも、ノイズフィルタ等の雑音除去手段を駆動回路あるいは計測システムに組み込むことなく、エアギャップ偏心状態を精度よく検査することができるようになる。
【0068】
実施の形態2.
本実施の形態においては、計測時に電流を流す巻線を主巻線110、または補助巻線111のどちらか一方のみとして、ロータ102がロック状態であるときのエアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を検査するものである。単相誘導電動機を含むロータリ圧縮機100は図1及び図2で示したものと同様であり、又単相誘導電動機を内在する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を被計測体とした単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置の外観も図3,図4で示したものと同様であるが、駆動回路が相違する。
【0069】
図15,図16はこの発明の実施の形態2によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図であり、図において、ロータリ圧縮機100に電流を流すための駆動回路に主巻線通電スイッチ151と補助巻線通電スイッチ152が設けられたものである。図15に示す駆動回路図において、主巻線スイッチ151がonであり補助巻線スイッチ152がoffであるときに、主巻線110のみに電流が流される。また図16に示す駆動回路図において、主巻線スイッチ151がoffであり、補助巻線スイッチ152がonであるときに、補助巻線111のみに電流が流される。
【0070】
本実施の形態においては、駆動回路の切替が実施の形態1の場合と異なる。即ち実施の形態1においては、電動機に交流電圧を印加し、ロータ102を回転状態としたが、本実施の形態においては、主巻線110かあるいは補助巻線111のみに交流電圧を印加するため、ロータ102は回転せず、ロック状態で振動する。
【0071】
上記実施の形態1におけるSTEP504の駆動回路の切替においては、図6に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点143側とし、補助巻線スイッチ145の接続先を接点146側として、補助巻線111に直列に補助巻線抵抗器148と補助巻線コンデンサ149を接続するものとした。これに対して本実施の形態においては、図15に示すように、主巻線通電スイッチ151をonとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をoffとすることにより主巻線110にのみに電流を流すようにした。
【0072】
また実施の形態1におけるSTEP700の駆動回路の切替においては、図12に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点142側とし、補助巻線スイッチ145の接続先を接点147側として、主巻線110に直列に主巻線抵抗器141と主巻線コンデンサ140を接続するものとした。これに対して本実施の形態においては、図16に示すように、主巻線通電スイッチ151をoffとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をonとすることにより補助巻線111にのみに電流を流すようにした。
【0073】
以上のように構成することにより、単相誘導電動機に交流電圧を印加した場合、ロータ102は回転せずにロック状態となり、ロック状態における振動波形と電流波形からエアギャップ偏心方向と偏心量を推定することができる。尚エアギャップ偏心方向と偏心量を推定する手段は上記実施の形態1において説明した場合と同様に行う。
【0074】
本実施形態においては、ロータ102が回転しないロック状態において振動の計測を行うので、例えば主軸105と主軸受け(図示しない)の間に十分な潤滑油がない場合においても、主軸受け(図示しない)が損傷することなく、エアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を計測することができるようになる。
【0075】
実施の形態3.
本実施の形態においては、計測時に印可する電圧の周波数を調整することにより、エアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を精度よく検査するようにしたものである。単相誘導電動機を含むロータリ圧縮機100は図1及び図2で示したものと同様であり、又単相誘導電動機を内在する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を被計測体とした単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置の外観も図3,図4で示したものと同様であるが、駆動回路が相違しており、本実施形態においては、周波数調整器153が付け加えられている。
【0076】
図17,図18はこの発明の実施の形態3によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。上記実施の形態1におけるSTEP504の駆動回路の切替においては、図6に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点143側とし、補助巻線スイッチ145の接続先を接点146側として、補助巻線111に直列に補助巻線抵抗器148と補助巻線コンデンサ149を接続するものとし、更に電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整するものとした。
【0077】
これに対して本実施の形態においては、図17に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点143側とするとともに、補助巻線スイッチ145の接続先を接点146側とし、補助巻線111に直列に補助巻線抵抗器148と補助巻線コンデンサ149を接続する。その後、周波数調整器153により電源周波数を特定の周波数に調整し、電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整するものである。
【0078】
