説明

反射防止フィルム、及び紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液

【課題】 最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム、およびその低屈折率層を形成する材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液であって、詳しくは、塗液から溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成する際に起こる白化現象が起こりにくい塗液を提供すること。
【解決手段】 低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を、フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーと、粒子径が100nm以下の中空又は多孔質シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を、0.1〜20.0質量%の、沸点が水より高く、表面張力が35dyn/cm(25℃)以下である、親水性の白化防止溶媒と主溶媒とを含有する混合溶媒に、溶解又は分散させて調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム、およびその低屈折率層を形成する材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液に関するものであり、詳しくは、塗液から溶媒を蒸発させるときに起こる白化現象の抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、プラズマ表示装置(PDP)、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)、および陰極管表示装置(CRT)などの画像表示装置では、多くの場合、画像表示部の使用者側最表面に、データを表示する光以外の光が表示画面で反射されて使用者の目に届くのを防止するための反射防止層が設けられている。反射防止層は、外光の映り込みを防止して画面を見やすくしたり、コンストラストを上げて表示画質を向上させたりするために設けられる。
【0003】
表示画面に反射防止層を設ける方法として、透明基材フィルムの表面に反射防止層が設けられた反射防止フィルムを貼り合わせる方法が一般的である。反射防止フィルムの構成としては、透明基材フィルム上に、その透明基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を設けたものや、透明基材フィルム上にその透明基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層を設け、さらにその上に透明基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を設けたものがある。これらの反射防止フィルムにおいて、低屈折率層の屈折率が小さいほど、また、高屈折率層の屈折率が大きいほど、反射率が小さくなるので、低屈折率層の屈折率は小さいほどよい。
【0004】
このような低屈折率層を形成する材料として、バインダー樹脂中にその樹脂よりも屈折率の小さい超微粒子を分散させた樹脂組成物が提案されている。例えば、後述の特許文献1には、低屈折率超微粒子としてLiF(屈折率1.4)、MgF2(屈折率1.4)、3NaAlF4(屈折率1.4)、AlF3(屈折率1.4)、Na3AlF6(氷晶石、屈折率1.33)、SiOX(x:1.50≦x≦2.00、屈折率1.35〜1.48)などからなる微粒子が挙げられている。
【0005】
バインダー樹脂中に超微粒子を分散させて屈折率を制御する方法は、樹脂組成物の屈折率の制御が容易であるという利点がある。しかし、一般に、超微粒子をバインダー樹脂中に均一に分散させることは困難である。そのため、このような樹脂組成物を用いて形成された反射防止フィルムは白化を起こしやすいという欠点があり、透明性に優れ、かつ反射防止性能に優れた反射防止フィルムを得ることは困難であった。
【0006】
そこで、後述の特許文献1には、透明基材フィルム上に、直接或いは他の層を介して、少なくとも1層は超微粒子を含む樹脂組成物からなる屈折率の制御された樹脂層が形成されており、最表面に形成された層は、その層が直接接する下層の屈折率よりも低屈折率であり、前記樹脂組成物は、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートをバインダー樹脂成分の一部乃至全部として含有することを特徴とする超微粒子含有反射防止フィルムが提案されている。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのいずれかを意味するものとする。
【0007】
特許文献1によると、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートは、超微粒子を分散性よく含有することができる。また、同一分子中にカルボキシル基を有するためと推定されるが、各種プラスチック基材に対する密着性が良好となり、且つ耐摩耗性に優れたバインダー樹脂が得られる。そして、分子内にヒドロキシ基及び3個以上のアクリロイル基を有する多官能アクリレートと混合しても、アクリロイル基密度が低下することがない。この結果、得られた超微粒子含有反射防止フィルムは、白化が抑えられて透明性が優れており、ヘイズ値が小さく、反射率が低い。また、鉛筆硬度、耐摩耗性などのハード性能や、層間の密着性にも優れている。なお、樹脂材料組成物の粘度の調整などのために溶剤が適宜用いられる。その溶剤としては、芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、およびエーテルエステル類などが挙げられ、これらを混合使用することもできる。
【0008】
また、後述の特許文献2には、光透過性基材上に、少なくとも屈折率が1.45以下の低屈折率層が設けられてなる反射防止積層体であって、
前記低屈折率層が、電離放射線硬化型樹脂組成物と、外殻層を有し、内部が多孔質ま たは空洞であるシリカ微粒子とを含んでなり、
前記シリカ微粒子の一部もしくは全部が、電離放射線硬化性基を有するシランカップ リング剤により、そのシリカ微粒子表面の少なくとも一部が処理されてなる、
反射防止積層体が提案されている。
【0009】
この際、前記電離放射線硬化性基が、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基であるのがよく、また、前記シリカ微粒子が、表面に導入されたシランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して、前記電離放射線硬化型樹脂組成物と直接および/または遊離シランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して化学反応により共有結合を形成することで、前記反射防止積層体が形成されているのがよいとされている。
【0010】
特許文献2には、次のように説明されている。
【0011】
前記内部が多孔質または空洞であるシリカ微粒子は、空気で占められた空隙を有しているので、屈折率が小さい。このため、シリカ微粒子の添加によって、塗膜の屈折率を効果的に低下させることができる。しかも、前記シリカ微粒子の表面の少なくとも一部に、電離放射線硬化性基を有するシランカップリング剤が導入されているので、バインダー成分との親和性が向上し、塗工液や塗膜中へのシリカ微粒子の均一分散が可能となる。この際、シランカップリング剤の電離放射線硬化性基は、バインダー成分の前記電離放射線硬化性基と直接、および/または遊離シランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して、化学反応により共有結合を形成するため、シリカ微粒子がバインダー成分の架橋剤となり、樹脂組成物に対するシリカ微粒子の量を非常に多くした場合でも、塗膜の硬度および強度の著しい低下を避けることができ、屈折率が低くかつ機械強度に優れる低屈折率層を実現できる。
