説明

反射低減窓ガラスの製造方法

本発明は、a)窓ガラスをエッチングし、b)エッチングされた窓ガラスを500℃から800℃の温度に加熱し、およびc)加熱されエッチングされた窓ガラスを、冷風ジェットを使用して30秒から150秒以内に25℃から70℃の温度に冷却する、反射低減窓ガラス(3)を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射低減窓ガラスの製造方法、本発明による方法を使用して製造される窓ガラスおよびこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの窓ガラスは、多くの場合に所望される高い光透明性に加え、強い光反射も有する。光が異なる屈折率を有する媒体間の界面に衝突すると、入射光の一部が反射される。光源、波長および入射角に応じて、これらの反射は顕著であり得る。例えば、建造物または先行車両上での日光の反射は、他の道路使用者の目をくらませ得る。光反射はまた、光電池の表面上で光量を低減させるので、通常、光起電においては望ましくない。光量の低減により、太陽電池の効率も多くの場合において低減される。
【0003】
基本的には、窓ガラスの反射を低減させるために多くの方法が実務上適用される。窓ガラスの反射低減は、多くの場合、多孔性の構造化層をガラス表面上に作出することを基礎とする。この多孔性構造化層は、適切な酸または塩基によるエッチングにより作出することができる。別の可能性は、例えば、ゾルゲル法におけるガラス表面上でのSiOの堆積による多孔性SiO層の作出である。原則として、エッチングおよび堆積の2種の方法の組合せも可能である。
【0004】
反射低減方法は、ガラスの機械的安定性のため、通常、焼戻しおよび曲げの方法後まで可能ではない。従って、通常、受注生産される窓ガラスセグメントおよび結果的に限定数の窓ガラスを同時にエッチングすることができるにすぎない。
【0005】
US2,486,431 Aは、低グレアガラス表面の作出方法を開示している。ガラス表面は、HSiF溶液によりエッチングされる。エッチング方法の継続時間に応じて、ガラス表面は、種々の程度で除去され、こうして、表面の光学特性が適合され、変えられる。
【0006】
DE822714 Bは、ガラス物体表面上の反射低減皮膜の製造方法を開示している。このため、ガラス物体は、HSiFおよびコロイド分散SiOの溶液中に浸漬される。FおよびSiOの濃度に応じて、窓ガラスの表面が除去(エッチング)および/または積層される。
【0007】
US4,019,884 Aは、ガラス基板上の反射低減層の製造方法を開示している。この方法は、630℃から660℃の温度における加熱を含む。次いで、ガラスが水性フッ化水素酸中でエッチングされる。
【0008】
DE19642419 A1は、反射防止コーティングの製造方法を開示している。この方法においては、有機ケイ素化合物がゾルゲル法においてガラス表面に塗布される。好ましくは、親水性のコロイド分散ポリマーまたは溶媒が触媒として添加される。
【0009】
DE19918811 A1は、汚れ防止の多孔性SiO反射防止層を有する強化安全ガラスを開示している。この安全ガラスの製造は、第1の工程においてガラスをコロイド分散溶液によりコーティングすることにより実施される。コーティングされた窓ガラスのガラスは、少なくとも600℃に加熱され、次いで熱的に急冷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2486431号明細書
【特許文献2】独国特許発明第822714号明細書
【特許文献3】米国特許第4019884号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第19642419号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第19918811号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、焼戻し方法前に広面積窓ガラスの時間およびコスト効率の良いエッチングを可能とする、窓ガラスをエッチングおよび焼戻しする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、独立請求項1、7および14に記載の反射低減窓ガラスを製造する方法、該方法により得られる窓ガラスおよびこの使用により、本発明により達せられる。好ましい実施形態は、下位請求項から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による反射低減窓ガラス(3)の横断面図である。
【図2】本発明による窓ガラス(3)の窓ガラスの表面(1)の飛行時間型二次イオン質量スペクトル(ToF−SIMS)(CsF+/フッ素)である。
【図3】比較例の窓ガラス(3)の窓ガラスの表面(1)の飛行時間型二次イオン質量スペクトル(ToF−SIMS)(CsF+/フッ素)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
反射低減窓ガラスを製造する方法は、第1の工程において窓ガラスのエッチングを含む。窓ガラスは、好ましくは、ガラス、特に好ましくは、板ガラス(フロートガラス)、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスおよび/またはソーダ石灰ガラスを含有する。
【0015】
本発明に関し、「エッチング」は、酸と塩基性溶液の両方による窓ガラスの表面の処理を含む。これら2種の工程は、任意の順序において次々に行うこともできる。エッチング後または異なるエッチング溶液の場合において、窓ガラスは、好ましくは、脱イオン水により洗浄および/または清浄する。窓ガラスの全ての(複数の)領域および窓ガラスの一領域のみをエッチングすることができる。
