説明

印刷装置および有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】印刷法により機能性材料を含むインキを被印刷体に面内均一に薄膜形成するための印刷装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る印刷装置は、網点またはセルの土手を形成するようにパターニングされた印刷版11と、この印刷版11を保持して回転する回転体12と、前記印刷版11にインキを供給する、表面が平滑な面で仕上げられたインキロール13と、前記印刷版11に供給されたインキが転写される被印刷体17を保持して移動する移動手段18とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版を用いて、機能性材料を含むインキを被印刷体に転写することにより面内均一に薄膜を形成する印刷装置およびこの印刷装置を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法およびこの製造方法により製造された有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品のパターン形成において、公知の印刷技術を利用する試みが検討されてきている。特に、ディスプレイ分野では、画面の大型化やコストの低減化に対応するため、印刷方式による電子部品のパターン形成の検討が進められている。印刷法は量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能であり、具体的な印刷方式としては、凹版印刷、平版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷などがあげられる。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以降、単に有機EL素子と略称する)が照明灯やディスプレイに利用される動きも活発になってきており、有機EL素子の製造方法としても、量産化に優れた印刷法が注目されている。有機EL素子は、基板上に少なくとも陽極と有機発光層と陰極を含み、電極間に電界を印加することにより該有機発光層に電子と正孔を注入し発光させる素子である。
【0004】
また、有機EL素子は、陽極、陰極間に有機発光層だけでなく、発光補助層を備えている場合もあり、発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等がある。効率よく発光させるためには、それぞれの層の膜厚が非常に重要であり、層全体では1μm以下の薄膜にする必要がある。
【0005】
被印刷体としてガラス基板等を用いる有機EL素子やディスプレイでは、基板の傷や歪みが好ましくないことから、凹版印刷の代表であるグラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きである。
【0006】
また、有機発光層形成材料を溶媒に溶解若しくは分散させたインキは一般に粘度が低いため、平版印刷の代表であるオフセット印刷やスクリーン印刷には適さない。これに対し、護謨やその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法は、ガラス基板を傷つけることもなく、低粘度の有機ELインキにも適している。実際に、凸版印刷法による有機発光層の形成が提唱されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
凸版印刷法により機能性材料を薄膜形成する場合、アニロックスロールに機能性材料を含むインキを保持し、これを凸版上に転写し、この凸版上のインキパターンを基板上に転写し、薄膜を形成する方法が一般的である。
【0008】
また、たとえば、有機EL素子中の発光補助層や、単一色で構成されるディスプレイや照明灯等のように、比較的広範囲に均一に薄膜を形成する場合は、均一な網点を有する印刷版を用いて所望の位置に薄膜を形成する。
【0009】
従来用いられてきたスピンコート法やダイコート法といったコーティング法では、インキ使用効率が低く、被印刷体の不要な箇所にまでインキが塗布されるために拭き取り等の工程が必要であったが、印刷法を用いればそのような課題を解決できる。
【0010】
上記凸版印刷法に用いられるアニロックスロールとしては、金属ロールの表面に幾何学的な凹型セルを彫刻により形成し、ハードクロム鍍金を施したものや、金属ロールの表面にセラミック層をコーティングした後、レーザでセラミック層に凹型セルを彫刻したものなどが用いられる。
【0011】
セル形状には、ダイヤモンド(菱形)、ハニカム(六角形)、ヘリカル(斜線形)等があり、アニロックスロール表面には一定の角度で均等に凹型セルが並んでいる。アニロックスロールが保持するインキ量は、セルの形状や深度、表面パターンのピッチ(以下、線数)によって調節することができる。
【0012】