【0012】
低屈折率層を形成する固形成分を溶解分散させるために用いる溶剤は、特に制限されず、種々の有機溶剤、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、あるいはこれらの混合物を用いることができる。ただし、ケトン系溶剤を用いて塗工液を調製すると、基材表面に容易に薄く均一に塗布することができ、かつ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な薄さの大面積塗膜を容易に得ることができるので好ましい。
【0013】
また、後述の特許文献3には、光透過性の基材フィルムの少なくとも一面側に、直接あるいは他の層を介して、表面の算術平均粗さRaが1nm以上、2nm未満の低屈折率層が形成され、該積層体としてのヘイズが0.4以下である反射防止フィルムであって、
該低屈折率層には、中空シリカ微粒子或いは多孔質シリカ微粒子が含まれ、
該低屈折率層を形成するための樹脂組成物には、水系有機溶剤が50%以上の比率の 有機溶剤、バインダー樹脂、中空シリカ微粒子或いは多孔質シリカ微粒子が含まれてい る
ことを特徴とする反射防止フィルムが提案されている。
【0014】
特許文献3には、次のように説明されている。
【0015】
水系有機溶剤が50%以上の比率の有機溶剤が含有されている塗布組成物が使用されると、低屈折率層の透明性が優れる理由は、恐らく、該有機溶剤が多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の表面に存在するヒドロキシ基との親和性がよく、該有機溶剤が多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の分散性を向上させ、その結果、塗膜の表面に多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の凹凸が形成されにくくなるためである。
【0016】
水系有機溶剤としてはメタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールが使用でき、特に1−ブタノールが好ましい。1−ブタノールを用いた場合、他の水系有機溶剤を用いる場合に比べて塗膜の乾燥時間が長くなるため、塗膜の形成がゆっくりと行われ、レベリング効果によって、多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子が塗膜中でより均一に分散するため、塗膜表面が滑らかになるためである。水系有機溶剤以外の有機溶剤であって、有機溶剤のうちの50%未満含有してもよい有機溶剤としては、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0017】
また、後述の特許文献4には、成膜性を有し、重合性二重結合をもつ含フッ素化合物と、水熱処理が施されると共に、重合性二重結合を有するシランカップリング剤により変性され、中空部の空隙率が40〜45%であり、平均粒子径が10〜100nmの変性中空シリカ微粒子とを含有し、前記含フッ素化合物及び変性中空シリカ微粒子の合計量中における含フッ素化合物の含有量が40〜80質量%で、変性中空シリカ微粒子の含有量が60〜20質量%であることを特徴とする含フッ素硬化性塗液が提案されている。
【0018】
特許文献4によると、含フッ素硬化性塗液では、含フッ素化合物を40〜80質量%含有していることから、屈折率を下げ、反射率を抑えることができる。また、変性中空シリカ微粒子は、水熱処理が施されているので外殻が緻密化され、硬化皮膜表面に水分が吸着され難くなる。さらに、変性中空シリカ微粒子は重合性二重結合を有するシランカップリング剤により変性されているため、シランカップリング剤の重合性二重結合と含フッ素化合物の重合性二重結合とが共重合することにより、中空シリカ微粒子が含フッ素化合物に一体的に結合し、硬化皮膜の強度及び硬度を向上させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1〜特許文献3では、低屈折率層を形成する樹脂材料にフッ素が含まれていないことから、低屈折率層の屈折率を十分小さくすることができない。特許文献2では、低屈折率層に電離放射線硬化型樹脂組成物およびシリカ微粒子に相溶性を有するフッ素系化合物を含ませることができると記載されているが、その含有量は0.01〜10質量%と少量であるため、フッ素含有に基づく屈折率低減効果は十分ではない。
【0020】
一方、本発明者が検討したところ、フッ素含有樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を、トルエン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールなどの一般的な有機溶媒に溶解または分散させた塗液では、溶媒を蒸発させて得られる紫外線硬化性樹脂材料層において白化が生じ、透明性の高い低屈折率層が得られないことがあることが判明した。この白化現象は、大気の相対湿度が40%以上であるときに顕著に現れる。白化は、ハジキ、および塗膜表面の凹凸によるものであり、白化が起こると、紫外線硬化性樹脂組成物の本来の光学特性、耐擦傷性、および防汚性などが損なわれる。特許文献4には、このような白化現象について言及されていない。
【0021】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム、およびその低屈折率層を形成する材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液であって、詳しくは、塗液から溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成する際に起こる白化現象が起こりにくい塗液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
即ち、本発明は、フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーと、粒子径が100nm以下の中空又は多孔質シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を、
80.0〜99.9質量%の主溶媒と、
20.0〜0.1質量%の、沸点が水より高く、表面張力が35dyn/cm(25 ℃)以下である、親水性の白化防止溶媒と
を含有する混合溶媒に、溶解又は分散させてなる、紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液に係わる。なお、混乱を避けるため、硬化処理前のモノマー及び/又はオリゴマーを含む組成物を樹脂材料組成物と呼び、硬化処理後の重合体を樹脂組成物と呼ぶことにする。
【0023】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液の層が、基材フィルムに直接、又は機能層を介して被着され、この塗液層から前記混合溶媒が蒸発した後、得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物層が硬化することによって、前記基材フィルムの最表面に低屈折率層が形成されてなる、反射防止フィルムに係わるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明者が鋭意検討した結果、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を透明基材に直接、又は機能層を介して被着させ、この塗液層から前記混合溶媒を蒸発させた後、得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、透明基材の最表面に低屈折率層を形成すると、白化現象が起こりにくく、後述の実施例で示すように、光学特性、耐擦傷性、および防汚特性に優れた低屈折率層が得られることが判明した。
