説明

単3形アルカリ乾電池

【課題】高容量化、高出力化および低コスト化な単3形アルカリ乾電池では、耐漏液性が低下する虞があった。
【解決手段】本発明の単3形アルカリ乾電池は、ガスケット5を用いて電池ケース1の開口1aを封じている。電池ケース1の中には、正極2と、負極3と、セパレータ4と、アルカリ電解液とが設けられており、負極3には4.0g以上の亜鉛が含まれている。そして、ガスケット5では、ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数が1.2×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以上9.9×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単3形アルカリ乾電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池では、その構造上の理由から水素ガスが発生する虞があり、水素ガスが発生すると内圧が上昇して危険な状態に陥るので、水素ガスが発生しないように、または、水素ガスが発生してもアルカリ乾電池の安全性を確保できるように工夫されている。
【0003】
詳細には、アルカリ乾電池では、負極活物質として亜鉛を用い、電解液として強アルカリ電解液を用いており、電解液は負極に接触している。そのため、亜鉛の表面が強アルカリ電解液に腐食されて水素ガスが発生する場合がある。アルカリ乾電池は密閉されているので、アルカリ乾電池内で水素ガスが発生するとアルカリ乾電池内の気圧が上昇し、アルカリ乾電池が危険な状態に陥ってしまう。そこで、アルカリ乾電池では、負極にビスマスまたはインジウムなどを加え、アルカリ電解液による亜鉛の腐食を抑制している。また、万一アルカリ乾電池の内圧が上昇したときにはガスケットの薄肉部が破断してアルカリ乾電池内の気圧を下げるように構成されている。しかし、ガスケットの薄肉部が破断すると、水素ガスだけでなくアルカリ電解液が漏れてしまう。
【0004】
そこで、アルカリ電解液の漏れを抑制する技術として、特許文献1には、ガスケットとしてナイロン6−12からなるガスケットを用いれば機械的強度の高いガスケットを提供することができるのでアルカリ電解液の漏れを抑制できる,と記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ガスケットとして水素透過性に優れた材料からなるガスケットを用いると、アルカリ乾電池の内圧の上昇を抑制することができるのでガスケットの薄肉部の破断を抑制することができ、その結果、アルカリ電解液の漏れを抑制できる,と記載されている。
【特許文献1】特開昭60−77352号公報
【特許文献2】特開平11−250875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ガスケットの機械的強度を向上させることができるにすぎず、具体的には、封口板を電池ケースの開口に取り付ける際にガスケットが破損することを防止できるにすぎない。
【0007】
また、近年、単3形アルカリ乾電池には、高容量化、高出力化および低コスト化が要求されているが、特許文献1および2では、このような高容量、高出力および低コストなアルカリ乾電池における耐漏液性の向上に言及していない。さらに、特許文献2のように水素透過性に優れた材料からなるガスケットを用いても、高容量、高出力および低コストなアルカリ乾電池における耐漏液性を向上させるには不十分であることが分かった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高容量化、高出力化および低コスト化を図るとともに耐漏液性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の単3形アルカリ乾電池では、ガスケットを介して電池ケースが密閉されている。電池ケースの中には、正極と、負極と、セパレータと、アルカリ電解液とが設けられており、負極には4.0g以上の亜鉛が設けられている。そして、ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数は、1.2×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以上9.9×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以下である。
【0010】
上記構成により、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて亜鉛の含有量を増やすことができるので、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて高容量化を図ることができる。