【0016】
次いで、エッチングされた窓ガラスを500℃から800℃の温度に加熱する。加熱に続き、加熱されエッチングされた窓ガラスの急速冷却(急冷)を行う。この方法において、窓ガラスの表面はコア部よりも早く冷え、従って張力がガラス中に生じる。この張力により、ガラスの安定性および強度が増加する。加熱および急速冷却が本発明による方法の焼戻し方法を一緒に構成する。窓ガラスは、冷風ジェットにより30秒から150秒以内に好ましくは、25℃から70℃、特に好ましくは、35℃から50℃の温度に冷却する。
【0017】
エッチングは、好ましくは、酸および/または塩基の溶液を窓ガラスの表面上に塗布および/または噴霧することにより行う。
【0018】
エッチングは、好ましくは、窓ガラスを酸および/または塩基の溶液中に浸漬させることにより行う。
【0019】
窓ガラスは、好ましくは、HF、HSiF、(SiOnHO(m、n=0、1、2、3、…)、HCl、HSO、HPO、HNO、CFCOOH、CClCOOH、HCOOH、CHCOOH、NaOH、KOH、Ca(OH)および/またはこれらの混合物によりエッチングする。
【0020】
窓ガラスは、好ましくは、第1の工程において、HFまたはNaOH溶液により処理する。次いで、窓ガラスを脱イオン水により1回または複数回洗浄する。窓ガラスの実用的なエッチングは、好ましくは、HSiFおよび(SiOnHOの溶液により行う。コロイド分散(SiOnHOの濃度は、好ましくは、(SiOnHO飽和濃度よりも3mmolほども高い。このことに関するより詳細な説明は、内容が本出願の一部であるDE822714Bに見出される。
【0021】
エッチングされた窓ガラスは、好ましくは、550℃から650℃に加熱する。
【0022】
加熱されエッチングされた窓ガラスは、好ましくは、50秒から90秒以内に冷却する。冷却は、好ましくは、冷風ジェットにより行う。
【0023】
本発明はさらに、本発明による方法により製造される反射低減窓ガラスを含む。窓ガラスは、少なくとも1つの窓ガラス本体および少なくとも1つの反射低減窓ガラス表面を含む。
【0024】
窓ガラスの表面は、好ましくは、>80%、好ましくは、>90%の透過率(DIN−EN 410:1998によるエネルギー透過率として)を有する。
【0025】
窓ガラスの表面は、好ましくは、1.20から1.45、特に好ましくは、1.25から1.40の屈折率を有する。
【0026】
窓ガラスの表面の層厚は、好ましくは、10nmから1000nm、特に好ましくは、50nmから200nmである。
【0027】
窓ガラスの表面は、HF、HSiF、(SiOnHO、HCl、HSO、HPO、HNO、CFCOOH、CClCOOH、HCOOH、CHCOOH、NaOH、KOH、Ca(OH)および/またはこれらの混合物を含有する。
【0028】
窓ガラスの本体は、好ましくは、>80%、好ましくは、>90%の透過率を有する。
【0029】
窓ガラスの本体は、好ましくは、>0.5m、好ましくは、>5m、特に好ましくは、>19mの面積を有する。
【0030】
本発明はさらに、反射低減窓ガラスとしての、本発明による窓ガラスの使用を含む。
【0031】
本発明による窓ガラスは、好ましくは、建造物ガラス、自動車透明板ガラスおよび/または光起電性透明板ガラスとして使用される。
【0032】
以下、本発明を、図面ならびに一実施形態および一比較例を参照して詳細に説明する。図面は、純粋に図式的な描写であり、縮尺に合致するものではない。図面は、本発明を限定するものではない。
【0033】
本発明の例示的実施形態を図面に示し、以下に詳細を説明する。
【0034】
図1は、本発明による反射低減窓ガラス(3)の横断面図を示す。この窓ガラスは、透明窓ガラス本体(2)および反射低減窓ガラス表面(1)を含む。
【0035】
図2は、本発明による窓ガラス(3)(実施例1)の窓ガラス表面(1)の飛行時間型二次イオン質量スペクトル(ToF−SIMS)を示す。窓ガラス表面(1)中にCsとして結合しているフッ素が検出された。本発明による窓ガラス(3)の場合における0nmから150nmの窓ガラス表面の範囲内の相対強度の最大値は、好ましくは、(他の点では同一である。)焼戻しされ、続いてエッチングされた窓ガラス(図3)の場合よりも少なくとも5倍だけ高い。窓ガラス表面(1)は経時的に除去され(スパッタ時間(s))、放出されたイオンが検出される。
【0036】
図3は、対照窓ガラス(比較例2)の窓ガラス表面(1)の飛行時間型二次イオン質量スペクトル(ToF−SIMS)を示す。窓ガラス表面(1)中にCsとして結合しているフッ素が検出された。実験条件は、図2と同一である。
【0037】
参照符号は、以下のものを意味する:
(1)窓ガラス表面、
(2)窓ガラス本体、
(3)窓ガラス。
【0038】
以下、本発明を、本発明による方法の実施例および比較例を参照して詳細に説明する。
【0039】
2種の一連の実験において、ソーダ石灰ガラス製の本発明による窓ガラス(実施例1)および対照窓ガラス(比較例2)の窓ガラス表面(1)の相対フッ素濃度を比較した。本発明に関し、表現「相対フッ素濃度」は、ToF−SIMS実験におけるCsシグナルの強度を指す。シグナル強度に基づき、本発明による窓ガラス(3)(実施例1)の窓ガラス表面(1)中および対照窓ガラス(3)(比較例2)中のフッ素の相対濃度比に関する記述をなすことが可能である。
【実施例】
【0040】
(a)(本発明による)実施例1
窓ガラスを、HF溶液(2重量%)によりプレエッチングし、脱イオン水により洗浄し、HSiF(1.2mol/L)により浸漬浴中で30分から120分間エッチングした。次いで、窓ガラスを脱イオン水により洗浄し、乾燥させた。第2の工程において、窓ガラスを600℃に加熱し、冷風ジェット中で70秒以内に冷却した(焼戻し)。