また実施の形態1におけるSTEP700の駆動回路の切替においては、図12に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点142側とするとともに、補助巻線スイッチ145の接続先を接点147側とし、主巻線110に直列に主巻線抵抗器141と主巻線コンデンサ140を接続し、その後、電圧調整器134により電圧を特定の電圧に調整するものとした。
【0079】
これに対して本実施の形態においては、図18に示すように、主巻線スイッチ144の接続先を接点142側とするとともに、補助巻線スイッチ145の接続先を接点147側として、主巻線110に直列に主巻線抵抗器141と主巻線コンデンサ140を接続し、その後周波数調整器153により電源周波数を特定の周波数に調整し、電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整するものである。
【0080】
ここで、補助巻線抵抗器148の大きさ、補助巻線コンデンサ149の容量、主巻線抵抗器141の大きさ、主巻線コンデンサ140の容量、周波数調整器153により調整される電源周波数及び電圧調整器153により調整される電圧の大きさは、磁束の周期の2/3以下の回転周期にてロータ102が回転するように調整された抵抗器の大きさ、コンデンサ容量、電圧の大きさ及び周波数であり、様々な値の組み合わせが存在する。またここでそれぞれの巻線により誘起される磁束を調整する手段として、電圧調整器、コンデンサ、抵抗器を用いたが、巻線の電流を調整する電流調整器を用いてもよい。
【0081】
本実施の形態においては、電源周波数の整数倍が単相誘導機の固有振動数に等しいような場合、共振現象が発生し、計測される振動が大きくなり、振動の方向の判定が困難になってしまうが、周波数調整器153によって電源周波数を調整することにより、共振周波数を避けて計測することができ、精度よくエアギャップ偏心状態の良否を判定することができるようになる。
【0082】
尚上記実施の形態1または3においては、インピーダンス固定型のコンデンサ及び抵抗器を駆動回路に組み込むようにしたが、可変型のコンデンサ及び抵抗器を使用してもよく、この場合、多機種の単相誘導機に対応することができる駆動回路を比較的安価に構成することができるようになる。又上記実施の形態1または3においては、交流電流を流したときに発生する主巻線110により誘起される磁束と、補助巻線111により誘起される磁束の大きさの比を調整する手段としてコンデンサ及び抵抗器を用いた例を示したが、リアクタンスを接続して各巻線のインピーダンスを調整するようにしてもよい。
【0083】
更に図3においては、計測体に押し付けることにより振動を測定するタイプである加速度ピックアップ122a、122bを用いた場合を示したが、マグネットあるいは接着剤等によって装着するタイプを用いてもよく、この場合シェル104をクランプするためのクランプ機構及びシリンダを設置する必要がないため、検査装置を安価に構成することができるようになる。
【0084】
又図3においては、加速度ピックアップ122a、122bにより計測した振動をアンプ131によって増幅した例を示したが、加速度ピックアップをプリアンプ内蔵式に構成し、かつプリアンプに電力を供給する機能を別途設けることにより、外部にアンプ131を設けないようにしてもよい。
【0085】
また振動を検出する手段として加速度ピックアップ122a、122bを設けた場合を例示したが、例えば変位や位置情報から振動を検出するタイプの振動検出手段を設置するようにしても良い。更に図3においては、電流を計測するための電流計として、クランプ式の電流計121a、121bを設けた場合を示したが、あらかじめ駆動回路中に電流計を組み込むように構成しても良い。
【0086】
実施の形態4.
本実施の形態においては、計測時に電圧を印加する巻線を主巻線110、または補助巻線111のみとしてロータ102をロック状態にするとともに、計測時に印加する電圧の周波数を周波数調整器153により調整することにより、エアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を精度よく検査するようにしたものである。
【0087】
単相誘導電動機を含むロータリ圧縮機100は図1及び図2で示したものと同様であり、又単相誘導電動機を内在する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を被計測体とした単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置の外観も図3,図4で示したものと同様であるが、駆動回路が相違しており、周波数調整器153が設けられている。
【0088】
図19,図20はこの発明の実施の形態4によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図であり、図において、ロータリ圧縮機100に電流を流すための駆動回路に主巻線通電スイッチ151と補助巻線通電スイッチ152が設けられたものである。図19に示す駆動回路図において、主巻線スイッチ151がonであり補助巻線スイッチ152がoffであるときに、主巻線110のみに電流が流される。また図20に示す駆動回路図において、主巻線スイッチ151がoffであり、補助巻線スイッチ152がonであるときに、補助巻線111のみに電流が流される。
【0089】
以下本実施の形態における動作の説明については、実施の形態2との違いについて説明する。上記実施の形態2においては、図15に示すように、主巻線通電スイッチ151をonとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をoffとして主巻線110にのみ電流を流し、その後電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整する。
【0090】
これに対して本実施の形態においては、図19に示すように、主巻線通電スイッチ151をonとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をoffとして、主巻線110にのみ電流を流し、その後周波数調整器153により電源周波数を特定の周波数に調整し、更に電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整する。