【0011】
また、単3形アルカリ乾電池内において水素ガスが発生したときには、ガスケットを破断することなく水素ガスを単3形アルカリ乾電池の外へ放出することができる。よって、単3形アルカリ乾電池内において水素ガスが発生しても、アルカリ電解液が漏れることを抑制できる。
【0012】
後述の好ましい実施形態では、ガスケットは、電池ケースの長手方向において相対的に薄肉である薄肉部を有している。この場合、薄肉部の厚みは0.25mm以上であり、薄肉部の厚み方向に対して垂直な方向における薄肉部の断面積は0.04cm2以上である。
【0013】
具体的には、ガスケットは、ナイロン6−12からなっている、または、ナイロン6−12を主剤とするプラスチックからなっていることが好ましい。
【0014】
本発明の単3形アルカリ乾電池では、負極には、亜鉛の重量に対して400ppm以下のインジウムが含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高容量化、高出力化および低コスト化を図るとともに耐漏液性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態を説明する前に、本願発明者らが検討したことを示す。
【0017】
本願発明者らは、近年のニーズに応じて高容量、高出力および低コストなアルカリ乾電池を製造すると、以下に示す不具合が発生するのではないかと考えている。
【0018】
具体的には、単3形アルカリ乾電池の高容量化を図るために負極活物質の充填量を増やすと、アルカリ電解液に腐食される亜鉛の量が増えるので、水素ガスの発生量が増加すると考えられる。さらに、負極活物質の充填量が増えると、電池ケースにおける隙間が狭くなるので、単3形アルカリ乾電池の内圧の上昇速度が速くなると考えられる。また、単3形アルカリ乾電池の高出力化および低コスト化を図るためにビスマスおよびインジウムの含有量を減らせば、アルカリ電解液による負極の腐食を抑制することが難しくなるので、水素ガスの発生量が増加すると考えられる。このように、単3形アルカリ乾電池の高容量化、高出力化および低コスト化を図ると、水素ガスの発生量が増加し、その結果、耐漏液性の低下という不具合が発生すると予測できる。
【0019】
ここで、単3形アルカリ乾電池では内圧が上昇するとガスケットが破断するように設計されているので、水素ガスの発生量が増加すれば耐漏液性の低下を招来する。言い換えると、単3形アルカリ乾電池の内圧が上昇してもガスケットの破断を伴うことなく水素ガスを放出することができれば、水素ガスの発生量が増加しても耐漏液性の低下を抑制することができると考えられる。そこで、本願発明者らは、特許文献2のようにガスケットとして水素透過性に優れた材料からなるガスケットを用いれば単3形アルカリ乾電池の内圧が上昇しても水素ガスのみを放出させることができるのではないかと考え、そのようなガスケットを用いて耐漏液性を調べたが、耐漏液性の向上に対しては不十分であることがわかった。この結果に対して、本願発明者らは、以下のように考えた。
【0020】
流体力学から、水素ガスがガスケットを透過する量は、式1を用いて表すことができる。
【0021】
(水素ガスの透過量)=k×(Pf−Pi)×(S/d)・・・・・・・・・・式1
式1において、kは、係数であり、ガスケットの材料に依存する値である。Piは電池の内圧であり、Pfは電池の外部における圧力である。dはガスケットのうち水素ガスが通過する部分の厚みである。ここで、ガスケットには上述のように薄肉部が設けられているので、水素ガスの大部分はこの薄肉部を通過すると考えられる。よって、dはガスケットに設けられた薄肉部の厚みである。Sはその厚み方向に対して垂直な方向におけるガスケットの薄肉部の断面積である。
【0022】
式1より、水素ガスの透過量は、係数kに比例するとともに、ガスケットの薄肉部の断面積Sに比例しガスケットの薄肉部の厚みdに反比例することがわかる。特許文献2では、ガスケットの材料の水素透過性を特定しているにすぎず、言い換えると、式1における係数kを特定しているにすぎない。そのため、係数kが大きな材料からなるガスケットを用いた場合であっても、ガスケットの薄肉部の断面積Sが小さい、または、ガスケットの薄肉部が分厚いと、水素ガスの透過量は少なくなってしまう。逆に、式1における係数kがそれほど大きくなくても、ガスケットの薄肉部の断面積Sを大きくしたり、ガスケットの薄肉部を薄くすると、水素ガスの透過量を多くすることができる。
【0023】