アニロックスロールを用いた凸版印刷法では、凸版頂部がセルに入り込むとドットゲインや絡みなどの原因となる。特に、網点のハイライト部は、実質的には凸版の線数の数倍の細かさになっている。そのため、一般に、アニロックスロールの線数は凸版の線数の3倍以上、好ましくは5倍以上のものを用いることにより、高品質な印刷を行うことができる。アニロックスロールの線数が高くなるほどセル容積は小さくなるが、インキ粘度を高くしたり、インキ固形分比を大きくしたりすることにより、必要なインキ量を凸版上に供給することが可能である。
【0013】
図8は、従来の凸版印刷装置における印刷版およびアニロックスロールの周辺の構成を概略的に示しており、1は表面がパターニングされた印刷版、2は印刷版1を保持して図示矢印方向に回転する版胴、3は図示矢印方向に回転するアニロックスロール、4はアニロックスロール3の下部をインキ溜まりに浸漬させてインキ5を供給するためのインキチャンバ、6はアニロックスロール3の表面に付着した余分なインキを掻きとるためのドクタ、7は図示矢印方向に移動される被印刷基板(被印刷体)である。
【0014】
アニロックスロール3の表面には一定の角度で均等に凹型セルが並んで形成されており、凹部にインキが保持されている。アニロックスロール3表面のインキに印刷版1の凸部が接することにより、インキが印刷版1の凸部の表面に1次転写され、さらに、インキは被印刷基板7へと2次転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−155858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、アニロックスロールを用いた凸版印刷法により有機発光層や発光補助層を形成する場合、次のような課題が明らかとなっている。
1つ目の課題は、膜厚の問題である。機能性素子中の機能性材料層の膜厚には最適値が存在し、これは例えば有機EL素子中の有機発光層では100nm前後である。しかし、増粘剤等の添加物を添加してしまうと、素子としての機能低下を招く恐れがあるために、インキを高粘度に調整することができず、有機発光材料インキは通常の印刷用インキと比較してかなり低粘度である。
【0017】
また、有機発光材料は溶解性が低いため、インキ固形分比を大きくすることも難しい。そのため、高線数アニロックスロールから凸版に転写されるインキの転移量が少なく、凸版から基板上に転写されるインキの膜厚は、最適な値よりも薄いものとなってしまう場合がある。
【0018】
そこで、インキ転移量を増加させるためにセル容積の大きい低線数のアニロックスロールを用いると、凸版頂部がセルに入り込み、ドットゲインや絡み等の印刷欠陥が発生してしまう。
【0019】
2つ目の課題は、膜厚ばらつきの問題である。たとえば、有機EL素子において、有機発光材料を溶解または分散させた有機ELインキを基板上の第1電極上に樹脂凸版による凸版印刷法により印刷し、薄膜を形成する場合においては、有機発光層の膜厚均一性が特に要求される。
【0020】
たとえば、パッシブマトリックス方式の有機ELディスプレイにおいて、むらなく均一な輝度で発光させるためには、面内の有機発光層の膜厚ばらつきを±5%以下にする必要がある。しかし、アニロックスロールを用いた凸版印刷法では、アニロックスロールの表面パターンの影響を受け、面内で均一な膜厚を得ることが難しい。
【0021】
さらに、凸版のパターンとアニロックスロールとの干渉により、モアレが発生し、印刷むらとなってしまうという問題もある。モアレ解消のために、アニロックスロールのセル角度を調節する方法等があるが、高精細かつ規則的なパターンにおいては角度の調節だけでは不十分であり、完全な解消は難しい。
【0022】
そこで、本発明は、印刷法により機能性材料を含むインキを被印刷体に面内均一に薄膜形成するための印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の請求項1に係る印刷装置は、網点またはセルの土手を形成するようにパターニングされた印刷版と、この印刷版を保持して回転する回転体と、前記印刷版にインキを供給する、表面が平滑な面で仕上げられたインキロールと、前記印刷版に供給されたインキが転写される被印刷体を保持して移動する移動手段とを具備している。
【0024】
本発明の請求項2に係る印刷装置は、請求項1において、前記印刷版の少なくともパターン凸部の頂面に樹脂層が形成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項3に係る印刷装置は、請求項1〜2のいずれかにおいて、前記印刷版の網点の径が2μm以上100μm以下であることを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項4に係る印刷装置は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記印刷版のセル開口部の短辺方向の幅が2μm以上100μm以下であることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項5に係る印刷装置は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記印刷版のパターン凸部の頭頂部分の表面が撥液処理されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項6に係る印刷装置は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記インキロールの表面粗さRaが0.01〜1.0μmの範囲内であることを特徴とする。
