説明

単結晶製造装置

【課題】種結晶を蓋体に接着しないタイプの単結晶製造装置において、種結晶の破損や単結晶の品質低下を防止することができる単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】単結晶製造装置の蓋体40の略中央部には、突部41が設けられている。突部41は、蓋体開口部を介して坩堝本体の内側に向けて突出するように配置される。種結晶10は、ガイド開口部43hに挿通された突部41の当接面41aと支持部432との間に配置される。突部41に形成されたねじ山41sが係合部431に形成されたねじ溝43gに螺合されることにより、当接面41aが種結晶10における結晶成長面とは反対の裏面全面を突部41に対して押圧するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良レーリー法を用いた単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素を含む昇華用原料を昇華させて、炭化ケイ素単結晶基板(種結晶という)上に炭化ケイ素単結晶を成長させることによりバルク状の単結晶を得る単結晶製造装置において、種結晶を蓋体に接着することなく、蓋体に設けた支持部に機械的に保持させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された技術では、種結晶の裏面と蓋材との間に保護材が配置されており、保護材の裏面側と蓋材との間に温度調節のための空隙が形成されている。空隙の間隔を調整することによって、単結晶の成長速度を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4275308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の単結晶製造装置は、次のような問題点があった。すなわち、黒鉛(炭素)製の坩堝の熱膨張係数が種結晶(炭化ケイ素)よりも大きいため、支持部と種結晶の外縁との間に隙間ができる。これにより、温度調節のために設けた種結晶の裏面(保護材の裏面)と、蓋体との間の空間に昇華用原料が昇華した昇華ガスが侵入することが懸念される。
【0006】
また、種結晶は支持部に接着されていないため、予め種結晶に存在する数μm〜数十μmの誤差レベルの反りによって、裏面側の空隙が不均一になると、成長する単結晶の品質が不均一になる場合があった。更に、種結晶の直径が大きくなると、種結晶が反り易くなるため、種結晶裏面の保護層のひび割れや単結晶の品質の低下が顕著化し易かった。
【0007】
そこで、本発明は、種結晶を蓋体に接着しないタイプの単結晶製造装置において、種結晶の破損や単結晶の品質低下を防止することができる単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、以下の特徴を有する。一方の端部に底部(底部30b)を有し他方の端部に開口部(開口部30u)が形成された略円筒形状を有しており前記底部に昇華用原料(昇華用原料20)が配置される坩堝本体(坩堝本体30)と、前記開口部を塞ぐとともに前記昇華用原料に対向する位置に種結晶(種結晶10,11)が配置された蓋体(蓋体40)と、を有し、前記昇華用原料を昇華させて前記種結晶上に単結晶を再結晶させる単結晶製造装置(単結晶製造装置1)であって、前記蓋体には、前記単結晶の成長方向に行くにつれて拡径する円錐面(円錐面43a)を有するガイド部(ガイド部43)が取り付けられており、前記蓋体は、前記坩堝本体の内側に向けて突出する略円柱状の突部(突部41)を有し、前記突部は、前記種結晶の直径と同じかそれ以上の直径を有する当接面が形成されており、前記ガイド部は、前記突部の外径に併せた孔径を有しており前記突部が挿通されるガイド開口部(ガイド開口部43h)が形成された係合部(係合部431)と、前記係合部に形成されたガイド開口部の少なくとも一部が狭窄され前記種結晶を支持する支持部(支持部432)と、を有し、前記突部の外側には、ねじ山(ねじ山41s)が形成されており、前記係合部には、前記ねじ山に螺合されるねじ溝(ねじ溝43g)が形成されており、前記ガイド開口部に挿通された前記突部の端部と前記支持部との間に前記種結晶が配置されており、前記突部に形成されたねじ山が前記係合部に形成されたねじ溝に螺合されることにより、前記当接面が前記種結晶における結晶成長面とは反対の裏面全面を前記突部に対して押圧するように形成されたことを要旨とする。
【0009】
単結晶製造装置は、係合部に形成されたガイド開口部の少なくとも一部が狭窄されて形成された支持部によって種結晶を支持するとともに、突部に形成されたねじ山が係合部に形成されたねじ溝に螺合されることにより、当接面が種結晶における結晶成長面とは反対の裏面全面を前記突部に対して押圧するように形成されている。
【0010】
このように、単結晶製造装置では、種結晶は、支持部に接着されていないため、種結晶が取り付けられる蓋体と種結晶との熱膨張率の差による応力差によって種結晶が破損することを防止できる。
【0011】
また、種結晶の外縁は、当接面によって支持部に押し当てられるため、支持部と種結晶10の外縁との隙間を防止できる。また、支持部と種結晶の外縁との間への昇華用原料の昇華ガスの侵入を防止できる。
【0012】
単結晶製造装置では、種結晶の裏面全面が当接面に押圧されることにより、種結晶の反りが是正され、種結晶裏面の保護層のひび割れを防止でき、均一な品質の単結晶を製造できる。
【0013】
上述した本発明の特徴では、前記当接面と前記種結晶の裏面との間に保護材が配置されていてもよい。
【0014】
