説明

原動機制御装置

【課題】簡単な構成でかつ低コストで制御系を二重化でき、システムの安全性を向上できる原動機制御装置を提供する。
【解決手段】原動機の回転速度を制御するための制御信号を夫々出力する2つの制御機1,2と、その2つの制御機1,2からの制御信号のうちの一方を選択して原動機に出力する信号選択器4とを備える。2つの制御機1,2のうちの主動作モードで動作する制御機が原動機を制御する一方、従属動作モードの制御機が、主動作モードで動作する制御機の制御信号と略同一の制御信号を出力するように動作する。従属動作モードの制御機は、制御信号から予め決められたオフセット値だけレベルを下げた信号を出力し、信号選択器4は、主動作モードで動作する制御機の制御信号を選択して原動機に出力する。主動作モードで動作する制御機を故障して停止したとき、従属動作モードで動作していた制御機を主動作モードに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重要なプラントなどに用いられる原動機制御装置は、制御系の不具合で施設を停止させることなく運転が続行可能なように制御を三重化することが多々ある。
【0003】
しかしながら、三重化された原動機制御装置は、非常に高価で制御自身も非常に複雑となり、ある限られた規模の施設以外では、コスト的に採用することは不可能である。
【0004】
従来、多重化された原動機制御装置としては、アナログ制御信号の最大値または最小値を採用して制御を行うものがある(例えば、特開昭59−71503号公報(特許文献1)参照)。
【0005】
しかしながら、比較的小規模な施設で三重化までは必要としないシステムにおいて、原動機制御装置を二重化してシステムの安全性を向上させる場合、このようなアナログ制御信号の最大値または最小値という信号選択による多重化制御は複雑でコストが高くつくため、施設の規模に応じた制御系の二重化を低コストで実現することは容易にできないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−71503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の課題は、簡単な構成でかつ低コストで制御系を二重化でき、システムの安全性を向上できる原動機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の原動機制御装置は、
原動機からの回転速度を表す信号を受けて、上記原動機の回転速度を制御するための制御信号を夫々出力する2つの制御機と、
上記2つの制御機からの上記制御信号のうちの一方を選択して上記原動機に出力する制御信号選択部と
を備え、
上記2つの制御機のうちの一方が上記原動機を制御する主動作モードとなると共に、
上記2つの制御機のうちの他方が、上記主動作モードで動作する上記制御機の制御信号と略同一の制御信号を出力するように動作する従属動作モードとなり、
上記従属動作モードで動作する上記制御機は、上記制御信号から予め決められたオフセット値だけレベルを下げた信号を出力し、
上記制御信号選択部は、上記2つの制御機からの上記制御信号のうちのレベルが高い制御信号を選択して上記原動機に出力するようになっており、
上記2つの制御機は、上記主動作モードで動作する上記制御機が故障して停止したとき、上記従属動作モードで動作していた上記制御機が上記主動作モードに切り替えるようになっていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、上記2つの制御機のうちの主動作モードで動作する制御機は、原動機からの回転速度を表す信号を受けて、上記原動機の回転速度を制御するための制御信号を出力する。一方、上記従属動作モードで動作する制御機は、主動作モードで動作する制御機の制御信号と略同一の制御信号を出力するように動作し、その制御信号から予め決められたオフセット値だけレベルを下げた信号を出力する。そして、上記制御信号選択部は、2つの制御機からの制御信号のうち、主動作モードで動作する制御機のレベルが高い制御信号を選択して原動機に出力する。このようにして、主動作モードで動作する制御機が原動機の回転速度を制御する状態で、主動作モードで動作する制御機が故障して停止したとき、従属動作モードで動作していた制御機が主動作モードに切り替わって、オフセット値だけレベルを下げていた信号を正規の制御信号に戻して出力する。これにより、従属動作モードから主動作モードに切り替わった制御機によって、原動機の回転速度を制御する。したがって、低コストで制御系を二重化でき、システムの安全性を向上できる。
【0010】
また、一実施形態の原動機制御装置では、
上記2つの制御機は、上記原動機からの速度信号に基づくPID制御を行うためのPID演算部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記PID演算部は、そのPID演算部自身の出力をフィードバック信号として用いて演算を行う一方、