【0029】
本発明の請求項7に係る印刷装置は、請求項1〜6のいずれかにおいて、前記インキロールに対しスリットコータによりインキを供給することを特徴とする。
【0030】
本発明の請求項8に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載された印刷装置を用いて、有機発光層または発光補助層を形成することを特徴とする。
【0031】
本発明の請求項9に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の請求項1に係る印刷装置によれば、表面にセルのない平滑なインキロールを用いることで、印刷版の網点パターン部全面に均一にインキを保持することができ、ドットゲインや絡み、モアレ等の不具合なく、被印刷体に均一な薄膜を形成することができる。
【0033】
本発明の請求項2に係る印刷装置によれば、被印刷体がガラス等の硬質なものであっても、傷つけることなく印刷が可能となる。
【0034】
本発明の請求項3に係る印刷装置によれば、印刷版から被印刷体に転写されたインキが被印刷体上でレベリングしやすくなり、膜厚均一性が向上する。
【0035】
本発明の請求項4に係る印刷装置によれば、印刷版のパターン凹部のインキ保持量が安定し、膜厚均一性が向上する。
【0036】
本発明の請求項5に係る印刷装置によれば、インキは印刷版のパターン凹部にのみ保持されるようになり、被印刷体間の膜厚安定性が向上する。
【0037】
本発明の請求項6に係る印刷装置によれば、インキロールの表面に保持されるインキの均一性が向上する。
【0038】
本発明の請求項7に係る印刷装置によれば、インキロールの表面に保持されるインキの膜厚を容易に調整できるようになる。
【0039】
本発明の請求項8に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法によれば、発光むらや発光不良の発生のない有機EL素子を製造することができる。
【0040】
本発明の請求項9に係る有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、発光むらや発光不良の発生のない有機EL素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態に係る印刷装置の構成を概略的に示す模式図。
【図2】実施の形態に係る印刷装置における印刷版およびインキロールの周辺の構成を概略的に示す模式図。
【図3】実施の形態に係る印刷装置における印刷版およびインキロールの周辺の他の構成を概略的に示す模式図。
【図4】実施の形態に用いられる印刷版の構成例を概略的に示す縦断側面図。
【図5】実施の形態に用いられる印刷版の構成例を概略的に示す縦断側面図。
【図6】実施の形態に用いられる印刷版の構成例を概略的に示す縦断側面図。
【図7】実施の形態に用いられる印刷版の構成例を概略的に示す縦断側面図。
【図8】従来の印刷装置における印刷版およびアニロックスロールの周辺の構成を概略的に示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、特に凸版印刷装置に好適に適用される印刷装置に適用した場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々変形実施可能なことはいうまでもないことである。
【0043】
図1、図2は、本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を概略的に示すものである。この印刷装置は、表面がパターニングされた印刷版11、印刷版11を保持して図示矢印方向に回転する版胴12、図示矢印方向に回転するインキロール13、インキロール13の下部をインキ溜まりに浸漬させてインキ14を供給するためのインキチャンバ15、インキロール13の表面に付着した余分なインキを掻き取るためのドクタ16、被印刷基板(被印刷体)17を保持して図示矢印方向に移動させるステージ18により構成されている。
【0044】
図示矢印方向に回転するインキロール13は、表面が平滑な面で仕上げられており、その上にインキ14aが保持される。図示矢印方向に回転される印刷版11のパターン凸部11aがインキロール13の表面に接することで、インキロール13上のインキ14aは印刷版11のパターン凹部11bに1次転写される。印刷版11のパターン凹部11bに保持されたインキ14bは、図示矢印方向に移動される被印刷基板17上に2次転写されることで、印刷パターン19が形成される。
【0045】