以上より、本願発明者らは、ガスケットの材料だけでなくガスケットの形状も最適化しなければ水素ガスの透過量を稼ぐことができない点を見いだし、本願発明を完成させた。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載の実施形態に限定されない。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態として一般的なアルカリ乾電池の構成を示す断面図である。図2は、図1に示す領域IIの拡大図である。図3は、図2に示す領域IIIの拡大図である。
【0025】
アルカリ乾電池は、図1に示すように、一端(図1における下端)が封じられた筒状の電池ケース1を備えており、電池ケース1の外周面には外装ラベル8が被覆されている。電池ケース1は正極端子と正極集電体とを兼ねており、電池ケース1には中空円筒状の正極2が内接している。正極2の中空部にはセパレータ4が設けられており、セパレータ4は一端が封じられた筒状に形成されており、セパレータ4の中空部には負極3が設けられている。以上より、電池ケース1では、周縁から中心に向かうに従って、正極2、セパレータ4および負極3の順に配置されている。
【0026】
電池ケース1の開口1aは、組立封口体9により封じられている。組立封口体9は、釘型の負極集電子6と負極端子板7とガスケット5とが一体化されたものであり、負極端子板7は負極集電子6に電気的に接続されており、ガスケット5は負極集電子6および負極端子板7に接続されている。アルカリ乾電池を製造する際には、まず正極2および負極3等の発電要素を電池ケース1内に収容し、次に組立封口体9を用いて電池ケース1の開口1aを封じる。
【0027】
正極2、負極3およびセパレータ4には、アルカリ電解液(不図示)が含まれている。アルカリ電解液としては、水酸化カリウムを30〜40重量%含有し酸化亜鉛を1〜3重量%含有する水溶液が用いられる。
【0028】
以下では、正極2、負極3、セパレータ4、電池ケース1、負極集電子6および負極端子板7の組成などを順に説明する。
【0029】
正極2には、例えば、電解二酸化マンガンの粉末などの正極活物質、黒鉛粉末などの導電剤、およびアルカリ電解液の混合物が含まれている。また適宜、ポリエチレン粉末等の結着剤またはステアリン酸塩等の滑沢剤が正極2に添加されていても差し支えない。
【0030】
負極3としては、例えば、アルカリ電解液にポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤を添加してゲル状に加工し、そのゲル状の物質に亜鉛合金の粉末(負極活物質)を分散させたものが用いられる。また、アルカリ電解液による負極3の耐食性を向上させるためには、ビスマス等の水素過電圧の高い金属化合物を負極3に適宜添加するとよい。また、亜鉛デンドライトの発生を抑制するためには、微量のケイ酸またはその塩などのケイ素化合物を負極3に適宜添加するとよい。なお、負極3については、後で詳述する。
【0031】
セパレータ4としては、例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布が用いられる。セパレータ4は、例えば、特開平6−163024号公報または特開2006−32320号公報に記載の公知の方法により得られる。
【0032】
電池ケース1は、例えば、ニッケルがめっきされた鋼板を用いて特開昭60−180058号公報または特開平11−144690号公報等に記載の公知の方法を用いて所定の寸法および形状にプレス成形して得られる。
【0033】
ガスケット5は、中央部51と、周縁部52と、連結部53とを有している。中央部51は、電池ケース1の開口1aの中央に設けられた筒状の部材であり、中央部51には、貫通孔51aが電池ケース1の長手方向に延びるように形成されており、貫通孔51aには、負極集電子6が挿通される。周縁部52は、電池ケース1の開口1aの周縁(具体的には、負極端子板7と電池ケース1の内壁面との間)に設けられた筒状の部材である。連結部53は、中央部51と周縁部52とを連結しており、薄肉部54を有している。薄肉部54は、連結部53のうち薄肉部54以外の部分、中央部51および周縁部52よりも薄肉に形成されている。なお、ガスケット5については以下で詳述する。
【0034】
負極集電子6は、銀、銅または真鍮等の線材を所定の寸法の釘型にプレス加工して得られる。なお、加工時の不純物の排除と隠蔽効果とを得るためには、負極集電子6の表面には、スズまたはインジウム等がめっきされていることが好ましい。
【0035】
負極端子板7には、電池ケース1の開口1aを封じる端子部(不図示)と、端子部(不図示)から延びておりガスケット5に接触する周縁鍔部とが設けられている。その周縁鍔部にはガスケット5の安全弁が作動した際の圧力を逃がすガス孔(不図示)が複数個設けられている。負極端子板7は、例えば、ニッケルがめっきされた鋼板またはスズがめっきされた鋼板などを所定の寸法および形状にプレス成形して得られる。
【0036】
以下では、本実施形態における負極3およびガスケット5を説明する。
