説明

原子発振器

【課題】磁気量子数mF=0におけるEIT信号のピーク値を高くした原子発振器を提供する。
【解決手段】本発明の原子発振器100は、アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるための第1の共鳴光、及び第2の共鳴光を発生する半導体レーザー(光源)1と、半導体レーザー1から発生した共鳴光1aを円偏光するλ/4波長板2と、アルカリ金属原子が封入された原子セル3と、原子セル3から出射した共鳴光3aの強度を検出する光検出手段5と、アルカリ金属原子に所定の強度の直流磁場を与える直流磁場発生手段4と、直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場をアルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段8と、光検出手段5から出力された共鳴光の中心波長を制御する中心波長制御手段9と、アルカリ金属原子にEIT現象を発現させるように、第1の共鳴光と第2の共鳴光との周波数差を制御する制御手段10と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関し、特に、ゼーマン分裂したEITスペクトルのS/Nを改善した原子発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるためには、周波数の異なる2つの共鳴光(周波数ω1、ω2)をアルカリ金属原子に照射する必要がある。EIT方式による原子発振器は、図6に示すように、第1基底準位33と第2基底準位34は準位のエネルギーが若干異なるため(ΔE12)、共鳴光もそれぞれ第1共鳴光31と第2共鳴光32の波長f1、f2が若干異なる。同時に照射される第1共鳴光31と第2共鳴光32の周波数差f1−f2(波長の差:ω1−ω2)が正確に第1基底準位33と第2基底準位34のエネルギー差ΔE12に一致すると、図6の系は2つの基底準位の重ね合わせ状態になり、励起準位30への励起が停止する(EIT現象と呼ぶ)。EITはこの原理を利用して、第1共鳴光31と第2共鳴光32のどちらか,または両方の波長を変化させたときに、ガスセルでの光吸収(つまり励起準位30への転換)が停止する状態を検出、利用する方式である。この現象を利用し、第1共鳴光31と第2共鳴光32との周波数差が第1基底準位33と第2基底準位34のエネルギー差(ΔE12)に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出、制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0003】
また、第1基底準位33と第2基底準位34のエネルギー差は外部磁気の強さやゆらぎで敏感に変化するので、EIT現象を利用して高感度な磁気センサーをつくることもできる。
尚、特許文献1のFIG5(図7(b))には、ソレノイドコイル114によってガスセル(アルカリ金属原子)115に100ミリガウス程度の弱い磁場(共鳴光に対して平行な磁場)を与える技術が開示されている。アルカリ金属原子に弱い磁場を与えると、Λ型3準位を構成する2つの基底準位と励起準位とがそれぞれエネルギーの異なる複数のエネルギー準位に分裂(ゼーマン分裂と呼ばれる。以下、分裂したエネルギー準位をゼーマン準位と言う)することが知られている。また、2つの基底準位(第1基底準位33と第2基底準位34)がそれぞれ複数のエネルギー準位にゼーマン分裂することで、第1基底準位33と第2基底準位34とのエネルギー差(周波数差)が変化するため、これに応じて原子発振器の出力周波数も変化することが知られている。
【0004】
ここで、複数に分裂したゼーマン準位のうちで、磁場の影響をほとんど受けない第1基底準位33と第2基底準位34、及び励起準位30(磁気量子数mF=0を有する第1基底準位33と第2基底準位34、及び磁気量子数mF=0を有する励起準位30)が存在することが知られている。
そこで、予め所定の強度の弱磁場をガスセル内のアルカリ金属原子に与えておくと、磁気量子数mF=0を有する第1基底準位33と第2基底準位34、及び磁気量子数mF=0を有する励起準位30からなる特定のΛ型3準位のみが電磁誘起透過現象を発現するように、原子発振器の出力周波数を制御することができる。これにより、原子発振器の出力周波数に対する磁場の影響を軽減できるとされている。
【0005】
一方、特許文献1のFIG3(図7(a))には半導体レーザーの出力光(直線偏光)をλ/4波長板で円偏光に変換して、アルカリ金属原子に照射する構成が開示されている。半導体レーザーの出力光(直線偏光)を円偏光に変換する理由は、前述した第1基底準位33と第2基底準位34が複数のゼーマン準位に分裂することに関係している。