【0025】
従来の塗液層から溶媒を蒸発させたときに起こる白化現象の原因、および本発明の特徴である前記混合溶媒を用いると白化現象が起こりにくくなる仕組みが完全に解明されたとは言えない。しかし、大気における相対湿度が40%以上であるときにこの白化現象が顕著であることから、白化現象に大気中の水分が関係していることは間違いない。そこで、下記のように考えられる。
【0026】
塗液層から溶媒が蒸発する過程では、溶媒蒸気は周囲の大気と複雑に混ざり合いながら拡散していくので、この過程で溶媒蒸気の流れに巻き込まれた空気中の水分の一部が塗液層に接触する。水分は、フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、および極性の小さい溶媒と親和しない。このため、極性の小さい溶媒を単独で用いた場合には、水分は中空又は多孔質シリカ微粒子の表面に付着し、白化の原因になる。極性の大きい溶媒を単独で用いた場合には、水分はこの溶媒と親和して、一旦、溶媒中に取り込まれる。しかし、この溶媒が蒸発していくと、取り残された水分は中空又は多孔質シリカ微粒子の表面に付着し、白化の原因になる。
【0027】
これに対し、本発明では、親水性の前記白化防止溶媒を含む前記混合溶媒を用いている。このため、水分は少なくとも前記白化防止溶媒と親和して、一旦、前記混合溶媒中に取り込まれる。前記塗液層からの前記混合溶媒の蒸発が進行していくと、前記白化防止溶媒の沸点は水より高く、前記白化防止溶媒の方が水より蒸発しにくいため、前記混合溶媒中に取り込まれていた水分は前記白化防止溶媒よりも早く蒸発し、再び大気中に戻される。前記白化防止溶媒の表面張力が35dyn/cm(25℃)以下と小さいため、この間、前記白化防止溶媒は前記中空又は多孔質シリカ微粒子の表面を濡らしにくく、前記混合溶媒中に取り込まれた水分が前記中空又は多孔質シリカ微粒子の表面に接触することも少ない。以上の結果、前記中空又は多孔質シリカ微粒子の表面に水分が付着して白化の原因になることが少なく、白化現象が防止される。
【0028】
上記の前記白化防止溶媒の作用が有効であるためには、前記白化防止溶媒の配合量は、前記混合溶媒の0.1質量%以上であることが必要である。もともと低湿度の条件下では白化が起こりにくいので、0.1質量%程度の配合量でも効果がある。一方、前記白化防止溶媒は白化現象の防止には有効であっても、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の溶媒としての性能は前記主溶媒に比べて劣る点がある。例えば、白化防止溶媒は沸点が高いため、配合量が多すぎると、溶媒の蒸発に要する時間が長くなり、あるいは蒸発に要する温度が高くなるので、生産効率が低下する。また、前記低屈折率層に白化防止溶媒が残留して、前記低屈折率層の硬度が低下し、耐擦傷性が劣化することが起こりやすくなる。従って、前記白化防止溶媒の配合量は、前記混合溶媒の20.0質量%以下であるのがよい。まとめると、前記白化防止溶媒の配合量は、前記混合溶媒の0.1〜20.0質量%であるのがよい。
【0029】
上記のように、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を用いて前記低屈折率層を形成すれば、白化現象が起こらず、ヘイズが小さく、耐擦傷性、および防汚特性に優れた低屈折率層が得られることが判明した。この低屈折率層は、前記フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、および前記中空又は多孔質シリカ微粒子を含有するため、極めて小さい屈折率を実現できる。
【0030】
本発明の反射防止フィルムは、前記基材フィルムの最表面に前記低屈折率層が形成されているため、反射防止性能に優れた反射防止フィルムである。また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液は、プラスチック成形物や塗装物の表面など、反射防止フィルムを適用し難い箇所に低屈折率層を形成するのにも、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に基づく反射防止フィルムおよび反射防止ハードコートフィルムの構造を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液において、前記主溶媒が炭素数4の1価アルコールであり、前記白化防止溶媒が、親水基を有する炭素数6以上のエーテル類又はケトン類であるのがよい。
【0033】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーの配合量が、10〜50質量%であるのがよい。
【0034】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記中空又は多孔質シリカ微粒子の配合量が、30〜70質量%であるのがよい。また、前記中空又は多孔質シリカ微粒子が、末端に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基をもつ有機系分散剤で表面処理されているのがよい。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれかを意味するものとする。
【0035】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記重合開始剤の配合量が、0.1〜10.0質量%であるのがよい。
【0036】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれているのがよい。
【0037】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、親水基を有する(メタ)アクリル樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれているのがよい。この際、前記親水基がヒドロキシ基−OH、カルボキシ基−COOH、及び/又はアミノ基−NH2であるのがよい。
【0038】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、0.01〜10質量%のレベリング剤が含有されているのがよい。この際、前記レベリング剤として、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、又はエポキシ基を有するシリコーンオリゴマーが好適である。
【0039】
本発明の反射防止フィルムにおいて、前記基材フィルムに前記機能層として、基材フィルムよりも屈折率が大きいハードコート層が設けられ、このハードコート層に積層して前記低屈折率層が設けられているのがよい。
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態に基づく紫外線硬化性樹脂材料組成物及び反射防止フィルムについてより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
図1(a)は、本発明の実施の形態に基づく反射防止フィルム10の構造を示す部分断面図である。反射防止フィルム10では、請求項12に対応して、ポリエチレンテレフタラートなどからなる基材フィルム1の上に、基材フィルム1より屈折率が小さい低屈折率層2が形成され、反射防止フィルムとして構成されている。反射防止フィルム10は、単層構成であるが、屈折率の小さい低屈折率層2を備えているため、十分高い反射防止性能を有する。反射防止フィルム10は、多層構成のものに比べて層構成が簡易であるため、生産性やコストパフォーマンスに優れている。
【0042】