上記従属動作モードで動作する上記制御機の上記PID演算部は、上記主動作モードで動作する上記制御機からの上記フィードバック信号を用いて演算を行う。
【0011】
上記実施形態によれば、主動作モードで動作する制御機のPID演算部は、そのPID演算部自身の出力をフィードバック信号として用いて演算を行う一方で、従属動作モードで動作する制御機のPID演算部は、主動作モードで動作する制御機からのフィードバック信号を用いて演算を行う。これにより、従属動作モードで動作する制御機において、PID演算部のフィードバック信号として主動作モードで動作する制御機からのフィードバック信号を採用することで、常に2つの制御機から出力される制御信号が同一となるようにでき、従属動作モードと主動作モードの切り替え時に制御信号をスムーズに切り替えることができる。
【0012】
また、一実施形態の原動機制御装置では、
上記2つの制御機は、制御機能が故障か否かを判断する故障判断部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記故障判断部が自身の制御機能が故障であると判断したとき、上記主動作モードで動作していた上記制御機を停止すると同時に上記従属動作モードで動作していた上記制御機を上記主動作モードに切り替える。
【0013】
上記実施形態によれば、上記2つの制御機の故障判断部は、各々の制御機において原動機からの諸信号の入力異常(センサ故障や信号線の断線など)や制御機自身の機能障害などを含む制御機能の故障を判断する。そして、上記主動作モードで動作する制御機の故障判断部が自身の制御機能が故障であると判断したとき、主動作モードで動作していた制御機を停止すると同時に従属動作モードで動作していた制御機を主動作モードに切り替える。これにより、主動作モードで動作していて故障した制御機が原動機制御に悪影響を与えることなく、主動作モードに切り替わった制御機により原動機の制御を正常に継続できる。
【0014】
また、一実施形態の原動機制御装置では、
上記2つの制御機の一方は、上記原動機の回転速度を検出する2つの回転速度センサの一方からの回転速度を表す信号が入力され、
上記2つの制御機の他方は、上記2つの回転速度センサの他方からの回転速度を表す信号が入力されると共に、
上記2つの制御機は、上記原動機の回転速度以外の運転情報を検出する複数の補助センサからの上記運転情報を表す信号が夫々入力される。
【0015】
上記実施形態によれば、上記原動機の制御に最も重要な回転速度を検出する回転速度センサは、制御機毎に設けて信頼性を高め、原動機の回転速度以外の運転情報を検出する複数の補助センサについては共用することにより、コストを低減できる。
【0016】
また、一実施形態の原動機制御装置では、
上記2つの制御機は、上記原動機からの少なくとも上記回転速度を表す信号に基づいて、上記原動機の故障を判断する原動機故障判断部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記原動機故障判断部が上記原動機が故障であると判断すると、上記2つの制御機は夫々動作を停止する一方、
上記従属動作モードで動作する上記制御機の上記原動機故障判断部の判断結果は、上記原動機に対する制御に用いない。
【0017】
上記実施形態によれば、主動作モードで動作する制御機の原動機故障判断部が原動機が故障であると判断すると、2つの制御機は夫々動作を停止する。一方、従属動作モードで動作する制御機では、原動機故障判断部の判断結果を原動機に対する制御に用いないことによって、2つの制御機の原動機の故障判断のタイミングがずれて2つの制御機で異なった故障判断を行っても、原動機制御に矛盾が生じるのを回避できる。
【発明の効果】
【0018】
以上より明らかなように、この発明の原動機制御装置によれば、低コストで制御系を二重化でき、システムの安全性を向上できる原動機制御装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1はこの発明の実施の一形態の原動機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2A】図2Aは上記原動機制御装置のマスター側の制御機の要部の構成図である。
【図2B】図2Bは上記原動機制御装置のスレーブ側の制御機の要部の構成図である。
【図3】図3は上記原動機制御装置の第1,第2の制御機の故障に関わる要部の構成図である。
【図4】図4は上記第1,第2の制御機を強制的に切り替えたときの原動機の回転速度と制御信号を表す図である。
【図5】図5は上記第1,第2の制御機を故障により切り替えたときの原動機の回転速度と制御信号を表す図である。