ドクタ16は、インキロール13の表面と任意の間隔で固定できる構造になっており、これによって、インキロール13上のインキ14aの膜厚を制御できるようになっている。
【0046】
なお、より好ましくは、図3に示すように、スリットコータ20を用いてインキロール13の表面にインキを均一に塗工するようにしてもよい。スリットコータ20を用いることで、インキの膜厚はより容易かつ高精度に制御可能となる。その場合、転写に使われなかったインキをインキロール13の表面から脱離させるインキ脱離機構21、および、インキ脱離機構21により脱離されたインキを回収するインキ回収機構22が設けられていることが望ましい。
【0047】
インキ脱離機構21の具体例としては、たとえば、インキを樹脂製のドクタで掻き落としたり、溶媒をスプレして掛け流したりする方法などが用いられる。
【0048】
インキロール13の表面にはインキを保持するための凹型セルはなく、表面研削・研磨等で平滑に処理されている。耐摩耗性・耐腐食性を持たせるために、表面にはクロムメッキやセラミックコートを施していることが望ましい。表面の粗さは、Raが0.01〜1.0μmの範囲であることが好ましい。Raが0.01μmよりも小さい場合は、インキ保持力が不足してしまう可能性が大きくなる。また、Raが1.0μmよりも大きい場合は、インキロール13の表面の凹凸が膜厚ばらつきに与える影響が大きくなってしまう。
【0049】
本実施の形態では、主に印刷版11のパターン凹部11bにインキを保持する。表面が平滑なインキロール13からインキを転写する場合、印刷版11のパターン凸部11aにインキ供給をしようとしても、パターン凹部11bまでインキが流れ込んでしまうことが多く、印刷不良が発生しやすい。これに対し印刷版11のパターン凹部11bにインキを保持することで、このような印刷不良は発生しないようにできる。
【0050】
印刷版11のパターンは、パターン凹部11bにインキを保持しやすい形状でなければならない。具体的には、網点またはセル形状のものがよい。
【0051】
被印刷基板17にいわゆるベタ塗りをする場合には、網点状のパターンを用いてインキ転写を行い、基板上でインキをレベリングさせる。従来の印刷装置では、アニロックスロールの表面パターンの影響で網点状に保持するインキが不均一となってしまい、均一な膜形成が難しかったが、本実施の形態の印刷装置では、印刷版11のパターン凹部11bに均一にインキを保持することができるため、形成された膜の均一性も良好となる。インキのレベリング性や粘度、基板の濡れ性等にもよるが、ベタ塗りをする場合には、網点の径は2μm以上100μm以下が望ましい。2μmよりも小さいと、パターンの強度が不足し、欠けやよれなどが発生してしまうことが多い。また、100μmよりも大きいと、転写後のインキのレベリングが不足し、均一なベタ膜の形成が難しくなる。
【0052】
被印刷基板17に膜をパターニング形成する場合は、セル形状に凹部が区切られた印刷版11を用いる。セル開口部の短辺方向の幅は2μm以上100μm以下であることが望ましい。2μmより狭いと、印刷版11のパターン凹部の容積が不足し、インキ保持量が足りなくなってしまうことが多い。また、100μmより広いと、印刷版11のパターン凹部のインキ保持力が低下し、印刷不良が発生してしまう場合がある。なお、印刷版11のセル開口部の形状は四角形である必要はなく、所望の印刷パターンに応じて多角形や円形など、様々な形状をとることができる。
【0053】
図4〜図7は、本実施の形態に用いられる印刷版11の構成例を概略的に示している。図4〜図7に示すように、基材31の上に樹脂層32を積層形成し、この樹脂層32に凹凸パターン33が形成された構造とすることが望ましい。基材31としては、印刷に対する機械的強度を有すればよく、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、または、それらの積層体を用いることができる。
【0054】
なお、本実施の形態に使用する印刷版11を構成する基材31としては、高い寸法安定性を保持するものが望ましく、金属が好適に使用される。基材31として用いられる金属としては、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、クロム、金、銀やそれらの合金、積層体などがあげられるが、特に、加工性、経済性から鉄を主成分とするスチール基材やアルミ基材を好適に用いることができる。
【0055】
金属製の基材31をエッチング等で加工することにより、印刷版11の凸部パターンを形成することも可能であるが、被印刷基板17がガラス基板などの硬質なものである場合は、印刷時に傷や歪みが発生してしまうため好ましくない。
【0056】
そこで、基材31上に樹脂層32を形成し、印刷版11の凸部パターンを形成するのが望ましい。印刷版11の凸部パターンを形成する樹脂としては、インキに対する耐溶剤性があればよく、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロース誘導体などや、フッ素系エラストマやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂から1種類以上を選択することができる。