反射防止フィルム10を作製するには、まず、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物を前記混合溶媒に溶解または分散させ、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物を含有する塗液を調製する。次に、塗布法、印刷法、または浸積法などによって前記紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を基材フィルム1の上に被着させた後、所定の温度で前記混合溶媒を蒸発させ、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の層を形成する。この際、この混合溶媒が前記白化防止溶媒を含有するため、既述したように白化現象が抑えられる。次に、この層に紫外線を照射して硬化させ、基材フィルム1に接して低屈折率層2を形成する。
【0043】
前記混合溶媒において、前記主溶媒が炭素数4の1価アルコール、例えば2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)などであるのがよい。これらを用いた場合、イソプロピルアルコールなどを用いる場合に比べて、前記塗液層から溶媒が蒸発するのに要する時間が長くなるため、レベリング効果によって前記中空又は多孔質シリカ微粒子が紫外線硬化性樹脂材料組成物層中で均一に分散する時間が確保され、紫外線硬化性樹脂材料組成物層の表面の平坦性が向上する。
【0044】
前記白化防止溶媒として、親水基を有する炭素数6以上のエーテル類又はケトン類、例えば2−ブトキシエタノール(別名エチレングリコールモノブチルエーテル;以下、ブチルセロソルブと略称する。)が好適である。親水基は、ヒドロキシ基−OH、カルボキシ基−COOH、およびアミノ基−NH2などである。前記白化防止溶媒の、前記混合溶媒における配合量は、0.1〜20.0質量%が望ましい。0.1質量%よりも少ないと、白化防止溶剤としての作用が不十分で、低屈折率層2の白化を抑えることができない場合がある。一方、20.0質量%よりも多いと、白化防止溶剤が低屈折率層2に残留する場合があり、耐擦傷性など、低屈折率層2の機械的特性が劣化する。
【0045】
また、白化防止溶剤としてブチルセロソルブの代わりに、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)やトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いてもよい。また、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルトリグリコール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、およびメチルグリコールを用いることもできる。
【0046】
主溶媒は、極性がある方が好ましく、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の全ての成分を溶解または分散させることができるものである。主溶媒の沸点は50〜100℃程度で、蒸発速度が速すぎたり、遅すぎたりしないものが好ましい。
【0047】
基材フィルム1の材料は、とくに限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂や、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂や、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂などである。これらの樹脂からなる基材フィルムは、耐擦傷性、透明性、および耐熱性などに優れている。
【0048】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物は、少なくとも、フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーと、粒子径が100nm以下の中空又は多孔質シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有する。
【0049】
フッ素含有付加重合性モノマー及び/又はそのオリゴマーは、例えば、オプツールAR110(商品名;ダイキン工業社製)の構成成分として含有させるのがよい。オプツールAR110は、官能基含有含フッ素モノマー、架橋基含有含フッ素モノマー、および密着性基含有モノマーを組み合わせて構成された、非晶性フッ素樹脂材料組成物である。この非晶性フッ素樹脂は、低屈折率性と耐擦傷性とを両立させ、異種材料との密着性、樹脂材料の汎用溶剤への溶解性、さらには樹脂材料を溶媒に溶解させた塗液の塗布性が最適化されている。モノマー及び/又はそのオリゴマー中の炭化水素基は、全ての水素原子がフッ素原子に置換されている必要はなく、部分的に水素原子が含まれていてもよい。
【0050】
フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーの配合量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の10〜50質量%であるのが望ましい。その理由は、10質量%未満では、低屈折率層の屈折率が高くなり過ぎ、所望の反射防止効果が得られ難い。また、50質量%をこえると、十分な硬度および耐擦傷性を有する低屈折率層が得られ難い。
【0051】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれているのがよい。モノマー1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有すると、高分子鎖間に架橋構造を形成できるので、重合によって形成される樹脂組成物の機械的強度および硬度が向上する。この(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はオリゴマーは、モノマー1分子につき3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有するのがより望ましい。これによって、高分子鎖間に形成される架橋構造をさらに増加させ、樹脂組成物の機械的強度および硬度をさらに向上させることができる。モノマー1分子につき3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、テトラ(ヒドロキシメチル)メタン(別名ペンタエリスリトール)のテトラアクリレートであるペンタエリスリトールテトラアクリレートが好適である。下記にその構造式を示す。
【0052】
(化学式1)ペンタエリスリトールテトラアクリレートの構造式:
【化1】

【0053】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、親水基を有する(メタ)アクリル樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれているのがよい。この際、親水基がヒドロキシ基−OH、カルボキシ基−COOH、及び/又はアミノ基−NH2であるのがよい。親水基を有する(メタ)アクリル樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーは、その親水基によって樹脂材料中に取り込まれた水分と親和し、ハジキや分離を抑え、白化を防止すると考えられる。モノマー1分子につき3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有し、且つ親水基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールのトリアクリレートであるペンタエリスリトールトリアクリレートが好適である。下記に、その構造式を示す。
【0054】
(化学式2)ペンタエリスリトールトリアクリレートの構造式:
【化2】

【0055】