【0037】
本実施形態における負極3には、従来の単3形アルカリ乾電池における負極と同じく活物質として亜鉛が含まれているが、従来の単3形アルカリ乾電池よりも多量の亜鉛が含まれている。具体的には、従来の単3形アルカリ乾電池には約3.8gの亜鉛が含まれているが、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池には4.0g以上の亜鉛が含まれている。このように、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて多くの亜鉛が含まれているので、高容量化を図ることができる。
【0038】
また、本実施形態における負極3には、従来の単3形アルカリ乾電池における負極と同じくインジウムが含まれているが、従来の単3形アルカリ乾電池よりも少量のインジウムが含まれている。具体的には、亜鉛の重量に対するインジウムの重量の割合は、従来の単3形アルカリ乾電池では500ppm程度が通例であるが、本実施形態における負極3では400ppm以下である。このように本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、従来の単3形アルカリ乾電池に比べてインジウムの含有量が少ないので活物質の含有率を増加させることができ、その結果、負極活物質である亜鉛の反応効率を高めることができる。従って、単3形アルカリ乾電池の高出力化を図ることができる。また、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、高価なインジウムの含有量を従来の単3形アルカリ乾電池よりも減らすことができるので、低コスト化を図ることができる。
【0039】
単3形アルカリ乾電池の高出力化および低コスト化を図るためには亜鉛の重量に対するインジウムの重量の割合を低くすることが好ましい。しかし、その割合が低くなりすぎると、水素ガスの発生をほとんど抑制することができなくなるため、インジウムを設ける意義が喪失されてしまう。よって、亜鉛の重量に対するインジウムの重量の割合は、400ppm以下であればよく、100ppm以上400ppm以下であることが好ましい。
【0040】
このような高容量、高出力且つ低コストな単3形アルカリ乾電池では、上述のように、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて耐漏液性が低下する。しかし、本実施形態では、ガスケット5を以下のように設計しているので、単3形アルカリ乾電池内において水素ガスが発生したときにはガスケット5の薄肉部54の破断を伴うことなく水素ガスのみを放出させることができる。
【0041】
本実施形態におけるガスケット5は、水素ガスを透過するように設計されており、具体的には、ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数が1.2×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以上9.9×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以下となるように設計されている。ここで、ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数とは、ガスケット5の材料および形状の両方に依存し、式1におけるk×(S/d)である。ガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数が上記範囲内を示していれば、水素ガスがガスケット5を透過する量を確保することができる。よって、単3形アルカリ乾電池において水素ガスが発生すると、ガスケット5を破断させることなく水素ガスを単3形アルカリ乾電池の外へ放出することができるので、耐漏液性を向上させることができる。
【0042】
ガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数が1.2×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)未満であれば、水素ガスがガスケット5から透過する量を確保することが難しいので、好ましくない。ガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数が大きければ大きいほど水素ガスがガスケット5から透過する量を確保することができるため好ましいが、ガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数が9.9×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)を超えると単3形アルカリ乾電池を気密性の高い装置に組み込んだ場合に単3形アルカリ乾電池から放出された水素ガスがその装置内に充満される虞があるため好ましくない。