【図6】図6はこの発明の原動機制御装置の実施例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的に二重化された制御の場合、三重化の延長として三重化システムのうちの1系統が故障した結果、二重化状態になったことを想定し、アナログ値であればその目的に応じて入力される信号を高値選択あるいは低値選択を行い、常にどちらかの制御機の出力を選択して切り替える制御を行う。
【0021】
これに対して、この発明の原動機制御装置は、2台の制御機を同時に作動させる点は共通であるが、上記のように三重化の延長としての二重化ではなく、どちらかの制御機が優先的に制御を行い、その制御機に異常が起こらない限り、制御機の切り替えは発生しない。また、この発明の原動機制御装置の2台の制御機は、それぞれ独立して1台の原動機を制御させる。
【0022】
このような制御方法をとるため、この発明の原動機制御装置は、2台の制御機のうちの片方を主制御機(以下、主動作モードの制御機という)、他方を従属機(以下、従属動作モードの制御機という)と判断させ、通常は主動作モードの制御機が原動機を制御し、従属動作モードの制御機は自身で運転状況を判断しながらも、制御機からの出力は、主動作モードの制御機と同じ出力となるよう、2台の制御機間で状態情報のやり取りを行う。そうして、万一、主動作モードの制御機が制御不能となった場合には、従属動作モードの制御機に制御権を渡すことで、原動機を停止させることなく運転を続行することが可能となる。
【0023】
以下、この発明の原動機制御装置を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0024】
図1はこの発明の実施の一形態の原動機制御装置の構成を示すブロック図を示している。
【0025】
この原動機制御装置は、図1に示すように、2台の制御機1,2と、外部からのアナログ信号を分配して制御機1,2に入力する信号分配器3と、制御機1,2から出力させた制御信号のいずれか一方を選択する信号選択器4とを備えている。
【0026】
ここで、「アナログ信号」とは、例えば原動機がガスタービンの場合では、回転速度を表す信号、排気温度を表す信号、CDP(圧縮機出口圧力)を表す信号、燃料流量を制御するためのアクチュエータフィードバック信号などである。また、原動機がディーゼルエンジンの場合では、回転速度を表す信号以外に、冷却水温度、潤滑油圧力、潤滑油温度などを表す信号である。
【0027】
上記制御機1,2の夫々に接点信号が直接入力されている。また、上記制御機1,2間では、データ転送が行われると共に、主制御信号と呼ばれる現在どちらが原動機(図示せず)を制御する主動作モードであるのかを判断するための信号が互いに送信される。この実施の形態では、主動作モードの制御機からは、従属動作モードの制御機に対してハイレベルの主制御信号を出力する一方、従属動作モードの制御機からは、主動作モードの制御機に対してロウレベルの主制御信号を出力する。
【0028】
ここで、「接点信号」とは、例えば原動機がガスタービンの場合では、上位制御盤からの始動信号、停止信号、速度上げ信号、速度下げ信号、非常停止信号、故障リセット信号等や、ガスタービン側からの油圧低下信号、燃料遮断用ソレノイド信号、セルモータ制御信号、イグナイター信号などである。
【0029】
また、「データ転送」では、例えば原動機がガスタービンの場合では、アクチュエータ位置信号を相手側に送り、また、片方の制御機へのセンサからの信号の断線などによる不具合発生時にバックアップ用として相手側に送信する。さらに、各制御機のステータス(故障、運転状況、設定条件)を転送して、制御機1,2が常に同じ制御状態となるように相互監視する。
【0030】
原動機を制御するための制御信号は、各制御機1,2から出力されるが、これらの制御信号は、信号選択器4により主動作モードとなっている制御機から出力される制御信号が選択される。
【0031】
このような構成によって、2台の制御機1,2は、原動機から同じ信号を受け取ることになる。
【0032】
図2Aは主動作モードとなっているマスター側の制御機の要部の構成図を示し、図2Bは従属動作モードとなっているスレーブ側の制御機の要部の構成図を示している。
【0033】
制御機1,2は夫々、図2A, 図2Bに示すように、原動機の回転速度を表す速度信号が入力され、PID(比例・積分・微分)制御を行うPID演算部11と、上記PID演算部11の出力が一方の入力端子(1)に入力される演算部12と、他機からのフィードバック信号が一方の入力端子に入力され、他方の入力端子にPID演算部11の出力端子が接続され、出力端子がPID演算部11のフィードバック入力端子に接続されたスイッチ13と、ゼロレベル(0)が一方の入力端子に入力され、オフセットレベル(x)が他方の入力端子に入力され、出力端子が演算部12の他方の入力端子(2)に接続されたスイッチ14とを有する。上記スイッチ13とスイッチ14は、制御入力端子に他機からの主制御信号が入力されている。また、上記演算部12では、
〔入力端子(1)の入力〕−〔入力端子(2)の入力)〕
の演算が行われる。
【0034】