【0091】
また上記実施の形態2においては、図16に示すように、主巻線通電スイッチ151をoffとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をonとすることにより補助巻線111にのみに電流を流すようにし、その後電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整する。
【0092】
これに対して本実施の形態においては、図20に示すように、主巻線通電スイッチ151をoffとするとともに、補助巻線通電スイッチ152をonとして補助巻線111にのみ電流を流すようにし、その後周波数調整器153により電源周波数を特定の周波数に調整し、更に電圧調整器134により電圧を特定の電圧になるように調整する。
【0093】
ここで、周波数調整器153によって調整される電源周波数及び電圧調整器134によって調整される電圧の大きさは、電源周波数が単相誘導電動機の固有振動数の整数倍とならず、かつノイズによる影響を微小なものとするように調整されるものであり、様々な値の組み合わせが存在する。またここでそれぞれの巻線により誘起される磁束を調整する手段として、電圧調整器134を用いたが、巻線の電流を調整する電流調整器を用いてもよい。
【0094】
本実施形態においては実施の形態2の場合と同様、ロータ102が回転しないロック状態において振動の計測を行うので、例えば主軸105と主軸受け(図示しない)の間に十分な潤滑油がない場合においても、主軸受け(図示しない)を損傷することなく、エアギャップ偏心方向とエアギャップ偏心量を計測することができるようになる。
【0095】
更に本実施形態においては実施の形態3の場合と同様、電源周波数の整数倍が単相誘導機の固有振動数に等しいような場合、共振現象が発生し、計測される振動が大きくなり、振動の方向の判定が困難になってしまうが、周波数調整器153によって電源周波数を調整することにより、共振周波数を避けて計測することができ、精度よくエアギャップ偏心状態の良否を判定することができるようになる。
【0096】
実施の形態5.
本実施の形態においては、エアギャップ偏心状態を検査した後、修正する方法について説明する。図21はエアギャップ偏心状態を2次元的に表すためのuv座標系を示す断面図、図22はエアギャップ偏心状態を修正するための方法を示す断面図である。
【0097】
検査の対象となる単相誘導電動機を含むロータリ圧縮機100は実施の形態1で説明したものと同様であるとともに、ロータリ圧縮機100のエアギャップ偏心状態を検査する方法も実施の形態1の場合と同じである。以下では、検査した結果を元にエアギャップ偏心状態を修正する方法について詳細に説明する。
【0098】
ロータリ圧縮機100は、製品の完成状態において密閉された容器の内部に単相誘導電動機が組みつけられているため、エアギャップ偏心状態を目視やギャップゲージによる測定などの直接的な手段で検査することができない。上記実施の形態1においては、そのような状態の単相誘導電動機のエアギャップ状態を検査することができ、検査した結果は図21に示すuv座標系においてベクトルとして表すことができる。
【0099】
図21において、加速度ピックアップ122aをu軸、加速度ピックアップ122bをv軸とする。上記実施の形態1においては、図5のSTEP509において計算した補助巻線方向のエアギャップ偏心方向と偏心量の結果をu軸上の座標で表し、また図11のSTEP705において計算した主巻線方向のエアギャップ偏心方向と偏心量の結果をv軸上の座標で表すことにより、単相誘導電動機のエアギャップが狭くなる方向を2次元的に表すことができる。
【0100】
検査の対象となる単相誘導電動機はシェル104の内部に固定されているため、シェル104を変形させることにより単相誘導電動機のエアギャップ状態を修正することができる。シェル104を変形させる方法として、例えばシェル104を加熱して歪ませる方法があり、図22に示すように、バーナー160によりシェル104を変形させることができる。
【0101】
ロータリ圧縮機100をサーボモータ(図示しない)によって回転させられる回転機構を有する回転テーブル162上に設置し、ステータ103と溶接点109の間にバーナー160の火炎161が当たるようにバーナー160の高さを固定する。バーナー160に着火した後に回転テーブル162を回転させ、シェル104の周上に加熱する。
【0102】
一般にシェル104を外部より加熱した場合、冷却された後に加熱した方向へ凹となるようにシェル104は変形する。ステータ103はシェル104に焼嵌め固定されているため、シェル104の変形に従ってステータ103の中心軸が傾き、エアギャップ偏心状態が変化する。前記エアギャップ偏心状態の検査結果に従い、エアギャップの狭い方向から加熱し、エアギャップ偏心量に応じて加熱量を調整することで、エアギャップ偏心状態を修正することができる。
【0103】
図22においてはバーナー160によって加熱する方法を示したが、シェル104の加熱手段はバーナーに限らず、例えば高周波加熱、レーザー及びTIG溶接等を使用しても良い。高周波加熱、レーザー及びTIG溶接では、シェル104に対する加熱量をバーナーより制御しやすいため、精度よくエアギャップ偏心状態を修正することができる。また本実施の形態においてはシェル104を変形させる手段として、加熱による方法を説明したが、例えばハンマーなどで叩いてシェル104を変形させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】この発明の実施の形態1による単相誘導電動機を内部に有する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を示す縦方向断面図である。
【図2】図1におけるA−A線横方向断面図である。
【図3】単相誘導電動機を内在する冷凍・空調機用のロータリ圧縮機100を被計測体とした単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置を示す断面図である。
【図4】図3におけるB−B線横方向断面図である。
【図5】エアギャップ検査方法を示すフローチャートである。
【図6】エアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図7】エアギャップ検査方法を示すフローチャートである。