【0043】
ガスケット5をさらに説明する。上述のように、ガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数はガスケット5の材料および形状に依存しているので、ガスケット5の材料および形状を最適化すればガスケット5の1個あたりの水素ガス透過係数を上記範囲内とすることができる。まず、ガスケット5の材料(つまり、式1における係数k)について示す。
【0044】
ガスケット5は、水素ガスの透過能に優れた材料(言い換えると、式1における係数kが大きい材料)からなることが好ましく、または、水素ガスの透過能に優れた材料を主剤とすることが好ましい。具体的には、ガスケット5は、ナイロン6−12からなることが好ましく、または、ナイロン6−12を主剤として含んでいることが好ましい。
【0045】
ここで、例えば「ガスケット5がナイロン6−12を主剤として含んでいる」は、ナイロン6−12の含有量が水素ガスの透過量を確保することができる程度に充分な量であることである。
【0046】
次に、ガスケット5の形状(つまり、式1における断面積Sおよび厚みd)について示す。
【0047】
水素ガスの透過量を稼ぐためには、式1に示すように、ガスケット5は、薄肉部54の断面積(S)が大きく薄肉部54の厚み(d)が薄くなるように設計されていることが好ましい。具体的には、薄肉部54の断面積(S)は0.04cm2以上であれば良く、薄肉部54の厚み(d)は0.25mm以下であれば良い。なお、薄肉部54の断面積(S)は、厚み方向に対して垂直な方向における断面積であるが、図3に示す薄肉部54の下面の面積であっても良い。
【0048】
しかし、薄肉部54の断面積(S)が大きくなりすぎると、防爆作動圧が安定しない虞がある。言い換えると、薄肉部54の断面積(S)が大きくなりすぎると、単3形アルカリ乾電池の内圧が上昇したときに薄肉部54が破断する虞がある。その結果、アルカリ電解液の漏れを抑制できないため好ましくない。
【0049】
さらに、ガスケット5には薄肉部54以外に中央部51、周縁部52および連結部53が設けられており、その一方で単3形アルカリ乾電池の大きさは規格で定められているのでガスケット5の大きさはアルカリ乾電池の大きさで決まる。そのため、薄肉部54の断面積(S)が大きくなりすぎると、ガスケット5における薄肉部54の占有率が大きくなってしまい、その結果、中央部51および周縁部52が充分に機能できない虞がある。例えば、ガスケット5における中央部51の占有率が小さくなると、中央部51の貫通孔51aに負極集電子6を安定して保持させることが難しくなると考えられる。また、ガスケット5における周縁部52の占有率が小さくなると、ガスケット5を電池ケース1に固定することができず、よって、単3形アルカリ乾電池を密閉することが難しくなると考えられる。以上のことから、薄肉部54の断面積(S)は、0.04cm2以上であればよく、0.04cm2以上0.2cm2以下であれば好ましい。
【0050】
薄肉部54の厚み(d)が薄くなりすぎると、ガスケット5を成形する際に薄肉部54が破断する虞があり、ガスケット5の製造歩留まりの低下を招来するため好ましくない。さらに、薄肉部54の厚み(d)が薄くなりすぎると、防爆作動圧を安定させることが難しくなる、言い換えると、従来のガスケットのように単3形アルカリ乾電池の内圧の上昇に起因して薄肉部が破断してしまう虞があり、アルカリ電解液の漏れを抑制できないため好ましくない。以上より、薄肉部54の厚み(d)は0.25mm以下であればよく、0.12mm以上0.25mm以下であることが好ましい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池は、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて高出力、高容量および低コストであり、また、漏液を抑制することができる。
【0052】
なお、本実施形態においては、詳細を省略しているが、負極活物質の量が従来の単3形アルカリ乾電池における負極活物質の量よりも多いので、その増加に合わせて正極活物質量も増加させることが好ましい。
【0053】
また、ガスケット5は図2に示す形状に限定されない。薄肉部54の断面積が0.04cm2以上(好ましくは、0.04cm2以上0.2cm2以下)であり、薄肉部54の厚みが0.25mm以下(好ましくは、0.12mm以上0.25mm以下)であればよい。
【実施例】
【0054】
本発明の実施例を以下に示す。本実施例では、予備実験として、ナイロン樹脂(ナイロン樹脂はガスケットの原料である)からなるシートを用いてそのナイロン樹脂の水素ガス透過係数(式1における係数k)を測定した。また、以下に示す方法に従って単3形アルカリ乾電池を製造した後、製造した単3形アルカリ乾電池を過放電させて漏液の有無を確認した。