ペンタエリスリトールトリアクリレートの配合量は、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の1.0〜50.0質量%が望ましい。1.0質量%よりも少ないと十分な架橋密度が得られない。一方、50.0質量%よりも多いと、低屈折率層2の屈折率が大きくなり過ぎる。
【0056】
中空又は多孔質シリカ微粒子は、低屈折率層2の屈折率を低減させる。中空又は多孔質シリカ微粒子の屈折率は1.1〜1.4であるのがよい。中空又は多孔質シリカ微粒子の配合量は、組成物の30〜70質量%が望ましい。30質量%よりも少ないと、十分な反射特性が得られない。一方、70質量%よりも多いと耐擦傷性などの機械特性が劣化する。微粒子の表面は末端に(メタ)アクリル基、ビニル基、或いはエポキシ基をもつ有機系分散剤で表面処理されていることが望ましい。この場合、塗液層の硬化工程で有機系分散剤が周囲の(メタ)アクリル基含有モノマー/オリゴマーと重合し、中空又は多孔質シリカ微粒子を含んで全体が一体化するので、塗膜強度や可撓性が向上する。
【0057】
重合開始剤としては、公知の材料を適宜選択して用いるのがよい。前記重合開始剤の配合量は、固形分の0.1〜10質量%であるのがよい。配合量が0.1質量%よりも少ないと、光硬化性が不足し、実質的に工業生産に適さない。一方、配合量が10質量%よりも多いと、照射光量が少ない場合に、低屈折率層2に臭気が残ることがある。
【0058】
レベリング剤は、塗膜形成過程で塗液層表面に広がり、塗膜表面からの溶媒の蒸発を均一化して、浮きまだらを防止して表面を平滑にする。この結果、低屈折率層2に防汚性を付与し、耐擦傷性など、低屈折率層2の機械的特性を向上させる働きをする。紫外線硬化性樹脂材料組成物におけるレベリング剤の配合量は、0.01〜10.0質量%であるのがよい。配合量が0.01質量%よりも少ない場合、十分なレベリング性が得られない場合がある。一方、配合量が10.0質量%よりも多い場合、塗工性が悪くなる傾向がある。
【0059】
レベリング剤として、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、あるいはエポキシ基を含有するシリコーンオリゴマーが好適である。例えば、片末端メタクリル変性ジメチルシリコーンであるX―22−2426(商品名;信越化学工業社製)、あるいは、両末端メタクリル変性ジメチルシリコーンであるサイラプレーンFM7725(商品名;チッソ社製)が好適である。また、レベリング剤として、片末端メタクリル変性ジメチルシリコーンであるX―22−174DX(商品名;信越化学工業社製)、両末端メタクリル変性ジメチルシリコーンであるX―22−164E(商品名;信越化学工業社製)、シリコンジアクリレートであるEBECRYL 350(商品名;ダイセル・サイテック社製)を用いることも可能である。
【0060】
図1(b)は、本発明の実施の形態の別の例に基づく反射防止ハードコートフィルム20の構造を示す部分断面図である。反射防止ハードコートフィルム20では、請求項13に対応して、ポリエチレンテレフタラートなどからなる基材フィルム1の上に、前記機能層として、基材フィルムよりも屈折率が大きいハードコート層3が設けられ、このハードコート層3に積層して低屈折率層2が設けられ、反射防止ハードコートフィルムとして構成されている。ハードコート層3は高屈折率層を兼ねている。
【0061】
高い反射防止性能を得るためには、反射防止ハードコートフィルム20のように、高屈折率材料と低屈折率材料の複数層を積層した多層構成にするのが一般的である。この際、高屈折率層にハードコート層3の機能を兼ねさせれば、高い反射防止性能とハードコート性能との両方を簡便に得ることができ、好ましい。
【0062】
反射防止ハードコートフィルム20を作製するには、まず、ハードコート層3を形成する紫外線硬化性樹脂材料組成物を適当な溶媒に溶解または分散させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物を含む塗液を調製する。次に、塗布法、印刷法、または浸積法などによって塗液を基材フィルム1の上に塗布した後、所定の温度で溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の層を形成する。次に、この層に紫外線を照射して硬化させ、基材フィルム1に接してハードコート層3を形成する。この後、反射防止フィルム10と同様にして、ハードコート層3の上に低屈折率層2を積層して形成する。
【0063】
ハードコート層3を形成する紫外線硬化性樹脂材料組成物としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(屈折率=1.49)や、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(屈折率=1.50)など、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有するアクリル系モノマーと、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの光重合開始剤を含有するものがよい。この他に、平坦性を向上させるレベリング剤を含んでいてもよい。この樹脂材料組成物をシクロヘキサノンなどの溶媒に溶解させて用いる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、実施の形態で図1(b)を用いて説明した反射防止ハードコートフィルム20を作製し、その特性を調べた。なお、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
まず、ハードコート層3を形成する材料として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名KAYARAD DPHA;日本化薬社製)、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(商品名ライトアクリレートDCP−A;共栄社化学社製)、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名IRGACURE 184;チバ・ジャパン社製)を含有する塗液を、シクロヘキサノンを溶媒として用いて調製した。次に、基材フィルム1として厚さ80μmのTACフィルム(富士フィルム社製)を用い、このフィルム上にコイルバーを用いて上記の塗液を塗布した。塗布後、オーブン中で加熱処理し、溶媒を蒸発させた。その後、窒素雰囲気下で紫外線を照射し、厚さが7μmのアクリル系ハードコート層3を形成した。
【0066】
次に、低屈折率層2を形成する材料である紫外線硬化性樹脂材料組成物を、1.5質量%の濃度で、98.5質量%の混合溶媒中に溶解または分散させた塗液を調製した。紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、混合溶媒中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0067】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 36.2質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(架橋剤) 12.1質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 45質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光重合開始剤) 4.8質量%
X−22−2426(レベリング剤) 2.0質量%
<混合溶媒>
ブチルセロソルブ(白化防止溶媒) 3.0質量%(組成物の質量の1.97倍)
t−ブチルアルコール(主溶媒) 97.0質量%(組成物の質量の63.7倍)
【0068】