例えば、半導体レーザーの出力光(直線偏光)を直接アルカリ金属原子に照射すると、直線偏光とアルカリ金属原子とが相互作用を起こし、アルカリ金属原子が磁気量子数mF=0を含め全てのゼーマン準位(基底準位)に均等に分散して存在するようになる。このことは、原子セル内部において磁気量子数mF=0の基底準位に存在するアルカリ金属原子の数が減少することを意味し、EIT現象を発現する原子数が減少することを意味する。
【0006】
そこで、アルカリ金属原子が磁気量子数mF=0の基底準位に存在する確率を高めるために、円偏光の光を照射してアルカリ金属原子と円偏光との間で相互作用を起こすようにしている。例えば、図8に示すように、セシウム原子に右円偏光の光を照射すると、右円偏光の光の照射を受けたアルカリ金属原子はF=4の基底準位(第2基底準位34)に対しては、9つの磁気量子数(mF=−4、−3、−2、−1、0、1、2、3、4)の中で5つの磁気量子数(mF=0、1、2、3、4)に偏って存在する確率が高くなる。(逆に左円偏光の光を照射すると、磁気量子数mF=0、−1、−2、−3、−4のいずれかに偏って存在する確率が高くなる。)
あるいは、セシウム原子に右円偏光の光を照射すると、右円偏光の光の照射を受けたアルカリ金属原子はF=3の基底準位(第1基底準位33)に対しては4つの磁気量子数(mF=0、1、2、3)に原子が偏って存在する確率が高くなる(逆に左円偏光の光を照射すると、磁気量子数mF=0、−1、−2、−3に偏って存在する確率が高くなる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】USP6320472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の説明により、それぞれの磁気量子数mFに対するアルカリ金属原子が存在する確率に偏りが生じることになる。(アルカリ金属原子がF=4の基底準位になっているか、或いはF=3の基底準位になっているかは確率的にほぼ同じである。)しかしながら、円偏光を照射しても、依然として磁気量子数mF=1,2,3,4といったmF=0以外の基底準位にアルカリ金属原子が存在することになり、これ以上EIT現象の発現確率を高めることができないといった問題点がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、磁気量子数mF=0以外の磁気量子数mFに存在するアルカリ金属原子の数をmF=0の基底準位に遷移させて、磁気量子数mF=0におけるEIT信号のピーク値を高くした原子発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]アルカリ金属原子が封入された原子セルと、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるための第1の共鳴光、及び第2の共鳴光を含んだ円偏光の光を発生する光源と、前記アルカリ金属原子に所定の強度の直流磁場を与える直流磁場発生手段と、前記直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場を前記アルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段と、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるように、前記第1の共鳴光と前記第2の共鳴光との周波数差を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
アルカリ金属原子に直流磁場を与えると、ゼーマン分裂を起こす。ゼーマン分裂されたEIT信号は、夫々の基底準位に配分されているために、mF=0の基底準位でのアルカリ金属原子が存在する確率が低くなり、EIT信号のレベルが低くなる。そこで、mF=0の基底準位でのアルカリ金属原子が存在する確率を高めるために、円偏光の光をアルカリ金属原子に照射する。その結果、例えば、右円偏光の光の照射を受けたアルカリ金属原子はF=4の基底準位(第2基底準位34)に対しては、9つの磁気量子数(mF=−4、−3、−2、−1、0、1、2、3、4)の中で5つの磁気量子数(mF=0、1、2、3、4)に偏って存在する確率が高くなる。或いは、F=3の基底準位(第1基底準位33)に対しては4つの磁気量子数(mF=0、1、2、3)に原子が偏って存在する確率が高くなる。しかし、この状態では、直線偏光に比べてmF=0でのEIT信号のレベルは高くなるが、それ以外のmFでのレベルも高いため、必ずしも効率よくmF=0でのEITレベルを高くできない。そこで本発明では、直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場をアルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段を備える。これにより、磁気量子数mF=0以外の磁気量子数mFに存在するアルカリ金属原子の数をmF=0の基底準位に遷移させて、磁気量子数mF=0におけるEIT信号のピーク値を高くすることができる。
【0012】