(予備実験)
ガスケットの原料であるナイロン樹脂からなるシート(厚さが約0.7mm)を用いて、JIS K7176−1に準拠した差圧法によりナイロン樹脂の水素ガス透過係数(式1における係数k)を測定した。ナイロン樹脂の水素ガス透過係数(式1における係数k)の測定条件は表1に示す通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
ガスケットとしては、後述のように、本実施例ではナイロン6−12からなるガスケットを用い、比較例ではナイロン6−6からなるガスケットを用いた。そのため、ナイロン樹脂としてナイロン6−12およびナイロン6−6を選択して、それぞれの水素ガス透過係数(式1における係数k)を測定した。すると、ナイロン6−12の水素ガス透過係数(式1における係数k)は1.06×10−10(cm3H2(STP)・cm/ cm2・sec・cmHg)であり、ナイロン6−6の水素ガス透過係数(式1における係数k)は3.39×10−11(cm3H2(STP)・cm/ cm2・sec・cmHg)であると求められた。
(実施例の単3型アルカリ乾電池の製造方法)
まず、亜鉛の重量に対して0.005重量%のAl、0.005重量%のBiおよび0.020重量%のInを含有する亜鉛合金の粒子を、ガスアトマイズ法によって作製した。その後、篩を用いて、作製した亜鉛合金の粒子を分級させた。この分級により、70〜300メッシュの粒度範囲を有し、且つ、200メッシュ(75μm)以下の粒径を有する亜鉛合金の粒子の比率が30%である負極活物質を得た。
【0057】
次に、34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む)の100重量部に対して、合計質量が2.2重量部となるようにポリアクリル酸とポリアクリル酸ナトリウムとを加えて混合し、ゲル化させた。これにより、ゲル状の電解液を得た。その後、得られたゲル状の電解液を24時間静置して十分に熟成させた。
【0058】
その後、上記で得たゲル状の電解液に、そのゲル状の電解液の所定量に対して重量比で2.00倍の上記亜鉛合金の粒子を加えて十分に混合した。これにより、ゲル状の負極を得た。
【0059】
それから、電解二酸化マンガン(東ソー(株)製 HHTF(品番))および黒鉛(日本黒鉛工業(株)製 SP−20(品番))を重量比94:6の割合で配合し、混合粉を得た。そして、この混合粉100重量部に対し電解液(39重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む))1.5重量部とポリエチレンバインダー0.2重量部とを混合した後、ミキサーで均一に撹拌且つ混合して一定粒度に整粒し、得られた粒状物を加圧して中空円筒型に成形した。このようにして、ペレット状の正極合剤を得た。
【0060】
続いて、評価用の単3形アルカリ乾電池の作製を行った。具体的には、図1に示すように、電池ケース1の内部に、上記で得られたペレット状の正極合剤(1個の重量が5.15g)を2個挿入し、電池ケース1内で再加圧することによって電池ケース1の内面に密着させた。そして、このペレット状の正極合剤の内側にセパレータ4と電池ケース1の底部を絶縁するための底紙とを挿入した後、電解液(34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnO:2重量%含む))を1.5g注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状の負極3を6.2g(亜鉛合金の粒子の含有量は4.1g)充填した。その後、ガスケット5、負極集電子6および負極端子板7が一体化された組立封口体9を用いて電池ケース1の開口1aを封じた。具体的には、負極集電子6を負極3に差し込み、ガスケット5の周縁部52を介して電池ケース1の開口1aの縁に負極端子板7の周縁鍔部をかしめつけて負極端子板7を電池ケース1の開口1aに密着させた。電池ケース1の外表面に外装ラベル8を被覆し、実施例の単3形アルカリ乾電池を作製した。
【0061】
ガスケット5について示すと、ナイロン6−12を用いて射出成形法によりガスケット5を形成した。ガスケット5には薄肉部54を設け、薄肉部54の断面積(S)を0.071cm2とし、薄肉部54の厚み(d)を0.24mmとした。上述の予備実験のデータ(係数kの値)と合わせると、この設計により、本実施例で用いるナイロン6−12製ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数[k×(S/d)]は、3.1×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)となった。