【0041】
後続のCsシグナルの分析および検出のため、ION−TOF(Tascon)GmbH社(48149 Munster,Germany)のIONTOF「TOF.SIMS 5」を使用した。スパッタリングのため、1keVのCsイオンビーム、100nAの電流を300×300μmの試料面積上に使用した。分析を100×100μmの面積上で25keVのBiイオンビームおよび0.5pAの電流を用いて実施した。極性は陽性であった。得られたスペクトルを図2に示す。
【0042】
(b)比較例2
対照窓ガラス(3)は、対照窓ガラスをエッチング前に約600℃において焼戻し、冷風ジェット中で約70秒以内に冷却するという点で本発明による実施例1と異なる。次いで、エッチングを実施例1と同一の条件下で実施した。
【0043】
後続のCsシグナルの分析および検出のため、ION−TOF(Tascon)GmbH社(48149 Munster,Germany)のIONTOF「TOF.SIMS 5」を使用した。スパッタリングのため、1keVのCsイオンビーム、100nAの電流を300×300μmの試料面積上に使用した。分析を100×100μmの面積上で25keVのBiイオンビームおよび0.5pAの電流を用いて実施した。極性は陽性であった。得られたスペクトルは図3において確認することができる。
【0044】
本発明による実施例1および比較例2の相対強度の最大値の比較は、表1に見出される。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、本発明による実施例1におけるフッ素についてのシグナル強度が比較例2よりも10倍だけ高いことを示す。従って、本発明による方法により製造された窓ガラス(3)(実施例1)の窓ガラス表面(1)上に、同一の基礎材料から従来技術により製造された対照窓ガラス(3)(比較例2)よりも高い比率のフッ素が、エッチング方法により結合される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.窓ガラスをエッチングし、
b.エッチングされた窓ガラスを500℃から800℃の温度に加熱し、および
c.加熱されエッチングされた窓ガラスを、冷風ジェットにより30秒から150秒以内に25℃から70℃の温度に冷却する、
反射低減窓ガラス(3)を製造する方法。
【請求項2】
窓ガラス表面(1)を、酸および/または塩基の溶液上に塗布および/または噴霧することによりエッチングする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
窓ガラス(3)を、酸および/または塩基の溶液中に浸漬させることよりエッチングする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
窓ガラスを、HF、HSiF、(SiOnHO、HCl、HSO、HPO、HNO、CFCOOH、CClCOOH、HCOOH、CHCOOH、NaOH、KOH、Ca(OH)および/またはこれらの混合物によりエッチングする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
エッチングされた窓ガラスを、550℃から650℃に加熱する、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
加熱されエッチングされた窓ガラスを、50秒から90秒以内に冷却する、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6の一項に記載の方法を介して得ることができる、少なくとも1つの窓ガラス表面(1)を有する窓ガラス本体(2)を含む窓ガラス(3)。
【請求項8】
窓ガラス表面(1)が、>80%、好ましくは、>90%の透過率を有する、請求項7に記載の窓ガラス(3)。
【請求項9】
窓ガラス表面(1)が、1.20から1.45、特に好ましくは、1.25から1.40の屈折率を有する、請求項7または8に記載の窓ガラス(3)。
【請求項10】
窓ガラス表面(1)の層厚が、10nmから1000nm、好ましくは、50nmから200nmである、請求項7から9の一項に記載の窓ガラス(3)。
【請求項11】
窓ガラス表面(1)が、HF、HSiF、(SiOnHO、HCl、HSO、HPO、HNO、CFCOOH、CClCOOH、HCOOH、CHCOOH、NaOH、KOH、Ca(OH)および/またはこれらの混合物を含有する、請求項7から10の一項に記載の窓ガラス(3)。
【請求項12】
窓ガラス本体(2)が、>80%、好ましくは、>90%の透過率を有する、請求項7から11の一項に記載の窓ガラス(3)。
【請求項13】
窓ガラス本体(2)が、>0.5m、好ましくは、>5m、特に好ましくは、>19mの面積を有する、請求項7から12の一項に記載の窓ガラス(3)。
【請求項14】
反射低減窓ガラスとしての、請求項7から13の一項に記載の窓ガラス(3)の使用。
【請求項15】
建造物ガラス、自動車透明板ガラスおよび/または光起電性透明板ガラスとしての、請求項14に記載の窓ガラス(3)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−526719(P2012−526719A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510268(P2012−510268)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056433
【国際公開番号】WO2010/130722
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】