上述した本発明の特徴では、前記種結晶は、前記単結晶の成長方向に対する反対方向に凸になるように湾曲していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種結晶を蓋体に接着しないタイプの単結晶製造装置において、種結晶の破損や単結晶の品質低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る単結晶製造装置の概略を説明する断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る単結晶製造装置において成長した単結晶を説明する断面図である。
【図3】図3(a)は、前記単結晶製造装置の蓋体において、ガイド部、種結晶、保護材を分解して示す分解図であり、図3(b)は、前記単結晶製造装置の蓋体において、ガイド部、種結晶、保護材を組み立てた組立図である。
【図4】図4(a)は、前記単結晶製造装置に別の種結晶を適用したときの分解図であり、図4(b)は、種結晶の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る単結晶製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)単結晶製造装置の構成の説明、(2)蓋体の構成の説明、(3)作用・効果、(4)種結晶の変形例、(5)その他の実施形態について説明する。
【0018】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0019】
(1)単結晶製造装置の構成の説明
実施形態として示す炭化ケイ素単結晶を製造する単結晶製造装置の構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、単結晶製造装置1の概略を説明する断面図である。図2は、本発明の実施形態に係る単結晶製造装置1で単結晶を成長させている状態を説明する断面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、単結晶製造装置1は、昇華用原料20が配置された黒鉛製の坩堝50内部において、昇華用原料20を昇華させて種結晶10上に単結晶を再結晶させる改良レーリー法を適用した装置である。
【0021】
坩堝50は、坩堝本体30と、種結晶10が配置される蓋体40とを有する。坩堝本体30は、一方の端部に底部30bを有し、他方の端部に開口部30uが形成された略円筒形状を有する。底部30bに昇華用原料20が配置される。蓋体40は、開口部30uを塞ぐとともに昇華用原料20に対向する位置に種結晶10が配置されている。
【0022】
蓋体40は、突部41を有する。蓋体40には、炭化ケイ素単結晶の成長方向Dに行くにつれて拡径する円錐面43aを有するガイド部43が取り付けられている。
【0023】
坩堝50は、断熱材(不図示)で覆われている。また、坩堝50は、支持棒70を介して石英管80の内部に固定されている。石英管80の外周には、坩堝50を加熱する加熱コイル90が設けられてる。
【0024】
なお、実施形態では、種結晶10の直径は、76.2mm、厚みは500μmである。
【0025】
(2)蓋体の構成の説明
図3(a)は、単結晶製造装置1の蓋体40と、ガイド部43と、種結晶10と、保護材100とを分解して示す分解図であり、図3(b)は、単結晶製造装置1の蓋体40と、ガイド部43と、種結晶10と、保護材100とを組み立てた組立図である。
【0026】
蓋体40の略中央部には、突部41が設けられている。突部41は、種結晶10の直径と同じかそれ以上の直径を有する当接面41aが形成された略円柱状を有する。
【0027】
蓋体40の突部41は、蓋体開口部40aを介して坩堝本体30の内側に向けて突出するように配置される。突部41の外側には、ねじ山41sが形成されている。
【0028】
ガイド部43は、突部41に嵌り合う係合部431と、種結晶10を支持する支持部432とを有する。係合部431には、突部41の外径に併せた直径を有するガイド開口部43hが形成されている。係合部431のガイド開口部43hには、ねじ山41sに螺合されるねじ溝43gが形成されている。ガイド開口部43hには、突部41が挿通される。支持部432は、係合部431に形成されたガイド開口部43hの少なくとも一部が狭窄されて形成されている。
【0029】
実施形態では、支持部432は、ガイド開口部43hの縁が開口部の開口中央に向けて延びる庇状になっている。支持部432は、ガイド開口部43hの口径よりも小さい口径であり、かつ種結晶10の直径よりも小さい直径を有する開口を形成している。
【0030】
種結晶10は、ガイド開口部43hに挿通された突部41の当接面41aと支持部432との間に配置される。種結晶10は、ガイド開口部43hの上方から挿入されることにより、支持部432によって支持される。
【0031】
突部41に形成されたねじ山41sが係合部431に形成されたねじ溝43gに螺合されることにより、当接面41aが種結晶10における結晶成長面とは反対の裏面全面を突部41に対して押圧するように形成されている。
【0032】
実施形態では、当接面41aと種結晶10の裏面との間に保護材100が配置されており、当接面41aは、保護材100を介して、種結晶10の裏面全面を押圧するように形成されている。保護材100は、例えば、カーボン繊維である。保護材100は、可撓性を有する材質であることが好ましい。
【0033】
(3)作用・効果
単結晶製造装置1は、係合部431に形成されたガイド開口部43hの少なくとも一部が狭窄されて形成された支持部432によって種結晶10を支持するとともに、突部41に形成されたねじ山41sが係合部431に形成されたねじ溝43gに螺合されることにより、当接面41aが種結晶10における結晶成長面とは反対の裏面全面を突部41に対して押圧するように形成されている。