【0062】
また、負極集電子6としては、真鍮線にSnがめっきされたものを用いた。セパレータ4としては、クラレ(株)製のアルカリ乾電池用セパレータ(ビニロンとテンセル(登録商標)とからなる複合繊維)を用いた。
(比較例)
射出成形で作製するガスケットの材料をナイロン6−6とした。それ以外は、ガスケットの薄肉部の厚みおよび断面積を含めて、上記実施例の単3形アルカリ乾電池の製造方法と同様にして、比較用の単3形アルカリ乾電池を作製した。
【0063】
なお、比較例で用いたナイロン6−6製ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数[k×(S/d)]は、予備実験の結果も合わせて算出すると、0.99×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)となった。
(電池評価)
実施例の電池および比較例の電池について、それぞれの新品電池20個を60℃、90%RH加湿雰囲気下に90日間放置して、漏液の有無を調べた。
【0064】
この結果、漏液の発生率は、実施例の電池では0%に対し、比較例の電池では15%であった。このような差が生じた理由は、上記実施形態で記載したメカニズムに因るものと推察している。具体的には、本実施例で用いたガスケットでは、比較例で用いたガスケットに比べて、ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数が大きい。そのため、実施例の単3形アルカリ乾電池において水素ガスが発生した場合には、ガスケットを破断させることなく水素ガスを単3形アルカリ乾電池の外へ放出することができるので、耐漏液性を向上させることができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、高容量化、高出力化および低コスト化を図るとともに安全性の向上を図る単3形アルカリ乾電池について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態における単3形アルカリ乾電池の構成を示す半断面図である。
【図2】図1に示す領域IIの拡大図である。
【図3】図2に示す領域IIIの拡大図である。
【符号の説明】
【0067】
1 電池ケース
1a 開口
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 負極集電子
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 組立封口体
54 薄肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する電池ケースと、前記開口を封じるガスケットとを備え、
前記電池ケースの中には、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に設けられたセパレータと、アルカリ電解液とが設けられており、
前記負極には、4.0g以上の亜鉛が含まれており、
前記ガスケット1個あたりの水素ガス透過係数は、1.2×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以上9.9×10−10(cm3H2(STP)/sec・cmHg)以下である、単3形アルカリ乾電池。
【請求項2】
請求項1に記載の単3形アルカリ乾電池において、
前記ガスケットは、前記電池ケースの長手方向における厚みが相対的に薄い薄肉部を有し、
前記薄肉部の厚みは、0.25mm以下であり、
前記薄肉部の厚み方向に対して垂直な方向における前記薄肉部の断面積は、0.04cm2以上である、単3形アルカリ乾電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の単3形アルカリ乾電池において、
前記ガスケットは、ナイロン6−12からなっている、または、ナイロン6−12を主剤とするプラスチックからなっている、単3形アルカリ乾電池。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つに記載の単3形アルカリ乾電池において、
前記負極には、前記亜鉛の重量に対して400ppm以下のインジウムが含まれている、単3形アルカリ乾電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−170159(P2009−170159A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4682(P2008−4682)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】