図2Aに示すマスター側の制御機では、スイッチ13の制御入力端子に入力される他機(スレーブ側)からの主制御信号が例えばロウレベルであり、スイッチ13は、PID演算部11の出力側に切り替わると共に、スイッチ14は、ゼロレベル(0)側に切り替わる。これにより、演算部12は、PID演算部11の出力をそのまま制御信号として出力する。
【0035】
一方、図2Bに示すスレーブ側の制御機では、スイッチ13の制御入力端子に入力される他機(マスター側)からの主制御信号が例えばハイレベルであり、スイッチ13は、他機からのフィードバック信号側に切り替わると共に、スイッチ14は、オフセットレベル(x)側に切り替わる。これにより、演算部12は、PID演算部11の出力からオフセットレベル(x)だけ下げた信号を制御信号として出力する。
【0036】
2台の制御機1,2は、PID制御の特性上1台の原動機から同じ速度信号を取り込んでいても、PID出力は必ずしも同じ値となるとは限らない。
【0037】
そこで、上記構成の原動機制御装置では、マスター側の制御機は、PID演算器11のフィードバック信号をスレーブ側の制御機にデータ転送ラインを介して送り、スレーブ側の制御機は、PID演算器11のフィードバック信号としてマスター側の制御機から送られた信号を採用する。これにより、常に2台のPID演算器11での演算結果が同一となるように制御を行っている。
【0038】
万一、マスター側の制御機に何らかの故障が発生し、制御できない状態となると、スレーブ側の制御機では、他機からの主制御信号がオフ(例えばロウレベル)となり、フィードバック信号が他機フィードバック信号から自身のフィードバック信号に切り替わり、自身がマスター側の制御機となって運転を継続する。
【0039】
このようにして、2台の制御機1,2から出力される制御信号が同じレベルの状態であっても、演算サンプリングにより両制御機1,2の間で若干のずれが生じることがあり、制御に悪影響を与えてしまう。
【0040】
そこで、マスター側の制御機から主制御信号(ハイレベル)を受け取っているスレーブ側の制御機は、制御機の最終段で制御信号から一定の値(オフセットレベル(x))を減じることで、常にマスター側の制御機の出力との間に常に偏差を持たせ、信号選択器4では、レベルの高い方の制御信号を選択することにより、常にマスター側の制御機から出力される制御信号を選択させることが可能となる。
【0041】
図4は上記第1,第2の制御機1,2を試験目的で強制的に切り替えたときの原動機の回転速度と制御信号を示しており、図5は上記第1,第2の制御機1,2を故障により切り替えたときの原動機の回転速度と制御信号を示している。
【0042】
このようにスレーブ側の制御機において制御信号に最終段で偏差を与えることによって、図4および図5に示すように、切り替え時に制御信号をほぼバンプレスに(出力変化の突変を抑制するように)切り替えることが可能となり、原動機の回転変動を防止することが可能となる。さらに、信号選択器4には、単純な高値選択機能を備えるだけでどちらがマスター側の制御機かという情報を用いる必要がなくなり、制御システムも簡単に構築することが可能となる。
【0043】
上記第1,第2の制御機1,2の二重化については、故障診断についても次のような改良を行っている。
【0044】
この原動機制御装置における故障判断のうち、制御機1,2自身の故障は、常時監視されており、マスター側の制御機が自身の機能障害や入出力異常(センサ故障や信号線の断線など)を検出した場合には、制御権をスレーブ側の制御機に移し、自身の停止操作を行う。一方、スレーブ側の制御機が自身の機能障害や入出力異常(センサ故障や信号線の断線など)を検出した場合には、マスター側の制御機に干渉しないように処理を行い、自身の停止操作を行う。
【0045】
1台の原動機の監視を2台の制御機1,2で行うと、制御プログラムのサンプリングタイミングの差により異なった故障判断を行う可能性がある。
【0046】
もし、異なった故障判断を行うと、制御に矛盾が生じるため、この原動機制御装置では、2台の制御機1,2がそれぞれに持つ故障判断機能のうち共通の原動機の故障監視については、制御機1,2のうちのマスター側のみで行うことにより、このような矛盾を回避している。
【0047】
原動機の故障を判断したマスター側の制御機は、原動機を停止させると共に、スレーブ側の制御機に対しても停止指令を送り、スレーブ側の制御機は、この停止指令で原動機停止動作に入る。
【0048】
図3は上記原動機制御装置の第1,第2の制御機1,2の故障に関わる要部の構成を示しており、制御機1,2は夫々、自機故障判断部21と、原動機故障判断部23と、故障検出/停止部22とを有している。上記自機故障判断部21は、原動機からの諸信号の入力異常(センサ故障や信号線の断線など)や制御機自身の機能障害を判断する。また、上記原動機故障判断部23は、原動機からの信号に基づいて原動機の故障を判断する。そして、上記故障検出/停止部22は、自機故障判断部21の判断結果と原動機故障判断部23の判断結果に基づいて、故障検出し、原動機停止動作を行う。