[適用例2]前記直流磁場の強度を検出する直流磁場検出手段を備え、前記交流磁場発生手段は、前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に基づき、所定の周波数の交流磁場を前記アルカリ金属原子に与えることを特徴とする。
【0013】
直流磁場をアルカリ金属原子に与えるとゼーマン分裂を起こす。そのとき、磁気量子数mFが互いに異なるエネルギー差ΔEと、そのエネルギー差に相当する周波数差ΔFを生じる。そして、直流磁場と、円偏光の共鳴光と、ΔFに等しい交流磁場を与えると、磁気量子数mF=+1のゼーマン準位にあったアルカリ金属原子は磁気量子数mF=0の状態へと遷移する。これにより、磁気量子数mF=0のゼーマン準位にあるアルカリ金属原子の数を多くすることができる。
【0014】
[適用例3]前記交流磁場発生手段は、前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に基づいて周波数制御信号を生成する周波数制御手段と、前記周波数制御信号に従い周波数が制御される電圧制御発振器と、前記電圧制御発振器の出力信号が入力されることにより前記交流磁場を発生するコイルと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
直流磁場は、直流電源からコイルに電流を流して生成する。しかし、電源電圧が変動するとコイルに流れる電流が変化するため、直流磁場の強度が変動する。交流磁場は直流磁場の強度に対応した周波数により磁場を発生する必要がある。そこで本発明では、直流磁場の強度を検出して、その強度に応じた制御信号を電圧制御発振器に与える。これにより、直流磁場の変動に追従して交流磁場の周波数を制御することができる。
【0016】
[適用例4]前記周波数制御手段は、前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に対応した周波数情報を記憶する記憶手段を備え、該記憶手段から読み出された周波数情報に基づいて前記周波数制御信号を生成することを特徴とする。
【0017】
直流磁場の強度と交流磁場の周波数の関係は、連続的に変化させても良いが、回路を簡略化するために、直流磁場の強度に対応する交流磁場の周波数情報をテーブルに記憶しておき、検出した直流磁場の強度に対応する周波数情報をテーブルから読み出して出力する。これにより、回路構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は量子数F=4のときの周波数差と磁場強度の関係を示す図、(b)は量子数F=3のときの周波数差と磁場強度の関係を示す図、(c)はゼーマン分裂したときの基底準位のエネルギーレベルを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は本発明の周波数制御手段の一実施形態を示すブロック図、(b)は直流磁場の強度と直流磁場検出電圧の関係を示す図、(c)は直流磁場検出電圧と制御電圧の関係を示す図、(d)は制御電圧と発振周波数の関係を示す図である。
【図5】本発明の周波数制御手段の他の実施形態を示すブロック図である。
【図6】EIT方式の原理を説明する図である。
【図7】(a)は特許文献1のFIG.3を説明する図、(b)は特許文献1のFIG.5を説明する図である。
【図8】Cs原子のエネルギー準位図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
本発明の特徴はアルカリ金属原子に強い直流磁場(約3ガウス)を与え、直流磁場の強度に応じた周波数の交流磁場をアルカリ金属原子に与えた構成にある。
【0020】
図1は、量子数F=4とF=3における周波数差と磁場強度の関係を示す図である。図1(a)は量子数F=4のときの周波数差と磁場強度の関係を示す図、図1(b)は量子数F=3のときの周波数差と磁場強度の関係を示す図、図1(c)はゼーマン分裂したときの基底準位のエネルギーレベルを示す図である。
例えば、図1(c)に示すセシウム原子の量子数F=3の基底準位(第1基底準位33)を例として説明すると、磁気量子数mF=−3、−2、−1、0、+1、+2、+3について、磁気量子数mFが互いに1だけ異なる基底準位のエネルギー差を、それぞれΔE(−3、−2)21、ΔE(−2、−1)22、ΔE(−1、0)23、ΔE(0、+1)24、ΔE(+1、+2)25、ΔE(+2、+3)26とし、それぞれのΔEに相当する周波数差をΔF(−3、−2)、ΔF(−2、−1)、ΔF(−1、0)、ΔF(0、+1)、ΔF(+1、+2)、ΔF(+2、+3)とすると、アルカリ金属原子に強い磁場をかけた場合、ΔFはそれぞれ互いに異なる値を有することに本発明者等は着目した(図1(b)の直線21〜26のそれぞれの間隔が異なる)。尚、アルカリ金属原子に弱い直流磁場をかけた場合は、それぞれのΔFはほぼ等しくなる。
【0021】