【0057】
また、少なくとも、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリウレタン、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミドやこれらの誘導体といった水溶性溶剤に可溶なものを1種類以上含有することによっても耐溶剤性を付与することができるため、これらの中から1つ以上を選択し用いることも望ましい。
【0058】
また、本実施の形態においては、主に印刷版11のパターン凹部にインキを保持する。印刷版11のインキ保持量を安定させるために、印刷版11のパターン凸部の頂面が撥インキ性を有していることが好ましい。撥インキ性を付与するための方法の1つとしては、図6や図7に示すように、印刷版11の最上面に撥インキ性の樹脂層を積層形成する方法がある。
【0059】
図6は、金属製の基材31に凹凸パターン33を形成し、この凹凸パターン33の凸部の頂面に撥インキ性の樹脂層33を形成したものである。
図7は、基材31の上に樹脂層32を積層形成し、この樹脂層32に凹凸パターン33を形成し、この凹凸パターン33の凸部の頂面に撥インキ性の樹脂層34を形成したものである。
【0060】
ここに、撥インキ性を有する樹脂としては、フッ素原子を分子骨格に有する添加剤を加えた樹脂材料や、フッ素系エラストマやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂から1種類以上を選択することが望ましい。
【0061】
本実施の形態における印刷版11のパターン凸部11aは、ポジ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィ法、ネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィ法や、金属性の切削刀やレーザアブレーション法等で樹脂を削り取る方法などの種々のパターン成型法を用いることができるが、パターンの高精細さの観点から、感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィ法が望ましく、また、要求精度の凸部パターンを形成可能なネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィ法が最も望ましい。
【0062】
また、本実施の形態においては、主に印刷版11のパターン凹部にインキを保持するため、パターン凹部の容積の制御が重要である。樹脂層が厚い場合、製版精度のばらつきが大きくなりやすく、さらに、インキ溶剤での膨潤等での容積の変動も大きくなってしまう。そこで、図5に示すように、樹脂層32は1〜100μm程度の薄さにすることが好ましい。さらには、図6に示すように、金属製の基材31に凹凸パターン33を形成し、この凹凸パターン33の上に樹脂層33を形成することも好ましい。
【実施例1】
【0063】
次に、本発明の印刷装置の具体的な実施例について説明する。
本実施の形態の印刷装置を用いて、ガラス基板上に有機ELインキを印刷した。印刷は70mm×70mmの範囲にベタ塗りを行った。
【0064】
印刷版は、ポリアミドを主成分とするネガ型感光性樹脂版を用いた。印刷版のパターンは、70mm×70mmの300線/インチの網点パターンとし、公知の露光、現像、洗浄、乾燥の工程を経て印刷版を作製した。網点の径は15μm、パターン凹部の深さは20μmであった。
【0065】
インキロールは、表面粗さRaが0.05μmに仕上げられたものを用いた。
インキは、アニソールにポリフルオレン系誘導体の発光材料(住友化学社製発光材料:Green1300)を濃度1.0重量%となるように溶解させて調製した。
【0066】
印刷は図2に記載されている印刷装置で行った。ドクタ16とインキロール13との間隔を調節し、インキロール13上でのインキ14aの膜厚は20μmとなるようにした。インキロール13の表面のインキ14aを印刷版11のパターン凹部11bに転写し、印刷版11からガラス基板(被印刷基板17)上に転写して、ガラス基板上に薄膜を形成した。印刷された薄膜をUVランプで蛍光発光させて観察したところ、むらのない均一な膜が形成できていることが確認できた。
【実施例2】
【0067】
本発明のその他の実施例として、薄膜をパターニング形成した例について説明する。
被印刷基板17として、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された平坦化層と、平坦化層上にコンタクトホールによって前記薄膜トランジスタと導通が図られている画素電極とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。
【0068】