【0049】
ここで、「原動機の故障」とは、例えば原動機がガスタービンの場合には、過速度、速度異常低下、排気温度異常、潤滑油温度上昇、始動渋滞、着火失敗、速度センサ断線、温度センサ断線、CDPセンサ断線、アクチュエータポジションエラーなどである。
【0050】
上記原動機故障判断部23の判断結果を表す信号は、AND回路25の一方の入力端子に入力され、AND回路25の他方の入力端子には他機からの主制御信号がインバータ24を介して入力されている。そして、AND回路25の出力が原動機故障判断部23の判断結果を表す信号として故障検出/停止部22に入力されている。これにより、スレーブ側の制御機では、他機からの主制御信号がハイレベルとなっているので、AND回路25により原動機故障判断部23の判断結果はマスクされる。
【0051】
このように、マスター側の制御機から主制御信号(ハイレベル)を受け取ったスレーブ側の制御機では、故障監視機能に対してマスクをかけることで、原動機の故障監視については、マスター側の制御機のみで行っている。
【0052】
このように、2台の制御機1,2を用いて二重化することで、従来からある制御ソフトウェアの資産を生かしたまま、これらの切り替えロジックのみ追加することにより、容易に制御の二重化が可能となる。
【0053】
したがって、低コストで制御系を二重化でき、システムの安全性を向上できる原動機制御装置を実現することができる。
【0054】
また、これらの切り替えロジックを追加したシステムであっても、勿論1台のみの制御機で何ら機能上の制限なく全ての機能を生かした制御を行うことが可能である。
【0055】
また、スレーブ側の制御機において、PID演算部11のフィードバック信号としてマスター側の制御機からのフィードバック信号を採用することにより、常に2つの制御機から出力される制御信号が同一となるようにでき、マスターとスレーブの切り替え時に原動機に速度変動を与える事なく切り替えることができる。
【0056】
また、マスター側の制御機の自機故障判断部21が自身の制御機能が故障であると判断したとき、マスターとして動作していた制御機を停止すると同時にスレーブとして動作していた制御機をマスターに切り替えることにより、マスターとして動作していて故障した制御機が原動機制御に悪影響を与えることなく、スレーブからマスターに切り替わった制御機により原動機の制御を正常に継続できる。
【0057】
また、上記原動機の制御に最も重要な回転速度を検出する回転速度センサは、制御機毎に設けて信頼性を高め、原動機の回転速度以外の運転情報を検出する複数の補助センサについては共用することによって、コストを低減することができる。
【0058】
また、マスター側の制御機の原動機故障判断部23が原動機が故障であると判断すると、2つの制御機1,2は夫々動作を停止する一方、スレーブ側の制御機では、原動機故障判断部23の判断結果を原動機に対する制御に用いないことによって、2つの制御機1,2の原動機の故障判断のタイミングがずれて2つの制御機で万一異なった故障判断を行っても、原動機制御に矛盾が生じるのを回避することができる。
【実施例1】
【0059】
図6はこの発明の原動機制御装置の実施例としてガスタービン制御装置のブロック図を示している。このガスタービン制御装置は、原動機の一例としてガスタービン30を制御する。
【0060】
上記ガスタービン制御装置は、図6に示すように、制御機の一例としての第1タービンコントローラ31と、制御機の一例としての第2タービンコントローラ32と、上記第1,第2タービンコントローラ31,32からの燃料指令値を表す制御信号を選択して出力する制御信号選択部の一例としての信号選択装置33と、上記信号選択装置33からの制御信号を受けて、燃料流量を制御するアクチュエータ34と、ガスタービン30からの運転情報を運転情報を検出する複数の補助センサ(図示せず)からの信号を、第1,第2タービンコントローラ31,32に出力するアイソレータ35とを備えている。上記アクチュエータ34は、第1,第2タービンコントローラ31,32にアクチュエータフィードバック信号を出力する。
【0061】
上記第1タービンコントローラ31には、ガスタービン30の回転速度を検出する第1の回転速度センサ(図示せず)からの回転速度を表す信号が入力される。また、上記第2タービンコントローラ32には、ガスタービン30の回転速度を検出する第2の回転速度センサ(図示せず)からの回転速度を表す信号が入力される。
【0062】
上記第1,第2タービンコントローラ31,32間でトランスファ信号(データ転送の信号に相当)およびコントローラ間信号(主制御信号に相当)を互いに送受信する。
【0063】