そこで、ΔFがそれぞれ異なった値を有する特徴を利用して、例えば、アルカリ金属原子に、共鳴光と平行な強い直流磁場と、右円偏光の共鳴光と、ΔF(0、+1)に等しい周波数の交流磁場とを与えると、磁気量子数mF=+1のゼーマン準位にあったアルカリ金属原子は磁気量子数mF=0の状態へと遷移することになる(図1(c)の矢印)。(2重共鳴法におけるマイクロ波照射と同じ考え)このとき、もともと磁気量子数mF=0のゼーマン準位にあったアルカリ金属原子はmF=−1のゼーマン準位に遷移しない。なぜならば、交流磁場をアルカリ金属原子に与えても、ΔF(0、+1)とΔF(−1、0)とは異なる値を有するため、mF=+1→0への遷移のみが生じ、mF=0→mF=−1への遷移は生じないからである。このようにして、F=3の基底準位(第1基底準位33)において、磁気量子数mF=0に存在する原子数を増やすことができ、EIT現象の発現確率を十分に高めることができる。
尚、mF=+1→0の遷移のみならず、mF=+2→0、mF=+3→0のいずれかの遷移が起こるように、交流磁場の周波数を制御しても良い。また、セシウム原子のF=4の基底準位についても、F=3の基底準位の例と同様である。
【0022】
図2は本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。本発明の原子発振器100は、アルカリ金属原子にEIT現象を発現させるための第1の共鳴光、及び第2の共鳴光を発生する半導体レーザー(光源)1と、半導体レーザー1から発生した共鳴光1aを円偏光するλ/4波長板2と、アルカリ金属原子が封入された原子セル3と、原子セル3から出射した共鳴光3aの強度を検出する光検出手段5と、アルカリ金属原子に所定の強度の直流磁場を与える直流磁場発生手段4と、直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場をアルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段8と、光検出手段5から出力された共鳴光の中心波長を制御する中心波長制御手段9と、アルカリ金属原子にEIT現象を発現させるように、第1の共鳴光と第2の共鳴光との周波数差を制御する制御手段10と、を備えて構成されている。尚、交流磁場発生手段8は、交流磁場の周波数を発振する発振器7と、発振器7の出力信号が入力されることにより交流磁場を発生するコイル6と、を備えている。
【0023】
アルカリ金属原子に直流磁場を与えると、ゼーマン分裂を起こす。ゼーマン分裂されたEIT信号は、夫々の基底準位に配分されているために、mF=0の基底準位でのアルカリ金属原子が存在する確率が低くなり、EIT信号のレベルが低くなる。そこで、mF=0の基底準位でのアルカリ金属原子の存在確率を高めるために、円偏光の光2aをアルカリ金属原子に照射する。その結果、例えば、右円偏光の光の照射を受けたアルカリ金属原子は量子数F=4の基底準位(第2基底準位34)に対しては、9つの磁気量子数(mF=−4、−3、−2、−1、0、1、2、3、4)の中で5つの磁気量子数(mF=0、1、2、3、4)に偏って存在する確率が高くなる。或いは、量子数F=3の基底準位(第1基底準位33)に対しては4つの磁気量子数(mF=0、1、2、3)に原子が偏って存在する確率が高くなる。
しかし、この状態では、直線偏光に比べてmF=0でのEIT信号のレベルは高くなるが、それ以外のmFでのレベルも高いため、必ずしも効率よくmF=0でのEITレベルを高くできない。そこで本実施形態では、直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場をアルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段8を備える。これにより、磁気量子数mF=0以外の磁気量子数mFに存在するアルカリ金属原子の数をmF=0の基底準位に遷移させて、磁気量子数mF=0におけるEIT信号のピーク値を高くすることができる。
【0024】
図3は本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。本発明の原子発振器110が図2と異なる点は、直流磁場発生手段4の直流磁場の強度を検出する直流磁場検出手段11と、交流磁場発生手段14に、直流磁場検出手段11が検出した直流磁場の強度に基づいて周波数制御信号を生成する周波数制御手段12と、周波数制御信号に従い周波数が制御される電圧制御発振器13と、を更に備えたところである。
直流磁場をアルカリ金属原子に与えるとゼーマン分裂を起こすことは前記したが、そのとき、磁気量子数mFが互いに異なるエネルギー差ΔEと、そのエネルギー差に相当する周波数差ΔFを生じる。そして、直流磁場と、円偏光の共鳴光2aと、ΔFに等しい交流磁場を与えると、磁気量子数mF=+1のゼーマン準位にあったアルカリ金属原子は磁気量子数mF=0の状態へと遷移する。これにより、磁気量子数mF=0のゼーマン準位にあるアルカリ金属原子の数を更に多くすることができる。