オプツールAR110(商品名;ダイキン工業社製)は、既述したように、官能基含有含フッ素モノマー、架橋基含有含フッ素モノマー、および密着性基含有モノマーを組み合わせて構成された、非晶性フッ素樹脂材料組成物である。この非晶性フッ素樹脂は、低屈折率性と耐擦傷性とを両立させ、異種材料との密着性、樹脂材料の汎用溶剤への溶解性、さらには樹脂材料を溶媒に溶解させた塗液の塗布性が最適化されている。ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名A−TMMT;新中村化学工業社製)は、既述したようにテトラ(ヒドロキシメチル)メタン(別名ペンタエリスリトール)のテトラアクリレートである。この分子は分子中に4個のアクリロイル基を有し、高分子鎖間を連結する架橋剤として機能する。中空シリカ微粒子は、粒径50〜60nmの中空微粒子で、シリカ殻の厚さはおおよそ7nmである。この中空シリカ微粒子の屈折率は1.1〜1.4である。中空シリカ微粒子は、末端にアクリロイル基を有する有機系分散剤(商品名KBM−5103;信越化学工業株式会社製)で予め表面処理して用いた。1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名IRGACURE 184;チバ・ジャパン社製)は、光重合開始剤である。X−22−2426(商品名;信越化学工業社製)は、塗液層表面の平坦性を向上させ、低屈折率層2表面の耐擦傷性および防汚性を向上させるシリコーン系レベリング剤である。
【0069】
実施例1では、混合溶媒中にブチルセロソルブを3.0質量%の濃度で配合した。塗液におけるブチルセロソルブの含有量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の質量の1.97倍に相当する。
【0070】
次に、基材フィルム1上に形成されたハードコート層3の上に、コイルバーを用いて上記の塗液を塗布した。塗布後、80℃で1分30秒間加熱処理し、溶媒を蒸発させた。その後、窒素雰囲気下で300mJ/cm2の強度で紫外線を照射し、厚さが100nmの低屈折率層2をハードコート層3の上に積層して形成し、反射防止ハードコートフィルム20を作製した。この時、大気の相対湿度は63%であった。
【0071】
白化防止効果の確認は、HM−150(商品名;株式会社村上色彩技術研究所製)を用いたヘイズ測定、および暗室における目視によって行った。また、分光光度計V−550(商品名;日本分光株式会社製)を用いて、反射防止ハードコートフィルム20の反射率を測定した。耐擦傷性試験では、荷重を加えながらスチールウール(日本スチールウール株式会社 ボンスター#0000)を低屈折率層2の表面上で5往復或いは10往復させた後、目視で傷の有無を確認した。防汚特性は、油性マジック(マッキー黒)のはじき性および払拭性と、指紋払拭性によって評価した。
【0072】
実施例1で得られた反射防止ハードコートフィルム20は、低屈折率層2における白化がなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:0.2%
全光線透過率:95.7%
反射率の最低値:(601nmにいて)0.51%
視感反射率(Y値):0.6%
<機械特性>
耐擦傷性:400g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復させても、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった。
防汚特性:油性マジックをはじき、油性マジックおよび指紋の払拭性も良好であった。
【0073】
[実施例2]
実施例2では、混合溶媒中にブチルセロソルブを8.0質量%の濃度で配合した。塗液におけるブチルセロソルブの含有量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の質量の5.25倍に相当する。紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、混合溶媒中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0074】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 32.4質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 10.8質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 50質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4.8質量%
FM7725(レベリング剤) 2.0質量%
<混合溶媒>
ブチルセロソルブ 8.0質量%(組成物の質量の5.25倍)
t−ブチルアルコール 92.0質量%(組成物の質量の60.41倍)
【0075】
上記の塗液を用いて、実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製した。この時、大気の相対湿度は53%であった。
【0076】
実施例2で得られた反射防止ハードコートフィルム20は、低屈折率層2における白化がなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:0.3%
全光線透過率:94.9%
反射率の最低値:(651nmにいて)0.43%
視感反射率(Y値):0.86%
<機械特性>
耐擦傷性:400g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復させても、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった。
防汚特性:油性マジックをはじき、油性マジックおよび指紋の払拭性も良好であった。
【0077】
[実施例3]
実施例3では、混合溶媒中にブチルセロソルブを4.0質量%の濃度で配合した。塗液におけるブチルセロソルブの含有量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の質量の2.63倍に相当する。紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、混合溶媒中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0078】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 40.3質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 13.4質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 40質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4.8質量%
FM7725 1.5質量%
<混合溶媒>
ブチルセロソルブ 4.0質量%(組成物の質量の2.63倍)
t−ブチルアルコール 96.0質量%(組成物の質量の63.04倍)
【0079】
上記の塗液を用いて、実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製した。この時、大気の相対湿度は65%であった。
【0080】
実施例3で得られた反射防止ハードコートフィルム20は、低屈折率層2における白化がなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:0.4%
全光線透過率:94.4%
反射率の最低値:(587nmにいて)0.52%
視感反射率(Y値):0.63%
<機械特性>
耐擦傷性:500g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復させても、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった。
防汚特性:油性マジックをはじき、油性マジック及び指紋の払拭性も良好であった。
【0081】