【0034】
単結晶製造装置1では、種結晶10は支持部432に接着されていないため、種結晶が取り付けられる蓋体と種結晶との熱膨張率の差による応力差によって種結晶が破損することを防止できる。
【0035】
また、単結晶製造装置1では、種結晶10は、支持部432に接着されていないが、種結晶10の裏面全面が当接面41aに押圧されることにより、種結晶10の外縁が当接面41aによって支持部432に押し当てられるため、支持部432と種結晶10の外縁との隙間を防止できる。これにより、支持部432と種結晶10の外縁との間への昇華用原料の昇華ガスの侵入を防止できる。
【0036】
また、単結晶製造装置1では、種結晶10の裏面全面が当接面41aに押圧されることにより、種結晶10の反りが是正され、種結晶10の裏面の保護層のひび割れを防止でき、均一な品質の単結晶を製造できる。
【0037】
また、実施形態では、当接面41aと種結晶10の裏面との間に保護材100が配置されており、当接面41aは、カーボン繊維からなる保護材100を介して、種結晶10の裏面全面を押圧するように形成されている。
【0038】
このように、カーボン繊維を介することにより、蓋体40の一部と種結晶10との間の空隙をより確実に少なくすることができ、マクロ欠陥を防止できる。
【0039】
(4)種結晶の変形例
図4(a)は、単結晶製造装置1に別の種結晶11を適用したときの分解図であり、図4(b)は、単結晶製造装置1に使用される種結晶11を説明する図である。種結晶11は、単結晶の成長方向Dに対する反対方向に凸になるように湾曲している。
【0040】
なお、実施形態では、種結晶11の直径は、76.2mm、厚みは500μmである。反りは、30μm程度である。
【0041】
このように湾曲した種結晶11は、突部41の当接面41aに押圧されることにより、成長方向Dに対する反対方向に突出した湾曲面が平坦化される。また、押圧によって、成長方向側に湾曲することを防止でき、種結晶11における成長面を平坦に保持することができる。従って、種結晶11の裏面の保護層のひび割れを防止でき、均一な品質の単結晶を製造できる。
【0042】
(5)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0043】
実施形態では、当接面41aと種結晶10の裏面との間に保護材100が配置されていると説明した。しかし、保護材100は、必ずしも配置されていなくてもよい。
【0044】
保護材100を設けない場合には、種結晶10に当接する蓋体40の表面に緻密化処理を施すことによって、緻密構造にすることが好ましい。表面を緻密化することにより、種結晶10と蓋体40(当接面41a)の間に僅かな空隙が残っていても、マクロ欠陥の発生を防止できる。
【0045】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…単結晶製造装置、 10,11…種結晶、 20…昇華用原料、 30…坩堝本体、 30b…底部、 30u…開口部、 40…蓋体、 40a…蓋体開口部、 41…蓋体、 42…分離蓋部、 43…ガイド部、 43a…円錐面、 43h…ガイド開口部、 50…坩堝、 70…支持棒、 80…石英管、 90…加熱コイル、 100…保護材、 41…突部、 41a…当接面、 41s…ねじ山、 431…係合部、 43g…ねじ溝、 432…支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に底部を有し他方の端部に開口部が形成された略円筒形状を有しており前記底部に昇華用原料が配置される坩堝本体と、
前記開口部を塞ぐとともに前記昇華用原料に対向する位置に種結晶が配置された蓋体と、を有し、
前記昇華用原料を昇華させて前記種結晶上に単結晶を再結晶させる単結晶製造装置であって、
前記蓋体には、前記単結晶の成長方向に行くにつれて拡径する円錐面を有するガイド部が取り付けられており、
前記蓋体は、前記坩堝本体の内側に向けて突出する略円柱状の突部を有し、
前記突部は、前記種結晶の直径と同じかそれ以上の直径を有する当接面が形成されており、
前記ガイド部は、
前記突部の外径に併せた孔径を有しており前記突部が挿通されるガイド開口部が形成された係合部と、
前記係合部に形成されたガイド開口部の少なくとも一部が狭窄され前記種結晶を支持する支持部と、を有し、
前記突部の外側には、ねじ山が形成されており、
前記係合部には、前記ねじ山に螺合されるねじ溝が形成されており、
前記ガイド開口部に挿通された前記突部の端部と前記支持部との間に前記種結晶が配置されており、
前記突部に形成されたねじ山が前記係合部に形成されたねじ溝に螺合されることにより、前記当接面が前記種結晶における結晶成長面とは反対の裏面全面を前記突部に対して押圧するように形成された単結晶製造装置。
【請求項2】
前記当接面と前記種結晶の裏面との間に保護材が配置される請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記種結晶は、前記単結晶の成長方向に対する反対方向に凸になるように湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−66959(P2012−66959A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212339(P2010−212339)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】