上記構成のガスタービン制御装置では、第1,第2タービンコントローラ31,32のいずれか電源投入の早いほうがマスターとなってガスタービン30を制御し、電源投入の遅い方がスレーブとなる。なお、運転開始時のマスターとスレーブの決定は、電源投入順序に限らず、2台の制御機のどちらか一方を設定手段を用いてマスターに設定するなどの他の方法により行ってもよい。
【0064】
上記実施例1では、原動機制御装置としてガスタービンを制御するガスタービン制御装置について説明したが、原動機はこれに限らず、ディーゼルエンジンなどを制御する原動機制御装置にこの発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1,2…制御機
3…信号分配器
4…信号選択器
11…PID演算部
12…減算部
13,14…切替部
21…自機故障判断部
22…故障検出/停止部
23…原動機故障判断部
24…インバータ
25…AND回路
30…ガスタービン
31…第1タービンコントローラ
32…第2タービンコントローラ
33…信号選択装置
34…アクチュエータ
35…アイソレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機からの回転速度を表す信号を受けて、上記原動機の回転速度を制御するための制御信号を夫々出力する2つの制御機と、
上記2つの制御機からの上記制御信号のうちの一方を選択して上記原動機に出力する制御信号選択部と
を備え、
上記2つの制御機のうちの一方が上記原動機を制御する主動作モードとなると共に、
上記2つの制御機のうちの他方が、上記主動作モードで動作する上記制御機の制御信号と略同一の制御信号を出力するように動作する従属動作モードとなり、
上記従属動作モードで動作する上記制御機は、上記制御信号から予め決められたオフセット値だけレベルを下げた信号を出力し、
上記制御信号選択部は、上記2つの制御機からの上記制御信号のうちのレベルが高い制御信号を選択して上記原動機に出力するようになっており、
上記2つの制御機は、上記主動作モードで動作する上記制御機が故障して停止したとき、上記従属動作モードで動作していた上記制御機が上記主動作モードに切り替えるようになっていることを特徴とする原動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原動機制御装置において、
上記2つの制御機は、上記原動機からの速度信号に基づくPID制御を行うためのPID演算部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記PID演算部は、そのPID演算部自身の出力をフィードバック信号として用いて演算を行う一方、
上記従属動作モードで動作する上記制御機の上記PID演算部は、上記主動作モードで動作する上記制御機からの上記フィードバック信号を用いて演算を行うことを特徴とする原動機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の原動機制御装置において、
上記2つの制御機は、制御機能が故障か否かを判断する故障判断部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記故障判断部が自身の制御機能が故障であると判断したとき、上記主動作モードで動作していた上記制御機を停止すると同時に上記従属動作モードで動作していた上記制御機を上記主動作モードに切り替えることを特徴とする原動機制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の原動機制御装置において、
上記2つの制御機の一方は、上記原動機の回転速度を検出する2つの回転速度センサの一方からの回転速度を表す信号が入力され、
上記2つの制御機の他方は、上記2つの回転速度センサの他方からの回転速度を表す信号が入力されると共に、
上記2つの制御機は、上記原動機の回転速度以外の運転情報を検出する複数の補助センサからの上記運転情報を表す信号が夫々入力されることを特徴とする原動機制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1つに記載の原動機制御装置において、
上記2つの制御機は、上記原動機からの少なくとも上記回転速度を表す信号に基づいて、上記原動機の故障を判断する原動機故障判断部を夫々有し、
上記主動作モードで動作する上記制御機の上記原動機故障判断部が上記原動機が故障であると判断すると、上記2つの制御機は夫々動作を停止する一方、
上記従属動作モードで動作する上記制御機の上記原動機故障判断部の判断結果は、上記原動機に対する制御に用いないことを特徴とする原動機制御装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−182251(P2010−182251A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27533(P2009−27533)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】