基板のサイズは対角1.8インチ、画像形成領域のピクセル数は64(RGB)×64である。この基板上に設けられている画素電極の端部を被覆し、画素を区画するような形状で隔壁を形成した。隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにて基板全面に厚み2μmで形成した後、フォトリソグラフィによって、直列画素間が幅120μm、隣接画素間が幅60μmの隔壁を形成した。
【0069】
これにより、サブピクセル数192×64ドット(サブピクセル幅166μm、ピッチ498μm)の画素領域が区画された。画素電極上に、正孔輸送層として厚さ50nmの酸化モリブデンを真空蒸着法によりシャドーマスクでパターン成膜し、被印刷基板17を作製した。
【0070】
印刷版11は、図7に記載されている構成のものを用いた。樹脂層32にはポリアミドを主成分とする樹脂を、樹脂層34にはフッ素系樹脂(インキに対する接触角50°以上)を用い、レーザアブレーション法により印刷版のパターン33を形成した。印刷版のパターン33は、120μm×400μmの凹型セルを498μmピッチで形成し、パターン凹部の深さは40μmとした。
【0071】
インキロール13は、表面粗さRaが0.05μmに仕上げられたものを用いた。
インキは、キシレンにポリフルオレン系誘導体の発光材料(住友化学社製発光材料:Red1100、Green1300、Blue1100)を濃度1.0重量%となるように溶解させて、R,G,Bそれぞれ調製した。
【0072】
印刷は、図2に記載されている印刷装置で行った。ドクタ16とインキロール13との間隔を調節し、インキロール13上でのインキ14aの膜厚は20μmとなるようにした。R,G,Bインキそれぞれについて、インキロール13の表面のインキ14aを印刷版11のパターン凹部11bに転写し、印刷版11から被印刷基板17上に転写し、各色について薄膜をパターニング形成した。
【0073】
印刷を行った後、オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。形成されたパターン各色の平均膜厚は105nmだった。乾燥の後、印刷により形成した有機発光層上にカルシウムを10nm成膜し、さらに、その上に銀を300nm真空蒸着し、最後にガラスキャップを用いて封止を行い、本発明の有機EL素子を作製した。この有機EL素子の発光状態を確認したところ、印刷抜けや発光ムラなどの特異な異常が無いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明によれば、印刷法により均一な薄膜を形成でき、発光むらや発光不良の発生のない有機EL素子および該有機EL素子を有する照明装置を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0075】
11…印刷版、12…版胴、13…インキロール、14…インキ、15…インキチャンバ、16…ドクタ、17…被印刷基板(被印刷体)、18…ステージ、19…印刷パターン、20…スリットコータ、21…インキ脱離機構、22…インキ回収機構、31…基材、32…樹脂層、33…凹凸パターン、34…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網点またはセルの土手を形成するようにパターニングされた印刷版と、
この印刷版を保持して回転する回転体と、
前記印刷版にインキを供給する、表面が平滑な面で仕上げられたインキロールと、
前記印刷版に供給されたインキが転写される被印刷体を保持して移動する移動手段と、
を具備したことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記印刷版の少なくともパターン凸部の頂面に樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷版の網点の径が2μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷版のセル開口部の短辺方向の幅が2μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記印刷版のパターン凸部の頭頂部分の表面が撥液処理されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インキロールの表面粗さRaが0.01〜1.0μmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記インキロールに対しスリットコータによりインキを供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、請求項1〜請求項7のいずれかに記載された印刷装置を用いて有機発光層または発光補助層を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−243459(P2011−243459A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115625(P2010−115625)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】