さらに、下記の試験を行った。
エタノールワイプ試験:500g/cm2の荷重を加えながらエタノールを含ませたスチールウール(ベンコットM−1)で低屈折率層2の表面を拭き、その前後の純水接触角の変動をCA−X(商品名;協和界面化学社製)を用いて調べた。エタノールワイプを500往復行っても、純水接触角の変化はなかった。
鉛筆硬度:クレメンス型引掻き硬度試験機(商品名HA−301−E;テスター産業株式会社製)を用い、750g/cm2の荷重を加えながら測定した。鉛筆硬度は2Hであった。
初期密着性:クロスハッチ試験の結果は100/100で良好であった。
【0082】
[実施例4]
実施例4では、混合溶媒中にブチルセロソルブを6.0質量%の濃度で配合した。塗液におけるブチルセロソルブの含有量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の質量の3.37倍に相当する。紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、混合溶媒中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0083】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 34.6質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 8.65質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 50質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4.8質量%
FM7725 2.0質量%
<混合溶媒>
ブチルセロソルブ 6.0質量%(組成物の質量の3.37倍)
t−ブチルアルコール 96.0質量%(組成物の質量の52.77倍)
【0084】
上記の塗液を用いて、実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製した。この時、大気の相対湿度は54%であった。
【0085】
実施例4で得られた反射防止ハードコートフィルム20は、低屈折率層2における白化がなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:0.4%
全光線透過率:95.7%
反射率の最低値:(559nmにいて)0.34%
視感反射率(Y値):0.40%
<機械特性>
耐擦傷性:300g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復させても、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった。
防汚特性:油性マジックをはじかないが、油性マジックおよび指紋の払拭性は良好であった。
【0086】
エタノールワイプ試験:500g/cm2の荷重を加えながらエタノールワイプを500往復行っても、純水接触角の変化はなかった。
鉛筆硬度:鉛筆硬度は2Hであった。
初期密着性:クロスハッチ試験の結果は100/100で良好であった。
【0087】
[実施例5]〜[実施例10]
実施例5〜10では、中空シリカ微粒子の配合量およびレベリング剤の種類、配合量による特性の変化およびブチルセロソルブの配合量による白化防止効果について調べた。それ以外は実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製し、その特性を調べた。
【0088】
[比較例1]
比較例1では、溶媒中にブチルセロソルブを添加しなかった。それ以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製し、その特性を調べた。紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、溶媒の配合量は、下記の通りである。
【0089】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 32.8質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 10.9質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 50質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4.8質量%
X−22−2426 1.5質量%
<溶媒>
t−ブチルアルコール 100.0質量%(組成物の質量の66.67倍)
【0090】
上記の塗液を用いて、実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルムを作製した。この時、大気の相対湿度は55%であった。
【0091】
比較例1で得られた反射防止ハードコートフィルムは、低屈折率層2における白化およびハジキが見られ、目視による概観は不良であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:5.2%
全光線透過率:94.1%
また、耐擦傷性および防汚性などの機械特性も悪化した。
【0092】
表1および表2は、それぞれ、実施例1〜10並びに比較例1における紫外線硬化性樹脂材料組成物と混合溶媒の組成、および評価結果をまとめて示す表である。なお、表2中、SW Max の項は、スチールウールによる耐擦傷性試験において、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった最大荷重(g/cm2)を示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
[実施例11]
実施例11では、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを用いた。この分子は、請求項7〜9に対応して、1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、且つ親水基を有する(メタ)アクリル樹脂モノマーとして機能する。すなわち、紫外線硬化性樹脂材料組成物層の硬化に際し高分子鎖間に架橋構造を形成する架橋剤として機能するとともに、残存する水分子と親水基によって水和して白化現象を抑える働きをする。
【0096】
紫外線硬化性樹脂材料組成物中の各成分の配合量、および、混合溶媒中の各成分の配合量は、下記の通りである。混合溶媒中にブチルセロソルブを6質量%の濃度で配合した。塗液におけるブチルセロソルブの含有量は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の質量の3.37倍に相当する。
【0097】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物>
オプツールAR−110 36.2質量%
A−TMM−3 12.1質量%
中空シリカ微粒子(粒径50〜60nm) 45質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4.8質量%
FM7725 2.0質量%
<混合溶媒>
ブチルセロソルブ 6.0質量%(組成物の質量の3.37倍)
t−ブチルアルコール 96.0質量%(組成物の質量の52.77倍)
【0098】
A−TMM−3(商品名;新中村化学工業社製)は、純粋なペンタエリスリトールトリアクリレートの代わりに用いた。A−TMM−3は、ペンタエリスリトールの一部をアクリル酸とのエステルに変えたもので、37質量%のペンタエリスリトールトリアクリレートを含んでいる。A−TMM−3の代わりに、A−TMM−3L(商品名;新中村化学工業社製、トリアクリレート分を55%含む混合物)、あるいはA−TMM−3LN(商品名;新中村化学工業社製、トリアクリレート分を57%含む混合物)を用いてもよい。
【0099】