【図8】計測した電流波形と振動波形の例を示すグラフである。
【図9】図8における電流半波長分を拡大して示したグラフである。
【図10】電流波形と振動波形の極値のずれ時間差と、ずれている極値の数の分布を示すグラフである。
【図11】エアギャップ検査方法を示すフローチャートである。
【図12】エアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図13】エアギャップ検査方法を示すフローチャートである。
【図14】電流波形と振動波形の典型例を示すグラフである。
【図15】この発明実施の形態2によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図16】この発明実施の形態2によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図17】この発明実施の形態3によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図18】この発明実施の形態3によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図19】この発明実施の形態4によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図20】この発明実施の形態4によるエアギャップ偏心検査装置における駆動回路を示す回路図である。
【図21】この発明の実施の形態5によるエアギャップ偏心状態を2次元的に表すためのuv座標系を示す断面図である。
【図22】エアギャップ偏心状態を修正するための方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0105】
101 エアギャップ、102 ロータ、103 ステータ、104 シェル、
105 主軸、110 主巻線、111 補助巻線、121a,121b 電流計、
122a,122b 加速度ピックアップ、134 電圧調整器、
153 周波数調整器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備え上記ロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置において、上記主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加する手段と,上記主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測する電流計測手段と、上記主巻線及び補助巻線に上記交流電圧を印加した際に,上記ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測する振動計測手段と、上記振動波形の振幅により上記エアギャップの偏心量を計算するとともに、上記振動波形と上記電流波形との位相差の時間変化により上記エアギャップの偏心方向を計算し、上記計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいて上記エアギャップの良否を判定する判定手段とを設けたことを特徴とする単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項2】
上記主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加した際に、上記主巻線及び補助巻線のうち一方の巻線によりエアギャップに誘起される磁束が他方の巻線によりエアギャップに誘起される磁束より大きい状態で、上記ロータを回転させる駆動回路を設けたことを特徴とする請求項1記載の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項3】
印加する交流電圧の周波数の2/3以下の回転周期によって上記ロータを回転させる駆動回路を設けたことを特徴とする請求項2記載の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項4】
上記主巻線または上記補助巻線の一方のみに交流電圧を印加し、かつ上記交流電圧を印加する巻線を切り替えることができる駆動回路を設けたことを特徴とする請求項1記載の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項5】
上記交流電圧を変更するための電圧調整機構を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項6】
上記交流電圧の周波数を変更するための周波数変換機構を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の単相誘導電動機のエアギャップ偏心検査装置。
【請求項7】
主軸と共に回転するロータと、主巻線と補助巻線とを備え上記ロータとの間でエアギャップを有するように配置されたステータとからなる単相誘導電動機のエアギャップ修正方法であって、上記主巻線及び補助巻線に交流電圧を印加して上記主巻線及び補助巻線に流れる電流の電流波形を計測するとともに、上記主巻線及び補助巻線に上記交流電圧を印加した際に,上記ロータに発生する不平衡磁気吸引力が最大となる方向の単相誘導電動機の振動の振動波形を計測し、計測された上記振動波形の振幅により上記エアギャップの偏心量を計算するとともに、計測された上記振動波形と計測された上記電流波形との位相差の時間変化により上記エアギャップの偏心方向を計算し、上記計算されたエアギャップの偏心量及び偏心方向に基づいて上記エアギャップの良否を判定して、この判定結果に基づいて上記ステータが固定されたシェルを変形させることにより上記単相誘導電動機のエアギャップを修正することを特徴とする単相誘導電動機のエアギャップ修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−177900(P2009−177900A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12380(P2008−12380)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】