また、直流磁場は、直流電源からコイルに電流を流して生成する。しかし、電源電圧が変動するとコイルに流れる電流が変化するため、直流磁場の強度が変動する。交流磁場は直流磁場の強度に対応した周波数により磁場を発生する必要がある。そこで本実施形態では、直流磁場の強度を検出して、その強度に応じた制御信号を電圧制御発振器13に与える。これにより、直流磁場の変動に追従して交流磁場の周波数を制御することができる。
【0025】
図4(a)は本発明の周波数制御手段の一実施形態を示すブロック図である。例えば、本実施形態の周波数制御手段12は、増幅器12aと、増幅器12aの出力を反転入力にフィードバックさせる可変抵抗器R2と、反転入力を接地する抵抗器R1と、を備え、抵抗器R1とR2の比により増幅率を決定する。直流磁場検出手段11は、検出した磁場の強度に対応する検出電圧を出力する(図4(b))。その検出電圧を周波数制御手段12の増幅器12aの非反転入力で受信し、抵抗R1とR2の比で決まる増幅率により磁場の強度を制御電圧に変換して電圧制御発振器13に出力する(図4(c))。電圧制御発振器13は、制御電圧に対応した発振周波数で電圧制御発振器13を発振させる(図4(d))。
【0026】
図5は本発明の周波数制御手段の他の実施形態を示すブロック図である。例えば、周波数制御手段12は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器12aと、直流磁場の強度の検出電圧に対応した周波数値の制御電圧を記憶する不揮発性メモリ12bと、不揮発性メモリ12bから読み出された制御電圧のデジタル値をアナログ電圧に変換するD/A変換器12cと、を備えている。
直流磁場検出手段11により検出された磁場の強度に対応する検出電圧をA/D変換器12aでデジタル信号に変換し、この検出電圧に対応する不揮発性メモリ12bに記憶されたデジタル電圧値を読み出す。そのデジタル電圧値はD/A変換器12cによりアナログ値に変換されて電圧制御発振器13に出力する。電圧制御発振器13は、アナログ値に変換された制御電圧に対応した発振周波数で電圧制御発振器13を発振させる。
【符号の説明】
【0027】
1 半導体レーザー、2 λ/4波長板、3 原子セル、4 直流磁場発生手段、5 光検出手段、6 コイル、7 発振器、8 交流磁場発生手段、9 中心波長制御手段、10 制御手段、11 直流磁場検出手段、12 周波数制御手段、13 電圧制御発振器、14 交流磁場発生手段、30 励起準位、31 第1共鳴光、32 第2共鳴光、33 第1基底準位、34 第2基底準位、100、110 原子発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子が封入された原子セルと、
前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるための第1の共鳴光、及び第2の共鳴光を含んだ円偏光の光を発生する光源と、
前記アルカリ金属原子に所定の強度の直流磁場を与える直流磁場発生手段と、
前記直流磁場の強度に応じた所定の周波数の交流磁場を前記アルカリ金属原子に与える交流磁場発生手段と、
前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を発現させるように、前記第1の共鳴光と前記第2の共鳴光との周波数差を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
前記直流磁場の強度を検出する直流磁場検出手段を備え、
前記交流磁場発生手段は、前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に基づき、所定の周波数の交流磁場を前記アルカリ金属原子に与えることを特徴とする請求項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記交流磁場発生手段は、
前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に基づいて周波数制御信号を生成する周波数制御手段と、
前記周波数制御信号に従い周波数が制御される電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器の出力信号が入力されることにより前記交流磁場を発生するコイルと、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の原子発振器。
【請求項4】
前記周波数制御手段は、
前記直流磁場検出手段が検出した前記直流磁場の強度に対応した周波数情報を記憶する記憶手段を備え、該記憶手段から読み出された周波数情報に基づいて前記周波数制御信号を生成することを特徴とする請求項3に記載の原子発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−98606(P2013−98606A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236927(P2011−236927)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】