実施例1と同様に、まず、基材フィルム1として厚さ80μmのTACフィルムを用い、このフィルム上に厚さ7μmのアクリル系ハードコート層3を形成した。次に、上記の紫外線硬化性樹脂材料組成物を上記の混合溶媒に溶解または分散させた塗液を、ハードコート層3の上にコイルバーを用いて塗布した。塗布後、塗膜に息を3回はきかけた。この後も実施例1と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製した。
【0100】
実施例11で得られた反射防止ハードコートフィルム20は、低屈折率層2における白化がなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。
<光学特性>
ヘイズ:0.5%
全光線透過率:95.4%
反射率の最低値:(581nmにいて)0.48%
視感反射率(Y値):0.58%
<機械特性>
耐擦傷性:300g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復させても、低屈折率層2表面に傷が生じなかった。
防汚特性:油性マジックをはじき、油性マジックおよび指紋の払拭性も良好であった。
【0101】
[実施例12]および[実施例13]
実施例12および13では、それぞれ、白化防止溶媒としてブチルセロソルブの代わりに、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)、およびトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いた。これ以外は実施例11と同様にして、反射防止ハードコートフィルム20を作製し、その特性を調べた。
【0102】
表3および表4は、実施例11〜13における紫外線硬化性樹脂材料組成物と混合溶媒の組成、および評価結果をまとめて示す表である。なお、表4中、SW Max の項は、スチールウールによる耐擦傷性試験において、低屈折率層2の表面に傷が生じなかった最大荷重(g/cm2)を示す。
【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
本実施例1〜13および比較例1から、ブチルセロソルブが白化防止溶媒として機能し、高湿度の環境でも白化のない良好な反射防止フィルムが得られることが明らかになった。
【0106】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の反射防止フィルムは、液晶テレビや有機ELテレビ、パソコン、携帯ゲーム機などの各種ディスプレイの反射防止フィルムとして好適に使用できる。また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物は、プラスチック成形物や塗装物の表面に反射防止層を形成するのに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
1…基材フィルム、2…低屈折率層、3…ハードコート層(高屈折率層)、
10…反射防止フィルム、20…反射防止ハードコートフィルム
【先行技術文献】
【特許文献】
【0109】
【特許文献1】特開平8−244178号公報(請求項1、第2−5及び10頁)
【特許文献2】特開2005−99778号公報(請求項1、3及び10、第6−8、10、14及び15頁、図1)
【特許文献3】特開2005−283611号公報(請求項1、第3−7頁)
【特許文献4】特開2008−115329号公報(請求項1、第4、5、7−9及び12頁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーと、粒子径が100nm以下の中空又は多孔質シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を、
80.0〜99.9質量%の主溶媒と、
0.1〜20.0質量%の、沸点が水より高く、表面張力が35dyn/cm(25 ℃)以下である、親水性の白化防止溶媒と
を含有する混合溶媒に、溶解又は分散させてなる、紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項2】
前記主溶媒が炭素数4の1価アルコールであり、前記白化防止溶媒が、親水基を有する炭素数6以上のエーテル類又はケトン類である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記フッ素含有樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーの配合量が、10〜50質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項4】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記中空又は多孔質シリカ微粒子の配合量が、30〜70質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項5】
前記中空又は多孔質シリカ微粒子が、末端に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基をもつ有機系分散剤で表面処理されている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項6】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記重合開始剤の配合量が、0.1〜10.0質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項7】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項8】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、親水基を有する(メタ)アクリル樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項9】
前記親水基がヒドロキシ基−OH、カルボキシ基−COOH、及び/又はアミノ基−NH2である、請求項8に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項10】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物に、0.01〜10質量%のレベリング剤が含有されている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液。
【請求項11】
前記レベリング剤が、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、又はエポキシ基を有するシリコーンオリゴマーである、請求項10に記載した紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液の層が、基材フィルムに直接、又は機能層を介して被着され、この塗液層から前記混合溶媒が蒸発した後、得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物層が硬化することによって、前記基材フィルムの最表面に低屈折率層が形成されてなる、反射防止フィルム。
【請求項13】
前記基材フィルムに前記機能層として、基材フィルムよりも屈折率が大きいハードコート層が設けられ、このハードコート層に積層して前記低屈折率層が設けられている、請求項12に記載した反射防止フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−196014(P2010−196014A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45693(P2009−45693)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】